通り魔にご用心

    ●都内某所
     通り魔が頻繁に出没していた裏通りがあった。
     この裏通りではよく女性が襲われていたのだが、なかなか通り魔が捕まらなかったようである。
     その頃から、この辺りでは『通り魔に襲われるため、女性が夜な夜な徘徊しているのではないか?』と言う噂が流れ、それが都市伝説になった。

    「怪しい者じゃありませんって奴ほど、実際には怪しかったりするよな。そう思うのは、俺だけか?」
     そんな事を呟いた後、神崎・ヤマトが今回の依頼を語り始めた。

     今回倒すべき相手は、女性の姿をした都市伝説。
     この都市伝説の顔には口しかない。
     悲鳴を上げるために必要な口……、ただそれだけ。
     都市伝説は悲鳴を上げて相手をマヒさせ、その大きな口で食らってしまう。
     おそらく、お前達が行く頃には誰かが襲われている。
     ただし、そいつは通り魔。
     故に、捕まえておく必要がありそうだ。
     もちろん、通り魔は逃げる、ダッシュで逃げる。
     しかも、無駄に速い、速過ぎる。
     だからと言って、逃がしてしまっては意味がないから、確実に捕まえて縛り上げておいてくれ。


    参加者
    花蕾・恋羽(スリジエ・d00383)
    水鏡・蒼桜(ウィンクルム・d00494)
    乾・舞斗(街角御祓人・d01483)
    壱乃森・ニタカ(妹は魔法使い・d02842)
    鳴神・月人(一刀・d03301)
    サリィ・ラッシュ(ブルホーン(拡声器)・d04053)
    メアリ・ミナモト(夜天飛翔・d06603)
    ラピス・クレイナ(ただの女の子・d08136)

    ■リプレイ

    ●危険なふたり
    「都市伝説に襲われる通り魔って、結構運が無さげだよね~。同情しないけど♪ まぁ、倒す奴は倒して! しょっぴく奴はしょっぴいて貰おうか♪」
     ライドキャリバーのフローレンに飛び乗り、メアリ・ミナモト(夜天飛翔・d06603)が仲間達と共に都市伝説の確認された裏通りにむかう。
     この裏通りでは、頻繁に通り魔が現れていたため、よほどの事がない限り人が通らなくなっていたようである。
    「う、うわあああああ」
     その時、どこかで悲鳴が上がった。
     絹を引き裂く……と言うよりも、丸太を叩き割るような野太い声。
    「間違いない、通り魔だ」
     テレパスを使って通り魔の思考を読み、サリィ・ラッシュ(ブルホーン(拡声器)・d04053)が頭を抱える。
     まさに、ヘタレ。
     ヘタレ界に君臨する神の如く、ヘッポコな思考と、襲い来る恐怖心。
     出来る事なら関わりたくない、相手にしたくない。
     そう強く思ってしまうほど、残念な人間の思考であった。
    「ひとまず、通り魔から都市伝説を離さないといけませんね」
     複雑な気持ちになりながら、乾・舞斗(街角御祓人・d01483)が通り魔にサッと視線を送る。
     その途端、通り魔が『殺すぞ、ゴラァ!』と強がったが、失禁してしまったせいで内股状態。
     舞斗の中で残念な人トップ3に輝きそうな勢いで、残念感が増していく。
    「えーっと、助けていいんだよね」
     都市伝説の相手をしながら、壱乃森・ニタカ(妹は魔法使い・d02842)が気まずい様子で汗を流す。
    「ええ、もちろんよ」
     空飛ぶ箒に乗って通り魔の行く手を阻み、ラピス・クレイナ(ただの女の子・d08136)が答えを返す。
     その途端、通り魔が『うわあああ』と叫んで、ナイフを振り回してきたが……、当たらない。
     しかも、コケた。……顔面から。
    「よ、よくもやりやがったな!」
     恥ずかしそうにしながら、通り魔が叫ぶ。
     それを見ていた、こっちも色々な意味で恥ずかしい。
    「……と言うか、自爆だよな、どう見ても」
     通り魔に生暖かい視線を送り、鳴神・月人(一刀・d03301)がツッコミを入れた。
    「うるさい、黙れ!」
     図星のせいか、通り魔の顔が真っ赤である。
    「黙るのは、そっちです。もうこれ以上、相手にするつもりはありません。大人しく私達の言う通りにしてください」
     通り魔の行く手を阻むようにして、水鏡・蒼桜(ウィンクルム・d00494)が手錠を構える。
     それを見た通り魔が『嫌だっ!』と叫び、ブロック塀を乗り越えて、全速力で逃げ出した。
    「申し訳ありませんが、ここはお任せします。私達は通り魔を追いますので」
     仲間達に都市伝説の相手を任せ、花蕾・恋羽(スリジエ・d00383)が通り魔の後を追う。
     それと同時に仲間達が都市伝説に立ち塞がり、一斉に攻撃を仕掛けていった。

    ●通り魔
    「通り魔さん、大人しく、捕まってくれないと、痛い目みる、ですよ?」
     ライドキャリバーに乗って先回りをした後、恋羽が通り魔の逃げ道を塞ぐようにして行く手を阻む。
     だが、通り魔もそう簡単に捕まるつもりがないらしく、壁を登って屋根に上がり、バランスを崩して滑り込み、ゴミの山に突っ込んだ。
     それでも、通り魔は逃げる事を諦めず、ゴミを投げつつ茂みに突っ込み、そのまま細い道に入っていく。
     この辺りの地形を熟知した通り魔だからこそ、出来る荒業。
    「絶対に……、逃がしませんよ」
     空飛ぶ箒に乗って上空から追いかけ、ラピスが通り魔の上に降り立った。
    「ば、化け物!?」
     予想外の出来事に驚き、通り魔が悲鳴をあげる。
     信じられないような事が立て続けに起こっているせいで、通り魔自身も何が何だか分からない。
    「とりあえず、眠ってね」
     空飛ぶ箒で通り魔を追い詰め、メアリがゴツンと一発、実力行使。
     簡単に脳震盪させるポイント。必ずテストに出るトコロ。
     一瞬、鈍い音がした。
     手加減はしたつもりだが、うっかり殺ってしまったかも知れない。
     ……殺っちまったかも知れない。
     足元に転がる通り魔、広がる血溜まり。
    「てめえ、殺す気か!」
     どうやら、無事らしい。
     何となく生きている。
     ……ホッと一息。
    「このくらい、今まで重ねた罪に比べれば、可愛いものです」
     通り魔に冷たい視線を送り、蒼桜がキッパリと言い放つ。
     被害を受けた女性達は未だに心の傷が癒えていない。
     それと比べれば、かすり傷以下である。
    「まぁ、自業自得ですね。あなたも怖い思いしたでしょう? 悔い改めて下さいね」
     通り魔に語りかけながら、ラピスが縄を手に取った。
     最初は通り魔も抵抗していたが、メアリが拳を構えた途端に黙る。
     よほど先ほどの一撃が効いたのだろう。
     何やらブツブツと愚痴をこぼしているが、辛うじて聞こえないレベル。
     そのため、余計にイラッとした。
    「口は災いの元だよ~」
     こめかみを激しくピクつかせ、メアリが通り魔に警告する。
     しかし、通り魔は気づかず、ブツブツ。命知らず。
     おそらく、血祭りにあげられても、意地になって悪態をつく事だろう。
    「ちゃんと、改心してくださると、嬉しいの、ですが……」
     祈るような表情を浮かべ、恋羽が通り魔に視線を送る。
     この様子では、おそらく無理。
     反省しているどころか、恋羽達に対して敵意を向けている。
     しかも、都市伝説が確認された場所から、かなり離れてしまったため、今から戻っても間に合いそうになかった。

    ●都市伝説
    「こらー、人を襲うなんて……。ひゃあぁぁ、お化け!」
     都市伝説を叱りつけ、ニタカが派手に尻餅をつく。
     ……顔の大部分を占める巨大な口。
     あるべきはずの目や鼻が存在していない。
    「……って驚いちゃダメ」
     自分の頬をパチンと叩き、ニタカが自分自身に気合を入れた。
     思い出すたび、寒気がする。
     トラウマレベルの凶悪フェイス。
    「レッツ・ゴー・ダイナマイト」
     大声を上げて一気に間合いを詰め、舞斗が都市伝説に閃光百裂拳を叩き込む。
     その途端、都市伝説が巨大な口をアングリと開け、舞斗の拳に食らいつこうとした。
     しかし、途中で拳は止められない。
     ……とは言え、放っておけば食われてしまう。
     そのため、舞斗は覚悟を決めて……、口の奥まで拳を突っ込んだ。
    「……!!」
     次の瞬間、都市伝説が激しく咳き込み、舞斗を力任せに突き飛ばす。
     そして、一瞬だけ乙女な雰囲気を漂わせ、舞斗に非難めいた何かを送る。
     目が存在していないにも関わらず、感じる視線。
     なんて酷い事を……。
     そう言いだけに口元が震えていた。
    「なんだ、この微妙な感覚は……! 中途半端に殺りづらいぞ、オイ」
     何とも言えない気持ちになりつつ、月人が都市伝説に抗雷撃を仕掛ける。
     次の瞬間、都市伝説が逆切れ気味に唸り声を響かせ、月人達に食らいつこうとした。
    「……させるか!」
     都市伝説の行く手を阻み、サリィが封縛糸で動きを封じ込める。
     その間も都市伝説が歯をガチガチさせていたが、それ以上の事は何も出来ない。
    「魔法の矢よ、飛んでけー!」
     すぐさま都市伝説の死角に回り込み、ニタカがマジックミサイルを撃ち込んだ。
     その一撃を食らって都市伝説が断末魔を響かせ、溶けるようにして跡形もなく消滅した。
    「南無阿弥陀仏」
     都市伝説がいた場所を眺め、サリィがゆっくりと両手を合わす。
     しかし、誰も宗派が違うと、突っ込まない。
     ただ、気づいていないだけなのか。
     それとも、あえて気づいていないフリをしているのか、分からないが……。
    「とりあえず、通り魔を警察に突き出すか。まあ、改心はしないと思うが……」
     深い溜息をつきながら、月人が通り魔の逃げた方向に視線を送る。
     本当に助けて良かったのか、間違っていたのか。
     いまのところ、判断する事は出来ない。
    「確かに、通り魔を警察に突き出したところで、改心は難しいでしょうね。どちらにしても、こんな闇の世界に関わらない様にしてもらいたいと思いますが……。私達の真なる闇は……いえ、気のせいです」
     苦笑いを浮かべながら、舞斗がさらりと答えを返す。
     だが、通り魔を裁くのは法であり、恨みを晴らすのは被害者達である。
     最終的には、彼女達が判断を下す事になるだろう。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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