缶けりで遊びましょ

    作者:佐和

     缶けり。
     かくれんぼと鬼ごっこが混ざったような遊び。
     鬼は缶を守りながら、隠れた子を探して捕まえる。
     だが、缶を蹴られてしまうと、捕まった子は解放され、また隠れられる。
    「全員捕まるか、飽きたり時間切れになったら終わり、かぁ」
     その缶けりの始まりとして、コーン、と大きく蹴り上げられた空き缶を目で追いながら、ハンチング帽を被った少年は呟いた。
     笑顔でやる気満々に缶を拾い上げた子供が鬼で。
     8人の子供達が、楽しそうに公園内に散らばって逃げ隠れていく。
     滑り台の上で手すりに寄りかかるように立つ少年は、その様子をしばらく見下ろして。
     にやりと口元を歪めると、胸ポケットから小さな手帳を取り出し、開く。
     そして誰にともなく話を始めた。
    「それはとてもとても不思議な話。
     公園で缶けりをしていたら、いつの間にか1人増えていた」
     物語る言葉につられるように、茂みの影に隠れていた子供の後ろに男の子が1人増える。
     気づいたその子供が振り返る前で、男の子はナイフを振り上げた。
    「だけどすぐにまた元の人数に戻って」
     悲鳴も上げられずに切り裂かれた子供は地に倒れて。
     男の子はすぐに次の子供を見つけると、素早くそこへと向かう。
    「どんどん隠れている人数が減って」
     見つけては刺し、見つけては殺し。
     やっと事態に気付いた子供達は隠れるのをやめて逃げ出すけれども。
     誰よりも速く回り込んだ男の子は、1人も逃がすことなく切りかかる。
    「いつしか鬼もいなくなって」
     捕まって缶の近くにいた子供も、鬼をしていた子供も、次々に血にまみれて倒れていく。
    「そして缶けりは終わっていた」
     9人分の死体が点在し、紅く染まった公園に静寂が訪れて。
     血塗れのナイフを手に缶へと歩み寄った男の子は、大きく缶を蹴り上げた。
     コーン、と。
     酷く響いた缶の音を聞きながら、少年は開いていた手帳をパタンと閉じて。
    「とてもとても不思議な話」
     愉しそうに笑いながら、滑り台から滑り降りた。
     
     八鳩・秋羽(小学生エクスブレイン・dn0089)が桜型のクッキーを黙々と食べるのを見ていた炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512)は、不意に小さく息を吐いた。
    「今度は缶けりを狙った、か」
     淡々とした表情の向こうで、以前の依頼で見かけたタタリガミの姿を思い出す。
     鉄棒に座ってこちらを見ていた、ハンチング帽に白シャツの少年。
     それが、軛の推理を元にまた見つけ出せたと、秋羽から聞いたところだった。
    「タタリガミは、ある公園で子供達が缶けりをしていると現れる。
     そして、しばらく缶けりを眺めた後、都市伝説を生み出すそうだ。
     タタリガミに接触できるのは、その直後からになる」
     大縄跳びの時と同じだな、と補足しつつも、だが、と続ける軛。
    「今回は、子供達を先に逃がして、わたし達で缶けりをすることも可能だ」
     缶けりは相応の広さがないとできない遊び。
     先にその公園で缶けりを始めてしまえば、子供達は別の場所を探すことになる。
     遊び場を奪ってしまうのは少し心苦しいが、被害を防ぐには一番簡単な方法だ。
     後は、都市伝説の出現を待って倒してしまえばいい。
    「あとは、タタリガミへの対応、か」
     タタリガミは滑り台の上から缶けりを眺めている。
     こちらから仕掛けなければ攻撃してこないため、都市伝説に加勢してくることもない。
     また、都市伝説を生み出してしばらくすれば、勝手にいなくなっているようだ。
    「また見逃すか……いや、今度こそ……」
     考え込む中で、ふと、軛はそもそもの疑問を呟く。
    「それにしても、何故楽しく遊ぶ子供ばかり狙うのか……」
     その声に軛を見上げた秋羽は、無言のままクッキーを差し出した。


    参加者
    結月・仁奈(華彩フィエリテ・d00171)
    望月・心桜(桜舞・d02434)
    森田・依子(緋焔・d02777)
    篠村・希沙(暁降・d03465)
    リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)
    志乃原・ちゆ(トワイライト・d16072)
    炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512)
    氷川・紗子(大学生神薙使い・d31152)

    ■リプレイ

    ●缶けりを始めましょ
     公園に足を踏み入れた炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512)は、その静けさをゆっくりと見回す。
     予知にあった子供達の先回りをしたため、公園には誰の姿もなかった。
     だが万が一にも巻き込むことがないようにと、軛は警戒を緩めない。
    「ヒトを傷つける都市伝説ばかり生み出されるのは見過ごせぬ」
     呟きを聞き止めた結月・仁奈(華彩フィエリテ・d00171)が、その無表情を覗き込んでふんわりと微笑んだ。
    「遊びは楽しく笑って終わるものだよね。
     また明日ね、って約束とかしちゃってね」
     ふわふわと長髪を揺らして、遊びは楽しいものだと体現するかのような仁奈を、軛はじっと見つめる。
     そんな軛の背中を篠村・希沙(暁降・d03465)が、ぽんっと軽く叩いた。
    「まずは缶けり、しましょか」
     笑顔で指し示すのは空き缶を囲む他の仲間達。
    「缶けりですか。良い運動になりそうですね」
     空き缶を手に、ではまずは、と皆を見渡す氷川・紗子(大学生神薙使い・d31152)に、はいっ、とリュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)が元気な声を上げる。
    「鬼は私!」
     紗子から缶を受け取ると、リュシールはさり気なく滑り台近くの地面にそれを置いた。
    「ええと……缶けりってどんな遊び、でしたっけ?」
     そんな準備の様子を見ながら、こくんと首を傾げたのは志乃原・ちゆ(トワイライト・d16072)。
     やったことがなくて、と戸惑うちゆに、仁奈が簡単にルールを説明する。
     鬼に見つかったら捕まるかくれんぼ。
     だけど缶を蹴られたら、鬼は最初からやり直し。
     ちゆの横にいつの間にか軛も並んで、2人はなるほどと揃って頷いた。
    「では、最初の一蹴り、お願いできますか?」
     その様子にくすりと微笑んだ森田・依子(緋焔・d02777)が、缶を指し示す。
     そして皆の視線の真ん中で、軛は大きく缶を蹴り上げた。
    「そら、逃げるのじゃ隠れるのじゃ!」
     声を上げて駆け出す望月・心桜(桜舞・d02434)に、皆も思い思いに走り出す。
     缶を拾ったリュシールは、元の場所……滑り台近くにまた置いて。
     念のためにと長髪を隠すように被った帽子を確認する。
     それから、よしっ、と気合いを入れて、皆を探しに駆け出した。
     時折滑り台は見るけれど、注視しすぎないように気を付けて、さり気ない確認に止める。
     遊具からベンチへと、物陰を行ったり来たりして隠れる希沙は、缶を狙う体を装って滑り台の方向を見据え。
     軛も、茂みに隠れて鬼の動きを見ながら、奇襲への警戒を怠らない。
     遊んでいるふりをしつつ、タタリガミの出現を待つ灼滅者達。
     とはいえ、心桜はどこか弾む心に微笑んで。
    (「作戦とはいえ、遊びは楽しいものよのう」)
     大人げないかのう、と呟きながらも表情は楽しそうなまま。
     公園の入り口も見張り、子供達が入ってこないことを随時確認しつつも、わくわくと缶けりに向かう。
     紗子も鬼の動きを見ながら、見つからないように自身の位置を微調整して。
     隠れることだけに本気になりかけてた自分に苦笑した。
    「ちゆちゃんみーっけ」
     そっとちゆの後を追っていた仁奈は、小声で言いながらその隣に身を潜める。
    「……見つかっちゃいました」
     微笑んだちゆは、仁奈から顔を背けるようにしながら、口に人差し指を当てた。
    「鬼さんにはナイショですよ?」
    「はーいっ」
     仁奈も笑い返して並んで隠れて。
     リュシールが希沙を見つけて捕まえて、缶の元へ連れて行くのを見た。
     他の皆を探すべく、再びリュシールが缶から離れかけたその時。
    『それはとてもとても不思議な話』
     木陰に隠れていた依子の背後に、男の子が1人、増えた。

    ●缶けりを倒しましょ
    「出ました! 此方に!」
     警戒していた依子は、振り返りその姿を認めるや否や声を上げる。
     振り下ろされたナイフが、防御姿勢を取った依子の腕を切り刻んだ。
     だが痛みに顔を顰めながらも依子はその場を後ろに飛び退き、銀色に鈍く光る朽寄を振るうと冷気のつららを生み出し放つ。
     その間に心桜はサウンドシャッターを展開し、仁奈は百物語を口にして。
    「ちゆちゃん、そっちはお願いね」
    「お任せ下さい。背中は……預けていきます」
     同じクラッシャーのちゆに告げれば、頼もしい頷きと共にその胸元に茨の絡んだダイヤのスートが現れた。
     男の子の元へと集う灼滅者達。
     だが、リュシールと希沙の2人だけは踵を返して滑り台へと向かう。
     滑り台の上から缶けりを眺めていた、ハンチング帽の少年の元へと。
     それを、心桜のナノナノ・ここあがふわりと追いかける。
    「ハンチくんの相手は任せたのじゃ」
     指示を飛ばす心桜は、無表情のまま首を傾げた軛に気付いた。
    「わらわ命名のタタリガミの呼び名じゃ。名も知らぬゆえな」
     報告書や予知から得た容姿の情報で、仮の名前をつけたらしい。
     賛否どちらとも言えず逆側に首を傾げる軛と、駄目かのう、と苦笑する心桜。
     そんな2人の間を冷気のつららが通り抜けて。
    「タタリガミの方も気になりますけど、目の前にいる都市伝説を確実に灼滅しないと」
     槍を構えた紗子が、にっこりと告げる。
     軛はこくり頷くと片腕を半獣化させ、鋭い銀爪で男の子へ切りかかった。
     心桜も、ちらりとここあの後姿を見てから、すぐに男の子へと向き直る。
     ここあと別々に行動するのは実はこれが初めてで。
     ちゃんと指示通り動いてくれるはず、ここあがいなくても1人で頑張れるはず、と思いながらも、やはりどこかよぎる不安。
     大丈夫と呟きながら、指先に集めた霊力を依子へと放ち。
     戦う皆を支えるべく、メディックとして戦況を見据えた。
     その視線の先で、軛は男の子へと槍を振るう。
    「何故、子供を狙う」
     冷気のつららと共に放つのは、胸中にある憤り。
    「楽しそうに遊んでいる子供達に対して、何か嫌な思いがあるのでしょうか?」
     サイキックを凝縮した毒を打ち込みながら、紗子も疑問符を浮かべた。
     ナイフを振り回す男の子が生み出された背景に何があるのか。
     気にはなるがそれよりも、子供を害することそのものに拘りがある印象があって。
     軛は眼差しを鋭くし、しなやかに身を翻した。
    「どんな理由が在ろうと、許せぬ」
     飛び退いたその場所を覆いつくさんと、男の子から毒の風が吹く。
    「摩訶不思議なお話……果たして、本当にそうなるでしょうか」
     攻撃の隙をと狙って振り下ろされたちゆのEtoile filanteは空を切り、星空が映し出された水晶には何の手応えもなかったけれども。
    「遊びたいのかわかんないけど、子供の命に関わる遊びはタブーだよ」
     続いた仁奈が男の子が避けた動きを追いかけて、代わりにと杖と魔力を叩き込む。
     遊びは安全でなくてはならない。
     それは小さな子供でもちゃんと解っていることだからと。
     やっちゃいけないよね、と同意を求める仁奈の視線に、ちゆは頷いた。
    「ここで貴方を食い止めてしまえばあっという間。平和なお話に、元通りです」
     そしてまた仁奈と息を合わせ、地を蹴り男の子へと向かう。
     動きの素早い男の子に攻撃は当たりにくいけれども。
     スナイパーの軛が確実に傷を与え。
     ジャマーの紗子がダメージ系のBS付与を狙い。
     心桜に回復を任せて攻撃の手数を出来る限り増やして。
     灼滅者達は男の子を追い詰めていく。
    「最後は誰もいなくなった……なんて寂しいし、悲しいわ」
     傷が増えてきた男の子を見据えた依子は、静かに語りかけた。
     相手は人ではない存在だと、都市伝説だと解っていても。
     何かを望み、生きるために戦っているならば、きちんと相対したいと。
     男の子に、そしてそれを生み出したタタリガミをその姿に重ねて、依子は言葉を重ねる。
    「遊びたいなら私達なら、いくらでも。
     でも、痛いのも命を奪うのもだめ。そんなの誰も微笑めない」
     しかし男の子は、ナイフを振り上げ依子を切り裂いて。
    「ひとりになっちゃいますよ」
     すぐに心桜が回復支援してくれるのを感じながら、依子は悲しげに咲日を叩きつけ、死の中心点を貫いた。
     たまらず後ろによろけた男の子の動きを軛がしなやかに追いかけ、獣が襲い掛かるような飛び蹴りを放てば。
     間髪入れずに紗子も、炎を纏った蹴りを叩き込む。
     そこに仁奈の七不思議を語る声が響いて、男の子を兎が取り囲んだ。
    「遊ぶなら今度はちゃんと生きて、人として遊ぼうね」
     賭けられた声に顔を上げた男の子が見たのは、花のような仁奈の微笑み。
     そしてその傍らに寄り添うように立つちゆが、指し示すように手を差し出す。
     そこから放たれた風の刃を受けて、男の子の姿は掻き消えた。

    ●タタリガミと話しましょ
    「こんにちは。あんたも缶けりで遊びたい、ひと?」
     都市伝説を6人に任せ、滑り台に駆け寄った希沙は、視線を上げてそう問いかける。
     隣に並んだリュシールも、滑り台を上ることはせずに、タタリガミの少年を見上げた。
     登れば逆から逃げられる。
     男子がよくやる動きから想定しての対応だ。
    「何の話?」
     思った通り、少年は滑り台の上からこちらを見下ろしたまま答えてくる。
    「子供達が遊んでるとこ、毎回見てるやんね。ほんで壊そうとする」
    「ふぅん。俺を知ってるんだ」
     続ける希沙の言葉に、少年はハンチング帽の下で少し目を細めて。
    「もしかして、前にも邪魔しに来た?」
    「話すのは初めてだけど、見るのは2回目よ」
     問いかけにリュシールは被っていた帽子を取り、長い金髪を露わにする。
     前回は直接接触することはできなかった。
     それでも見かけた自分を覚えていてくれたらと、少年に顔を向ける。
     しかし少年は特に反応を示さないまま、ふい、と向こうの戦場を眺めた。
    「缶けりしてたのは皆、灼滅者?」
    「そうや。あんたが生み出した都市伝説と戦ってるんは、わたしらの仲間」
    「あなたも仲間ね、遊びたいならいつでも混ぜてあげる。
     ちょっかい位で遊びが台無しになったりもしない」
     答える希沙にリュシールに、少年の視線が戻ってきて。
     真っ直ぐに見返したリュシールは、にっと笑いかける。
    「……ううん、出来るもんならやってみなさいよ?」
     その言葉に少年の顔が酷く愉しそうに歪んだ。
     手帳を持った手を差し出すようにして、希沙とリュシールを指し示すと。
    「それじゃあ『一緒に遊ぼうか』?」
     紡がれた言葉に呼ばれるように、2人の周囲に子供達の影にような何かが現れる。
     纏わりつく影は、毒が染み込むようにじわりじわりと纏わりついて。
     慌てたようにここあがふわふわハートを飛ばした。
    「お前、邪魔だね」
     その動きを見た少年は、ここあに視線を移して語る。
    「さあ『君の玩具はここにある』よ」
     奇譚に生み出された女の子の影が、ぬいぐるみを抱きしめるようにここあを捕えた。
     回復役を守ろうと、希沙が浄化の霊力を放ち、リュシールが庇いに入るけれども。
     執拗に狙われたここあは耐えきれずに姿を消す。
     笑みを深くしながら滑り台から滑り降りた少年を、リュシールはキッと睨み据えて。
    「遊ぶ子が皆死んじゃったら、今度こそどんなに頑張ったって楽しそうな輪に混ざれなくなるのよ?」
    「別に構わないし。混ざりたいとも思わないしね」
    「ふーんだ。本当にそう思ってたら、ちょっかいかけたりしないのよ。
     本当、男子って皆、おんなじ事言うのね」
     舌を出して子供っぽく反論すれば、向かってくる子供の影の七不思議。
     ダークネスと1対2で勝てるとは思えない。
     だからこそ2人は、他の皆が都市伝説を倒して合流するまで耐えようと回復重視の持久戦を選んでいた。
     とはいえ少年の逃走も阻もうと、声をかけて気を引いて。
     傷をおしてリュシールは拳に雷の闘気を纏い、希沙もペリドットで翼を飾った空靴で地を蹴り駆ける。
    「楽しく遊んでる子が羨ましいの? それとも、憎いの?」
     そんな最中、希沙は純粋に疑問をぶつける。
     1人増えて、最後に立ってたのはその子だけ。
     少年の語る話を聞いて、希沙はよく分からないながらも思ったのだ。
    (「寂しさの象徴みたい……」)
    「あんたの語る七不思議がいつも子供にまつわるのは、どうして?」
     だから理由を知りたいと、煽りでも作戦でもなく、問いを投げる。
     少年は手帳を口元に当てて希沙に視線を向けた。
    「羨ましいとか憎いとか、そう思ってたのは俺じゃないよ。
     だから俺は、壊してあげる、って思ったんだから」
     にやりと歪むその瞳が赤く輝くのを、希沙は真っ直ぐに見る。
     そこに。
    「お前は、それが愉しいか?」
     響いた軛の声に、少年が振り返った。
    「なあ、タタリガミさん。ひょっとしてただ遊びたいだけなのかえ?」
     浄化をもたらす風を呼びながら、心桜も歩み寄り問いかける。
     それが子供ばかりを狙う意味なのではないかと思いながら。
     だったら一緒に遊びたい。
     怖いけど、仲良くもなりたい。
     複雑な気持ちを抱えるように胸元で両手をぎゅっと握る。
     紗子も、少年を囲むような位置を取り、逃がさないようにと気を付けながら問う。
    「本当は、一緒に遊んでほしいのではないですか?」
     その反対側でちゆがにこりと微笑んだ。
    「なら是非とも遊びましょう。缶けりのルールは完璧にマスターしましたから、ね」
    「あ、缶けりじゃない方がいい?
     何がお好み? わたしの七不思議でも聞いてく?」
     その隣で仁奈がぴょこんと兎のように可愛く跳ねながら首を傾げて見せる。
     都市伝説を倒した6人が合流し、少年を囲み捕えんとする灼滅者の輪。
     それを完成させるように依子がゆっくりと進み出て。
    「ねぇ、あなたは、1人離れて眺めているだけで、楽しいの? どんな時に心が躍る?」
     憂いを帯びた緑瞳で、赤い瞳を見据えた。
     ぐるりと周囲を見回した少年は、手帳を胸ポケットへと戻して。
     にやりと笑うと、リュシールへ向けて突っ込んだ。
     いつの間にかその手には血塗れの鋭い鋏が握られていて、咄嗟にステップを踏んで避けようとしたその腹を深く切り裂いた。
     たまらず膝をついたリュシールの横を、少年はそのまま通り抜けて。
    「今日の遊びはこれでおしまい」
     じゃあね、と少年は公園の向こうへと駆け出した。
    「遊びたければ何度でも私達のとこに来なさいよ!
     あなた、他の遊び方だって選べるのよ!」
     遠ざかる背中にリュシールの声が追いすがり、軛が獣の如き速さで追いかけるが。
     公園に残ったのは、少年の笑い声だけで。
    「逃がしたか」
     淡々と呟いた軛の言葉に、皆は戦いの終わりを知る。
     傷の手当てを始める心桜に、ちゆと仁奈も手を貸して。
     心配する依子に、希沙は大丈夫と微笑んで見せた。
     ベンチや遊具に腰掛ける皆を見渡した紗子は、長いポニーテールを風に揺らされて、ふと、滑り台へと視線を戻す。
     そこにはもう誰の姿もないけれど。
    「本当は、友達が欲しいのではないですか?」
     小さく呟いた問いは風に流されて、消えた。
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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