九十九の殺人技を持つ男

    作者:るう

    ●道端
     天木・桜太郎(夢見草・d10960)は、やけに暗い雰囲気を纏った少年とすれ違った。
     はっとして後ろを振り返った瞬間、耳に飛び込むこんな声。
    「俺の九十九の殺人技があれば……」
     だがは、人の流れに流されて、それ以上の言葉は聞き取れなかった。
    (「何か事件でも起こさなきゃいいけどな……」)
     そんな事を考えながら、桜太郎は一路、少年の今後を知るためエクスブレインの元へと急ぐ……。

    ●武蔵坂学園、教室
    「安心して欲しい……運命の女神はまだ、ノブヒサ少年に闇堕ちを望んではいない!」
     神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)の未来予測によれば、ノブヒサはまだ各種の殺人技をイメトレしている段階であり、実際に罪を犯すわけではないようだった。さらに言えば、物騒に思えるそれらの技も、誰かを傷つけるためではなく昨今の凶悪事件から自身や友人を守るために考え出したものだ。
    「が、技を編み出せば使ってみたくなるのが人情というものだ! ノブヒサが無辜の人々に力を振るう時は、刻一刻と迫っている……!」
     彼が今、その衝動に耐えているのは、奇跡的な自制心の賜物だ。それは彼の灼滅者としての素質かもしれず、我々と共にダークネスと戦う力になってくれるかもしれない。
    「ノブヒサが六六六人衆となってしまう前に、彼を止めてやってくれ!」

     が、その方法がややこしい。
    「ノブヒサに正義のために力を振るう場を用意して、その喜びを教えてやる必要がある……ただし、ダークネスとなった彼は倒さねばならない。すなわち、倒さなければノブヒサを救う事はできず、かといって彼が敗北感に囚われてしまえば、ノブヒサは闇の想念に支配されたまま絶命するだろう!」
     まあ戦いの場を用意するのは簡単だ。彼がよく行くゲームセンターで事件を(もちろん演技で)起こし、姶良・幽花(中学生シャドウハンター・dn0128)か誰かを人質にでもしておけば、義憤に駆られたノブヒサが勝手に戦いを挑んでくるからだ。だが、救出は……。
    「……俺には上手い方法が思いつかないが、戦いの中で信頼を深めた仲間が必ず仇を取ってくれると信じて倒れるとか、倒れはしたが正義の魂だけは敵にも伝わったとか、そんな感じの演出でもしてやればいいんじゃないか?」
     なおノブヒサは、バトルオーラと殺人鬼の攻撃サイキックを使う。
     え? 五つしか殺人技がないじゃないかって?
    「まあ……右から殴るのと左から殴るのを別技扱いしてたりするんだ。その辺は、あんまり深く追及するのはよしてやってくれ」


    参加者
    東雲・由宇(終油の秘蹟・d01218)
    天峰・結城(全方位戦術師・d02939)
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    ルコ・アルカーク(騙り葉紡ぎ・d11729)
    荒谷・耀(護剣銀風・d31795)
    幡谷・妙覚(動脈にラー油注射するマン・d32035)
    相神・千都(白纏う黒の刃・d32628)
    貴夏・葉月(地鉛紫縁は始まりと終末のイヴ・d34472)

    ■リプレイ

    ●悪に塗れたこの世界
     ゲームセンター内。
     無秩序に氾濫する音雪崩を切り裂くように、鋭角的な音が折り重なる。
     驚きプレイを中断する者、手許が狂い、忌々しげに拳で筐体を叩く者、何事もなかったかのようにリズムを取り続ける者……思い思いのゲームに興じる人々が、様々な反応を見せていた。が、一つ確実に言える事があったとすれば、音の方向を振り返った者は皆、粉々に砕かれた入口扉の先に立つモノを見て、一様に戦慄したという事だろう。
    「あら、もう終わりなのかしら?」
     響くのは、ころころと鈴を転がすような笑い声。真紅の振袖は邪気に揺れ、引き千切られた片袖から覗くのは、無数の呪符を貼られた鬼の腕。
     禍々しく額から伸びる黒曜石の角持つ鬼――正体は、自分が闇堕ちしたらこんな感じになるのだろうかと想像しつつ羅刹に扮装した荒谷・耀(護剣銀風・d31795)だ――は、大小のガラス片の間に倒れる貴夏・葉月(地鉛紫縁は始まりと終末のイヴ・d34472)を見下ろして、愉しそうに口元を歪めた。
     歯噛みして身を起こす葉月の四肢は、耀に弾き飛ばされた際に自らが砕いたガラスに切り裂かれている。
    「ちっ……今一つ力が足りぬ……!」
     色白の肌から鮮血が溢れ、室内には目撃した人々の悲鳴! ……まあ、『バベルの鎖』のお蔭でダメージはないんだけどね。
    「何故こんな事を……!」
     葉月のビハインドの『菫』と共に、東雲・由宇(終油の秘蹟・d01218)が葉月に駆け寄り彼女を助け起こした。そして羅刹を睨みつける。その力強い瞳に篭もるのは……人々を苦しめる悪への憎しみと、それに立ち向かえる者がかくも少ない事への嘆き。
     けれども、彼女の正義への懇願を踏みにじるかのように、破られたばかりの自動扉から、また新たな悪が現れたのだった。
    「何故、だと? 知れた事を」
     血にしては黄色味の強い赤い液体を全身に浴びたその男は、同じ色の液体を湛えた注射器を無造作に二人に向けながら答える。
    「我は石垣島ラー油怪人。既に石垣島はラー油の一大生産拠点と化し、我々は世界中の水資源にラー油を混入する用意ができている。すなわち……全生物がラー油を摂取しなければ生きられない理想世界の到来は目前となったのだ! 投降しろ、灼滅者ども……お前たちのその力、我が元で永遠のラー油作りに役立てるがいい」
     ラー油怪人、もとい幡谷・妙覚(動脈にラー油注射するマン・d32035)の注射器が、葉月と由宇の頚動脈を襲う!
    「させるものですか!!」
     反撃しながら飛び退いて、由宇は妙覚の変態的手つきを辛うじて躱した。けれど……その背筋にぞくり、冷たい感触が突き刺さる。
     反射的に無理矢理身を横に捻った由宇の体がつい先程まであった場所を、一本の刃が通り過ぎていた。
    「おや、勘のいい」
     抑揚のない声で呟いたのは、影と同化するかのような黒装束の男。表情も構えもなくただ佇むこの男――天峰・結城(全方位戦術師・d02939)が恐るべき暗殺術の使い手である事は、今のナイフ捌きからも一目瞭然であったとも言えよう……もしも、それを見る事のできた者がいたとすれば、だが。
    「どうして……神はこのような世界をお作りになられたのでしょう……!」
     由宇は祈る。けれども、そんなものは無駄だとでも言うように、気付けば影は、由宇と葉月を分断する位置へと移動していた。そして葉月の方はと見れば、この機を逃さじと続々現れ取り囲む、複数の『邪悪な存在』の影! そして鬼の拳が振り上げられて……しかし!

    ●ヒーローの登場
     自らの拳を弾く感触に、耀は一度、驚いたように目を見開いた。
     その瞳に映るのは、バラフライナイフ一本を手に、葉月を守るように立ちはだかる一人の少年!
     ふん、と少年――ノブヒサは鼻を鳴らす。
    「まるで特撮の怪人みたいだな……子供騙しの悪役ごときが、この俺に勝てるとでも思っているのか……?」
     その無謀な自信はどこから来るのか。こんなバカのためにアレを演じるのも気が重い、と内心溜め息を吐きながらも、相神・千都(白纏う黒の刃・d32628)は努めて女性的な口調で挑発してみせた。
    「黙りなさい? 坊やはおうちに帰るのがいいわ」
     そして羽織っていた白衣の前ボタンを外し、襟ぐりの深い黒いシャツが露になると同時、突如、胸元からどす黒い霧が噴き出し辺りを覆い尽くす! ……が!
    「……あら? 私の『殺界』が効かないなんて」
     千都が不思議そうに片眉を持ち上げた瞬間、その隣を誰かが駆け抜けた。直後、少年のくぐもった呻き。
     ノブヒサを柱の新作ゲームのポスターに重なり合うように弾き飛ばしながら、ルコ・アルカーク(騙り葉紡ぎ・d11729)は興味深そうにくっくっと肩を揺らす。
    「おやおや、随分ときな臭い匂いがぷんぷんしますねぇ。でも驚いている場合ではありませんよ、千都さん。こういう輩は、ちゃんと潰しておきませんと。それとも……彼の健気な正義感にほだされてしまいましたか?」
    「まさか? 『私』は『俺』とは違うもの」
     千都が忌々しげに答えると、ルコはその答えに満足し、ノブヒサを見下すように自らの顎を持ち上げた。
    「その、あまりにも反抗的な目。厄介な芽は早めに摘むに限ります。くっくっくっ……ザコが何匹集まろうと同じ事、まとめて捻り潰して差し上げようじゃありませんか」
    「黙れ……」
     すると、広がる殺界を吹き飛ばさんとするほどの殺気がノブヒサから溢れ出た。
     決して悪を寄せ付けぬ少年の意志。それに驚いた表情を作ると、葉月の口から熱に浮かされたような懇願が洩れる。
    「ぬ……貴殿から感じるこの正義感は……? やはり貴殿も『灼滅者』、いや救世主に違いない! どうか、悪を討つのに力を貸してはくれぬだろうか!」
    「当然だ……一体どちらが強いのか、こいつらによく解らせてやる」
     そんな二人の遣り取りに目を細め、千都はくすくすと笑ってみせた。
    「灼滅者がもう一人? でも、一人ばかり増えたところで、全員纏めて殺せば何も問題ないわ……ね!」
     言葉を放ち終わるのを待たずして、千都の格闘術がノブヒサに迫る!

    ●恐るべき厨二殺人術
     拳、足蹴。それらはノブヒサに受け止められはするが、それは想定の範囲内。何故なら広がる黒霧こそが、彼女の真の武器なのだから。
    「案外頑張るわね……でも」
     千都の腕が霧の中へと伸ばされた直後、不意を打って飛び出す一発の銃弾! ……が、確実に捉えたと思われた至近距離からの攻撃は、ノブヒサの胸の僅か数センチ脇を通り過ぎていた。
     彼が、唐突にくねくねしたポーズを取ったせいだった。
    「俺の破邪戦闘術は、既存の武術に囚われない変幻自在の殺人術……ゆえに常人は俺を捉える事などできず、逆に死角から俺に切り裂かれるのだ」
     いや、どう見てもただの偶然だったんだけど。
     それに、何故彼は交戦相手の千都を無視してこっちに近付いてくるのだろうと、結城は思わず首を傾げそうになるところだった。
     もしや、由宇を助けるために? それとも、これが彼の言う『変幻自在』なのか? ノブヒサの無駄に自信満々な態度からは、そのどちらとも掴めない。たぶん、何も考えてないのだろう。
     けれども、それに虚を突かれてやる必要なんてない。敵の虚を突く戦術は、誰よりも結城自身が得意とするものなのだから。
     最小限の動きで刃を避けて、反撃は……殺気を当ててやるだけでも十分だ。無表情の、一切の思考を悟らせない彼の振る舞いは、敵の防御ペースを攪乱するがゆえに。
     おや、これはこれは、というルコの嘲りが、無様に転倒するノブヒサへと浴びせかけられた。
    「どうやら、『正義の味方』とやらは随分とエンターテイナーのようですねぇ」
     つかつかと彼へと歩み寄り、余裕の態度でノブヒサの顎を蹴り上げようとした瞬間……。
    「な……!」
     片足になった瞬間を見計らうかのように、殺意の気弾がルコのバランスを崩す!
    「どうやら、『悪役』とやらも随分とエンターテイナーみたいだな……どうだ、俺の『ホーミング殺気弾』のお味は」
     うわぁそのまんま。けれど、これを笑わずおだててやらないといけないのが灼滅者の辛いところだ。
    「我らは灼滅者、正義の剣! このまま共に畳み掛けましょう……いざ共に!」
     由宇の剣が『悪』を裂く! 味方を攻撃するのは気が引けるけど、変な手心を加えてノブヒサに怪しまれるのも得策じゃない。けれどそれ以上に……天井に四つん這いで張り付いて口から緑の怪光線を発射する妙覚は、手の中の注射器の中身がorヒールの薬剤だと知ってはいても、今倒しておかないといろいろ危ない!
    「待て! 逃げるな! 君た……お前たちの動脈にラー油を注射すげふあ!?」
     由宇の本気の剣技をまともに受けて、ぼて、と床に落ちたラー油怪人を、ノブヒサの『デス・ストンピング』が沈黙させた。
     これでよい……これでよいのだ。誰かが余計な重傷にならずに済むのなら。
    「まあ、この期に及んで仕方のない人たち」
     配下を一人やられたというのに、耀はくすくすと愉しげに微笑んだ。そして持ち上げるのは鬼の腕。
    「ふん……つい先程俺に受け止められたのを忘れたか」
     弱そうな構えを取るノブヒサを鼻で笑って……耀が放ったものは!?

    ●裏切りの饗宴
     鬼の腕から剥がれた『防護符』が、菫の全身を霊力で覆う!
    「あ、あれは……洗脳符だと!?」
     わざとらしい解説を加えて愕然としてみせた葉月の密かな指示で、菫はノブヒサを攻撃し始めた。まさか、味方が敵になってしまうなんてー。
    「オノレぇぇぇ! よくも忠実なる部下をくぅぅぅ!!」
     こんな恐ろしい事が起こるなら、あまりの絶望に葉月が支配されて、そのまま無力な足手纏いになっちゃうのも仕方ないよね☆
     さらに、辺りに響く耀の声。
    「さあ、私の可愛いお人形さん達。あの人たちを始末して頂戴な……それと念のため、人質も取っておいた方がいいかしら?」
    「はい、ごしゅじんさま」
     額に例の護符を貼り付けて、抑揚のない声で入ってきたのは姶良・幽花(中学生シャドウハンター・dn0128)。手の中にわだかまる黒い闇が、今の彼女を支配する力の正体を物語るようだ。
     伸ばされる手。
    「え……あれ……僕?」
     逃げ遅れていたらしい茶倉・紫月(d35017)がその手に捕まって、不思議そうに首を傾けた。咄嗟の事に驚いて、脳裏に巡るのは全然関係のない話……さっき見つけた、ゲーム雑誌の誤植の事とかだ。
    (「ゲーム雑誌の誤植といえば、あの有名な誤植は、アナログ原稿だったからこそ生まれたんだろうね……」)
     そしてもう一人。
     それは、一見すれば紫月と同じく、一人の逃げ遅れた少女だった。けれども……。
     艶やかな桜色の着物に紫の袴。この時代、そんな『普通の少女』がそういるだろうか?
     いやこの時期だ、もしかしたら今日は卒業式であったのかもしれない。けれども、腰に刀を差して出る卒業式なんて、この世の中、一体どれほどあるものだろうか?
     それでも、ノブヒサは守らなければならないのだった……少女――四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)が助けを求めている限り。彼女が『善良な一般人』である限り。
    「貴様ら……どうやら俺は本気を出さねばならないようだな……」
     今まで本気じゃなかったんですかねノブヒサ君? ともあれ、彼の殺気が膨れ上がった。
    「洗脳? それが何だ? その程度、俺の殺気で浄化してや……ぐっ!?」
     一度は拳に力を込めたノブヒサ。けれども殺気はすぐさま霧散して、代わりに勢いよく飛び散るは、紅く温かき彼の血潮。
     ごめんね、といろはが囁く声を、崩れ落ちる少年は聞いていた。その囁きの口ぶりは、怯える哀れな少女ではなくて、むしろ耀の扮する羅刹に近いモノ。
    「あまりにも魅力的な背中だから、刺したくなっちゃうんだよ。それに……九十九の技を継承するキミが闇に堕ちる事をせず、このまま仲間を信じる心が芽生えてしまっては不味いから」
    「まさ……か。人質のフリをして……俺を……騙し……」
     殺人衝動なんか抑えずに、正直に闇に身を任せるのもまた一興なのに。
     嗤って暗がりに身を躍らす少女の声が、薄れゆく彼の意識の中にこだまする。演技とも本性だったともつかぬ、不気味な何かを孕んだ声が。
    (「ああ、俺の『正義』など、所詮はこんなものだったのか……」)
     絶望が正義の心を覆い尽くすかと思われた時、少年は、力の入らぬ手に落ちる、一滴の液体に気がついた。
    (「水滴? いや……ほんのりと温かい。なら何だ? これは……涙?」)

    ●正義の想い
    「そんな……許さない」
     まるで唸るような由宇の声。瞳から大粒の涙を零し、彼女はゆらりと立ち上がる。少年の正義の心を受け継いで、手の中の目薬を密かに握り締め。
    「少年よ……貴殿の正義を想う気持ち、しかと我らに伝わった!」
     葉月の全身にも力が満ちる!
    「今や、我らに敗北の文字はなし。貴殿の正義の灯火が……その心より潰えぬ限り!」
     びゅう! 菫に貼り付けた防護符を清めの風で吹き飛ばすと、耀は初めて余裕の態度を崩し、困惑と恐怖の表情を浮かべた。
    「ま……まさか私の洗脳術が破られるだなんて! 早く彼奴らを始末なさい!」
    「やれやれ、どうやら私が尻拭いして差し上げねばならないようですね……さあ皆さん」
     ルコが大仰に命じたのと同時、千都の霧が凝縮する!
    「ふふ、案外頑張ったようだけれど……ここまでね。沈みなさい……きゃああああっ!?」
     が、逆に大袈裟に吹き飛ばされる千都!
    「……お任せを」
     攻撃のタイミングを悟らせぬよう、予備動作なしで繰り出したはずの結城のナイフ……が弾かれて、くるくると舞って床へと突き刺さった。
    「分が悪い」
     それだけ呟いて速やかに出口へと身をひるがえした結城を呆然と見送って、ルコの表情が最初は真っ赤に、次に真っ青に変化する。
    「お……おのれ……! て、テメーら覚えてろよォ!!!」
     一応妙覚を蹴り起こしてから脱兎!
    「なるほど、灼滅者……侮れん! 気に入ったぞお前たち! 我が元で生涯をラー油作りに捧げ……いえ冗談ですさらば!」
     かくして全ての『悪』が去った後……葉月は少年の顔を見た。
     自分の意志が悪を蹴散らし、世界を正義に傾けたのを見届けて最後の意識を手放した、遣り遂げた男の表情を。

    ●移ろいゆく世界
    「よかった……貴方の正義を想う心が、彼らの邪悪を退けたのです」
    「貴殿の力、今後も我らのために振るってはくれぬか?」
     由宇と葉月が口々にノブヒサを讃えた後、武蔵坂学園に来ないかと勧めると、あの後すぐに目を覚ました少年は、少し考える時間が必要だと嘯いて背を向けた。たぶん……いや絶対に照れ隠しだろう。

     そのまま帰ってゆく三人の遣り取りを、逃げたはずの『悪』たちが、近くのビルの屋上から見下ろしていた。いろはだけはまだ合流していないが、きっと、後から現れるのだろう。
    「終わった……か」
     不機嫌そうに吐き捨てて、シャツの上に上着を着込む千都。もう、『私』なんぞとはおさらばだ。
     やれやれ、とルコも肩を竦めた。
    「今回は狂言で負けましたけれど、次はちゃんと戦って勝ちたいものですね」
    「その時には、是非とも本当のラー油の素晴らしさを知って貰いたいものだね」
     しきりに頷く妙覚に言い知れぬ不安を抱いた者は、果たして何人いただろうか?
     耀も額のつけ角を取り外し、そして見遣る。
     ノブヒサらが遠くに去ったのを確認し、今となっては荒れ放題を演出しておく必要のなくなった『舞台』を片付けに向かった、結城の姿を。

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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