セイメイ最終作戦~凄惨場景

    作者:ねこあじ

    「来ないで!!」
     一体何が、どうして、と考える前に、自在箒を振り回して鞠絵は叫んだ。
     ついさっき。
     学校内の掃除時間。
     新しい箒を用務員室から貰ってきた鞠絵は、担当場所である音楽室、隣の資料室へと向かった。
     廊下には友人で、同じ掃除担当であるサチと雪乃が廊下の窓を開けている。
    「ごめん、ちょっと遅れた」
    「ううん、私たちも今来たところだし……あれ?」
     サチが資料室の扉に手をかけたその時、隣の音楽室から3人の生徒が出てきたのだが、様子がおかしい。
    「――キャアアアアアッ!!」
     その1人に噛みつかれた雪乃が悲鳴を上げ、さらにもう1人が噛みつく。
     一瞬呆然とした鞠絵だったが、手にした箒の柄で『何者』かを思いっきり突いた。すぐに倒れた『何者』かを見て、すぐに鞠絵はもう1人を箒で叩き、蹴った。相手の動きは鈍い。
    「雪乃!」
    「ゆきちゃん! ゆきちゃん!!」
     すぐにサチが血を流し倒れた雪乃を抱きこんだ。寄ってくる『何者』かに対し、鞠絵は箒を振り回した。
    「……まりちゃん!」
    「うん!」
     サチの声に、鞠絵は踵を返し資料室へと入った。半ば寄りかかるように扉を閉め、鍵をかけた直後。
     ――バンッ!!
     扉に体当たる『何者』か。振動がその身に伝わる。
    「……ッ」
    「まりちゃん、ゆきちゃんが……!」
     動かない。血まみれとなった雪乃の頬に添えられたサチの手もまた、雪乃の血で濡れている。
     お互い、声は震えていて。かける言葉が見つからない。
     そもそも、把握できない恐怖に心も身も震え、言葉自体、音となって出てこなかった。
     震える手で、彼女たちの手をぎゅっと握りしめる。サチの手は震えていて、雪乃の手は力なく。
     外で悲鳴があがり、少女2人は身を竦ませた。


     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)は少し急いている様子だった。
    「お疲れ様です。まずは、富士の迷宮突入戦の大勝利について説明しますね。
     白の王セイメイや海将フォルネウスを灼滅し、白の王セイメイが準備していた数千体のゾンビを壊滅させ、白の王の迷宮も崩壊しました。
     ……ただ、喜んでばかりもいられないようです」
     姫子は瞳を揺らがせていた。
    「日本各地の高校の校舎で、白の王の置き土産ともいえる事件が発生しているのです。
     各地の学校の校舎に出現した数体のゾンビが、生徒などを噛み殺し、その生徒をゾンビ化させつつ学校を征圧しようとしています。
     噛み殺した人間を同じゾンビとする性質から、このゾンビは、仮に『生殖型ゾンビ』と呼ぶことにします。
     生殖型ゾンビは、私たち、エクスブレインの予知を妨害する力があるらしく、事件現場の状況は分かっていません。
     ですが、事件が起こる場所だけは確認することができたので、急ぎ、事件現場に向かってください」
     敵となる生殖型アンデッドは、富士の迷宮の下層にいたものを同じと推測される。
     決して強力な敵ではないが、噛み殺した人間を同じゾンビとする能力は脅威だ。
     放っておけば、次々と数を増やし、学校の教師や生徒だけでなく周辺住民もゾンビ化してしまうだろう。
    「幸い、数千体いた生殖型ゾンビの大多数は、富士の迷宮での戦いで灼滅することができています。
     生き残りは100体以下であり、その全てが地上に出てきていると推測されるため、ここで全ての生殖型ゾンビを撃破できれば、生殖型ゾンビの脅威を完全に払拭することが出来るでしょう。
     生殖型ゾンビには『バベルの鎖を持たない』という特徴もあるため、ゾンビ撃破後、可能な範囲で、ゾンビがいたという物証を持ち帰るか破棄するようにお願いします」
     バベルの鎖が無ければ、情報が伝達されないという効果も無くなる。
     物証を残せば残すほど、ゾンビのような超常現象が表に出てきてしまう。
    「完全に情報を遮断することは不可能ですが、可能な限り証拠を隠滅してください」
     目撃者への口止めなども必要だろう。
    「生殖型ゾンビが5000体もいれば、日本社会をズタズタにすることも簡単だったでしょうね……その時は、一体どんな世界を見ることになったのか……」
     恐ろしいことです。
     姫子はぽつりと呟いた。
    「生殖型ゾンビの全滅を目指してください。よろしくお願いします」


    参加者
    迫水・優志(秋霜烈日・d01249)
    伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)
    冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)
    海堂・月子(ディープブラッド・d06929)
    華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)
    白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)
    ナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)
    ヘイズ・レイヴァース(緋緋色金の小さき竜・d33384)

    ■リプレイ


     担当場所に急ぐ生徒、はしゃぐ生徒、そこには授業時間とは違ってどこか楽しげな空気があった。
     一角の緊迫した場も、校内の喧噪に紛れてしまう――そんな時間帯に校門を抜け、散開する灼滅者達。
    (「最後の最後まで、あの野郎」)
     迫水・優志(秋霜烈日・d01249)の苛立ちは、顔に険しさとして出ていた。
    「音楽室は任せるわ、雪乃ちゃんの事は可哀想だけど躊躇わないでね」
     嫌な役を任せるけど頑張って、と海堂・月子(ディープブラッド・d06929)が気負う優志の背中をポンと叩き、彼と華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)を送り出す。
     生殖型ゾンビを一体でも残すと大変だ。
    (「死んで化け物になるなんて誰も望んでないわ」)
     と、月子。
     音楽室は渡り廊下で三棟繋がれた一番端の棟。
     校内は、さらに別棟が一つ。
     更に図書室と視聴覚室が一緒になったやや小さめの棟がある、ごく普通の高校だ。
     端の棟に入れば、階段を下る一体の生徒ゾンビ。
    「お前に恨みも何もないんだけどな」
     優志のジャッジメントレイに続く灯倭のグラインドファイアでゾンビは倒れ、燃える。
     二階に辿り着けば避難指示を始めた仲間の声が微かに聞こえ、音楽室を確認した二人は驚きの声をあげた。
     すでに黒い煙の立ち上がる発煙筒が、音楽室の窓側に転がっていた。
     ナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)が外から二階へと投げ込んだものだ。速い。
     そして、音楽室の惨状は。
    「……酷いな」
     剣呑な声の優志。
     倒れた打楽器、机と椅子、恐らく出現した生殖型ゾンビと争ったであろう場所。
     飛沫血痕、手跡、引きずったような血の跡。
     血溜まりの中、教師と思われる女性が倒れていたのだが既に息は無い。ゾンビ化しなかった遺体だ。噛み痕は大きなものと小さなもの。二種ある。
     確認したのち扉を閉め、すぐに資料室の前に行く二人――灯倭がラブフェロモンを使い、中の生徒に声をかけた。
    「助けにきたよ! みんな大丈夫? ここを開けてくれるかな」
     すぐにがたりと音がし、そっと扉が開かれるのに安堵する灯倭。扉に縋りつくように女生徒が二人を見上げてくる。
    「ゆ、雪乃が……雪乃が。保健室に連れて行かないと……っ」
    「分かった。ひとまず、息を吸って」
     優志が声をかける。自力で移動していくのは無理そうだ。
     血が染み込んでしまった少女の制服を、腕を、灯倭が支え掴んだ。宥めるように頷く。
    「うん、うん。雪乃ちゃんは私に任せて」
     助けが来た事への安堵か、目前の少女から涙が零れ落ちた。対し、もう1人は青ざめ震えてはいるものの、やや険しい表情だ。『雪乃』の力ない手を握り続けている。
    「ゆきちゃんは、助かるの……かしら」 
     サチは問うもその声の響きは、既に答えを持っている気がした。
     起きた事へのショックにまだ立てない少女達を優志が担ぐ。
    「二人とも、まずは避難だ。華槻、後は頼んだ」
     駆けて行く優志を見送り、灯倭は横たわる少女の傍に屈むと、死亡を確認した。
    「ごめんね……後でまた来るから少し待っててね」
    『雪乃』だった者が起き出す前に、灯倭は肉体の損傷をなるべく抑えるべく、断斬鋏を使う。
     と、一瞬、ざりっとした音が鳴る。校内放送だ。
    『ただいま音楽室から火災が発生しました。避難訓練の時の様に落ち着いて避難しましょう』
    (「富士の迷宮で全て倒しきれなかったから……こんな事になるなんて」)
     立ち上がった灯倭は、無線機に手を伸ばした。


     入り口に一番近い階段――高校の玄関口である事務所のあるメイン棟から、少し閑散とした三年の教室が並ぶ二階へ上がった白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)は背後の渡り廊下のところで、誰かが戸惑う気配を感じて振り返った。
     血が染みて色がおかしくなったブレザー。男子生徒がふらふらと歩くのを、何人かの生徒が見ている。
    「待った、お前、ケガしてるんじゃ――」
     ある男子生徒が声をかけ、寄っていくのを見て雅は駆けた。
    「危ない!」
    「え!?」
     言いながら割りこむ雅。
     プリンセスモードとなり、生徒達に向かって言う。
    「みんな、私が来た方から逃げて!」
    「ちょ、待った! あいつケガしてるんだって! キミも、保健室に連れて行った方がいいと思うだろう?」
     雅の登場に感銘を受けた目をしながらも、男子生徒はふらふらと歩む生徒のことを心配しているようだ。
    「おい、何をしている! 火災が起きたようだぜ、避難しねぇと……!」
     騒ぎを聞きつけた冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)が二階に上がってくる。
    「え、先輩……?」
     プラチナチケットを使えば、彼らは勇騎を上級生だと思ったようだ。
     と、その時、ゾンビと思わしき生徒が急に後退した。
    「ほら、あいつも行くようだ。俺達も早くグラウンドに行こうぜ」
    「あ、はい……大丈夫そう、かな?」
     生徒達の目には映らない――闇纏い中のヘイズ・レイヴァース(緋緋色金の小さき竜・d33384)が、勇騎の連絡を受け、チェックしていた避難通路用の階段から一気に駆けつけてきたのだった。
     少し抵抗されるが、真後ろからゾンビの服を引っ張る。
     ここで、校内放送がかかる中。
    「Summon Raid」
     人の目がなくなり、スレイヤーカードを解放させ九条ネギ餃子怪人の姿となったヘイズは生殖型ゾンビに向かって、九条ネギアイスの色と形をした気弾を放った。
     ヘイズは一旦距離をとり、
    「葱坊主の花の炎の満開でありますよ」
     と、黄緑色の炎を舞わせゾンビを倒す。
     一方、避難する生徒に勇騎は話しかけられた。
    「卒業式が終わったばかりだというのに、忘れ物か何かしたんですか?」
    「……まあな」
     神妙な顔つきになって応じる勇騎。
    (「……既に犠牲が出ちまってる以上、全てをって訳にもいかねぇが……」)
     少しでも犠牲を出さずにすむよう、今は、出来ることをしなければ。

    『ただいま音楽室から火災が発生しました。避難訓練の時の様に落ち着いて避難しましょう』
     校内に行き渡った放送は、生徒・教師達の意識をやや変化させた。
     ――何かあった? 何か騒がしい。
     という不明瞭のものから、火事があったようだ、というものに。
     音楽室前から直線距離、つまり廊下の窓、放送室へという経路で入っていたナハトムジークは先程気絶させた生徒を担いだ。
    「よ、っと」
     窓から地上へ降り立ち、生徒を担いでグラウンドに向かって走っていく。

     職員室付近。
    「火事だって」
    「さっき音楽室の方からあがってる煙見たよ」
     どこか他人事な様子で大人しく避難していく生徒と違い、教師は少し厄介そうだ。
    「火災報知器が鳴らないぞ」
    「様子を見てこなければ」
     と、どこかへ行こうとする。
    「その必要はない。それに、消防への連絡はすでに済んでいる。今はグラウンドへ避難した方がいいだろう」
     プラチナチケットを使う伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)が止めるも、しかしだな、と続ける教師二人は渋っている。
    「恐らく生徒達も動揺しているだろう。今は生徒を安心させ、落ち着かせるのが教師の役目ではないのか?」
     黎嚇の落ち着いた物言いは、同じ教職につく者だと教師二人は思ったようだ。
    「……それもそうだな」
    「消防が来るのを待とう」
     今は納得したとはいえ、教師は要注意かもしれない。後で教師達に、連絡は済んでいると再度言い含めなければと思う黎嚇は、このことを仲間に無線で知らせるのだった。

     授業中とは違い、清掃時間は昼休みや放課後のように校内全体まばらに生徒も教師もいる時間帯だ。
     まばらで、掃除場所から動かず、停滞感を生む。
     仮に、避難無しの策であったならゾンビに襲われる悲鳴が聞こえてからの対応と、やや後手になる可能性もあったが、『避難させる』と自発的に生徒達は動く。
     足早に進む生徒にゾンビは追いつけるだろうか。答えは否だ。


     雅は、女生徒のゾンビへ流星の煌きと重力を宿した飛び蹴りを放った。サンライトブーツが光の軌跡を残す。
     雅が維持する距離は一歩半。
     着地すると同時に蹴りは延髄蹴りへと切り替わった。強烈な一撃が入る。
    「ヴ、ァ」
    「さあ、光にその身を委ねるのよ」
     光の戦士として言う雅が裁きの光条を放てば、ゾンビの身が崩れ落ちていく。
     駆け去る雅と入れ違うように、廊下の向こうにはヘイズの姿。二階のシンとした廊下に微かな物音がたち、気付く。
     図書室だ。闇纏いを解除し、ヘイズは声をかけた。
    「誰か、いるでありますか?」
     閉められた扉が開錠の音と共に開いた。
    「生存者、二人を図書室にて発見であります」
     ヘイズが無線で知らせた。 
     廊下向こうにはゾンビだった者が倒れている。生徒の怯え具合からゾンビに遭遇してしまったのだろう。
    「ひ、避難しようと思ったら、変な子が……」
     ヘイズはそっと手を差し出した。
    「歩けますか? ボクが一階まで一緒に行くであります」
     これ以上、ゾンビを目にしないように。頷く生徒の手には噛み痕があった。
     外に出れば、駆けつけた黎嚇が祝福の言葉を風に変換させて生徒の怪我を治す――のだが、グラウンドに二人を連れて行った時、月子から連絡が入る。
    『伐龍院君、そのまま四時の方向に引き返してくれるかしら? 中からゾンビが出てきたわ』
    「了解した」
    「ア、アァ、ヴ……」
     呻き声を上げ、歩くのは売店で働く女性のゾンビ。
     散乱する文房具、壊れた扉に先の惨状が知れた。
    「弱き者の盾となり、邪悪を斬り裂く剣となれ――この言葉に誓ってこれ以上の被害は出させん。伐龍院の力を見せてやる」
     黎嚇の光を宿した白き刃が非物質化する。これ以上の外傷を与えないために、禍根を断ち切るために。
     ゾンビを倒して売店の中を確認すれば、女生徒の遺体があった。
     跪き、非物質化したままの刃を少女へと立てる。
    「……本当ならちゃんと弔ってやりたいところだが、仕方があるまい」
     二人への声は命を惜しみ、悔やむもの。剣を払い、黎嚇は祈りを捧げるのだった。

     一年生・二年生棟。
     一階を急いで行く生徒数名を追うように、ゾンビが歩いていた。後ろのゾンビに生徒は気付かぬまま、どんどん引き離していく。
     更に真後ろに気流を纏うナハトムジークが現れ、射出した帯でゾンビを貫いた。
    「ヴヴ……ァァ……」
     呻くゾンビに接敵し、蹴り倒す。
     現れた人間に噛みつこうとゾンビが縋りつくのだが、一体は灼滅者の敵ではないだろう。
     煌きと重力を宿す蹴りを放ち、敵を倒したナハトムジークが生殖型ゾンビに火をつける。生徒だったゾンビの口元は真新しい血に濡れていた。
     立ち上る煙は煙感知器のある教室へは向かわず、廊下の窓へと上っていく。
     つい先ほどまでは避難行動で音の聞き分けは使えなかったが、今ならば。耳を澄ませたのち、ナハトムジークはゾンビが歩んできた方向へと踵を返した。
     その二階。
     優志は投げ出された脚を見つける。
    「!」
     そこには掃除用具に上半身を突っ込み倒れた生徒。噛み痕は大と小とあった。まただ。
     経過時間が不明な以上、寸分の差でゾンビ化してしまうかもしれない。透明度の高い刀身を非物質化させ、遺体に刃を落とす。
     と、声。グラウンドにいる月子だ。
    『こちらは今のところ異常なし、状況はどうかしら』
    『……至急。転移してきた生殖型ゾンビは二体一緒に動いている可能性がある』
     確実に、素早く、噛み殺せる。思考能力は無いのだろうが学校の征圧という目的に動いている。
     月子は双眼鏡で校舎をチェックしつつ、誘導されてきた者をグラウンドで守る役目についていた。
    「ああっ、そういえば、城垣達がいない!」
    「あの子達、またサボっているのかしら……」
     教師陣の声に、月子は踏破されていく見取り図を思い浮かべた。
     次に、近くにいた女生徒に尋ねてみることにした。
    「城垣君? って子達を知っているかしら?」
    「あ、ええと、よくクラブハウスの裏から先生たちに連行されていたり、します」
     わかったわ、と月子は頷いた。声を発信する。
    「サボり常習犯な子達がいるらしいのだけれど行方が分からないわ。クラブハウス付近にいないかしら?」
     一瞬遅れての応答に月子は、よろしくね、と言うのだった。

    「リーダー」
     向かう勇騎に灯倭が追いつく。
    「私も行った方が良いかな、と思って」
    「そうだな」
     灯倭の言葉に、一瞬考えた表情をした勇騎はすぐに頷いた。サボり常習犯というのなら反発を喰らいそうだ。ラブフェロモンを使った方がすんなり事が運ぶ気がした。
     予想は当たるもので、勇騎の言葉に「あぁん?」と言い返す最早『不良』と評した方がいいグループは、ラブフェロモンを使う灯倭の言葉には容易く応じる。
     探索を行う灯倭を残し、グループを誘導しつつ後ろについた勇騎が足を進めてグラウンドに入る手前。
     耳に月子の声が直接届く。
    『建物の陰からゾンビ出現よ。今、伐龍院君がそちらへ向かったわ』
     グラウンドにいる全ての人を、目撃者にするわけにはいかない。
    「ゾンビも誘導しちまったか。分かった――灯倭」
     幸い不良グループは背後を気にしていない。近くにいるはずの灯倭を無線で呼ぶ。
     黎嚇を来るのを確認した勇騎は踵を返し、生者の気配に追ってくるゾンビ二体へと駆けた。
     激しく渦巻く風の刃を生み出し、サラリーマン風のゾンビを斬り裂く。腐敗の匂いを散らすように風の刃が虚空で解けた。
    「来たよ、リーダー」
     向かい側から接敵した灯倭がサラリーマン風のゾンビへと炎纏う蹴りを放つ。そしてもう一体のゾンビを見て、言う。スモックを着た幼子のゾンビだ。
    「こんな、小さな子まで」
     雪の様に白く、軽いエアシューズで駆る灯倭。
     大人のゾンビを倒し、もう一体へと。灼滅者の胸を焼くような感情は何だろうか。
    「ここで終わらせねぇとな」
     勇騎の影刃に斬り裂かれ、子供のゾンビもまた地に倒れ伏す――。
    「……転移してきたと思われる生殖型ゾンビ二体、撃破完了」
     やや事務的な口調で勇騎が報告した。

     全ての探索を終え、ゾンビは殲滅。
     損傷の激しくない遺体へ仮初の命を与え、グラウンドに行くのを見送る。
    「そろそろ、退きどきね」
     案の定というか教師陣がそれぞれ行動を起こそうとし、王者の風を使用していた月子の耳にサイレンの音が届く。
     黙祷していた灯倭も顔をあげた。
     灼滅者達は少しずつ騒がしくなっていく高校を後にする。誰にも気づかれないように、そっと静かに。
     白の王セイメイの企みを完全に断ち切ったことを願いながら――。

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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