セイメイ最終作戦~世界の分岐路

    作者:灰紫黄

     世界は変わり映えしないものだと思っていた。今日と同じ明日が、明日と同じ明後日が来るものだと信じていた。生徒会長として学校をよくしていこうと言う傍で、進藤はずっとそうだった。
     ドン、ドン!
     生徒会室の外から衝撃音。
    「おい、もう長くはもたねぇぞ!」
     副会長の新井が叫んでいる。バリケードを築いたせいだろう、手は血だらけだった。
     生徒会室の真ん中では書記の高峰と一年の渡辺がうずくまっている。二人とも女子だ。守らなければいけないと思う一方で、そんなことできないとも思う。
     生徒会の会議が長引いたせいで、珍しくこんな時間までいてしまった。
     その結果が、これだ。
     いつの間にか学校内にはゲームのゾンビみたいなのに溢れてしまっていた。異変に気付いて生徒会室まで引き返したものの、もう脱出もできやしない。
    「助けが来るまで耐えるんだ」
    「本当に助けなんて来るの!?」
     進藤の言葉に、高峰がヒステリックに叫び返す。気持ちは分かるが、正直それは言って欲しくなかった。だって、みんな同じ気持ちなんだから。それでも信じるしかないのも同じ。一応、警察にも通報はしたが間に合うかどうか。いや、信じて来てくれるかさえ分からない。
    「畜生、畜生畜生畜生……っ!」
     明日は変わらない。だって、明日なんて来ないから。

     富士樹海に潜むセイメイ迷宮の攻略戦は、灼滅者の勝利に終わったと言っていいだろう。大きな犠牲を払ったものの、白の王セイメイや大悪魔フォルネウス、そして大量のゾンビを葬ることができたのだから。
    「ホント、タダじゃ死んでくれないらしいね」
     呆れた様子で呟く猪狩・介(ミニファイター・dn0096)。
     日本各地の高校にゾンビが転移し、生徒達を襲撃する事件が起き始めている。最初に現れるゾンビの数は少ないが、噛み殺した人間を同質のゾンビにする性質によって加速度的に数を増していく。
    「いわば『生殖型ゾンビ』ってところかな。で、こいつらは厄介なことにエクスブレインの予知を阻害する。……まぁ見なくていいならその方がいいのかもしれないけどさ」
     察知できたのは事件が起きる場所だけだ。詳しい状況までは分からない。
    「僕らが到着できるのは放課後の少し遅い時間だね。あんまり人は残ってないだろうけど、遅くまで練習してる部活とか、先生とかはいるかも。突入してから探すことになるだろうね」
     出現するゾンビはおそらく迷宮で遭遇したものと同じ。けして強くはないが、繁殖力は大きな脅威になる。速やかに対処しなければ、被害は爆発的に広がるだろう。
    「迷宮で数千体は撃破済み、生殖型ゾンビは今回出てくるので最後っぽいね」
     なお、このゾンビはバベルの鎖の防備を持っていないことが報告されている。サイキック以外の攻撃が効くというのもあるが、情報の電波に一切の障害がない。パニックを防ぐため、戦闘後はできるだけゾンビが存在した物証を残さないようにすべきだろう。
    「もし迷宮で倒した数千体が解き放たれていたら、日本はゾンビの国になっていたろうね。……セイメイの思い通りにはならなかったわけだけど」
     介の言葉はどこか冷たい。それが死者への慰めになるか分からなかったから。
    「じゃ、行こうか。ここでゾンビを逃したら同じことだから」
     闇堕ちして散った者、ゾンビの贄となった一般人達。もうこれ以上、犠牲を増やすわけにはいかない。


    参加者
    不動・祐一(幻想英雄譚・d00978)
    漣波・煉(平穏よ汝に在れ・d00991)
    館・美咲(四神纏身・d01118)
    高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)
    朝比奈・夏蓮(アサヒニャーレ・d02410)
    忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)
    空井・玉(リンクス・d03686)
    桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)

    ■リプレイ

    ●校舎外
     校門に到着した灼滅者を出迎えたのは、風に混じった血の臭いだった。次いで、悲鳴。
     もう、助からない。だけど、助けられる。
     犠牲者がいる一方で、まだ生存者がいるはずだ。絶望と希望がせめぎ合っている。そして少しでも多くの希望を拾い上げようと、灼滅者は動いた。支援に来ていた者を校門の封鎖に残し、四つに分かれて校内を捜索する。
     空井・玉(リンクス・d03686)と桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)は、校舎の外が担当だ。まずは体育館。確保したのち、生存者の避難場所として使う予定だ。
    「……大丈夫、でしょうか」
    「うん、ゾンビはいないようだね」
     ゾンビはここには現れなかったか、もうすでに移動した後のようだ。支援の灼滅者に連絡しようとしたところで、一点に気付く。体育倉庫だ。中から物音がする。
    「いちにのさんで開けよう」
    「はい……「いち、にの、さん!」」
     二人同時に左右に扉を開く。瞬間、ライドキャリバーのクオリアと霊犬のティンが中に突っ込んだ。ゾンビの一体を切り裂きひき潰し、血肉が弾けて飛ぶ。体積が半分になったゾンビの傍らには女生徒がいて、まさに噛まれる寸前だったようだ。死体とともに倉庫に逃げ込み、そこでゾンビ化が起きたらしい。
    「よくも、よくも友香を……っ!」
     血塗れになった女生徒は自分の状況を理解できていない。目を覚ました友達が、目の前で殺された……と思っているのだろう。現実には、すでに死んでいたけれど。
     授業に使うバットが、夕月の頭を殴りつける。だがバベルの鎖でダメージにはならないが、ダークネスの攻撃よりよほど痛い。
    「助けられなくて、ごめんね」
     錯乱する女生徒を抱き締め、そっと風を吹かせる。抗う力のない一般人はすぐに眠りに落ちる。その寝顔を見る気力はなかった。
    「……うん、アヅマ君、お願い」
     女生徒と体育館を仲間に託し、次へと動く。体育館の側面の扉を開ければ、すぐに校庭に続いていた。
    「生存者は……いそうにないね」
     校庭は死者で溢れていた。野球のユニフォームを着ているから野球部だろう。大人は顧問で、ジャージを着た女子はマネージャー。動いているのはゾンビで、地に伏せているのは死体。
     ホラー映画の中にでも迷い込んだ光景だった。そして認めたくないが、現実だ。
    「行くよクオリア。為すべき事を為す」
     無表情に告げる玉。一体でも逃がせば、ゾンビは瞬く間に数を増やすだろう。ここですべて倒すしかない。機銃の掃射が、大断鋏が、斬魔の刃が、鬼の腕が生ける死者を屠る。
     そして動くものがなくなれば、地に伏すものも、可能性ごと断ち切る。連鎖の鎖を、一本ずつ。

    ●校舎上階
     ガシャン、と大きな音。
     箒に乗った朝比奈・夏蓮(アサヒニャーレ・d02410)と忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)が窓を割って上階に飛び込んだのだ。
    「誰かいない!? 助けに来たよ!」
     声の限りに、より多くの人に伝わるように叫ぶ。もう生きている人はいないかもしれない。それでも、希望を信じて。少しでも多くの人を助けたい。祈りにも似た感情が夏蓮を動かしていた。
    「教室には……誰もいないみたい。次は、向こうね」
     ひとつずつ教室を開けて確かめるが、生徒は残っていないようだ。犠牲者やゾンビに遭遇しないことに少し安堵しつつ、玉緒は向かいの校舎に目を向けた。
     この高校は四階建ての校舎が向かい合って建っており、渡り廊下で繋がっている。概ね教室と、理科室などの専門教室で分かれているようだ。
     渡り廊下を飛ぶように走る。速く、早く。逸る気持ちが足を加速させる。
     そして、わずかに血の臭い。ほとんと反射的に、奥の音楽室に飛び込んだ。
    「玉緒ちゃん!」
    「……ええ」
     音楽室では、奥の扉に数体のゾンビが群がっていた。周りには物言わぬ死体が転がっている。
     玉緒は鍵のペンダントを握り、数瞬だけ目をつむる。自らの殺人衝動にのまれないために。自分が自分であるため。そして次の瞬間には、鋼の意図でゾンビ達の動きを縫いとめた。
    「ごめんなさい、でもこうするしかないの……」
     霊縛手の装甲が開き、中から祭壇が覗いて淡く光る。同時、同じ色の魔方陣がゾンビを包み、押し潰した。
    「もう出てきても大丈夫よ」
     そう告げると、教師がひとりだけ出てきた。若い女だった。
    「生徒は、みんなは!?」
     狂ったように喚く女。誰も答えはしない。隣の教室でそろって横たわっているとは言えなかった。
    「……そんな、わたし、ひとりだけ……ひとりだけ…………」
     意味を察してか、女はその場にくずおれた。おそらく一人だけ音楽室に逃げ込んで、その間に生徒が全滅したのだろう。
     咄嗟の行動だ。そうしなければ彼女も死体になっていたかもしれない。責める者も嘲る者も、ここにはいなかった。
     石のように動かぬ女を支援の手に預け、二人を死体を移動させ、ゾンビ化しない確証を得られない場合はサイキックで攻撃した。
    「正義の味方って、こんなに苦しかったの?」
     これは正しいことだ。そのはずだ。でなければ、こんなことはできない。
    「……まったく、厄介な物ばかり残してくれるものだわ」
     もう一度、鍵をきゅっと握る。己の在処を確かめるように。

    ●生徒会室
     エクスブレインの予知で唯一、生存者が確認されたのは生徒会室だった。それ以外はエクスマトリックスでは予知不可能。まずは確実に救出するため、漣波・煉(平穏よ汝に在れ・d00991)と不動・祐一(幻想英雄譚・d00978)は生徒会室に向かった。
     ゾンビは他の班に任せ、真っ直ぐ、寄り道はせず、邪魔になるものだけ潰して。すぐに目的の場所に着いた。
    「邪魔だ」
     扉にかじりつくゾンビを、煉の鬼の腕が吹き飛ばす。べこんと拳の形に肉がへこんで、元の動かない死体に戻った。
    「悪いな」
     炎を帯びた蹴りがゾンビを捉えた。死体はくの字に折れて壁に叩き付けられる。霊犬の迦楼羅が警戒の唸り声を上げるが、それきり、動きはしなかった。
     ゾンビとの灼滅者の力の差は歴然だ。戦闘とも言えない戦闘はすぐに終わった。
    「警察の者だ。通報を受けてきた」
     扉越しに煉が告げると、中から四人の生徒が出てきた。生徒会のメンバーだろう。生気を失った顔で俯いている。
    「神様の代わりにさ、俺が手を貸すよ。助けに来たぜ、良く頑張ったな」
     ふらつく彼らを支えようとして、けれどその手は弾かれた。次の瞬間には、新井が祐一に掴みかかっていた。
    「何が神様だ! じゃあなんでこいつらが死んでんだよ! なんで助けてくれなかったんだよ!」
     新井が指差したのは、そこらに転がっている死体。さっき蹴散らしたゾンビだったものも含まれている。
    「…………」
    「代わりと言っただろう。ほら、ここから動くなよ。まだ上も下も安全じゃないからな」
     言い返せない祐一に代わり、煉が脅しつけるように新井を払いのけた。警察の関係者だと信じているわけではないようだが、逆らう理由もない。四人は力なく生徒会室に戻り、再びバリケードを築いた。
    「コレがヒーローのすることなんだろうかなぁ」
     一般人の目がなくなったところで、死体がゾンビにならぬよう、証拠隠滅も兼ねて破壊していく。
    「さてね。でも、コレをしないヤツはヒーローじゃねぇだろうよ」
     これは一般人を守るために必要なことだ。それを拒むなら、確かにヒーローではないだろう。偶像だけでは誰も救えないのだから。
    「……流石に今日は財布とか取んなよ?」
    「いやいや、見てただけだっつーの」
     死体の損傷具合を確かめていた煉に、疑いの目を向ける祐一。何が嬉しいのか、煉はニヤリと笑った。
    「イヤホント、ヒーローだぜお前は」
    「言ってろ」
     二人は上下の階段に分かれ、向かってくるゾンビを迎撃する。校舎のゾンビを掃討するまで、ここを動くわけにはいかないだろう。けれど焦りはない。仲間がすぐになんとかしてくれる。そんな確信があった。

    ●校舎下階、そして
     館・美咲(四神纏身・d01118)と高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)の担当は校舎下階だ。散発的に現れるゾンビを倒しながら、教室をくまなく調べていく。やがて奥まで進むと、より濃い血の臭いがした。床にはまだ新しい血のあとが残っていて、部屋の入口まで続いている。
    「職員室、か」
    「じゃのう。……生存者がいればいいんじゃが」
     ゾンビが中にまで侵入しているなら、望みは薄いだろう。飛び込めば、予想通りゾンビが闊歩していた。理性などなく、ただ何をするでもなく歩き回っている。そして生者を見付けるなり、すぐに襲い掛かってきた。
    「……どうしてこうなっちまったんだよ」
     悔しさに唇を噛む琥太郎。あの時、地下ですべてのゾンビを倒せていれば。きっとセイメイもそうさせないよう策を弄していたのだろうが、それでも、と思ってしまう。
    「つまらん、つまらんぞ……」
     ゾンビの攻撃の間隙を縫い、美咲は反撃を見舞った。動くたび、装甲服の龍燐から金色の光が瞬く。
     戦いは好きだ。強敵との戦いは潤いを与えてくれる。だが、こんな戦いは楽しみようがない。
     ゾンビは時間の経過とともに数を減らしていく。すぐに動くものはいなくなった。
    「……こんなもんかのう。生存者はおらんかったか」
    「いや」
     去り際、職員室の奥にドアを見付けた。机やらで外から塞がれており、死ぬ前にゾンビの誰かがやったのだろう。
     ……誰かが助けに来てくれると、信じて。希望を託して。
    「もう安心じゃ。助けに来たぞ」
     悲痛を隠して、ドアを開ける。中は放送室のようで、小さな部屋の奥に、何人かの生徒が固まってうずくまっていた。生徒は美咲を見た途端、ぱっと表情を和らげた。助かった、ととでも言いたげだ。
     丁度、その時だ。他の班からも、校舎を制圧したという連絡が入った。
    「君達、放送部? なら使い方を教えてほしい」
    「はい……」
     放送機材に電源が入る。努めて冷静に、琥太郎は言った。
    『今、ゾンビから逃げて隠れている人へ……オレ達が助けに来た。ゾンビはあらかた倒したはずだけど、迎えに行くまでそこから出ないで欲しい。……すぐに行くから、待っていて』
     それは勝利宣言に近かった。死者に満たされた校舎は、灼滅者の手によって今、生者の世界へ戻ろうとしていた。
     それから、灼滅者は支援の手を借りながらいくつかの処理を行った。
     生存者を集めて眠らせ、情報媒体を処分。
     死者も校舎の一部にまとめた。可能な場合は走馬灯でかりそめの命を与え、不可能な場合は校舎ごと燃やした。人々の記憶はともかく、これで証拠となる記録はないはずだ。
     校門では、介が待っていた。
    「お疲れ様。……いろいろ考えるのは後にしてさ、今はまっすぐ帰ろう。君達の帰りを、みんな待ってるよ」
     それきり、誰も何も言わなかった。

    作者:灰紫黄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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