セイメイ最終作戦~増殖するアクイ

    作者:叶エイジャ

    「おい、行ったか?」
    「シッ」
     放課後の教室。扉にはありったけの机と椅子が積まれ、即席のバリケードとなっていた。
     級友に鋭く注意した男子生徒が窓からのぞき込むと、割れたガラスや荷物が散乱する廊下には橙色に光があるだけで、誰もいなかった。
     代わりにどこかでガラスの割れる音と、悲鳴が聞こえてくる。
    「……なあ、俺たち助かるよな」
    「俺だって死にたくない」
     突然だった。放課後も遅い時間に、忽然と『ヤツラ』が姿を現したのだ。
     襲われた者は噛みつかれ、殺された。
     それだけならまだ良かったかもしれない。
    「先生とかまだいたよな。大人だったらなんとかしてくれるよな!? 警察だって呼んでるはずだし!」
    「知るかよ」
    「こんなふざけたことってありかよ! 映画みたいな死に方なんてしたくねえよ!」
    「うるせえよ!」
     ドン。
     教室の扉が鈍く鳴って、二人がハッとする。声を出し過ぎたのだ。
    「う、うわあああ!」
     ドン!
     ドンドン!
     いつの間にか扉に張り付いたソイツらの顔を見て、男子生徒たちは悲鳴を上げて窓へと駆け寄る。
    「早く開けろ。死んでもいいから外へ出るんだ!」
    「分かってるよ!」
     二人が窓を開ける間にも、扉が怪力に軋みを上げ、バリケードが崩れていく。
     扉に張り付いているのは、虚ろな目をした教師や数名の級友たち。
     そのすべてがゾンビと化していた。

    「遅い時間のせいか、あまり人がいないな」
     灼滅者たちが学校に着いた。学校には教師や残っている生徒を含めて、多くても数十人くらいといったところだろう。
     そのとき、校舎にある窓の一つが開いた。

    「富士の迷宮突入戦は、大成功だったみたいだね!」
     白の王セイメイや海将フォルネウスを灼滅し、セイメイが準備していた数千体のゾンビを壊滅させた。主を失った迷宮も崩壊したようだ。
    「でも、アンデッドに関して新しい事件が起こってるんだ」
     日本各地の高校の校舎に出現した数体のゾンビが、生徒などを噛み殺し、犠牲者を新たなゾンビに変え、学校を征圧しようとしているようだ。
    「噛み殺した人間を同じゾンビとする性質から、『生殖型ゾンビ』って呼ぶね」
     生殖型ゾンビは、エクスブレインの予知を妨害する力があるらしく、事件現場の状況はよく分かっていない。
    「でも事件が起こる場所は確認できたから、みんなには事件現場に向かって欲しいんだっ」
     敵となる生殖型アンデッドは、富士の迷宮の下層にいたものと同じと推測されている。
     脅威なのは戦闘力よりも、噛み殺した人間をゾンビ化する能力だ。
     放置すれば次々と数を増やし、生徒だけでなく周辺住民をもゾンビ化してしまうだろう。
    「セイメイの狙いって、このゾンビだったんだね」
     幸い、数千体いた生殖型ゾンビは、迷宮最下層にてほぼ灼滅できている。生き残りは100体以下だろう。
    「たぶん、その全てが地上に出てきていると思う。今のうちに撃破できれば、このゾンビの脅威を完全に消せると思うよ!」
     注意したいのが、生殖型ゾンビには『バベルの鎖を持たない』という特徴があること。
     このため撃破後は可能な範囲で、ゾンビがいたという物証を持ち帰るか破棄するようにしないといけない。
     バベルの鎖が無ければ、情報が伝達されないという効果も無くなる為、物証を残せば残すほど、ゾンビのような超常現象が表に出てきてしまう。
    「完全な隠ぺいとかは難しいと思うけれど、できる限りでいいから、お願いするね!」
     天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)はそう言ってから、難しい顔で考え込む。
    「少数で済んだから良かったけど、こんな危険なゾンビを数千体も準備していたなんて……迷宮で白の王や生殖型ゾンビを灼滅出来て、ホントに良かった。皆のおかげだよ」


    参加者
    枷々・戦(異世界冒険奇譚・d02124)
    瑠璃垣・恢(フューネラル・d03192)
    撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)
    ミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)
    絡々・解(僕と彼女・d18761)
    月叢・諒二(月魎・d20397)
    白石・作楽(櫻帰葬・d21566)

    ■リプレイ

     灼滅者たちが学校に着いた。
     黄昏色の校舎は静かなものだった。この学校で恐ろしい事件が起きているなどと、いったいどうすれば気付けるというのか。
     静かなのは、死の気配に満ちようとしているからだ。
    「大事になる前で、良かったね」
     教師や残っている生徒を含めて、多くても数十人といったところだろうと瑠璃垣・恢(フューネラル・d03192)は推測する。
     そのとき、校舎にある窓の一つが開いた。遠目にも慌てた様子の男子生徒が二人、先を争うようにして身を乗り出してくる。
    「うん、あれは危ないね!」
     絡々・解(僕と彼女・d18761)が本気とも冗談ともつかぬ声を出し、恢とともに走り出した。ラピスティリア・ジュエルディライト(夜色少年・d15728)とミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)が後に続く。
    「あっしらは体育館に参りやしょう」
    「避難場所は確保しとかないとな」
     撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)に枷々・戦(異世界冒険奇譚・d02124)が応じ、体育館へと向かう。白石・作楽(櫻帰葬・d21566)が道中、視線を木々の間や草むらなどへ走らせて、呟く。
    「一人でも多く、助けられれば良いが」
    「そうだね」
     月叢・諒二(月魎・d20397)も周囲にゾンビがいないか、腐臭などに警戒しながら走っていた。風に揺れるぼさぼさ髪の下、眠たげな金の瞳は不毛の砂漠を思わせる。
    「時間情報人命、大事なものに溢れちゃいるが……やれることをやろう。今まで通りにさ」


     二人の男子生徒は灼滅者が到着するまで耐えられたようだった。ただパニック状態なのか「やばい入ってくる!」といった悲鳴が聞こえる。
    「やあ!」
     解が朗らかな声で呼びかけた。血走った二人の目が灼滅者たちを捉える。
    「た、助けてぇっ」
    「分かった」
     ラピスティリアが両手を上げて応えた。真下に近づく。
    「こっちは四人いるから、大丈夫。飛び降りて!」
    「え、ええ!?」
     さすがに目を丸くする男子。開かれた窓の奥からガラスの砕ける音が響く。恢が言葉を重ねた。
    「大丈夫。落ち着いてやれば受け止められるから」
    「わ、わかった!」
     少しして、意を決した生徒たちが落ちてくる。そのうちの一人がつぶっていた目を開き、ミツキに平然とお姫様だっこされていることに気付いて、呆然としていた。
    「あの、重くなかったですか?」
    「うん……あ、えと、コンパクト、だったから」
     一応、気を遣ったコメントを返したミツキは、恢を見る。動きに乏しい表情がどこか不満そうなのを、恢もまた無表情に察した。
    「機会があればね。お姫様の言う通り」
    「ん」
     ミツキの表情に柔らかいものが乗ったあたりで、ラピスティリアが体育館メンバーとの連絡を終えた。
    「体育館の無事は確認できたようです――君たち、体育館まで行けますか?」
     彼の紫水晶を思わせる瞳とアルカイックスマイルに、生徒たちが首を縦に振り続ける。
    「良かった。僕たちは他の方も避難させます。危険ですから、体育館に入ったら絶対に出ないでくださいね」
     他の生存者情報を聞き出したのち、生徒たちに安全な道を示す。彼らが視界から消えたところで、解が二人からスリ取った携帯を出した。
     転瞬、振るわれたナイフに携帯は斬断されている。
    「じゃ、行こうか!」
    「ええ。頼りにさせて頂きますよ、解君」
     この場周辺はサポートの灼滅者に任せ、解とラピスティリアは南校舎へ、恢とミツキは北校舎へと向かった。


     戦たちが体育館に近づくと、激突音が聞こえてきた。中を見ればバレーのネットが散乱している。何人かが倒れているのが見え、三体のゾンビが倉庫に腕を叩きつけていた。衝撃音に混じって、中から悲鳴が聞こえてくる。諒二が殺人注射器を手にした。
    「行こう」
    「C.o.Sが細やかな仕事も出来るってェ所、しかと学園の記録に刻んでやりやしょうか」
     娑婆蔵も同時にかちこむ。ゾンビの一体が気づいて振り返った時には、二人の注射器が突き立てられていた。
     使用サイキックは殉教者ワクチン。余裕があるなら損壊は可能な限り避ける方針だ。倒れたゾンビを尻目に作楽が縛霊手を展開、古巻物と葛の絡む祭壇が瑠璃色の霊気を放ち、網となってゾンビたちの動きを縫いとめる。
     そこに戦が駆けた。神霊剣による非物質化した斬撃を二閃させた。ゾンビの灼滅を確認し、戦が武器を収めた。娑婆蔵に言う。
    「撫桐、倒れた人を」
     ゾンビ以外の死者は三人だった。うち二人が、娑婆蔵の『走馬灯使い』によって命を吹き込まれる。
    「残る一つは、ゾンビになるわけだね」
     諒二が言う。損壊も少ない死体にESPが効かない理由は、今回はそれ以外ないだろう。ゾンビ化を、神霊剣の攻撃を中心に仕掛けて防ぐ。
    「ゾンビだった死体も無理、か……」
     もう動かない四つの屍に、戦は瞑目する。
     今回、ゾンビにバベルの鎖ははたらかない。証拠隠蔽のため、場合によっては死者の尊厳を損なう可能性をも、灼滅者たちは考慮していた。
    「生存者に見せられない。一度体育館から運ぼう」
    「定時の旦那、連絡中継任せやした」
     娑婆蔵に頼まれ、大橋・定時(高校生ご当地ヒーロー・dn0193)は男子生徒の救出している四人へ連絡を入れる。
     死体が体育館より運び出されてから、作楽と諒二が倉庫にいた生徒たちを救出した。パニックを起こしかけている彼らの質問を諒二は煙に巻き、結果的に傷の有無や生存者の情報を集めていく。
    「それで、ケーサツ来たの? ケーサツ!」
    「……警察を呼んだのか?」
    「うん、きっともうすぐ、来る……あれ、ねむ――」
    「早まったな。さっきのは、ゾンビ映画の撮影だ」
     それから作楽が『魂鎮めの風』を用いて生存者を眠らせ、諒二は吸血捕食で記憶の曖昧化を施す。効果があればと、作楽はゾンビ映画という深層意識への刷り込みも狙ってみる。
     眠っている間に情報媒体を確認し、発信された後ならば削除あるいは嘘としてフォローする。それが終われば念のために破壊しておいた。
    「これは……私の携帯か」
     新たに来た男子二人を眠らせていると、作楽に着信。相手は瀬川・蓮。通話を行う。
    「瀬川さん、問題は起きていないだろうか?」


    「はい、こっちは大丈夫です」
     蓮は「空も飛んでますし」と、箒に乗って上空から校舎を観察していく。
    「さっきの開いた窓の部屋、もう中にはゾンビさんがいなくて、南校舎のどこかにいるみたいです。北校舎の屋上にもゾンビが一体、体育館に近づくのが一体……あ!」
    『どうした、瀬川さん』
    「ルーちゃんが倒しました! あと、植え込みに隠れている人がいたので、体育館に誘導します」
     通話を切った蓮がその時、風に混じるその音を耳にした。郊外に目を馳せれば、遠くから赤く瞬く光がサイレンとともに近づいてくる……。

    「こっちも聞こえたぜ」
     運動場で待機していた巽・真紀は連絡相手にそう返すと、パトカーサイレンが来た方角へと走りだした。彼女の役割は、敷地外から進入する者の発見と、その阻止である。
     全力疾走から正門近くで急停止。慣性でストリートダンサー服をなびかせて、真紀は今にも止まろうとしていた数台のパトカーへとパニックテレパスを送り込んだ。
    「デマ通報に躍らせてんなよ、さっさと持ち場に戻れ!」
     一喝に、パトカーのサイレン音が止まった。点滅する赤がしばらくの間、沈黙の中で真紀を照らす。
     しばらくして、パトカーは動き出すと反転し、ゆっくりと元来た方向へ戻っていった。
    「一丁上がり」
     再び来るにしても、これでしばらくは時が稼げるだろう。
     真紀はシューズの先をアスファルトで整えると、再び運動場へと戻っていった。

    ●南校舎、C班
     サイレンの音は校舎の中でも聞こえていた。南校舎の捜索をしていたラピスティリアは通話相手に礼を言うと、解に淡い笑みを向けた。
    「介入は防げたようですよ」
    「警察がお手上げなら、名探偵の出番だね!」
     解は帽子の下で笑みを深めると、教室の扉を開けた。暮れなずむ部屋の中は床に机や椅子の影を落としているのみで、静かなものだ。
    「あれあれ残念」
    「次に行きましょうか」
     二人は次の教室を目指す。助けた生徒の話では、この近くに二人、隠れた女子がいたとのことだった。
    「……にしても、リアルバイオハザードですねぇ。これが数千も放たれていたらと思うとぞっとします」
     ゾンビの個体が強くないのがせめてもの救いだった。出来る限り救出をして、セイメイの作ったゾンビはここで断つ。
     そう思ったラピスティリアが次の教室に入ると、荒れた室内に事切れた女生徒が倒れていた。解が走馬灯使いを施せば、仮初の命に死体が動き出す。
    「ううん、殺人鬼が死体を生き返してまわるなんておかしな話だよ。ねえ! そうでしょミキちゃん!」
     女生徒に呟いていた解は、そう言って勢いよくラピスティリアを振り返った。
    「あっごめん、ジュエルディライト君だった」
    「間違えてると、ミキ君に嫌われてしまいますよ?」
    「わああ、それは困るよー!」
     一般人の混乱要素を減らすため、ビハインドは今回、極力出現させないようにしている。
     ところで解にとってミキは『人』。今日はミキちゃんがたまたま『ツン』な状態らしい。
     悩む解に笑みをこぼしつつ、ラピスティリアは室内をもう一度確認する。
    「もう一人、いたはずですが……」
     上手く逃げてくれたのだろうか?
     その疑問は入り口からの音で解決した。振り返った二人の視界に、女生徒のゾンビがふらりと姿を現したのだ。
     その後ろから教師や他の生徒のゾンビがいるのを見て、ラピスティリアはため息をついた。その身体を瑠璃色のサイキックが纏い、さらにそれは瞳の色に染め上げられていく。
    「あまり血なまぐさい作業は行いたくないのですが」
    「それなら僕に任せて」
     解が楽しそうに、ナイフにも似た十字剣をかかげる。
    「パズルと人体は似ているんだ。きちんと刺せば綺麗に解けるよ」
     自称名探偵の宣言が合図か、ゾンビたちが二人になだれうってきた。

    ●北校舎、A班
    「体育館に避難して。安全なルートは――」
     恢は踏破してきた道のりを生存者に伝え、避難場所へと誘導する。
     その間、ミツキと霊犬の「ういろ」は不意の襲撃がないか周囲をチェックしていた。
    「きみに守られるのも随分懐かしいね」
     避難する生存者が、体育館へと向かっていく。その姿が見えなくなってから、恢はミツキに言った。娑婆蔵にも久し振りだって言われたけど、と前置いてから続ける。
    「今回も頼りにさせてもらおう。ついでに、久しぶりに俺の腕も見てもらおうかな」
     錆びついていないといいけれど。
     そう言われて、ミツキは親しい者なら見分けられる、少し困った顔つきをした。
    「私、ちょっとは強くなれたの、かな」
     甘えてばっかりじゃダメだって思って外に出たけれど、ミツキの中ではその疑問が晴れることはない。
    「こうやって並ぶの久々、だから、一緒に、頑張らせて、ね」
     恢は微かに笑ってうなずくと、校舎の探索を再開した。その後ろを、ミツキが絶対的な信頼をもってひょこひょことついていく。
     兄貴分と妹分。何年も前と同じ光景。
     ――のようでいて、やはり数年の月日は差異を作るのだと恢は思う。
     客観的に見れば二人とも灼滅者として力は上がったし、身長だって伸びた。体重は企業秘密。敵だって、バベルの鎖がないゾンビなんて想像もしなかった。
     もっと、それ以外にも、きっとたくさん――。
     だが譲れないもの、変わらないものある。
    「いつも、よりずっと、強く、死、を感じる気が、する」
     ミツキがそう言った時、恢は止まった。
     一階の隅から一筆書きで探索してきた校舎の最後のフロア、屋上に続く階段が二人の前にある。
     この先にはゾンビがいると連絡を受けていた。
    「死体を処理する時は、向こうを向いていて」
     手を汚すのは自分だけでいいだろうと思い、恢は告げた。だがミツキは首を振る。
    「カイ、にばっかりヤなコトさせたくない、の。私だって、灼滅者だから、できる、もの」
     どうしても、ダメというのなら。
    「見てるコト、は、許して?」
     灰の瞳と青い瞳が互いを映した。しばらく校舎が静けさに包まれた。
    「――見て気持ちのいいものじゃないから、きみには見せたくないけれど」
     変わるもの、変わらないもの。
    「それできみの気が済むのなら、見ていて」
     変わって嬉しい事と、そうではないこと。
     闇に狂いそうな心を支えてくれる多くのものも、時とともに常に変わっていく。
     屋上への扉が開く、出迎えた風と光はほんの少し春めいていて、恢は湧いた感慨が嬉しいものか寂しいものか、判断に迷った。


     体育館の安全確保をした後、娑婆蔵と戦は避難してくる一般人たちを誘導し、作楽と諒二は彼らの記憶を曖昧にしたり、情報媒体の破壊に努める。
     体育館で眠りについた人数が二十を超えたころ、校舎のゾンビは一通り灼滅したとの一報が入った。
    「あとは、隠れたゾンビがいるかだな」
     作楽が気を失った生徒を横たえる。諒二は吸血を終えて、牙を一般人の肌から抜いた。
    「たぶん、大丈夫だろう」
     ゾンビの発生、および犠牲者のいた場所は主に校舎などの施設内。運動場などの外はサポートの蓮や真紀が探しているし、校舎内についても警察の介入が未然に防げたので、十分な時間をもって細かく調べられている。
     ゾンビ化する死体についても、神霊剣や走馬灯使いによって十分を待つまでもなく判別したため、時間が大きく確保された。
     隠蔽についても情報端末の破壊、生存者へのはたらき掛けは出来うる限り行えているだろう。
     あとは、死体の処理。これは戦が火葬することになっている。
     出来うる限り迅速で、実際探索班の報告は良いものが多い。ゾンビがバベルの鎖を持たないため犠牲者は出たが、その中でも手応えを感じられる動きができたように思う。
     だが諒二にも、少し不満なところがある。
    「こんなに吸血捕食を使うことってあまりない気がするけど、使ったら使ったで少し面倒かもしれない」
    「諒二クン、お疲れ様」
     作楽が苦笑した。今回の作業の大半は、あまり好んでやりたいものではない。
    「あってもなくても、困ったものだな、『バベルの鎖』というものは」
     そう言って、蓮に終わったことを連絡した。
     その後ろで、ビハインドの琥界が黙々と情報媒体の発信記録を見、時に顔文字等で誤魔化しを行っては、握力でバキバキと破壊していた。

    「裏方仕事、お疲れ様でござんした」
     娑婆蔵は駆けてきた真紀とハイタッチをかわす。
    「でも、もうそろそろしたらまた来るかもしれないぜ」
    「それは、あまり時間は無いようで」
     言ってから、娑婆蔵は真顔になって視線を戻した。
     そこには灼滅者たちが集めた、今回の事件の犠牲者たちのカラダがあった。
    「じゃあ、始めるぜ」
     亡骸たちを前に、戦は橙色の瞳を閉じ――次に開けた時は決意に満ちた表情で、炎を生み出す。
     サイキックで急成長したそれはすぐさま燃え広がり、圧倒的な熱量をもって犠牲者たちを消失させていく。
    「ごめんな。助けたかった……無理だって分かっていても」
     血のように赤い色をなびかせる炎に、戦が呟く。娑婆蔵が無言で、軽く彼の肩をたたく。うなずきで返して、戦はやがて消えていく赤を最後まで見つめた。
    「……早く行こう。へこたれてる場合じゃないや」
     それでも、助けられた人たちは、たくさんいたのだから。
     セイメイを灼滅した以上、このようなアクイが生み出されることももう、ないだろう。
     消えてしまった者たちを静かに見送ると、灼滅者たちの足は学校の外へと向けられた。

    作者:叶エイジャ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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