WILD_HEART 誰がために腕は鳴る

    作者:空白革命

     高坂・絶斗(こうざか・ぜっと)。
     それが俺の名前だ。
     聞いた奴は笑うが、俺は名を恥じたことはない。
     常に頂点を目指し続ける俺の魂が、この名に相応しいからだ。
     だから俺を笑うヤツがあれば、魂を見せつけて納得させた。
     無論、『言って聞かせる』などという回りくどいことをしたことはない。
     殴って、叩いて、ぶちのめし、俺そのものを認めさせた。
     拳を交わすことこそが、俺にとっての全てだった。
     友や、仲間や、舎弟も生まれた。
     いつしか俺を中心にしたチームができ、彼らはいつも楽しくやっていた。
     俺はそれを、少なからず楽しんでいたのだ。
     だがそれも……恐らく今日までだ。

    『高坂さん、チームの連中が……みんなやられて……』
     携帯電話の向こうで、息も絶え絶えな仲間の声がする。
    『すみません……』
    「いい、気にすんな」
    『俺たちはハメられたんです。チームを潰すために、高坂さん以外を誘き出して……奴等、妹さんを人質に』
     手の中で携帯が砕け散った。
     妹を救い出すため。
     外道のチームを壊滅するため。
     俺は、闇にこの身をくれてやった。

     一般人が闇落ちしかけるという事件が発生している。
     そう聞いて集まった灼滅者たちはまず首を傾げた。
    「一般人のチームから、妹を……救出?」

     ダークネス『アンブレイカブル』は、常識を超えた戦いの果てに生まれる闇の闘士である。
     ターゲットとなる青年は近い未来、不良グループを単独で壊滅させ、完全なるアンブレイカブルに昇華すると言われている。
     つまり、彼はまだ元人格を残したダークネスのなりかけなのだ。
     彼を完全体へと昇華させず、なりかけのまま倒す。
     これが、今回のもっとも重要なポイントだった。
     
     完全体を阻止するための手段は大きく分けて二つある。
     ひとつは不良チームの所へ行こうとする青年を阻み、力技で倒してKOさせること。
     KOしてしまえば灼滅、もしくは灼滅者化のどちらかになるだろう。
     だがもう一つの手段は……。
    「不良チームへと先回りして、彼の妹を助け出すことだ」
     彼が不良チームを単独壊滅させる理由。そのネックを予め潰すことで、完全なる闇落ちを防ぐという方法だ。
    「勿論、この後彼としっかりと戦い、KOさせる必要はあるだろう。その点は特に変わらないが……何、変わるのはキモチさ」
     エクスブレインは腕組みをしてそうこう言った。
    「やり方は任せる。自分にとって正しいと思ったことをしてくれ。後は、頼んだぞ」


    参加者
    鏡・剣(高校生ストリートファイター・d00006)
    白瀬・修(白き祈り・d01157)
    城代・悠(月華氷影・d01379)
    秋森・心彩(神鎮之舞手・d01674)
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)
    荻原・茉莉(モーリー・d03778)
    禪杜・フュルヒテゴット(ハウンドアッシュ・d08961)

    ■リプレイ

    ●灼滅者と人間
     毎日のように喧嘩に明け暮れ、地元では怖いものなどなかった。
     出る杭を圧し折り続け、天下を取り続ける。
     青年は、そういう人生が続くと信じていた。
     ある日から急激に勢力を増したチームを見つけ、早いうちに取り除こうと襲撃をかけるが失敗。
     トップだけでもリンチにすれば収まると思いきや、トップは化物のような強さだった。
     失敗が続き、進退窮まった青年は、ここへきてあることに気づく。
     無敵な人間などいない。
     弱点はある筈だ。
     下校途中の少女を拉致し、チームの部下達から順に誘き出してリンチにしていく。
     順調だ。
     今度こそ、天下がとれるはずだ。
     そう、思っていた。
    「人質なんて、せこいマネしてんじゃねえよ」
     いつのまにか、どこからともなく、唐突に。
     彼らが現れるまでは。

    「い、いつからそこに」
     鏡・剣(高校生ストリートファイター・d00006)に首根っこを掴まれ、そのまま廃材置き場へと放り投げられる。
     仲間が十数メートルを軽く飛んで行った光景に、男達は唖然とした。
    「お、おい誰か呼べ! 斉藤さんなら……え?」
     振り向いて見れば、別の仲間が秋森・心彩(神鎮之舞手・d01674)にマウントを取られひたすら顔面を叩き潰されている。
    「な、なんだこいつら。一体……」
    「いいから寝てな!」
     城代・悠(月華氷影・d01379)が天井近くの鉄骨から飛び降り、男を無理やり地面に蹴倒す。
    「なに、アタシはできることをするだけさ。紅葉、そっちの逃がすなよ」
    「…………」
     あわをくって逃げ出そうとした男には、姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)が顔面を鷲掴みにして吊上げ、尋常ならざるパワーで壁に叩きつけた。
    「最初から負け犬気取りとは呆れるな」
    「な、なんなんだよお前ら!」
     男がナイフを取り出して振り回す。
    「通りすがりのセイギノミカタです」
     が、そんなものは荻原・茉莉(モーリー・d03778)にとって猫じゃらしと変わらない。エッジを人差指と親指でつまむと、万力の如き力で固定した。
    「……え?」
    「戦う相手以外を巻き込むなんてサイテーだ。ちょっと痛い目みるといいよ!」
     素人のようなフォームで蹴飛ばされ、天井に向かって飛んでいく男。
    「うちもよう喧嘩するけど……人質はあかんよ。ずっこい。そういうの、嫌やわぁ」
     首を掴んで頭上に掲げる禪杜・フュルヒテゴット(ハウンドアッシュ・d08961)。
     相手は泡を吹いて気絶している。
     まるでホッキョクグマの群に襲撃されたが如き荒れようだが、驚くべきことに一人として使者は出ていない。
     だが男達にとっては殺されるも同じだ。
     リーダーの男は口にガムテープをした少女を掴み上げ、ナイフを頬へと突きつけた。
    「う、動くな! このガキぶっ殺すぞ!」
    「…………」
     手を放すフュルヒデゴット。
     代わりに、白瀬・修(白き祈り・d01157)と紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)が目に見えない光を放ちながらゆっくりと近づいてきた。
    「な、な……ほ、本当に殺すぞ! いいのか!」
    「黙れ」
     謡が一言述べただけで、男はぴたりと口をつぐんだ。
     膝から崩れ落ち、ナイフが手から転がり落ちる。
     それを拾い上げ、謡はブレード部分をふなりと折り曲げた。
    「ボクらの隣人が世話になったね」
    「僕は暴力は好きじゃないけど、でも君達をこのまま許してはおけない。悪いけど……」
     修のひかりにあてられて、男は地面に両手をついた。

    ●高坂絶斗
     ガレージの扉が内側に拉げ、まるで紙切れのように吹き飛んだ。
     だがそれは前兆に過ぎない。
     まるで嵐そのものであるかのように、一人のアンブレイカブルが屋内へと飛び込んできたのだ。
     彼、高坂絶斗は大型ガレージの中を一瞬で識別。
     天井からつるされたチンピラの群。
     壁に頭を突っ込んだまま昏倒したチームリーダー。
     何らかの処置を受けぐったりと眠った妹。
     その三点をもって、彼は現状を認識……せずに、周囲にいる八人の灼滅者をまず敵と認定した。
    「シズカッ……てンめえらあああああ!!」
     拳が地面に激突。コンクリート床が一瞬で砂塵と化して吹き飛んだ。
     剣がバク転で回避。
    「おっと、いきなりだな!」
     両拳を握って連打。
     絶斗は腕をクロスして全てガードすると、最後の一発を掴み取り、逆ジャイアントスイングの後に壁へとぶん投げた。
     それを途中でキャッチしつつ、フュルヒデゴットが絶斗へ急接近。
    「なあ落ち着き、妹ちゃん無事やから」
    「うるせえ喋んな」
     彼の手首を掴んで一本背負いをかけるが、絶斗は身体を捻って足から着地。逆に彼の足を払い、引き倒すように地面に叩きつけてくる。
    「外道は潰した。そこの少女は眠ってるだけで無事……聞いてる?」
    「聞えねえ!」
     強烈なパンチ叩き込まれ、紅葉は宙を十回ほど回転した。
     壁に両足をつけ、素早く封縛糸を展開。
    「悪いけど、ちょっと大人しくしてて!」
     紅葉とタイミングを合わせて封縛糸を放つ修。
     二人の糸が絶斗の手首に巻きつき、両方から引っ張る。
     強制的に腕を広げさせられた所へ、茉莉が弓を引いた。
     心臓部に撃てる限りの彗星撃ちを叩き込む。
     更に霊犬のタロが六文銭射撃を連射。
    「安心したら眠っちゃったみたい。良かったら無事を確認してあげて」
    「俺は言葉を信じねえ。嘘をつけるからだ。でもってこの攻撃は……多分嘘をついてるヤツの矢だ」
    「……っ」
    「舐めるな」
     絶斗は腕の筋肉を漲らせると絡んだ糸を引き千切り、茉莉へと飛び掛る。
     蹴った地面が激しくえぐれた。
    「殴って語れか。ま、シンプルでいいね!」
     空中で横合いから割り込む悠。
     いや、割り込むというよりは押し込むと言ったほうが正しいだろうか。
     悠は絶斗の側頭部を殴りつけて軌道をむりやり反らした。
     バチンと爆ぜる電撃。
     歯を食いしばって視線をスライドさせる絶斗。
     謡は頭をくしゃりとかきまぜ、やや低姿勢で着地前の絶斗へ突撃。
     体重と速度を乗せたパンチを叩き込んだ。
     腕をクロスさせて吹き飛ぶ絶斗。
     廃材の山に突っ込み、まるで爆発でもおこしたかのように鉄板や木材を弾けさせた。
     そこへ心彩が狙いすましたようにディーヴァズメロディを発動。絶斗を微睡に誘う……が、しかし。
    「うぜえ……」
     絶斗は何事もなかったかのように廃材から這い出てきた。
     眉を上げる心彩。
    「妹さんなら、疲れが出たのかお休みされています」
    「お前らが強制的に眠らせたんじゃねえって証拠は」
    「…………それは」
    「いや、狡い聞き方して悪かったな」
     顔の前で両手の拳を握り込む。
    「お前らはこのチームにムカついてカチ込んだ。妹はとりあえず邪魔になるから眠らせた。でもってお前らは……俺とやり合いたい。違うか?」
    「…………」
    「殴りあってりゃ大抵のことは分かる。拳は嘘をつけねえからだ。だから、俺が何したいのかも、わかるよな?」

    ●灼滅者とダークネス
     修は、日本刀の上段打ちが素手で、それも片手で取られるのを初めて見た。
    「な――」
    「武器を持ってちゃ卑怯だ。対岸から石を投げるのは卑怯だ。大勢で囲むのは卑怯だ。弱い者イジメは卑怯だ……なんていう連中は、クソみたいなヤツだと俺は思ってる」
     掌からは血が噴くが、絶斗は気合で止血した。
    「雨が降るのが卑怯か? 風が吹くのは? 太陽が暑いのは? 全部自然現象だ。そいつを跳ね除けられねえくらいでガタガタ言ってる奴は、ただ生きていくのが嫌なだけだ。俺なら雨も風も、太陽だって跳ね除けてやる。それが戦うって、生きることだろうがよ!」
     修は顔の前に振り込まれた拳をギリギリで回避。
     後ろに大きく飛び退いた。
    「高坂さん……あなたを闇から助けて見せる!」
    「ああ? 知るか、いいからかかって来い!」
    「ほんならお言葉に甘えて」
     拳に陰を纏わせ、フュルヒデゴットが殴りかかった。
     正面から拳を叩き付け相殺する絶斗。
     拳から血が流れ出る。
    「キミの血ぃも炎出ぇへんね」
    「なめるな、よく見ろ」
     絶斗は彼の顔面へ連続してパンチを叩き込む。
    「マグマの如く燃えてるだろうが。炎ごときで満足してんじゃねえ」
    「――」
     口から流れ出た血がぶわりと炎になってあがる。
     目を開き、炎を纏わせたパンチを叩き込む。
     顔面にくらって仰け反る絶斗。
     しかしギリギリ腰で堪えると、フュルヒデゴットの顔面に鋼鉄のパンチを叩き込んだ。
     きりもみ回転しながら吹き飛び、ガレージの壁を突き破ってバウンドしながら転がるフュルヒデゴット。
    「無茶苦茶な……」
    「でも、そのくらいの方がいいよね」
    「その魂、存分に見せてよ」
     謡と紅葉が同時にブラックフォームを発動。
     全く同時に絶斗へと突撃した。
     口元に浮かぶ笑み。
     左右からシンメトリーに繰り出されるパンチをバックステップで回避。
     続けて繰り出されたハイキックと足払いをそれぞれ腕と脛でガード。
     両腕を引き絞った謡と紅葉がありったけの拳を絶斗へと叩き込む。
     暫く身を固めてガードした絶斗は、二人の首を掴んで高々と吊上げた。
     引き剥がそうとして手首を握るが、まるでクレーン車にでも固定されているかのように動かなかった。
     絶斗は二人の頭をシンバルの様にぶつけると、左右へ放り投げる。
     そうしてできた隙を見計らって心彩が跳躍。
    「本気で参ります。お覚悟を!」
     鬼神変で異形巨大化した腕で絶斗をぶん殴った。
     一度地面に叩きつけられ、バウンドして浮き上がる絶斗。
     そして、丁度茉莉が腕を高々と跳躍したのが見えた。
    「いくよ!」
     空中で身体を丸めて前転。
     脚を突出し、絶斗へとぶつける。
    「越後、白米キック!」
     物理法則を無視して突っ切った茉莉のキックが絶斗をぶち抜き、長い一本線を地面に刻んで止まった。
    「まだだ……まだやりたい」
     よろよろと起き上がり、顔についた血を拭う絶斗。
     剣と悠が彼の前に立ち、拳を握り込んだ。
    「ぐだぐだ言ってもしょうがねえんだ。こいつで語ろうぜ」
    「以下同文……さ、やろうか」
     剣の鋼鉄拳を手の平で受ける絶斗。その脇腹に繰り出された悠の鋼鉄拳を裏拳で弾きレールを添うように顎へパンチを繰り出す。悠はそれを仰け反って避け、体勢のぶれた所を狙って剣がもう一方の拳を頬へと叩き込む。僅かに屈んで回避する絶斗。そして三人の目がギラリと光った。
     ――悠のパンチを拳で相殺した絶斗の膝蹴りをマトモにくらいつつ気合で顔面に拳を叩き込んだ剣のパンチに鼻血を出した絶斗が悠に頭突きを叩き込み顔面破壊を測るが悠は正面からヘッドバットで応戦し激突した二人の頭が離れすかさず連撃を叩き込んだ剣のパンチが絶斗を大きくのけぞらせ最後に抉り込むように放たれた悠のパンチが絶斗の顎に炸裂した。
     絶斗は宙を舞い、壁に激突して落下。
     地面をごろごろと転がって停止した。
    「わかった」
     目をぼうっと開く絶斗。
    「お前ら、イイ奴だな」
     そして彼は目を閉じる。

    ●誰がために腕は鳴る
     ある日、不良のたまり場となっていたガレージが崩壊。
     時を同じくして不良たちが更正し、根本的な人格はともかく悪行をやめた。
     それは誰のお陰かなど、一般人に知る由もない。
     あの日にガレージで起こった大乱闘のことも。
     この町を去った一人の男の事も。

    「お前らと一緒に行けば、もっとやれるんだよな」
     絶斗の視線を受け、謡は唇の端を僅かに上げた。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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