うさぎになりたい!

    作者:邦見健吾

    『うさぎこそ至高。うさぎこそ頂点』
     それが某県のうさぎカフェで働くウサコの座右の銘だ(ちなみにウサコは宇佐子と書くが、あまり見た目がかわいくないので名札には片仮名で書いている)。
    「はぁ……」
     日々かわいいうさぎに囲まれ、うさぎが好きなお客さんをもてなす。ウサコにとって天職と言ってもいいだろう。しかしそれでも、ウサコは満足していなかった。
    (「うさぎになりたい……!」)
     そう強く願うウサコが制服に着替えようとロッカーを開けると、そこには赤いバニースーツがあった。

    「ついこの間、うさぎカフェが入っているビルの前を通り過ぎたのだけど……」
     そう言いにくそうに話を切り出したのは、エリザベート・ベルンシュタイン(勇気の魔女ヘクセヘルド・d30945)。エリザベートが遠目に見たところによると、店員までバニーガールになって接客していたらしい。
    「そう、それはフライングバニースーツのせいだぴょん!」
     そしてその怪奇を紐解くのは、同じくバニースーツに身を包んだ野々宮・迷宵(高校生エクスブレイン・dn0203)。なお、迷宵が来ているのはフライングじゃない普通のバニースーツなので安心してほしい。
    「フライングバニースーツに操られたウサコさんは同僚だけじゃなく、なんとうさぎカフェが入っていたビルの人全員にバニースーツを着せてしまったぴょん!」
     結果、そのビルはバニーガールの城となった。しかも来店客にもバニースーツを着せて帰らせる始末で、とにかくこのままではバニーガールが大量発生してしまうだろう。
     え、男が行ったらどうなるかって? ……ご想像にお任せします。
    「みんなにはうさぎカフェの裏口から入って、バックヤードにいるウサコさんを倒してほしいぴょん」
     うさぎカフェが入っているのは小さなビルの4階。そこまでたどり着くには、ウサコの配下となったバニーガール達の目をかいくぐる必要がある。ただしバニーガールは強化一般人となっているので、闇纏いや旅人の外套ですり抜けることはできない。
    「そこでこれの出番ぴょん!」
     案の定と言うべきか、ここで迷宵が取り出したのはバニースーツ。バニースーツを着ていれば、配下に止められることなくウサコのところまで行くことができるだろう。
     え、男はどうすればいいのかだって? えーと、まぁ、工夫次第だよ。とりあえず、うさぎであるか否か大事みたいなので、うまくすれば何とかなる。きっと。
    「一応、正面から乗り込んで片っ端から配下を倒して進むことも可能だぴょん。けど、多分大変だと思うぴょん」
     ウサコ配下のバニーガールは、戦闘力は低いが数が多い。直接倒さずともウサコさえ撃破すれば元に戻るので、無用な戦闘は避けたいところだ。
    「せっかくのうさぎカフェなのに、このままじゃバニーガールカフェになっちゃうぴょん! 早くフライングバニースーツを破壊して、元の平和なうさぎカフェに戻してあげてほしいぴょん!」
     そして灼滅者達は(実際に着るかどうかはともかく)バニースーツを受け取り、現場へと向かった。


    参加者
    蓮華・優希(かなでるもの・d01003)
    鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)
    夏木・兎衣(うさぎのおもちゃ・d02853)
    高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)
    フェイ・ユン(侠華・d29900)
    旭日・色才(虚飾・d29929)
    切羽・村正(唯一つ残った刀・d29963)
    エリザベート・ベルンシュタイン(勇気の魔女ヘクセヘルド・d30945)

    ■リプレイ

    ●バニーバニー
     灼滅者一同はバニースーツを纏い、バニーガールだらけのビルを上っていく。
    (「バニーガール、ね。そこまで大きな胸は無いから、ボクが着ても似合うものなのかよく分からないけれど……」)
     蓮華・優希(かなでるもの・d01003)は紺のバニースーツを着用。バニースーツといえばグラマーな女性が着る物かもしれないが、スレンダーな人が着てもそれはそれで煽情的なものである。涼しい顔をしているものの、やっぱりちょっと恥ずかしい。
    (「バニースーツは南瓜行列以来ですが、私では色気がちょっと足りませんね……」)
     中学2年生(14歳)の高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)も、もちろんバニースーツを着ている。体付きは思春期の少女のそれだが、逆にそのせいでナイスバディのお姉さんよりもいかがわしいかもしれない。
    (「バニーガールカフェなんていかがわしいものより、うさぎカフェの方が好ましいですし、早く元に戻ってもらいましょう!」)
     うさぎ大好きな妃那としては、うさぎカフェがバニーガールカフェになってしまうのは見過ごせない。うさぎのぬいぐるみを抱きながら、急ぎ上階へと向かう。
    「どこのうさぎさんだぴょん?」
     途中他のフロアの従業員に呼び止められ、
    「私達ははつじょーきの兎さんだぴょん♪」
     などと供述したのは、黒バニースーツに身を包んだ鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)。ちなみに小学4年生で10歳である。ませた子ですね、ハイ。あ、従業員はなぜか今のでスルーできました。
    「外でみるとまた違った魅力! よし、これから二人で夜の……じゃない、昼の街に繰り出そう!」
    「あとで……ね」
     珠音は白バニーの夏木・兎衣(うさぎのおもちゃ・d02853)に抱き着いてオヤジみたいなセリフをのたまい、スキンシップに夢中のよう。兎衣は一応止めるものの、満更でもないようだった。なお、兎衣も小学4年生の10歳。うん、いかがわしいね!
    「バニースーツって可愛いけど、ちょっとスースーして恥ずかしいなぁ……」
     さらにフェイ・ユン(侠華・d29900)(中学3年生・15歳)もバニースーツ。肩は出しっ放しで、網タイツがあるとはいえ引き締まった足も大きく晒されている。体のラインも浮き出てしまって、後ろの方はお尻に少し食い込みそう。
    「え、えっと、エクスブレインの指示だから、こうするしかない、のよね……?」
    「エリザちゃんも良く似合ってるよ!」
     そしてこのバニーガールカフェ……じゃなかった、うさぎカフェを見つけたエリザベート・ベルンシュタイン(勇気の魔女ヘクセヘルド・d30945)も恥ずかしがりながらバニーガールに。ちなみに小学6年生・12歳。長い耳が似合っていて可愛らしいが、やっぱりいけない感じがした。
    (「もうどうにでもなれよ……」)
     一方、切羽・村正(唯一つ残った刀・d29963)はうさぎの着ぐるみを着用していた。さすがに男にバニースーツは無理があったか。
    (「ふっ……双尖なる聴覚を持ちし、寂寥を忌みし獣か。それを模すとなると俺の身も無事では済まないだろう。だが、勝利のために……!」)
    「俺は、ウサギだ……!」
     旭日・色才(虚飾・d29929)は無駄にスマートでやたらスタイリッシュでおまけに尖ったシルバーアクセサリーをジャラジャラ付けたうさぎの着ぐるみを着て、憂いを帯びたかっこいいポーズを決めた。状況を一言で説明すると、キモい。
    「色才くん! ポーズはいいけどしっかりね! ていうか2人もバニースーツ着ようよー」
    「何よその着ぐるみ、ずるいわ! ええい、道連れよ! 村正、色才、アンタたちも着なさーいっ」
    「あっ、ちょ、やめっ」
    「俺の封印を解こうというのか……!?」
     しかしそれがユンとエリザベートの不興を買い、バニースーツを着せられそうに。村正と色才は着ぐるみを死守し、何とかバニースーツの刑を免れた。
    「何のご用事ですかぴょん?」
     なんやかんやで4階に到着し、裏口に入ろうとしたところをバニーガールのスタッフに止められた。どうでもいいことに、バニースーツが似合うグラマー美人だった。
    (「ご、語尾のぴょんも、付けた方がいいのかしら……?」)
    「え、ええと……ウサコさんの知り合いです……ぴょん!」
     緊張にしたエリザベートは、最後の「ぴょん!」だけ大きな声で言ってしまう。中に入ることには成功したが、何かに負けた気がした。

    ●バニーバニーバニー
     うさぎカフェのバックヤードに入ると、バニーガール姿のウサコ及び定員数名が休憩中だった。珠音はサウンドシャッターを発動し、騒ぎが聞き付けられないよう音を遮断する。
    「封印されし絢爛なる魔獣よ、我が力として顕現せよ!」
    「何奴ぴょん!?」
     そして色才が殲術道具を解放し、同時にウイングキャット・クロサンドラの鈴を召喚。祭壇を展開して結界を構築、クロサンドラの鈴は尾のリングを光らせて灼滅者に破魔の力を与える。
    「バニーガールよりも、普通にウサギさんを可愛がるのが正しいです! ですから、元のうさぎカフェにサクッと戻ってもらいましょう!」
     妃那の影がうさぎの群れになり、床を飛び跳ねて敵に近づく。手足に跳び付き、バニーガールの動きを封じた。
    「……」
     早く終わらせようと、黙って攻撃に集中する優希。エアシューズを駆って敵の中に飛び込み、旋風とともに回し蹴りを繰り出すと、バニーガールが5人くらい一気に吹き飛んだ。
    「これでも食らいなさ……食らえ……食らうぴょん!」
     エリザベートはいつも魔法少女風のコスチュームで戦うのだが、今回は万が一のことも考えて殲術道具までバニースーツにしてきた。そのため普段の調子で戦えず、恥ずかしさも相まって混乱している模様。錯乱しながらウロボロスブレイドをブンブン振り回し、バニーガールを巻き込む。
    「迎撃するぴょん!」
    「ぴょん!」
     襲撃されたウサコ達も負けじと反撃。身軽に跳び、ウサコの号令に従って一斉に肉弾戦を仕掛けてきた。
    「一般人に取り憑いてるとやりにくいな……」
     村正はバニーガールのパンチやキックを受け止めると、刀を抜き放って虚空を一閃。起こした風が渦を巻き、刃となって敵を斬る。
    (「正直、バニーでカフェって言い張るのは厳しいと思うなー。でもバニーガール……兎はいいよね。可愛いし、エロいし」)
     とかなんとか考えつつ、兎衣にいいところを見せようと張り切る珠音。鋏で十字を切るとバニーガールの傍に赤いオーラの逆十字が出現し、精神ごと引き裂く。
    (「バニーガール……カフェ? 夜のお店だと思う。バーとか。きせられた人、スーツどうするのかな」)
     小学生の兎衣が見ても、やはりバニースーツはカフェの店員の服装とは思えない。被害にあったの人がどうなったのか少し疑問に思うところだが、今は戦闘が優先。影を伸ばしてバニーガールの四肢を拘束した。
    「いくよ!」
    「ぴょん!?」
     ユンが手の中に炎を生み出し、振りかざした腕から火の波が迸る。ビハインドの无名も同時に斬撃を見舞い、息の合った挟撃でバニーガールが短い悲鳴を上げて倒れた。

    ●バニーバニーバニーバニー
    「これで……あと1人か」
    「やられた、ぴょん……」
     優希がエアシューズで加速し、低く跳躍して流れゆく星のごとく蹴りを放った。また1人バニーガールが力尽き、これで残るはウサコ1人に。バニースーツで潜入したおかげで多くの敵を避けることができ、数が少なければ配下のバニーガールは大した敵ではなかった。
    「うさぎさんは負けないぴょん!」
     しかし念願のうさぎになれたからか、ウサコの目から闘志は消えていない。頭に付けた兎の耳が触手のように伸び、猫に対抗心を燃やしているのかクロサンドラの鈴に巻き付いた。
    「我が眷属を縛るとは獣の真似も侮れん。しかしその程度で俺を捉えることなどできぬぞ。征くぞ、村正!」
    「おう、任せろ!」
     色才がエアシューズで駆け、村正が鬼の腕を振りかぶって続く。烈火を帯びたローラーで蹴り上げると、間髪入れず岩のごとき巨拳を力任せに叩き付けた。
    「うさぎ好きとして、今のあなたを矯正させていただきます」
     薄く笑う妃那の表情には、どこか嗜虐的な色が見え隠れする。指輪に念じて魔力の弾丸を放ち、魔弾の呪縛がウサコの行動を制限した。
    「一撃必殺ぴょん!」
     ジャンプしたウサコが空中で反転し、村正にヒップアタック。形のいいお尻が村正の胸にのしかかるが、当然一撃必殺の威力はなかった。
    「は、早く倒れるぴょん!」
     顔を赤く染めながら、落ち着かなさそうにもじもじするエリザベート。なぜか語尾にぴょんが付いたままだが、真面目だから付けなければいけないと勘違いしているのかもしれない。伸ばした影は音もなくウサコに忍び寄り、肉食獣のように大きく口を広げて呑み込んだ。
    「痛くするけどゴメンね!」
     ユンが大きく踏み込み、自身を包むオーラを両の拳に収束させる。距離を縮めると目にも留まらぬ速さで連撃を繰り出し、無数の光がウサコを打った。
    「かわいいうさぎさん。だきしめたい」
    「かわいいうさぎさん。たべちゃいたい」
     珠音と兎衣は交互に歌詞を歌いながら、2人でウサコに歩み寄っていく。
    「こ、来ないでぴょん!?」
    「あいしてあげたい」
    「もらっちゃいたい」
    「「ねえ、ちょうだい?」」
     逃げるウサコを追って肉薄し、そのまま2人で飛びついて押し倒す。そっと頬を撫でながら、囁くように耳元で歌った。

    ●さらばバニー
    「あともうちょっと!」
     ユンが振りかぶった縛霊手を突き出し、踏み込んだ足が床を捉えると同時に拳が届く。无名も一太刀浴びせて追撃した。
     灼滅者は順調にウサコを追い詰め、あと一歩というところまで来ていた。ここが決め時と判断した灼滅者が、一気に攻撃を畳みかける。
    「兎さんが可愛いのは認める……でも、一番可愛い兎さんは、私の恋人っ、だー!」
     心からの叫びとともに突進し、珠音が鋭い鋏を突き立てる。兎衣も古めかしい注射器を首筋に突き刺して力を奪い取った。
    「クロサンドラの鈴よ! 我が命に応じその力の一端を解放せよ!」
     色才は大仰な命令を下すが、ウイングキャットが披露したのは猫パンチ。色才も流星の瞬きを纏って飛び蹴りを見舞った。村正は日本刀を中段に構えて飛び込み、刃が閃いてバニースーツを切り裂いた。
    「これで終わりぴょん!」
     半ば投げやりになったエリザベートはオーラを収束させて撃ち出し、気の砲弾が風を切って飛ぶ。優希は腕を鬼に変じさせて迫り、眼前で見せつける。ウサコが一瞬怯えた表情を見せると、ハンマーのように振り回して殴り付けた。
    「ちゃんとうさぎカフェに戻ってください、ね」
    「ぴょーーーーん!!」
     妃那の影が再びうさぎの形を成してウサコに群がる。そして影のうさぎに呑み込まれながら、ウサコは断末魔(?)を上げて倒れたのだった。

    「っし、終わりだな! 眠らせるぞ、ぬーん……チラッ」
    「村正くんのえっち!」
    「ぐああっ!」
     村正は一度目をつむり、真面目に魂鎮めの風を使うふりをして薄目を開く。しかし視界に飛び込んできたのはユンの縛霊手だった。強烈な一撃を顔面で喰らい、悶絶してのたうつのだった。
    「……サイテーね」
     苦しむ村正を、エリザベートがジト目で見下ろす。ゴミを見るような目とはこのことだろうか。
    「はいはい、男は早く出て行ってくれ」
     優希は男性陣を冷たくあしらい、ほとんど裸のウサコにタオルをかけた。さらに覆いかぶさるようにして視線を遮る。
    「ん……あれ?」
    「お召し物をどうぞ」
     ウサコが目を覚ますと、ロッカーからとってきた制服を妃那が手渡す。ウサコは記憶を失って混乱しているようではあったが、とりあえず裸を晒すことは避けられた。
    「ええと、あなた達は……」
    「通りすがりのバニーガールだ。この格好、実は恥ずかしいから……あまり見ないでほしい」
     武装を解除した優希はバニースーツ姿になっていた。照れるような仕草で追及を遮断する。事情をうまく説明できなければ、いっそ説明しなければいいのだ。うん、そういうことにしておこう。
    「じゃあ今度こそ、夜の街に繰り出そう」
    「うん。夜まであそんで……んう」
     いつの間にか着替えを済ませた兎衣と珠音は、不穏な言葉とともに2人連れだってうさぎカフェを出て行く。灼滅者とはいえ、子どもは暗くならないうちに帰りましょうね、ハイ。
    「あ、着替えが……ない……」
    「え、ええと……制服、貸りていく?」
     着替えを忘れ、帰りもバニースーツで帰らないといけないことに愕然とするエリザベート。見兼ねたウサコがカフェの制服を差し出し、結局ぶかぶかの制服で帰ったのだった。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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