あなたに捧ぐストレッチャー(車輪付き)

    作者:聖山葵

    「ここかぁ、噂の場所って」
     ポツリと呟いた少女はキョロキョロと周囲を見回す。
    「うん、いないみたい……と言うか、当然だよね。『何かが手遅れな人を見つけるとストレッチャーをぶつけてくる謎の看護師』とか、居たとしてもごく普通の女子高生のボクじゃ標的になる筈もない訳だし」
     安堵の息を吐いた少女が自身の言葉に頷いたのは、人っ子一人通らない裏路地。
    「ふふふ、『国府さんは自分が普通とか酷い勘違いしてるからストレッチャーぶつけられるよ』何て言われたけど、何も起こらないし……これでボクがごく普通の女子高生だって証明された訳だよね」
     弄られキャラだのツッコミキャラだのって妙なレッテルともさよならだと少女は笑顔を浮かべるが、それは次の瞬間凍り付く。
    「えっ」
     どこからかカラカラと車輪が回るような音が聞こえてきたのだ、そして。
    「くそっ、どうして……どうして、こんなになるまで放っておいたんだっ!」
    「うそ」
     さび付いたブリキ人形のようにぎこちない動きで少女が声の方を振り返ると空のストレッチャーにとりつきながら夜の闇を疾駆してくる手術着姿の人物が一人。
    「それでもっ、僕はっ!」
     噂の看護師はアスファルトを強く踏みしめると、助走の勢いを殺さずむしろ自分の力も足して加速させたストレッチャーを少女めがけて解き放ち。
    「きゃぁぁぁぁぁっ」
    「な、そん」
     悲鳴をあげた少女の一部が闇と化し、ストレッチャーごと看護師を呑み込む。
    「へっ? あれ? 何が起こっ……うっ」
     理解が追いつかず呆然とした少女は、突然大きすぎる胸を押さえて呻くと服を手術着へと変化させ。
    「どう……して」
     かすれた声を漏らすと、何もなかった空間にストレッチャーが出現する。いつの間にか片手にメモ帳を持っていた少女は、そのストレッチャーをもう一方の手でつかみ。
    「どうしてこんなになるまで放っておいたんだっ!」
     街灯の下を何処かに向かって走り出したのだった。

    「一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が起ころうとしている。今回はタタリガミだな」
     座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)によると、今回のケースでは人の意識が残ったまま一時持ちこたえるようなので、灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出して欲しいとのこと。
    「また、完全なダークネスになってしまうようであればその前に灼滅を。むろん、そんなことない方が良いのだがね」
     ともあれ、それがはるひからの依頼であった。
    「今回闇堕ちする少女の名は、国府・閏(こくふ・じゅん)。高校一年の女子生徒だな」
     自称ごく普通の女子高生である閏は、自身が普通の女子高生であることを証明しようと何かが手遅れな人を見つけるとストレッチャーをぶつけてくる謎の看護師が出没するという噂のある裏路地に出向き、都市伝説化した看護師に襲われて闇堕ちし逆に都市伝説を喰らってしまうのだとか。
    「都市伝説を吸収した閏は、行動パターンを都市伝説のそれに縛られる。よって、『何かが手遅れ』な人物が場にいれば該当人物を倒すまで逃げられなくなる訳だ。例えば、『自分が男の子とか必要のない弁解をしてる少年』とかな」
    「え゛? ちょ、まさか、オイラが呼ばれたのって」
     続けたはるひの説明に鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)が顔を強張らせるが、はるひはいい笑顔で親指を立てる。
    「その通り」
    「『その通り』じゃないよね? 何、その選考基準? だいたいオイラは男の――」
     そんなはるひを捕まえて和馬ががっくんがっくん揺さぶるまではある意味いつも通りの光景である。
    「閏の持つバベルの鎖に引っかかることなく君達が接触出来るのは、タタリガミの姿に閏が変貌した直後だと言っておこう」
     本来ならそのまま走り去ってしまうところだが、和馬のように都市伝説がターゲットに認める「手遅れ」が存在した場合、閏は該当者全員にストレッチャーをぶつけて倒すことを優先する。
    「よって遭遇した時点で戦闘は避けられない。まぁ、救出を考えるならそもそも戦闘は避けられないのだがね」
     闇堕ちした一般人を救うには戦ってKOする必要があるのだ。
    「そうそう、閏と接触した時に人の意識へ呼びかければ弱体化させることも可能だ」
     今回のケースの場合、少女は自分がごく普通の女子高生であることを望んで足を運んだ結果の闇堕ちである。ならば、どう呼びかければいいかは想像に難くない。
    「ただ単に『お前はごく普通の女子高生だ』と認めてやればいい」
     普通の女子高生はそんなこと主張しないとか、そんな胸囲をした普通の女子高生が居るかなんてツッコミは禁句なので飲み込んで。
    「戦闘になれば閏は七不思議使いとライドキャリバーのサイキックに似た攻撃で応戦してくる」
     機銃のかわりにメスを投擲し、キャリバー突撃はかわりにストレッチャーを突っ込ませる攻撃になるが、効果の方に差異はない。
    「戦場になるのは、おそらく閏が都市伝説と遭遇した裏路地になるだろう」
     時間帯は夜中だが、街灯があるので明かりを持ち込む必要はなく、接触後一時間であれば一般人が通りかかることは無いともはるひは言う。
    「ごく普通かどうかは兎も角、捨て置ける事態ではない」
     閏のことをよろしく頼むとはるひは君達に頭を下げるのだった。
     


    参加者
    鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)
    ジュラル・ニート(デビルハンター・d02576)
    アルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674)
    神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)
    逆島・映(中学生シャドウハンター・d18706)
    望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143)
    倉丈・姫月(白兎の騎士・d24431)
    妃・柚真(混沌使い・d33620)

    ■リプレイ

    ●悩み、人それぞれ
    「うぐっ」
     裏路地近くの塀に倉丈・姫月(白兎の騎士・d24431)は青白い顔をして手をついた。
    「えーと、大丈夫?」
    「かずまどのはおひさしぶりじゃのう。いついらいじゃろうか、げんきにしておったかのぅ? あいもかわらずのごようすじゃが」
    「や、オイラのことよりさ、本当に大丈夫?」
     気遣わしげな顔で声をかけてきた鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)に交わす挨拶はこれが初めてでないし、最初はちゃんと抑揚もあった、だが。
    「うおっ」
     悲劇は起きたのだ、始まりは望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143)が足を取られて転びかけたこと。
    「きゃあっ」
     そして、たまたま側にいた鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)を押し倒すような格好で倒れ込み。
    「ぶっ」
     体質を遺憾なく発揮した葵とメロンのように大きな胸を強調するような格好で絡み合う蒼香を見た姫月が盛大に鼻血を吹き、グロッキー状態に至った、という訳である。
    「しかし、普通……ね」
    「……普通だと証明する為にその都市伝説を見に来たわけですからよほど気になったのでしょうね」
    「だろうな。自分では普通と思っていてもそう思われてないのは分かるんだぜ」
    「ええ、実際気にしてたんでしょうね。ただなんでストレッチャーなんでしょう?」
     周囲の面々を見回し、ジュラル・ニート(デビルハンター・d02576)が何やら考え込む中、アルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674)が口を開けば、葵が頷き、これに同意した蒼香は首を傾げる。
    (「病院でも無理ってことなのでしょうか?」)
     声に出さぬ問いには答える者もないが、わざわざストレッチャーを出してくることを鑑みるとそうなのかもしれない。
    「解らない事って意外に多いですね」
     そんな中、一同の最前列を行く逆島・映(中学生シャドウハンター・d18706)は徐に口を開いた。
    「そうですね」
     相づちを打ったアルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674)も手遅れな者を狙う都市伝説の行動パターンを変わっていると思ったものの行動理由を知る訳ではない。
    「和馬さんって、凄く女の子に見えますよね。僕も良く女の子に間違われます」
    「あー、うん。認めたくはないんだけどね」
     ただ、妃・柚真(混沌使い・d33620)と言葉を交わす和馬を時折チラチラ見るだけであり。
    「胸の事で悩む子は尽きないわね」
    「や、何で今の会話からそうなるの?」
     二人の会話を眺めていた神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)は食いついてきた性別和馬に半眼で睨まれると口元を綻ばせて言った。
    「大丈夫、和馬ちゃんもその内大きくなるわよ。私は幼女の方がいいけど」
    「なっ、和馬殿の胸が大きくなるじゃと? うぐっ」
    「ならないから、なるはずないからーっ」
     一名を巻き込んで完全に遊ばれた誰かの叫びが虚しく響いて暫し後。
    「あ、あそこ――」
    「どう……して」
     一同はかすれた声を漏らす件の少女を目にしたのだった。

    ●接触
    「なあ、和馬、アルゲー……俺達って普通だよな?」
     確認の形をとって向けられた問いに、名指しされたのは二名。
    「あ、うん。もちろんだよ」
    「うわぁ」
    「誓いの焔をこの胸に……」
     頷くまでに空いた若干の間を指摘したら多分泣きそうな誰かを眺めて、ジュラルが何とも言えない顔をする中、青白い顔を逸らし、すかさず姫月は起動した。
    「っ」
     一台のストレッチャーを脇に、手術着姿の少女の側が反応を見せる。
    「俺も普通の中学生だからな、ちゃんと向かってくるか不安なんだぜ」
     その光景が見えていたはずの葵は、構わずフラグにしか聞こえない危惧を口にし。
    「……私も手遅れなのでしょうか」
     もう一人便乗した時、ジュラルは既に距離をとっており。思っていたのだ、集まった時点で。
    「つーか私以外は皆思いっきり標的にされそうな感じあるよね。攻撃に巻き込まれないようにちょっと離れとこうっと」
     と、だから。
    「今回俺と似たように間違われる人も多」
    「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!」
    「ぐおあっ」
     最後まで言い切るより早くストレッチャーをぶつけられてフラグを回収する者が出ても驚かなかった。
    (「何かが手遅れな人、ですか。僕は何か手遅れだったりするでしょうか?」)
     早くも認定者が出る中、柚真は声に出さずポツリと零し。
    「普通……どうして普通だなんて言えるんだ!」
     手術着姿の少女は叫び、一人でにバックで手元まで戻ってきたストレッチャーを掴む。叩き付けるように絞り出した声は、ぶちかましを受けた犠牲者だけに向いているモノとはとても思えず。
    「閏ちゃん、貴女は普通の女の子よ。私達の世界ではね」
    「っ」
     明らかに気にしていたからだろう、華夜の言葉で弾かれたようにそちらを見たのは。
    「ボクが……普通?」
    「国府さんは普通の女の子ですよ。私なんか男の子に間違われます」
     動揺を見せる少女を前にまず映が自虐に走る。
    「それに子供の頃から、胸が小さくて、お尻も小さくて、ついたあだ名が『こいのぼり』。体型はいまも変わないんです」
    「胸……」
    「わたしが知ってる人達もツッコミとか弄られ体質とか言われてますし胸の大きさならばわたしも似たようなものです」
     過程で少女の視線が映の胸と自分のそれを往復するも、今度は蒼香が言葉を継ぎ。
    「うむ。汝は何やら自身が普通ではないのではないかと悩んでいるようじゃが、お主は実際まだまだ普通の女子高生じゃと思うのじゃよ。あー……」
     一つ首を縦に振った姫月は少し躊躇いを見せつつも真っ直ぐ少女を見て再び口を開く。
    「よ、世の中にはのぅ、何故か皆から男だと認めて貰えぬ男子もおるのじゃ。まったく何度男だと主張しても何か、こう、微妙な空気になるのじゃ! それからしたら普通、普通と思わぬか!?」
    「そう。世界を見たら、貴女より手遅れな人なんてたくさんいるわ」
    「えっ」
     最後の方はどこかやけっぱちにも聞こえる主張に同意する華夜へ肩に手を置かれ、顔をひきつらせた灼滅者が約一名。
    「貴女は至って普通の女の子よ。見て、こんなに可愛いのに、和馬ちゃんは『自分男だよ!』って主張するのよ!? こちらの方がどれだけ手遅れか……」
    「ちょっ」
    「よってあなたはごく普通の女子高生です! わたしはそう断言します」
     引き合いに出された誰かが声を上げようとするも、蒼香の言葉が被さり。
    「っ、それでも、それでもボクはっ」
    「手遅れじゃないって、オイラは男の」
    「どうしてこんなになる間でッ」
     怯み、人の意識と取り込んだ都市伝説の行動パターンとの合間で葛藤した少女は華夜の言葉を否定しようとした誰かにストレッチャーを突っ込ませたのだった。

    ●言葉届けるには
    「大丈夫ですか……和馬くん?」
     ビハインドのステロに思い人を庇わせたアルゲーは魔力を宿した霧を展開しつつ、問うた。
    「あ、うん。ありがとう」
    「これでは説得と戦闘を分けるのは難しそうですね」
    「そうですね。サウンドシャッターのお陰で音が漏れないのは良いですけど」
     守られた少年が感謝の言葉を述べる中、蒼香は微かに眉を顰めれば柚真も同意し戦場を見つめる。
    「まさかボケ専な私がツッコミを我慢しなきゃいけない日が来るとは……『ねーよ』とか思っても口にしちゃダメだぞ軍師殿」
    「ナノナノ」
     掌を額に当ててぼそりと漏らしたジュラルの言葉にナノナノの軍師殿は応じ。
    「大丈夫、考えねば、考えねばっ」
    「うあっ」
     ストレッチャーと合流しようした正座世は流星の煌めきと重力を宿した跳び蹴りを姫月に見舞われ、吹っ飛ぶ。
    「今じゃ、うぐっ」
     蹴りを叩き込んだ時に感じた柔らかな感触がフラッシュバックでもしたのか、叫ぶなりは鼻と口元を手で押さえ膝をつき。
    「おうっ」
     呼応するように詠唱圧縮された魔法の矢が裏路地を転がる少女を追いすがる中、妖の槍を手に飛び出したのは、葵だった。
    「援護します」
     これに合わせる形で別方向からは映が距離を詰め。
    「くっ、これぐら……え、犬?!」
     転がりつつも肉迫する灼滅者達に反応すべく身を起こそうとした手術着の少女が視界に入れたのは霊犬のジョンの姿。
    「あわせるんだぜ、ジョン」
    「しま、ぐあっ」
    「ナノナノ」
     別方向から聞こえる声へそちらにも敵が居ることを再認識した時には遅かった。少女の膝には魔法の矢が突き立っており。
    「行きます」
     ナノナノのふわりんからふわふわハートで癒やされる灼滅者が捻りを加えた突きを見舞うのと、影を宿したクルセイドソードをが振り下ろしたのはほぼ同時。
    「ぐっ、く、うわぁっ」
     サーヴァントを含む数名がかりの集中攻撃だった。
    「ううっ、この程度の損しょ」
    「逃がさないわよ」
    「わあっ」
     それでも起きあがろうとする少女の足に華夜の伸ばした影が絡みつき、転倒させ。
    「がうっ」
    「きゃあっ」
     撃ち込まれた荒火神命の六文銭が命中し悲鳴が上がる。
    「七不思議の力よ、その怨恨をかの者に与え、敵を蝕め」
    「ナノ」
     追い打つように柚真が怪談を語り終えて命じれば、軍師殿が今ですと言わんがばかりに竜巻を起こし。
    「しかしアレやね、事前に聞いていた通りな胸囲的な戦闘力やね……すばらしいね」
     一部始終を見ていたジュラルは解体ナイフの刃を変形させると、アスファルトを蹴った。
    「うう、驚異的って攻撃した後一方的にフルボッコにされ――」
     賞賛に対してツッコミで応じたのは、少女の素の部分がさせたのだろう、ただ。
    「かはっ」
     ツッコミが終わる前に射出された光の刃が豊かな胸の谷間に突き立ち。
    「じゃ、悪いけど隙ありってことで」
     光刃に斬り裂かれた裂け目をジュラルはズタズタに切り広げた。
    「普通とは周囲にとっての普遍的なもの。そん、ぶっ」
     説得中の姫月は再び血を吹いた。
    「自分が普通か、そうじゃないかと言うものは、自分の主観ですから、自分で普通だと思えるなら普通ですよ」
     代わりに柚真が少女へと語りかける中、戦いは続く。
    「閏姉ちゃんは普通の女子高生なんだろ? 自分で思ってるなら間違いないと思うんだぜ」
    「っ、だけど……だからっ」
     説得の効果も現れていた。主の動揺が伝播したかのように突き進むストレッチャーの角度が微妙に逸れ。
    「当たりませんよ」
     映はそれを利用してストレッチャーのぶちかましを受け流す。
    「くっ、そん」
    「悪いがこれ以上はやらせぬのじゃ」
    「え?」
     攻撃の失敗、そちらに気をとられていた少女いや、タタリガミは肉迫する姫月への反応が確実に遅れた。
    「緋焔を纏い、蒼天を穿て、我が炎剣レヴァンティン!!」
     青白い顔で、クルセイドソードを振るう姫月と少女はすれ違い。
    「あ」
     斬られた手術着姿の少女が膝をつく。
    「あともう少しの辛抱です、すぐに助けますからね!」
     その背目掛けて魔法の光線が撃ち出され。
    「この面子見てる? いけるよ普通だよ普通。この面子と比べたら、ね? 今心の底から思った。まだ手遅れじゃないよ間に合うよ」
    「まに……あう? 間に合うのかな?」
    「……大丈夫です。……少し気にしすぎたのかもしれませんよ、結局普通と決めるのは自分なのですから」
     ジュラルの言葉をオウム返しに口にした少女へ頷き、アルゲーはロケットハンマーを振り上げ、前へ飛び出す。
    「頃合いですね、もうすぐ終わりにしてあげますよ」
     機と見た柚真も怪談を語り始める。
    「っ、だけど、だけどっ、どうして」
     四方八方から攻撃が殺到する状況、説得に心揺らしつつもストレッチャーを掴ませたのは少女のダークネスが意地か。
    「んなに、なるまで――うぐあっ」
     手が離れた瞬間、渾身の力を加えたストレッチャーは疾駆し、置き去りにされた少女へ一撃目が炸裂する。
    「うっ、く、ボクは……普つ」
     止まぬ攻撃の中、少女は傾ぎ、突き進んでいたストレッチャーも消え。
    「落ち着いてみたら分かるでしょ? 貴女はまだ大丈夫。普通の女の子なんだから」
     ボロボロであることを覗けばごく普通の服装に戻り倒れ伏した少女へと華夜は声をかける。戦いは終わったのだ。

    ●招待と連行
    「閏さん体調はいかがでしょうか? 痛むところはないですか?」
    「あ、うん。身体は大丈夫かなぁ」
     柚真が包帯を巻き付ける中、意識を取り戻した少女は蒼香の問いに頷いて見せると、サラシのように胸元へ巻かれた白に視線を落とす。
    「えーと、ゴメン」
     何か言われるよりも早く謝罪したのは、光刃を射出して服を大丈夫じゃなくした誰かだろう。
    「や、大丈夫だから。助けて貰ってお礼言わなきゃいけないぐらいだし」
     と、服破られた少女は頭を振り。
    「じゃあ、お仕置きしちゃっても問題ないわね」
    「え゛っ」
     変わりにポンと肩へ置かれた華夜の手に罪人の顔がひきつる。
    「や、ちょ」
     まさに絶体絶命のピンチであり、和馬も抵抗しようとするが現実は非情。あえなく物陰に引っ張り込まれるかと思われたが。
    「あら?」
     負荷が増えた気がして振り向けば袖を掴むアルゲーと目が合い。
    「あ、アルぷっ」
     直後に獲物を抱き寄せたアルゲーの様子を見て何かを察したのだろう、あるいは誰かを重ねたか。
    「お仕置きを変わりにしてくれるって事かしら? それじゃ、任せたわ」
     くるりと背を向け歩き出し、自分が何をしてるのか気づいたらしいアルゲーと助けられる形になった誰かが騒ぐ声を背に視線を感じて、華夜は足下にいた荒火神命へと目を落とす。
    「人の言葉が話せなくて良かったわね」
     かけた言葉に荒火神命は鳴き声を上げず主を見つめ返し。
    「なあなあ閏姉ちゃん、学園に来ないか? 同じように灼滅者の人が一杯いるんだぜ」
    「貴女と似た境遇の方々も多いですし、きっと貴女の悩みとかも理解してくれる人も沢山いると思いますよ」
     聞こえていたのは葵と柚真が新たな灼滅者へかける声。
    「うーん、同じように……かぁ」
    「灼滅者に目覚めた閏さんにはこのパンフレットを差し上げます。二人も言うように同じような仲間のいる武蔵坂学園に来ませんか?」
     声の方を見れば考え込む少女へパンフレットを差し出す蒼香の姿があり。
    「きっと話も合うと思いますしわたしもご協力させていただきますよ♪」
    「や、話が合うかよりも弄られないかが気になるんだけど」
    「大丈夫、あそこならきっと普通なん、おわっ」
     少女の言葉に応じた誰かが、歩み寄る途中で、躓き。
    「ちょっ、ちょ」
    「わあぁぁぁぁっ」
    「きゃあ」
     ハプニングが発生したのはもう仕様なのだろう。
    「事件も無事解決で良かったわ」
     折り重なって何だかとんでもないことになってる三人から目を逸らして華夜は呟き。
    「手遅れなんだよなぁ……」
     決定的瞬間をきっちり見たジュラルは、視線を姫月達に戻すとぼそりと漏らしてトマトジュースの缶を呷る。聞こえていればどちらかから抗議が返ってきそうなものだが、姫月はジュラルの飲むモノに似た何かが吹き出ぬようにするのに手一杯であり。
    「……やっぱり普通もいいですが素敵な個性も大切ですよね」
    「あ、うん。けど、助けに行かなくて良いのかなぁ」
     もう一人はアルゲーに話しかけられ頷きつつ心配そうにメロンとわさび餅のサンドイッチ(比喩表現)を見つめていた。
    「軍師殿、普通ってなんなんだろうね?」
    「ナノ」
     ジュラルの問いかけに軍師殿は短く鳴き。
    「僕ももうちょっと、男らしくなりたいですね」
    「上から順番に立たせて……もう一度クリーニングもしておいた方がいいですね」
    「あ、手伝います」
     ジュラル達のやりとりが聞こえていたのか、柚真は一度だけそちらを振り返ると映の声に向き直り、少女達を助けるべく歩み寄るのだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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