セイメイ最終作戦~死は氾濫する

    作者:邦見健吾

    「あーあ、数学とかやってらんねーよ」
    「だよなー」
     連れだってやってきたのは、ガタイのいい数人の男子生徒達。どうやらサボリの常習犯のようだ。
    「アアァ……」
    「ん? 誰かいるのか?」
     鍵を開けて中に入ると暗い中で蠢く影を見つけた。鍵は締まっていたはずなのにと、不思議に思いながら電気を点けると――、
    「アアアアァ……」
    「うわあああああっ!」
     そこにいたのは、まるで映画の中から飛び出してきたようなゾンビだった。そして2体のゾンビは呻きを上げながら男子生徒を掴まえ、歯を立てて齧り付いていく。
    「あ、あ……うあああああっ!」
    「オォ……」
     恐怖に竦み、為すすべなくゾンビに蹂躙される生徒達。ゾンビは目の前にいる生徒を全て殺し尽くすと、新たな犠牲者を求めて校内へ繰り出していく。
    「……ウァァ」
    「ウゥ……」
     そしてゾンビが去った後、死体となり果てたはずの生徒達が再び立ち上がった。その瞳は濁り、肌に生気はなく、彼らもまた動く屍として仲間を生み出すべく動き出した。

    「富士の迷宮の戦いでは、ソロモンの悪魔フォルネウス、そして白の王セイメイを灼滅することに成功しました。しかし、喜ぶより先にすべきことがあります」
     冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)は淡々と、しかし緊張感を漂わせながら説明を始める。
    「迷宮ではセイメイが作った数千体のゾンビを駆逐しましたが、わずかに生き残ったゾンビが各地の高校に転移して事件を起こします」
     少数で転移したゾンビは生徒や教師を襲い、噛み殺して新たなゾンビにしてしまう。このままでは学校にいる人間が全てゾンビ化し、被害は際限なく広がっていくことだろう。
    「新たなゾンビを生み出す性質から、このタイプのゾンビを仮に『生殖型ゾンビ』と呼称します」
     この生殖型ゾンビはエクスブレインの予知を妨害する力を持ち、現場の詳しい状況は分からない。しかしゾンビが現れる場所だけは特定できたので、急行してゾンビを倒してほしい。
     今回現れるのはセイメイの迷宮にいたのと同じもの。灼滅者からすればあまり強力ではないが一般人には脅威となり、噛み殺した相手をゾンビに変える機能があるので、学校だけでなく周辺住民もゾンビに変えられてしまう。
    「生殖型ゾンビのほとんどは迷宮で撃破されました。ここで全ての生殖型ゾンビを倒せれば、生殖型ゾンビを完全に絶滅させることができます」
     また生殖型ゾンビには、バベルの鎖がないという大きな特徴がある。サイキック以外の攻撃でもダメージを与えられるが、それは同時に情報が広まることを意味する。
    「ゾンビがいたという物証を持ち帰るか破壊し、できる限り証拠を隠滅してください」
     ゾンビの存在が公になれば、混乱が起きるのは必至。その影響がどう波及していくかは予想が付かない。
    「もし迷宮にいた数千体のゾンビが放たれていた場合、想像を遥かに超える事態になっていたことでしょう。ここで詰めを誤るわけにはいきません。生殖型ゾンビを確実に殲滅できるよう、お願いします」


    参加者
    黒守・燦太(影追い・d01462)
    月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)
    炎導・淼(ー・d04945)
    如月・春香(クラッキングレッドムーン・d09535)
    天木・桜太郎(夢見草・d10960)
    夏村・守(逆さま厳禁・d28075)
    真波・悠(強くなりたいと頑張るココロ・d30523)
    神無月・優(ラファエルの名を冠る者・d36383)

    ■リプレイ

    ●生きた死者を探して
     高校に到着した灼滅者達は、2人ずつ4つの組に分かれてゾンビの捜索を開始する。黒守・燦太(影追い・d01462)と神無月・優(ラファエルの名を冠る者・d36383)は校舎の階段を駆け上がり、上階から教室を探っていく。
    (「できることをするしかないか……」)
     優は箒で飛行し、屋上にゾンビがいないことを確認。途中職員室に向かったが、それは徒労に終わった。教職員からすれば優は不法侵入した部外者に過ぎないし、放送で生徒に指示を出してもらおうにも今起きていることを説明して信じさせる術がなかった。
    (「ここには……いないな」)
     音楽準備室の窓を覗き込み、中に誰もいないことを確かめる燦太。もしゾンビが一般生徒の真っただ中に現れれば被害は計り知れない。些細な異変も見逃さないよう、集中力を高めて視線を巡らせた。
    「おい君、今は授業中だぞ。それに制服はどうした」
    「あ、すいません」
     燦太が廊下を歩いていると、教員に見つかって呼び止められた。プラチナチケットのおかげで生徒に見えているのはいいが、今は教員の相手をしている暇はない。
    「どこのクラスの生徒だ? クラスにもど……」
    「おやすみ」
     そこで魂鎮めの風を使用し、問答無用で教員を眠らせる。
    「この階は閉鎖しておこう」
     箒で降りてきた優が合流し、防火扉を閉める。これで4階は安全と判断してもいいだろう。

    (「早く見つけてぶっ潰してえとこだが……」)
     炎導・淼(ー・d04945)と如月・春香(クラッキングレッドムーン・d09535)の組は1階からゾンビを探す。淼は傍らにウイングキャット・寸を伴い、細心の注意を払って昇降口を見渡す。耳を澄まして気配を探るが、ゾンビどころか教員や生徒も周りにはいないようだ。
    「……来たわ」
    「アァ……」
     その時、1体のゾンビが昇降口から入ってくるのを春香が見つけた。腐った体からは眼球が飛び出していて死後間もなくといった様子でなく、おそらく迷宮から転移させられてきた個体だろう。
    「ウウゥ……」
     ゾンビも灼滅者を見つけるが、春香は冷静に先制攻撃。虚空から裁きの光が迸り、ビハインドの千秋も拳をぶつけて追撃した。
    「アアァ……」
    「おっと」
     噛みついてくるゾンビの顎を躱し、淼がロッドを打ち込む。打撃と同時に魔力を注ぎ込み、寸も肉球でパンチを見舞った。そして灼滅者とサーヴァントの連撃を受け、ゾンビがあっけなく力尽きた。
    「こちら炎導、ゾンビを1体撃破した。多分外から入ってきたやつだ」
     ただの死体に戻ったゾンビを見下ろし、無線機を使って連絡する淼。しかしこの死体をどうするのが正解なのか、つい溜め息が漏れそうだ。

    ●さまよう死者
    「なんで学校なんて人が多い場所に移動させるんだろ! いっぱい勉強して遊ぶとこなのに……嫌なやつだな」
     生殖型ゾンビを造り出したセイメイへの憤りを露わにしながら駆ける真波・悠(強くなりたいと頑張るココロ・d30523)。悠と月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)は校舎外の担当だ。
    「!」
    「……ウァァ」
     運動部の部室のある区画に到着すると、彩歌は2体のゾンビが徘徊しているのを発見した。着崩した制服はこのゾンビがこの高校の生徒であったことを証明し、淡く血の色の差す肌はほんの少しまで彼らが生きていたことを物語る。
    「厄介な相手は置き土産も厄介ですね。……終わらせませんとね、確実に」
     彩歌は瞬時に背後に回り、槍を横薙ぎにして制服ごとゾンビを斬る。続けて悠が、縛霊手から祭壇を展開して結界でゾンビの動きを封じた。
    「アアァ……」
    「させないよ」
     彩歌を狙うゾンビの前に立ちふさがり、代わりに攻撃を受け止める悠。クルセイドソードを霊体化させて刺し貫き、彩歌がエアシューズに炎を纏わせて蹴りを繰り出すと、ゾンビはそのまま倒れて動かなくなった。
    「……ごめんね」
     残されたのはゾンビだった死体と、ゾンビになっていない2つの死体。悠は死体のポケットから部室の鍵を見つけ、死体を部室に入れて時間を記し、鍵を閉めた。

    「鍵、ゲットしてきたぜ」
     影纏いを使って姿を消し、職員室からいくつかの鍵をくすねてきた夏村・守(逆さま厳禁・d28075)。
    「俺達はこれから体育倉庫だ。了解……ドウゾ」
     その間、天木・桜太郎(夢見草・d10960)は無線で仲間と連絡を取り合っていた。
    (「無線使ってる感するな~……ってそれどころじゃないか」)
     無線で連絡し合うのは1つの憧れだったが、今はそれを楽しんでいる場合ではない。急ぎ鍵を入手した場所に向かう。
    「いないなー」
     体育倉庫に来てはみたが、持ってきたのは予備の鍵で、すでに鍵は開いていた。中を覗いてみてもゾンビの姿はない。
    「きゃああああっ!」
     その時、グラウンドに悲鳴が響いた。悲鳴が聞こえた方を見やると、体育の授業をしていた女子生徒にゾンビが襲い掛かろうとしているところだった。
    「最後くらい潔くって訳にもいかないよな、知ってた。……そんじゃ全力でお掃除といきますか!」
     守は漆黒のムカデの姿になり、ゾンビに突進。角のように頭部から伸ばした剣を非実体化させ、これ以上死者を出させまいと串刺しにした。
    「さっさと逃げろよ嬢ちゃんたち!」
     桜太郎はエアシューズで回り込み、避難を呼びかけながら斧に炎を灯す。加速しながら斧を振りかぶり、烈火帯びる刃を迷いなく振り下ろした。ゾンビが炎に包まれ、そのまま崩れ落ちる。
    「写メとか動画とってないよな? 寄って来るぜ」
     守は人の姿に戻り、証拠を潰そうと呼びかけるが、体育の授業中とあって記録した生徒は誰もいない模様。負傷者がいないことを確認すると、そのまま生徒達を体育館に押し込めた。

    ●死者は何処に
     今までに倒されたゾンビは4体。校舎の捜索と避難を担当していた2組が合流し、ゾンビが校舎に入らないよう目を光らせていた。
    「オォ……」
    「さぁ美しく散らそうか」
     どこをさまよっていたのか、今まで見つからなかったゾンビが校舎に向かって遅い歩みで近づいてくる。優はスレイヤーカードの封印を解き、十字のロッドで攻撃、力強く突き出すとともに魔力を流し込んだ。
    「さっさと倒さないとね」
     燦太はバベルブレイカーのジェットを起動、一気に距離を詰めて至近距離から杭を撃ち込む。鋭い杭がゾンビを貫き、風穴を開けた。
    「千秋」
     春香の小さな声に反応し、千秋が周りに落ちた石くれを浮かせてぶつける。続けて春香は荒々しく、けれど正確にギターを叩き付けた。
    「熱いだろうが、我慢してくれよ」
     淼の腕から赤く燃える炎が迸り、手に握ったロッドを包み込む。寸の魔法がゾンビの動きを止め、ロッドごと殴り付けた炎がゾンビの制服を焼いた。
    「もうちょっと」
     燦太の大鎌が閃き、ゾンビに追撃。鋭い刃があやまたずゾンビを切り裂く。
    「これで……終われ」
    「ウアァ……」
     最後に優が肉薄し、ガンナイフで一閃。ゾンビは声にならない呻きを残し、地面に落ちてドシャと音を立てた。

     彩歌と悠の組は、野球用のバックネットの裏を捜索しようとしていた。何者かの気配を感じて慎重に、しかし怯むことなく進んでいく。
    「……」
     だが2人が見つけたのは、すでにこと切れた男子生徒の死体だった。授業をさぼろうとしていたのか、それとも何か探し物でもしていたのか、ここにいる理由は分からないが、彼がもう絶命しているのは確かだった。
    「……運んであげていいかな?」
    「分かりました。けれどまだゾンビがいるかもしれませんから、できるだけ迅速に動きましょう」
     男子生徒の目は焦点なく見開かれ、口からは唾液を垂らして、苦しみながら息絶えたのが想像できた。ゾンビにならないことを祈りながら、2人で死体を担いで先ほどの部室に運んだ。

    「この辺は……何もなさそうだな」
     中庭を見渡し、守が安堵とも焦りともつかない息を吐く。ゾンビを探し始めてからあまり時間は立っていないが、緊張と怒りのせいで倍以上の時間が経過している気がした。
    「ゾンビが全部でどれだけ居るのかもわからないからな。次行こうぜ」
     ベンチの下と植木の中を探していた桜太郎が顔を上げ、移動するよう促す。2人はもう一度周りにゾンビがいないことを確認し、次の場所へと向かった。

    ●死者には死を
    「他の場所はだいたい調べたよな……」
     先ほども通った校門付近、入れ違いになっていないかとゾンビを探す守。
    「うわっ!?」
    「オォ……」
     しかし石碑の裏を探そうとした瞬間、ゾンビと目が合って思わず声を上げた。
    「んじゃ、さっさと終わらせるぜ」
     いつもは軽いノリの桜太郎も、さすがに今回はうんざりとした心境が声に混じっていた。
    (「怒りの矛先をどこにむけていいのやら……」)
     元凶たるセイメイはすでに討ち果たした。もどかしい気持ちを感じながら鋏を振りかぶり、腐りかけた肉体を切り裂く。
    「もう、迷うなよ」
     守は再びムカデの姿に戻ってゾンビに向き直る。そしてムカデの形をした影がひとりでに動き出し、ゾンビに影の牙を突き立てた。2人で攻撃を重ねるとゾンビはすぐに動かぬ骸になり、守は人の姿になるとそっとまぶたを閉じさせた。

     灼滅者達はもう一度一通り高校内を捜索し、ゾンビがいないことを確認した後、悠達がゾンビを見つけた部室の前に来ていた。ゾンビが転移してきたのが人の動きが少ない授業中だったのと、灼滅者が到着したのが転移の直後だったこと、そして灼滅者の動きが迅速だったおかげで騒ぎはかなり小さいうちにほぼ収束させることができた。
    「……中から叩いてるね」
     複雑な面持ちで悠が鍵を差した。先ほど運んだ死体がゾンビと化したのは明らか。灼滅者は殲術道具を携え、中からゾンビが出てくるのを待ち受ける。
    「ウウウゥ……」
     ゾンビはまるで見えない糸で操られているように不気味な動きで灼滅者に迫り、春香は魔導書を開いて魔力の光線で迎撃した。燦太は鎌で虚空を切り、起こした風が刃となってゾンビを切り裂く。
    (「敵も味方もバベルの鎖の効果内なのが当たり前でしたからね……相当悪辣な企みがあったのでしょうね」)
     彩歌は槍の一薙ぎでゾンビの足を斬り、動きを鈍らせる。セイメイの思惑は不明だが、用意していたゾンビの数からしてよほど大規模な計画があったと予想が付く。
    「これで最後だな」
     高く跳躍した淼が降り落ち、流星の瞬きとともに蹴りでゾンビを打つ。優は裁きの光を放ち、生きる死者を焼いた。
    「ゆっくり眠ってね」
    「ウアァ……」
     悠の握る剣が透明になって光を通す。そして悠は真っ直ぐ剣を突き出し、霊体の刃に深々と貫かれてゾンビが倒れた。

    「……」
     今まで倒したゾンビとゾンビにならなかった死体の傍に腰を下ろし、黙祷して祈りを捧げる優。死後も弄ばれた人達の、せめてもの冥福を願った。
    「俺がやるよ?」
     校内でゾンビにされた生徒はともかく、転移してきたゾンビは肉体の腐敗と損壊が見られ、残しておけばゾンビを見たという目撃証言を裏付ける恐れがある。燦太は淡々と仲間に了解をとると、部室のストーブに残っていた灯油を撒き、そのまま火を点けた。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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