セイメイ最終作戦~楽器を手に決死の篭城

    作者:陵かなめ

    「優衣香からはなれてよぉぉお」
     麻音は震える手でトロンボーンを振り上げ、ゾンビに向かっていった。
     授業が終わり、吹奏楽部の生徒達が六名、空き教室で自主練習をしていたのだ。音を合わせようとしたその時、乱暴にドアが壊され、三体のゾンビが襲ってきたのだった。
     最初に、ドア付近に居た優衣香が捕まった。皆の目の前で優衣香は噛み殺された。
    「嘘、違う、優衣香ぁああああ」
     違う、違う。麻音は必死で優衣香の死を否定し、まだ優衣香を離さないゾンビ達に立ち向かっていったのだ。
     トロンボーンは、リーチが長く重い武器になった。
     手ごたえを感じる。ゾンビを殴ったのだ。だが、ゾンビは消えず、それどころか優衣香をその場に放り投げて麻音に向かってきた。
    「麻音!! こっち!! 準備室!!」
     当初悲鳴を上げていた生徒達は、戦う麻音の姿に励まされ、教室の内側の扉でつながっている準備室へ逃げ込んでいた。
    「このっ、このぉっ」
     そして、準備室に置いてあった自分達の楽器ケースを次々とゾンビに投げつける。その間に、麻音は何とか優衣香を準備室まで引きずっていった。
    「閉めるよ」
     準備室の扉を閉め鍵をかけた。
     ドアは激しく殴られている。生徒達は机を簡易バリケードにし、何とか篭城に成功した。
     これからどうなるのだろう。恐ろしい傷口を晒し、動かなくなった優衣香の手を握り締め、麻音はその場に座り込んだ。
     
    ●依頼
    「みんな、集まってくれてありがとう。富士の迷宮突入戦は大勝利だったね」
     千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)が皆を見回し、説明した。
     富士の迷宮突入戦では、白の王セイメイや海将フォルネウスを灼滅し、白の王セイメイが準備していた数千体のゾンビを壊滅させ、白の王の迷宮も崩壊させたのだ。
    「けどね、喜んでばかりもいられないんだよ」
     日本各地の高校の校舎で、白の王の置き土産とも言える事件が発生しているというのだ。
    「各地の学校の校舎に現れた数体のゾンビが、生徒や先生を噛み殺して、彼らをゾンビ化しつつ学校を制圧しようとしているんだ」
     噛み殺した人間を同じゾンビとする性質から、このゾンビは、仮に『生殖型ゾンビ』と呼ぶ事とすると、太郎は言った。生殖型ゾンビは、エクスブレインの予知を妨害する力があるらしく、事件現場の状況は分からない。だが、事件が起こる場所だけは確認できたので、急ぎ事件現場に向かって欲しいとのことだ。
    「敵となる生殖型ゾンビは、富士の迷宮の下層にいたものと同じと推測されるんだ。強力な敵ではないけれど、噛み殺した人間を同じゾンビにしてしまう能力は脅威だよ」
     太郎は表情を硬くしそう言った。放っておけば次々と数を増やし、生徒だけではなく周辺住民をもゾンビ化してしまうことだろう。
     幸い、数千体いた生殖型ゾンビの大多数は、富士の迷宮での戦いで灼滅する事ができている。生き残りは百体以下であり、その全てが地上に出てきていると推測されるため、ここで全て激破できれば生殖型ゾンビの脅威を完全に払拭する事が出来る。
    「それと、生殖型ゾンビには『バベルの鎖を持たない』という特徴もあるんだよ。だから、激破後は、可能な範囲で、ゾンビがいたという物証を持ち帰るか破棄するようにお願いね」
     バベルの鎖が無ければ、情報が伝達されないという効果も無くなる為、物証を残せば残すほど、ゾンビのような超常現象が表に出てきてしまうからだ。
    「完全に情報を遮断することは不可能だけど、可能な限り証拠を隠滅できるよう、お願い」
     皆に校内の見取り図をコピーしたプリントが配られる。
    「こんな危険な能力を持つ生殖型ゾンビを数千体も準備していたなんて、やはり、白の王は危険な存在だったんだね」
     生殖型ゾンビはなんとしてでも全滅させなければならないと。太郎は最後に頭を下げた。


    参加者
    黒瀬・夏樹(錆塗れの手で掴むもの・d00334)
    一橋・智巳(強き魂に誓いし者・d01340)
    ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)
    琴鳴・縁(雪花の繭・d10393)
    コロナ・トライバル(トイリズム・d15128)
    三和・悠仁(残夢の渦・d17133)
    深海・水花(鮮血の使徒・d20595)
    上里・桃(生涯学習・d30693)

    ■リプレイ


     指示された高校に到着した灼滅者達は、一斉に行動を開始した。
     こんな理不尽な死に方、許せるものではない。
     黒瀬・夏樹(錆塗れの手で掴むもの・d00334)はそう思った。
     家族を喪ったあの日の自分に助けは来なかったけれど、だからこそ、自分のようにならぬように、何としても間に合わせる。
     夏樹はその思いを胸に抱き、校舎の上階から壁を歩いて生存者を急ぎ探した。
     隣から一橋・智巳(強き魂に誓いし者・d01340)も壁を歩く。
    「セイメイの奴にゃ散々嫌がらせされてきたが、最後の最後にきっついの残してきやがって」
     目の前の教室内を素早く確認し、次の場所へ向かった。
    「これで清算と行きたい所だな」
    「はい」
     二人は頷きあい、校内の地図を見る。あらかじめ、事件現場の教室のめぼしを付けてきたのだ。準備室とつながっている教室と言うのは、それほど多くは無い。
     早く早く早く。急ぐ気持ちを抑え、準備室で篭城しているはずの生存者を探す。
     到着から5分のアラームはまだ鳴っていなかった。
     校内の見取り図を眺めながら上里・桃(生涯学習・d30693)は走っていた。説明を受けた事件現場は仲間に任せ、念のためにと校内を捜索しているのだ。
     普通に暮らしていた人達が理不尽に襲われてしまうのが。
     唐突に家族や友達を奪われてしまうのが。
     亡骸がゾンビにされてしまうのが。
     桃には悲しくて、どうしても許せない。
    (「もっと被害の出る前に対処できたら」)
     そして、それができなかったのがただ悔しいと、桃は思った。
     まさかゾンビまで転移をしているとは、と。手元の地図の、探索済の部屋部分を黒く塗りつぶしながら深海・水花(鮮血の使徒・d20595)は考える。
    「あの時に全て倒しきれて居れば良かったのですが、今更言っても仕方ありませんね」
     今はできる限りの命を救おうと。
     こんな事件だからこそ、念には念を入れての行動、ゾンビの捜索だ。
     桃と水花の少し後ろを三和・悠仁(残夢の渦・d17133)が走っていた。
    (「セイメイにしろ、ゾンビにしろ……死者にこれ以上好き勝手されて堪るものか」)
     前回の作戦の取り残しが、きっとこの事件の原因だと思う。と言うことは、責任の一部は自身にもあるのでは? 悠仁は校内を捜索しながら、葛藤していた。
     もっとも、どの道始末する以外にできる事など無いだろうと割り切りつつもあるのだが。
    「ゾンビをサイキック無しで殴り殺せるボク達も人外染みてるよね」
     さて、今回の事件の生存者である麻音達吹奏楽部の生徒を探しながら、コロナ・トライバル(トイリズム・d15128)は仲間を見た。
     上階から生存者を探す班とは別行動を取り、手分けして事件現場を探しているのだ。
    「おーい! 助けに来たぞー!」
     ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)がギターを鳴らしながら辺りを見回す。何かしら反応があれば、それを見落とすわけにはいかない。
    「とにかく、10分以内に見つけたいですね」
     怖かっただろうに、ゾンビに抵抗しようとした麻音の事は、琴鳴・縁(雪花の繭・d10393)は素直に賞賛する気持ちだ。だからこそ、これ以上悲惨な状況にならないためにも、はやく現場に駆けつけなければと。
     コロナ、ファルケ、縁の三人は、声を上げて呼びかけ続けるのだった。


     ドン、ドンと、ドアを激しく叩く音を聞いたのは、夏樹が二階へ降り立った時だった。
     智巳を呼び、二人で音のする教室をそっと覗き込んだ。
    「いやがった」
    「すぐに皆に連絡しましょう」
     夏樹は携帯を手に取り、仲間へ連絡を始めた。
     一段とドアを叩く音が激しくなった気がする。
    「あの程度のバリケードじゃあ、もたねぇな」
     見ると、三体のゾンビがドアに体当たりを始めた。ドアには鍵がかかっているようだし、机で簡易バリケードを築いている。とは言え、それは全て素人の一般人がしたことだ。ゾンビ相手では、もう数秒ともたないだろう。
     二人はすぐに判断した。
     このままでは、準備室に篭城している生徒達が危ない。
     仲間達を待たず、教室に飛び込む。
     夏樹が影を伸ばし一体のゾンビを縛り付けた。
    「ォ、ォオオオオオオ、ヴァアアッ」
     ゾンビ達が今までに無いうなり声を張り上げる。かまわず、智巳がバベルブレイカーを振り上げた。ジェット噴射で一気に敵の懐に飛び込み、『死の中心点』を貫いた。ゾンビは吹き飛び、壁に体を打ち付ける。
    「な、なに……?」
     今までに無い音に、準備室の生徒達が戸惑いの声を上げる。
    「助けに来ました、どうかそこで……」
     すぐに夏樹がドア越しに声をかけた。同時に、ドアにたかっていたゾンビが一気に灼滅者へ攻撃を仕掛ける。殴られ蹴られ、夏樹がよろめいた。
     弱い個体とは言え、三体のゾンビを二人で完全に防ぐことは難しい。
     そして、5分のアラームが鳴った。
    「オオオォォオオォ」
     ゾンビが更に攻撃の姿勢を取る。
    「清助!」
     その時、ゾンビと智巳の間に縁の霊犬である清助が割って入ってきた。
    「間に合ったかな? 大丈夫?」
     全方位に帯を放出し、コロナがイカロスウイングを放つ。まとめて三体、ゾンビを教室の隅へ追いやった。
    「待たせたな! さあ、一曲いくぜっ」
     そして、ファルケが歌い出す。
     激しい歌声を叩きつけられ、ゾンビ達は苦しげに身悶えた。
     ここだけの話、こっそり耳を塞ぎ遠い目をした仲間の姿もあったとかなかったとか。とても印象的なその歌が終わると、ピシリと窓ガラスにひびが入った気がした。
     ともあれ、連絡を受けた縁、コロナ、ファルケが助けに来たのだ。
    「さあ押し返しましょう」
     影を伸ばし、縁が皆を励ますように声をかける。
     できるだけゾンビの身体を損傷しないように気をつけながら、敵を絡め取った。
     まだ9分のアラームは鳴らない。
     生徒が篭城している準備室へのドアを守りながら、ゾンビを倒す。そして、死んでしまった優衣香を、せめてやさしく終わらせる。
     灼滅者達はやるべきことを確認しながら、走った。


    「ちょっと……。今の酷い歌……何?」
    「外にいるの、誰?」
     準備室の内側からざわめきが聞こえてくる。ドアを叩くゾンビが居なくなり、生徒達に少しだけ余裕が出てきた様子だ。
     だが、まだゾンビを倒したわけではない。
     一体のゾンビをレイザースラストで貫き、ファルケがドアの向こうへと声をかけた。
    「助けに来たぜ! まあ、そこでゆっくり俺の歌を聞くがいいさ」
    「いや、だから、その歌止めて……」
     控えめな抗議が返ってきたが、戦闘に集中し始めたファルケの耳にはちょっと届かなかった。
    「それにしても、ゾンビが特別脆いとか?」
     すでにゾンビ三体の体力は残り少ないと感じる。
     コロナはステップを踏みながら敵の間をすり抜け、ゾンビ達をじっと見てみた。
    「……い、一匹持って帰っても」
     思わず邪な考えが口から漏れた。
    「それはどういう意味でしょう?」
     戦場に新しい声が聞こえてくる。
    「冗談ダヨー?」
     現れた悠仁から目を逸らし、コロナが飄々と口笛を吹いた。
    「神の名の下に……今度こそ、安らかな眠りを与えましょう」
     そのやり取りを聞きながら、水花が弱ったゾンビをホーミングバレットで仕留める。
     仲間達も、次々に攻撃を仕掛けゾンビを追い込んだ。
    「せめて生きている人たちがもう苦しまず悲しまないように、できる事を精一杯していきましょう」
     神霊剣でゾンビの霊魂を狙い、桃が攻撃を繰り出す。
     力尽きたゾンビが地面に転がった。
     悠仁がゾンビの死体を引きずり一箇所に集めていく。
    「これで終わりだ」
     最後の一体に抗雷撃を叩き込み、智巳はゾンビを全て倒したことを確認した。
    「それでは、私は彼女達の元へいきますので」
     後をよろしくと頼み、縁が準備室へと視線を延ばす。
    「聞こえるか? ゾンビはもう居ないぜ。ここを開けて欲しいんだが」
     ファルケがやさしく準備室のドアをノックした。
    「え?! 本当に大丈夫なの?」
    「あなた、歌ってた人……?」
     ドアの向こう側から戸惑いの声が聞こえてくる。しかし、ファルケの歌声は覚えていたようで、すんなりとドアが開いた。
    「こんにちは。ドアを開けていただいて、ありがとうございます」
     すぐさま縁が生徒達に近づく。優雅に、あくまで自然に、生徒の中に入って行った。
    「この日のことは悪い夢だったと忘れてくれて構いません。僕らの戦いはそういうものなんですから」
     今からのことを思い、夏樹が準備室に篭っていた生徒達を見た。
    「でもこれだけは約束します。……助けられなかった人のことは忘れません」
    「悪いな。コレも確かに灼滅者の招いた結果さ。怨んでくれていいぜ」
     智巳も一言、口から言葉が出る。
     もっとも、バベルの鎖と吸血により、はっきりと覚えていることは無いだろうけれど。
    「ま、自己満足だな」
     と、肩をすくめた。
    「それでは、死体の損傷が少ないものは擬死化粧を施しましょう」
     簡単に祈りを捧げ、水花がゾンビを運んでいた仲間を見る。できることなら、遺体は火葬せずに残したいというのが水花の考えだ。
    「生存者の安全を第一に。証拠の隠滅を第二に。死者の尊厳を第三に。順位をつけなきゃいけないのも悲しいですね」
     桃は頷き、ゾンビの死体を見定める。
    「それでは、処理はお任せします」
     損傷の激しい一体は無理だが、残り二体はどうやら擬死化粧で処理できそうだ。悠仁がそう言うと、水花と桃が頷いた。
     9分のアラームが鳴る。
     もう余り時間が残されていない。二人は急いでゾンビの死体に擬死化粧を施した。


    「貴方も失礼しますね」
     縁は優衣香の死体にすがり付いていた麻音の首に手を当て、ゆっくりと吸血捕食を行った。すでに足元には、ぼんやりとした表情を浮かべている生徒達の姿がある。
     ドアの向こうからアラームの音が聞こえた。
    「急ごうぜ、ゾンビに噛まれたそいつを運び出そう」
     ファルケが優衣香の死体に手を伸ばし、動かし始める。
     生徒達はぼんやりとした表情でファルケと縁の事を見ていた。
     ゾンビの処理をしている教室では、損傷の激しいゾンビの死体を見てコロナが智巳に促した。
    「こっちはダメだね。証拠隠滅に燃やしておこうか」
    「だなあ」
     智巳が指定されたゾンビの死体をバニシングフレアで焼き払う。せめて、これが弔いの炎になればよいと思った。
     そこに、優衣香の死体が運ばれてきた。手酷く噛み殺されたようで、損傷が激しい。これでは、死因を加工するのは無理かもしれない。
    「それでは、処理をお願いします」
     悠仁は仲間に処理を任せ、縁達と入れ違いに準備室へ入る。
     準備室内では、何とか篭城に成功し生き残った生徒達がぼんやりと座り込んでいた。吸血捕食のためだろう。これで前後10分の記憶が曖昧になるはずだ。
    「大丈夫だったか? 警察を呼んだから安心してくれ」
     学校の関係者を装い、この準備室から出ないよう言い含め悠仁は準備室の扉を再び閉じる。
    「大丈夫でしたか? こちらは、死体を燃やし終わりました」
     桃が簡単に状況を説明した。
     優衣香の死体の損傷は激しく、結局バニシングフレアで焼き払ったのだ。残った細かな破片はアイテムポケットで持ち帰ることにするとも。
    「他にも、なるべく証拠を残さないよう片付けていこうな」
     ファルケがきょろきょろと辺りを確認する。
    「あとは、監視カメラのデータの破壊でしょうか」
     校内を捜索していた水花は、監視カメラが気になっていた。データはすぐに壊すことができるはずだ。
    「他には、噛まれた生徒は居ないみたいだよね?」
     コロナが確認するように問うと、悠仁が肯定するように頷く。
    「何とか、優衣香さんがゾンビになるところを、お友達に見せること無く終わりましたね」
     夏樹にそう言われ、灼滅者達は改めて教室を見回した。
     ここには、三体のゾンビが襲ってきた。襲われた生徒は六名。うち、一名は手酷く噛み殺されている。
     だが、今は床に死体が二体。いずれも、いかにも病死のような症状が見て取れる。きっと、死因は病死だと思われるだろう。
     他の死体は燃やしてしまった。もうここには無い。
     襲われた生徒達は、事件前後の記憶が曖昧で特別なことはきっと覚えていないだろう。
     これで、生殖型ゾンビの存在が広まることは無いだろう。
     灼滅者達は簡単に校内を見回りながら、帰路に着いた。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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