セイメイ最終作戦~放課後の悪夢

    作者:天木一

    「よーし次はフォークだ!」
    「こい! ホームランしてやる!」
     少年がピン球を投げ、もう一人が箒をバットに見立てて振り抜く。
    「もう! 男子はマジメに掃除してよ!」
     そこへ少女がプンプンと怒って転がるピン球を奪い取る。
    「ちょっ、今いいとこなんだから返せよー!」
    「2ボール2ストライクなんだから、あとちょっと待ってくれよ」
     文句を垂れる少年達のお尻を少女が箒で叩く。
    「イテッ」
    「アゥチッ」
    「馬鹿なこと言ってないで、さっさと掃除する! もうすぐ先生が見に来ちゃうでしょ!」
    「そうよそうよ! ちゃんと掃除しなさいよね!」
    「早く終わらせよーぜー」
     教室では6名の男女が箒や雑巾を手に掃除をしていた。
    「わーったわーったって」
    「さっさと終わらせるかー」
     お調子者の男子が仕方なく掃除をしていると、ガラリと教室のドアが開く。
    「もう先生がきちゃった……じゃ、ない?」
     少女が入り口に視線を向ける。するとそこには大人の男が立っていた。だがそれは教師などではない、私服姿の見知らぬ人間が俯いて立っている。
    「誰だ?」
    「ってか何か臭くねぇ?」
     少年達が興味本位に近づく、するとその男の顔が見えた。その瞬間、少年たちは転ぶように後ろに下がった。
    「ひぃっ」
    「こここ、こいつ死んでる!?」
    「はぁ? 何言ってるのよあなたたち、あの用務員の人ですか?」
     少女が男に尋ねる。すると男は顔を上げた。その顔は表情がなく虚ろでどす黒く、崩れ落ちた皮膚に虫が集る死者のそれだった。
    「ひゃっ、し、し、死体?」
     思わず硬直する少女の体を男が掴み、持ち上げるとその首に噛みついた。
    「痛い痛い痛い! 止めて! 離して!」
     少女が泣き叫ぶがその手が緩む事はない。そのまま肉を引き千切り、血を溢れさせて少女が動かなくなった。
    「きゃーーーー!」
    「に、にげ……」
     パニックになって逃げようとする生徒達。だがもう一つの扉を開けるとそこにももう一体のゾンビが立っていた。その体をゾンビが取り押さえる。そして一人一人噛み殺していく。
    「あ、あぐっ」
     最後の生徒が動かなくなると、ゾンビはじっと待つ。すると6体の死体の内、3体が起き上がった。まるでゾンビと同じように虚ろな表情だった。
    『アアォォァ……』
     唸り声を発し、ゾンビと化した者達は新たな犠牲者を求めて教室を出ようと歩き出した。
     
    「みんなお疲れ様。富士の迷宮突入戦は白の王セイメイと海将フォルネウスの灼滅に成功して、さらには白の王セイメイが準備していた数千体のゾンビも壊滅、白の王の迷宮も崩壊して大勝利に終わったよ」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)の言葉に灼滅者達は喜びの声をあげる。
    「でも、まだ問題が残ってるんだ。日本各地の高校の校舎にゾンビが現われ、生徒を噛み殺してゾンビ化させ、学校を征圧しようとしてるみたいなんだ」
     ゾンビは噛み殺した人間を同じゾンビとする性質から『生殖型ゾンビ』と呼ぶ事になったという。
    「この生殖型ゾンビは厄介な事に、エクスブレインの予知を妨害する力があるみたいでね、事件の状況は詳しく分からないんだ。でも事件が起きる場所だけは特定できたから、みんなには急いで現場に向かって対処して欲しいんだよ」
     焦りの見える誠一郎に事態の重さを察する。
    「この生殖型アンデッドは富士の迷宮の下層にいたものと同じだと思うよ。強くはないけど、噛み殺した人間を同じゾンビにするという恐ろしい能力を持っているんだ」
     放置すればゾンビの数はどんどんと増え続ける事になるだろう。
    「幸いな事に、多くは富士の迷宮で灼滅され、残っているのは100体以下で、その生き残りも全て地上へ現われているみたいなんだ。つまりここで全て倒してしまえば今後の脅威を取り除けるってことだよ」
     逆に言えばここで逃せば驚異的なスピードで増殖されることになるだろう。
    「それと、生殖型ゾンビには『バベルの鎖を持たない』という特徴があるから、ゾンビを倒したら出来るだけゾンビの痕跡を残さないようにして欲しいんだ」
     バベルの鎖による情報阻害が無い為、その異常性が一般人の間に広まってしまうのだ。
    「こんな危険な存在を白の王セイメイが投入する前に倒せて良かったよ。でも全て倒してしまうまで油断はできないからね。犠牲が広がらないようにみんなの力を貸して欲しい。お願いするね」
     誠一郎の言葉に灼滅者達は気を引き締め、厄介な置き土産を処理する為に急ぎ教室を後にするのだった。


    参加者
    十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)
    霧島・絶奈(胞霧城塞のアヴァロン・d03009)
    森田・供助(月桂杖・d03292)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    三上・チモシー(津軽錦・d03809)
    森村・侑二郎(一人静・d08981)
    嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)
    雪峰・響(雪風に潜む白兎・d19919)

    ■リプレイ

    ●ゾンビパニック
     放課後の学校から下校中の生徒達が見える。何も変わらぬ普段の光景。だがその学校内部では恐ろしい事件が現在進行形で起きていた。
     急ぎ到着した灼滅者達は、道中に考えていた作戦通りに2人ずつのグループとなって校舎に散る。
    「そこの教室に入りなさい、暫く出ないように」
     1階を調べる霧島・絶奈(胞霧城塞のアヴァロン・d03009)が、一般の生徒を威圧すると命令で教室に留まらせる。
    「絶奈センパイ、こっちには居ないみたいです」
     忙しなく周囲を見渡して十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)は異常が無い事を確認する。
    「では東校舎へ移動しましょう」
    「いったい何処に居るっすかね」
     絶奈と狭霧は見逃しがないよう鋭い視線を向け、窓から見える校舎に険しい視線を向けた。
     2階を駆けて灼滅者が2人。
    「いなくなっても、まだ嫌な結果を残しやがるな、セイメイって奴はよ……」
     苦いものを噛んだように森田・供助(月桂杖・d03292)は顔をしかめる。だが今は感傷に浸る時ではないと、首を振って周囲の異変を探す。
    「不審者が、出ました。……危険、なので、教室、から、出ないで、ください」
     隣では生徒に向かって神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)が、関係者と思わせて指示を出す。それと同時に周囲の思考を探知してみるが、雑多な思考が乱れ飛び事件の場所を知る事は出来なかった。
    「これ以上、広がらせてたまるか」
    「はい、必ず、阻止、しましょう……」
     誤記を強める供助に蒼も深く同意し、2人は次の場所へと駆け出す。
     3階を捜索する灼滅者が階段を上りきる。
    「ゾンビ……迷宮でだいぶ倒したんだけどね」
     ついこの間の戦いを思い出して三上・チモシー(津軽錦・d03809)は息を吐き、帰ろうと廊下を歩く生徒達に関係者のふりをして声をかける。
    「ここは危ないから、教室で待機するんだよ!」
    「問題が解決するまで教室から出ないでくださいっ、……ここでもない」
     一緒に声をかけた森村・侑二郎(一人静・d08981)が焦った様子で周囲を確認する。
    「バベルの鎖がないとはこれほどに厄介なのか……」
     侑二郎は流れる冷たい汗を拭いながら動こうとした時だった。
    「うっうわああっ」
    「痛いッ……血、首から血がっ」
     廊下の曲がり角の先から何か物が倒れるような音、そして叫び声が聞こえる。
     チモシーと侑二郎は一瞬顔を合わせると、一斉に駆け出す。角を曲がりそこに見えたものは、幾人もの首から血を流して倒れた生徒と、口元を血で汚したゾンビの姿だった。
    「きゃああっ助けて!」
     まだ無事な生徒達が壁際に震えて座り込んでいた。腰が抜けたのか顔だけ向けて灼滅者に向けて助けを請うてくる。
    『アアァ……』
     振り向いたゾンビは新たな獲物を見つけたと灼滅者に向かってくる。
    「連絡するよっ」
     チモシーが手にした携帯電話から素早くメールを仲間に一斉送信する。
    「もう犠牲者が……ここは危ないから、向こうへ逃げて!」
     ゾンビの前に出た侑二郎が、生徒達に殺気を向けながら指示する。生徒達は一層脅えて這うように逃げ出す。
    「自分達が来た方は安全だよ、慌てずに急いで逃げてね」
     携帯電話を仕舞ったチモシーも生徒達を守るように位置取りながら声をかける。ウイングキャットのわさびも飛んで同じように並び、敵を妨害するように魔力を放った。
    「……ごめんなさい。だから、せめて安らかに」
     侑二郎は近くで倒れ息絶えた生徒に向け剣を振り下ろす。刃は非物質となり、死体を傷つけずにそこに宿るかもしれない精神体だけを切り裂いた。

    ●血に汚れた廊下
    「そんじゃま、後片付けしましょっか。まさか他人を巻き添えにするとは思わなかったっすけどね」
     軽く口調で嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)は気負い無く教室を窺う。4階は視聴覚室や音楽室といった特別教室が多く、他の階よりも人が少なかった。
    「セイメイもとんでもない物を作り出したものだな……。出来るだけ犠牲を抑えるようにしないと」
     学校のどこかで起きている惨事を思い、雪峰・響(雪風に潜む白兎・d19919)の足は自然と速くなる。
    「この階には居ないみたいっすね」
    「では下の階に……」
     絹代の言葉に響が返事を返そうとした時だった、メールの受信音が響く。すぐさま確認すると、3階の東校舎で発見との連絡があった。
    「行くっすよ」
    「急ごう」
     絹代と響は飛び降りるように階段を下り、3階の廊下へと飛び出る。そこには倒れ伏す生徒と、それに刃を立てる侑二郎。そして首からまだ乾ききらない血の垂れる生徒達のゾンビと、ぼろい私服らしき腐りきった顔をした2体の男ゾンビの姿があった。
    「手が早いっすね、でもこれ以上勝ってにはさせないっすよ」
     絹代が行く手を塞ぐようにゾンビの前に出る。そこへゾンビは腕を振るうが、絹代は真っ赤なスカーフで弾き返す。
     響も前に出ようとすると足元の倒れた女生徒と眼が合う。必死の形相のまま生徒は死んでいた。
    「……これも被害を抑えるためだからな」
     僅かに眉をひそめた響が死体に非実体の剣を突き立てる。
    「でも、気分は最悪だな」
    『あ、ァァ……』
     そして響はゾンビへと剣を向ける。それと同時にゾンビも首を狙ってその汚れた手を伸ばしてくる。そこへ飛び込んだわさびがその腕を蹴り飛ばして防ぐ。
    「血の匂いがしやがる……クソッ」
    「……酷い、です……」
     すぐに1つ下の階から供助と蒼が駆けつけ顔を歪ませる。
    「俺が相手だ、全員斬り捨ててやる」
     供助は駆けながら無銘の刀を抜き放ち、間合いに踏み込むとゾンビを動かす精神体を斬り裂く。
    「……これ以上は、させま、せん……!」
     続けて腕を大きな獣の如く変化させた蒼が、一振りしてゾンビの体をぶっ飛ばした。
    「お待たせっす」
    「逃げ遅れた一般人は……まだ居るようですね」
     急いで狭霧と絶奈が最後に階段を駆け上がってくると、周囲を見渡して状況を確認した。
    「まだ俺と同じ位しか生きていないのに……」
     狭霧は倒れた生徒の死体を悲しそうに見下ろす。
    「助けられなくてごめんなさい」
     そしてその胸に刃を突き立てる。剣は精神だけを斬り、ゾンビ化の可能性を摘み取った。
    「他の人達は必ず守ってみせる。自己満足っすけれど、それが俺に出来る唯一の事だから」
     遺体から視線を上げ、敵意をぶつけるようにゾンビに切っ先を向ける。
    「セイメイは死して尚、私達を脅かすのですね。そういう意味では伊達に王を名乗っては居なかったと言う事でしょうか?」
     新たな獲物が来たと迫り来るゾンビに向けて絶奈は大きな鋏を構える。
    「まあ、脅威と言うよりは唯々厄介事を振りまくという感じですが……、それもまたセイメイらしい小物さでしょうか」
    『ァアアッ』
     首を絞めようと伸ばす腕を、絶奈は鋏で切り落とした。
    「ですから、唯の一人たりとも無駄死にさせませんよ、セイメイの負の遺産を増やさせるつもりも犠牲者を出させるつもりも私にはありません」
     これ以上一人もその汚れた手で触らせはしないと、逃げる生徒を守るように絶奈は立ち塞がる。
    『アーあー』
     声にならない呻き声と共に、5体のゾンビ達は好き勝手に動き出す。ある者は灼滅者へ、ある者は逃げた生徒を追おうと、ある者は違う階へと向かうため階段に歩き出す。
    「他の階になんて行かせないよ」
     チモシーが漆黒の弾丸でゾンビの足を撃ち抜く。肉を撒き散らして膝に穴が開き、ゾンビがバランスを崩して地を這う。
    「学園はやっとできた居場所なんだ。だから何が何でもこんな存在を人目に晒す訳にはいかないんだよ」
     そこへ侑二郎が縛霊手を展開させて階段方向へ進むのを妨害するように結界を張った。

    ●死体の死体
    『ゥアァあー』
     真面目そうな女生徒のゾンビが大きく口を開けて噛み付こうとしてくる。
    「涎が垂れてるっすよ」
     前に出た絹代がスカーフを振り回し、女生徒とその後ろにいた男生徒を纏めて薙ぎ払った。
    「仕方ないとはいえ……さっきまで生きていた人と戦わないといけないなんてね」
     倒れた女生徒のゾンビへ響が剣を振り下ろす。肩口から入った刃が胸に届く。心臓を破壊する一撃、それでもゾンビと化した少女は剣を手で掴み、無表情で口を開き剣に噛み付いた。
    「悪いな、大人しく成仏してくれ」
     そこへ供助が刀を一閃させ、少女の体を動かすエネルギーを断ち斬った。糸が切れたように少女が地面に倒れ伏す。その背後から箒をバットのように構えた少年のゾンビが襲い来る。
    「憐れ、です、ね……」
     ほんの僅か前にはそうやって遊んでいたのかと蒼の瞳が揺れる。だが目の前に居るのは既に死んだアンデッド。出来る事はただ倒して解放することだけと戦意を高める。
    『アァーー』
     フルスイングする箒を巨大な鋏で受け止めると、そのまま箒を切断した。同時にエネルギーを吸収してゾンビの力を弱らせる。
    「私達に出来るのは、一刻も早くその呪いのような連鎖から解放する事だけです」
     正面から接近した絶奈が腕を突き出すと同時に、装着した巨大な杭が撃ち出されゾンビの胸を貫く。杭を引き抜くと向こうが見通せる巨大な穴がぽっかりと開いた。
    『あァーーー』
     穴の開いたままゾンビはよろめきながらも歩き出す。
    「……ごめん、でも他の人を巻き込むことはさせない」
     狭霧が緋色のオーラを剣に纏わせ一閃する。するとごろりと首が落ちて転がった。少年のゾンビは崩れ落ち力尽きたように動かなくなる。
    『ゥゥッ』
     もう一体の少年のゾンビがその転がった頭を拾い、ボールのように投げつけて来る。それをわさびが肉球で弾き飛ばす。
    「まだ野球をやってるつもりなのかな?」
     首を傾げたチモシーが指差すと、指輪から放たれた魔力が消火器を拾おうとしたゾンビの腕を石化させる。
    「助けてあげられなくてごめん。君はもう死んでしまってるんだ。だから天国に送るよ」
     侑二郎が炎の渦を生み出し、ゾンビの全身を包んで燃やし尽くす。ゾンビは弱々しく動かなくなり、力尽きた。
    「残り2体っすね、これが最初に現われたゾンビみたいっすけど、普通のおっさんの死体っすね」
     絹代が視認できるほどの黒い殺気を放ち、ゾンビ達を包み込む。
    『あぁああー……』
     すると苦しいのか、呻き声を発しながらゾンビ達は近くの教室に入ろうとする。
    「この状況を作り出したのはお前達だ、だがお前達もセイメイによる犠牲者なのだな。ならすぐに楽にしてやる」
     その前に割り込んだ響が剣を振り抜く。ゾンビは防ごうと腕を上げたが、刃は素通りしてゾンビの霊体を切り裂く。
    『ああァァ』
     ゾンビは口を大きく開き、虫の混じったどす黒い体液を吐き出す。
    「すまねぇが、ここから逃がす訳にはいかないんでな」
     上段に構えた供助が刀を振り下ろし、剣圧が体液を吹き飛ばした。そして大きく踏み込み刃を返すと、逆袈裟にゾンビの体を斬り上げた。
    『あーー』
     ゾンビは反撃に体液を撒き散らす。それをわさびが受け止めた。
    「もう、仮初の、命は、終わりに、しましょう……」
     蒼は魔力を込めたロッドを振るい、ゾンビの胸に叩き付けた。すると破裂したように胴体が弾け飛ぶ。それでもゾンビは生き汚くずりずりと床を這いずる。
    「好い加減、セイメイの痕跡や遺物には歴史から御退場頂きましょう」
     そこへローラーダッシュで接近した絶奈が頭部を蹴り上げる。すると炎に包まれてゾンビは朽ちていく。
    『ゥゥゥぉぉ』
     くぐもった声を出す最後のゾンビが反転し、廊下の窓ガラスを割って外へ逃れようとする。
    「申し訳ないっすけど、逃げられると困るんで」
     がしゃりがしゃりと狭霧の影が餓者髑髏の姿となって、ゾンビを握るように捕らえた。
    『ゥゥッゥゥ……』
     ゾンビは影から逃れようともがき、片腕を引き千切られながらも拘束を抜け出す。
    「一人でも逃すとどんどん広がっちゃうからね、ここで全滅させないと」
     チモシーの放った魔力がゾンビの足を石化させる。それは徐々に足から胴体へと伝わり、全身を石へと変えていく。
    『ゥァァァァ……』
    「守りたいものがあるんだ。だから……ごめん」
     侑二郎が竜巻のように蹴りを見舞う。すると石と化したゾンビの体は粉々に砕け散った。
     最後のゾンビが倒れ戦いが終わる。放課後の学校の廊下には動かぬ死体が静かに眠るように並んでいた。

    ●死者は眠る
     窓からは生徒達がいつものと変わらぬように下校する姿が見える。灼滅者達の居る一帯だけが異界のように死臭に包まれていた。
    「これで全員ですね。一般人の血を吸うのは申し訳ないですが、今は緊急事態ですから仕方ありませんね」
     ぐったりとした生徒達を牙を生やした絶奈が見下ろし、首筋に口を近づける。作業的に次々とその血を吸い上げ、首に小さな傷跡の残していく。
    「うぅ……何とか、終わったっす………」
     涙目になりながら屈んだ狭霧が口元の血を拭う。目の前の生徒達は最初に逃がした学生だった。ゾンビや自分達を見た生徒の血を吸い、記憶を曖昧に濁したのだ。
    「うぇ、気持ち悪い……」
     苦手な血の味と臭いに、思わず吐きそうになるのを口を押さえて堪える。その背中を誰かが優しく叩く。振り向けば供助が心配そうにしていた。
    「お疲れ……気分、悪かったら口直ししにいこうや」
    「そうっすね、さっぱりしたものが飲みたいです」
     供助の言葉に狭霧が頷き、背中をさすられて少しは気が紛れたと立ち上がった。
     その横では死体が他殺だと分からぬように侑二郎と響が偽装し、損傷の軽いものは絹代が仮初の命を与えると、ふらふらと歩いて出て行った。自分が死んだ事も分からずに家へと帰ったのだ。
    「ごめんなさい。だから、せめて安らかに」
     侑二郎が損傷の激しい死体に火を点ける。炎が弔いの送り火のように揺らいだ。
    「……助けられなくてごめんな」
     隣でで響も手を合わせる。表情は落ち着いているが、その声は僅かに震えていた。
    「……セイメイは、何を、企んでいた、のでしょう、ね。……碌な、事では、ない、のでしょう、けど……」
     黙祷を終えた蒼が呟く。セイメイが消えてもこれだけの被害が出たのだ。生きていれば更に大きな事件となっていたのだろうと想像する。
    「もう少し頑張ってたら今回の被害がもっと減ってたのかなー」
     全力で迷宮に挑んだのは確かだが、もっといい方法があったのだろうかとチモシーは思い馳せる。
    「さっ、終わったし帰るっすよ!」
     絹代が明るい声で皆に呼びかける。いつまでも暗い気持ちでいても死んだ者は戻ってはこない。
    「そうだね、また誰かに見られたら面倒だし、帰ろうか」
     答えのない事に頭を悩ませても仕方ないと、チモシーは首を振って固かった表情を緩める。
     こんな犠牲をもう出させはしないと誓い、灼滅者達は振り返らずに歩き出した。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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