セイメイ最終作戦～瀬戸際のゾンビとの攻防

■リプレイ

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「セイメイめ、生きても死んでも面倒事を。ホント救いようのねぇヤツだな……」
　夜の帳が落ちていく、そんな高校の校舎を見上げ月雲・悠一（紅焔・d02499）はぼやき、意識を即座に切り替えた。
「……と、愚痴ってばかりもいられない。今回はスピードが勝負、急ぐとしようぜ」
「……ったく、面倒なモン残して行きやがって。残らず潰しちまわねえとな」
　忌々しげにダグラス・マクギャレイ（獣・d19431）は、吐き捨てる。それにライラ・ドットハック（蒼き天狼・d04068）も小さくうなずき、肯定した。
「……大元を断たないとね。セイメイの痕跡は残さず消す」
「リアルで学校暮らしオブザデッドはさすがに……これ以上被害を拡大させるわけにはいきません」
　黒岩・いちご（ないしょのアーティスト・d10643）の決意の言葉に、隣に居た墨沢・由希奈（墨染直路・d01252）が続ける。
「セイメイも最期まで迷惑だね……ゾンビ映画のゾンビみたいなのを作ってるなんて。起きた惨劇はもう止められない……けど、止めなきゃ！」
　フィクションと現実には、大きな差がある――それは命が失われるか否か、だ。この差は大きい、とても大きいのだ。
　学校の見取り図は頭に入っている――神音・葎（月黄泉の姫君・d16902）が、口を開く。
「そうですね、では救出班はこちらです」
「隠仁神、捜索に加わってくれ。回復を主軸に、手が足りてる時には攻撃も頼むぜ」
「はい、お任せください」
　ダグラスの指示に、隠仁神・桃香（高校生神薙使い・dn0019）が真剣な表情でうなずいた。役割は決まっている、校舎を駆け抜けながらのこのやり取りは終わり――後は、速度勝負だ。
「さて、さっさとゾンビを倒して、人助けと行くか」
「セイメイの嫌な置き土産は早めに消毒にゃー！」
　直刀・覇龍を手に九条・龍也（真紅の荒獅子・d01065）が言い捨て、遠間・雪（ルールブレイカー・d02078）が拳を突き上げ高らかに宣言する。
　――こうして、瀬戸際の攻防戦が幕を上げた。

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　ゾンビ捜索班が、それぞれ校舎に散っていく。
「由希奈さん、無理は禁物ですよ？」
「大丈夫だよ、これぐらいなら……行くよっ！」
　いちごの呼びかけに、由希奈がそう答えた瞬間だ。乗り込んだ護衛班の眼前にゾンビが姿を現わしたのは。
『――――』
　まさに、ゾンビ映画そのままだ。何も映さない瞳で、ゾンビがゆっくりと振り返り、その手を伸ばしてくる。しかし、そのゾンビの手が届くよりも早く――捜索班のライラが、S-Rifle【ゲイ・ジャルグ】の光線槍の切っ先でそのゾンビを刺し貫いた。
「……ここは、任せて」
「頼む」
　ゾンビから視線を外さず告げるライラに、悠一はそう言って護衛班の先頭を進む。階段を使って、校舎の３階へと一気に駆け上がっていった。
「い、いちごくんも気をつけて……！」
　由希奈の言葉に、いちごはうなずきで返す。ところどころで、駆け上がる間も物音や気配がした。本当に、この高校はゾンビの徘徊する場になっているのだ――そう、自覚せざるを得なかった。
　３階に、たどり着く。周囲を見回すよりも早く、篭城場所がどこか気付いた。ガゴン！　と、破砕音が鳴り響き、悲鳴が聞こえたからだ。二体のゾンビが、教室のドアを何度も何度も殴り破壊しようとしているのだ。
「……せめて一刻も早く眠らせてさしあげます」
　葎は言い捨て、駆け出した。突き出した縛霊手が展開され、ヴン！　と除霊結界を発動させる。バチン！　と二体のゾンビが結界に弾かれて体勢を崩したところへ、いちごと由希奈が同時に駆けた。
「由希奈さん！」
「ええ！」
　由希奈が、バベルブレイカーを地面に突き立てた刹那、衝撃が廊下を走る。そこへバイオレンスギターを振りかぶったいちごが渾身の力で叩き付け、ビハインドのアリカがレイピアを突き刺した。
『――――』
　オルタナティブクラッシュを放った直後のいちごへ、殴られなかった方のゾンビが鉤爪を伸ばす。しかし、その手は届かなかった。悠一の加速を得た戦槌【軻遇突智】のロケットスマッシュが、吹き飛ばしたのだ。
「とっとと、叩き潰すぜ」
　そして、Miachを一角のように構えたダグラスが疾走。ゾンビの胸部を刺し貫く！
「だ、誰だ、あんたら！？」
　崩れたバリケードの向こう、男子生徒からの呼びかけにダグラスは肩をすくめて、悠一は密かに呼吸を整えて言った。
「ああ、専門業者がゴミ掃除に来たってトコだ」
「ゾンビもいるんだ、超能力者もいるさ。助けに来たぞ」
　――戦いは、長くは続かない。ゾンビの戦闘能力は、決して高くはないからだ。ゾンビを粉砕した灼滅者達に、教師が口を開く。
「あ、そ、の……ありが、とう？」
「いえ、どういたしまして」
　いちごが、そう笑顔で答えた。しかし、五人の――特に、女生徒達の怯えようは痛々しいものだった。
「信じてという資格は私には、ない。だけどせめて……守らせて」
　葎がそう呟くと、由希奈がひとつうなずく。そして、優しい風が吹き抜けていった。
「……ごめんね。でも、こんなことは忘れた方がいいよ……おやすみ」
「え、あ……っ……」
　ＥＳＰ魂鎮めの風だ。由希奈の言葉に、五人の生存者達は眠りに落ちていく。近くに居た男子生徒を抱き留め、葎はその耳元で囁いた。
「忘れてください、せめて――」
　あなた達だけでも、という囁きと共に葎はその牙を首元に突き立てる。ＥＳＰ吸血捕食――眠りに落ちた彼らに吸血を施すのは簡単な作業だった。
「初めて見ました……」
「見張りを続けていただけますか」
　いちごの思わず漏れた呟きに、葎は普段よりも硬い声で願う。はっ、見てはいけなかったかも……、と視線を逸らしたいちごに、葎はため息をこぼした。
（「……あまり、よい気分ではない」）
　これまで、特定の大切な人以外からは人間への吸血を避けていた――必要があるとはいえ、やはり心にずしりと重みがかかる。それが罪悪感なのか、あるいは喉を通る血の味から来るものなのかは、定かではないが。
　――五人に葎が吸血を施している、その間。悠一は、教室から離れた廊下の片隅にいた。そこに倒れていたのは、一人の女生徒だ。ゾンビに噛まれ、絶命した――そのはずだった。
『……っ……』
　しかし、ビクリとその指先が動いていた。心臓は止まっている、既に死に絶えながらなおも動く……動かされる。同じ、ゾンビとなるはずの死体だ。
（「……本当なら、家族の元へ還したいが……悪いな」）
　口には出さない、出せない。悠一は、女生徒の肩に触れると優しく炎を点した。せめて、その死を穢さないように……そして、悠一は燃えていく女生徒の姿に、思う。
（「こんな事が、いくつもの場所で起きてるのか……」）
　ふと、悠一の背中が強く叩かれた。振り返れば、それはダグラスの手だった。そのまま背中を見せて歩いていくダグラスは、悠一が口を開くよりも早く、告げた。
「あの五人を頼むぜ。俺は、この馬鹿騒ぎを一秒でも早く終わらせてくる」
　ダグラスの表情は、見えない。しかし、表情は伺えた。肉食獣が、歯を剥くように笑っているだろう。笑みとは、人と獣では意味が異なる。獣にとってのそれは、獲物へと向ける威嚇だ――吼える事も、言葉もなく、ただ目的を実行するためにダグラスは走り出した。

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　この高校の生存者は、五人のみ――残りは、犠牲者と屍人のみだ。
「護衛についてる奴もいるし、大丈夫だとは思うがなるべく早く倒して、合流しよう。何が起こるか分からんからな」
『了解にゃー！　あ、バクゥ。そっちね♪』
　携帯で確認を取りつつ龍也がそう告げると、通話の向こうで雪が戦闘に入っていた。龍也も通話が切れても、気にせず視界を廊下へと向けた。
（「噛まれた死体が、全部ゾンビになる訳じゃないんだな」）
　龍也は、倒れたまま動かない死体にそう判断する。生殖型ゾンビの感染率も１００％ではない、という事だろう。
　だが、ゾンビとの遭遇は少なくない。放課後の人の少ない時間帯でこれなのだ、もしも人の多い時間であったなら――その想像は、十分に気分を害するものだ。
　龍也は、ガラリと教室のドアを開いた。散乱した机と椅子、そこにいたのは二体のゾンビだった。
「さて、打ち抜くぞ？　止めてみろ」
　龍也は、そう言い捨てると床を蹴る。ゾンビは、反射的に龍也に反応するが――遅い。既に一体の間合いへと踏み込んでいた龍也の放電光をまとった拳は、ゾンビの顎を打ち抜いていた。
「弱いな」
　拳から伝わる、あまりにも脆い感触に龍也は苦々しく吐き捨てる。もう一体のゾンビの鉤爪も、降り向きざまの直刀・覇龍で受け止めた。
　相手が強ければ強いほど笑顔が深くなり、闘いを楽しみながらどんどん高揚していく龍也にとって、二重の意味で笑える状況ではなかった。
「せめて、とっとと終わらさせてもらうぜ？」
　そう言い捨て、体勢を立て直した二体のゾンビに龍也は無表情で構えなおした。
　――校舎内のゾンビは、多くはない。それは不幸中の幸いではあったが、逆に打ち漏らしがないようにという気遣いが重要になっていた。
「よいしょっと♪」
　雪は跳躍すると、一気に階段の踊り場へと跳ぶ。ゾンビは、それに見上げるが同時に大きく体勢を崩した――霊犬のバクゥが緑色の炎の軌跡を描いて先に駆け下り、斬魔刀を振るったからだ。
　そして、ズドン！　と雪の振り下ろした機甲斧槍【スワンチカ】の一撃がゾンビを両断した。
「あ、遠間さん。そちらは、どうですか？」
「こっちは虱潰しにしたにゃー」
　ちょうど通りかかった桃香の問いに、雪は笑顔で答える。そんなやり取りの間も、バクゥは雪の足元で警戒を怠らない。
「さっき、ドットハックさんからの連絡で――」
　桃香がそう言いかけた時だ、ガゴン！　と階段の下から破砕音がした。その音に、桃香はすぐに続ける。
「職員室に向かう、と。この時間なら、一番人が多かったのは、そこのはずです」
「わかったにゃー！　アタシは直行するから、証拠は集めといてね♪」
　はい、と携帯を片手にうなずく桃香に、雪はバクゥを伴って走り出した。
　――職員室は、二階にある。凹の字を描く校舎、二階でももっとも広い部屋だ。
「……四体か、ここからは出さない」
　M-Gantlet【プリトウェン】を握り締め、ライラが言い捨てる。教室にあった死体は二つ、どうやら二人はゾンビにならずにすんだらしい。蒼くマテリアルを輝かせ、ライラは襲い来るゾンビを殴打し、吹き飛ばした。
『――！』
　ゾンビ達の動きに、ライラは素早く位置を調整する。一体一体は強くない、しかし、四体となると油断はできなかった。
　伸ばされる鉤爪、しかし、そこへその声が降り注いだ。
「手伝いに来たぜ」
　ダン！　と獣のごとき跳躍からMiachを床に突き立て、ダグラスの衝撃のグランドシェイカーがゾンビ達を揺るがした。ライラへ、ダグラスは鮫のような笑みと共に言う。
「隠仁神から電話があってな、俺の方が近かったから加勢に来たぜ」
「そして、アタシも到着にゃー！」
　ガラリ、とドアを開けて、雪がブンブンと手を振る。ライラはこくりとうなずきを一つ、S-Rifle【ゲイ・ジャルグ】を構えた。
「……形勢逆転ね」
　その通りだった。３人の灼滅者が集まってしまえば、もう四体のゾンビでは太刀打ちできない。
　――こうして、校舎を徘徊していた全てのゾンビが始末される事となった……。

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「擬死化粧で、ゾンビにならなかった死体は細工してみたよ」
「ありがとうございます、月岡さん」
　サポートで訪れていた悠の言葉に、桃香は頭を下げた。ＥＳＰ擬死化粧による加工によって、ゾンビに襲われたという超常な死因から、当たり障りのないものへと変えられる事だろう。
　そして、そのための細工の準備も終わろうとしていた。
「細工は終わったぜ」
　ダグラスの言葉に、仲間達もうなずく。家庭科室でゾンビの残骸を焼却すると共に、火事として処理するように細工したのだ。
「……これで、死体の死因も煙を吸ってしまった不幸な結果で終わるわね」
「そうですね」
　ライラの呟きに、葎はうなずく。傍らには、気を失ったままの五人の姿がある。彼らも命からがら逃げ出せた、そう記憶も曖昧になってくれる事だろう。
「どうか成仏してほしいにゃ～。でも仇はしっかり討ったにゃ」
　燃える炎に、そう雪は手を合わせる。全てが終わった、その安堵に思わずいちごが隣にいた由希奈を抱きしめた。
「つ、つい……」
　周囲の視線に、いちごははっと我に返って手を離す。由希奈も真っ赤になりながらも、離れた。
　――こうして、瀬戸際の攻防は終わりを告げた。痕跡はできうる限り消し、彼らの細工によって少々の不自然はあったとしても現実的な結論に至るだろう。
　火事は、長くは続かない。可燃物が近くにないよう気を配ったからだ。こうして、セイメイの最終作戦の一つは幕を下ろしたのであった……。

作者：波多野志郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年3月17日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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