セイメイ最終作戦~亡者の猛量

    作者:幾夜緋琉

    ●セイメイ最終作戦~亡者の猛量~
     日が暮れ始めた夕刻。
     下校時間から少し経った学校内には、残っている学生達はそんなにいない。
     いつもは少し静かになりはじめた、落ち着いた時間の筈……なのに、そんな時間には似合わない、叫び声が響き渡る。
    『ぎゃあああああ!!』
    『た、たすけ、たすけてくれぇええ!!』
     その声は、断末魔の叫びか、命乞いの声か。
     ……学校の中は、悲惨な状況と化している。
     それは、校舎内に発生したゾンビの為。
     このゾンビ達は、校舎にいる学生、教師、職員……等々を喰らっていった。
     そして喰らわれた者達は、等しくゾンビと成り果てていく。
    「な、なんだよ……なんだよこれぇ……」
    「知らねえよ! オレに聞くな!!」
    「ううう……博子ちゃん。博子ちゃん……」
     と、学校の中のとある教室の中から聞こえてきたのは、人の声。
     口喧嘩している彼らは……生存者。
     教室の入口に椅子や机で作ったバリケードを立てて、どうにか侵入を防いでいるが……いつ破られてもおかしくはない状態。
     ……いや。
    『ドンドンドン!』
     聞こえてきた、ドアを叩く音。
     最初から強く、破壊しようと言う音に。
    「や、やめ……やめてくれええ!!」
     と、学生達は、大きな悲鳴で叫ぶのであった。
     
    「皆さん、先日の富士の迷宮突入戦、お疲れ様でした」
     深く頭を下げる姫子。
     白の王セイメイや、海将フォルネウスを灼滅し、白の王セイメイの準備していた数千体のゾンビを壊滅、そして白の王の迷宮をも崩壊させたのは、大勝利と言えるだろう。
     だが、姫子の表情は厳しいまま。
    「しかし、喜んでばかりもいられないのです。日本各地の高校の校舎において、白の王の置き土産とも言える事件が発生しているのです」
    「各地の学校の校舎に出現した数体のゾンビ。彼らが生徒などをかみ殺し、その生徒をゾンビ化しつつ、学校を制圧しようとしているのです」
    「このかみ殺した人間を同じゾンビとする性質から、仮にこのゾンビを『生殖型ゾンビ』と呼ばせて頂きますが……この生殖型ゾンビは、私達エクスブレインの予知を妨害する力がある様で、事件現場の状況は解りません」
    「しかし、事件が起る場所だけは確認する事が出来ましたので、急ぎこちらに向かって頂きたいのです」
     そして、姫子は。
    「今回の敵となる生殖型アンデッド。恐らくこれは、富士の迷宮の下層にいたモノと同じと推測されます。決して強力な敵ではないのですが……かみ殺した人間を同じゾンビとする能力は脅威です。放っておけば、次々と数を増やされ、生徒だけでなく、周辺住民をもゾンビ化してしまう事でしょう」
    「幸い、数千体いた生殖型ゾンビの大多数は、富士の迷宮での戦いで灼滅する事が出来ています。生き残るのは100体以下で、その全てが地上に出て来ている、と予測されます」
    「つまり……ここで全ての生殖型ゾンビを撃破出来れば、生殖型ゾンビの脅威を完全に払拭する事が可能かもしれません」
    「先ほどの件から、生殖型ゾンビにはバベルの鎖を持たない、という特徴もある様です。ゾンビの撃破後、ゾンビがいたという物証を持ち返るか、破棄する様お願いします」
    「バベルの鎖が無ければ、情報が伝達されないという効果もなくなり、物証を残せば残す程、ゾンビの様な超常現象が表に出て来てしまいますからね……完全に情報を遮断する事は不可能ですが、可能な限り証拠を隠滅出来るよう、宜しくお願いします」
     と、そこまで言うと、姫子は。
    「こんな危険な能力を持つ生殖型ゾンビを、数千体も準備していたとは……やはり、白の王は危険な存在だったでしょう。この残るゾンビを狩る事で、白の王の牙跡を全て始末出来るかも知れません。皆さんの力、どうかお貸し下さい。宜しくお願い致します」
     と、再度深く頭を下げた。


    参加者
    新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)
    氷霄・あすか(高校生シャドウハンター・d02917)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    熊谷・翔也(星に寄り添う炎片翼・d16435)
    夜川・宗悟(彼岸花・d21535)
    高坂・透(だいたい寝てる・d24957)
    エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)
    ライ・リュシエル(悪夢から逃げたい・d35596)

    ■リプレイ

    ●日暮れの狂乱
    「全く……やるせねえな……」
    「うん。そうだね……」
     熊谷・翔也(星に寄り添う炎片翼・d16435)と、高坂・透(だいたい寝てる・d24957)が零す呟き。
     ……普通のゾンビ退治かと思えば、今回のゾンビはバベルの鎖の効果を受けず、予知も効かぬという、今迄にない相手。
     しかしそれ以上に……今回のゾンビの一番特異なる点は、噛みつくとゾンビ化させる可能性があるという事である。
    「このゾンビ、セイメイの迷宮でも随分倒したけど……それでもまだそれなりの数が残っていたみたいね。今度こそ、一匹残らず灼滅してやらないと。それにしても、あの地下で全滅させられなかったのが本当悔やまれるわね。こいつ等が野に放たれれば、こうなると解っていたのに……」
     と、先のセイメイの迷宮戦での戦いを思い出し、唇を噛みしめるエリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)に、氷霄・あすか(高校生シャドウハンター・d02917)が。
    「ええ……本当、置き土産にして厄介すぎるものを残してくれたものね……ま、普通ゾンビなんて見るとしたら画面の中よね……住んでる世界が違うってのは、こういう事なのかもしれないわね」
     と瞑目。それにクリス・ケイフォード(中学生エクソシスト・dn0013)も。
    「確かに、そうだよね……学生達も、先生達も……ゾンビを見る事なんて、そう簡単にある訳無い。だから今、混乱の極みに陥っている……だからこそ、救わないと」
    「……ええ、なるべく被害が出ないように頑張らないといけないわね」
     と、あすかとクリスの決意に、新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)とライ・リュシエル(悪夢から逃げたい・d35596)も。
    「そうだな。誰に恨まれることになろうと、誰を悲しませる事になろうと……必ずやり遂げる。殺す誰かの友人に恨まれる事になろうと……殺す誰かの家族を何人も悲しませる事になろうとも……絶対に、ここで止める」
    「ん……早めに片付けて被害を減らさないと、だね」
     と頷き、気合いを入れる。
     そんな仲間達の言葉に対し……夜川・宗悟(彼岸花・d21535)は。
    「しかしこれ、どうにも生臭いな。ただの死体ではないからなのか。どちらにしろする事は変わりないのだけど、さ」
     と思慮する。
     ……それに紅羽・流希(挑戦者・d10975)は。
    「そうですね……噛みつかれたら、ゾンビ化する可能性があると言っていましたし……伝染性があるゾンビというのは、普通の死体ではないでしょうねぇ……となると、救出作戦も、二つ考えなければなりませんか……」
    「ん? 二つ?」
     エリノアが流希に訊ねる。
    「ええ……噛み傷のある被害者は、ゾンビ化する可能性がある事になります。つまり噛み傷がある被害者と、無い被害者を同じ部屋にすると……突如ゾンビ化してしまい、喰らわれる可能性がありますからねぇ……」
    「確かに……そうね……」
     流希の言葉に拳を握るエリノア。流希は更に。
    「何にせよ……校舎の中は私達が手分けしてやるしかありません。クリスや登らは、学校の周囲に陣取り、一般人の選り分けをお願いします……噛み傷がある被害者が逃げていく可能性も否定仕切れませんから」
    「うん。解ったよ、流希兄ちゃん!」
     拳を握りしめる登他、ジェフ、空、良太、清美、鎗輔。
     そして……透の妹、明は。
    「お兄ちゃん……」
    「……ん?」
     哀しげな明の言葉に対し、真っ直ぐに見つめてくる兄。
     明は……。
    「大丈夫です……どうか、ごぶじで。ここは明がまかされました……っ!」
     拳をぎゅっと握りしめ、気持ちを確り切り替える明。
     ……そして。
    「それじゃ……皆、覚悟はいいわね?」
    「ん……行くわよ」
     あすかと七葉が頷き合い……そして、灼滅者達は生殖型ゾンビの巣くう校舎内へ、足を踏み入れていくのである。

    ●連なる叫び
    『う、うわぁあああ……くるなくるなくるなぁ!!!』
    『やめろ、くるな、こっちにくるんじゃない。わ、わあああ!!』
     ……響く悲鳴、怒号。
     灼滅者達が足を踏み入れた校内は……ゾンビによって、半狂乱の極みに陥っていた。
     幸い、動きが遅いゾンビであるから、逃げ惑う学生達の本気の逃げ足に、多くは逃げおおせている。
     しかし……行く先にもゾンビが待ち構えていたり、薄暗闇の中、思うように脱出出来ない学生達も居る。
     そんな中、灼滅者達は4階層のフロアにそれぞれ2人ずつの部隊を配置。
     1、3、4階は、先ずは廊下で屯って居る生殖型ゾンビにファーストターゲットを定め、それぞれ攻撃を始める。
     一方、2階に属するライと流希の二人は……廊下よりも先に、教室の制圧を開始する。
     幸い、教室全てに生殖型ゾンビが居る訳でも無く……むしろ、逃げ込んだ学生達のバリケードが、各フロアの様々な所に点在している程度。
     そして……そんなバリケードを発見した生殖型ゾンビが、ガシガシとバリケードを破壊しようと、攻撃している。
    「……させないよ」
     とライは、破壊行動を起こしているゾンビに言い放ち、すぐに影喰らい。
     一方流希も、言葉少なくオーラキャノンや居合斬りで、生殖型ゾンビを次々と切り崩していく。
     ……そして、バリケードの中の、命からがら逃げおおせた学生達を救出。
     救出すると共に。
    「みんな、この中に咬まれたのは居ないよな?」
     と、咬み傷の確認も行う。
     ……そしてバリケードの教室を、先ずは生存者用の保護区域と定め、少年達には暫くそのままで居る様に指示を出す。
    「さて……後もう一箇所か……」
    「そうだね……教室一つ、開けておいた方が良いよね」
    「ああ。そうだな……」
     ライに流希は頷きつつ、教室一つの間を開けて、もう一つの教室を制圧。
     二つの拠点を制圧すると、取りあえずはその二つの教室を護る様、広く展開し、積極的に生殖型ゾンビを狙うのを止める。
     ……そして、その間にも残る仲間達は、各フロアの生存者捜索を、フロアの端から端まで、満遍なく確認を行う。
     立ち塞がる、生殖型ゾンビ……そして、生殖型ゾンビに噛まれ、その場に倒れている、学生達の姿も。
    「……」
     守るべき者達の死に絶えた姿は……灼滅者であったとしても、心に強い衝撃を与える。
     ……しかし、だからといって、ここで立ち止っている訳には行かない。そう、自分の心に言い聞かせる。
     その頃。
    「ん……せめて、安らかに」
     1階の七葉は、エリノアと共に、犠牲者で、ゾンビとして覚醒してしまった被害者を確実に仕留めていた。
     しかし、その場に倒れている被害者に対しては、一端、フロア制圧までは放置せざるを得ない。
     咬まれ、死んでいるはずの者達……しかし、不意に起き上がり、ゾンビとして再覚醒する被害者も……。
    「本当……厄介ね、生殖型ゾンビって」
     と吐き捨てる様に呟くエリノア。
     同じような状況が、3階、4階でも同時に発生していく。
     余りにもゾンビとの数差が付いた時……危険な状況と判断し、一端教室などに身を隠し、ターゲットを切る。
     それでも逃げられない様な、しつこいゾンビ。
     仲間達に連絡を取り、流希とライの加勢を貰い、どうにか倒して行く。
     ……そして確実に、一匹ずつ、生殖型ゾンビを倒す。
     一方……校舎外に大きく展開したクリスらは……校舎から逃げてくる学生達の最後の砦。
     逃げてきた学生の咬み傷を確認し……咬まれているならば、容赦無く殺す。
    「不憫だとは思うけど、外に出すわけにはいかないしね」
    「全くだ。屍王というのは、どいつもこいつも……」
     鎗輔に良太も舌打ち気味に頷き……確実に、一匹ずつ倒していく。
     対し、咬まれていなければ、慌てないように言いつつ、外へと逃すようにする。
     そんなゲートの役割を続けていると……その騒ぎを聞きつけた警察などがやってきてしまう。
     そんな警察の人達には、明がプラチナチケットを使用しつつ。
    「ごめんなさーい。学校祭の準備で騒いでるみたいでー」
     と。
     ……こんな時期に学校祭……というのに眉を顰める警察官だが、プラチナチケットの効果もあり、それ以上追求される事無く、彼らは帰って行き……ほんの僅かではあるが、胸をなで下ろすのであった。
     そして……灼滅者らが校舎に入り、小一時間程が経過。
     その頃には、4階の内の1、2階を完全に制圧していた。
     残るは後2階。
     上層階の方は、逃げ遅れた学生達も他層に比べて多い様で……自ずと相手にするゾンビの数も多い。
    「本当……生殖型ゾンビというのは、厄介な相手だな……一匹を倒しても、喰った人数増えるとは……」
    「ええ……しかし倒さなければ、世に出て更にゾンビを増やしてしまう。ここで……何とか断ち切らないと……!」
     と翔也とあすかは言葉を交しつつも、確実に生殖型ゾンビと、喰われたゾンビを討伐。
     一階を担当していた七葉、エリノアも、生存者と被害者を二階のそれぞれの拠点へ避難誘導させた後に、合流。
     ……勿論、その間において、喰われ、発症したゾンビ達は、流希、ライの二人が、心を鬼にして倒し続ける。
     ……ある意味、ゾンビとなった一般人を倒し続ける二人が、一番辛いはず。
    「……後、もう少しだ。後もう少しで……」
     と、誰へという訳でもなく、呟く翔也。
     あすかと共に、3階のゾンビ達を確実に仕留め続ける。
     そして、3階のゾンビを全て仕留めれば、後は残る四階のみ。
     特に逃げ遅れた学生達が多く……教室、廊下には、死亡した学生と、ゾンビがうようよとうろついていた。
     そんな……死屍累々の光景を、ずっと見続けながら戦い続けた透、なの、宗悟。
     自然と、武器を握る手が震える。
     ……が。
    「……俺達が、これで怯んでいてどうする……友達を失った、この学校の生徒達じゃないか」
     と、何度も、何度も自分へ言い聞かせながら、黒死斬の一閃を揮い、透はレイザースラスト、ナノナノのなのはたつまき等を使い、立ち塞がるゾンビ達を次々と一網打尽にする。
     ……そして、1、3階の仲間達も、各層の掃討を完了して合流。
     6人による総攻撃で……立ち塞がるゾンビ達を力尽くで。
    「……これで、終わりにしてやる……!」
     と、宗悟の黒死斬が……最後の生殖型ゾンビを一刀両断に、切り伏せるのであった。

    ●連鎖の断者
    「……終わり、ましたか……」
     そして……校舎の中から、完全にゾンビの呻き声が聞こえなくなり、更に15分以上が経過する。
     動き出す死体も無くなり……念の為集めていた、噛み傷のある被害者も……特に異常は見られなかった。
     その間に……監視している流希とライの他の仲間達で、無事な生存者達を、学校から帰らせていく。
     被害者が帰った事の連絡を受けた後……流希、ライらは遺体を学校の中庭へと運び……グラインドファイアで、火葬。
     そして火葬を終えて……校門に戻ってきた二人を迎える仲間達。

    「……依頼を達成出来た筈なのに……どうして、何か心が重いのかな……」
     と七葉がぽつりと呟いた言葉に、頷く鎗輔。
    「そうだね。なんだか、やるせない気持ちでいっぱいだけど、ね……」
    「……ええ。この予兆から予測して、ゾンビ以外にも念のため備えてるけど……当って欲しくはないわね」
    「うん……」
     エリノアやあすかも……その言葉は、辛い悲痛さが色濃く滲んでいる。
     ……そして、あすかと宗悟は、皆の体をクリーニングで返り血などを一通り綺麗にして。
    「みんな……お疲れ様。ゆっくり、休んでね……」
     とクリスが、精一杯に絞り出した言葉に……ライはこくりと頷きつつ。
    (「……どれほど覚悟を決めても……やっぱり哀しいな……でも、謝らないよ。許してなんて、口が裂けても言えないもの……せめて安らかに……お休みなさい……」)
     心の中で呟き、俯き……一筋の涙を零しながら、祈りを捧げる。
     そして……それぞれが、それぞれの帰路に。
     ……誰も、重い口を開くことなく……失意と共に。
    「……ままならない、ものです……」
     そして流希も……守るべき者に手を掛けねばならないという悔しさに、ぽろぽろと涙を零すのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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