セイメイ最終作戦～死者と生者の境界線

■リプレイ

●作戦開始・保険室救出班
　血と死の臭いが蔓延する放課後。灼滅者達は白の王が残した忌まわしき置き土産をこの世から抹消すべく、とある高校を訪れていた。
「先ずは保健室の生存者の安全確保……１階だな。行くぞ」
　御神・白焔（死ヲ語ル双ツ月・d03806）はそう呼びかけると、保健室救出班の３人は一直線に保健室へと向かう。
「グアァァーー……」
「……まあ元は人だったけどもう生きてない人だから、躊躇しなくてもいいよね」
　ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ（愛と殺意・d36355）は立ち塞がるゾンビを前にそう呟くと、闘気の塊を放ちゾンビの全身を消し飛ばす。
　そのまま校舎内に突入した３人は、血に塗れた廊下を突き進み保健室を目指す。
「見えました……あそこですね。灼滅者の役割を、果たすとしましょう」
　色射・緋頼（生者を護る者・d01617）の視線の先には保健室と、そこに群がる複数のゾンビ達がいた。
「ウガァァアアーー！！　ガァアアアアアア！！」
　複数のゾンビ達が撒き散らす暴力に保健室のバリケードは揺らぎ、今にも崩れそうだった。
「だけど、まだ間に合います。この惨状を引き起こしてしまったのはわたし達の不手際ですが、だからこそこの場は私達が治めるべきです」
　保健室を壊す事に夢中になっているゾンビ達は、接近している灼滅者達に気がついていない。緋頼は己の魔力を引き出し魔術を詠唱すると、魔法の矢を形成する。
「これ以上の悲劇は、わたし達が阻止してみせます」
　そして放たれた無数の魔法の矢が野球服姿のゾンビの背に突き刺さり、一瞬にして仕留め切った。
「な、今のは何……？　貴方達は誰？」
「悪いが質問に応えるのは後だ」
　バリケードの奥から聞こえる保険医の声に白焔は端的に応えると、白焔は鋏を持った学生ゾンビの背後に一瞬にして回り込む。
「此処だ」
　そして白焔が放った高速の蹴りはゾンビの背を抉るように斬り裂き、ゾンビは血飛沫を飛ばしながら崩れ落ちる。
「んー……ボク達にはバベルの鎖があるから多分大丈夫だろうけど、あまり目立った事はしない方がいいよね」
　ロードゼンヘンドは残りのゾンビ達を前に笑みを深めると、組みかかってくるゾンビ達を躱し全身から殺気を放つ。
「纏めてで悪いけど、今度こそ永遠の眠りとやらについてね」
　その殺気はゾンビ達の魂と肉体を同時に蝕み、ドサリドサリとゾンビ達は倒れ伏していった。
「……１階のゾンビはこれで全部か？」
「この辺りのゾンビ達は保健室に引き寄せられていたみたいだし、そうだと思うよ。ゾンビに噛まれた死体は、まだあると思うけど……」
　周囲にゾンビ達の掃討を確認した白焔が呟くと、緋頼は小さく頷きながら応えた。
「体育館までのルートの確保にはもう少し時間がかかるかな？　……と、忘れてた。初めまして、色々解らない事だろうけど、とりあえず幸運にも生き延びた皆を助けに来たよ」
　ロードゼンヘンドは保健室のバリケードを崩し中に足を踏み入れると、顔を強張らせる生存者たちにニコリと笑みを浮かべた。

●作戦開始・避難所確保班
「うむ。予想はしておったが、やはりこれは酷いのう。冗談じゃ済みそうにもないし、さっさと終わらせてやるかの」
　赤黒い血の跡で汚れた体育館の戸を開け放った分福茶・猯（不思議系ぽこにゃん・d13504）は、坦々と呟いた。
　そこにあったのは無惨な姿に成り果てた多くの学生達の死体。そしてそれを取り囲む様に蠢くゾンビ達の姿だった。
「どうやら、大半が逃げ遅れちゃったみたいだねぇ……あ、生きてる人！　まだ隠れててね！　今助けちゃうからさ！」
　軽い口調で呼びかけた小此木・情（とうがん・d20604）は、蠢く死者たちを灼滅すべく魔力が込められたカーキ色の傘を構える。
「……始めましょうか。こういう事態には不服ですが……役割は十全に果たしましょう」
　病葉・眠兎（紙月夢奏・d03104）は唯々目的を達成すべく、押し殺す感情も無くゾンビ達の排除へと向かう。
「この手合いに、わざわざサイキックを使用するまでもないでしょう」
　口を赤く染めた警官ゾンビの背後に回り込んだ眠兎は、その頭を両手で掴み上げる。
「静かにしていて下さい」
　そして渾身の力を込めると首の骨が砕ける鈍い音が響き、警官ゾンビは二度と動く事はなかった。
「さぁてと、手早く素早く終わらせちゃおうね」
　情は傘を手にゾンビ達の中心に突撃すると、ゾンビ達の急所を一瞬で見抜き傘を振るう。
「バベルの鎖が無いだけでこんな厄介な代物になるなんてね。セイメイはこれで何をしでかそうとしてたんだか」
　次々と放つ情の殺人技は、ゾンビ達に容易く二度目の死を与えていく。
「ゾンビに噛まれ動き出す死体……次は理科室の人体模型とか動いたりしないかのう？」
　猯は片腕に装着した縛霊手に業火を纏わせると、残った最後のゾンビにするりと接近する。
「一先ずはこれで終いじゃ。やる事はまだ山積みじゃがの」
　振り降ろされた灼熱の爪はゾンビの身体を掻き切ると、同時に放たれた炎がゾンビの全身を焼き焦がしていった。
「とりあえずこれでゾンビは全部かな？　……あー、もしもし？　本当に生きてる人いない？　ゾンビ達は全部倒しちゃったよ！」
　静まりかえった体育館で情が再び呼びかけると、体育館の隅の倉庫から小さなノックが響いた。
　眠兎はすぐさまプラチナチケットを発動させ倉庫に近づくと、最低限声色を柔らかくする努力をして話しかける。
「怪我はないですかっ、もう大丈夫です、安心して下さい。だけど私達が大丈夫と言うまでは、倉庫の外に出ない様にしてください！」
　そのまま急ぎ体育館と校舎を繋ぐ通路の安全を確認し終えた猯は、保健室救助班へ連絡すべく携帯電話をぽちぽちといじる。
「もしもし、わしじゃ。此方は丁度避難場所の確保が終わった所じゃ。道中の安全確保はわしも務めるが……死体が転がっておる事だけは先に伝えておいてくれんかのう？」

●作戦開始・校内探索班
　箒で空を飛び一気に屋上まで到達した２人の灼滅者は、目の前の光景に思わず眉をひそめた。
「これは……まったく、最後の最期でとんでもない置き土産を……」
　泉・星流（箒好き魔法使い・d03734）の眼下に転がっていたのは、首筋を噛まれ殺されたと思われる２人の男女の遺体。そして屋上から校舎に繋がる扉は、強引に破壊されていた。
「ゾンビ達に追われ屋上まで逃げたものの、持ちこたえられずにゾンビに殺された……未来ある命をこんな形で喪わさせるだなんて……」
　穂都伽・菫（煌蒼の灰被り・d12259）の心の中は、セイメイに対する怒りで満ちていた。
　既に灼滅されたかどうかは関係ない。例え地獄に堕ちようと、こんな悪行は許せるわけがないと、菫はそう思っていた。
　だが、今はやらなければならない事がある。２人は静かに遺体の処理を終えると、階下へと急ぎ向かう。
「幸いにも……っていう言い方は良くないかもしれないけど、どうやら今日は少数の生徒と教師しか残っていなかったみたいだね」
　校舎の４階には数体の死体しか無く、生存者の気配も無い。星流は静かに呟くと更に階段を降りる。
　４階、３階と手早く探索を終えた２人が２階に到達したその時、何処からか微かな悲鳴が響いてきた。
「どうやら、人が立て籠もっていたのは保健室だけでは無かった様ですね……急ぎましょう！」
　ゾンビ達は音楽室の分厚い扉を力任せに殴りつけ、ひしゃげた扉の隙間からは生徒達の恐怖の叫びが響いていた。
「こうなったら仕方ないね、今はスピード重視だ」
　今はとにかく扉からゾンビ達を引き剥がすべきだと判断した星流は、箒にまたがり急加速すると、ゾンビ達に突撃し纏めて吹き飛ばした。
「グォアアアアアア！！」
　倒れ伏したゾンビ達の数体が身を起こし星流を睨み付けるが、次の瞬間には菫がその背後から肉薄していた。
「（……無関係な貴方達を巻き込んでしまってごめんなさい）」
　心の中の謝罪と共に、菫はゾンビ達を縛る巨大な結界を構築し、全身を蝕まれたゾンビ達は纏めて灼滅された。
「きき、き、君達は一体誰だ？　けけ、警察？」
「少なくとも、キミ達の味方である事は確かだよ」
　ストレスで顔面が蒼白になった生き残りの男子生徒の問いかけに、星流は安心させる様にそう返した
「……こちら探索班です。校内２階の音楽室に生存者を数名発見しました。２階より上にいた他の一般人は全員死亡しています。これから、体育館まで連れていきます」
　菫は仲間たちにそう連絡を入れると、生存者たちにその手を差し伸べるのだった。

●
　班を分担し効率良く作戦を展開した結果、灼滅者達は生殖型ゾンビ達を殲滅し、救えるだけの命を救う事が出来た。
　保健室、体育館倉庫、音楽室に居た一般人達を体育館に集合させた灼滅者達は、今度は証拠の破棄を行い始めるのだった。
　程なくして聞こえ始めたパトカーのサイレンの音。これに対処する為校門へと向かったのは猯だった。
　人死にも出ているという通報の内容からそれなりの数の警官達がやってきていたが、猯は王者の風を使い纏めてこの場へ押し留める。
「こんな大所帯で来てもらって悪いがのう……実はあの通報は唯の悪戯だったのじゃ。悪いがこのまま帰ってくれんかの」
「い、いや……しかし……」
「わしの言葉に嘘があるとでも？　そんな事は神や仏やらその他諸々に誓ってありえん。さあ、早く帰るのじゃ！」
　ESPの効果と言葉に押された警官たちは、そのまますごすごと帰って行った。かなりの時間稼ぎになっただろう。
　一方の体育館では、生存者達に纏わる証拠の隠滅が行われていた。
「よし、これで全部の生存者たちが一堂に会した訳だけど……ちょっとごめんね！」
　情は王者の風を生存者達に使用すると、改めて呼びかける。
「さてさて、携帯電話とかボイスレコーダーは全部渡してね。すぐ返すから、ホントに！」
　大きな証拠と成り得る電子機器を、情は纏めて回収していく。
「白焔以外に、それも同意なしは抵抗がありますけど……」
　緋頼は王者の風を受け無抵抗となった一般人達に、吸血捕食を試みていく。
「……ごめんなさい。今日の出来事は、悪夢に違いないですけれど……」
　出来るだけ良い夢だと思えるように、と。緋頼は鮮血と記憶を奪っていった。
　一方その頃、白焔は校舎内の損傷が少ない死体に走馬灯使いを行っていた。
「あ、あれ……此処は……屋上？」
「……目を覚ましたか。覚えていないかもしれないが、今この学校は危険な状態だ。すぐに体育館へ向かってくれ」
　肉体が修復され目を覚ました２人の男女は、ぼんやりとした表情で白焔の言葉に頷き、寄り添ったまま体育館へと向かっていった。
　死という結末は避けられない仮初の命、彼等は最後の数日を如何にして過ごすのだろうか。
　そしてそれとほぼ同時進行で、灼滅者達は損傷の激しい遺体の移動を密やかに行っていた。
「やっぱり、擬死化粧だけじゃあ全部の遺体はカバーできないか……損傷が酷い遺体はどうにもできない」
　星流はゾンビや被害者たちの遺体に擬死化粧を試みていたが、腐敗が進んだものや大きく傷が入った死体には中々成功しない。
「上手く、事故に見せかけられるといいけど……」
　そう言いながら星流は、遺体を理科室へと運び込んだ。
「爆発事故に見せかけて処理ですか……証拠を残さない為なら仕方ない事、なんですよね……」
　菫はビハインドの『リーア』と共に、しっかりと遺体を抱え理科室へ運んでいく。
「…………ごめんなさい」
　最早元には戻らない、その１つ１つの命の重さを確かめる様に。
「何なんですかね、これは……記憶を消すとか、死体を隠すとか……灼滅者って、こういうモノでしたっけ……それに加担する、私も……」
　淡々と遺体を回収し運んでいた眠兎だったが、誰に言うでもなく呟いたその言葉と共に、一瞬自虐的な笑みを浮かべた。
　だがその笑みをすぐに消すと、眠兎はやはり淡々と作業を続けていく。
「…………私、嘘を吐くのは、嫌いです。秩序の徒で在りたいものですね」
　こうして走馬灯使いが効かなかった全ての遺体を理科室へと運び込むと、爆破の準備を整えていたロードゼンヘンドの呼びかけで灼滅者達は校舎内から避難する。
「一応薬品事故に見せれる様最大限努力したつもりだけど……まあ、多分何とかなるよね。着火！！」
　理科室の窓から飛び出ると同時に炎の華を撃ち放ったロードゼンヘンド。
　次の瞬間、理科室内で大きな爆発が引き起こされ、置いてあった死体の山は炎に包まれた。
「これで……本当に全部完了だね」
　その死体から一般人達が情報を得るのは、最早不可能となっただろう。
　ESPの効果が切れ引き返してきたのか、遠くから再びサイレンの音が聞こえる。
「………………」
　菫は無言で被害者たちに黙祷を捧げると、振り返り真っ直ぐと歩き出す。
　そして警察と入れ違いになる様に、灼滅者達はその場を後にするのだった。

　こうして全ての仕事は終わった。
　灼滅者達は学校に出現した全ての生殖型ゾンビを灼滅し、ゾンビが出現したという証拠を徹底的に破棄した。
　陰惨な現場を数多く目にし、決して後味の良い仕事とは言えなかったかもしれないが、灼滅者達は確かにセイメイの野望の残り火を完全に掻き消したのである。
　奪われた命の価値は計り知れないが、灼滅者達が守り切った命の価値もまた計り知れない。
　全てを終えた灼滅者達は、それぞれの居場所へと帰って行くのであった。

作者：のらむ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年3月17日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 5
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