勝ち組は許さない! ホワイトデーも荒らす!

    作者:芦原クロ

     都内某所、夜の公園で男子大学生が3人集まり、話し込んでいた。
    「なあ、おまえら今年のバレンタイン、いくつ貰った? 俺は3個」
    「俺は彼女から1個と、後輩の子達から何個か」
    「おまえモテるよなー。とか言って、オレ実はチョコくれた子と付き合い始めちゃいました」
    「え、マジ? チョコ貰って彼女も出来るとか、勝ち組じゃん」
     ひやかし半分に言う男子に対し、片方は照れくさそうに笑っている。
    「ホワイトデーのお返しは、もう考えてる? 俺は彼女を食事に誘うのが、お返しかな」
    『おのれ勝ち組! ホワイトデーでイチャイチャするつもりだな!? そうはさせない! この俺がッ! ホワイトデーまでとことん荒らしてやるうッ!』
     突如現れた男が、白いマシュマロを男子学生たちに投げつける。
    『ホワイトデーでマシュマロを渡す意味を知っているかッ!? あなたが嫌い、だぁッ! 俺は勝ち組が、大っ嫌いだぁああああ!』
     マシュマロをひたすら投げつける男は、血走った目で男子学生たちを睨みつけた。

    「春日さんのお陰で、予知が出来たよ! この男は都市伝説だね。今年のバレンタインにチョコを貰えなかった男性諸君がネット上で、ホワイトデーを荒らす男の話を作り上げたみたい。その話に、尾ひれがついて、噂となって広まり実体化しちゃったみたいだよ」
    「ネットの闇は……深い……」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が説明すると、春日・葎(トワイライトクライシス・d24821)が深刻な顔をして、ぽつりと呟く。
    「場所は夜の公園。ホワイトデーの話や、バレンタインに貰ったチョコの話をしていると、都市伝説は出現するよ! 念の為、人払いはしておいたほうがいいね。戦闘についてだけど、都市伝説はひたすらマシュマロを投げて来るよ。これは都市伝説の能力だから、マシュマロだけど、当たるとダメージが入っちゃうよ。チョコをあげれば、この都市伝説は弱体化するよ。時間を掛けて戦うか、チョコをあげて弱体化させて簡単に倒すか、みんなで決めてね」
     まりんは説明を終えてから、小さなカレンダーを手に取り、指で数える。
    「うん! ホワイトデーまで時間があるね。みんな、この都市伝説を倒して、無事にホワイトデーが迎えられるように、頑張ってね!」


    参加者
    斉藤・春(冬色れみにせんす・d19229)
    春日・葎(トワイライトクライシス・d24821)
    真柴・櫟(シャンパンレインズ・d28302)
    杜乃丘・ひより(フェアリーテイルシンドローム・d32221)
    天音・藍花(亜麻の花色の髪の乙女・d35440)
    平坂・穣子(中学生神薙使い・d36486)
    耳納・火禍子(緋玄怪異聞・d36502)
     

    ■リプレイ


     夜の公園に到着すると、斉藤・春(冬色れみにせんす・d19229)が殺界形成を使い、人払いを済ませる。
    (「食べ物を粗末にするのは許せません。私だってあの人が好きだった亜麻仁油をぞんざいに扱われたら……うん、食べ物投擲ダメぜったい。必ず止めさせないとね」)
     天音・藍花(亜麻の花色の髪の乙女・d35440)は、今は亡き、一目惚れしたヒーローのことを胸いっぱいに想う。
    「渡すチョコには適正価格があると聞いたから、ひとまず一人一万円程度を用意しておくわ。一粒五千円二個入りでいいでしょ」
     お金持ちのお嬢様ゆえに、金銭感覚がズレている杜乃丘・ひより(フェアリーテイルシンドローム・d32221)が、さらりとものすごいことを言っている。
    「如何に日頃から女性と仲が良くても、バレンタインデーに本命チョコを貰えるかが一年の結果だ。否、義理だらけでも数さえあれば……と。悲しいけれど、そう思うよね」
    『その通りだ! おまえも貰えなかった組か!? 良かった! 俺だけじゃないッ、本当に良かったッ!』
     春日・葎(トワイライトクライシス・d24821)の言葉に反応し、都市伝説の男が突如、出現するなり葎に握手を求める。
     葎は嫌がりもせず握手に応じた。素直で優しく、いい子である。
    「チョコがどうとか喚くのって惨めじゃない? まあ、俺は貰えたけど……まあ、……貰えたら嬉しいもの、だけど」
     男をなまぬるい眼差しで眺めながら、真柴・櫟(シャンパンレインズ・d28302)が勝ち組オーラを思いっきり出す。
    『ぬううう! このツンデレめッ! しかもサラリと自慢しやがって、クソックソッ! これだから勝ち組は嫌いなんだぁあああッ!』
    「正直恋愛とかあんまり興味ないけど、でもおいしいチョコはほしいって思う、とても」
     憤怒する男だったが、春の言葉を聞けばそちらへ顔を向け、勝手に春のことを、貰えなかった組と判断する。
    『おいしいチョコは良いよな! おいしくなくても、チョコが貰えれば俺は嬉しいけどもッ!』
    「勝ち組死すべき。よく解るわ」
     サウンドシャッターを展開しながら、耳納・火禍子(緋玄怪異聞・d36502)が暗く窺うような眼差しを向ける。
    『女子にこの気持ちを分かって貰えるとはッ! なんて素晴らしいんだ!』
     火禍子の言葉に、男は歓喜する。
    (「阿保な都市伝説相手にはこれで十分だろ」)
     男に冷めた眼差しを向けつつ、平坂・穣子(中学生神薙使い・d36486)は簡単な手作りチョコを隠し持っていた。


    「チョコ渡すよ! 既製品だし少ないけど、その分良いお店の買ってきたから」
     高級ブランドのトリュフチョコレート、2個入りの箱を男に差し出す藍花。
     箱は水色の包装紙で包まれ、藍色の花リボンが愛らしくも華麗に魅力を発揮している。
    「えーと、ごめんね、お小遣い足りなくてこれしか買えなかったんだ。その分、ラッピング頑張ったんだけどどうかな……花リボンは亜麻の花をイメージして、挑戦してみたんだよ」
    『健気かッ! こんなに素晴らしいラッピング見たことない! 亜麻の花言葉は、感謝……俺が感謝したいッ!』
     男は滝のようにドバっと涙を流した。
     喜びようが、かなり異常である。
    「来年は手作りに挑戦するから……受け取って貰えたら、嬉しいな」
     花のような華やかな笑顔を見せる、藍花。
    「美少女達の輝きすごい……圧し負ける……」
     ぼそぼそと喋る火禍子は、ぼっち気質の為、仲間たちが眩し過ぎて、ダウン寸前だ。
     男から離れた藍花が、そんな火禍子のほうへ近づく。
    「昔好きだった人を思い浮かべてやったんだけど結構いけるものだね?」
     男に聞こえないように、こっそりと告げる藍花。なかなかの役者だ。
    (「正直チョコを都市伝説にあげるとか……いやでも終わったら、ひよりがくれるっていうし、頑張ろう……」)
     春は名残惜しそうに、チョコレート入りの、包装紙で包んだ小箱を見ている。
     都市伝説にあげるぐらいなら、自分が食べたい。
     それはもう食べたくて、仕方が無い。
     だがしかしと、春は葛藤し、頑張ろうと何度か自分に言い聞かせてから、やっと男へ近寄る。
    「えっとこれはね」
    『みなまで言わなくていい! チョコだな!? この流れからして俺にくれるんだろう!? だったら性別も関係ない! クールビューティーな君よ、俺にそれを早くくれ! さあさあさあ!』
    「うわぁ……寄って集って男にチョコ渡されてもねって思ってたけど、性別関係無いとか……うわぁ」
     櫟は呆れを通り越して、ドン引き状態だ。
    「うるさい。あとこれはオレからじゃないから。恥ずかしくて自分じゃ渡せないって女の子から、預かったの。やっぱり直接渡すのって勇気いるよね」
     無表情でありながらも、どことなく不快そうに男に対して本音をぽつりと零してから、春は小箱を差し出す。
    「君宛のだから、ほら、受け取って」
    『ラッピングがかわいすぎる! ピンクのリボン! どんな女子なのだ……恥ずかしがり屋な女子……これはもしや本命チョコ!?』
     いかにも女の子が作りました的な、本命チョコに見えるそれを受け取った男は、もうなんだか大変なありさまだ。
     歓喜と興奮で息が荒くなり、箱に頬ずりしたりと、はたから見ると完全に変態さんである。
    「外国は男からも贈り物するんだ。僕から贈ってもいいだろう?」
     男の変態さに怯まず、葎がそっと近寄る。
    「僕からはチョコを包んだマシュマロをあげるね。君は、マシュマロは『嫌い』の意だと言ったけれど……貰ったチョコを、僕のマシュマロで包んでお返しする。つまり、君の真心を僕が優しく抱きとめたいんだ」
     都市伝説からチョコは貰っていない、というツッコミは誰もしない。
     葎の、天使過ぎるオーラが全開だからだろう。
    「……嫌、だろうか」
     葎が少し切なげに、男を見つめる。
    『い、嫌……なワケ、あるかぁあああッ! こんなピュアッピュアッな天使から貰えるなんて! え? 性別男? 関係ねぇよーッ!! いただきますッ!!』
     男は急いで葎から貰ったマシュマロチョコを、口の中いっぱいに頬張り、がっついた。
    「手作りのマシュマロチョコ、マシュマロに分類されるのかしら。それともチョコの分類?」
     葎を見て和みつつも、マシュマロチョコそのものについて、疑問を抱くひより。
    「付き合いとかで文字通り腐る程貰えたチョコならまだ家に山程あったし、適当に一箱持って来といたけど……普通に買ったら一万円弱はするんじゃない、これ」
     誰から貰ったのかは完全に忘れている櫟が、高校生とは思えぬ発言をする。
    「斉藤、これアレに渡しといて。終わったらそれも食べて良いから、よろしく」
     春にチョコを押し付ける櫟を見て、男が『待てーッ!』と、叫んだ。


    『この勝ち組めがぁあああ! 腐るほどチョコを貰っただと!? 腐らせるなッ! あと値段は関係ないッ! 貰ったチョコはその日の内に全て食べきるのが礼儀だろォオオオッ!? これだからッ勝ち組はッ嫌いッだーッ!!』
     男が血走った眼で櫟を睨み、マシュマロを投げつける。
    「ほら、ウララお食べ」
     投げられたマシュマロを上手くキャッチした春が、ナノナノのウララに毒味をさせようとする。
     ウララはいやいやと顔を左右に振るが、抵抗虚しく、口の中にマシュマロを入れられる。哀れ、ウララ。
    「斉藤は本当にあのマシュマロ食うつもり……?」
     櫟もマシュマロを指差し、先に食べるようビハインドのイツツバに命じる。
    「大丈夫そうならオレも頂く。ウララ、どう?」
     春の問いかけに答えないウララ。答えないというより、答えられない。
     ウララもイツツバも揃って、目を回している。
     ホワイトデー荒らしの都市伝説が投げるマシュマロだ。
     それはとても嫉妬と憎悪にまみれているのだ。食べて無害な筈がない。
    「味は、どう? 葎は食べるのかしら……櫟、あなたも率先して食べたらどう?」
     ひよりが問うと、春と櫟が首を横に振る。
     更に春は、食べてはいけないことを、溺愛している葎にきちんと伝えた。
    「輝き過ぎて……現実怖い、死にたい……」
     仲良さげなメンバーを見て、火禍子が限界を迎えた。
     よろめきつつ、手作りのガトーショコラを男の顔面へ、全力で叩き付けた。
    『むぐおッ!?』
    「ご、ごめんなさい。リア充イベントに参加するの初めてで足が……貴方の為に焼いたんです、真っ赤な炎で……。食べて下さい、ねぇ、食べて食べて食べて食べて……食えよ」
    『ヤンデレ女子!? 構わないッ! チョコが貰えれば俺は幸せだッ』
     男は夢中になって、ワンホールのガトーショコラを食べる。
    「嫉妬するのはね、誰にも邪魔されず……独りで静かでネットで……自由じゃなきゃ……駄目なのよ。実力行使に出た時点でぼっち失格……許さない」
     全力で叩き付けた時点で、体力が尽きた火禍子は、ゼイゼイと呼吸を荒げ、疲れ切った様子でぼそぼそと喋っている。
    「気が進まない……」
     穣子は持って来たチョコを渡さず、仲間が渡している様子を物陰から眺め、待機していた。
    『チョコレートぉッ! チョコレートぉッ!』
     上機嫌な様子で歌うように叫んでいる男は、弱体化している。
    「りつ、いっしょに攻撃しよ?」
     春は葎に声を掛けてから、オーラを拳に集めて怒涛の連打を敵に打ち込む。ウララはハートを飛ばした。
     春と感情を活性化し合った葎が続き、嬉しげに春へ笑顔を向けてから、敵に狙いをさだめる。
    「君は解放されし魂だ……」
     敵へジャッジメントレイを撃つ、葎。
    「女子に守ってもらうんだから、男子、頑張りなさいよね」
     ディフェンダーのひよりが男性陣に声を掛け、男へ向き直る。
    「アタシのチョコは、易々とあげるつもりはないわよ? これを受け止めてくれたらチョコをあげてもいいわよ、手作りのチョコが欲しいなら、それもあげる」
     口元に笑みを浮かべ、ひよりは腕型の巨大な武器で敵を殴り、同時に網状の霊力で敵を縛る。ビハインドの一ヶ谷・京子が霊障波を放ち、敵を追い詰める。
    『う、うう……ッ! くれッ! チョコをッ!!』
    「イツツバ、何お前までチョコ欲しそうにしてるの。死んだ奴が貰えるチョコなんて無いから、霊撃と霊障波を交互にやっといて」
     櫟はイツツバを一瞥してから、赤色標識にスタイルチェンジした武器で敵を殴る。気弱なイツツバは、指示に従い、霊障波を繰り出す。
    「マシュマロ野郎、成仏しろよ」
     攻撃が確実に命中するよう、穣子は戦況を見極めている。
     冷めた声で男に声を掛け、穣子が魔法の矢を飛ばす。
    「妬むならマシュマロなんか投げるんじゃなくて全部燃やせば良かったのよ……ふふっ、アハハハハ!」
     悪言トルウァトゥスから炎の花を飛ばし、火禍子が不気味な笑い声をあげる。
    『チョ……コ……チョコレートは……男のロマンッ!!』
    「いちおう、手作りだぞ! ついでに持って逝け!」
     叫び、消滅しかけている都市伝説に、穣子は手作りチョコを叩きつけて罵倒した。
     穣子からの手作りチョコをしっかり受け取った都市伝説は、幸せそうな表情で完全に消滅した。
    「悲しき魂に救済を。我らが魂に救いあれ。都市伝説の元になったネットの人々にとって、恋人の祭典は苦痛に満ちているだろうけれど……どうか一人でも多い人が、楽しめる日となりますように」
     切ない叫びの塊である都市伝説の浄化を、葎は切実に祈った。


    「りつのマシュマロ、オレだって食べたい……ひよりのチョコも」
     春は都市伝説に渡さなかった高級チョコをモグモグ食べつつ、葎にじっと眼差しを注いでいる。
    「春くんの分も有るよ。……あと、その……今回、依頼に付き合ってくれた方々へ、共に解決しようと来てくれた感謝の気持ちだ。チョコレートクッキーだよ。……いや、その……料理やお菓子作りが好きで……男からなんて嫌、だろうか」
     衛生面には徹底したと付け加え、葎は少し気恥ずかしそうに、微笑する。
    「お疲れ様。葎、いいこね……喜んで頂くわ。春には約束通り、チョコをあげるわよ。それとも帰りにコンビニ行く? アタシ、夜中にあまりコンビニには行かないから連れてって」
     チョコレートクッキーを貰ったひよりが、優しい微笑みと共に葎を褒める。
    「春日さん、これ美味いし良く出来てるよ。心がこもってるからだろうな? 俺の、なんちゃって手作りチョコとは違うな……都市伝説に叩きつける用だったから心なんて一切こめなかったし」
     穣子はチョコレートクッキーを美味そうに食べ、後半はバッサリと言い切る。
    (「 何でお返しの品にそう意味付けしたがるんだろうね、すげー不便……他の菓子の意味も調べておこ」)
     意味を知っておいたほうが後々の役に立ちそうだと判断したのか、櫟は思案している。
     お返しの意味や占いなどを好むのは、大抵が女性なのだから、男性の櫟が理解出来ないのも無理は無い。
    「葎君ありがとっ。気持ちは大事だよね……1000円の出費は痛かったけど。……あ、一応ラッピングは本当に頑張りましたよ?」
     懐具合が可哀相な藍花だったが、明るさを失わない。
    「ぼっち最高よね……うん、最高なのよ」
     一刻も早く、1人になりたいとばかりに火禍子は落ち着かず、その場を後にした。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月11日
    難度:普通
    参加:7人
    結果:成功!
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