魔法拳士、桜庭響花!!

    作者:のらむ


    「私の名前は桜庭・響花!! 最強の頂を目指すアンブレイカブルにして、有象無象を蹴散らす魔法拳士よ!!」
     特に人も見当たらない廃工場のど真ん中で、魔術的な装甲を全身に纏った少女、桜庭響花が、すっごいデカい声で叫び始めた。
    「正直、魔法を使うアンブレイカブルはあまり目にした事は無い。人は私の事を、邪道クソ野郎と呼ぶかもしれない……皆馬鹿だから呼ばないかもしれないけど……でもそんな事は知ったこっちゃない!! 用は勝てばいいのよ勝てば!!」
     そしてビシッとポーズを決めた響花は、体内に眠る膨大な魔力を引きだし、魔術を詠唱していく。
    「アイシクル百裂拳!!」
     氷の魔術と合わせた無数の拳が、錆びた鉄パイプを風穴だらけにし、氷漬けにした。
    「アシッドレイン!!」
     響花が高らかに叫び拳を天に突きだすと、あらゆる物を溶かす強酸の雨が、工場内に降りしきった。
    「ボンバー、ボンバー…………ボンバーエキサイトダイナミック!!」
     響花が両手から撃ち放った魔力と闘気の塊が、巨大な爆発を引き起こし廃工場の壁を吹き飛ばす。
    「えーっと、アレよ。何て名前付けたかしら……ト、ト、ト、トル、トルネー……トルネードウルトラメガエキサイトキック!!」
     魔術の詠唱と共に回し蹴りを放つと、脚の先から巨大な竜巻が放たれ、あらゆる物を吹き飛ばしていった。
    「ふー……完璧ね。準備運動はこんな所かしら。それじゃあ超強い敵を探す為、町で百人蹴りでもしようかしらね!」
     響花は清々しい顔でそう言うと、町へ向かって駆け出したのだった。


    「今回私が予知したのは、とあるアンブレイカブルが町中で暴れ回り多数の重傷者死者を出す事件です。皆さんは先んじてそのアンブレイカブルに接触し、事件を防いで下さい」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開き、事件の説明を始める。
    「皆さんが奴と接触する場所は、とある郊外にある廃工場。アンブレイカブルは準備運動と称して暴れ回っている所なので、そこに皆さんは行き、戦闘を仕掛けてください」
    「それじゃ、敵の情報については俺が説明するぜ」
    「どうぞよろしく」
     ウィラから資料を受け取った上寺・誠(アウトドア派熱血ファイター・dn0209)は、そのまま説明を続ける。
    「今回バトるアンブレイカブルの名は、桜庭・響花。自らを魔法拳士と称し、魔術と肉弾戦を組み合わせたサイキックで戦闘を行う。若干頭が緩く身勝手な性格だが、その攻撃の威力は半端じゃねえし、更にその防御力も並以上だ。はっきり言ってかなりの強敵だ。こちらの戦力を上回っている事は確実だろう」
     ただし、と誠は言葉を続ける。
    「響花は強敵との戦いを求めて町へ行き、暴れ回る。つまり町へ行くまでもなく強敵と戦えたと奴が実感する事が出来れば、町で大暴れする事はなくなる。勝利せずとも奴と戦い満足させる事が出来れば、一応事件を防ぐ事は出来るって訳だ」
     だが勿論、撃退するよりもここで響花を灼滅してしまう方が望ましい。
    「かなりの強敵とは言ったが……決して勝てない相手じゃねえ。勝率は決して高くないが、奴は撤退しないし、良い闘いが出来た相手を殺す事もしない。撃退を望むにしろ灼滅を望むにしろ、本気で挑むとしようぜ」
     ちなみに今回の作戦には誠も同行し、人払いとメディックからの援護を担当すると説明された。
    「ま、こんな所だな……それじゃ、締めをよろしく」
    「はい」
     誠から資料を返されたウィラはファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。このアンブレイカブルはこれまでも身勝手な理由で多くの人々を傷付けてきた存在です。全力で挑み奴の行う暴虐を防ぎ、可能ならばここで灼滅してきてください。お気をつけて」


    参加者
    天雲・戒(紅の守護者・d04253)
    綾峰・セイナ(銀閃・d04572)
    東海林・朱毘(機甲庄女ランキ・d07844)
    夕凪・緋沙(暁の格闘家・d10912)
    戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)
    小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)
    不破・桃花(見習い魔法少女・d17233)
    新堂・桃子(鋼鉄の魔法つかい・d31218)

    ■リプレイ


    「ボンバー、ボンバー……ボンバーエキサイトダイナミック!!」
     魔法拳士を名乗るアンブレイカブル、桜庭・響花。彼女が引き起こす大きな災厄を食い止めるべく、8人の灼滅者達は廃工場に訪れていた。
    「ト、ト、トル………………あら?」
     魔術の詠唱を行っていた響花は、小さな物音が付近の建物から響いた事を敏感に察知し、上を見上げた。
     工場の屋根に上っていた天雲・戒(紅の守護者・d04253)は梗花をビシッと指さすと、第一に名乗りを上げる。
    「あんたが魔法拳士、響花だな? 俺は紅蓮に燃える炎の闘士、天雲・戒だ。あんたと魂の勝負に来たぜ!」
     戒の名乗りに続き、他の灼滅者達も次々とその姿を表す。
    「魂の勝負……? あんた達、誰?」
    「武蔵坂の灼滅者。私はその中の1人、東海林……いや。敢えてこう名乗りましょう、庄内のご当地ヒーロー、機甲庄女ランキと!」
     鋼鉄のアーマーに身を包んだ東海林・朱毘(機甲庄女ランキ・d07844)は、訝しがる響花に高らかにそう告げると、ファイティングポーズを取り響花を威嚇する。
    「私は夕凪・緋沙です。貴女と同じ格闘家ですよ。強い物と戦いたいとお聞きしましたけど、私達も実力に自身はありますので、お手合わせ願います」
    「腕が立つと聞いてきた。手合せを願いたい」
     夕凪・緋沙(暁の格闘家・d10912)と戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)がそう告げると、響花は満面の笑みを浮かべた。
    「成る程成る程、武蔵坂の灼滅者! それなら確かに色々納得ね! それじゃ、早速始めましょうか!」
     魔力と闘気を集中させる響花。灼滅者達も自ずと身構え戦闘態勢に入る。
    「魔法拳士と戦えるなんて光栄だわ。私の魔法とどっちが上か、勝負といきましょう」
    「生憎ボク達は一対一の勝負とか恰好いいこと言えないけど……それでも、本気で挑戦させてもらうよっ!」
     綾峰・セイナ(銀閃・d04572)と新堂・桃子(鋼鉄の魔法つかい・d31218)の言葉に響花は頷く。
    「殺す気で来なさい! じゃないと愉しい闘いは出来ないからね!」
     爛々と目を輝かせる響花。その瞳には、純粋な闘争への欲求が見て取れた。
    「町の皆さんを守るため……響花さん! あなたの好きにはさせませんっ!」
    「ま、そういう訳やからちょっと痛い目遭って貰うで……『さぁさ、死神様のお通りや!』」
     不破・桃花(見習い魔法少女・d17233)と小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)がスレイヤーカードを解放すると、響花に殲術道具を向ける。
     そして戦いが始まった。


    「初手は貰ったわ! アシッドレイン!!」
     魔術により生み出された強酸の雨が、一斉に灼滅者達に降りかかる。
    「確かに強力な魔術だ。だが、それでこそ挑み甲斐がある……『我流・紅鏡地大』」
     久遠は降りしきる雨を一身に受け止めると、紺青の闘気から錬成したシールドで仲間たちを守護する。
    「私の実力がどれだけ通用するか、試させて貰うわよ」
     セイナは長柄の槍を器用に操り、響花との間合いを一気に詰める。
    「さあ、受けなさい!!」
    「言われなくとも受けてみせるっての!!」
     セイナが突きだした槍が響花の左腕に突き刺さるが、響花はこれ幸いとばかりに右の拳を固く握りしめる。
    「次は私の番よ……アイシクル百裂拳!!」
     至近距離から放たれる響花の凍てつく拳が、セイナの全身を打ち吹き飛ばす。
    「グ……!! これは結構きついわね……だけど!」
     工場の壁に叩きつけられたセイナは一気に壁を蹴り飛び出すと、構えた槍に己の魔力を込めながら再び接近する。
    「氷の魔術は私だって得意なのよ、喰らいなさいな!」
     響花の上方まで飛び込んだセイナが槍を突きだすと、生み出された無数の氷の刃が雨の様に響花に降り注ぐ。
    「中々良いわね、灼滅者。俄然面白くなってきたわ……」
    「面白いついでに、こいつもくらっておいてください!」
     ニヤリと笑みを浮かべる響花に、朱毘はシールドを纏った正拳突きを叩きこむ。
    「やたらと攻撃が強いんやったら、その持ち味を無くしにいくに限るわ……行くで!」
     小町は深紅の大鎌『紅の三日月』を構えると、その刃に秘められた咎の力を解放していく。
    「死神……私を殺せる自信があるなら、むしろウェルカムって感じね。打ちのめしてやるわ!」
    「あんまり舐めとったら痛い目みるで!!」
     小町は禍々しい力が纏った三日月型の刃を大きく振るう。
     放たれた漆黒の波動は響花を包み切り裂くと、その魔力と闘気を削り取る。
    「中々小賢しい手を使ってくるわね! 嫌いじゃないわ!」
    「本気で殺す気やからこそ、確実な手段を選んどるんや。搦め手上等で攻めさせて貰うで!」
     小町はそう言い放つと、懐から取り出したナイフを大きく掲げる。
    「呪いの風を喰らいや!!」
     放たれた猛毒の旋風は響花の身体を巻き込み、空高く打ち上げた。
    「よーし、続くよー……とんでけーっ!」
     桃子はすぐさま高く跳び上がると宙に浮いた響花の身体を掴みあげ、そのまま地面まで投げ飛ばし墜落させた。
    「おっと、合流してみればいきなりの激戦具合だな。とりあえず俺は援護するぜ!」
     そのタイミングで戦闘に合流した誠は年季の入った黄色い交通標識を掲げ、仲間たちに加護を与える。
    「あ、頭から投げる事ないじゃない……流石に今のはクラッときたわ。平気だけど」
     そう言い頭をさすりながら立ち上がった響花の前に、桃花が進み出る。
    「まだまだ行きますよ、響花さん! 真っ向勝負です!!」
     桃花は両拳を硬く握りしめると、怒涛の勢いで響花に猛突する。
    「そういうのも嫌いじゃないわね。来なさい!」
    「これは……スター鋼鉄拳です!!」
     流星の如く素早く固い桃花の2連の拳が、強化の鳩尾に突き刺さり大きく仰け反らせる。
    「シンプルながらイイ拳ね! だったら私は、トルネードウルトラメガエキサイトキックよ!」
     桃花に対抗し響花が放ったなんか凄い蹴りは、桃花を含む前衛の身体を容赦なく抉る。
    「うう……流石に最強を目指す魔法拳士なだけありますね……だけど、わたしは負けませんっ!!」
     大きな傷を負った桃花はより一層のやる気と闘気を漲らせ、全身に激しい雷を纏わせる。
     己の痛みも無視し突撃した桃花は、悠然と立つ響花に再び拳を振るう。
    「ハート抗雷撃!!」
     拳が直撃すると同時に放たれたハート形の雷が、響花の全身を包み一気に痺れ上がらせた。
    「氷に毒に雷、随分と多芸ね、灼滅者!! 参考になるわ!」
    「響花こそ、なかなか良い攻撃じゃないか。それに美人だしな」
    「当然ね。あなた達、闇堕ちしたら私の弟子になっても良いわよ?」
     戒が放った炎の蹴りを受け止めながら、響花は飄々とした笑みを浮かべ応える。
    「その言葉は私達の実力を認めた褒め言葉として受け取っておきます……ですが、わたし達は闇堕ちなどしません」
     緋沙は強い意思と共にそう言い切ると、拳を構え響花と相対する。
    「そう? 残念ね。もっと強くなれるのに」
    「私もあなたがダークネスじゃなければと思うと、少し残念です」
     響花の言葉にそう返し、緋沙は目にも留まらぬ速さで戦場を縦横無尽に駆け巡る。
    「それ、その一撃を受けて下さい!」
     そして不意に響花の死角より姿を表した緋沙は鋭い下段蹴りを放ち、響花の足首を切り裂いた。
    「格闘家としての鍛錬に、殺しの技術を組み合わせた……のかしら。なんにせよ強力ね」
    「あなたが魔法を駆使して戦うなら、こっちは物理で対抗するのみです」
     緋沙は更なる追撃を仕掛けるべく、片腕に縛霊手を装着すると一気に強化に接近する。
     膨大な霊力を纏わせた爪を、緋沙は力強く振り降ろす。
    「その素早い動き、封じさせてもらいます!」
     そして振り下ろされた鋭い爪が響花の装甲を削り取ると、放たれた霊力の網がその全身を縛り付ける。
    「ググ、グググググ……離れなさい!!」
     霊力の網を無理やり引きちぎり、響花は深く深呼吸しながら魔力と闘気を充填させる。
    「いやー、思ったよりやるわね灼滅者。だけど私の元気はまだまだ有り余ってるわ、もっともっと戦いましょう!」
     響花はその有り余る体力を存分に発揮し、更に戦いは続けられるのだった。


    「さあ、ドンドンテンション上げていくわよ! ボンバーエキサイトダイナミック!!」
    「そうそう何度も当たってはいられません! フラワー百裂拳ですっ!」
     桃花の闘気と魔力の塊と桃花のフラワーっぽい闘気が纏った桃花の拳がぶつかり合い相殺された反動で、戦場に巨大な爆風が撒き散らされる。
    「あの重さ……直撃を受ければ只ではすまんな。そうで無くてもこちらの体力はかなり削られてきている。だが、これもまた修行だ」
     久遠は攻撃を終えた響花の動きを冷静に見定めると、相棒である霊犬の『風雪』と共に響花に接近する。
     淡く輝く紺青の闘気を拳の1点に集束させ、久遠は響花の懐まで潜り込む。
    「我流・間破光耀」
     そして至近距離から放たれた闘気の塊が響花の身体を穿つと、それに続くようにして風雪が振るった斬魔刀が響花の身体を断ち切った。
    「私とは違って随分と真っ直ぐな力の使い方ね……少しだけ羨ましいわ」
     響花は小さく呟くと魔力を込め、拳を天高く突きだした。
    「だけど、まだ私の方が強い! アシッドレイン!!」
     久遠は降り注ぐ強酸の雨から仲間を庇い、その苛烈さに思わず膝をつく。
    「まだだ。まだ、倒れる訳にはいかん」
     しかしその一撃を久遠は耐え切る。そして静かながらも気迫すら感じる振舞いで立ち上がった久遠は、再び響花と相対する。
    「そう簡単に倒せるとは思わん事だ」
     久遠は自らの陰から引き摺りだした影を刃へと変え、響花の全身を一瞬にして切り刻んだ。
    「敵も中々弱らんなあ……それやったらあんたの心の傷、さらけださせて見せるで!」
    「フィジカルアタックは止めなさい!! なんかイヤ!!」
     小町が放った大影が響花の全身を呑みこむと、その魂の奥底からトラウマを引き摺りだす。
     その攻撃によって生まれた一瞬の隙を逃さず、桃子はエアシューズを駆使して一気に突撃する。
    「正直ボクは魔法の知識とかは全然分かんないけど、これでも魔法使いなんだよ! ダメージ与えれば魔法も格闘も一緒だしね!」
     言葉通り魔法が全く関係ない攻撃を放とうと、桃子は響花の懐まで接近した。
    「いっくよー! せーのっ!!」
     かけ声と同時に放たれた超速の跳び蹴りは、響花の側頭部を蹴り飛ばし地面に叩き付けた。
    「またもやクラッときたわ……でもそろそろ誰かは沈められる筈! いくわよ、トルネードウル(中略)キック!!」
     響花が放った猛烈な竜巻が灼滅者達の身体を吹き飛ばし、まともにくらってしまった桃子は一気に体力を削られてしまう。
    「ふ……これが私の実力よ!!」
    「痛たた……魔法と格闘、うまくかみ合うとやっぱり恰好いいね。結構キツイけど……まだまだ頑張れる!」
     それでも桃子は元気よく立ち続けると、闘気を纏わせた拳を構え響花の前に跳び出した。
    「いっくよー! せーのっ!」
     機関銃の如き勢いで放たれた無数の拳が、響花の全身を殴りつけ大きなダメージを刻みこんだ。
    「今日殴られたのこれで何発目かしら……まあいいわ、今度こそこれで終わりよ! アイシクル百裂……」
    「通しはせんぞ」
     響花は桃子に向け攻撃を放つが、そこに飛び出した久遠は氷結の拳を一身に受け止め、ついに肉体の限界が来た久遠はそのまま倒れ気を失ってしまう。
    「流石に前線が崩れ始めて来たわね。だけどまあ、諦める理由にはならないわね」
     久遠が倒れた直後、セイナは魔力で創造した無数の矢を放ち、響花の全身を大きく穿つ。
    「狙いは外れたけど、先ずは1人! さあ、次は誰が相手かしら?」
    「俺だ」
     響花の呼びかけに応えた戒は手にしたクルセイドソードの刃を非物質化させ、ライドキャリバーの『竜神丸』と共に響花と対峙する。
     竜神丸はフルアクセルで響花の元へ突撃し、戒はそのまま動かず唯静かに剣を構える。
    「動かないならこっちからいくわ、アシッドレイン!!」
    「お前、なかなか泥臭い戦い方だな。嫌いじゃないぜ」
     降りしきる強酸の雨を受けながら、戒が小さな笑みを浮かべ呟く。
     直後、強化の背後まで回り込んでいた竜神丸が響花の身体を突き飛ばし、戒の元まで飛ばす。
    「……今だ!!」
     そしてすれ違いざまに戒が振るった刃が、響花の魂を砕き大きな苦痛を与えた。
    「だからそういう精神的な攻撃はなんか嫌だって……言ってるでしょうがっ!!」
     気合で体勢を立て直した響花は猛烈な回し蹴りを放つ。
    「く……ここまでですか……」
     その一撃を喰らった桃花は気を失って倒れ、更に灼滅者を庇った竜神丸も同時に消滅する。
     だがその一撃を辛うじて受け止めた戒は、手にした刃に炎を纏わせ再び響花に向かう。
    「良い蹴りだったぜ。アンブレイカブルなのがもったいない」
    「アンブレイカブルじゃなけりゃあ、私じゃないわ」
     戒が振り下ろした灼熱の刃が、響花の身体を斬りその身を焼き焦がす。
    「戦況はかなり厳しいですが……わたしは唯自分の役目を果たすのみです!」
     戒に続き緋沙は雷の拳を放ち、響花の身体に精確な打撃を叩きこんだ。
    「ふー……いやあ、久々に楽しい闘いね! 本気でかかってくるのがまた心地いいわ」
    「サシじゃ勝負にならないのが腹立たしいけど、こっちも負けてはやれないんでね!」
     闘気と魔力を溜め傷を癒す響花にそう言い放ち、朱毘はライドキャリバーの『イチマル』と呼吸を合わせ攻撃していく。
     イチマルが放つ無数の弾丸で響花の動きを牽制しつつ、朱毘はその弾丸の嵐の中を進み響花の懐まで潜り込んだ。
    「ここまで近寄れば、外す事もないでしょう!」
     そう言い両の掌を響花の身体に押し当てた朱毘は、零距離から放った必殺のビームで響花の身体に風穴を空ける。
    「ゴフッ! 痛っ、グロッ! 今のは結構効いたわよ!! ボンバーエキサイトダイナミック!!」
    「とは言ったものの近くから撃てば当たるってもんでもありませんよ!!」
     お返しとばかりに響花が朱毘に向けて巨大な闘気と魔力の塊を放つが、朱毘は咄嗟の回避移動でその一撃を退ける。
     そうして一旦距離を取った2人。そして朱毘は響花の姿をしっかりと見据え、不意に言葉を紡ぐ。
    「他人は邪道と呼ぶかもしれない拳……あなたはそう言っているそうですけど。それ、誰より自分で自信が持てないからでは? せっかく磨かれた拳が、泣きますよ」
     朱毘のその言葉に、響花は少し驚いた様な表情を見せる。
    「ん……灼滅者にそんな事言われるとは思ってもいなかったわ。…………そうね。まあ否定はしないわ。ボンバーだのダイナミックだの言ってるけど、ぶっちゃけ私格闘より魔法の方が得意だし」
    「そんな小さな事で卑屈っぽくなるなんてアンブレイカブルらしくないですね。それでいて私達より強いっていうんですから、こう、なんというか……ムカつきますね」
    「悪かったわよ、もうそんな事言わないわ…………って、こんな話してる状況じゃ無かった! 私腹に風穴空いてるし!」
     センチメンタル風な感じだった響花はすぐに調子を取り戻し、己の魔力と闘気をその両脚に込めていく。
    「まあつまり、あれね。今日は結構楽しめたわ、灼滅者! 殺すのも惜しいし、今日はもうお開きにしましょう、そっちが良ければだけど」
     響花はそう呟きながら、灼滅者達を見まわす。
     既に2人の灼滅とサーヴァント1体が倒れ、前線は崩壊寸前。
     元々はっきりと深追いする心持ちのある灼滅者達も少なかった為、灼滅者達は響花の言葉に頷いた。
    「これで見納めよ、その目に刻みなさい! ……トルネードウルトラメガエキサイトキック!!」
     響花は魔術を詠唱し、竜巻を伴う回し蹴りが灼滅者達を襲う。
    「締めは私が貰いますよ……麦きりキック!!」
     吹き荒れる竜巻を突破した朱毘は、響花目掛け強烈なジャンプキックを放つ。
    「ちょっと、締めはさっきのでいいじゃな……痛ッ!!」
     思いきり顔面を蹴り飛ばされた響花は地面を盛大に滑り廃工場の壁に激突した。
    「滅茶苦茶痛い。でも、あー……楽しかった! それじゃあね、灼滅者! また殴り合う機会があったらよろしくね!!」
     蹴られた顔面をさすりながら響花は心底満足げな笑みを浮かべ、そして迷いなく立ち去って行くのだった。
     灼滅者と魔法拳士の闘いは、こうして終わりを迎えたのだった。

     闘いは終わった。
     気絶していた灼滅者達も目を覚まし、激闘の傷を互いに癒した灼滅者達は、より一層荒れ果てた廃工場を後にする。
     残念ながらアンブレイカブル響花に勝利する事は出来なかったが、一般人を守るという目的は十分に果たす事が出来た。
     しばらくは響花が派手な事件を起こす事はないだろうが、いつかまた戦う機会があるかもしれない。
     更なるダークネスの出現等、考える事も多い。
     だが今は学園へ帰還し、戦いの傷を完璧に癒すとしよう。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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