伝説のゴスロリ格闘家

    作者:なちゅい

    ●のこ、いくのだー!
     福島県某所にある古戦場跡。
     所々に残る爪痕がこの地で古く、戦いがあったことを現代に伝えるだけのこの場所にも、時折ブレイズゲートが現れている。
     現在、何者かの手によってブレイズゲートを破壊されるという事案が起こっているが、ブレイズゲートの全てがなくなっているわけではないらしい。
     武蔵坂学園の灼滅者達は、ブレイズゲートの、そしてダークネスの発見の為、巡回を続けている。
    「ゴスロリ格闘少女って、アンブレイカブルいそう、です」
     紅咲・灯火(血華繚乱・d25092)は巡回の途中、何気なくそう口にする。
     灯火が口にしたのは、偶然ではなかったのかもしれない。なぜなら、新たに現れたブレイズゲートで、その少女が復活していたからだ。
    「ふみゃ、ここはどこなのだ?」
     ゲート中央、草原のど真ん中。きょとんとしながら辺りを見回すのは、ゴスロリ風の少女だ。
     ゴスロリ……ゴシック・アンド・ロリータ。黒を基調とした、可愛らしいファッションスタイルを指す。レース、フリル、リボンなどで飾られていることがほとんどだ。
     そのゴスロリの服を纏った少女、赤村 乃子は突然、「あーーーっ」と叫びだす。
    「のこ、天覧儀で負けちゃったのだー!」
     乃子は一度敗戦し、死に至ったことを思い出す。
     多くのダークネスが血で血を洗う戦いを繰り広げた、武神大戦天覧儀。彼女はそこで敗退し、命を落としてしまったのだ。
     既に天覧儀は終結し、武神大戦は新たな戦い『獄魔覇獄』へと進んでいるが、命を落としてしまった乃子がそれを知る由もない。
    「でも、臭うのだ。ここに強い人達がやってくるのだ!」
     飛び起きた乃子がちらりと振り向くと、こちらに近づく一団が確認できる。
     それは、武蔵坂学園の学生……灼滅者達だ。アンブレイカブルの出現を察したメンバー達は、それを倒すべく、スレイヤーカードの力を解放していくのだった。


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    宗原・かまち(徒手錬磨・d01410)
    アリス・セカンドカラー(腐敗の魔少女・d02341)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    踏鞴・釼(覇気の一閃・d22555)
    赤暮・心愛(赤の剣士・d25898)
    氷川・紗子(高校生神薙使い・d31152)
    霞・闇子(小さき闇の竹の子・d33089)

    ■リプレイ

    ●可愛らしい武人
     福島県の古戦場跡へとやってきた灼滅者達。基本的には、学年も所属クラブもバラバラの8人だ。
    「今回、遭遇するアンブレイカブルさんは、ゴスロリの服を纏った少女ですか」
     最初にブレイズゲートに入った氷川・紗子(高校生神薙使い・d31152)がアンブレイカブルの姿を確認する。格闘家という者は、どのような服装で戦うことができるのだろうかと、彼女は真面目に考える。
     ゲート中央にいるのは、赤村 乃子。『伝説のゴスロリ少女』だとか、『ゴスロリ格闘家』などと呼ばれた少女だ。
    「乃子たんかわいいよ乃子たんぺろぺろ」
     その相手の姿に、怪しげな視線を送るのは、アリス・セカンドカラー(腐敗の魔少女・d02341)だ。
    「あほのこかわいい、見た目10歳のゴスロリ少女とかドストライクだわー。おいしくいただきます☆」
     彼女はよどんだ瞳を乃子へと向けていて。これで男の娘だったなら、パー璧だったのにと残念がるが、それでも確認しようと目を光らせている。
    「強い人達が来たのだ!」
    「かわいいですね」
     それに気づき、乃子が喜ぶ。紗子がそんな彼女の可愛らしさを褒めると、乃子は「ありがとなのだ」と一言礼を言ってからゆっくりと構えをとり、アンブイカブルとして、覇気を放ち始める。
    「いくら見た目が可愛いゴスロリ娘でも、やっぱダークネスなのな!」
    「見た目など、判断材料にはなりはしない。小さかろうと、俺より遥かに格上の相手……」
     柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)は相手の覇気に驚きを見せる。踏鞴・釼(覇気の一閃・d22555)はスレイヤーカードの力を解放する。
    「良き戦いが出来そうだ……。全身全霊を以って、挑ませてもらうぞ」
    「久々に動くか……。期待裏切るんじゃねぇぞ、ってか」
     宗原・かまち(徒手錬磨・d01410)は久々の依頼に参加し、この場へとやってきている。しかも、相手はストリートファイターの宿敵、アンブレイカブル。心も躍ろうというものだ。
    「伝説のアンブレイカブルか。一つ、全力でやってみたくもあるが、今回はサポートに徹させて貰うな」
     加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)は後方に下がり、仲間の支援に当たるようだ。
    「なんか乗ってくれそうだし、ゴージャスモード変身♪」
     アリスは封印を解除した上で、ゴージャスモードとなり、装備を豪華版にしてみせる。
     次々に灼滅者達はスレイヤーカードを解放する。その間、乃子はこちらの出方を伺っている。放たれる殺気に、高明は隙を見つけられずにいた。
    「武神大戦天覧儀って、相当規模が大きかったんだなぁ……」
     灼滅者が知らぬところでこんな少女が参戦し、敗北していたのだ。その規模は推して知るべしといったところか。しかし、獄魔覇獄すらも勝利した武蔵坂学園の生徒が負けようはずもない。
    「復活した所悪いが、もっかい、負けて貰うな?」
    「さあ! ボクと勝負しようよ!」
     高明は乃子へと不敵に微笑む。霞・闇子(小さき闇の竹の子・d33089)も乃子へと呼びかける。狂気の武人というアンブレイカブルだが、乃子の無邪気な表情を見ていると、気が合いそうだなという印象を、闇子は抱く。
    「アンブレイカブルとの純粋な戦闘だね。さ、いっくよー!」
     身の丈ほどの大太刀『鏡鐘たる鋼』を携える、赤い袴姿の赤暮・心愛(赤の剣士・d25898)。ただ、今回の立ち回りだと、別名『野太刀』と呼ぶその武器の出番はなさそうかなと、彼女は考える。
    「それでは、赤村さんよろしくお願いします」
    「では、加藤 蝶胡蘭、推して参る!」
    「よろしくお願いするのだー!」
     サウンドシャッターで戦場内の音を遮断する紗子。そして、蝶胡蘭の声に応じ、乃子もまた、灼滅者達へと飛びかかってきたのだった。

    ●ゴスロリ少女との戦い
     動き出す、アンブレイカブル、そして灼滅者。
     その中でも、蝶胡蘭がいち早く動く。
    「そのゴスロリ服、中々可愛いな」
     ひらひらと、ゴスロリ服を舞わせて戦う乃子を見た彼女。だが、だからと言って、それが戦闘に役立つとは限らない。蝶胡蘭は怪談蝋燭の炎を揺らめかせ、炎の華を乃子へと飛ばし、その服に炎を灯す。
    「戦うのに邪魔じゃないのか?」
    「これが、のこのスタイルなのだー!」
     叫ぶ乃子を捉えるべく、紗子が仲間を庇う位置取りをした上で、ダイタロスベルトを射出し、彼女を貫く。
    「伝説と戦えるなんてな」
     同じく、仲間の前に出るかまち。戦闘前は比較的寡黙だった彼だが、戦いが楽しいのか、笑みすら浮かべて乃子を襲う。
     ボクシングや空手といった、打撃スタイルを織り交ぜた我流喧嘩殺法で戦うかまち。最近はバベルブレイカーも愛用しているようで、初撃はこれを使い、杭をねじるように乃子へと打ち込んでいく。
     ただ、多少攻撃を受けたところで、乃子は意に介する様子を見せない。
    「いくのだー!」
     拳に雷の闘気を纏わせる乃子。それを、反撃とばかりに紗子へと叩きつける。
     釼はそんな天真爛漫にも見える少女を見て思う。アンブレイカブルは父の仇……のはずだが、乃子の姿はお世辞にも悪とはいいがたい。
     だが、戦意は存分に抱き、釼は戦いに臨む。自らの腕を異形巨大化させた彼はそれを全力で乃子へと叩きつける。釼もまた、己の肉体を極限まで鍛え上げようとする男。アンブレイカブルなどに負けてはいられないのだ。
     まだ、回復は不要と判断する高明も、最初は攻撃に乗り出す。
    「どっちかってーとドラム派なんだが、掻き鳴らすくらいわけねえってな!」
     彼はバイオレンスギターを手にし、アクロバティックな動きと共に、弦をかき鳴らして音波を飛ばす。彼のライドキャリバー、ガゼルは、灼滅者を守るようにと前に出て、戦線の維持に努めていたようだ。
     闇子も、嬉々としながら戦う。彼女は小学生離れしたボディを主張しながらも、長剣を振るう。その剣は一見ただの剣に見えるが、その実、聖剣だ。彼女はその力を発揮させると、破邪の白光を放つ。
    「ゴスロリで戦うのか……、なんだかすごい拘りを感じるよ」
     心愛は、ゴスロリ服を翻らせて戦う乃子にそんな感想を抱く。
    「でも、私だってこの服装に拘りがある……。負けてられないよ!」
     赤い袴を舞わせる彼女。それは自身の拘り。彼女が一直線に駆けると、一陣の赤い風となって。心愛は拳を鋼鉄と化し、乃子の身体を殴りつけた。
     そんな中、ある意味でダークネスよりも闇を抱えているアリスは、妖艶とすら思える笑いを浮かべ、戦う乃子を舐め回すように見つめている。
    「さて、どうしようかな♪」
     アリスはしばらく、どうやって攻めようかと考えていたが、取り出したのは、鋼糸。それを使って、乃子の身体を縛りつけようとする。
    「う、動けないのだー」
     そこへ、ゆっくりと近づくアリスは舌なめずりをしていて。
    「緊縛プレ……、もとい、捕縛で終わりと思わないことね☆」
    「の、の、のだーーーー!!」
     背筋に寒さを覚える乃子は、捕縛から逃れようと必死にもがくのだった。

    ●せめぎ合いの中にある愉しみ
     乃子はアリスの攻めから何とか逃れ、灼滅者に拳を振り上げてくる。
     仲間を庇いながらも、紗子は地面を蹴り、靴を燃え上がらせて乃子を蹴り付け、あるいは赤い交通標識を叩きつける。
     それを受けた乃子は態勢を整え、オーラを両手に集中させていく。
    「攻撃、来るぞ!」
     癒しの矢を飛ばすことで、仲間の回復へと当たっていた蝶胡蘭が声を上げる。彼女は主に、仲間を庇う立ち位置のメンバーへと連携を図っていたのだ。
     そこで動いたのは、かまちだ。肉盾役を買って出ていた彼は、乃子が飛ばすオーラの正面へと飛び出し、身を張って受け止めて見せた。
    「やっぱ、喧嘩は面白いな……!」
     かまちはオーラを腹に受けて一瞬怯んだが、すぐに構え直す。根っからの喧嘩好きな性格もあり、やや興奮しながらも、かまちは直にまたバベルブレイカーを抉るように突き入れる。乃子の麻痺を狙っていたのだが、連続して繰り出すことで乃子はそれを見切り、躱されてしまう。
     この場は出番がなかったとライドキャリバーのガゼルは、次なる攻撃に備えるのだが、そこでふと、主、高明に視線……というべきか、車体の正面を彼に向ける。
     その高明は、己の闇を表わす機械触手状の影を伸ばし、それで乃子の身体を縛りつけようとする。
    「のだー!」
     またも縛り付けられ、抵抗する乃子。したり顔の高明に対し、ガゼルはウインカーをピコピコと点滅させ、何かを訴える。
    「いや、流石にあの年頃は射程範囲外だからね。良い具合に縛った所で、何とも思ってないからガゼルさん!」
     ガゼルは、主の女性のだらしなさを十二分に承知していたからこそ、そうして高明を気にかけていたのだ。
     動きを封じた乃子へ、釼は霊木で作られた鞘を行使する。鞘に魔力を込め叩きつける形となるが、彼が行使するのは、己の肉体を刀と見立てて抜き放つような、特異な武術『鞘術』。叩き付けた箇所から流し込む魔力によって、爆発を起こし、乃子の体力を削り取る。
     闇の世界に生きていた乃子を見ていた闇子。彼女もまた、物心ついた頃から裏の社会を見て生きてきた。武蔵坂学園に入るまでは、それを生業としており、名前を少しは知られている。
     だからこそ、幼くしてアンブレイカブルの乃子に、闇子は親近感を覚える。ただ、倒すべき相手。彼女は仲間の攻撃にあわせ、オーラを纏わせた拳を叩きつけていく。
     合わせる心愛。彼女はしっかりと攻撃を当てようと心がけ、草履に重力を宿して蹴りかかる。一度蹴りつければ、心愛は不敵に微笑む。
     足止めを受けた乃子へ、またもアリスが迫る。すでに、高明が影で縛ってくれている。それなら自分は。
    「気持ちよーく、逝かせてあ・げ・る☆」
     アリスは影を大きく広げ、乃子へと覆い被らせる。見せ付けるトラウマは、薄い本を意識し、エンドレスで聞かせようと試みる。
    「うふふ……」
     『エ・ロ・い(えげつない・ろくでもない・いやらしい)』少女、アリス。その攻めは、乃子にとって、本当にトラウマになりそうな内容で。
    「の、の、のの、のだああああああああ!!」
     哀れ、乃子。彼女はどうなってしまうのか。

    ●楽しい一時をくれた少女に感謝
     戦いは長きに及ぶようにも思えた。しかしながら、実際は10分ほどの交戦だったはずだ。
     乃子は強力な一撃で、幾度も灼滅者を追い詰めようとする。その度に、高明は仲間の身体へと鎧のように帯を巻きつけて援護をはかりつつ、敵の行動や攻撃の傾向をつぶさに観察する。敵の攻撃は気魄が圧倒的に多い。その為、仲間達も徐々に見切りによって対処ができるようになってきているのを確認する。
    「柳瀬君、ここは私に任せてくれ」
     さらに、蝶胡蘭も場合によっては回復に当たる。声がけを行うことで、オーバーヒールにならないように、効率的に立ち回る。
    「のだー!」
     さらに、雷の闘気を纏って殴りかかってくる乃子。やはり、アンブレイカブルの一撃は重く、目眩を覚えそうになる。
    「このスリル、たまんねぇ……」
     やるかやられるか。そのギリギリのラインに、かまちは愉しさを覚えて。彼もまた、雷の闘気を拳に宿して反撃を繰り出す。
     闇子も仲間と共にしながらも戦いを繰り広げている。被害が大きくなってきたことを受け、彼女はオーラを集めることで自らの傷を塞いでみせる。
     それでも、前線に立って壁となってくれる仲間達の恩恵は大きい。個々の連携こそ少なくはあったが、メンバーは仲間の状況を慮り、回復をした上で乃子を攻め立てる。
     やや傷が深くなってきていたからか、乃子は表情を歪めて両手に集中させたオーラを撃ち出す。
     それも、紗子が全身で受け止め、黄色の交通標識を振りかざし、仲間の傷を癒す。
     そこで、またもアリスが乃子へと迫る。
    「魂まで吸い尽くしてあ・げ・る☆」
    「た、た、助けてなのだーーーー!!」
     アリスは乃子の正面から注射器を突き立てるが、それだけでなく、彼女はあえて直接乃子の唇を奪って見せた。ちゅっちゅぺろぺろ。……さすがにこれ以上は割愛させていただく。
     数十秒後。
    「目が回るのだー」
     体力が尽きかけてふらふらし出した乃子へ、心愛が迫る。
    「押し切らせてもらう!」
     心愛はまた、鍛え抜かれた拳で乃子を撃ち抜く。ぐらりと態勢を崩す彼女へ、両手にオーラを収束させた釼が、連打を浴びせかけていった。
    「……終わりだ」
     勝負あった。灼滅者達はそう悟り、殲術道具を封印する。
    「また、負けたのだー……」
     敗北しても、笑顔のままでこの場から消えていく赤村 乃子。彼女は幸せそうに、天へと立ち昇る。
    「……手合せに、感謝を」
    「ありがとうございました」
     彼女に対し、釼、紗子が手を合わせて黙祷を捧げる。
    「道が同じなら、友達になれたかな~?」
     闇子は自分と似た雰囲気をもつ少女の灼滅に、少しだけ残念がっていたようだ。
    「色々な意味でごちそうさまでした♪」
     一方で、この戦いを十分に堪能し、肌をてっかてかにさせていたアリス。ある意味で、灼滅すべきは彼女だったのではと思わなくもないメンバー達である。
     風が吹きすさび、静まる戦場跡。灼滅者達は多少後片付けをした後、その場から立ち去っていったのだった。

    作者:なちゅい 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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