河川敷の暴れ者

    作者:光輝心

     ある日の事、とある河川敷で近くの高校の野球部の少年達が練習を行っていると……どこからともなくやってきた筋骨隆々とした大男が、悪びれる様子もなくズカズカとグラウンドへと足を踏み入れてきた。
    「ようお前等、そんな事よりももっと面白い事をやろうぜ」
     大男は指をポキポキと鳴らし、楽しげにニィッと笑いながら少年達に向かいそう言い放つと……その巨体からは想像できないほどの早さでダッと走り出し、少年達へと襲いかかった。
    「さあ、暴れさせてもらうぜぇ!!」
     大男はまず一番そばにいた少年の腹部目がけ、鍛えぬかれた超硬度の拳で突きを放ち……直後、少年は勢いよく数メートル吹っ飛ばされた。
     更に間髪いれず、突然の出来事に呆然自失としている別の少年の胸倉を掴んで体を持ち上げ、数歩助走をつけながら勢いよく投げ飛ばし……少年は地面へと強くたたきつけられ、意識を失った。
     そうして大男は次々と少年達に襲い掛かり……河川敷にいくつもの絶叫がこだました。
     
    「お集まりいただきありがとうございます。今回もまたダークネスの行動を察知しました、皆さんには彼の灼滅をお願いします」
     そう前置きをした後、エクスブレインの少女は今回の事件について語り始めた。
     今回のターゲットは、身長2メートルを超す巨漢のアンブレイカブルの青年。
     彼はどこからともなく、運動系の部活動が練習を行っているところに現れ、その場にいる者全てを片っ端から叩きのめしていくのだという。
    「そのダークネスが今回現れたのはとある町の河川敷で、そこで練習している近くの高校の野球部の人達に目をつけ、襲撃するみたいです」
     アンブレイカブルが現れるのは大体午後2時頃であるらしいので、その時間その場所で待ち伏せしていれば確実に接触する事ができるだろう。
     彼は強者との戦いを求めている。運動系部活動の生徒ばかりを狙うのも、普段から体を鍛えている彼等なら少しは自分を楽しませてくれるだろうという単純な理由によるものである。
     よって、より強い存在である灼滅者達が現れれば、わざわざ野球部の少年達を襲ったりはしないであろうし、少年達の方もわざわざ戦いに首をつっこもうとはしないであろうと思われるため、特に被害を気にして戦う必要はないだろう。
     アンブレイカブルは鋼鉄拳 、地獄投げ、抗雷撃を使用して戦闘を行うという。
    「相手はダークネス、苦戦は必至だと思います。でも皆さんが力を合わせればきっと勝利を収める事ができるはずです。吉報をお待ちしていますね」


    参加者
    加倉・誠志朗(ストライクハウンド・d00561)
    葉月・葵(中学生ストリートファイター・d00923)
    椎名・紘疾(クイックシューター・d00961)
    長谷川・邦彦(魔剣の管理者・d01287)
    立花・総司(マイペースファイター・d02381)
    真白・優樹(中学生ストリートファイター・d03880)
    斑目・昴(コメットハウンド・d04778)
    斉藤・歩(劫火拳乱・d08996)

    ■リプレイ


     ある日の昼下がり、とある河川敷へとやってきた8人の灼滅者達は、高校球児達が練習している様を見守っていた。
     無論、彼等はただ練習を見学しにきたわけではない。高校球児達を狙い、この場所へやってくるというアンブレイカブルを倒すため、こうして待ち伏せしているのである。
    「奴さんは戦うのが好きなようだな……俺も強い奴と戦うのは好きだ、気が合いそうだ。だが無差別なのは頂けないな」
     ある程度自分とアンブレイカブルの考えが似ている事を自覚している様子の立花・総司(マイペースファイター・d02381)であったが、さすがに誰かれ構わず、という点に関しては共感しかねる様子。
    「運動部は強いって、何考えてんだそいつ。せめて格闘技系に行けよ」
     単純というべきか浅はかというべきか愚かというべきか……そんなアンブレイカブルの理解しがたい考え方に対し、椎名・紘疾(クイックシューター・d00961)は呆れた様子で苦言を呈する。
    「まったくだな、普段から運動してっからって、多少は強いと思う思考回路が俺にはわからねぇよ」
     斑目・昴(コメットハウンド・d04778)もまた紘疾と同意見であるらしく、そのような単細胞な輩が、自分達ストリートファイターの宿敵であるという事に不快感を抱いているようである。
    「本人はただ暴れたいだけのようですが、周囲からすれば迷惑この上ないですね。これ以上の被害が出る前に灼滅してもらいましょう」
     そう皆に呼び掛ける葉月・葵(中学生ストリートファイター・d00923)は、今回が初の依頼参加という事もあってやや緊張している様子であったが、初めてであるからこそ、必ずやそれを成功させてみせようとはりきっているようでもあった。

     ……そうこうしている間に時刻は午後2時となり……やがてどこからともなく、筋骨隆々とした大男がやってきた。
    「へっ、やってるな」
     楽しげにニッと笑い、指をポキポキと鳴らしながら高校球児達の方へと近づいていく大男であったが……そんな彼の前に颯爽と8人の少年少女達が立ちはだかった。言うまでもなく、武蔵坂学園の灼滅者達である。
    「よう、わざわざ弱いの狙って暴れてるってのは手前か?」
     自分よりも20cm以上は身長差がある相手に対し、斉藤・歩(劫火拳乱・d08996)は臆する事なく挑発的な態度で食ってかかる。
    「なんだお前等。俺が用があるのはお前等じゃねぇ、さっさとどこをどきな」
    「遊び相手ならあたし達がなってあげるよ。どうせ暴れるなら相手は歯ごたえのある方がいいだろう?」
     自分達を無視して先へ進もうとする大男の行く手を遮りながら、毅然とした態度でそう言い放つ真白・優樹(中学生ストリートファイター・d03880)。
    「ほう……お前達が俺の相手をするっていうのか?」
    「ああ、果てるまで付き合ってやるともさ。逃げないし逃がさない」
     フッと自信に満ちた笑みを浮かべながら優樹はバトルオーラを身に纏い、それに呼応するかのようにして仲間達もまた次々とオーラを身に纏い、あるいは武器を構える等して戦闘態勢を整える。
    「戦いに溺れた者の成れの果て。こういう奴は好きじゃないが、結果的に俺達のやる事はこいつを満足させる事なんだよな」
     どこかやりきれない思いを抱いている様子の長谷川・邦彦(魔剣の管理者・d01287)であったが、ここまできた以上やる事はただ一つ……。
     高校球児達の命を救うため、河川敷に平和を取り戻すため、灼滅者達はアンブレイカブルに敢然と立ち向かっていくのであった。


    「さあて、大口叩いたんだ、しっかり楽しませてくれよ」
     そう言ってまたニッと笑いつつ、アンブレイカブルはその巨体からは想像できないほどのスピードで走りだし……瞬時に歩の懐へと跳び込み、彼の腹部目がけて突進の勢いを利用した鋼鉄拳を繰り出し、その大きな拳をねじ込ませた。
    「ぐっ……!」
     全身を駆け巡る激痛に耐えつつ、数歩後ずさり距離を置く歩。たった一撃食らっただけで、彼の体力は著しく低下してしまっていた。それだけアンブレイカブルの攻撃力が凄まじいのである。
     とはいえ彼とて完全無欠というわけではなく、攻撃直後には僅かながらも隙が生じ……その隙を狙ってすかさず紘疾が襲いかった。
    「俺の名、紘疾って名を、あんたの魂に刻み込んでやるぜ」
     そう宣言しつつ紘疾はバトルオーラを両の拳へと瞬時に集束させ、目にも止まらない速さで何十発ものパンチを叩きこんでいく。
    「ほう……なかなかやるじゃないか」
     満足げな笑みを浮かべてそう呟くアンブレイカブルに対し、
    「まぁ、アレだ。逃げんなら今のウチだぜ?そのデカい図体を小さくして逃げれば、許してやるよ」
     と、自分へと注意を向けさせるためにわざと挑発的な言葉を投げかけながら、加倉・誠志朗(ストライクハウンド・d00561)はコイン状の盾を歩へと向かい投げ渡し、歩はそれを手の甲に装着してエネルギー障壁を展開し、防御力を高めると同時に若干ではあるが体力を回復させた。

    「さああんたの血と命で癒してよ、あたしの魂を」
     心に静かな闘志を燃やしながら、優樹はサイキックエナジーによって構成された光の剣を強く握りしめながら突貫し、素早くそれを横に一閃させ……直後剣を構成していた光が爆発を巻き起こし、アンブレイカブルにダメージを与えた。
    「戦いの場がグランドというのもなんだかな。倉庫や校舎裏の方がお約束感があるんだがな」
     続く邦彦はそうぽつりぼやきつつ、刀の刃をスゥッと指先で撫でた後、それを上段に構えながら走り出し……強く一歩踏み込みつつ刀を勢いよく振り下ろした。
    「おっと……!」
     咄嗟に両腕を顔面の前でクロスさせてガードするアンブレイカブルであったが、胴体こそ守れたものの、その代償として彼の唯一無二の武器ともいえる両腕に切り傷をつけられてしまう。

    「よし行くぞ」
     頼もしき相棒の霊犬、五斗丸の頭をポンと叩いて気合を入れた昴は、一足飛びにアンブレイカブルとの距離を詰めると、100キロを優に超すであろう彼の体を軽々と持ち上げ、危険な角度で投げ飛ばし地面へと激突させた。
    「いてて、油断しちまったぜ」
     何事もなかったかのようにすぐ起き上がるアンブレイカブルであったが、彼が完全に体勢を立て直す前に、すかさず総司が急襲した。
    「お前を倒して、ここで昼寝して休む!」
     そう意気込みをあらわにしつつ、総司はタンと地面を蹴ってアンブレイカブルに跳びかかり、相手の顔面目がけて鋼鉄拳を叩きこむ。
     そして葵と歩の2人は、それぞれ自らの体から噴出させた炎を拳へと纏わせ、左右から挟みこむようにしてほぼ同時にアンブレイカブルへと襲いかかり、
    「それでは、お手合わせ願いします」
     そう礼儀正しく挨拶をしつつ、まずは葵がその燃え盛る拳を相手の右脇腹へと食いこませ、
    「手前みたいな腐れ外道には、手加減も火加減も無しだ!」
     間髪いれず歩が、その闘志を具現化させたかのように燃え盛る拳を正拳突きの要領で左脇腹へとめり込ませ……2人が拳を引き抜いた瞬間、アンブレイカブルの体は真っ赤な炎によって包まれた。


    「なかなか楽しませてくれるじゃねぇか」
     心底嬉しそうな表情を浮かべながら、アンブレイカブルはおもむろに葵の体をつかんで持ち上げ、数歩助走をつけながら勢いよく投げ飛ばし……葵は受け身をとる事すらできず、地面と強く叩きつけられた。
    「っ……」
     葵は足元をふらつかせつつもなんとか立ち上がり、自らの体を覆っていたバトルオーラを癒しのオーラへと変換し、体力の回復をはかる。
    「まだまだ……こんなものじゃ終わらせないぜ」
     体勢を整え直しきれてない葵に対し追撃を繰り出そうとするアンブレイカブルであったが、そんな彼の死角からひっそりと忍び寄る者がいた……優樹である。
     彼女は先程同様、サイキックソードを構成する光を爆発させて敵を不意打ちし、葵から注意をそらす。
    「っ……へっ、やるな嬢ちゃん」
     そう称賛の言葉を送りつつアンブレイカブルがくるりと振り返り、優樹へと狙いを変更して襲いかかろうとした……その瞬間、誠志朗が両者の間に割って入り、エネルギー障壁を展開させたWOKシールドで相手の体を殴りつけて攻撃を阻止する。
     更に紘疾が右側面からアンブレイカブルを急襲し、集束したバトルオーラを纏わせた両の拳で閃光の如き速さのパンチを次々と繰り出し、滅多打ちにしていく。

     そうして仲間達が敵と攻防を繰り広げている間に、昴は集気法を発動し、深く傷ついた歩の体力を回復させる。
     そして、
    「負けられねぇんだよ俺達は!」
     歩は両手を前方へと突き出し、掌にバトルオーラを集中させながら狙いを定め、アンブレイカブル目がけてオーラキャノンを発射し……見事直撃させた。
    「ぐ……」
     それまでどんな攻撃を食らっても平然としていたアンブレイカブルであったが、ダメージは着実に蓄積していたようであり、若干ではあるが怯んだ表情を見せ、同時に思わず一歩たじろいでしまう。
     無論その隙を見逃すような灼滅者達ではなく……すかさず総司がアンブレイカブルの懐へと跳び込み、彼の体をガッシリと掴んで頭上へと持ち上げ、直後渾身の力を込めて地面へと向かい放り投げ、叩きつけた。
    「ぐ……ぅ……まだだ……まだ……終わらねぇ……」
     全身がボロボロになっても尚、アンブレイカブルは戦意を失いはしなかった。それはアンブレイカブルというダークネスの、悲しき性というべきものなのだろうか。
    「多少卑怯ですがこれも戦うためです」
     8対1……誰がどう見ても、正々堂々とは言えない状況であろう事は、邦彦も自覚していた。
     だが無力な一般人達の命を守るためにも、彼等は決して負けるわけにはいかないのである、たとえどのような手段を用いろうとも……。
    「お命頂戴」
     戦いに決着をつけるべく、邦彦は刀の柄に手をかけながら走り出す。
    「こい……!」
     アンブレイカブルは逃げ出そうとも避けようともせず、迫りくる邦彦を正面から迎えうつべく身構え…………そして、邦彦が間合いへと踏み込んできた瞬間、最後の力を振り絞り鋼鉄拳を繰り出した。
     ……だが、体力が低下しているためか技にキレがなく、邦彦は咄嗟にサッと身をかがめてその攻撃を避け、同時に居合斬りを繰り出し、相手の体に横一文字の斬撃を刻み込んだ。
    「ぐぅぉ…………」
     低く唸り声をあげながら、その場にガクッと崩れ落ちるアンブレイカブル。
     灼滅者達の怒涛の連続攻撃を受け、遂に彼の体力も尽き果てたのである。
    「強かったよ、アンタ」
     ぽつりと呟くようにして、アンブレイカブルに称賛の言葉を送る誠志朗。
    「っ……おれも……たのし……かったぜ…………」
     誠志朗に……そして彼の仲間達に対し満足げにそう感想を漏らした後、アンブレイカブルはドサッと前のめりに崩れ落ち……やがて辺りの景色に同化するようにしてゆっくりと消滅していったのであった。


     戦いは灼滅者達の勝利に終わった。
     野球部の少年達も、灼滅者達とアンブレイカブルが戦闘している間に巻き込まれないよう避難したようであり、特に被害はなかったようだ。
    「どうやら無事終わったようですね」
     被害の拡大を防げた事、そして何よりも初の依頼を無事に成功をおさめる事ができた事に、葵は大きな喜びを感じている様子であった。

    「俺達もある意味こいつと同じ立場になる可能性がある。力に溺れず自我を保っていたいもんだ」
     これから先どれだけの力を得ようとも、決して今回のアンブレイカブルのような考えに至ってはならないと固く心に誓いつつ、邦彦は足早にその場をあとにしていく。
    「俺達もいくか、五斗丸」
     邦彦のあとを追うようにして、五斗丸とともに歩きだす昴。
     仲間達もまた続々とその後に続いていくが、一仕事終えて疲れてしまったのか、先程の宣言通り、総司はその場にゴロンと横になって昼寝し始め、
    「皆さんお疲れ様っす!ありがとうございましたっす!」
     去りゆく仲間達にそう声をかけた後、歩もまた総司同様その場に残り、野球部の生徒達のためにと、1人河川敷の土の整備を行い始めるのであった。

    作者:光輝心 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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