俺は、貴女のことが好きです。
これまで、この想いを綴った恋文が何通あったか、貴女は知っていますか?
いや、それは俺以外、誰も知るはずがないこと。
だってこれまで書いた告白の手紙は、全てゴミ箱行きになったのだから。
貴女に渡した――あの一通を、除いては。
「入学式の時。貴女を一目見たあの時から……ずっとずっと、好きです」
でも俺の告白の言葉を聞いて、俺の書いた恋文を見て、貴女はこう言ったよね。
『やだ、これ何の冗談? 何の罰ゲーム?』
そしてそんな貴女の言葉を聞いた、臆病な俺は。
これまで生きてきた中で一番の勇気を出して渡した手紙を……冗談に、してしまった。
あ、分かった? この間のテストで赤点取った罰ゲームなんだ。
ごめんね、先生――って。
実る想いなんて思っていない。
でも俺は本当は赤点なんて取っていないんだよ。
冗談じゃなくて、本気なんだ。
でも俺は、こうやってまた、一心不乱に貴女に恋文を書くことしかできない。
いや……告白して、振られさえしなかった俺には。
あの日以来、新たに芽生えたこの感情を。
こうやって手紙をしたためていないと……抑えられそうに、ないんだ。
俺は、貴女のことが今でも好きです。
大好きで大好きで大好きで、堪らないのです。
この手で貴女を――ズタズタに刻んで、引き裂いてしまいたいほどに。
●
「みんな、集まってくれてありがとう!」
須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、いつもの様に元気に灼滅者達へぺこんと頭を下げてから。サイキックアブソーバーの解析結果から導き出された未来予知を語り始める。
「今ね、一般人が闇落ちして六六六人衆のダークネスになろうとしていることが分かったんだ。通常なら闇落ちしたダークネスはすぐに人間の意識が消えちゃうけど、今回闇堕ちしようとしている八重野・薫平(やえの・くんぺい)くんは、元の人間としての意識を遺していてね。ダークネスの力を持ちながら、ダークネスになりきっていない状況なの」
彼を放っておけば、いずれ近い未来、完全なダークネスとなってしまうだろう。
その前に、皆の手で灼滅し、救ってあげて欲しい。
「薫平くんは中学生の男の子で、先生に恋しちゃったみたいなんだけど……ずっと抱いていた恋心を思い切って告白したものの、相手にされなくて。振られさえもしなかった現実にショックを受けて、闇堕ちしかけているみたい」
告白を受けた先生の返答は、教師という立場から考えれば、生徒相手にベターな対応であっただろう。彼の想いを分かっていた上で、わざとそう言ったのかもしれない。
だがやはり思春期でもある彼にとっては、ショックが大きかったようだ。
「薫平くんは普段は友達も多い明るい子みたいだから、先生もまさかそんなに思い詰めたりするとは思わなかったんじゃないかな。今は薫平くんは、先生への恋文を一心不乱に書くことで殺人衝動をなんとか誤魔化しているみたいだけど……その衝動に抗えず、本当に人に手をかけてしまうのも、多分時間の問題だと思う」
最近の薫平は放課後になると、中学校の屋上で人知れず、夕焼け空を眺めていることが多いのだという。接触はその時を狙うのが良いだろう。
彼の中学は制服ではなく私服通学で、小学校から高校まである私立校なので、皆が校内に侵入することは容易い。
放課後の屋上も滅多に人が来ることはないので、余程派手な行動をしなければ、人の目を過度に気にする必要もないであろう。
「戦闘になったら、彼はチェーンソー剣を武器に、殺人鬼の皆と同じ六六六人衆のサイキックを使ってくるよ。彼は闇堕ちしかけの状態だけどとても強いから、くれぐれも油断しないようにね」
それからまりんは改めて皆を見回した後、続ける。
「振られることさえ叶わなかった薫平くんの失恋のショックは分からないでもないけど……このままじゃ確実に彼、ダークネスになっちゃうから」
だからそうなる前に彼を倒し、闇堕ちから救い出して欲しい。
もし彼が灼滅者となって学園に来てくれれば、新しい青春が待っているかもしれない。
だが、たとえ灼滅者になれなくても……これ以上、彼の恋が、悲しいものになって欲しくはないから。
皆の手で全力を持って、彼を止めてあげて欲しい。
それからまりんは、いつもの笑顔を全員へと向けて。
「危険な任務だけど、みんなの活躍を祈ってるよ!」
灼滅者達を送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
北条・吉篠(緋の風車・d00276) |
叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779) |
浅葱・カイ(高校生ダンピール・d01956) |
詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124) |
山岡・鷹秋(赫柘榴・d03794) |
栗花落・唯(リテヤ・d05822) |
黒瀬・鎖子(ブラックチェイン・d08624) |
藤森・一刀(心義一刀・d09000) |
●漂う心
夕陽に染まる空をただ見つめているその心を苛むのは。
彷徨う恋心か、渦巻く殺人衝動か――それとも、その両方だろうか。
……でも。
栗花落・唯(リテヤ・d05822)は軋む扉を仲間達と潜った後。
(「留まってちゃだめ、よね」)
夕焼け色の屋上に佇む薫平の姿を見つめ、思う。
そして白雪に滲む朱を湛えた瞳を細め、穏やかに笑んで。
「こんにちは、綺麗な夕焼けね」
相手を怖がらせぬようにと、彼に声をかけてみる。
そして恋焦がれるように眺めていた空から、視線を自分達へ移した薫平に。
「……や、八重野ひゃんですよね」
内気な性格ながらも懸命に続いた黒瀬・鎖子(ブラックチェイン・d08624)であったが。あっ噛んだ、とわたわた。
「なんで、俺のことを?」
一方薫平も、自分を知る現われた者達に驚いた表情を宿すも。
「ここから見る夕陽は綺麗だな」
北条・吉篠(緋の風車・d00276)の言葉に、そっと俯く。
そんな薫平に吉篠は続ける。
「俺は心が苦しい時、良く夕陽を眺めるんだが、何か考え事でも? なんだか辛そうに見えたので、気になった」
「今の俺には、この綺麗な夕陽は眩しすぎて……どうにかなりそうだ」
何か悩みがあれば聞こうか、と。
そう申し出た灼滅者達に、自嘲の笑みを向ける薫平。
「じゃあ、情けない恋愛相談でもしようか。告白したのに冗談で済まされて、結局振られさえもしなかったとか、ホント笑えるだろ。それに……」
自棄気味にそこまで言った彼はふと言葉を切る。
行き場を失った恋。
そしてそんな恋心と混ざり合い渦を巻くのは……新たに芽生えた狂気。
零す言葉とは裏腹に、握り締めた拳が小刻みに震えている。
「そりゃ、告白しようとしたのに冗談扱いされちゃ傷付くよな……」
薫平に同情するように言った浅葱・カイ(高校生ダンピール・d01956)に頷いて。
「真剣に想っていたのに、冗談と思われたのは辛いですよね」
だからこそ、闇堕ちしかけるほど傷付いたんでしょうけど、と。
唇を結ぶ彼を見つめる、詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)。
そして吉篠には、薫平の気持ちが分かる気がするのだった。
「例え一番の望みが叶わなくとも、せめて、心と向きあって『自分を見て』欲しいよな」
愛されたい人から愛されず……自分が愛する想い受け入れられなかった過去。
前の彼と重ねるは――誰でもない、己の姿。
「叶う想いとは思ってなかったんだ。でもせめて、受け止めて欲しかった……」
灼滅者達にというよりも、まるで独り言の様に想いを零す薫平。
同時に、より強く握り締られる拳と溢れ始める負の感情。
そんな表情を硬くする彼へと。
「ひとを好きになるって、とっても素敵なことよ。次がある、なんて言わないわ。楽しかったのも、哀しかったのも。貴方の唯一の想いなのだから」
唯は奏でるように紡ぐも。
ふいにふるりと首を振り、続けたのだった。
「でも、そのままじゃ。きっと貴方も彼女も悲しいことになる」
「……え?」
「あ……あなたが悩んでる事について知ってます。ちょ、ちょっと荒っぽいけれど協力できます……から……」
微かに反応を示した薫平に、鎖子もそう訴えかけて。
「人には言えない衝動に悩むことが、最近よくあるんじゃないでしょうか?」
薫平の心に宿る殺人衝動を指摘する沙月。
そして驚き自分を見る彼に、説明するのだった。
貴方を闇堕ちから救う為に、自分達は此処に来たのだ――と。
「好きだと思えた人を手に掛けるなんて間違ってる。だからこそ、今まで衝動を抑えるのは大変だっただろうし、よく頑張ったとも思う」
「…………」
カイは、複雑な表情を宿し黙ってしまった薫平から視線を外さずに。
「本当に先生が好きならその衝動を向けるべきじゃない」
そうきっぱりと言い放つ。
「止められない殺戮衝動は、此処で燻ってる思いと一緒に吐き出してしまえばいい」
本人も分かっていて抑えているんだろうけど……と、彼を見遣りながら。
そして吉篠や唯も、薫平へとその手を差し伸べる。
「お前の心を想い人に伝えることはもはや叶わぬが、ならばせめて吐き出せばいい」
「ひとりが難しいなら、アタシたちがお手伝いするから、ね、いっぽ踏み出してみよう?」
「……吐き出して、一歩を」
灼滅者達の言葉に呟き、俯く薫平。
そんな彼や仲間の様子を見守っているのは、叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)。
(「自身はそういった想いは持ち合わせないようにしてるんだが……放置するわけにはいかないな」)
惚れた腫れただのという感情は抱かぬようしているが。
宗嗣は仲間達と同じ様に彼を真っ直ぐに見つめ、思う。
(「殺しの重みを、無駄に味わって欲しくはない」)
だが――殺人衝動という心の闇に抗うのは、容易くはない。
「ふ、ふふ……今まで何で悩んでたんだ、俺」
急にそう笑い始めた薫平はふと顔を上げて。
ぐるりと灼滅者を見回しながら、言ったのだった。
「先生が好きなら、この衝動を向けるべきではないって? でも俺は、あの人のことが、こんなにこんなにこんなに大好きだ。この手で引き裂きたいと……そう思う衝動に、駆られるくらいにさ」
それから薫平は、ふと夕空を仰いで。
「夕焼けに赤く染まった世界って、とても綺麗だろ? だからきっと……血に染まった先生も、すごく綺麗だと思うんだ。それにきっと残酷な赤に塗れたあの人は、やっと俺だけを見てくれるはず」
スッと、闇に蝕まれた瞳を細めたのだった。
だが、そんな彼へと面倒臭そうに言葉を投げるのは、山岡・鷹秋(赫柘榴・d03794)。
「同じ土俵につくまで突き進めよ、考えたって相手は唯の人間だ。おめーのこたーわからねーよ」
「本当に、気持ちを決めたのなら最後まで言えば良かったんだ」
藤森・一刀(心義一刀・d09000)も、闇に飲まれ始めた薫平へと首を振って。
「馬鹿か、最後まで突き進んでどうなるってんだ。やっと分かったってのによ……究極の愛が、どういうものかってな!」
先程までの説得の効果もあってか、動揺したように薫平は声を上げて。
口調や雰囲気が変わってきた彼にも全く怯まず、言い放つ鷹秋。
「馬鹿はてめーだ。大層な勇気でもなんでもねー、また傷付くのがこえーだけだろーが」
「……何?」
「傷つく事を恐れては行けない。痛みを知らない人間なんて、何処にも居ない」
「ぐちぐちしてんじゃねーよ、もういっちょかまして来い」
ピクリと反応した相手に、一刀や鷹秋は小細工せず、自分らしく思いをぶつけていく。
そんな灼滅者達に、薫平は笑いながら。
「じゃあ、そこまで言うなら証明してみせろよ! この衝動が間違ったものか……究極の愛かどうかを!」
けたたましく唸り始めたチェーンソー剣を構える。
「……俺は、アンタみたいな想いは抱かずに生きてきた。今までもこれからも……だからアンタの苦しみは俺には理解できない。出来はしないが……その手を血に汚させるわけにはいかない」
そんな薫平を見遣り、手にした得物を握りしめて。
一気に殺意を漲らせた相手を迎え撃つ宗嗣。
「俺は俺の人生に後悔を背負って生きてきた……。そんな人生を、お前に歩ませる訳にはいかない……!」
「痛みを知ればこそ、人は強くなれる。だから、俺は君を此処で止める」
一刀や鷹秋も、それぞれ素早く陣形を成す。
「鬱屈してるくらいなら付き合うぜ、同じ性同士、言わなくてもわかるだろ」
心に巣食う闇から、彼を救う為に。
●紡ぐ思い
夕焼けの戦場を塗り替えるのは、互いに解き放つ殺気の色。
「特別に殺りはしねーよ。もっかい突っ込んで玉砕なりなんなりしてこいよ」
薫平の漆黒の領域にも負けずに。機銃掃射で足止めを狙うライドキャリバーのクリアレッドに跨った鷹秋も、同じく殺気の衝撃を成し、彼へと見舞い返して。
殺意ぶつかり合う戦場に生じるのは、カイの生み出した魔力の霧。
そして薫平の逃走経路を断つべく屋上の扉の前に位置取る沙月が招いた優しい風が、殺意に傷ついた仲間をふわり包み込んで。
「さて、緋き狼煙を上げようか」
緋き狼煙――その能力の封を解く言の葉通り吉篠が放つ衝撃は、空を染める夕陽に溶ける、緋の色の輝き。
得物に宿るその色が闇を払拭すべく、紅蓮の斬撃を繰り出せば。
「その足を殺す……」
薫平の死角から見舞われる、鋭き漆黒の閃き。
決して後ろには通すまいと死角を縫う様に、宗嗣のナイフが飛ぶと同時に。
「……刀を抜く以上、どんな相手であろうと俺は違わず全力だ。覚悟を決めろ……!」
宗嗣と連携し刀を鞘から抜き放った一刀からも、同じく急所を狙った斬撃が繰り出される。
(「うう……本格的に強いダークネスと戦うのも、外で戦うのも初めてだよ……」)
轟くチェーンソー剣に、満ち溢れるどす黒い殺気。
鎖子は慣れぬ外での戦闘にちょっぴり緊張しつつも。
(「でも泣き言は言ってられないよね、これから強くなる為には、ソウルボードの外での戦いも必要なんだから……!」)
ぐっと緋色のオーラを宿した短槍状のマテリアルロッドを手に、仲間の盾となるべく敵前に立ちはだかる。
そして衝撃と共に薫平に投げられるのは、幾つもの思いの言の葉。
殺意の戦場に神秘的な歌声を響かせながら、こそり皆の想いの欠片を拾い集めて。
耳が痛いと苦笑いする唯が赤を纏う瞳に、一瞬映す姿は。
(「あの子を欠いた世界は、本当に白黒で。好きを裂いて、想いをぶつけて、それから?」)
己のビハインド――忘れ難い嘗ての想い人の、面影。
防御を切り裂く無慈悲な斬撃が残酷な赤を飛沫かせ、唸り回転するチェーンソー剣がその傷をさらに広げて。
重く鋭い一閃を見舞ったかと思えば、灼滅者達を纏めて殺意の領域へと巻き込む。
完全な闇堕ちこそしていないとはいえ、人が変わった様に刃をふるう薫平はかなりの強敵。
だがこれまでは、しっかりと戦線を保てている。
「回復の援護をお願いします……!」
一番傷が深い鎖子へと防護符を飛ばし、皆へと声を掛ける沙月に頷いて。
それぞれが回復を施し、態勢を立て直しながら戦う灼滅者達。
それに、強烈な殺意の切っ先を微かに鈍らせている気がするのは。
「お前が抱え込んでいる物、全部を俺達に吐きだせ!」
「今までその衝動を抑えてこられたんだ。だから、頑張れるはず」
「一緒に頑張りましょう、ね?」
傷つきながらも休まず飛ぶ、沢山の声。
カイは夕焼けに照る赤き逆さ十字を成し、声をかけながらも思う。
勿論、手を抜ける相手ではないけれども。
でも――このまま終わりだなんて、悲しいから。
「ここまで苦しむほどに、誰かを想えるならば、きっとお前を心から想い、応える者もこれから居るだろう」
そんな存在を、共に、探して行かないか、と。
緋きオーラを宿した得物を振り翳す吉篠。
そして薫平の顔色や傷などを確認しながらも、宗嗣は高速の動きで死角からの一撃を放ち、相手の纏うものごとその身を引き裂きにかかって。
同時に、一刀が彼の胸倉をぐっと掴み引いた刹那。
「俺は全力でお前の言葉を、想いを、力を受け止めてやる! 来い、八重野薫平! どれだけの想いを抱えているのか、俺に見せてみろ!」
「……ッ!」
ガシャンッと激しく音を鳴らし、張り巡らされたフェンスへと、薫平の身体を思い切り投げ、叩きつける。
鎖子も、撃ち出した轟く雷音に負けじと。
「その……! 恋愛とか私もよくわからないし先生となんて難しいと思います。でもあと5年もすれば成人じゃないですか! そうしたらきっと先生も本気で考えてくれますし!」
必死に声を上げ、こう続けたのだった。
「生きてればどうにかなります! ダークネスなんかのせいで諦めないでほしい……って……私は思うんです……けど」
「生きて、いれば……?」
最後ちょっぴり気弱に発した彼女の言葉に、一瞬気を取られる薫平。
そして、蝶々の如く結ばれた糸を手繰り寄せるかの様に。
唯のパッショネイトダンスとビハインドの霊障波が同時に戦場に解き放たれる。
……好きを裂いて、想いをぶつけて、そして。
(「その先は、きっと溺れてしまうほどの。だからアタシは、俺は」)
唯はふわり白雪の猫毛を揺らし、サーヴァントから薫平へと視線を移した。
だから――必死に抗う彼に、手を伸ばしたいの、と。
適度に回復を挟みながらも、短期決戦を狙い、攻勢に動く灼滅者達。
強い力を誇る彼もそんな集中砲火に、微かにその身を揺らし始めて。
「刀を扱う以上、間合いの問題はどうしても出て来る。超近接だろうと、油断はしない事だ……!」
「!」
正面から討ち合うのが厳しいのならばと、体裁きで攻撃を躱した一刀が。
一瞬の隙をつき、流れのまま急所を狙った黒死斬で夕空に鮮血を迸らせれば。
これまで、夕焼けに煌く糸で相手の動きを抑制しながら。
クリアレッドと共に戦場を駆けていた鷹秋の殺傷力無き一撃が。
揺らいだ彼へと、満を持して叩き込まれた刹那。
「……!」
「他人を純粋に好きになれる、それだけでも羨ましいもんだ」
遂に薫平は、地へと崩れ落ちたのだった。
●学園へ
「手荒をして済まなかった。大丈夫か」
戦闘後介抱し、意識の戻った薫平に、そう声を掛ける吉篠。
そしてカイは灼滅者となって目覚めた彼に、学園へ来ないかと誘いをかけてみる。
「人が多くて賑やかだし、何より可愛い子も多い。今はまだ先生以外の誰かを好きになるのはちょっと難しいかもだけど、新しい恋見つけるのもいいんじゃないかな?」
前を向いて、新しい出会いをこれから見つけられるようにと。
心が傷付いたのも、薫平の意識が残っていたのも。
きっと彼が、先生の事を本当に好きだった証拠。
「男の子だから、泣くのは嫌かもしれませんけど。でも傷付いたのならそれを表に出しても良いんです」
私で良ければ、気が済むまでお話を聞きます、と。
沙月は、学園や灼滅者の仲間のことを、彼に話してあげながら。
「それで、美味しい物でも食べて楽しい思い出を作りましょう?」
そう、手を差し伸べて。
「傷は癒えないかも知れない。でも……その傷を受け入れられる強さをきっと得る事は出来る。一緒に来い、俺達と一緒に──強くなろう」
一刀も大きく頷いてから、続ける。
「……さて、終わったね。帰ろう、学園へ」
それからふいに折った手紙を、夕焼け空へと投じた薫平に微笑んで。
「認めた恋文はほら、紙飛行機になって宙も飛べるのだもの。きっと貴方なら、大丈夫」
唯は風に乗る想いの行方を、暫しビハインドと共に見送った。
そして、これから共に戦いたいと、差し出された吉篠の手を確りと取った後。
薫平は宗嗣や鷹秋にふっと笑みつつ、歩き出すのだった。
「皆と行く前に、しっかりと玉砕してくるよ」
先生に今度こそ、自分の想いを伝えるために。
――俺は貴女のことが大好きでした、と。
作者:志稲愛海 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年10月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 15/キャラが大事にされていた 0
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