穏やかな午後。喫茶店で身を休めていたユメ・リントヴルム(竜胆の夢・d23700)は、中学生くらいの少女たちの会話を耳にした。
●幽霊プロデューサー
ねえねえ、知ってる? あの公園のスカウトの話。
そうそう、幽霊プロデューサーの噂!
なんでも、その公園では昔、色んな若者が足を運んでくるような場所で……それに目をつけたのか、多くの芸能プロダクションなんかのスカウトが来てたんだって。でも、時が経つに連れて悪質なスカウトも増えて……やがて若者が離れ、廃れてしまった……そんな場所なの。
でも、今でも古い噂を耳にして足を運んでいく若者がいる。だからかな、幽霊プロデューサーの噂が生まれたのは。
なんでも、幽霊プロデューサーは明るく元気な笑顔を浮かべられる人材を探している。そんな人に声をかけて、スカウトするんだって。
でも、幽霊プロデューサーが導く先は芸能プロダクションなんかじゃない。幽霊って言うくらいだし……きっと、あの世に連れて行かれるんじゃないかな? 誰も戻ってこなかった、って噂だしね……。
怖いねー、と語り合っている少女たちをよそに、ユメは静かな息を吐き出した。
「幽霊プロデューサー……か。ちょっと気になるね」
内容を素早くメモに書き記し、伝票を手に立ち上がる。
「知らせてみよう。真実なら……」
解決策を導かなくてはならないだろうから……。
●夕暮れ時の教室にて
「それじゃ葉月、後をよろしく頼むよ」
「はい、ユメさんありがとうございました! それでは早速、説明を始めさせていただきますね」
倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)はユメに頭を下げたあと、灼滅者たちへと向き直った。
「とある公園を舞台に、次のような噂がまことしやかに囁かれています」
――幽霊プロデューサー。
纏めるなら、笑顔の素敵な人をスカウトする幽霊プロデューサーがいる。スカウトされて幽霊プロデューサーについていったものはあの世へと連れて行かれ、二度と戻ってこない……というもの。
「はい、都市伝説ですね。退治してきて下さい」
続いて……と、葉月は地図を取り出した。
「舞台となっているのはこの公園。かつては若者たちで賑わっていましたが……その若者たちを狙った様々な大人の出現によって廃れてしまった、そんな場所ですね」
時間帯は太陽が出ている時間帯。その時間帯に、若者が明るく元気な笑顔を浮かべて歩けば幽霊プロデューサーは出現します。
「男女どちらでも良いので、皆さんならば誰でも若者という条件は満たします。ですので、複数……いっそのこと全員で明るく元気な笑顔を浮かべて歩いても良いかもしれません」
そうして出現する都市伝説・幽霊プロデューサー。姿は背広姿の男。力量は、全力を尽くせば倒せる程度。
全体的に隙がなく、技は名刺を渡して心を惑わす、どこまでも追いかける足で走り威圧する、輝ける未来への行程を理路整然と語り複数人を麻痺させる、アイドルを守るために身につけた格闘術で複数人の足を止めさせる……といった攻撃を仕掛けてくる。
「以上で説明を終了します」
葉月は地図などを手渡し、締めくくった。
「アイドルへのスカウトを望む方もまた、いるのだとは思います。しかし、その先があの世では夢を叶えるなど夢のまた夢……そう思います。ですのでどうか、全力での討伐を。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」
参加者 | |
---|---|
夏雲・士元(雲烟過眼・d02206) |
志那都・達人(風祈騎士・d10457) |
東屋・紫王(風見の獣・d12878) |
シエラ・ザドルノフ(何時でも何処でも緊急抜刀・d19602) |
所城・火華(ハリケーン会議は踊るよ・d20051) |
天城・ヒビキ(インディゴファイア・d23580) |
ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671) |
ユメ・リントヴルム(竜胆の夢・d23700) |
●木々に囲まれたステージにて
腕をかざせば手が煌めき両腕を広げれば全てが輝く、澄み渡る青に満たされた空の下、世界が鮮やかな温もりに抱かれていく春先のお昼前。蕾が膨らみ始めた桜の木々と花壇が中心となっている街中の公園へと足を運んだ灼滅者たちは、散歩に訪れていたのだろうペット連れの男女や老人たちを危険から遠ざけるために人払いの力を放った。
一人、また一人と公園から立ち去っていく人々の背中を見送りながら、しーちゃんことシエラ・ザドルノフ(何時でも何処でも緊急抜刀・d19602)は満面の笑顔を咲かせていく。
「あだ名つけられたのって私初めてだから素直に嬉しいのです!」
都市伝説・幽霊プロデューサーを呼び出すため……後は多くの遊びも含み、この場に足を運んだ八人全員につけられたあだ名の数々。
いつでも取り出せるよう心の中に収めたうえで、しーちゃんは自らを指差していく。
「わたしはシエラ・ザドルノフ。属性ロウのしーちゃんはポン刀とダンスに自信あるので目指せ殺陣師!」
ライドキャリバーのゼルーヴァとともにくるくる回りながら、一人ひとりに自己紹介。
全員が自己紹介を終えたタイミングを見計らい、ルーニャことルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)は荷物から体重計を取り出した。
「アイドル業なら事前に予習済みだ。そう、携帯アプリでな」
不敵に口の端を持ち上げながら、ゆめりんことユメ・リントヴルム(竜胆の夢・d23700)へと視線を移していく。
「とりあえず体重計持ってきたんだが、誰とは言わないが計っとくか? ゆめりん。男性陣はあれだ……離島でも開拓しようか。とりあえず重機の免許とってこい」
「え、えーと……」
男性陣にも意見を述べながらずずいっと迫ってくるルーニャを前に、ゆめりんは頬に汗を伝わせながら一歩、二歩と後ずさる。
「そ、そういうのは後で……お風呂上がりとか、ね?」
告げ終えるとともに視線を外し、中央広場の中心へと躍り出た。
エアシューズで踏み固められた地面を滑り、しげちんこと夏雲・士元(雲烟過眼・d02206)は後を追う。
中心へ至るとともにゆめりんと視線を交わし、呼吸を重ねてレッツ・ダンス!
ゆめりんが髪を弾いて微笑んだ時、しげちんは元気な笑顔を弾けさせて中央広場をぐるりぐるり。時には花壇の縁に足をかけ、勢いのままにバク宙を。
しげちんが小気味良い音色を七度ほど響かせた時、ゆめりんもまた軽快なリズムと取り始めた。
ダンスなんて踊ったことないけれど、キラキラ笑顔とともにあるなら問題ない。
弾む心赴くまま、華麗に歌も歌っちゃおう。
持ち歌特にないけれど、元気な歌声があれば問題ない!
歌声が一度目のサビに突入した時、たっつんこと志那都・達人(風祈騎士・d10457)もまたライドキャリバーの空我とともに参戦する。
エンジン音は最小限。
走り回るしげちんと交錯しつつトンボをきり、空我を足場に、時に手すりにして高く、高く宙返り。
時には空我もその場でブレイクダンス! 仲間とともに高め合い、夢の歌声を飾っていく。
静寂という名の間奏へと移り変わった頃合いには、しーちゃんもゼルーヴァとともに、刀片手に突入した。
一歩下がったゆめりんに代わって中心部へと到達し、虚空に敵を見立てた殺陣演舞。
刃が虚空を裂く軽快な音色を、時にゼルーヴァの鋼と打ち合う快音を響かせながら、徐々に中心をゆめりんへ。
朗らかな歌声が響く中、バク転とともにすれ違うたっつんとしげちん。間から飛び出し虚空を切り裂くしーちゃん。
次々と変わっていくダンスを、歌を前にして、しおむーこと東屋・紫王(風見の獣・d12878)は手を叩く。
しげちんに誘われはしたけれど、腰をやっちゃうと危ないから辞退した。代わりに応援して盛り上げるのだと、キラキラ笑顔で応援の声を上げ続けていた。
「ゆめりんすごーい、体重の割にはとっても機敏なダンス! しーちゃんも今日は一段としゃっきりしてるね」
傍らでは、ダンスを見る傍ら薄い冊子に目を通していたひびきんこと天城・ヒビキ(インディゴファイア・d23580)。
一人小さく頷いた後に顔を上げ、冊子を仕舞い……再び訪れた間奏の時に合わせて一歩前に踏み出した。
「我が名は天城ヒビキ。我が友ユメの誘いにより、彼の荒廃せし約束の地にて我を導かんとする瞳の担い手の訪れを待つ」
「えっ」
今、舞台の主軸を担い始めたひびきんのためか……はたまた別の理由かダンスが落ち着いたものへと変わっていく中、闇と同化せし真言(自己紹介)は続いていく。
「しばし神の目を欺き、グリモワールに禁忌の術式を刻んでいるわ。沈黙の戒律が破られし時、瞳の担い手と魂を共鳴させるとき! 魂の赴くままに!」
神と悪魔の睨み合い(沈黙)が訪れし時、しおむーは戸惑いの視線を差し向けた。
「えっと……ひびきんは急にどうしたの?」
「……」
一方、静かな眼差しでひびきんを見守っていたルーニャは荷物からドリンクを取り出して、静かに喉を潤しはじめて行く。
アイドルたるもの、仲間のアイドルに気をつかえるのもデキるアイドルの条件。故に、冷えた飲み物を用意してきた。
もっとも、自分の分だけなのだが……。
「おー、ルーニャは良い物飲んでるねー。ボクにも一つ……」
休憩に戻ってきたゆめりんが手を伸ばした時、ルーニャは首を傾げて行く。
「え? 自分の分しかないぞ?」
「え? うっ!?」
手を戻そうとしたゆめりんは、背中を叩かれ背を伸ばした。
振り向けば、チャンヒバこと所城・火華(ハリケーン会議は踊るよ・d20051)がウイングキャットのひひると共に、元気な笑顔を浮かべていた。
「アイドルなんだから元気に明るく! さっきみたいな感じじゃなくて、こう……」
自ら手本を示すチャンヒバ、合わせて笑みを浮かべ始めていくゆめりん。傍らで、ドリンクを飲み続けていくルーニャ。
「……」
チャンヒバはいたずらっぽい笑みを浮かべ、素早くルーニャの背後を取り。
「ほらほら、ルーニャも一緒に!」
「っ! 待て、飲んでる時に背中を……」
背中を叩かれたルーニャは講義の半ばにて瞳を細め、公園の表通りへの入り口の方角へと視線を移した。
人払いの力など気にした様子もなく、近づいてくるスーツ姿の男性が一名。
都市伝説・幽霊プロデューサーだと断定し、ルーニャは歩み寄っていく。
「……あんたがプロデューサーか」
お腹の前で腕を組み、気のない様子で観察しながら、間合いの外側にて立ち止まる。
仲間たちが近づいてくるのを感じながら、静かな息を吐きだした。
「最近のアイドル業界はあの世まで活動範囲が広がっているらしい。業務の多角化、さしずめ……」
語りながら、ゆめりんへと視線を向けた。
「ともあれ、貴様もプロデューサーならなぜリーダーがゆめりんなのか感じるだろう……? そう、この女性陣の中で最長老だからだ!」
「そうそう私が……って、その紹介の仕方ひどくない? ともあれ……こほん」
ゆめりんは幽霊プロデューサーの前に立ち、髪を軽く書き上げた。
「ユニット名はカッコいいボクと仲間たち。リーダーは当然ボク、だよ」
聞いてか、聞かずか、立ち止まっていく幽霊プロデューサー。殺意は感じ取れないけれど、彼のついていった先に待つのがあの世だということをカッコいいボクと仲間たちの面々は知っている。
だから、ひびきんは告げるのだ。
「我が闇の力、今こそ解放せん! ――己の闇を恐れよ。されど恐れるな、その力!」
隔絶結界(サウンドシャッター)を行使すると共に、灼滅の札(スレイヤーカード)を手にしていく。
戦うための姿に変わり、槍を握り身構えた。
幽霊プロデューサーは動じることなく、カッコいいボクと仲間たちを見回していく……。
●我らが輝くべきステージは
空我に跨がり、たっつんは駆ける。
ぐるり、ぐるりと、幽霊プロデューサーを囲うように。
「笑顔っていいよねー。俺は色々あってあんま見れないんだけど、明るく輝くような笑顔ってのは、周りの心も明るくしてくれるね」
でも、と空我の進路を変え、幽霊プロデューサーへと突撃した。
「君のスカウトは頂けないな。あの世に連れて行かれたんじゃ、輝ける笑顔も輝けないからね!」
道中足に炎を宿し、すれ違いざまに蹴りを放つ。
幽霊プロデューサーが炎に抱かれながら車止めに叩きつけられていく中、煙を上げながらドリフトし、進路を変えて全速前進。
姿勢を正していく幽霊プロデューサーの側面に、鋼のボディをぶちかました。
吹っ飛びながらも姿勢を正していく幽霊プロデューサーを追いかけて、しーちゃんはバベルブレイカーのトリガーに指をかけた。
「アイドル……私それよりも日本一の殺陣師になりたいかななのです」
満面の笑みと共に傍らを走るゆめりんへと視線を向け、互いに小さく頷きあった。
姿勢を正した幽霊プロデューサーにゼルーヴァが機銃を浴びせていく中、ゆめりんはしーちゃんに合わせてバベルブレイカーを突き出した。
左右の肩を同時に貫き、真剣な瞳で見据えていく。
「未来へとアイドルを導くべき存在が、冥府へ魂を導いて何になるのさ! ボクの名にかけて、ユメを奪うモノには容赦しないよ!」
「私達は誰だってシンデレラですけど、だからってガラスの靴をくれたら誰にだってほいほいついていくわけじゃないんですよ!」
二人が離れていくのを見計らい、チャンヒバはギターをかき鳴らした。
強い願いを込めたリズムにて、幽霊プロデューサーを揺さぶり始めていく。
動けぬその隙を見逃さず、足に灼熱の業火を宿したひびきんが踏み込んだ。
「アイドル……女の子の夢……あの世に連れて行かれるのはちょっと、看過出来ないです、ね」
静かに見据えながらの回し蹴り。
炎の色を白に変えながらも、幽霊プロデューサーは立ち続ける。静かな眼差しでカッコいいボクと仲間たちを見回した後……ひびきんを淡々と追いかけ始めた。
すかさず、しおむーはひびきんに向けて帯を放つ。
「そんなことじゃ笑顔は曇らない!」
仲間を追いかけられても、サポートして笑顔を守る。
同様にひびきんを守るのだと、チャンヒバは力を注ぎ始めた。
「そういう攻撃は事務所を通してからにしてください!!」
本当の笑顔が好きならば、もっと別のやり方ができるはず。
足を止めていく幽霊プロデューサーを横目に、支えるための準備を整えて……。
幽霊プロデューサーを惑わすように右へ左へと駆けまわり、蹴りを魔力の矢を刃を打ち込み続けてきたしげちん。
まっすぐに名刺を突きつけられ、笑顔で風を招いていく。
「輝きの向こう側はけしてあの世じゃない、その名刺は受け取れないよ!」
むろん笑顔は曇らせず、仲間たちの笑顔も陰らせず。
皆で協力して守った結果、表情を変えた者はいない。あるべき姿を保ったまま、順調に攻撃を重ねていた。
しおむーがすれ違いざまに水晶の杭を振るい後ろふくらはぎを切り裂いた。
「俺も今はわけあってアイドルを目指すシンデレラボーイだから」
静かな笑みと共に駆け抜け振り向けば、姿勢を崩していく幽霊プロデューサー。
そのスーツを、一陣の風刃が切り裂いた。
「今がチャンスだ、畳みかけろ」
担い手たるルーニャはバベルブレイカーを構え直し、華麗なポーズを決めていく。
呼応し駆ける仲間に混じり、ひびきんは背後へと回りこんだ。
「今こそ終幕の時、地獄の業火に燃え尽きよ!」
地獄の業火を宿した足で、放つは後ろ回し蹴り。
前方へとよろめく幽霊プロデューサーを迎え撃つかのように、しげちんは高く、高く飛び上がる。
空中にて体を丸め、右足を伸ばし放つはジャンプキック。
胸元へと突き刺して、膝をバネに飛び退いた。
着地とともに背を向けて、静かな息を吐いていく。
「あの世にアイドルデビューしても仕方ないし、夢を叶えるのはこの世でこそだよね」
静かな言葉が響く中、幽霊プロデューサーは冥府へと誘う炎に抱かれて……跡形もなく、消え去った。
●それぞれの未来
静寂と、平和を取り戻した自然にあふれた公園内。治療や後片付けなどの事後処理が行われていく中、たっつんは空を見上げて行く。
「しかし、アイドル道とは一体……」
きっと、それは人の数だけ存在する。語り合っても答えは出ない、出す必要なんてない大切なこと。
もっとも……と、チャンヒバは腕を組んだまま口の端を持ち上げた。
「本当の笑顔は、プロデュースされなくてもみんな持っているんですよ……みなさん、いい、笑顔です」
浮かんでいく、得意げな笑み。
締めくくりを感じたか、しーちゃんもまた、ふんわりとした笑顔を浮かべていく。
「皆お疲れ様なんだよ。それと私殺陣師目指しているから関係ないけど皆は悪いPに引っかからないでね!」
「そうだな。皆で注意をしつつ……そろそろ撤収しよう。お疲れ様だ」
事後処理が終わったと、ルーニャは帰還を促した。
しげちんは大きく伸びをしつつ、街の方角へと視線を向けていく。
「膨らむ夢……白いゆめりん……なんかお腹空いたね―。打ち上げはラーメンかな?」
「そうだね。でも、その前に……」
ユメはいう。
今日でこのユニットは解散だと。
だから、最後に円陣を組もうと。
「これからもそれぞれのアイドル道を駆け上がって行こうね!」
元気な声が響いた時、カッコいいボクと仲間たちの物語は終幕する。
木々が、晴れやかな空が見守る中、光ある世界が導く中。それぞれの思いを胸に……さあ、各々が目指すべき道へ!
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年3月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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