猫舌には、ツラい食べ物

    作者:芦原クロ

     気温が上がり始め、日中は暖かくなる春。気候の良い穏やかな季節に反して、物騒な噂が1つ。
    「なあ、知ってるか? 肉まん怪人の噂」
     冷え切った肉まんを頬張っている友人を見て、思い出した噂を口にする若者。
    「肉まん怪人? ……ああー! そんな噂有ったなぁ。アツアツの肉まんを食わせて来るんだよな? 猫舌の俺なら、死んじゃうね。主に心が」
    「そう。肉まん怪人が居るコンビニに入ったら、アウト。寒い時期ならともかく、暖かい春だぜ? そんな季節に、アツアツの肉まんなんか絶対食いたくねーわ」
     若者2人は桜を見上げながら、悩まし気に溜め息を吐いた。

    「銀城さんのお陰で、予知できたよ! 怪人とはいっても、ご当地怪人じゃなくて都市伝説みたいだね」
    「肉饅頭か。コンビニのより、自分で作ったほうが美味いよな」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)に続き、家庭的な銀城・七星(銀月輝継・d23348)が言葉を紡ぐ。
    「肉まんが良く売れていたコンビニが有ったんだけど、他の商品が売れなくて儲からず、コンビニは閉鎖しちゃったんだ。新しい店にもならずに、ほぼ廃墟と化しているみたいだね。出入り口に近付いた瞬間に、コンビニと都市伝説が一緒になって現れるよ」
     まりんは、周囲には人が滅多に寄らないことなども説明し、今回は人払いの必要も無いと告げる。
    「肉まん怪人は、アツアツの肉まんを無理矢理、食べさせて来るよ! 都市伝説の能力だから、とても熱く感じるよ。猫舌の人は、要注意だね。熱くても、頑張って食べていると、都市伝説は弱体化するよ! ちなみに、肉まんはとっても美味しいみたい。弱体化させるか、時間を掛けて倒すかは、みんなで決めてね」
     説明を終えたまりんが、猫舌の人は居るかどうか心配そうに、灼滅者たちを見回す。
    「猫舌じゃなくても熱いから、気をつけてね。猫舌の人なら、なおさらだよ。みんなの活躍、祈ってるからね!」


    参加者
    星河・沙月(過去を探す橙灯・d12891)
    逆島・映(中学生シャドウハンター・d18706)
    銀城・七星(銀月輝継・d23348)
    真波・悠(強くなりたいと頑張るココロ・d30523)

    ■リプレイ


     廃墟と化した建物の出入り口に近づいた瞬間、そこは小さなコンビニに変わった。
    (「無理やり肉まん食わせてくる都市伝説なぁ。このシーズンに出て来る辺り、流石都市伝説わけわかんねぇ」)
     自動ドアをくぐりながら、銀城・七星(銀月輝継・d23348)はどんなものかと都市伝説を探す。
    『いらっしゃいませ! アツアツの肉まんをどうぞ!』
     声が掛かるのと、七星が都市伝説を見つけたのはほぼ同時だ。
     灼滅者たちへ、にっこりと笑顔を向ける女性。その両手には、肉まんがたくさん積み重なっている。
    (「肉まんは冷たいのよりも熱々な方が美味しそうだと思うんですけどね。でもそれで被害を出させる訳にはいきません。それにしても……」)
     星河・沙月(過去を探す橙灯・d12891)は、怪人が持っている肉まんに眼差しを注ぐ。
     肉まんが、じゅわじゅわと音を立てているのだ。
     ものすごく、熱そうである。
     思わず後退しようとする沙月を、霊犬の紅蓮がじゃれつくようにしてとどめる。
    「紅蓮……そうだね、頑張ろう。ちゃんと解決しないと」
    「私も、ふわりんと一緒に頑張って肉まんを食べます」
     逆島・映(中学生シャドウハンター・d18706)がサウンドシャッターを展開し、外に音が聞こえないようにする。
     ナノナノのふわりんと共に、意気込む映。
    「にっくまーん!! 朝からごはん少なめにして、お腹減らせてたんだ。楽しみ♪」
    『では、どうぞ!』
     はしゃぐ真波・悠(強くなりたいと頑張るココロ・d30523)へ、アツアツの肉まんが投げられる。
    「え、投げるの!? まあいいか、キャッチ! ……っとと、熱いっ」
     上手くキャッチした悠だが、肉まんの熱さにしっかり掴めず、右手へ、左手へ、といった具合に肉まんを移動させている。
    「いただきます」
    「ナノナノ!」
     映もふわりんと一緒に、肉まんを食べ始める。
    「ナノ!?」
     味と熱さに驚いたのか、ふわりんが愛らしい声で高らかに鳴いた。


    「とても熱く感じるって言われてたが……そんなに熱いのか。けど美味いらしいし……正直興味そそられるよな、どんなんだろ」
     七星が手ぬぐいを悠にさりげなく渡してから、都市伝説と向き合う。
    「とりあえず、1個」
    『はい、当店自慢の肉まん、どうぞ召し上がってください!』
     今度は七星に向けて、女は笑顔のまま肉まんを投げた。
     手ぬぐいで包むようにして肉まんを受け取めるが、手ぬぐい越しでも熱がじわじわと伝わって来る。
    「肉まんを美味しくいただきたいですが、この肉まん……素手で持つのは危険な気がします」
    「食べちゃえば問題ないよ! カッコよく食べるよ、ボクは」
     沙月の慎重な言葉に対し、悠は堂々と宣言して肉まんを頬張る。
     ある意味、男気あふれている。
    「熱い、熱っ! で、でも美味しいよ! すごく美味しい! う、でも熱い……っ!」
     あまりの熱さで、ごほごほとむせてしまう悠。
    「普通に肉饅頭パーティーになると思ってたけど、オレの考えが甘かった」
     七星は悠を気遣い、背をさすってやりながら、逆の手に持っている肉まんをどう食べようか考える。
    「たくさん食べられそうなのと、美味しくいただけそうだと思って、お腹を空かせて来たんですけど……それが、仇になりました」
     空腹状態の沙月は、悠から肉まんがとても美味しいことを聞いた為、ごくりと喉を鳴らす。
     熱いのは明白だ。
     しかし、怪人が肉まんを割って見せる誘惑に、負けそうである。
     半分に割られた肉まんは、具が隅々まで入り、肉汁たっぷりでジューシー。
     見るからに、美味しそうな肉まん。
     もはや選択肢など、無いにひとしい。
    「い、いただきます!」
     覚悟を決めた沙月に、半分に割られた肉まんが迫る。
     片方は沙月が、もう片方は紅蓮が同時にキャッチした。
    「火傷しないように気をつけないとダメだよ。ゆっくり、落ち着いて食べようね」
     数分でも持っていられないほど熱い肉まんを手に、沙月は紅蓮に言い聞かせてから、自分もゆっくりと肉まんを一口だけ食べる。
    「……っ! これ、美味しいです! 熱々ですけど。……熱々ですけど!」
     沙月は持ってきた飲み物で口の中を冷ましながら、一口一口、時間を掛けて食べる。
     一口だけでも、肉まんの濃い旨みが口の中いっぱいに広がり、早く次が欲しくなってしまう。
     熱すぎるのさえ無ければ、次々と食べられたのにと、沙月は言葉を繰り返す。
    「はふぁ……美味い!? 熱いけど美味ぇ……! 美味ぇけど熱い……!」
     七星は熱さに耐えながら、肉まんを食べる。
    「熱々の肉汁もすげぇ量出るし、え、すげぇ……」
     熱さを忘れてしまいそうなほどの絶妙な味のバランスと旨みに、半ば呆然状態の七星。
    「あつあつだし、火傷しないようにゆっくりね。ナノナノはだいじょうぶ? 霊犬さんは?」
     悠は仲間たちを心配しながら、どさくさにまぎれて、ふわりんと紅蓮、愛らしい二匹の頭を撫でる。
     人懐っこい性格の紅蓮は、撫でられて嬉しそうに吠えた。


    「美味しいですね」
    「ナノ……」
     映は肉まんを食べて褒め、熱さについては表情に出さない。
     ふわりんと共に、頑張って食べている映。
     怪人が休む間も無く次々とアツアツの肉まんを投げて来る為、ふわりんは少し、ツラそうだ。
    「ボクも手伝うよ! ナノナノの分までたくさん食べるようにがんばる」
     悠はふわりんを心配し、怪人からアツアツの肉まんを受け取って、必死に食べる。
    「真波さんありがとうございます。……真波さんの犠牲は、無駄にはしません」
    「むぐむぐ……ま、待って!? ボク死んでないからね!?」
     映の誤解を招きそうな言い回しに、悠は焦って返した。
    「……他の饅頭もこんななのか? おい怪人、他の奴出ねえのか? ピザまんとかカレーまんとか」
    『当店では、肉まんだけです!』
     怪人は笑顔で答え、七星の口にアツアツの肉まんを詰め込む。
     肉まん怪人に、肉まん以外のものを注文したからだろう。
    「うぐ……! すげぇ美味い、美味ぇけどこの熱さはなんだよわけわかんねぇ!」
    「はーい、七星さんおちついて、おちついて!」
     あまりの熱さで我を忘れそうになる七星を、明るくなだめる悠。
    「折角の中華だからやっぱ中国茶だろ。あ、真波にも分けれるようにコップも用意、な」
     落ち着きを取り戻した七星は、準備して来た水筒とコップを取り出し、飲み物を振る舞う。
     それから、灼滅者たちはどんなに熱くても、頑張って肉まんを食べ続けた。
    『当店の肉まんは、すべて食べていただきましたので、もう有りません! 完食、まことにありがとうございます!』
     彼らを見ていた怪人が、やがて弱体化する。
    「この身、一振りの凶器足れ」
     解除コードを唱え、スレイヤーカードの封印を解く七星。
    「ヤミ、ユウラ! 肉ま……じゃね、オレの敵だ、食い尽くせ!!」
     七星はユウラとヤミを使い、猫とカラスの形状をした影が敵を覆って攻撃する。
    「肉まんおいしかったよー! ごちそうさま!」
     まばゆい笑顔になった悠が、連携して敵にダメージを重ねる。
    「ごちそうさまでした」
    「ナノ!」
     映とふわりんが食後の挨拶をし、映は影を宿した武器で敵を殴る。
     ふわりんは、たつまきを使って映と連携した。
    「肉まん、熱くてもたくさん食べられました。熱さを忘れるほど美味しかったです」
     沙月が続き、足元から伸ばした影で敵を飲みこむ。その隙を狙って紅蓮が飛び出し、斬魔刀で敵を斬り倒した。
     弱体化していた都市伝説は、灼滅者たちの息がピッタリの連携攻撃を受け、耐えきれずに消滅した。


    「結局、夢中になって食べてしまいました。まだもっと……食べたかったです」
     無自覚だが、実は大食いの沙月が、少々物足りなさそうに腹部をさする。
    「変な都市伝説だったし熱かったけど、肉まん美味しかったよね! ありがとうって感謝だね」
     悠は紅蓮を追い駆けて撫で回しながら、満足げに言う。
    「みなさんの分、お茶を用意しましたので、よろしければどうぞ」
    「逆島は飲み物どうも。……美味いとはいえ流石にこれだけ食うと、もう冬まで肉まんはいらねぇな」
     映が飲み物を配り、七星は映に礼を言った後に、やれやれと溜め息を吐いた。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月24日
    難度:普通
    参加:4人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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