坊や、お菓子を上げようか

    ●埼玉県某所
     着ぐるみを着た怪人が、子供を連れ去ると噂された遊園地があった。
     キッカケは迷子になった子供の言い訳。
     それが伝言ゲームのようにして広まり、次第に尾ひれがついていき、都市伝説が生まれてしまったようである。

    「迷子になっても知らない人について言っちゃだめだぞ」
     何となくそんな事を呟いた後、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明する。

     今回倒すべき相手は、ウサギの着ぐるみを着た都市伝説。
     おそらく、お前達が着く頃には、子供達が連れ去られそうになっている。
     子供達が猿轡を噛まされ、両手両足を縛られた状態でズタ袋に入っており、都市伝説はそれを振り回して襲い掛かってくるらしい。
     そのまま放っておくと、最悪の場合はグシャ、よくてもポキリ。
     例え子供達を助けたとしても、恐怖で気動く事は出来ず、自分ひとりじゃ逃げられない。
     都市伝説もそれが分かっていながら、血まみれの斧やナイフを振り回して襲いかかってくるから、くれぐれも気を付けてくれ。


    参加者
    蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)
    ジャック・アルバートン(ロードランナー・d00663)
    新条・一樹(高校生ダンピール・d02016)
    愛宕寺・朱里(大都会の狛犬・d03783)
    モーリス・ペラダン(心的外傷郵便野郎・d03894)
    浅儀・射緒(穿つ黒・d06839)
    廿楽・燈(すろーらいふがーる・d08173)

    ■リプレイ

    ●遊園地
    「ヤハハ、遊園地で連れ去られるなんてトラウマモノデスネ」
     都市伝説が関係していると思われる記事を読みながら、モーリス・ペラダン(心的外傷郵便野郎・d03894)が遊園地に向かう。
     遊園地側は、この噂を事実無根であると否定しているが、実際に何人か行方不明になっており、裁判沙汰になっているようである。
     しかし、来園客の大半はほとんど気にしていないのか、警戒している様子がまったくない。
    「……凄い都市伝説ですね。オレも信じてしまいましたし……」
     唖然とした表情を浮かべ、レオノール・アンプレティカ(陽光・d02043)が新聞記事に目を通す。
     都市伝説によって連れ去られたと思しき子供達は、ざっと見積もっただけでも30人以上。
     そのうち何人かは既に亡くなっていると言う事だろう。
    「何かをすると、何か怖い事が起きる、というのは子供に対して大人が使う定番の戒めの言葉ですよね。ただ警告のはずのそれが、事実になってしまったら、本末転倒ですけど……」
     険しい表情を浮かべながら、蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)が園内を歩いていく。
     その途端、どこかで悲鳴が上がる。
     ほんの一瞬だったため、まわりの騒ぎ声に掻き消されてしまったが……。
    「まさか、さっきの着ぐるみが……!」
     何か引っかかる事があったのか、新条・一樹(高校生ダンピール・d02016)がお化け屋敷の横にある茂みを掻き分けていく。
     その先にあったのは、雰囲気を出すために設置された墓地。
     ……都市伝説はそこにいた。
     大きなズタ袋を抱えた状態で……。
    「まてぃ!! お主の悪行もそこまでじゃ! 人参を摘むのは許しても、人間を摘むのは、それゆけ! お助けヒーロー部のあかりんが許さぬ! 観念するのじゃ、ウサギ怪人っ!」
     仁王立ちでビシッと怪人を指差し、愛宕寺・朱里(大都会の狛犬・d03783)が叫ぶ。
     しかし、都市伝説は気にしていない様子で、ズタ袋をパカッと開けて朱里を放り込もうとした。
    「お、お主、見るからに弱そうじゃのぅ。ズ、ズタ袋の攻撃も大した事なさそうじゃ」
     馬鹿にしたような笑い声を響かせ、愛宕寺・朱里(大都会の狛犬・d03783)が都市伝説を挑発する。
     本音を言えば、怖い。
     ……と言うか、ズタ袋の中にいた子供達と目が合った。
     みんな虚ろで死んだ魚のような目をしており、シャレにならない状況。トラウマレベル。
    「グオオオオオオン!」
     次の瞬間、都市伝説が物凄い勢いでズタ袋を振り上げ、朱里めがけて力任せに振り下ろす。
    「正義が滾る妾の心、この程度で折れぬっ!!」
     すぐさまズタ袋を全力で受け止め、朱里がグッと唇を噛み締めた。
     脳裏に過るのは、子供達の目、目、目……。
     その瞳に映っていたのは、恐怖を通り越して残った絶望、虚無感。
    「何とかして、あのズタ袋を奪わねえとな」
     ズタ袋を奪うタイミングを見計らいつつ、ジャック・アルバートン(ロードランナー・d00663)が距離を縮めていく。
     それに気づいた都市伝説がズタ袋を引っ張り、勢いよくピョンと後ろに飛び退いた。
    「んん……、逃がさない」
     都市伝説の背後に回り込み、浅儀・射緒(穿つ黒・d06839)が攻撃するのを躊躇った。
     このまま攻撃すれば、間違いなくズタ袋に当たってしまう。
    (「みんなの足を引っ張らないようにしておかないと……!」)
     自分自身に言い聞かせながら、廿楽・燈(すろーらいふがーる・d08173)が拳をギュッと握り締める。
     初の依頼のためか少々緊張しているが、だからと言って仲間達の足を引っ張る訳にはいかなかった。

    ●子供達
    「あの中に子供達が……」
     少しずつ間合いを取りながら、一樹が封縛糸を仕掛ける。
     だが、都市伝説はズタ袋を抱えたまま飛び上がり、一樹達を威嚇するようにして唸り声を響かせた。
    「これ以上、子供達を武器にすると言うなら、その動き……止めさせていただきます」
     都市伝説の死角に回りつつ、悠が制約の弾丸を撃ち込んだ。
     その途端、ズタ袋の中から子供達の悲鳴が聞こえ、一瞬……ヒヤッとした。
     幸い悠の攻撃が命中したのは、都市伝説。
     子供達はそれに驚いて、悲鳴を上げた……ようである。
    「ん……、いまなら……」
     一瞬のチャンスを逃さず、射緒がズタ袋に飛び掛かっていく。
     すぐさま都市伝説がその場から離れようとしたが……、既に手遅れ。
     ズタ袋を掴んだ射緒が自分の体をクッシュン代わりにして転がった後だった。
    「皆さん……、無事ですか?」
     そのまま射緒からズタ袋を受け取り、レオノールが子供達の無事を確認する。
     ……子供達は何とか無事。
     だいぶ体力を消耗しているようだが、目立った傷はないようだ。
    「もう大丈夫だ。危ない人はお兄さん達がやっつけるから、ここでじっとしていられるか?」
     プラチナチケットを使い、ジャックが子供達に声をかけた。
     しかし、子供達は怯えている。
     ジャックの顔をまともに見る事が出来ないほど、心と体が傷ついていた。
    「……怖いよね。でも燈が、みんなが、キミたちを守るから。信じて」
     子供達に優しく微笑んだ後、燈が都市伝説に視線を送る。
     ……都市伝説は怒っているようだった。
     自分の獲物を奪われ、恥まで掻いてしまったのだから……。
    「ここから先には通さん!」
     都市伝説の行く手を阻み、朱里が閃光百裂拳を炸裂させた。
     それでも、都市伝説はズタ袋を取り返すため、唸り声を響かせて飛び掛かっていく。
    「アナタをズタズタのボロボロにしマス。略してズタボロデス」
     都市伝説の攻撃を避けつつ、モーリスが斬影刃を放つ。
     その一撃を食らって都市伝説の胸元が切り付けられ、空洞と錯覚するほどの闇が着ぐるみの中に広がっていた。

    ●都市伝説
    「まさか着ぐるみの中が空洞だったなんて……」
     唖然とした表情を浮かべて都市伝説を眺め、燈が仲間達と連携を取りつつ、マジックミサイルを撃ち込んだ。
     それに合わせて、都市伝説が横に跳び、再び子供達に襲いかかろうとした。
    「残念ながら、貴方の相手は私です。よそ見しないでください」
     そのまま都市伝説に突っ込んでいき、悠が次々と攻撃を浴びせていく。
     これにはさすがの都市伝説も怯み、いったん退却とばかりに逃げようとした。
    「……ん?」
     しかし、逃げた先は、射緒の目の前。
     すぐさまバスタービームを食らって吹っ飛んだ。
    「アナタはカゲサンの餌デス」
     子供達を守るようにして陣取り、モーリスが影縛りで都市伝説の動きを封じ込める。
     都市伝説と戦っている最中、傷ついた子供達を見て、危うく忘れていた過去の記憶が蘇り、そのトラウマから闇堕ちしそうになったが、それ以上に子供達の信じる心、祈る気持ちが伝わった。
     そんな状況で堕ちる訳には……、子供達を不安にさせる事など、出来はしない。
    「邪悪で哀れな都市伝説よ、噂話に還るがよいっ!!」
     都市伝説の懐に潜り込み、朱里がサバカレー甘口ダイナミックを叩き込む。
     その一撃を食らった都市伝説が粘着性の高いドロドロの液体を口から吐き出し、崩れ落ちるようにして溶けていった。
    「みんな、無事ですか?」
     都市伝説が消滅した事を確認し、レオノールがズタ袋を開けて、子供達の安否を確認する。
     ……子供達は何とか無事。
     まだ怯えている子供もいるが、この状況では無理もない。
    「良く頑張ったな、もう大丈夫だ」
     子供達の目線に立って笑みを浮かべ、ジャックが一人一人の頭を撫でていく。
     その途端、緊張の糸がぷつりと切れたのか、ジャックにしがみつくようにして泣き出した。
    「それじゃ、帰ろうか。お父さんと、お母さんが待っているよ」
     どこかホッとした表情を浮かべ、一樹がゆっくりと歩きだす。
     それに気づいた子供達が次々と、一樹達の後をついていく。
     その光景はまるでピクニック気分。
     もちろん、心の傷はすぐには消えない。
     だが、この子達ならば、きっと……立ち直る事が出来るだろう。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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