桜天蓋朧月

    作者:那珂川未来

    ●春の霞みに
     お花見しようよと、仙景・沙汰(大学生エクスブレイン・dn0101)は言った。
     沙汰が誘う、花見の場所。
     そこはまだちょっと肌寒い、山間の場所。
     見上げれば、天蓋のように咲く花。綻ぶ薄紅が、今まさに世は春だと感じさせてくれる、そんな場所。
     森林の合間を流れるせせらぎの音に、導かれる様に散策したなら。宵の空には朧月。煙る霞が、月の輪郭を柔らかく描き、桜花の陰影に趣添える。
     風が吹けば、はらりと零れる薄紅の雫。霞みと戯れ踊る様も、美しいものだろう。
     そこは田舎の奥だから人の気配もなく。サーヴァントや愛する人とのひと時も気兼ねなく。山だから、まだちょっぴり寒いけれど。あたたかな支度をしてゆくなら、朧の世界を満喫できるはず――。

     ふんわりと春の霞みに浮かぶ桜月夜、薄紅を抱く小川流れる森林にて。
     君はどんな春の色を見る――?


    ■リプレイ

     朧月抱くかのように、煙る薄紅のフレーム。遊太郎は、夢中でシャッター切って。
     わざとほったらかしたお返し、拗ねた括の手から溢れた薄紅が遊太郎の髪に流れ。「花弁まみれ、ね」と笑う君を最後に一枚。
     風に踊る花弁を捕まえた君を――シャッターでつかまえたのは、今は秘密。
     膝掛けを交換っこしながら、お茶を飲みつつ宵桜。
     カップの中に、ひらりと薄紅一片。
    「ふふ、なんだかすごく、風流だねぇ」
     柔らかな湯気と共に、遊太郎は天蓋見上げ。けれどその幽玄な世界が括には美しすぎて。
    「けど、こんなに綺麗だと一人じゃ怖いと思うの」
     だから――。
     括は、一緒でよかったとすり寄って。共に、朧見上げて。

    「こないだに引き続きお誘いありがとー!」
     和泉はいつもの笑顔でさわやかに。ハルも元気よくご挨拶。
    「こちらこそ、写真も頂きありがとなのですっ」
     レキと沙汰もお土産手に。
     彩雪の帰還祝いもかねてのお花見。治胡のお手製弁当は華やかな仕上がり。康也のおでん缶と和泉のお団子も合わせたら、とっても豪勢。
     花見自体は楽しみなのだが、当事者二人と同時に顔合わせるのはどうも照れ臭い康也――の背後に迫る影。
    「ところでどうよ、一世一代の大告白した心境はさ?」
     振り返ればそこに、によによ高明。
    「康也の告白は堂々として見事だったなァ」
    「見せてもらったけど、男らしかったよね」
     しみじみ言う治胡。沙汰も頷くものだから、おでん落としそうになった康也。
    「はわ……」
     彩雪も気恥かしくなって、高明から借りたブランケットを頭から被りだす。
    「いやー。らぶらぶだなぁお二人さん」
     清々しい程澄渡る笑顔を繰り出す和泉。
    「な、なんだよう皆ニヤニヤして!」
     赤面しながらわたわたしている康也がまた面白い。
     程良いところで助け舟、ゴハンねだるハルとさっちゃん。皆で食べさせてあげたり、ガゼルが桜舞い上がらせながら滑走していると、追いかける姿にほっこり。
     キャリバーの自然な姿を見るのも、そうないから。彩雪はそーっとなでなでさせてもらえば。
    「ここ、撫でられるの好きなんだよこいつ」
     さりげなーく高明が誘導していたら。
     ブルン?
     不穏なエンジン音。
    「いや、やましい気持ちはないよガゼルさん!」
     慌て誤魔化す高明を、治胡は面白そうに笑いながら。
    「尻に敷かれるってか、この場合タイヤに轢かれるか」
    「タイヤに轢かれる!」
     和泉、爆笑。座布団がわりに特製の焼きよもぎ餅進呈。
     一部単語を真に受けた彩雪だけれど。仲良しって素敵なことだと思って。
     そのあと、大告白思い出して顔を真っ赤にした彩雪を、康也が大丈夫かと慌てる一幕。

     霞の幻想に紛れた妖精の悪戯に惑わされない様に、ほんのり気を張る智秋の心を見透かしたかのように、さりげなく絡まる師宣の手に引かれ、歩く。
     香り立つ天蓋の下、智秋が手元に広げたお団子に添えるのは、師宣の温かなお茶。
    「ちりぎわこそが美しいっていうけど、満開もやっぱり、綺麗よね……」
    「どれだけ綺麗でも、散る桜は寂しい感じがするから……」
     溜息漏らす智秋へ、師宣は僕も満開の方が好きだよ、と。
     誰かと食べるからこそのお団子の美味しさに、智秋はふんわり感じる温かさに喜び抱き、師宣は久し振りに誰かと春の謳歌を楽しむ時を感謝する様に。
     二人、時の霞の中をたゆたう。

     手を引きながら振り向く楽しげな顔に、エアンは既視感。
    (「――そうだ、1年前も桜の木を目指して走ったっけ」)
     彼の唇も、桜と同じく柔らかに綻んで。
     向かう先に見つけたよく知る顔に。百花は元気いっぱい手を振って。
    「仙景さん! お誘い見て、えあんさんと観にきたの」
    「久し振りだね」
     相変わらず仲いいねと笑う沙汰。今度は皆で会いたいねとエアン。その機会を楽しみに、手を振った。
     見上げれば濃紺の闇に流れる薄紅。朧に照らされ、それは銀河の如く。 百花はその美しさに。エアンは儚くも凛とした世界に感嘆漏らし。
    「ね……今年の桜も二人で見れたね?」
     見上げる百花の柔らかな笑顔。言いかけた思いは同じだったから。
    「うん、こうしてまた一緒に見る事が出来て何よりも嬉しいよ」
     寒さを口実に、両腕に愛しき温もり閉じ込めたなら。その愛しい唇へ温もり重ねて。

     煙る薄紅の小川を、二人手を繋いで散策して。
     けれど美夜は、のんびりな優志の歩調が気になって。見上げてみたら、何処か彼方を見ている気がして。
     そのせせらぎの音に、優志は記憶を巡らせたのは、初めて美夜と一緒に行った臨海学校の思い出。
     ――もうすぐ三年経つんだなぁ。
     浸っていたなら不意に引かれる腕と、迫る美夜の指先。薄紅の欠片つまんで呆れ顔で。
    「何ぼーっとしてたの?」
    「三年前の臨海学校の時に、小川で涼んだだろ?」
    「あぁ……もうそんなに前だっけ?」
     付き合ってさえいなかったあの頃が懐かしく、そしてその軌跡は美しく。
     この寄り添う瞬間をまた、懐かしめる関係でありたいと。

     飛鳥が、夜桜越しの朧月を臨める場所を確保してくれたから。クラブ思い出やさん『夢の里』の仲間達と見上げる夜空は格別。
    「立派な桜ですね。お月様もきれい……」
    「凄く幻想的な光景なのです……!」
     淡い薄紅の陰影と、春ならではの月の加減に、美優はうっとりと。聖也は感激を露わに。
    「桜茶を持ってきました。お茶請けには桜白玉団子をつくってみたので、みなさんで食べてくださいね」
     飛鳥がいそいそとお茶を配る様子を見て、
    「あたしもお茶持ってきました♪」
     陽桜が取り出す、桜の香り芳しい緑茶。聖也も持参した温かいお茶と一緒に、
    「最中や饅頭もありますよ!」
    「私はクルミ入りのおはぎを。皆さんよかったらご賞味くださいね」
     美優はお重の蓋を開けながら、ふんわり微笑み。
     陽桜のお誘いでお邪魔したレキが持ってきたのはお稲荷さん。
    「私達の出会い、そしてこの素敵な場所で楽しめたことに乾杯なのです!」
     聖也の音頭でコップを突き合わせ、早速お花見。
    「飛鳥さんの用意して頂いたお団子、とても美味しいですね! 幸せなのです!」
     聖也はまずお団子を舌鼓。ほっぺを押さえながら堪能しては、次は美優のおはぎをパクリ。
    「お饅頭もおいしそうで……って、花より団子とかじゃないですよ?」
     陽桜はお皿の上の串の数の違いに、あわあわしつつ。改めて見上げた空の景色、淡い光に思わず溜息して。
    「夜桜は、昼よりも不思議な力がありそうでどきどきですよね」
     陽桜の呟きを、美優は静かにに聞きながら。朧に溶ける薄紅の天蓋、瞳に映し。時を忘れる程、華やかな世界を仲間と。

     煙る程広がる薄紅の空。柔らかな朧の光の中、浮かぶ花弁の造形は麗しく。幻想的な小道を、武流とメイニーヒルトは共に。
    (「メイニー、寒くないかな?」)
     武流は彼女を気遣いつつさりげなく身を寄せ、手を繋いだなら。
    (「武流は寒いのか?」)
     冷えた彼の手を、ぎゅっと握り返せば。伝わる温もり、互いの心も優しく包んでゆく。
     自然の音に満ちた霞の海を、静かに泳いでいた二人だけど。不意に武流が抱きよせてきた。
    「もうちょっとだけ、このままでいいか?」
    「もうちょっと、と言わず。ね……ほら、月が綺麗だよ」
     花見に来たのにと、メイニーヒルトは自分に呆れつつも。
     ――だってきみの鼓動、もっと感じたいから。

     浮かぶ朧へと、伊織は杯を鳴らし。灯の様に光る桜を乗せて。
    「ふふっ。風流なもんやね」
    「綺麗……」
    「茶柱じゃないけど、いいことありそうだよね」
     お茶に浮かんだ薄紅、レキと沙汰も微笑む。
    「たまにはこうやってのんびりするのもえぇもんやね」
     感謝の気持ち込めて、三味線弾き。流れる風の指先に、梢が揺れれば桜降る。
     舞い落ちる花弁、伊織は土産の様に手の平に収めた。

     流れる月の光を浴びながら。紅葉はテディベアと一緒に。
     沙汰を見かけたから、桜の絨毯をぽんぽんしながら、
    「沙汰さんも、お茶と桜のシフォンケーキ、いかがですか?」
     沙汰はお呼ばれに預かって。
    「やっぱりケーキ作りはお手の物だね」
     冬の思い出、昨日の事の様に二人懐かしみ。
     零れる桜の雫。手に受け止めたあと。ふーと飛ばせば。
    「綺麗、なの……」
     舞い踊る一片、春の思い出また一つ。

     古くから親しまれる観賞対象を見上げ、純也は自らの目で体感しながら画像として確保して。
     見つけた沙汰へ端的な挨拶から、流れる様にその意図に切りこんでゆく。
     桜の雨に打たれたかったから。命の洗濯めいた回答を、純也のペンが書きとめたなら。
    「俺は、当時は必要だった情報の取得が狙いだったが――」
     唐突に学園に所属した理由を尋ねられ、目を瞬かせたのも一瞬。
    「俺の場合は声かな」
     変声期来るのがすごい遅かったから色々あったんだと沙汰は笑い、それに縛られない存在理由が欲しかった、と。
    「声、か――」
     広がる薄紅にも、感嘆一つ滲ませぬ純也だが。呟く言葉、記憶に留めて。

     風が吹けば煙る霞に揺れる薄紅。
     軌鞘は、自身のサーヴァントである主殿と人波を外れて、二人で静かに夜桜を。
     はらり舞う花弁、徒に指伸ばし。行方追うその視線は、何を思うのか――。

    「仙景ーあろあろー」
     七はいつもの笑顔と、変わらずの仕草で。
    「ちょっと付き合って」
    「勿論」
     俺も七の意見聞きたいなと携帯音楽プレイヤー手に。
     久方ぶりの積もる話は、敷き詰められる薄紅の花弁の如く。

     現から切り離されたかのような幽玄の夜。采は霊犬伴い霞を渡る。
    「あの夜も同じやったの、覚えてます。えらい美人さんが桜の下にいはるん」
     壊れやすく、切ないほどの声。相容れぬと分かっていても。ただ、言葉交わすだけで良かったのに。
     恨んでいるやろなという呟きに、沙汰は緩く首振って。
    「采の事恨んでいないと思うよ。あの人は自分だけを恨んでる」
     ハートの姫が再び回収を始めた時、彼女もその対象となるのか。もう一度見せてあげたかった景色の中、静かに思い馳せ。

     桜は変わらぬ色を見せてくれる。そして隣に立つ君も相変わらずだけど、一つ違うこと。
    「花冷えで風邪なんか引かないようにね」
     ようやく心に決めた史明の行動。朔之助は上着の感触に驚き顔をあげて。
     幼馴染ではない、恋人としての初めての春。緊張は自分だけじゃないのだと、史明はくすりと。
    「史、ちょっと……しゃがんでくれないか?」
     頬へ刹那に唇寄せたなら。礼言いつつ照れ隠しに距離とる朔之助。
    「一瞬すぎて分からなかったからやり直しを要求したいんだけど」
     史明は自分の咄嗟の言葉に呆れたけど。
    「や、やりなおしってなんだ?」
     桜の花びらのせいにしてシラを切りきれてない朔之助にまた、くすり。

     煙るような桜天蓋、浮世離れした霞の世界に、鈴と千慶は感嘆の声をあげて。
    「にしても、落ちてくる花びらを空中でキャッチしたくなるのは、なんでなんだろうな……」
    「これが人の性というものか……」
     気付けば、二人競う様にキャッチしまくる色気の無さで。
    「はっ、そうだお腹空いたね!」
    「待ってました!」
     ついでに食い気なのも、ご愛嬌。鈴の手作り豚汁すすって、おにぎりをパクリ。
    「たまにはのんびりするのもいいねー……ぶっ、せんけー頭に花咲いてる!」
     似合わなーと笑う鈴へと、失礼なと勢いよく千慶は言ったけれど。
    「いや、待て、冷静に考えたら似合わないわ」
     だよねーと笑いながら。夜桜弁当、賑やかに。

     幾年流れても変わらぬだろう桜の在り方と、歩むからこそ変わりゆく人の変化を想い比べながら、理利は感嘆一つ。けど隣在るその笑顔も変わらぬと、安堵を抱くなら。
     錠もまた、あの時共に見た宵桜に消えそうに見えた理利の、確かな体温に安堵を覚えて。
    「なぁ、さと」
     ――俺のこと、錠って呼んでくれよ。
     敬称付けても構わないからと、幾分滲む切なさ。
     他人行儀だったろうかと理利。怖れに無意識に線を引いていたのかもしれない、と。
    「では、言葉に甘えて……」
     ――錠さん、と。
     不確かな未来であろうとも、自分の夢が光明を与えられたなら。
     そして幾年が巡ろうとも、この変わらぬ景色を共にまた、君と見れたら。

     春の霞に惑わぬよう、せせらぎの音を頼りに森の中を。
    「あ、手繋ぐ? 昔よく繋いだよね」
     落ちないようにと、屈託のない笑顔を晴汰が向けたら。
    「アタシも成長してるんだから、もっと安心してほしいなぁって」
     せぃちゃんのが危なっかしいじゃないーと笑う千巻。
     寂しい様で嬉しい様な、複雑な晴汰。だからこそ千巻の唇が、名を呼んだ刹那に巡る予感。
    「せぃちゃんはそろそろ、自分のこと考えるべきだと思う」
     嗚呼、遠く、近く。月の満ち欠け数えるたび、季節巡り、色々なものが変化してゆくなら――。
    「……支えてるつもりだったけど、俺が支えられてたのかもね」
     咲かない理由にしないでね――頷くと同時、涙が零れた。

     天は朧。繊細な薄紅は、月の光を抱きしめ、幻の如く淡く光る。
     繋ぐその温もりに、美しい景色を一緒に見ているという実感。
     風流なものだと、善之と啓太郎で感嘆一つ呟いたなら。霞の世界に舞うひとひら。
    「一年前に初めて会ったときも、桜が咲いてたよな」
    「ああ……あんたに会ったのも、去年の今頃か」
     変わりゆく季節と同じく変化した二人の関係は、いつしか大切と言える程の。
     感慨に耽ると、当り前の様に啓太郎から零れる謝意と大好きという言葉。
     驚きも一瞬。引きよせ抱き締めると、善之は囁く。
    「こんな時くらい素直になってやるよ――俺も、あんたが好きだ」

     桜霞む世界は美しくも、神隠しにあいそうな怖さを漂わせ。
    「桜は、不思議な空間を作る気がします。まるで、違う世界に繋がっている様な」
     ――行ける、のかな、と。不意にゆまが零す言葉に、龍之介が予感を覚えるのも必然か。
    「水瀬さんがいなくなったら、寂しいですよ。俺は」
     わからない事情、適切な言葉を探せるわけも無く。けれど自分の気持だけは確かだから。
     振り向いて笑い冗談めかすも、危げで。繋ぎとめてあげる様に、龍之介はそっと手を差し出す。
    (「でもわたしは――」)
     ゆまは心の痛みと危さ秘めたまま。ただ今は、その確かな温もりに謝意を表した。

     淡く霞む宵の空。霧夜は煙る薄紅から零れる朧の柔らかな光に面を照らす。
     風吹けば儚く流れる桜吹雪。一瞬の美に巽は目を細め。その世界の中、凛と佇む霧夜の姿を認め。
    (「――桜に浚われてしまいそうですね」)
     そう思った刹那。伸びてきた、霧夜の指先。
    「……桜が」
     霧夜は呟きながら。自然に任せるのも一興ではあるが、巽の髪に乗った花弁を静かに摘む。
     すると巽の指先も。
    「霧夜様にも」
     掌の中に2枚の花弁。
     花弁が欲しいという巽の言葉に首を傾げるが。特に拒む理由もない。頷き、そっと置いたなら。風に浚われぬよう大事そうに重なる巽の手。
     ――帰宅したら春色の栞を作りましょう。
     今はもう少し、散策を二人で。

     月は朧。淡く霞む薄紅の雨。
     はしゃぎながら、早く早くとせっつく狭霧。遅れ気味の歩調で追う一浄だけど、朧月に踊る銀髪を見失う事などあるはずもない。
     仄か風に浚われた淡紅は、伸ばす指先からすり抜けて。霞にとける様はまさに浅い夢と、一浄が宵に微笑むその一方。必死に掴もうと頑張るも、ただただ風に弄ばれ花弁まみれの狭霧の図。
    「あは、もしかしたら桜の妖精さんがその辺りに潜んでて、俺達に悪戯しているのかも?」
     なんて戯けていたら。
    「ほんまや、妖精さん、みーつけた」
     何処? ときょろきょろしてる狭霧の鼻に乗ったひとひら、ちょんとつついて。
     霞む天蓋見上げながらひと息。
     幻の様な世界でも、共に団子齧りながら過ごす時間は現。

     幻想的な世界の中、久し振りに二人っきり。
    「お前、寒くないか?」
     羽織っとけよと、慧樹は自身のコートを羽衣の肩に。エスコートは任せ桜見ながら歩いて大丈夫と笑うその顔を見上げる角度の高さに羽衣は気付いて。
     淡い月明かりにふんわり陰影描く薄紅見上げ。
    「桜ってさ、夜見ると光ってるように見えない? 今日の月みたいにぼやーって」
    「花明かり、ね」
     花冷えに負けないように、慧樹は手を繋いで。もっとくっついてもいいのよ言われたなら、羽衣はムギューと腕に抱きつき引きよせて、ほっぺにチュッ。
     先越されたキスに、悔しげの慧樹だけど。お返しは、来年もこの時間の予約のキスを。

     薄紅から覗く宵の空。淡く月光を受け止める霞の海。
     軽く跳ねるようにして手招く朱那の場所へと、才葉が掛け寄れば。金の瞳はきらきら彩を放つ。
    「うわー、キレイ……!」
    「おう、綺麗だな」
     供助は才葉の呟きに応える様に。風光明媚とはこのことかねと、美しさに溜息。
    「うん! ホントキレイな空!」
     風に靡けばひとひら踊る。それは霞の海に泳ぐ、お魚みたいで。朱那は薄紅の群れと遊ぶようにくるり。
     時に優しく、時に艶やかに趣変える桜花を臨む時間帯に、甲乙などつけられなくて。
     そんな花見のお供は、才葉が唯一作れるおにぎりと、供助が用意した番茶の魔法瓶。
    「形は歪だけどきっとおいしい……はず!」
    「形じゃねーよ、味と気持ちだ、ありがとな」
     供助は鮭おにぎり頂きつつ、朱那へほいっとコップ差し出せば。
    「えへへ、2人なら絶対何か準備してきてくれると思ったンだ」
     あたしはコレしか準備してないケドと、温かいおしぼり二人の頬にぺたり!
     コップの縁、ぶつけ合って。賑やかな時間、心行くまで。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月5日
    難度:簡単
    参加:46人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 1
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