名古屋七大決戦~護りの陣

    作者:立川司郎

    「うずめ様は言いました。盟主は現れませんでしたと」
     6人の盟主候補の全てが、灼滅者によって救出された頃、南アルプスを抜け濃尾平野へと歩を進めていたダークネス達を前に、うずめ様がそう宣じた。
     長い敗走の旅を耐え抜いたダークネス達に、失望の表情が浮かぶ。
     灼滅者の裏切り者、闇堕ち灼滅者。
     その中でも、ダークネスの盟主となる事を望み、その為の試練を受けた筈の者達が、全て、灼滅者に戻ることを選んだというのは、彼らにとっても衝撃の事実であったろう。
    「うずめ様は言いました。灼滅者は追討軍を送ってくるだろうと」
     拠点も持たぬ敗残の徒である彼らに、武蔵坂学園を正面から迎え撃つ戦力は無い。
     頼みの綱は、うずめ様の予知能力であるが、それも、武蔵坂学園が持つという予知の力の前では充分な力は発揮できない。
     敵は、うずめ様の予知に掛からない作戦を予知する事ができるのだから。
    「万已むを得ない。いざ、決戦の時。戦い勝たねば生き残れまい」
     日本のご当地幹部、ザ・グレート定礎が、皆の心を代弁する。
     この危地を脱する事ができねば、この濃尾平野に、無残に屍を晒すことになるだろう。
    「楢山御前、あなたと轡を並べて共に戦う時が来ようとは思いませんでしたぞ」
    「それについては、おばちゃんも同感ねぇ。まぁ、白の王を灼滅されるなんて、予想外の事が起こったのだから、そういうこともあるわ。ところで、ソロモンの大悪魔のお二人はどうするの?」
     北征入道の言葉に頷いた楢山御前は、新参の大悪魔達を振り返る。
    「あなた達は客人だから、ここから脱出するのなら、出来る限り助けてあげるわよ」
     その御前の言葉に、ソロモンの大悪魔・ザガンが首を横に振った。
     ザガンに同意するように、フォルネウスの力を継いだ、海将ルナ・リードが言葉を継ぐ。
    「逃げて生き延びる確率と、戦って生き延びる確率に違いはないのではなくて? それに私達が逃げれば、他の大悪魔達の計画も狂ってしまうわ」
     楢山御前は、そう、と頷くと、最後の一人、緑の王・アフリカンパンサーを見た。
    「ボクもここで戦うよ。この日本で、グレート定礎の傍以上に安全なところなんて無いんだから。それに、ボク達の危機を知れば、アメリカンコンドルも駆けつけてくれる。それまで、ボク達はなんとか耐え抜けばいいんだ」
     自分に言い聞かせるようにそう言うアフリカンパンサーに、ザ・グレート定礎が言葉をかける。
    「濃尾平野は、古き盟友であった安土城怪人の拠点であった場所、地の利は無いわけでは無い。灼滅者達が驕り油断するならば、勝機は充分にあるだろう」
     こうして、竹生島の敗残兵を吸収した、富士の迷宮のダークネス残党軍は、名古屋市を望む郊外に陣取り、灼滅者達の追討軍を迎え撃つ準備を始めたのだった。
     その喧騒の中、
    「うずめ様は言いました。ここが決戦の地であると。そして、更に言いました。この戦いは決戦とはなりえないだろうと……」
     うずめ様の最後の予知は、誰にも聞かれる事無く口中に消えたのだった。
     
     進級進学を心待ちにするような陽気が、桜を芽吹かせる。
     窓から入るここちよい風に、相良・隼人(大学生エクスブレイン・dn0022)は目を細めていた。
     灼滅者達がやってきても、隼人はそうしている。
     一番最後に教室に入ったのはクロム・アイゼン(高校生殺人鬼・dn0145)で、彼はぴしゃりと扉を閉めた。
    「集まったか。さて、始めようか」
     隼人は体をこちらに向けると、まず盟主候補達の救出に成功した事に触れた。
     六人全員救出する事が出来たのは、灼滅者達の戦いと思いが起こした大勝利であると。
    「だが、その後盟主候補だった奴らから、逃げていた残党勢力についての情報を得る事が出来た」
     うずめ様の予知をかいくぐって得た情報によると、敵の有力ダークネス達7体が名古屋に集結しているという。
     いずれも強力なダークネス達であるが、うまくいけばすべて灼滅する事も出来るのではないか。
    「相手は誰だ」
     少し楽しそうに、クロムが聞いた。
     隼人は静かに答える。
    「ソロモンの大悪魔、ザガン。こいつは前回も苦戦した相手だ。むろん、簡単に倒せる相手じゃねぇ。……そこで、だ」
     と、隼人はちらりとクロムを見た。
     今回ザガンを含め、彼ら残党はいずれも大規模な兵を周辺に展開している。
     ザガンも、配下のソロモンの悪魔だけではなく、援軍として割り振られたアンデッドやペナント怪人なども率いている。
    「当然こいつらを何とかして突破口を開かなきゃ、お前達はザガンと戦う事すら出来ねぇ。クロムにはお前達とは別に人数を率いてもらって、ザガン周辺の兵を相手取ってもらいたい」
     ザガンと戦えない事に少し残念そうにしているクロムであったが、ザガンを倒す為に必要な事だと察してうなずいた。
     それに、無数のダークネス相手に戦うのもまた胸が躍る。
    「おい、まだ話は終わっちゃいねぇぞ」
     隼人はぴしゃりと言うと、話を続けた。
     ザガンについてである。
    「ザガンは前回の戦いより力を付けている。その上、どうやらここや他の戦場で多数のダークネスが倒される程、元の力を取り戻していくようなんだ。当然ザガンは、周囲のダークネスには防御に専念するように言い聞かせている。……長期戦に持ち込むつもりだ」
     そうなると、自分達だけでザガンを倒す事が困難になってしまう。最も楽に倒すには、他の戦場でダークネスを余り倒さず、なおかつ速攻でザガンの防衛網を突破していく必要がある。
     その上で、ザガンを突破した八人で倒さねばならない。
    「倒すだけで難しい敵が多数いて、ザガンを倒すまでは他の戦場のダークネス達を倒さないようにしてくれって他の班にお願いするのは無理があるね。下手をすると、他の班が失敗する事になる」
     ぽつりとクロムが呟いた言葉に、そうだなと隼人が答える。
     作戦の難しさに眉を寄せる灼滅者達に、隼人はふと笑みを浮かべる事で緊張を和らげる。
     一気に蹴散らす戦力があれば、ザガンの元に駆けつけるのが早くなるのだ。
    「だいたい30人も居れば、突破口を開く事も可能だと思う。それ位居れば、周囲のダークネスから戦闘中に邪魔をさせないようにも出来るだろう。もし100人以上集まる事があれば、大攻勢を仕掛けて正面から切り込めるだろう。……クロム達はザガン戦が上手く運ぶように、周囲のダークネスを相手取るのが役目だから、忘れんなよ?」
     厳しい戦いに赴く灼滅者達の肩をぽんと叩き、隼人は鼓舞するのだった。


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    科戸・日方(大学生自転車乗り・d00353)
    叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)
    マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)
    雨積・舞依(こつぶっこ・d06186)
    船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)
    白星・夜奈(夢思切るヂェーヴァチカ・d25044)
    夏目・サキ(ぴょん・d31712)

    ■リプレイ

     見渡す限り、無数のダークネス達が犇めいていた。
     いずれも一歩も動く事なく、隙無く布陣してこちらを待ち受けていた。ソロモンの大悪魔ザガンを討伐する為集まった灼滅者達は、直接討伐に向かう八名を加えて総勢七十名を越えていた。
    「……」
     雨積・舞依(こつぶっこ・d06186)はちらりと夏目・サキ(ぴょん・d31712)を振り返り、目配せをした。
     サキは少し遅れてこちらを見返す……サキも緊張しているかもしれないと舞依はこくりと頷いてみせた。
     大丈夫、みんな一緒だから。
     舞依の思いに、サキも気付いて目を細めた。
     ザガンの元に誘導すべく、少し離れた樹上に純也が待機し、ザガンの軍勢を望遠鏡で監視している。
     純也は、インカムを通して現場にいる仲間に戦場の状況を伝える。
    「ザガンが居るのは群の中心部だ。傍をソロモンの悪魔が取り囲み、その外にペナント怪人。一番外側をアンデッドという構成だ」
    「了解、アンデッドが外側にいるなら、ある程度突破するのは容易そうだな」
     明莉は純也に答えると、即座に仲間に伝えた。
     正面から仕掛けるのは、軽音部を始めとして全体の半分ほどの人数となる。他の戦場が動き出すのを待たず、合図を出すと一斉に攻撃に掛かった。
     加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)は、後ろから葉の腕を掴む。
    「私達は出来るだけザガンに気取られたくない。辿り着くまで、壁になってくれ」
     たのむ、と蝶胡蘭がいうと、葉は軽く笑った。
     そりゃあ、丁度いい…と。
    「……こっちもやる気満々なんでな! ザガンの注意は惹きつけておいてやる」
     葉はそういうと、様子を伺って動かないアンデッドの群れにダブルジャンプで飛び込んだ。
     強引に突っ込んだ葉は、掴みかかるアンデッド達を結界で捕らえる。その後ろに控えるペナント怪人達はしっかりと護っているが、アンデッド達はゆるゆると動き出す。
    「ヤナ、思いっきり戦ってこい!」
     葉の声に、白星・夜奈(夢思切るヂェーヴァチカ・d25044)は行ってくる、と小さく答えた。今はザガンの所に辿り着くまで、蝶胡蘭のいうように姿を隠れて進むほうが良い。
     この奥のどこかに、ザガンが居る。
     そう思うと、心がざわめいた。
     大きく深呼吸をした夜奈の周囲に、灼滅者達が集結した。
    「……じゃ、こっちは任せといて」
    「だいじょうぶ。ザガンは、倒す」
     夜奈はクロムに答えると、走り出した。
     前方で、葉月のビートが夜奈達にも聞こえてくる。科戸・日方(大学生自転車乗り・d00353)もちらりと顔を上げると、仲間の『声』に思わず笑みが零れる。
     反射的に攻撃を仕掛けてきたアンデッド達を、葉月が続けて糸で絡め取った。
    「さあ、ここで俺と命がけのセッションをしようぜ!」
    「あら、アタシも混ぜてもらわなきゃ♪」
     階段蝋燭に黒い炎を灯して、壱が葉月に並ぶ。
     音に合わせてゆらりと炎は揺れて、黒い煙を戦場へと流していく。
     煙の中、拳を振りかぶってアンデッド達を兼弘が蹴散らした。
    「…道を開けろ!」
     群がるアンデッドが地面に転がると、続けて横から迫る一体を兼弘は蹴りで払う。
     それでも立ち上がろうとするアンデッドに、杏理がバベルブレイカーで貫く。杏理の眼下で、アンデッドはまだ蠢いていた。
    「死なせないように退ければいいんでしょう?」
     倒さず前へ、前へ進まなければ。
     無数のダークネス達を貫くように、灼滅者達は飛び込んでいた。彼らをフォローする為に、両脇からも攻め込んでいる。
     仲間が奥へと通過したのを確認すると、イコはすうっと槍を構えた。
    「殪さず逃さず、生殺しのようで哀れだけれど、どうか怨まずにいてくださいな」
     呼吸を合わせて一斉に飛びかかった怪人の蹴りがイコに集中するが、その前方にファルケとヴィントミューレが立ちはだかる。
     歌いながら槍を突いたファルケにちらりと視線を送り、ヴィントミューレはベルトで怪人達を貫いた。
    「あなた達も時間稼ぎという訳?」
     歌は止めて、とファルケに一言言いながら。

     灼滅者による一斉攻撃は、ザガン達の軍勢を押し返すのには十分な数であった。
     総攻撃が始まり、まずはアンデッド達を蹴散らしに掛かった。
    「アンデッドは誘導しやすい。一気に散らそう」
     良太はそう言うと、TG研の仲間とともに陣を組んだ。背後の本隊を進ませる為、壁となって押し退ける。
     アンデッド達の攻撃から本隊を守るのは、良太や清美達の役目である。
    「みんなを支えてください」
     清美はナノナノに声を掛け、縛霊手を構える。
     前方を清美に任せた夕月は背後からギロチンで一斉攻撃をするが、アンデッド達は無数に押し寄せて来た。
    「さすがに数が多いですね」
     切り裂かれたアンデッドを叩き、登は小さく息をついた。こうして手加減をして片付けて行くのは。一気に片付けるよりもずっと骨が折れる戦いだ。
    「とにかく本隊を進ませるのが役目だろう? だったら、派手に暴れてこっちに惹きつけた方が手っ取り早い」
     そう言って飛び込んだ鎗輔に続き、流希もやれやれと呟く。
     少なくとも、アンデッドには効果的だろう。
    「こちらも始めますか」
     バトルリミッターを起動し、流希は鎗輔の影からアンデッド達に切り込んだ。ゆっくりと彼らを、遙香の起こした夜霧が包み込んでいく。
     アンデッド達の向こうには、ペナント怪人達がいる。
     仲間も、そしてその奥に向かおうとする本隊達も戦いが熾烈になるだろう。
    「では…舞依さん、夏目さん…ザガンと戦う皆さん、ご武運を」
     遙香は仲間の無事を祈ると、戦いに身を投じた。
     TG研が蹴散らしたアンデッドを突破し、連携してD HOUNDが切り込む。アンデッドの反撃を支える壁となったTG研に守りを任せ、シオンと海砂斗が十字架の閃光を放つ。
     強烈な光に威圧されたアンデッド達は、のそりと動きを鈍らせた。
    「次々削るからね!」
     シオンがロッドに持ち替え、旋風を巻き起こす。
     倒しきれないアンデッドの群れに、海砂斗が拳を叩き込んだ。無数の爪に切り裂かれ、海砂斗の体はあっという間に血が滲んだ。
     有紗がベルトでカバーしようとするが、手が足りない。
    「お願い!」
    「任せてください」
     冷静に、皐が結界を展開する。
     足止めにより、有紗はほっと息をついた。
     影と結界を使い分け、仲間の攻撃を支援する皐。
    「アンデッドは一斉にこちらに押し寄せている。道を作った後は、恐らく軍勢の中程で包囲される事になるよ」
     ヴィンツェンツが、有紗に言った。
     ちらりと振り返り、ヴィンツェンツが護符揃えを手にする。背後からアガーテが殺気を放つと、合わせて創とヴィンツェンツが結界を放った。
     動きを止める為に結界や糸を駆使する創とヴィンツェンツ。
     命が弾丸を撃ち込み、次の行動を指示する。
    「誰か突破したか?」
     創が聞くと、命は視線を動かした。
     本隊の傍にいた灼滅者達が、強引に突破を計っていたはずだ。
    「突破後、軽音部が背面に移動すると聞いています」
    「TG研とともに広範囲に展開して、弱体化を図った方がいいかもしれないわね。少なくとも、敵を分散出来る」
     アガーテはそう命に言うと、TG研の仲間を振り返った。

     龍砕斧を振り下ろした眠兎の刃を、ソロモンの悪魔の配下がぴたりと斧で止めた。ザガンを思わせる偉丈夫の彼らは、押し返しながら斧で切り返した。
     総員その場は動かず、一歩たりとも進ませぬ意志。
     攻め来る灼滅者達に、斧を叩き込む。
    「…させませんよ」
     ふ、と笑いながら菖蒲がバベルブレイカーで受け止める。止められぬ刃が菖蒲を切り裂くが、後ろから鶉が祭霊光によって支えた。
     鶉は攻撃を止めている仲間に視線を向け、次にそなえる。
    「さあ、もうじきですわよ」
     鶉は亜綾を振り返り、声を掛ける。
    「道を開けます」
     眠兎はそう言うと、おそるべき速さで彼らの元に飛び込んだ。勢いを付けた斧が、配下達に食らいつき薙ぎ払う。
     体勢を崩した配下に、通がシールドごと組み付いた。
     強烈な押しで、配下の壁が崩れる。
    「……行け!」
     通の声で、日方が駆けだした。
     止めようとする配下達にかまわず、日方は仲間と一丸となって飛び込み、目を凝らす。赤い体が、配下達の向こうに見えて居た。
     最後尾を進む蝶胡蘭は、最後に後ろを振り返った。
     ザガンの周囲を包囲したソロモンの悪魔の配下達は、進行を押しとどめようと道を阻んでいた。蝶胡蘭の周囲にいた仲間達も、今は僅かとなっている。
     クラブの仲間と、友と、そしてひとり戦う仲間達は、それぞれ同じ戦場で戦う灼滅者同士、意思疎通を図りながらダークネス達に立ち向かっていく。
     みな、倒しきらずに声を掛け、弱体化を図っていた。
     これから戦う、蝶胡蘭たちの為に…。
     皆の祈りを身に感じ、蝶胡蘭は決意を固める。

     …なんとしても、ここでザガンを仕留める、と。

     居るのか。
     後ろから叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)が小さく声を送ると、前にいた日方が止まった。前方を突き進む蔵乃祐(プラクシス・d06549)が、杖を構える配下に爪を叩き込む。
     獣化した蔵乃祐の腕は、配下の杖ごと引き裂く。
     それでもなお押し返そうとする配下達は、とうに我が身を捨てる覚悟を決めているようにゆるがぬ。
     運命を切り開くこと。
     強敵を打ち倒すこと。
     全ては決断という意思の力が生み出す覚悟が、極僅かな勝機を限界まで引き上げる。蔵乃祐はそう呟くと、生きて戻るようにと日方達に告げた。
    「武蔵坂に帰り着いてこそ、灼滅者の勝利です」
     横合いから飛びかかってきた配下に視線を向けながら蔵乃祐がいうと、即座に実季(狩狼・d31826)が原罪の紋章を穿った。
     紋章の力が配下の精神を乱し、実季に視線を向ける。
     魔導書をパラリと開いた実季は、背に護った舞依に声を掛けた。
    「ちゃんと戻って来てくださいね。駅番の皆さんも無事に帰還するのを待っていますから」
     絶対ですよと念を押した言葉に、舞依は仲間の思いを受け止める。
     体勢を崩したダークネスを押し退けると、配下達の向こうに巨体が見えた。赤く輝く巨体、筋肉質な腕には巨大なバトルアックスを掴んでいる。
     前に進み出る祖父……ジェードゥシカの足に続き、夜奈が足を踏み出す。
     あの時よりも、もっとザガンは熱い。
     だが、もう負けない。
    「一凶、披露仕る」
     宗嗣が漆黒の布槍を引き抜きながら突っ込む。
     ここで、大悪魔を屠る為。
     一斉に灼滅者達は、仕掛けた。
     同時に本隊とともに一気に突入した灼滅者達も、周囲から押し返そうとする配下達との鬩ぎ合いとなっていた。
     本隊の戦闘を守る為、包囲するように流れ込む。
     縛霊手で配下を掴んだ峻が、横から貫かれた槍にちらりと視線を落とす。足に力を入れたまま、何とかその場を死守する峻。
    「炎で焼くか…」
     体はまだ保つ、と峻が傷を確認。
     すると、貢が縛霊手で結界を展開して動きを阻止した。
     峻が礼を言うと、貢はこくりと頷く。身動きが取れない配下に、飛び込んで来たクロムが後方から当て身をした。
    「散り散りの人が居るから、俺は行くね」
    「怪我人は居るか?」
     治癒を掛けていた敬厳が、クロムに聞く。
     峻と貢達本隊防衛側は、まだ保つだろうと敬厳。本隊の戦いが終わるまでには、怪我人の退避も行わねばならぬと言う。
     ジリアスは念のために、戦場周辺に逃走用の仕掛けなどがないが、確認するつもりだった。
    「展開している仲間の報告からも可能性は薄いけど、ザガンが逃走する事も考えられるからね」
     すうっと後方を振り返りながら、ジリアスは言った。
     むろん、仲間の支援も行うつもりだ。
    「…連絡によると、途中でペナント怪人達との交戦に拮抗しているようだ」
     祝が、クロムの背後を差して言った。
     自分は、ここで戦うと祝。

     戦いの狼煙があがった事に気付き、途中のペナント怪人達の足止めを担っていた厳治が顔を上げた。
    「……ここからは停滞戦闘に入る」
     ザガン打倒に向かった仲間の為、厳治が切り込みながらペナント怪人達に力を放つ。
     後方から周囲を白く冷気が染め上げると、七音が槍を旋回させながら勢いづけ、一気に斬り降ろした。
     白い冷気が、七音の息を白くする。
    「さあ、あんた達はうちが相手やで!」
     声高に叫びながら、ペナント怪人達を挑発。
     飛び込んだ怪人の後ろでは、別の怪人達が場を固めようと後ずさりをしている。背を合わせたハリーが、その様子に眉を寄せて槍を握り締めた。
    「…アンデッドと違い、容易に誘いに乗らないようでござる」
     だが、数の上ではこちらも負けては居ない。
     ハリーは、七音と合わせて怪人達を槍で一気に薙ぎ払っていった。
     …押されるな…!
     …数はこちらが有利だ!
     ペナント怪人達は仲間を鼓舞し、シールドを展開して守りに入る。
    「それで止めたつもり?」
     笑い声を上げ、フレナディアが爆風をお見舞いする。
     爆裂による炎が戦場に広がっていき、後方から鎮火に掛かるペナント怪人達。炎の中を突っ切るようにして、周が切り込んだ。
     拳に炎を纏わせ、叩き込む周。
    「…今アタシに出来る事は、その援護!」
     逃した敵を仲間が倒すのを、支える事!
     業炎の中、拳を振りかぶった。
     周の勢いに続くように、慧樹が旋風輪でペナント怪人を蹴散らし、巻き上がる炎を槍に纏わせて怪人達を貫く。
    「ホラどっち見てんだ! 相手は俺だぜ!」
     敵を焼く炎が、慧樹の頬もチリチリと熱く照らす。
     しかしその感覚に、心が高揚する。
     火による仲間の攻撃は、お互いに息を合わせる事により、徐々に広がりつつあった。
     しかしペナント怪人は攻め込む灼滅者達を包囲し、連携して応戦する。
     春はそれを剣で何とか受け止め、サイキックソードで爆発を放つ。崩れ落ちる怪人がまだ生きているのを確認するが、攻撃は徐々に春の体力を削っている。
    「…っ!」
     怪人達の光線が春を貫く。
     はっと気付いたアイスバーンが、怪人の懐に飛び込んで切り裂いた。
    「大丈夫ですか」
     アイスバーンが声を掛けるが、春だけでなく周囲の仲間は皆疲労が濃い。
     丹が箒で飛行しながらミサイルを撃ち込むが、十分な狙いと勢いが維持出来なかった。
    「あのソロモンの悪魔さんも拝みたい所やけどねぇ…ん?」
     丹の視界に、本隊の方から何かが突っ込んできた。
     ペナント怪人達に全速力で突っ込んだキャリバーに続き、璃理がベルトを放った。
    「斬殺、レイザァスラァァッスト!」
     キャリバーが突撃した怪人に、ベルトで次々と狙い撃ちする璃理。めちゃくちゃな突撃に、キャリバーは傷だらけである。
     途中で足止めされていた彼らの様子を見た、沙月がさっと目を伏せる。
     静かに風を起こして、仲間の傷を優しくいやしていく沙月。
    「アンデッドの討伐は、かなり進んだそうです」
     元気づけるように、沙月が言う。

     恐らく、主力のダークネスに最初に仕掛けたのは全戦場で彼らが最初であっただろう。自分達は他のダークネス達が倒されるより速く、ザガンを倒す必要があった。
     実季や蔵乃祐達の後ろから進行していた宗嗣が、群れを突破して大百足を放つ。
     波打つ剣は鋭い真っ直ぐな刃物と化し、ザガンに襲いかかった。仲間の攻撃の影に身を隠し、そしてザガンの注意を受けぬように……。
     影から飛び出した宗嗣の一撃は、回避しようとしたザガンの腕を貫いた。そのザガンの反応の早さに、宗嗣が目を見張る。
    「速い……」
     宗嗣は大百足を引き寄せながら、眉を寄せる。
     後ろからベルトを構えた舞依はザガンと視線を合わせ、続いて放つ。舞依の攻撃をザガンは既に読み取り、拳で弾いて躱した。
     それを見て、舞依がちらりと視線を動かす。
     舞依の攻撃は、サキの動きを見ての事であった。横合いから大きく跳躍したサキの蹴りは、ザガンがバトルアックスで薙ぎ払う。
     弾かれて着地したサキを背後に、舞依は小さく息をついた。
     既にザガンはこちらの動きに応戦していた。積極的に攻めては来ないが、バトルアックスで攻撃を確実に弾いていく。
     舞依は怪談蝋燭を取り出し、慎重に宗嗣の後ろに下がった。
    「やはり簡単には当てさせてくれないようね」
     ざわりと周囲を包んだゆるやかな風は、マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)の起こした夜霧を運んでくる。霧は舞依や宗嗣達よりも後ろをつつみ込むように広がっていく。
     背後をカバーした後、マリアもダイダロスベルトを構えた。
    「悪魔は、殺す……ザガン、今日が貴様の、最後だ」
     冷たいマリアの声からは、闇が零れる。
     暗く、全てを凍らせるような冷たい感情。ソロモンの悪魔達の上に立つ、大悪魔の一人が今目の前に居るのである。
     自分の感情を殺して、マリアはベルトを放った。
     初手での一撃は確かに宗嗣からの直撃を受けたが、ザガンの動きは想像したよりも速かった。慎重にマリアは、ゆっくりと夜霧を展開させる。
     霧はマリア達の後ろに展開していく仲間達を、ザガンから隠す役目にもなっていた。
    「今のうちに削らなければ、いずれ掠りもしなくなる」
     マリアがいうと、船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)がふと笑って瞬きをした。
    「だったら、わたしが隙を造りますねぇ」
     ザガンの身体能力に合わせるべく、亜綾はバベルの鎖の力を瞳に集中させてバスターライフルを構えた。
     後方から、ザガン目がけて光線を放つ亜綾。
    「どんどん行きますよぉ」
     亜綾はのんびりとした声で、ザガンに言う。
     狙い澄ました亜綾のバスタービームは、ザガンの体を直撃する。二度目は、腕に……ザガンは綾の動きを読み、直撃を避けるように動く。
     だが、亜綾達もザガンが躱すまでは待ちはしない。
    「舞依、合わせて!」
     サキの声で、舞依は同時に動いた。
     強く地面を蹴った二つの身体が、交差するようにザガンの体に叩き込まれる。スピードに乗ったエアシューズの蹴りは、じいんとザガンの体を痺れさせた。
     うむ、とザガンが声を洩らす。
     総力を挙げて攻撃を仕掛ける灼滅者達の勢いは、前回の戦いを越えていた。
    「命を捨てた先に何があるか」
     ザガンの問いかけに、舞依が答える。
    「大切な人が居る」
     傷ついて欲しくない人。
     自分の大切な人、ここにいる仲間の大切な人。
     舞依は自分と呼吸を合わせて攻撃を仕掛けるサキを、心に思う。誰も死なせたくないし、もう誰も堕ちてほしくない。
     それでもここでザガンを仕留められないというなら、誰が犠牲になってでも倒さねばならない。
    「……それが、ここにいるみんなの覚悟よ」
     全てを護る為、ここで自分達は全てを捨てる覚悟を決める。
     舞依は灯籠を掲げながらザガンに声高にそう言い放った。掲げた灯籠はゆらりと火を揺らし、燃えさかる。
     ……燃えて!
     舞依の背後からサキの声が響き、飛び込む。ローラーの摩擦が炎を起こし、舞依の炎と混じりながらザガンに襲いかかる。
     炎を払いながら、ザガンはようやくバトルアックスを振り上げた。
    「後ろが空いているぞ」
     死角に回った宗嗣が、二人に合わせて摩擦炎を巻き上げる。炎はザガンの赤い皮膚に阻害され、すぐに消えていく。
     マリアは自身も飛び込みながら、蹴りを叩き込んだ。
    「…まだだ!」
     蹴りを受け止めたザガンの腕に、滑り込むように接近した夜奈がナイフを突きつけた。一瞬の隙に潜り込ませた小さな体は、鋼鉄のような皮膚に傷を付ける。
     だが、後方に下がる前にバトルアックスが炎を吹き上げていた。大きく払ったアックスの勢いに弾き飛ばされながら、夜奈の体を炎が包む。
     庇おうとした祖父に攻撃を促すと、夜奈は霧の中へと身を潜らせた。
     滴る血が、点々と地面に残される。
     後方から矢が飛び、霧の中のどこかに居る夜奈を貫いた。だが、あの傷の様子では足りないだろうと蝶胡蘭は次の一手に掛かる。
    「回復は私に任せておけ」
     力強い蝶胡蘭の呼びかけに、夜奈は力を取り戻す。
     ぽつりとザガンに灯った炎は、確実に広がっていた。

     ザガンに喰らい付いている。
     灼滅者達の戦いに、配下達にも焦りが募る。戦線さえ維持すれば、いずれザガンの力は戻るはずであった。
     そうさせない、灼滅者達の死力を尽くした攻撃。
     ザガンと戦う本隊を背にして、結界を展開して足止めをする娑婆蔵とアヅマ。
    「兄貴の邪魔は、させやせんぜ」
     娑婆蔵が、ザガンの配下達を睨み付ける。
     抑えに集中するアヅマの攻撃に合わせ、空はクロスブレイブの全砲門を解放して薙ぎ払った。それでも立ち上がる配下達に、空は言葉を失う。
    「それじゃあ、起き上がっても戦えないようにするか」
     昴が脇差を抜き、配下達の傷口を抉った。
     配下達が必死なら、こちらも必死。
     向こうも、それだけ灼滅者達を警戒し認めているのだろう。
     ロジオンが彼らの様子を見て、そう感じる。
     足止めされた配下達を、一体ずつ狙い撃ちにするロジオン。
     別方向からのミサイル攻撃でアヅマと娑婆蔵の体勢が崩されると、飛廉がその方角を即座にミサイルで反撃した。
    「向こうから撃たれています。…夕星」
     飛廉の声で、霊犬が駆ける。
     智水が紅鏡を従わせ、夕星の前方を一斉射撃で制圧した。幾多の方向からの攻撃を受ける仲間を、智水と真忌が手当をして回る。
    「本隊の方も、皆さんも、誰も倒れさせはしません」
     真忌は中心部で戦う仲間を見返し、呟いた。
     戦いは終盤にさしかかっている。
    「終わる前に怪我人を搬出した方がいいな」
     靜華が真忌に言い、戦場を走り出した。

     ふ、と後ろを振り返りイチは仲間を確認した。
    「まだ、無事のようだね」
     それは、堕ちていないという事。
     クロスブレイブを構えて配下を迎え撃つイチの横には、朋恵がぽんと立つ。ナノナノに声を掛けると、ベルトを放って錠を護った。
     にいっと笑って礼を言う錠。
     仲間を背にして、バベルブレイカーを地面に打ち込んだ。
     地響きが、周囲に広がる。
    「次々ぶっ放すぜ!」
    「ぶっ放してください、なのです!」
     朋恵が答える。
     配下達が雨のように降らせるミサイルを受け止めるイチや錠、朋恵を、まり花の奏でた弦の音色が支える。
     奏でるビートが、仲間の精神を研ぎ澄ます。
    「ここはなんぼも通しやしまへん、かかってきんしゃい」
     前は仲間が、後ろは自分達軽音部が護る、と言い放つまり花。
     攻め寄せる配下達に、理利は真琴と視線を交わした。
     ふわりと飛ぶペンクルスも、二人に息を合わせる。
     一斉に放った影が、一つずつ配下達を捕らえていく。
    「そちら、行きました」
    「分かりました、止めますね」
     理利の声に、真琴が反応して影を送る。
     捕らえた配下に反応し、千波耶が飛び込んだ。弧を描く足が、配下達を次々と地面にたたき伏せていく。
     攻撃をするりと躱し、千波耶は次の敵に向かって飛び込んだ。
    「こういう事も出来るのよ」
     足を止め、結界を展開する千波耶。
     打ち漏らした配下達に、正流が手刀を叩き込んだ。崩れおちる配下達を確認し、正流も結界の展開を行う。
    「ここが正念場だ!」
     最後まで諦めるな、と正流が叫ぶ。
     仲間には、聞こえていただろうか。
     律希は正流に癒やしの矢を放つと、大丈夫と言葉を返した。正流の言葉は、きっと届いているから。
    「これ以上の見苦しい延長幕は有りはしない、ザガン!」
     律希は、ザガンを振り返って言った。

     総力を挙げて仕掛けた攻撃は、徐々にザガンの体力を奪った。
     確実にザガンを押しているはずなのに、時間が経過していく事でザガンは少しずつ取り戻しているように感じる。
     相手を上回らなければ、いずれこちらが競り負ける。
    「……我を滅する気概が勝っていれば、我を倒せよう。我も引く訳にはいかぬ」
     何故ザガンがここを離脱しなかったのか?
     自分達を待っていた訳ではあるまいに。
     蝶胡蘭は、ふと思い立つ。
     その視線の先でザガンが大きくアックスを振り上げたのを見て、断罪輪を構えた。
    「来るぞ!」
     大きく薙ぎ払われた斧が、円を描く。刃の前に飛び出した日方は、ラビリンスアーマーが無ければ致命傷となっていただろう。
     ひやりとしつつ、抉られた傷に手をやる。
     回避出来なかったジェードゥシカは、そのまま霊障波を返した。ジェードゥシカも、そして亜綾の前を守る霊犬の烈光も、いずれも怪我は深い。
    「最後まで、戦う」
     夜奈は呟いた。
     蝶胡蘭が展開した法陣が日方を中心に広がり、ジェドゥーシカと烈光の傷を塞いでいく。足りないか、と呟いた蝶胡蘭の声は夜奈にも聞こえていた。
     ダイダロスベルトを構えた夜奈は、祖父に前を預けて攻撃に専念する。ただひたすら、ザガンの動きを捕らえる事だけに集中する夜奈。
     はっとマリアが顔を上げて、まずいと呟いた。
    「散れ!」
     ザガンの一喝で、炎が消し飛ぶ。
     マリアも夜奈も、少しも慌てず冷静にそれを見ていた。確かに炎は消されていたが、今まで鉄のように体をつやつやと輝かせていた皮膚は炎で焼かれていた。
    「ザガン、力を取り戻している…でも、追い詰めている」
     マリアはそういうと、ちらりと亜綾を見返した。
     また、頼めるか。
     マリアの言葉に、亜綾は笑顔を浮かべた。力を手に集中させた亜綾は、ザガンの動きを読み取りに掛かる。
     ザガンの斧が烈光に降りかかり、地面に叩き伏す。
    「烈光さん、こっちですよぉ」
     亜綾は烈光を呼び寄せながら、冷気を放った。
     冷気の塊がザガンの傍で炸裂し、凍り付かせていく。冷気はザガンの体を白く染めていくが、ザガンの動きは冷気に阻害される程鈍ってはいない。
     更にバスタービームで牽制する亜綾。
     武器を使い分けながら、ザガンに仕掛け続ける。
    「こんなもんですかぁ?」
     亜綾が聞くと、マリアはベルトを構えた。
     火力を集中させても、ザガンを倒すのは容易ではなかった。マリアは狙いを集中させてようやくザガンの動きを捕らえていたが、再び炎で焼くか足止めを計るか。
    「…ただ、攻めるだけ」
     守る者も、守られる者もなく。
     ただマリア達は総力を挙げて、ザガンに斬りかかる。
     咆哮を上げつつ奮ったザガンの斧から、炎が放たれてマリアの体に襲いかかった。体を焼く炎の痛みに崩れ落ちたマリアの視界に、仲間が映る。
     ……まだ、ここで堕ちない。
    「生きて、殺す」
     悪魔を何としても、ここで殺す。
     立ち上がって飛びかかったマリアの体に、風がゆるりと吹いた。まとわりついていた炎がかき消え、幾分か痛みが消える。
     そのまま蹴りを叩き込むと、マリアはザガンと距離を取って振り返った。
     いつの間にか、周囲に後方支援の仲間が戻ってきていた。
    「大丈夫ですか?」
     清めの風を放った香乃果が、マリアに声を掛ける。背後ではソロモンの悪魔の配下達が、灼滅者達を押しとどめようと集中砲火を加えていた。
     風を支援の仲間に掛けていた喜久乃は、ザガンを振り返りながら矢を弓に番える。
     振り絞った弓から放たれた矢が、日方を貫いた。
    「こちらは今の所押しています。ですから、皆さんを支えさせてください」
    「…頼む」
     マリアは頷いた。
     ふ、と体の力が戻るような気がした。
    「無理はしないで!」
     舞依はマリアにいうと、熾に気付いて治癒を依頼した。熾は舞依に声を返そうとするが舞依はそれには答えず、蝋燭を掲げてザガンを見据えた。
     揺らめく炎に身を乗せて、サキがザガンに詰め寄る。
     弧を描く蹴りは炎を増幅させて、ザガンの体を燃やしていく。何度でも立ち向かうし、何度でも焼き尽くせばいい。
    「…私達は焼かれても、仲間は傷付けさせない」
     サキはザガンと正面から向き合ったまま、言った。ザガンの攻撃を皮一枚で躱したサキの背から、飛び出した蝶胡蘭。
     背後から前へ飛び出したのが分かって居たから、サキは舞依とも合わせて仕掛けたのである。
    「仲間が居れば、戦える!」
     凛とした蝶胡蘭の声が、響く。
     ちらりと都市線を落として、まだ戦えるか、と日方に聞く。足はふらついていたが、日方もまだ戦えるようだった。
     笑い返す余裕があるんだから、大丈夫だ。
    「じゃあ畳みかけるとするか」
     日方も前のめりに駆け出すと、蹴りを仕掛けた。
     焼いて焼いて、焼き付くすしかない。後方から仲間が支えてくれているのを信じて、日方はひたすら飛び込んでいく。
     亜綾は箒を使って上空からバベルインパクトを計るが、ザガンは箒に乗ってこちらに来るまで亜綾を待ちはしなかった。
     こちらからバトルアックスを叩き込むと、亜綾は鮮血を吐いた。
    「まだそんな力が残って居たんですかぁ……」
     続く追撃を、亜綾がかろうじて横転して避ける。
    「……まだ大丈夫」
     亜綾はバスターライフルを構えると、照準を合わせた。怪我をしているが、攻撃のタイミングは的確であった。
     バスターライフルで意識を取られたザガン。
     斧を振り上げて亜綾を払おうとするザガンの前に、宗嗣が飛び出して長尺刀を構える。
     大きく踏み込みながら、振り斬る宗嗣。
     しっかりと見据えたザガンの目は、爛々と光っていた。
    「アモンに伝えとけ……貴様の首、何時か貰いに行くってな」
     決して引かぬ気概と、仲間を思う心。
     それは畏れとなって、ザガンを圧倒した。
     だが、ザガンはふと笑いを浮かべた。どこか納得したような、うっすらとした笑みであった。
    「……故に人とは相容れぬか」
     からからと笑うザガンを、挟み撃ちにしたサキのロッドと舞依の弾丸が襲った。
     笑い声は炎に焼かれていくうち小さくなり、やがて炎とともにゆっくりとかき消えていった。
     ザガンの姿が尽きるまで、そこにいた灼滅者達は動く事も出来ずに見守る。
     完全に消えてしまうまで……悪魔の影が、完全に消え去るまで。
    「……勝ったぜ……」
     低く唸るような日方の声は、勝利に対する心の底からの咆哮であった。

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月8日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:成功!
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