名古屋七大決戦~戦う者よ、刃となれ鏃となれ

    作者:ねこあじ

    「うずめ様は言いました。盟主は現れませんでしたと」
     6人の盟主候補の全てが、灼滅者によって救出された頃、南アルプスを抜け濃尾平野へと歩を進めていたダークネス達を前に、うずめ様がそう宣じた。
     長い敗走の旅を耐え抜いたダークネス達に、失望の表情が浮かぶ。
     灼滅者の裏切り者、闇堕ち灼滅者。
     その中でも、ダークネスの盟主となる事を望み、その為の試練を受けた筈の者達が、全て、灼滅者に戻ることを選んだというのは、彼らにとっても衝撃の事実であったろう。

    「うずめ様は言いました。灼滅者は追討軍を送ってくるだろうと」
     拠点も持たぬ敗残の徒である彼らに、武蔵坂学園を正面から迎え撃つ戦力は無い。
     頼みの綱は、うずめ様の予知能力であるが、それも、武蔵坂学園が持つという予知の力の前では充分な力は発揮できない。
     敵は、うずめ様の予知に掛からない作戦を予知する事ができるのだから。

    「万已むを得ない。いざ、決戦の時。戦い勝たねば生き残れまい」
     日本のご当地幹部、ザ・グレート定礎が、皆の心を代弁する。
     この危地を脱する事ができねば、この濃尾平野に、無残に屍を晒すことになるだろう。

    「楢山御前、あなたと轡を並べて共に戦う時が来ようとは思いませんでしたぞ」
    「それについては、おばちゃんも同感ねぇ。まぁ、白の王を灼滅されるなんて、予想外の事が起こったのだから、そういうこともあるわ。ところで、ソロモンの大悪魔のお二人はどうするの?」
     北征入道の言葉に頷いた楢山御前は、新参の大悪魔達を振り返る。
    「あなた達は客人だから、ここから脱出するのなら、出来る限り助けてあげるわよ」
     その御前の言葉に、ソロモンの大悪魔・ザガンが首を横に振った。
     ザガンに同意するように、フォルネウスの力を継いだ、海将ルナ・リードが言葉を継ぐ。
    「逃げて生き延びる確率と、戦って生き延びる確率に違いはないのではなくて? それに私達が逃げれば、他の大悪魔達の計画も狂ってしまうわ」
     楢山御前は、そう、と頷くと、最後の一人、緑の王・アフリカンパンサーを見た。

    「ボクもここで戦うよ。この日本で、グレート定礎の傍以上に安全なところなんて無いんだから。それに、ボク達の危機を知れば、アメリカンコンドルも駆けつけてくれる。それまで、ボク達はなんとか耐え抜けばいいんだ」
     自分に言い聞かせるようにそう言うアフリカンパンサーに、ザ・グレート定礎が言葉をかける。
    「濃尾平野は、古き盟友であった安土城怪人の拠点であった場所、地の利は無いわけでは無い。灼滅者達が驕り油断するならば、勝機は充分にあるだろう」
     こうして、竹生島の敗残兵を吸収した、富士の迷宮のダークネス残党軍は、名古屋市を望む郊外に陣取り、灼滅者達の追討軍を迎え撃つ準備を始めたのだった。
     その喧騒の中、
    「うずめ様は言いました。ここが決戦の地であると。そして、更に言いました。この戦いは決戦とはなりえないだろうと……」
     うずめ様の最後の予知は、誰にも聞かれる事無く口中に消えたのだった。


    「皆さんの活躍で、盟主候補となっていた6人の灼滅者を全員救出することが出来ました!」
     灼滅者の絆が起こす奇跡ってすごいわね! と、遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)は嬉しそうに頷いていた。
     闇堕ちしていた者の「ただいま」という声、言葉は、真っ直ぐに灼滅者達の心に入ってくるものだ。
     さらに吉報が続く。
    「そのあと、盟主候補の皆さんからの情報と予知により、うずめ様の予知を掻い潜って、逃げ延びた残党勢力との決戦に挑むことが可能になったわ」
     南アルプスを越えた富士の迷宮からの撤退組、伊賀越えを果たした竹生島からの脱出組。
     うまくいけば、合流した軍勢、敵の陣中にある7体の有力なダークネス達を全て灼滅することも可能だろう。
     これは、千載一遇のチャンスといえる。
    「もちろん、敗走する残党軍とはいえ、敵は強大な力を持つダークネスだから勝利は難しいかもしれないわ。けれど、皆さんの力を合わせることができれば、勝利を掴むことができると思うの」
     きっとね! と、軽く拳を作り、集まっていた灼滅者達を鼓舞するように鳴歌が言う。
     残党軍、そして力あるダークネス。鳴歌は、場の状況の説明をはじめた。
     有力敵は、周囲に多数の軍勢を率いており、これを突破しない限り討伐は不可能だ。
    「討伐のためには、多数の灼滅者の手で敵配下の軍勢を蹴散らして道を切り開く必要があるわね」
     開かれた道を少人数の本隊が突き進んで有力敵と戦う。
     今、ここにいる灼滅者達が狙う敵は、うずめ様。予知の力を操り、6人の盟主候補を送り込んできた刺青羅刹。
     そして率いる軍勢は、旧日本軍のような刺青羅刹の軍勢。
    「刺青羅刹の軍勢は、個々の戦闘力は高くはないみたい――でも、注意して。
     反面、組織力・連携力は高く、劣勢になっても決してくじけずに最後まで戦い続ける意志を持っているわ。
     多対多の戦いでは、実力以上の力を発揮するかもしれない」
     組織のために、護るために戦う。身命を賭して、自らを礎に――意志により、発揮される力は侮れないだろう。
    「そして、うずめ様の戦闘力は、今回の有力ダークネスの中では一番低いみたい」
     とはいえ油断は禁物だ。
    「有力なダークネス達を、ここまで追い詰めることができたのは、皆さんの活躍があってこそね。
     けれど、追い詰められた彼らは窮鼠となるかもしれない。そこには充分に気を付けて、確実に灼滅できるよう、戦いに挑んでほしいの。頑張って。そして皆無事に、帰ってきてね」
     鳴歌は力こめた声を、灼滅者達に向けるのだった。


    参加者
    九条・茨(白銀の棘・d00435)
    伝皇・雪華(冰雷獣・d01036)
    結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)
    笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)
    御影・ユキト(幻想語り・d15528)
    夜科・悠里(悠久の魔女・d18775)
    ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)
    九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)

    ■リプレイ


     濃尾平野。名古屋市街を望むその郊外、山地丘陵そのふもとに陣取るダークネス達。
     追討軍を迎え撃つ準備がまだ終わらないのか、喧騒が灼滅者達の耳に届いた。
     山間の、急な斜面に生える樹木を支えに、双眼鏡を使って夜科・悠里(悠久の魔女・d18775)が軍服姿の羅刹達の動きを追っていく。
    「ほな、行って来るわ」
     双眼鏡を手に、箒に乗った伝皇・雪華(冰雷獣・d01036)がゆっくりと上空へ向かっていった。
    「気を付けるんだぞ」
     そう言った笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)が鋭く周囲へと視線を走らせた。斥候が潜んでいる可能性もあり、いつでも対応できるよう援護態勢へと入る。
     こちらは山側の深い位置、うずめ様達羅刹の軍勢は山から名古屋市へ向かう緩やかな丘陵そして平野に陣取っていた。手早く、羅刹達との距離、陣の配置を打ち合わせる。
    「それと、荒い造りの塹壕がありました」
    「塹壕ですか、いかにも……という感じですね」
     悠里の言葉に、九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)は思考を巡らせる。
     荒い造りという辺り、単純な狙撃・進路阻害用と考えるべきか。
    「立地的に、数もあまり無さそうですけど」
     と、脳裏に周辺の地理を描きながら御影・ユキト(幻想語り・d15528)が言った。
    「展開の位置を眺めれば、おのずとうずめ様の位置も分かるような気がします」
     結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)の言葉通り、戻ってきた雪華の情報はうずめ様がいるであろう位置の答えとなった。
    「最初に、伏兵がいるとしたら『そこ』だろうか」
     九条・茨(白銀の棘・d00435)が下向へと目を向けた。木々に覆われた緩やかな斜面は隠れ蓑としては充分だ。
     移動の物音が立つ以上、確実に先制は敵が取るだろうが――。
    「問題ない。数で押すことが出来るだろう」
     ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)が言い、方々に潜んでいるであろう仲間達にメールを送信した。
     のちに他戦場から止まらず駆け回ってくる者、自分達を含めて約百人。ほぼ互角に戦える人数だ。
    「――突撃しよう」
     始まった交戦の音に鐐が斜面を滑り降り、箒を片手に雪華も着地する。
    「ほな、うずめはんに挨拶に行こか」


    「灼滅者だ!」
    「迎撃しろ!」
     軍服姿の兵が騒然とする。灼滅者達の肌に突き刺さる羅刹達の殺気。
    「天下分け目の大決戦、人類の興亡もこの一戦にあり!」
     ガトリングガンを担ぐレイチェル・ベルベット(d25278)が銃口を敵に向ける。
    「つまりいつもの事だぜ! 派手にいくぜ!」
     轟音とともに嵐のように撃ち出された弾丸が、胴に風穴を開けていく。
    「人生を謳歌せよ……教祖様爆発!」
     樽を持ち突貫していく天城・理緒(d13652)。爆発した。
    「!?」
    「くそ、なんだ、あいつら……!」
     敵が怯む一瞬。そこへ踏みこむ紅羽・流希(d10975)。
     目に見えぬ抜刀から抜き胴を決めた。振り返り様に刀を払えば鋼のかち合う音が響く。
    「こういうのをなんて言ったかな? 『修羅に入る』だった、か……」
     敵の追撃に口端をあげる。
    「最初は突破口を開くために無茶な攻勢に出るのも止む無しね」
     スナイパーの援護を背にエリノア・テルメッツ(d26318)が槍の長柄を幅広く持ち、陽乃下・鳳花(d33801)と共に先頭に出た。
    「さあ、道を作らせてもらうよ!」
     巨大な縛霊手で振り被り、敵を殴り飛ばす鳳花。網状の霊力がビン! と張られ、猫が猫魔法を放った。
     エリノアの槍の穂先が敵胴を穿った時、背に一陣の風。
     駆け抜ける灼滅者達。
     媛神・まほろ(d01074)が放つ殺気に怯む刺青羅刹達。
    「さて……活路は開けました」
     そこへ、踏みこむ。すれ違い様、目が合った。
    「どうか無事で……茨、皆様、必ず帰ってきてください……! 美味しい料理を沢山用意して、待ってますからね」
     しばらく並走していた李白・御理(d02346)が方向転換。RapidRabbitがしなり、伸びた剣先で敵群に斬りこむ。
    「ご武運を」
     静菜達へと声をかけた。
    「取り巻きの片付けはお任せ下さいねぇ」
     純白な手甲、しかしながら雪乃城・菖蒲(d11444)の高速回転したパイルバンカーの威力は凄まじい。
    「わざわざ私がこんなことしてあげるんだから、さっさとけりをつけなさい」
     いいわね? と、抜刀からの鋭い振りで敵を斬る逆神・冥(d10857)。血の飛沫は不思議と少なく冥の刀身は冴え冴えとしていた。
    「……油断手加減なしで行きますよ」
     菖蒲が言う。田子の浦で、軍艦島で、対峙した軍服の者達。脅威はまだ記憶に新しい。
     魔導書を手にし、敵軍の肉体に原罪の紋章を刻み込むリーファ・エア(d07755)。
    「鬼さんこちら……というところでしょうか」
    「怯むなァ! 一人ずつ片付けていくぞ!」
     怒り露わになる軍服を着た刺青羅刹達。ライドキャリバーの犬が駆け、一斉掃射する。
     灼滅者を守るリンフォースを殴り飛ばした兵が狙撃され、倒れた。
    「こっちだってやる気では負けないわ!」
     占拠した第一の塹壕で射撃に専念する神夜・明日等(d01914)だ。仲間の動きを見定め、敵を捉える。
     とはいえ、追討軍がくるとうずめ様の予知を聞いた羅刹達も考えていた。
    「バラ線用ーー意ッ」
     拡声器にのった声が響いたかと思えば、二m程に伸びた鉄束――有刺鉄線の端を持ち、二体の兵が駆けてくる。
    「体当たりしてくる気かな、痛そうだねぇ」
     エディル・クラウス(d32144)が呟く。牽制とはいえ立派に攻撃を阻害されそうだ。
    「ならば、止めるまで」
     駆けたラススヴィ・ビェールィ(d25877)が無敵斬艦刀を有刺鉄線の真ん中に叩きこむ。ぎりりと地面に食い込み、反動で羅刹二体が孤立した。
     畏れを纏うエディルが右手側敵へ斬撃を放ち、追撃するラススヴィが敵の動きに制約を与えた。
     左側敵は羅睺・なゆた(d18283)の目前に転がり――それは敵の命運が尽きた証でもあった。
    「僕はダークネスを殺す刃、ダークネスを穿つ鏃。修羅の業を那由多に積もうとも、ダークネスを殺してやる!」
     炎宿る鞭剣がしなり羅刹を斬り裂く。
     間合いから離れた二歩半。そこを一息で踏みこむ吉沢・昴(d09361)が放つ鋭く重い斬撃は、太刀の性質を表し剛気だ。
     苦し気に雪崩れる敵を退ける二人へ……否、兵へと声が飛ばされる。
    「そのまま盾となれ!」
     拡声器の主は階級章をつけている下士官。兵は乗り出し、灼滅者の刃を自らに食い込ませた。
    「そうくるか」
     柄の握りを変え昴が斬り払う。
    「彼らの上官ですか」
     やたら煩い下士官に接敵する桜井・夕月(d13800)。霊犬のティンを前に送り出し、自身は影を敵へと飛ばし喰らいつかせる。
    「早めに倒させていただきますね」
    「手伝うよ」
     風間・海砂斗(d00581)が下士官を中心に、前衛兵を巻きこむように突如肉体が凍り付く死の魔法を発動させた。
     灼滅者同士、即座にパーティが組まれていく。
    「さくっとぶっ飛ばそ」
     芳森・小晴(d31238)が雲吐き蜘蛛の標識色をスタイルチェンジさせる。
    「一体一体確実に、倒しましょう」
     琴鳴・縁(d10393)は翼の如く全方位に広がる帯で、フリージングデスに怯んでいた敵群を纏めあげていった。
     そこへまた別の灼滅者が追撃を重ねた。並走する清助が間断なく庇いに入る。
    「大人数での戦いを得手とする相手じゃ。油断はならぬ」
     薔薇の茎を思わせる光剣に緋色のオーラを宿す蜂・敬厳(d03965)が斬りかかった。敵の身から氷が散り、剣の光が反射する。
    「ままれ頑張っていこ~」
     狙撃から灼滅者を守るまーまれーど、そして久篠・織兎(d02057)が縛霊手を掲げ、内蔵された祭壇を展開させた。
     結界が構築され、敵の霊的因子を強制停止する。
     そこに小晴の神薙刃が敵一体を灼滅へと導いた。
     ナチュラルに立花・銀二(d08733)を射撃の盾にし、間合いに入った戒道・蔵乃祐(d06549)が鞭剣を振れば、疑似再現された刃の嵐が巻き起こった。
    「思えば九州調査行。更に遡れば御神楽の聖地以来の因縁か」
     追撃とばかりに凄まじい連打を繰り出す銀二。
    「とにかく! 蔵乃祐君がなぐった敵をなぐっとけば!! これが! 連携力ッ!!!」
     ナノナノも懸命にしゃぼん玉を飛ばす。
    「くっ、え、援護を」
    「させない!」
     百舟・煉火(d08468)の声。
     拡声器を使おうとした下士官へと深紅の碑文がめりこむ。砕ける金属と骨の音。
    「う、うずめ様……」
     名を呼び倒れる下士官――指揮が失われても兵達は銃剣を手に、突撃してくる。
    「いいか! 我らは礎だ。敵の刃をその身に受け、味方の機へ繋げろ!」
    「ば、ばんざい!」
    「突撃ィィ!!」
     狂ったかのような一体感。
     その熱気の中、片倉・純也(d16862)が淡々と九字を唱えていく。
    「成程。伝播は忌避すべきか」
     九眼天呪法が放たれ、場の静まりの足掛かりとなった。
     黒曜の柄に、風を切る純白の刃。草那岐・勇介(d02601)が冷気のつららを放ち敵を穿つ。
    「学園の一人として、俺にできることを尽くすのみだ」
     真摯な声は、場の狂気に呑まれない。
    「お互い協力してる所でお邪魔するんもなんや悪い気ぃするけどぉ」
     敵配下達の仲良し具合に、雲・丹(d27195)の感想。それはそれ、戦場で会ったら勝った負けたしかない。
    「全力全開のぉ! 《ZIR TELOCVOVIM VORS DE MADRIAX》」
     毒の竜巻や敵群へ怪奇現象をもたらしつつ奥田・文太(d33323)はゆるりと周囲を見回した。
     敵は回復行動をあまり行なっていないような……。
    「一度、回復するね」
     攻勢に踏みこんでいた花守・ましろ(d01240)が数歩退いて、周囲の灼滅者達へと浄化をもたらす癒しの風を送る。
     敵のエネルギー障壁に殴られ、衝動に動かされていた仲間達が態勢を改めた。
     日向・草太(dn0158)も癒しの矢を放ち、フォローに動く。
    「うずめが巫女ってんなら、神様に相当するダークネスもいたりすんのかね?」
     上空に向けて弓を引いた音鳴・昴(d03592)が呟いた時、間断なく敵群へと矢が降り注ぎ、何体かの羅刹が灼滅された。
     間引きされたかのように孤立した敵は霊犬のましろが追いやり、接敵した月夜・玲(d12030)の炎纏う激しい蹴りに地を穿ち倒れる。
     玲は油断なく周囲へと目を走らせ、紛れ込んだ何者かがいないかを確認。
    「さあ、次!」
     メカサシミが敵を土台に跳び、突撃していく。


    「左翼! 右翼! 挟みこめー!」
     拡声器を使い、怒鳴る下士官その二・三の声が聞こえる。
     戦端を開き幅を広げていく灼滅者達を分断させるべく、一丸となる羅刹達。
    「旧日本軍って、劣勢になると無闇に突撃するのが弱点だったんだけどなぁ。まぁグチってもしょうがない」
     分断を阻むため、足を止める竹尾・登(d13258)。敵の接近をゆるす前に白色のオーラを集束させ、放つ。そこへダルマ仮面が突撃していく。
    「行くよ、親友」
     バベルブレイカーを繰り、突撃する富山・良太(d18057)。ビハインドの中君が並び、敵の進行を阻む役についた。
    「ご武運を!」
     先へ行く灼滅者達に声を投げ、秋山・清美(d15451)が振り向き様にクロスグレイブを振る。肉を叩く手応えに続き、サムワイズがたつまきで敵を攻撃する。
    「雪は、全てを覆い隠す――道は切り開いてみせますとも」
     ナイフを翻した梓奥武・風花(d02697)は上半身を捻り、伸びあがるように斬り上げた。
    「鬼さん、こちらーっ!」
     前左翼敵の気を引く阿剛・桜花(d07132)が赤色へとスタイルチェンジした交通標識を叩きこむ。
    「私達のチームワーク、羅刹さん達に見せつけてやりましょう!」
    「さてと、お嬢のためにひと肌脱ぎますか」
     ぼろろ~ん♪ と、ウクレレを演奏する砕牙・誠(d12673)が後に続き、音波を飛ばす。
    「さ、抗えるかな?」
     敵を催眠状態へと陥れる歌声を披露する饗庭・樹斉(d28385)。その効果はすぐに現われた。
    「く……しまった!」
     灼滅者へ仕掛けようとした攻撃が、ある兵を襲う。
     一瞬生まれる敵の混乱。
    「コッチは任せろ」
     茨達へ声をかける夜鷹・治胡(d02486)がすかさず結界を構築し、霊的因子がスパーク音をたて強制停止となった。
     羅刹達が立て直しにかけるはずの数瞬、柳瀬・高明(d04232)のどす黒い殺気が無尽蔵に、敵群を覆っていく。
     舌打ちし身一つで突撃してくる兵を阻むのは、槌屋・康也(d02877)。
    「俺がシッカリ守りきる! そんでテメーらはぶっ飛ばす!」
     ジャキンと鋭く音がたち、鋏が軍服の装飾品を――染み込んでいるであろう業すらも――喰らう。
     死角から敵の鬼腕が風を切り、滑りこむように前へ出たガゼルを殴り飛ばす。
    「正念場、ってやつだな」
     高明が零す。
     うずめ様に向かって歩を進めた以上、後方にいる灼滅者達が敵を撃破し合流するまであとどのくらいか。ともあれ一体ずつ倒していけば、制圧も早くなる。
     回復と庇いに専念しはじめた治胡の祭霊光が飛んでいく。
    「まったく、人の故郷で勝手に決戦なんてするなよなぁ。さて、僕の役割は血路を開く事、か。やってやるよ」
     備傘・鎗輔(d12663)が断裁鉞で強烈な一撃を繰り出す。
     鎗輔の背を守るのはわんこすけだ。六文銭射撃で近付くのを阻んでいく。
    「織姫ちゃんっ」
     蒼井・夏奈(d06596)が五芒星型に符を放つタイミングに合わせ、武野・織姫(d02912)が蹄鉄型のリングスラッシャーを七つに分裂させた。
    (「皆の力を一つに合わせて……目指せ、大勝利! 鐐さんは絶対に護りますよ」)
     と、織姫。
     雷のような音をたて、一斉に符の力を発動させた夏奈が攻性防壁を築く。
    「く、そ!」
     敵の突撃。迎える嘉納・武道(d02088)が腰を落とし踏みこむ――が瞬時にして切り替わり超硬度の拳が敵を撃ち抜く。
     背後を取り、弧を描き迫る室武士・鋼人(d03524)の回転殴打が羅刹を粉砕し、倒した。
    「さあ、次へ行きますよ」
    「おう!」
     連携する鋼人と武道の快進撃が敵を圧倒していく。
     軍勢の戦いに赴いた九十三人のうち九人の回復手。
    「ここは任せて、先に行って!」
     その一人、支援に専念する矢崎・愛梨(d34160)が留まろうとした回復手に言った。
    「みんなで笑って学園に帰ろうね!」

     先頭付近。
     回復役として留まることを決めた鍋島・陽茉梨(d33278)はすれ違う灼滅者の背を押した。
    「折角の機会だ。決着をつけてこい」
     とはいえ、まずは敵の数を散らすべく、一旦回復を直茂に任せ、聖碑文の詠唱に入る。
    「けっちゃくをつけてきてください」
     連携するラウハ・ハユハ(d34073)が己の片腕を鬼のそれへとし、向かってきた敵を殴り飛ばした。
     敵群の守りからして、きっともうすぐ――。罪を灼く光線が乱射される。
    「ユキトちゃんたちの邪魔はさせないんだよ!」
     犬祀・美紗緒(d18139)が言い、こまが霊撃を放った敵に向かって、鋭い銀爪を繰り出す。
    「ユキトちゃん! 無事に帰ってこないとダメなんだよ!」
    「足止めはお任せを……全部倒してしまっても問題ないのでしょ?」
     そう言った小鳥遊・優雨(d05156)は鞭剣を構え、一呼吸で戦闘態勢へと移行した。
     踏みこみとともに薙ぐ剣を加速させる。
    「ラウハ」
    「はい!」
     連携を重ねての各個撃破だ。
    「あの屋敷からの因縁、ここで断ち切るよ! 皆無先輩に私の想いも託すね」
     攻撃の精度が上がり、除霊結界で一気に敵の足を止める守安・結衣奈(d01289)が言う。
     送り出されていく。
     灼滅者の繰り出す一撃は、確かに先へと進む礎となる。
     羅刹達の繰り出す一撃は、自陣の瓦解を阻むもの。一度風穴が開けば、崩れるだけだ。
    「今が決着の時だ、貴方達にはここで倒れてもらう!」
     兵の射撃牽制を秦・明彦(d33618)の黒鉄の棍が弾く。跳ねたそれが地に着弾するよりも前に、明彦は素早く間合いへ入った。
    「九形さん、行って下さい!」
     振り返り様に黎月を抜刀した祀乃咲・緋月(d25835)が敵の刀を止める。一瞬の鍔迫り合いののちに、再び鋼の音。双方込めた力が弾き合った。
     と、ビハインドの黎月が攻撃線上へと割り込む。
    「あ、ちゃんと無事に戻ってきてよ! 特に九形先輩また闇堕ちとかしたら承知しないからね!」
     元気いっぱいに声をあげる仲村渠・華(d25510)。
     突撃してくる敵を螺旋の如く捻りを加えて琉撃槍で穿ち、更に踏み込んだ。
    「シーサー君、しばらくみんなの護衛よろしくっ」
     と、相棒を前に送り出す。
    「あんたを利用したアイツに仕返しする絶好の機会じゃない、存分に暴れてきなさいな!」
     鬼の腕で進路を妨害する敵を殴り飛ばし、御門・那美(d25208)が皆無達を送り出す。
     振り返れば分断を阻止すべく戦う仲間達。那美は結界を構築していった。
    「援護はお任せを」
     足止めのために鬼の腕を振るう篠宮・遥音(d17050)。目前の敵を殴り飛ばせば、仲間達が後を引き取ってくれる。霊犬のぽちも走りながら六文銭を撃っていった。
    「十分お気をつけて。後方はお任せください」
     そう言って、同じくルフィア達を送り出した八千草・保(d26173)は長期戦を視野に入れ、皆を庇いつつ回復していく。
    「頑張ってこうなぁー」
     癒しの風を仲間へと送る八蘇上・乃麻(d34109)の声に、周囲の灼滅者は肩の力を一度抜き、再度敵に相対した。
     改めた姿勢からの攻撃は思いのほかよく通る。

    「何をしているの!」
     下士官その二もとい軍服を着た女羅刹が威圧的な声を張り上げた。
    「膠着……いえ、壊滅状態じゃないの! いいわ、私が前に出る!」
     拡声器を投げ捨てたのか、耳を劈く音が響き渡る。
     その反対側。鋭くしなる鞭の音がした瞬間、近くの灼滅者が打たれた。下士官その三だ。
    「うずめ様への道は開かれてしまった――まあ、あちらは精鋭隊に任せるとしよう」
     炎纏う蹴りで一体の兵を倒したところの崇田・來鯉(d16213)が、構える。カイリがリングを光らせ、ミッキーが浄霊眼で周囲の灼滅者達を癒していく。
     その時、風が変わった。キンと鋭利な空気が広がっていく――意味するのは、うずめ様か。
    「キミ達の上がまだいるんだね。じゃ、早くそっちに向かうためにも全力で行かせて貰うよ!」
    「私は早く御前へ戻りたいわ!」
    「悪いが今、この先で戦う先輩達の邪魔はさせんぞ」
     女羅刹の言葉に、割り込むヴァーリ・マニャーキン(d27995)がフォースブレイクを叩きこむ。
    「お前達の相手は私達で、確実にこのばで足止めをさせて貰うからな」
    「名古屋の人達の笑顔を守るためにも! ご当地ヒーローとして全力で貴方達に抗わせて頂きます!」
     ひゅ、と空を切る槍の音。崇田・悠里(d18094)が捻りを加えた突きを放つ。
    「全力の全力で、です!」
    「騎士として人々の安寧を守る為! 共に戦う輩の力となる為に、お前達は絶対に彼らの邪魔をさせん!」
     ホテルス・アムレティア(d20988)がミミングスの剣で斬り払う。
    「我が剣の錆とさせて貰う!」
    「やるわね!」
     風を繰り、女羅刹が風刃を腕に纏わせる。
     それを受けるはヴァレニア・ライラック(d36580)だ。ビハインドよりも先に体が動いた。
    「……ッ! 皆さん、今です!」
     かまいたちを受けたかのような切り口を作りつつも、ヴァレニアが放つ影が女羅刹を縛り上げる。
     霊撃が放たれ、更にチェインリッパーを加速させた神凪・朔夜(d02935)が女羅刹を中心に周囲の兵を薙いでいく。クッ、と腕を上げれば灼滅者を避け刃が弧を作り上空へ。
    「回復するよ。だいじょうぶ?」
     真波・悠(d30523)が帯でヴァレニアを包み、ぱくりと裂けた傷口を癒していく。
     ホイールを激しく回転させた神凪・陽和(d02848)が天を駆ける風の如く鋭い蹴りを放つ。炎が軌道を描いた。
    「私達にも譲れない理由がございます。邪魔はさせません!!」
    「ああ……うずめ、様」
     重なる灼滅者達の攻撃に、女羅刹は呟き倒れるのだった。

    (「さあ、キミたちとの悪縁もここで終わりだ」)
     うずめ様と配下の羅刹達。比良坂・柩(d27049)が鞭を操る下士官その三もとい男羅刹へ非物質化させた剣を横一文字に薙いだ。
     接敵した彼女から飛び退く男羅刹。
    「今だ! 討てェ!」
     叫び、合図とばかりに羅刹の鞭が望月・心桜(d02434)を打ちつけ赤い筋を作る。兵達が各個撃破は基本とばかりに柩へ殺気を向けた。
    「させぬよ! ここあ!」
     ここあを庇いへ回し、心桜は桜花の装飾が施された帯で柩を鎧の如く覆う。
     階級、かつこの場では強いであろう男羅刹。
     聖碑文の詠唱をする咬山・千尋(d07814)がLily for Unknownの砲門を開放し、下士官中心に光線を乱射させた。
    「さっさと倒して敵の士気を落とすよ」
     本隊は先まで送り届けた。あとは……。
    「そうですね」
     素早く周囲に目を走らせた興守・理利(d23317)が頷く。敵が各個撃破へ動こうとも、周囲の灼滅者がそれをゆるさない。
     ひとまずは下士官に向き合い――異形巨大化させた鬼の腕で殴りつける。
     死角をとった鈍・脇差(d17382)が、鯉口を切る。抜刀する月夜蛍火が踏みこみの勢いにのり、強く深い斬撃で敵腕を斬り払った。
    「軍隊的な組織力だ? 連携には連携で返してやるまでだ――俺達の絆の底力を舐めんなよ!」
     そのまま肉迫し、抑える。
    「例え一人は弱くとも、数が集まれば蟻も獅子を倒せるんだってこと、分からせてあげるよ」
     カミの力、清浄なる風も渦巻けば荒ぶり鋭い刃を生み出す。三蔵・渚緒(d17115)の放つ風の刃が敵の胴を斬り裂き――下士官は最後の力を振り絞り咆哮した。
    「うずめ様……ッ、万歳ッ!!!」
    「ば、ばんざいっ!」
    「突撃ィィ!」
     再度、狂ったかのような熱気がぶり返した。
     どちらが蟻でどちらが獅子か。
    「俺達だって個々の力はまだまだだ。だけど、仲間を信じ、連携して発揮する力は今までだって、これからも、何よりも強いんだ」
     木元・明莉(d14267)が薄い桜色の指輪の力を、突撃してくる敵へと向けた。カルラが積極的に割りこむ。
     灼滅者の熱は身の内にあるのか。
     今まで血路を開いてきた仲間とともに、ミカエラ・アプリコット(d03125)も断斬鋏を振り回し、敵を斬り刻んでいく。
    「ちゃーんと送り届けたしっ、後は羅刹軍との戦いだねっ」
     本隊に添って突き進んだ灼滅者は多く、万全の状態で送り届けることができた。
     風――カミカゼと呼ぶにふさわしい――を繰るうずめ様の力が肌に突き刺さるようだ。振り向けば、遠目に舞うような巫女の姿が見える。
     死角に回りこみながら兵を絶命させた文丸・宗樹(d17502)は、ふと一歩退いて戦況を見定めた。
     身を捨て魂だけを持ち突撃してくる羅刹軍が辿るのは、壊滅。
     宗樹は精鋭隊との戦闘支援へ回るべく、ライドキャリバーと共に走った。


     時はほんの少し遡る。
     鐐が祈りの言葉が刻まれた碑文の全砲門を開放し、光線を乱射させるなか、走る灼滅者達。
     駆け抜けた先は、広く四隅に立てた竹を囲うように細い縄が張られていた。小さな丘。
     一角は――うずめ様と灼滅者の間に縄は無く。到達に目を向けることなく、羽織っていた千早を脱いだうずめ様は、軽やかな薄衣を風が去るままに任せた。
     ルフィアが声をかける。
    「久しぶりだなうずめ……そうあの時ぶり……」
    「あの時ぶり、ですか」
     応じたの悠里だ。はて――しかも、この場にいる全員、何故か次の言葉を待っている。
    「あの時……。……すまん初対面だったわ」
     難しい顔をしたルフィアが頷き、結論を出す。
    「おのれ灼滅者め!」
    「うずめ様、どうしても留まりになられますか……! 相手をしてやることもないかと!」
    「うずめ様は言いました。この結果は、予知の通りであると」
     羅刹の軍はほぼ壊滅状態。完全に撃破されるのも時間の問題だろう。それも、僅かな。
     うずめ様は敗北を受け入れていた。
    「ならば――!」
    「御前を失礼致します」
     最後の砦とばかりに側につく精鋭の軍服羅刹達が灼滅者へと立ち向かう。
     先を走る伊庭・蓮太郎(d05267)が敵先頭に喰いつき、雷気を宿す拳を叩きこんだ。追い抜き走り抜けていく、八人。
    「さぁ、いよいよもって大一番だ。お前達の手で、決着をつけて来い!」
    「ここは任されました!」
     廉太郎に続き、連携する黒瀬・夏樹(d00334)が連結剣を振るい、躾けるように羅刹達の進行を促す。
    (「追い詰めたから……いや、追い詰めたからこそ決死の粘りは侮れません」)
    「此処まで来たら一蓮托生、死中に活を求める気で、死ぬ気で頑張るわ♪」
     一度兵を追い抜き、背後に回った水心子・真夜(d03711)が天竺葵を抜刀からの一閃。冴え冴えとした月の如き衝撃を放つ。
     挟撃にもっていく構えだ。
    「出入口は作っておくからのう。存分に暴れてくるがよい」
     静菜達へ言う森沢・甲斐(d29651)が己の身に降ろした『カミ』の力で優しい風を招く。
     下士官が一体、その下につく兵が五体。
    「油断はできない数だね」
     四月一日・いろは(d03805)の大太刀・月下残滓の居合い――鋭い斬撃が胴を抜く、が、敵はまだ立っている。肉が硬い。
     敵の打ち下ろされる鬼腕を、自身の両腕で防ぎ、いなす狼川・貢(d23454)。
     回復手の数は充分だ。その判断に従い、
    「攻勢に転じさせてもらう」
     仲間が狙う敵へ攻撃対象を定めた。
    「宇都宮餃子のご当地ヒーローとして、皆の支援をさせてもらうよっ!」
     八重葎・あき(d01863)が雷都剣に刻まれた祝福の言葉を風に変換し、前衛を回復させていった。
     敵の死角へ回った碓氷・炯(d11168)が接敵し鞭剣を振るう。
     呼吸をするように、最適化された殺戮経路を刃が辿っていった。敵との距離が近ければ近いほど、刃が肉に留まる時間が長くなる。
     介入させないよう、足止めを念頭に明鶴・一羽(d25116)が結界を発動し霊的因子を強制的に停止させる。
     足元の土がに次々と跳ね、それは太腿までを撃ち抜く軌道。羅刹兵の狙撃だ。
     最後の塹壕。そこへホイールを回し炎纏う蹴りを叩きこむ赤槻・布都乃(d01959)。即座にサヤが猫魔法を使う。
    「連携はこっちにとっても武器でな。決死の覚悟はお互い様だ!」
    「多対多の戦いは……灼滅者の得意分野じゃよ!」
     続いて塹壕に飛びこむのは響塚・落葉(d26561)だ。落ちる勢いにのり鬼の腕で殴れば、敵は穴底に叩きつけられる。
    「さぁって……これほど分かりやすい地点もないな」
     塹壕に三体。物部・暦生(d26160)が指を動かせば、凍り付く死の魔法が敵の体温や熱量を奪っていく。
     ルーチェ・ペンドリーノ(d32717)もまた乗りこんだ。展開させたエネルギー障壁を牽制にしたのち、攻撃を叩きこむ。
    「制圧完了、っと」


    「これ以上、ひっかき回されるのはこりごりです。退場のお願いという名の戦いに来ました」
    「うずめ様は言いました。あなたの願いは叶うであろうと」
     真空が如くの空気のなか、ユキトが言った。
     神薙使いの繰る力をものともせずに、うずめ様は自身の持つ力を浸食させていく。
     ユキトの射出した帯を風が薙ぎ、軌道を逸らした。
     精度の高すぎる風刃が静菜を斬り裂きに向かうが、とっさに彼女は重心をずらし攻撃の威力を削ぐ。
     それでもぱくりと肌が裂けた。
     うずめ様の命中力高い攻撃、しかしながら動きは戦闘慣れしているものではなく、隙を見つけた灼滅者達が二撃を叩きこんだ。
    「……ッ、すみませんが、ここで倒し切らせていただきますよ」
     刀の間合いに入る静菜が上段の構えから、うずめ様へと剛剣を振り下ろす。
    「大丈夫ですか、すぐに治しますね」
     悠里の帯が間合いから離脱する静菜の身を鎧の如く覆って、防護をより強固にすると共に傷口を癒していく。
    (「うずめ様を倒せば、これからの敵勢力の脅威が収まりますね」)
     予知がいかに手強いものか。
     ここに来る道中、応援してくれた仲間の為にも頑張らなければと悠里。
     どこかうずうずとした様子でうずめ様に接敵する雪華。ずっと気になっていたことがあったのだ。
    「なあ、うずめはんって女の子なん?」
    「……うずめ様は言いました。あなたの質問に答える必要性を感じません」
     鬼の腕となった左で雪華の鋼鉄拳を受けるうずめ様――刺青のあるそこは盾の様に硬い――元より答えるつもりはないのだろう。打ち払う。
     ちえー、とどこか無邪気な様子を見せる雪華に、当たり前ですよ、と悠里が言う。
     数歩退くうずめ様の足取りは舞うようだ。ふわりふわりと、しかし芯はある。
    「凡そ勝てないと知りながらなぜこの戦いに? 決戦を急がず、伏して力を蓄える選択もあった筈では?」
    「うずめ様は言いました。これが最善と――実際、最善です」
    「へえ……」
     質問をした茨が呟き返し、そして鐐が眉を顰めた。理解しがたいものがあった。
     勢力の立て直し、それが定石ではないのか。
     茨の赤きオーラの逆十字が敵の体を切り裂くように出現する。うずめ様は一瞬怯んだ様子を見せるも、すぐに身と精神の損傷を受け入れた。
     灼滅される事を前提とした戦い方だ。
     見苦しくなく、潔く戦うことは、うずめ様の最期の矜持なのだろうか。
     皆無の異形巨大化させた腕が凄まじい膂力と共に殴るも、轟音が響き渡る。うずめ様が左の腕で打ち合いに出たのだ。結わった黒髪が揺れている。
    「え、ええと……」
    (「闇堕ちしてた際に共に居たせいか……微妙に顔を合わせづらいですね」)
     ま、所詮は戯れ言ですか、と、皆無が思い改めた時、
    「うずめ様は言いました」
    「……はい」
     心の中で、居住まいを正す皆無。
     びきりと双方の腕に筋が走る。思い切り力が込められた腕。
    「あの者達のうち誰か一人、盟主が現れれば、違う道もあったであろう、と」
     しかし終わった事だ。今は戦うのみ。
     激しく肉を叩く音を皮切りに、互いの距離ができた。
     飛び退くうずめ様を追撃するべくルフィアと鐐が迫っていく。槍を振るい、妖気を変換させたルフィアが冷気のつららでうずめ様を穿った。
     草地を抉り着地する相手を縛霊手で打ち、網状の霊力を放射し縛り上げる鐐。
    「……ッ」
     力を振るい、剥がすうずめ様の鬼腕はただれていた。
    「神話の天宇受賣命か……」
     うずめ、と聞けば思い浮かぶもの。
    「不思議に憎くはないんだ」
     そう呟く鐐の声色は穏やかなものであった。


     張っていた注連縄を掴み、大きく虚空で輪を描くようにうずめ様が振り回した。
     攻性防壁が築かれた刹那、前衛に向かって衝撃波が走り、雪華、茨、ワルギリアスがアタッカーを護りに駆けた。
    「御前に失礼します」
     この間に近づいた静菜の放つ影が複数に伸び、敵を絡めとっていく。
    「うずめ様、何気にジャマーなのですね……!」
     回復というよりは浄化に動く悠里は、早めのフォローを心がけている。ここに辿り着くまで、メンバー全員ほとんど無傷であったのが幸いしていた。
    「――此度語るは世にも奇妙な鋏の話……」
     ユキトが語るは縁切り鋏の話。顕現したそれがうずめ様に執着し、流れる黒髪を、飾り紐を追いかけ回す。
    「刺青の力に心惹かれるものはある。だが、それで仲間を失う訳にはいかない――我、鬼神となりて敵を屠る者成!」
     皆無の金剛錫杖が闇を砕くべく、焔纏うように煌く。
     うずめ様が注連縄を振るう。が、バベルの鎖を瞳に集中させ行動予測力を向上させていた雪華がそれを読み、注連縄を掴み引っ張った。
     魔力を流しこむ皆無の一突き、続くのは引く縄を軸に懐へ滑りこんだ雪華の殴り上げる拳だ。昇雷が起こる。
    「中々可愛い子だけれど、手は抜いていられないね?」
     茨が魔法弾を放ち、うずめ様の動きに制約を加えた。
     彼の見るうずめ様……表情は読み切れるものではないが、戦闘に疲弊しているような顔色であった。
    「うずめ、神の代行者。うずめ様とは貴様自身の事か?」
     Proof of 7.D.C[code:He]を駆り、軽やかに、そして流星の如き煌きと重力を宿した蹴りは鋭く重い一撃のルフィア。
    「それとも……貴様はただの依り代に過ぎないのか? その奇怪な喋り方は気になっていたんだ――そしてそれが刺青の力なら、受け継がれるものなのかもな」
    「うずめ様は言いました。神々の理は神々のみが知るべき事と」
     同じような言葉を、どこかで聞いた。うずめ様は言葉を続ける。
    「話は終わりですか、灼滅者」
     カミカゼが場を支配する。威圧的な空気が構築され、前衛の霊的因子が払われていく。そのなかで、ビハインドのワルギリアスが静菜の身を覆い庇った。
     力が抜けそうな纏わりつく『それ』を祓うように鐐が黒き銃砲を手に――先端の銃口が開く。
    「鐐さん!」
     悠里が浄化の風を送り届けた刹那、敵の業を凍結する光の砲弾が放たれた。
    「我らは神代の秩序を破壊し、無知なるまま思うままに新たな秩序を構築する! 悪、真の悪を名乗り至ろうぞ!」
     光の砲弾に穿たれ、うずめ様の鬼腕が消える。
     膝をつき、息荒く右腕でその身を支えるうずめ様に灼滅者達が近づく。もう戦う力は残っていない、それがみてとれた。
     羅刹軍の声は上がらない――既に、撃破されていたからだ。
     様子に、灼滅者達が息をのむ。
     ふ、と無理矢理という風に呼吸を整えるうずめ様。
     赤い目を一度閉じ、深く呼吸をした。再び開き、声を出す。
    「……うずめ様は言いました。お前達は血と蝙蝠により危機に陥るであろう、と……」
     言い終え、力を失くし、地に倒れ伏す。
     武蔵坂学園に向けられた、最後の予知。
    「っ」
     思わず悠里と皆無が仰向けにさせれば、読みとれない表情も、感情もない、土と血に汚れてはいるものの、ただ綺麗なかんばせの羅刹が眠っているかのように、そこに、横たわっていた。だが、その姿も束の間、灼滅された羅刹の姿は消滅していく……。

     うずめ様は灼滅され、羅刹の軍は完全に撃破。
     名古屋七大決戦、そのうちの一戦は、一つの予知を残し、勝利をおさめたのであった。

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月8日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 32/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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