名古屋七大決戦~ノーライフキング、北征入道

    作者:陵かなめ

    「うずめ様は言いました。盟主は現れませんでしたと」
     6人の盟主候補の全てが、灼滅者によって救出された頃、南アルプスを抜け濃尾平野へと歩を進めていたダークネス達を前に、うずめ様がそう宣じた。
     長い敗走の旅を耐え抜いたダークネス達に、失望の表情が浮かぶ。
     灼滅者の裏切り者、闇堕ち灼滅者。
     その中でも、ダークネスの盟主となる事を望み、その為の試練を受けた筈の者達が、全て、灼滅者に戻ることを選んだというのは、彼らにとっても衝撃の事実であったろう。

    「うずめ様は言いました。灼滅者は追討軍を送ってくるだろうと」
     拠点も持たぬ敗残の徒である彼らに、武蔵坂学園を正面から迎え撃つ戦力は無い。
     頼みの綱は、うずめ様の予知能力であるが、それも、武蔵坂学園が持つという予知の力の前では充分な力は発揮できない。
     敵は、うずめ様の予知に掛からない作戦を予知する事ができるのだから。

    「万已むを得ない。いざ、決戦の時。戦い勝たねば生き残れまい」
     日本のご当地幹部、ザ・グレート定礎が、皆の心を代弁する。
     この危地を脱する事ができねば、この濃尾平野に、無残に屍を晒すことになるだろう。

    「楢山御前、あなたと轡を並べて共に戦う時が来ようとは思いませんでしたぞ」
    「それについては、おばちゃんも同感ねぇ。まぁ、白の王を灼滅されるなんて、予想外の事が起こったのだから、そういうこともあるわ。ところで、ソロモンの大悪魔のお二人はどうするの?」
     北征入道の言葉に頷いた楢山御前は、新参の大悪魔達を振り返る。
    「あなた達は客人だから、ここから脱出するのなら、出来る限り助けてあげるわよ」
     その御前の言葉に、ソロモンの大悪魔・ザガンが首を横に振った。
     ザガンに同意するように、フォルネウスの力を継いだ、海将ルナ・リードが言葉を継ぐ。
    「逃げて生き延びる確率と、戦って生き延びる確率に違いはないのではなくて? それに私達が逃げれば、他の大悪魔達の計画も狂ってしまうわ」
     楢山御前は、そう、と頷くと、最後の一人、緑の王・アフリカンパンサーを見た。

    「ボクもここで戦うよ。この日本で、グレート定礎の傍以上に安全なところなんて無いんだから。それに、ボク達の危機を知れば、アメリカンコンドルも駆けつけてくれる。それまで、ボク達はなんとか耐え抜けばいいんだ」
     自分に言い聞かせるようにそう言うアフリカンパンサーに、ザ・グレート定礎が言葉をかける。
    「濃尾平野は、古き盟友であった安土城怪人の拠点であった場所、地の利は無いわけでは無い。灼滅者達が驕り油断するならば、勝機は充分にあるだろう」
     こうして、竹生島の敗残兵を吸収した、富士の迷宮のダークネス残党軍は、名古屋市を望む郊外に陣取り、灼滅者達の追討軍を迎え撃つ準備を始めたのだった。
     その喧騒の中、
    「うずめ様は言いました。ここが決戦の地であると。そして、更に言いました。この戦いは決戦とはなりえないだろうと……」
     うずめ様の最後の予知は、誰にも聞かれる事無く口中に消えたのだった。
     
    ●依頼
    「盟主候補となっていた6人の灼滅者を全員救出する事が出来たんだよ! みんなの活躍と、それから、うん。灼滅者の絆の起こした奇跡だよね」
     千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)は、そう言って皆の顔を見回した。
    「それで、だよ。盟主候補のみんなからの情報と予知にって、うずめ様の予知を掻い潜り、逃げ延びていた残党勢力との決戦を挑む事が可能になったんだ。うまくいけば、敵の陣中にある7体の有力なダークネス達を全て灼滅することも出来るはずなんだよ」
     これは、と。集まった灼滅者達が顔を見合わせる。
     そうだ、千載一遇のチャンスといえよう。
    「もちろん、敗走する残党軍とは言っても、敵は強大な力を持つダークネス。勝利は難しいかもしれないよね。でも、みんなの力を合わせることができれば、きっと勝てるよ!!」
     太郎は一旦言葉を区切り、教室を見渡す。
     今回の作戦は、特殊な戦い方をする事になるだろう。しっかりと状況を把握して欲しいと言い、太郎は説明を続けた。
    「ここに集まってもらったみんなには、北征入道を相手にして欲しいんだ。ノーライフキング、北征入道だよ。札幌迷宮化計画と言えば、覚えている人も居るんじゃないかな? 北征入道は周囲に多数の軍勢を率いていて、これを突破しない限り討伐は不可能だよ」
     つまり、と。太郎はくまのぬいぐるみを抱き締める。
    「討伐のためには、多数の灼滅者の手によって北征入道配下の軍勢を蹴散らして道を切り開き、そこへ少人数の本隊が突っ込んで有力敵と戦う必要があるんだ」
     本隊の他にも、多数の助力が必要と言うことだ。
    「北征入道は武者アンデッドの軍勢を率いて灼滅者を迎え撃つよ。武者アンデッドは手ごわいけれど、数が少ないため、軍勢としては最も弱い勢力といってもいいかもしれないんだ。これは、ここが最後の戦いと覚悟した北征入道が、援護の戦力を受け入れることを拒んだからのようだね」
     最後にと、太郎は皆の顔を見る。
    「有力なダークネス達をここまで追い詰めることができたのは、みんなの活躍あってこそだね。けど、追い詰められた彼らは、窮鼠となるかもしれないよ。油断無く、確実に灼滅できるよう頑張ってね」
     そう言って、説明を終えた。


    参加者
    リーファ・エア(夢追い人・d07755)
    東雲・悠(龍魂天志・d10024)
    森沢・心太(二代目天魁星・d10363)
    漣・静佳(黒水晶・d10904)
    阿久沢・木菟(八門継承者・d12081)
    夜川・宗悟(彼岸花・d21535)
    戦城・橘花(今ここに・d24111)
    セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)

    ■リプレイ


     名古屋市を望む郊外に、多くの灼滅者が集まってきた。目指すは、この先で待ち構えているノーライフキング、北征入道だ。
    「沢山集まってくれたようだな。これなら、配下をサポートの皆に任せることができる」
     セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)が、集まったサポートの仲間達に信頼の目を向けた。
    「そうですね。突破口を開いて貰いましょう」
     リーファ・エア(夢追い人・d07755)が頷く。集まったサポートの仲間は50名以上。これならば、十分に配下の相手を任せることができるだろう。
     クラブ仲間のリーファの応援に、天神から仲間が来ていた。
    「お花見の時期にきな臭いものはお掃除しなきゃ」
     苑田・歌菜(人生芸無・d02293)が明るく軽い口調でクラブの仲間達に視線を向ける。これは、沢山の仲間が繋いできた道だから、ここで途切れさせはしないと。
     皆、頷き合った。
     それから――敢えて言葉には出さないけれど、セイメイを撃つ道を作ってくれたカリルの想いも連れて行くつもりで、ねと。歌菜は思っていた。
    「よう戦城の姉御、助太刀に参りやしたぜ」
     撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)が戦城・橘花(今ここに・d24111)に向かって片手を挙げる。
    「いっぺん言ってみたかったんでさァ。『ここはあっしらに任せて先に行け』!」
    「雑魚はお任せあれですわ。ビシっと決めてやってくださいませ」
     戦友にエールを送り、赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)が走り出した。
    「頼んだぞ」
     橘花は、サポートの仲間達が次々に武者アンデッドの軍勢へと飛び込んでいく様を見る。
     斎賀・なを(オブセッション・d00890)がセイクリッドクロスを放った。無数の光線が武者アンデッド達に襲い掛かり、攻撃の足がかりを作る。
    「頼むぞ」
     周辺の仲間に視線を馳せると、居木・久良(ロケットハート・d18214)がロケットの噴射で一気に飛び込んで来た。
    「真っ直ぐ、道を切り開くよ!」
     最初から全力で、武者アンデッドを殴りつける。
    「同感だな。行くぞ」
     同時に、ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)のダイダロスベルトが敵の身体を貫いた。
    「来たか、灼滅者!! だが、北征入道様をやらせはせぬッ」
    「おおッ」
    「えいッ」
    「おおッ」
     武者アンデッド達も、これに立ち向かわんと武器を取る。
    「こっちは私達に任せて、頭領も阿久沢くんも気張っていってらっしゃい!」
     春陽が森沢・心太(二代目天魁星・d10363)と阿久沢・木菟(八門継承者・d12081)に檄を飛ばした。
    「配下はお任せくださいませ。今こそ、入道に引導を」
     神凪・燐(伊邪那美・d06868)もそう言う。
     2人は、武者アンデッドへ真っ直ぐ向かっていった。仲間の道を切り開き、敵の数を確実に減らす。しっかりと目的を持ち、武器を振り上げる。
    「まったく、人の故郷で勝手に決戦なんてするなよなぁ」
     備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)はそう言いながらも、大きく武器を持ち上げた。大暴れすれば、それだけ敵をひきつけられると思う。
    「故郷でこんな戦いをする事になるとはな」
     同じようなことを呟いたのは紅羽・流希(挑戦者・d10975)だ。こちらも、少しでも多く長く、敵をひきつけるつもりだ。
    「なるべく派手に暴れてやりますか」
     周りの状況を見ながら、月村・アヅマ(風刃・d13869)も言う。
     とにかく、本体から武者アンデッドを引き離すため、考えて立ち回るしかない。
     主力のメンバーの見つめる中、武者アンデッドの軍勢と灼滅者達の戦いが始まった。


     葉が舞い、粉塵が巻き起こり、武器と武器のぶつかる音が響く。
     主力の八人は、仲間達が道を開いてくれる事を信じ、後方でじっと待っていた。
    「見てください、徐々に敵の陣が広がっていきます」
     心太が小声でそう言い、目の前の光景を指差す。
    「はい。あちらも、こちらも、押している」
     静かに頷き、漣・静佳(黒水晶・d10904)も前方で戦う仲間達を見た。
     北征入道への道を守るように布陣していた武者アンデッドの軍勢が、次第に散り散りに広がっていく様が見て取れる。
    「弱い勢力であれど、不足の無い相手である事は間違い無いな」
     吉沢・昴(覚悟の剣客・d09361)はそう言って、どす黒い殺気で敵の一群を多い尽くした。
    「確実に仕留めて行けばいいよな」
     怯んだ武者アンデッドに、咬山・千尋(高校生ダンピール・d07814)が武器を付きたてた。
     確かに、と頷いて昴が周辺の仲間を確認する。数に余裕はあるけれど、仲間同士連携して動いたほうが良いだろう。
     そう考えている仲間は多い。
    「攻撃を集中させていこう」
     槍を手に、志賀野・友衛(高校生人狼・d03990)が周囲の灼滅者に声をかけた。
    「うむ。皆の進路上の敵を、最優先で排除じゃ」
     影を伸ばして敵を絡めとり、蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)が答える。
     2人はタイミングを合わせて攻撃を繰り出し、近くの武者アンデッドを狙った。
    「くそ、北征入道様に、害をなす者めがッ」
     地面に転がった武者アンデッドが、なお立ち上がる。
     その巨体を、陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)が蹴り上げた。
    「北征入道は……、あの奥だね!」
     そして、入道を狙う仲間に伝える。
     周囲の仲間達も、一斉に武者アンデッドを狙い打った。
    「そこ、敵が薄い感じですね」
    「うん、行こう!」
     秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)と富山・良太(復興型ご当地ヒーロー・d18057)が頷き合う。
     竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)もそれに続き、一斉に攻撃を仕掛けた。主力八人の道を開くため、アンデッド達の陣を崩していく。
     畳み掛けるような攻撃に、一体の武者アンデッドがよろめいて体制を崩す。
    「戦城殿、道は拙者達が切り拓くでござる! 振り返らず進むでござるよ!」
     四方祇・暁(銀月吼ゆる熾天狼・d31739)が大きく影を伸ばし、弱った武者アンデッドを仕留めると、そこに大きく道ができた。
    「よし、俺達も行こうぜ」
     それを見て、東雲・悠(龍魂天志・d10024)が主力の仲間に声をかけた。今まで控えていたメンバーが全速で走り出す。
     目の端に、刀を構えた武者アンデッドが飛び出てくるのが見えた。とっさに武器を構えたが、それより先にユリアーネ・ツァールマン(ゴーストロード・d23999)の槍が敵の身体を穿った。
    「魅せ場は譲るからね、橘花。ここは引き受けるよ!」
    「ほら、キミの相手はボクだよ」
     すかさず無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)がシールドバッシュで追撃し、注意を引き付ける。
    「よろしくお願いします。僕達は進みます」
     心太は短く礼を述べ、空中高く飛び上がり軽々と武者アンデッドの頭の上を飛び越えて先へ進んだ。
     仲間が切り開いてくれた道を、ただ前を見て疾走する。
     右も、左も、辺りは全て戦場だ。
     だから、ただ前へ、前へと。
     飛び出してくる武者アンデッドは、仲間が抑えてくれる。敵は分断され、道が開けていく。最前列で露払いをしてくれる者もいる。
     そして、走りぬいた先。
    「良くぞ参った、灼滅者達よ」
     北征入道が居た。
     自分を守る配下のアンデッド達は分断され、隊列を成すことも難しい有様だ。
     しかし誰に助力を請うわけでも無い。
     逃げる事も無い。
     隠れもせず、臆することも無く。
     堂々と、彼はそこに立って居た。
    「ようやく、辿り着いた、わね」
     じっと、静佳は北征入道の胸部を見据える。ダークネスを灼滅し、その先の事も見据えるように。
    「お主の来歴に興味は尽きんでござるが、長々と語るのは武者の別離にゃ合わんでござろ」
     木菟はそう言いながら、仲間を守るように位置を取った。
    「なるほど、さすれば――」
     大きな薙刀を取り出し、敵が笑った気がする。
     夜川・宗悟(彼岸花・d21535)も静かに大太刀を構えた。
    「―――いざ、心躍る死合いを……!」
     一歩、踏み込む。
    「尋常に、勝負!!」
     北征入道の声が大きく戦場に響いた。
     二つの武器がぶつかり弾き合う。
     八人の灼滅者は、その力全てを残してここまで辿り着いた。そして、その力全てを以って、今、北征入道を灼滅せんと立ち向かっていく。


     リーファは初手にクルセイドスラッシュを放った。
     破邪の白光を放つ強烈な斬撃で、敵の身体を切り裂く。
    「うずめ様はこの戦いは決戦とはなりえないだろうと言ったそうですよ? どう思います?」
     北征入道の身体からクルセイドソードを引き抜き、バックステップですぐに距離を取った。続けてリーファのライドキャリバー、犬が突撃をかける。
    「ふ、戦いは戦い。そうではないか? 今は我ら、ただ戦うのみッ」
     受けた傷など気にしない、とでも言いたげに、北征入道は静かに足を運んだ。
    「まあ確かに、我々の言う所謂戦争……とまでは行かずに貴方達と対峙していますが」
     リーファは、走りながら相手の様子を見る。敗走する残党軍とは言っても、彼は強大な力を持つダークネス、一撃二撃で致命傷を与えることはできないようだ。流石、と言うところだろうか。だが、そんな事は分かりきっている事だ。仲間達は、互いに位置を確認しながら次々に攻撃を続けた。
    「鬼ごっこはもう仕舞いにしようぜ。ここで仕留めてやる!」
     次に踏み込んだのは悠だ。地面を力強く蹴り、飛び上がる。
     持ち上げたクロスグレイブを大きく振りかぶり、落下の勢いのままに相手に叩き付けた。一撃を薙刀で弾かれ、だが、諦めず体勢を崩しながら北征入道の横腹を凪ぐように殴りつける。鎧と、頑丈な肉を殴った感触が伝わってきた。
    「絶対に負けねぇからな!」
     地面に着地し、仕上げにと、自分の全体重を乗せ敵の身体を突き上げる。
    「ぬぅ、んんッ」
     北征入道は、一歩、身体を下げた。
     そして、次の一歩。片足で踏みとどまり、身体を器用に反転させ悠の身体を蹴り飛ばした。
    「……ッ」
     それは、サイキックによるものではない。ダメージは受けないが、強制的に距離を取らされたのだと知る。
    「まだまだ、これからだぜ!」
     すぐに片手で地面を叩き起き、身を起こした。
    「そうです。続けますよ」
     悠の背後から、心太が飛び出す。
     一度大きく腕を凪げば、それは巨大異形化した。走りながらのそれは、大きく片側に体を傾かせる。だが心太は止まらない。力を込めてステップを踏み、流れるように自然に加速した。バランスの悪さなど問題ではない。身体を体術で完全に操り、腕を振り上げた。 正面から鬼神変を叩き付ける。
    「ふ、……は」
     北征入道が打たれた肩を庇い、一瞬腕を下げた。
     完全に身体を叩き割るつもりで繰り出した撃だったが、致命的な命中にはならなかったようだ。
     それでも、これはかなり大きな一撃だった。
    「そういえば、『北征』入道とのことですが、なにをもって北征と呼ばれているのですか?」
     心太はふと、問うてみた。
    「良いのか? そのような問答をしている余裕があるとでも思おうて居るのか」
     北征入道は再び胸を張り、薙刀を振り回す。
    「気をつけて、来ます」
     静佳が、はっと顔を上げ空を見上げた。
     そこにはいくつもの刃が浮かび上がっている。あっと思った時には、刃から無数の光線が発射され、前衛の仲間に襲い掛かった。
    「拙者の後ろにまわるでござるよ」
     木菟が咄嗟に心太を庇う。ウイングキャットの良心回路にも、仲間を庇うようにと指示を出した。
     他の皆も、互いに庇いあい、空から降り注ぐ光線をしのぐ。
     だが、やはり強力な攻撃だ。
    「皆さんを、回復、するわ」
     クルセイドソードに刻まれた『祝福の言葉』を癒しの風に変え、静佳が前衛の仲間を回復させる。
    「ありがとうございます。大丈夫ですか?」
    「問題ないでござる。さて」
     心太に頷き返し、木菟は縛霊手を入道に向け構えた。
    「札幌の続きを始めようでござるぜ! 久々に真っ向から暴れてやんでござるよ!!」
     仲間を庇って受けた攻撃の威力を見極める。おそらく、まだ何度かは受けることができるはずだ。それに、回復も十分効いている。
     それなら、次は攻撃だと。
     木菟は敵の懐に飛び込み、縛霊撃を放った。
     タイミングを見計らっていた仲間達も、次々にそれに続く。
     黒死斬を放った宗悟は、不測の事態に備え警戒はしていた。けれど、戦いは北征入道との戦闘に専念するつもりだ。
    「あの様子なら、配下は大丈夫だよね」
     サポートの仲間達が、しっかりと武者アンデッドの相手を引き受けてくれているから、自分達はこの戦いに集中できるのだ。
    「大丈夫、攻撃が飛んでくる事は無いようだ」
     周囲からの攻撃を警戒する橘花が答える。
    「ああ、信じよう」
     セレスは予言者の瞳を発動させながら頷いた。
     周辺でも戦う音はまだまだ続いていた。北征入道も、まだ体力に余裕が見える。
     互いに力を尽くし、戦いは続く。


    「本隊の方々の邪魔はさせませんよ」
    「ぐ……、まさか、ここまでとは……」
     何とか北征入道の下へ走ろうとする武者アンデッドに、有馬・臣(ディスカバリー・d10326)が攻撃を仕掛ける。続いて、東堂・イヅル(デッドリーウォーカー・d05675)もサイキックを放った。
     必ず北征入道を灼滅して欲しいと思う。その為の尽力は惜しまないつもりだ。
    「北征入道との戦闘の邪魔はさせない」
    「はい」
     2人は頷き合い、未だ倒れない武者アンデッドに向かっていった。
    「入道のところへは行かせないよ?」
     比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)は、アンデッドとの戦いに専念している。北征入道の援護に向かうことだけは、阻止しなければと思っていた。狙いを定め、次々と敵を撃っていく。
    「あそこ、少し味方が少ないな」
    「そうね。行くよ」
     迫水・優志(秋霜烈日・d01249)と虹真・美夜(紅蝕・d10062)は、並んで味方の数が少ない戦闘へ走る。北征入道への道を切り開き、主力の八人を送ることができた。後は、武者アンデッド達を北征入道の下へ向かわせないよう抑え、数を減らしていく。
     皆が声を掛け合い、徐々にアンデッドの数が減ってきていた。
    「何人たりともここを通しませんよ!」
     煌・朔眞(秘密の眠り姫・d05509)が大きく武器を構え、北征入道への突破口を守るように立ちはだかった。栄・弥々子(砂漠のメリーゴーランド・d04767)や北沢・梨鈴(星の輝きを手に・d12681)など、天神のメンバーもそれに続く。
    「どけぇい、そこを通せぇ」
     一体の武者アンデッドが勢いをつけて突っ込んできた。
    「弥々子が力になれるなら、頑張りたい、の」
     弥々子は交通標識を構えレッドストライクで迎え撃つ。
    「桜が綺麗に咲いているんです。それを台無しにする方はお引き取りください、ね……!」
     続けて、梨鈴も攻撃を放った。少し緊張もしているが、落ち着いていつも通り頑張るだけだ。
     聖太は仲間の動きを見ながら、手裏剣を投げ続ける。
     無造作にばら撒いているように見えるかもしれないけれど、きちんと敵の配置を見極めて狙って撃っているのだ。
     聖太の手裏剣の合間を縫うように、紅葉の炎が敵を焼く。
    「誰も倒れないで、みんなで帰りましょっ♪」
     仲間の顔を見回し、紅葉が声をかける。
    「良いね。勿論そのつもりさ」
     聖太が手裏剣を投げながら同意した。
    「おのれ、おのれ灼滅者!」
     武者アンデッドは、数を減らされても、傷を負っても、灼滅者に向かってくる。彼らにも、引けない思いがあるのだろうか。だが。
    「悪いが今、この先で戦う先輩達の邪魔はさせんさ」
     ヴァーリ・マニャーキン(本人は崇田愛莉と自称・d27995)はそう言い、片腕を巨大異形化させた。
    「行くぞ、こっちだ」
    「騎士として人々の安寧を守る為! 共に戦う輩の力となる為に、入道の配下共。お前達は絶対に彼らの邪魔をさせん!」
     ヴァーリが呼ぶと、ホテルス・アムレティア(斬神騎士・d20988)が答えた。
     一体のアンデッドに狙いを定め、2人はタイミングを合わせ同時に鬼神変を叩き付ける。
    「來鯉、悠里!」
     呼ばれて、崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)と崇田・悠里(旧日本海軍系ご当地ヒーロー・d18094)も飛び込んできた。
    「ご当地ヒーローとして笑顔を守り抜いて見せる!」
     來鯉の一太刀がアンデッドの身体を薙ぎ、悠里の槍がその身体を抉る。
    「名古屋の人達の笑顔を守る為にも! ご当地ヒーローとして全力で貴方達に抗わせて頂きます!」
     息の合った連係プレーで、アンデッドを確実に仕留めた。
    「うん。乱入者は今のところいないようだね」
     三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115)は辺りに視線を走らせる。今のところ、目立った異常は感じられなかった。


    「そろそろ効いて来る頃だろう?」
     宗悟が手元でナイフを回した。
     相手の返事を待たず、死角から飛び込み斬撃を放つ。
    「く、やりおるわ」
     北征入道の身体がバランスを崩すのを見た。もう何度目か、宗悟は急所を狙い身体の自由を奪うような攻撃を繰り返している。
     チラリとセレスへ視線を飛ばした。
     頷き、反対側から踏み込んできたセレスが、ジグザグに変形させたナイフの刃で敵の肉体を切り刻む。
    「札幌の時は逃したからな。ここできっちり引導を渡してくれる」
    「ふんっ」
     北征入道が担いだ薙刀を、大きく旋回させた。
     宗悟とセレスは、その大きな動作に巻き込まれぬよう、咄嗟にバックステップを踏んで跳び退いた。
    「なるほど、だが、まだ倒れぬ!!」
     北征入道は2人が離れると同時に、武器を縦に持ち大きく吼えた。
     まばゆい光が入道を包み、その傷が癒されていく。
    「回復まで使うんだ」
     誰にも悟られぬ程小さく、宗悟が口の端を持ち上げた。この激しい戦いに、知らず胸が躍る。自由を奪ってもなお、あの動きである。その上、仲間と助け合いながらようやく削り取った体力を、回復まですると言うのか。
    「さあ、受けてみよ」
     言うが早いか、北征入道は薙刀を横に一閃させる。それは美しい光が走ったと思った。横薙ぎに放たれた光が衝撃となり、中衛の2人、宗悟とセレスに襲い掛かる。
    「いけませんっ」
     瞬間、リーファと犬が割って入った。
     今まで仲間を庇い続け、何とか回復しながら戦ってきた犬の体力が尽きる。リーファが見守る前で、キャリバーが掻き消えた。何かを話す前に、橘花の声が通る。
    「走れ、そこから離れろ」
     すぐに仲間が走り出した。
     北征入道が次の動作に入っていたのだ。
    「さぞ動き辛いだろうな。それでも来るか」
     距離を取ったセレスが敵の姿をじっと観察している。最初に比べ、敵の動きが緩慢になったと感じていた。それに、傷を回復したとは言え、消し去ることのできないダメージだってある。
    「援軍の類は無いな」
    「ここが最後の戦いと覚悟した。さあ、行くぞ灼滅者ッ」
     セレスの言葉に答えるように北征入道が走り出す。
    「いいや、ここで通行止めだ」
     しかし、それよりも早く橘花がチェーンソー剣を構え距離を詰めた。刃で身体を斬り裂き、傷口を広げていく。
     手首や胸部など、今は小さな部位を破壊できるほどではない。
     だが、そこは冷静に判断し、確実に攻撃を当てていく。
    「ぐ、むぅ。だがッ」
     傷を庇い一歩下がった入道を見て橘花もすぐにその場から離れた。
    「戦城さん?」
     何かあるのだろうか? 心太が問うように橘花を見る。
    「追いつめた相手ほど怖い」
     ここは戦場だ。最後まで何が起こるかわからないのだから、決して油断はしない。橘花が答えると、皆がそうだと表情を引き締めた。
    「リーファさん、こちらへ」
     仲間の背をうまく利用して、静佳はリーファにラビリンスアーマーをかける。
     ライドキャリバーは消えてしまったが、他の仲間はまだ回復すれば戦えると思う。少しずつ、癒せない傷がたまっているけれど、それは相手だって同じはず。
     静佳はリーファの傷が癒えたことを見届け、北征入道に声をかけた。
    「御子のお名前、教えて下さらない?」
     一つ、思いついている名前がある。
     気がかりだった御子について入道がどう出るのか、仲間達も返答を待った。
    「御子か」
     北征入道は、少しだけ間を置き、続ける。
    「白の王は灼滅され、復活の道は絶たれた」
    「御子はどこから来た? 人間なのか?」
    「青の王の転生体、なのかしら?」
     セレスの言葉にも、静佳の言葉にも、入道は否定するように無言で首を横に振った。
     人間ならば、ラグナロクならば、救出したいと思っていたけれど。どうやら、そうではないらしいと、頭で考えたその時。
    「気をつけて、攻撃だ」
     悠が声を上げた。
     いつの間に薙刀を構えたのだろうか。そして、まだ動けたのか。動きが鈍くなったと感じていた入道が、深く屈み込み、大きく地面を蹴った。
    「やらせないでござる」
     仲間の危険を感じ、木菟が跳んで敵の攻撃の軌道に割り込む。多少強引ではあるけれど、必殺の一撃を何とか身体で受け止めた。少しでも長く、一人でも多く、生き残って戦えるように。木菟はその思いを貫き通すように、仲間を守る。
    「ふむ。その覚悟、見事なり」
     木菟の身体から薙刀を引き抜き、北征入道が灼滅者達を見回した。
    「お褒めに預かり光栄でござる。まだまだ、大丈夫でござるよ!!」
     木菟は叫び、ありったけの回復力で自らの傷を癒す。
     身体のあちこちから、悲鳴が聞こえているようだ。だが、まだ戦えるし、まだ仲間を守る事だってできる。
     それに、敵の体力だって無尽蔵ではない。あともう一息だ。
     灼滅者達は改めて北征入道と向かい合った。


    「私たちは負けない。絶対に勝つよ。がんばろう!」
     仲間を鼓舞する富士川・見桜(響き渡る声・d31550)の声が聞こえてくる。
     最初に比べ、武者アンデッドの数は随分減った。それでも、まだ戦いは続いている。ここで戦線を維持し、仲間の助けになろうと。その声は、戦い続ける仲間達の励みになった。
    「回復を行います。怪我をされた方はこちらへ」
     ヴァレニア・ライラック(主なき従者・d36580)も、必死に仲間の傷を癒していた。サポートする陣営も崩れないことが肝心だと思うから。気を引き締め、回復の手が必要な仲間を探す。
    「大丈夫かい? ほら、回復するよ」
     できるだけ受け流すよう頑張ってきたが、それでもダメージは積もっていく。長姫・麗羽(シャドウハンター・d02536)は、自分の傷を癒し、周囲の仲間の傷も順番に癒していた。
    「ここで足止めしましょう」
    「そうね。ぜーったいに行かせないんだから!」
     月姫・舞(炊事場の主・d20689)とアビゲイル・ダヴェンポート(スカイクリスタルラーヴァ・d23703)も、アンデッド達が入道の支援に向かうことの無いよう、必死に守っている。その頭上から、敵めがけてマジックミサイルが飛んできた。
    「お空からのマジックミサイルたくさん受け取ってやぁ。お代わりもいっぱいあるんよぉ」
     見上げると、雲・丹(てくてくにーどるうにのあし・d27195)がウニの姿で攻撃を繰り返している。仲間達も最後の力を振り絞り、アンデッドを押さえ込んでいた。
    「空色は久しぶり」
    「はあ、あ。お久しぶりだねえ」
     肩で息をしながら仲間を回復して回る紺子を見つけ、木嶋・キィン(あざみと砂獣・d04461)が声をかける。
    「まだまだいけるよな」
     そう言って、親指を上げてみた。
     キィンだって楽ではない。ずっと攻撃し続けているのだ。だが、倒れたくは無い。
     開けた道の先に北征入道を見た。胸を張り、堂々と灼滅者を待ち構える姿は大きかった。彼がどうなるのか。知りたければ、この戦場で最後まで立っている事だ。
    「お、応とも。頑張ろうねー!」
     条件反射のようにこぶしを握り締めた紺子を見て、周囲の仲間達も気合を入れなおす。
    「ボクも回復するよ! 最後まで頑張ろう♪」
    「私も……、回復支援をするね……」
     淡白・紗雪(六華の護り手・d04167)とシャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)は傷を負った仲間を見つけては、回復のサイキックを飛ばした。
    「おのれ、そこをどけ」
     残った武者アンデッドが入道へと続く道へと向かってくる。
    「武者アンデッド。北海道で隠遁していれば、まだ長生きできた筈。主君のため、敢えて死地に赴きますか?」
     あるいは、骨の髄に染み付いた、戦場に生きる武士としての本質からは逃れられないのか?
     問いかけるように戒道・蔵乃祐(プラクシス・d06549)はアンデッド達を見た。答えは無い。もしかしたら、陣形を崩され、散り散りに撃破されてなお、戦い続けることが答えなのかもしれないが。
     アンデッドを、蔵乃祐は迎え撃った。
     雪乃城・菖蒲(個人事情による登録抹消決定・d11444)に月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)、白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)と、皆も一斉に攻撃を飛ばす。
    「年長さんですからねぇ、下手は打てませんからやり遂げますよ♪」
    「さあ、今までの因縁に決着をつける時です!」
     菖蒲の言葉を合図にジュンが頷いた。周囲からも、アンデッドを討ち取ろうと、次々に攻撃が放たれた。


    「灼滅者よ。感じておろう。おそらくは、最後の撃ち合いである」
     北征入道がゆっくりと薙刀を握る手に力を込めた。
     はっきりと緊張が走る。
     入道配下の武者アンデッドは、サポートに来てくれた仲間が追い詰めている。先程から、聞こえてくる戦いの音が極端に減っているのだ。おそらく、もうすぐ彼らの戦いは終わるだろう。
     入道に援軍は来ない。
     そして、北征入道の灼滅こそが灼滅者の目的だ。御子の件は、救助する対象ではなかった。
     それでは、心置きなく最後の戦いに入ると。
     その場に居る誰もが瞬間理解した。
    「では、行くぞ!!」
     入道が薙刀を手で繰り回す。体力をごっそり削り取られた身体で、それでも北征入道は地面を蹴り跳んだ。
     痛烈な一撃は、リーファが受け止める。
    「では、最後にしましょう」
     よろめきながらも、縛霊撃を放って反撃した。
    「ぬぅッ」
     入道は攻撃をかわそうと身体を捻るが、回避することはできないようだ。
     それは、宗悟とセレスを筆頭に、粘り強く足止めを繰り返してきた成果だった。
    「これでお仕舞いだ! 一気に行こう」
     悠は仲間に声をかけ、先導するように螺穿槍を叩き込む。
    「王とつくダークネスは貴方達だけ、だわ。どうしてかしら」
     もう回復の必要は無い。静佳も攻撃に加わった。だが、問答の必要も無いと思ったのだろうか。入道からの返事は無かった。
    「拙者も、いくでござる」
     木菟は、狙い済ました跳び蹴りを炸裂させる。入道はうめき声を噛み殺し、その場で立ち尽くした。もはや、逃げる力も無いのだろう。
    「これで幕だね」
     宗悟が急所を斬りつけた。だが、入道は倒れない。
     力を振り絞り、薙刀を地面に打ち付け、寄りかかるようにしてその場に立った。
    「その姿は、見事と言うんだろうな、だが」
     なお崩れない入道に、橘花はレイザースラストを叩き付ける。最後まで、油断することは無い。
    「そうだ。最後まで、油断はしない」
     セレスも続けて槍を手に、螺穿槍を放った。
    「死力を尽くして戦った仲です。遺言があるなら聞きますが、何かありますか?」
     心太が異形化した片腕を構える。
     確実に、これが最後の一撃になるだろう。
     北征入道は、灼滅者を待ち構えていた時と同じく、堂々と胸を張った。
    「戦い、そして敗れたのだ。それで良い」
     頷き、心太が渾身の鬼神変を放つ。
     確実に相手を滅ぼしたという手ごたえを感じた。
    「見事。そなた達灼滅者は、真に強敵である」
     入道の身体が、消えていく。
    「灼滅者こそが、ダークネスに代わる支配者となるのかもしれん」
     それが、北征入道の最後の言葉だった。
     最後まで片膝も付かず、彼は滅んだ。
    「終わったんだな」
     悠がほっと、息を吐き出した。
    「最後の、言葉。どう言う、意味かしら……」
     今はもう何も無い、北征入道が立って居た場所を見詰め、静佳が呟く。
     だが、今は誰も、答えることはできなかった。
     遠くでサポートの仲間達の声がする。
     ともあれ、灼滅者達は見事北征入道を灼滅したのだった。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月8日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 19/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ