復讐代行人

    ●都内某所
     非業な死を遂げた者達に代わってターゲットに復讐する代行人の存在が実しやかに噂された事がある。
     その代償は、依頼主が最も大切にしているモノ。
     それは今まで蓄えた金であったり、自らの命であったり、人それぞれ。
     人によって、大切なものは異なるが、その価値は同等。
     依頼が成立すれば、確実に相手の命を奪い、その死体を無残に曝す。
     それが復讐代行人。
     そんな噂から生まれたのが、今回の都市伝説である。

    「……復讐なんて虚しいだけだ」
     やけにクールな表情を浮かべ、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明する。

     今回の依頼は復讐代行人を名乗る都市伝説。
     都市伝説は薄汚れた包帯を全身に撒いており、漆黒のコートと、巨大な斧がトレードマーク。
     ターゲットを見つけると、確実にその首を刎ねて曝すのが、今までのケース。
     おそらく、お前達が行く頃には、不良達が襲われている頃だろう。
     不良達は、とある生徒をいじめて死に追いやった最低の奴ら。
     しかも、罪悪感の欠片もなく、本来ならば救う価値すらない連中だ。
     だが、都市伝説に襲われたとあっては、見過ごす訳にはいかない。
     不本意かも知れないが、奴らの命を救ってくれ。
     ちなみに不良達は物凄く自己中心的な性格で、他人の不幸が大好きな奴ばかり。
     その癖、自分達の身に不幸が降りかかると、『何にも悪い事をしてねえのに、なんでこんな目に遭わなきゃならねーんだよ』と被害者ぶるからタチが悪い。
     どちらにしても、関わるだけイラッとするから、早めに避難させてしまった方がいいだろう。
     とにかく、都市伝説から不良達を守ればいい。
     ただ、それだけだ。


    参加者
    石弓・矧(狂刃・d00299)
    福沢・チユキ(黄金の旋律・d00303)
    赤倉・明(月花繚乱・d01101)
    冬月・皇(破邪拳正・d02563)
    木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)
    天羽・梗鼓(颯爽神風・d05450)
    名取・逝司(悪意の人・d07251)
    月見里・響(瞬殺支配の女王・d09227)

    ■リプレイ

    ●歪んだ正義
    「都市伝説から不良達を守るならば、私が先に彼らを処理するのも一手ですね。まあ、折角の獲物です。目論見が外れて逃げられても面白くありませんし、余計な手出しはしないでおきましょう」
     都市伝説が確認された工場跡に向かいながら、名取・逝司(悪意の人・d07251)が含みのある笑みを浮かべる。
     その途端、『うわあああああ!』と野太い悲鳴が聞こえ、ゴミ箱が倒れる音が辺りに響いた。
     この様子では、ここからそれほど遠くはない場所に……、不良達がいる。
     もちろん、このまま助けに行かなければ、不良達はじわりじわりと痛めつけられ、己の罪を涙ながらに悔いて命を落とす事だろう。
     例え、誰かに強制されて罪を悔いていたとしても、亡くなった者と同じ……いや、それ以上の苦しみを味わったのだから、遺族としても救われた気持ちになるのかも知れない。
    「気持ちとしては、都市伝説と一緒に、不良達を斬り刻んでやりたいところですが……そうも言ってられませんね」
     自らの目的を果たすべく、赤倉・明(月花繚乱・d01101)が全速力で走りだす。
     不良達には色々と思うところがあるのだが、依頼となれば最善を尽くすのみ。
    「まあ、気にいらねぇ事は気にいらねぇが、それと都市伝説の出現は別だ。先ずはこの都市伝説をぶっ飛ばしてから、ゆっくり料理してやるぜ……!」
     今にも不良を襲おうとしている都市伝説を見つけ、冬月・皇(破邪拳正・d02563)が指の関節を鳴らす。
     それに気づいた不良達が『な、なあ、お前ら、助けに来てくれたんだろ! コイツ、頭のネジが緩んじまっているらしく、罪を償えとか言って、いきなり襲ってきたんだよっ! もう訳が分からねえよ。俺達は何もしていねえのに!』と言って、すがりついてきた。
    「被害者面をする不良なんか一発殴ってやりたいけど、まぁ……命は救わなくちゃね。ここで見捨てたら、こいつらと変わらない気がするし……」
     振り上げた拳をゆっくり下ろし、月見里・響(瞬殺支配の女王・d09227)が自分自身に言い聞かせる。
     本音を言えば、このまま殴り飛ばしたかったが、それでは何ひとつ解決した事にはならない。
     それどころか、自ら負の連鎖に組み込まれてしまい、誰かに恨まれてしまう可能性だってあるのだから……。
    「あなた達に対して、何も思う事はないわ。むしろ、あなた達の思考を割くこと自体、時間の金の無駄ね。屑のような人生を送ろうと、改心して自らの行いを悔いようと興味はないわ。……邪魔者は早々に消えなさい」
     不良達に対して冷たい視線を送り、福沢・チユキ(黄金の旋律・d00303)が吐き捨てるようにして呟いた。
     それを見た都市伝説が問う。
    「何故、助ける。そいつらは、罰を受けるだけの、罪を犯してきた。ならば裁かれて当然。死んで当然。遺族達の悲しみ……苦しみを考えれば、復讐されても当然の存在。それなのに、なぜ邪魔をするのだ」
     ……と。
    「……復讐ですか。気持ちはわかりますが、だからといってそれを許すわけにはいきませんね。それが、どんな輩に行うであろうとも、ね」
     柔和な表情を浮かべながら、石弓・矧(狂刃・d00299)がスレイヤーカードを構えた。
     不良達も矧の言葉に同調するようにして、『そうだ、殺っちまえ!』と叫んで煽る。
    「ひと一人殺したも同然なのに……、復讐されても文句は言えないはずなのに……。どうして、そんな事が言えるのかな」
     激しい怒りを爆発寸前にまで膨らませ、天羽・梗鼓(颯爽神風・d05450)が自らの拳を押さえた。
     復讐を依頼した者達は、大切な子供を死に追いやられ、眠る事さえ出来ぬほど苦しんでいたに違いない。
     にも関わらず、不良達はその事を悔いているどころか、すっかり忘れている様子で、のうのうと生きている。
     故に、復讐代行人の……、都市伝説の言っている事の方が正しいような錯覚を受けた。
    「あんた達はさっさと逃げなさい! はっきり言って邪魔よ! このまま、ここにいたら、あんた達……確実に皆殺しよ!」
     こめかみを激しくピクつかせ、木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)が不良達をジロリと睨む。
     だが、不良達は『それは有り得ないっしょ。だって、あの化け物は、アンタ達が倒すんだし』と言って、全く危機感がない様子でヘラヘラと笑うのだった。

    ●不良達
    「いい加減にしてください。貴方達は狙われています。今すぐ逃げなさい」
     必死に感情を押さえつつ、明が鏖殺領域を展開する。
     霊犬も明と連携を取って、不良達が守っているが、当人達は全くの他人事。
    「つーか、俺達。人に恨まれるような事してねーし」
     一片の悪意なく、返された答え。
     おそらく、この場に遺族がいたら、彼らを殴り殺してしまうレベルの言葉。
    「逃げろって言ってんだよ! 死にてぇのか!! それに、悪い事をしたから、テメェらに返ってきているんだろうが! お前らに罪悪感なんてないんだろうけど、よく覚えとけ!」
     五星結界符で都市伝説を足止めしつつ、梗鼓がムッとした表情を浮かべる。
     それでも、不良達は『何、マジになってんだよ。そんな事よりさぁ、早くアイツを倒しちまってくれよぉ』と小馬鹿にした様子で笑い飛ばす。
     そのため、一瞬『都市伝説に殺されても仕方がねえだろ、こいつらに限っては……』と思ってしまったが、グッと我慢。
     霊犬のきょしも不良達に対して唸り声を上げているが、梗鼓がアイコンタクトに気付いて、何とかその場に留まっている。
    「何度も同じことを言わせるな! 俺達が食い止めてる間にさっさと逃げろ。……見物しようなんて思うな。斧が飛んできて殺されても、文句は言えねぇんだぜ」
     警告混じりに呟きながら、皇が不良達をジロリと睨む。
     不良達は皇達が助けに来た事で妙に落ち着いており、自分達が安全圏にいると確信しているようだった。
     最悪の場合、皇達を見捨てて、自分達は逃げるつもりでいるのだろう。
     どちらにしても、腹立たしい相手である事は間違いない。
    「いっそ、腕や一本や、二本、切り落とされちゃった方が本人のためとか思うけど……、あっちは首を刎ねる気満々なのよね」
     複雑な気持ちになりながら、御凛が都市伝説に視線を送る。
     ……都市伝説は斧の素振りをしていた。
     首を刎ねるのに最適な角度、力加減、勢いなどを計算しつつ……。
    「今のうちに、とっとと逃げてくれませんか? 死にたくないでしょう? それに巻き添えを食らいたくないでしょう? うっかり殺してしまうかもしれませんよ?」
     一瞬にして柔和な表情が消え去り、矧が口元を釣り上げて笑う。
     その気迫に圧倒されてたじろぐ不良達。
     何か口にしようとしても、言葉にならない。
     ……本能的な恐怖。
    「これが最後の警告です。早く逃げてください。もう二度と言いません。万が一、怪我をしても、自己責任ですからね」
     ビハインドの馬鹿犬に不良達を守らせ、逝司がキッパリと言い放つ。
     その途端、都市伝説が巨大な斧を握りしめ、不良達を狙って突っ込んできた。
    「一文無しに用はないの。――退場していただけるかしら?」
     都市伝説の行く手を阻み、チユキがレーヴァテインを叩き込む。
     だが、都市伝説も巨大な斧で反撃し、地響きしそうな大声で『断る!』と叫ぶ。
     都市伝説にとって、復讐代行は存在理由。
     故に、ここで退く事は死ぬ事と同じ。
     ならば、自らの意志を最後まで貫き通す事まで、という結論に至ったのだろう。
     先程よりも攻撃に力が入っており、その勢いも増している。
    「あいつらの命の対価はなんだ?」
     解体ナイフを逆手で持ちながら、響が都市伝説に問いかけた。
    「あいつらが一人死ぬたび、遺族の体に絡まった重い鎖が外れていく。その鎖は生きていく上で、本来不要なモノ。本来ならば、あいつらが背負わねばならない罪の鎖……」
     勢いよく巨大な斧を振り回し、都市伝説が自分なりの言葉で答えを返す。
     都市伝説の狙いは、不良達。
     それだけは間違いないようだった。

    ●都市伝説
    「例え、どんな理由があろうとも、誰かを殺していい理由にはなりません」
     都市伝説の前に立ち塞がり、明が黒死斬で攻撃をする。
     普通に考えれば、都市伝説の言っている事の方が正しいのかも知れない。
     やったもん勝ち、泣き寝入り、などの言葉が脳裏を過る。
     その迷いを見透かしたようにして、都市伝説の攻撃が続く。
     一撃、二撃、三撃と……。
    「悪いけど……、殺らせない。誰一人として、ね」
     都市伝説にジグザグラッシュを放ち、響が不良達に視線を送る。
     いつの間にか、不良達は逃げていた。
     もしかすると、分が悪いと判断し、自分達の身に危険が及ぶ前に、逃げたのかも知れない。
    「どうせなら、盾代わりにでもしておけば良かったですね」
     少し残念そうにしながら、逝司がボソリと呟いた。
     それだけの罪を犯しているのだから、文句は言わせない。
     ……と言うよりも、文句を言う隙すら与えるつもりはないのだが……。
     次の瞬間、都市伝説が巨大な斧を振り上げ、逝司達に襲いかかってきた。
     すべての力を巨大な斧に注ぎ込むようにして……。
    「その歪んだ想いごと消えろ!」
     都市伝説を迎え撃つようにして、矧がバスタービームを撃ち込んだ。
     その一撃を食らって都市伝説が巨大な斧を落とし、断末魔を上げて跡形もなく消滅した。
    「……終わったね。あっちの世界では、今度生まれてくるときは、幸せになってほしいな……。もう復讐代行人が現れませんように……」
     いじめで亡くなった生徒の冥福を祈り、梗鼓がゆっくりと両手を合わせる。
     生徒の両親には、酷な事をしたかも知れない。
     本来ならば復讐代行人によって、命を奪われていたはずの不良達が、のうのうと生きているのだから……。
    「これで少しでも懲りてくれればいいんだけど、きっと全く反省してないんだろうなぁ。今からでも追いかけて問答無用で1発ぶん殴ってきてもいいかしらね……」
     沸々と怒りが込み上げていき、御凛が不良達の消えた方向を睨む。
     ……まだ間に合うかも知れない。
     助走をつけてボコンとやっても、許される気がする。
    「殺しはしねぇが、二度とあんな事ができねぇよう、その心に刻み込んでおかねぇとな」
     指の関節を鳴らしながら、皇がニヤリと笑う。
     一応、近くの公園に避難しておけとは言っておいたのだが、明らかに逆方向に逃げて行ったので、その分も締めておかねば気が済まない。
    「願わくば、あの屑たちが他人の痛みに着付ける人間にならん事を。……その結果、自ら死を選んだとしても、自業自得だとは思うけれど……」
     祈るような表情を浮かべ、チユキがサッと背を向ける。
     そして、チユキ達はその場を後にした。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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