こいぬ(3メートル)とあそぼう!

    作者:ライ麦

    「わんっわんっ」
     昼下がりの公園で。一匹のゴールデンレトリバーの子犬が、尻尾を振りながら男児に向かって駆けてきた。そのままくぅーんくぅーんと甘えたように鳴きながら男児の周りをぐるぐる回っている。どうやら遊んで欲しいらしい。かなり人懐っこい性格のようだ。大きな犬だったら男児もちょっと怖かったかもしれないが、そこはまだ子犬のこと。ぬいぐるみのようで愛らしく、男児の方も「わんわんだ! わんわん!」と目を輝かせている。
    「あらあら、うちの子がごめんなさいね~」
     そこに、飼い主らしき婦人が歩いてきて子犬を抱き上げた。
    「この子、まだまだ子供で……遊びたい盛りなのよ~」
    「こども? こどもなの? てことは、もっとおおきくなる?」
    「ええ、そうよ」
    「どのくらいおっきくなるの? ぼくよりおおきくなる?」
    「そうねぇ、ぼくより大きくなるかもしれないわねぇ」
    「そっか~……ぼくよりおおきくなるんだぁ」
     男児はその光景を想像した。自分よりはるかにでかい子犬が無邪気にじゃれてくる光景を。そして親や友達に話した。いつしかその話が噂となって一人歩きしだした。そして都市伝説となった。

    「幼いわんこの都市伝説が遊んで欲しそうだよー!」
     ガル・フェンリル(ダブル尻尾の狼わんこ・d24565)が尻尾をぶんぶん振りながら教室に飛び込んできた。幼いわんこ。そのワードに数名の灼滅者がガタっと音を立てて立ち上がった。
    「幼いわんこ!?」
    「子犬!?」
    「犬種は!?」
    「大きさは!?」
     食いつき気味に訊いてくる灼滅者達に、ガルは元気よく答える。
    「ゴールデンレトリバー! 大きさは、3メートルぐらい!」
     ……それは子犬と呼んでいいサイズなのか?
    「……ええ、確かに子犬というには少々……いや、かなり……大きいサイズなんですが、でも外見は子犬なんです。子犬がそのまま大きくなったような感じです」
     次いで桜田・美葉(桜花のエクスブレイン・dn0148)が説明を加えながら教室に入ってくる。
    「ガルさんが、『幼いわんこの都市伝説が遊んで欲しそうな気がするっ!』と仰っていたもので、念のために調べてみたら本当にそんな都市伝説が実体化していたんです。ガルさんの予想が的中したようですね」
     噂の発端は、とある公園で、3歳くらいの男児が遊びたい盛りのゴールデンレトリバーの子犬に出会ったこと。その飼い主から「この子は君より大きくなる(かもしれない)」と聞かされた男児は、子犬のままでかくなった姿を想像して周囲に話したらしい。それが噂になり、やがて都市伝説として実体化した。
    「元々、遊びたい盛りの子犬を見たことがきっかけで生まれた噂であり、都市伝説ですから、都市伝説もやっぱり遊びたいみたいです。ただ遊んで欲しいだけで、人に危害を加えるつもりはない、んですが……そうはいっても3メートルの巨体にじゃれつかれたら、一般人はただじゃすまないですよね」
     だから、その前にこの都市伝説をなんとかして欲しいと美葉は帽子を押さえて深々と頭を下げた。
     なんとかするって、具体的にどうすればいいのかと問われれば、美葉は簡単なことです、と面を上げる。
    「都市伝説は遊んで欲しいんですから、こちらがいっぱい遊んであげればいいんですよ。いっぱい遊んであげれば、満足しておのずから消えてくれると思います」
     遊ぶ方法もなんでも良い。駆けっこでもいいし、ボール遊びでもいいし(3メートルの巨体に見合う玉を用意するのが大変かもしれないが)、宝探し遊びでも、なんでも。思い思いの遊び方で遊んであげれば良い。
    「都市伝説の出現条件は、件の公園で『ワンちゃん遊びましょ』と声をかけることです。そうすれば、尻尾を振りながら駆け寄ってきます」
     3メートルの子犬が。
    「件の公園は、ドッグランもある割と広めの公園で、子供の遊び場にも、また近所の人の犬の散歩コースにもなっています。基本的に、公園には誰かしらいると思って間違いないでしょう。都市伝説を呼び出す前に、人払いは確実にしておいた方がいいでしょうね」
     なお、この都市伝説だが、一応戦って倒す事もできなくはない。ないが。
    「こちらから仕掛けない限り戦闘になることはありませんし、万一戦闘になった場合でも手加減レベルの攻撃しかしてきませんし、はっきり言って弱いです。そんな相手を一方的に攻撃するのはやっぱり……良心が痛みますよね。ここは心ゆくまで遊んであげて、満足してもらって消滅してもらうのが一番いいかなって」
     こちらも子犬との遊びをめいっぱい楽しむつもりで行けばいいだろう。
    「おっきな子犬さん、一緒に遊んだらとっても楽しそう! わんわんおー!」
     最後にガルが楽しげに尻尾を振りながら、一声吼えたのだった。


    参加者
    ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)
    音鳴・昴(ダウンビート・d03592)
    天城・優希那(の鬼神変は肉球ぱんち・d07243)
    黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)
    壱越・双調(倭建命・d14063)
    ガル・フェンリル(ダブル尻尾の狼わんこ・d24565)
    八千草・保(春光謳花・d26173)
    天王寺・勇狗(最も身近なモノ・d33350)

    ■リプレイ


    「予想的中! 大きい猫も居るなら、大きいわんこも居ると思ってたよ! クラスメイトの保も来てくれたし、一緒に遊んで楽しむよ!」
     公園の真ん中で、ガル・フェンリル(ダブル尻尾の狼わんこ・d24565)(人間体)が嬉しそうにピースする。
    「ガル、すっごいねーっ! あたいも楽しみだーっ!」
     ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)も殺界形成で一般人を遠ざけつつ、にぱーっと八重歯を見せて笑う。
    「出入り口にも、『本日閉鎖』の張り紙しておきましたえ。こない気持ちええ日和やし、たくさん遊ぼうなぁ」
     八千草・保(春光謳花・d26173)も穏やかな笑みを浮かべながら、出入り口の方から歩いてきた。殺界形成に加え、彼が用意してくれた改装工事中というそれらしい理由を書いた張り紙や看板があれば、一般人をほぼ確実にシャットアウトできるだろう。
    「保、準備いいねー! これでいっぱい遊べるね!」
     周囲の一般人が居なくなったことを確認し、赤毛の狼の姿をとったガルは、ブンブン二本の尻尾を振る。人払いも完了し、後は子犬と遊ぶだけ!
    「わんわんおー! えへへ、おっきいこいぬちゃんと遊ぶの楽しみなのです~♪ 張り切って遊ぶのです!」
     天城・優希那(の鬼神変は肉球ぱんち・d07243)がぱぁっと笑みを浮かべて、軽く手を叩く。
    「うんうん。大きなわんこ、とっても遊びがいがある相手だねー。都市伝説っていうのが惜しいよねー」
     優希那の言葉に、傍らに居たダルメシアン……もとい、天王寺・勇狗(最も身近なモノ・d33350)も頷く。人造灼滅者である彼は基本犬の姿をとっているらしい。
    「3メートルかぁ、クマとかネコ科の猛獣ぐらいの大きさって感じかなー」
     ふむふむと都市伝説の大きさについて想像を巡らせている勇狗に、壱越・双調(倭建命・d14063)は
    「私の一番身近にいる犬としては空凜さんの絆がいますが、3メートルの犬さんは見たことないですね」
     と相槌を打つ。絆は彼の大切なパートナー、黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)の霊犬だ。絆も子犬と遊べるのが楽しみなのか、ふわふわの尻尾を盛んに振っている。
    「遊ぶ相手にしては少々大きすぎる気もしますが、結構つらい戦闘も経験して来たので、大丈夫ですよね」
     空凛も、絆を撫でながら微笑む。
    「ええ、空凜さんも随分張り切っているようで。遊び道具、少々用意しすぎじゃないですか?」
     空凜が用意した荷物を持ち、双調は苦笑する。中には骨型のおもちゃやボール、フリスビー等々、たくさんの玩具が入っていた。
    「双調さん、荷物持ちさせてしまって申しわけありません。遊び道具一杯用意しようとしたら大荷物になってしまって……」
     空凜が微かに頬を染める。絆に負けず劣らず、彼女もすごく楽しみにしているようだ。
    「まあ、めったにない機会である事は確かですね」
     そんな空凜に、双調は優しく微笑みかける。愛しい人のためなら、荷物持ちだって苦ではない。
    「……つか、普通に戦うのとそう変わんねーくらい疲れそうな気がすんのは気のせいか? これ」
     双調の荷物を見やり、音鳴・昴(ダウンビート・d03592)はぼそりと呟いた。3メートルもある相手と遊ぶのは、戦闘とは違う意味で疲れそうだ。それでも、めいっぱい遊ばせて消えてもらう方針に異論はない。と、いうことで。
    「さて。みんな、用意はいいかな?」
     ミカエラがこほんとひとつ咳払いをして、「せぇのー」と音頭をとる。
    「「「ワンちゃん、遊びましょーっ!!」」」
     そう、皆で一斉に声をかければ。
    「わぉ~ん!」
     ゴールデンレトリバーの子犬(3メートル)が、どこからともなく尻尾をぶんぶん振りながら駆け寄ってきた。


    「わんわんおー!!」
     ガルも挨拶するように吼えながら、ダブル尻尾をブンブン振って子犬に駆け寄る。本当に大きいなー、と感心しながら、その周りをグルグルと走り回った。
    「わぁ……本当に3メートルぐらいありますね」
     双調が目を丸くし、
    「うわーうわー、ホントに大っきいねーっ♪ でも、ふあふあしてる!」
     ミカエラも目を輝かせて子犬に飛びつく。よーしよしよーしと撫でてやったら、子犬も嬉しそうに「わんっ♪」と鳴いて飛びつき返してきた。
    「……あー、そろそろどいてくれるかなー?」
     押し倒される形になり、ミカエラが苦笑する。わふ? と首を傾げつつ、子犬は大人しくどいてくれた。
    「わんこさん、お名前あるんかなぁ。遊びたい盛りやろうなぁ……」
     保が呟きながら、そっと子犬の頭に手を伸ばす。身を屈めてくんくんと、手の匂いを嗅いできた子犬に微笑みつつ、喉や頭を撫でてやった。優希那もすかさず、白いポメラニアンの子犬に変身!
    「ぷきゅ~♪」
     精一杯背を伸ばして鼻先を突き出してみると、子犬もぴとっと鼻をくっつけてきた。優希那はそのまま、他の仲間達や、霊犬達にもそれぞれ鼻をくっつけてご挨拶。
     一方で、呼び出されたものの、戦闘じゃないらしいことにましろはきょとんと首を傾げている。
    「今日はあいつと遊べばいいらしい」
     昴は気だるげに子犬を指差して言う。それを聞いたましろは大喜びで尻尾を振りながら、子犬に突撃していった。
    「わふぅーっ!! 一緒に遊ぼー!! まずは、かけっこだよー!!」
     勇狗が早速駆け出す。
    「よーし! ワンちゃんこっちだよー!! 保もー!」
     ガルも自慢のもふもふ尻尾を振って子犬を誘導しながら走り出した。
    「わんっ!」
     子犬が楽しそうにその後を追って駆けて行く。
    「ほな、参りましょうか」
     微笑んで保も一緒に走り出し、
    「絆、私達も行きますよ!」
     念のためにサウンドシャッターを展開させた空凛も、すぐさま駆け出した絆と一緒に全力で走る。
    「二人とも張り切ってるせいか凄く脚が早いですよ!?」
     双調が慌ててその後を追いかけていった。似たもの夫婦の二人だが、どちらかというと空凜の方が双調を引っ張って先んじる事が多い様子。張り切りすぎて転びかけた空凜を、追いついた双調が支えた。一方で。
    「ぷきゅ~……」
     犬変身したまま、皆と一緒にかけっこに興じていた優希那はすぐにバテて、ぱたりと芝生の上に倒れこむ。元々運動は苦手なのだ。中々起き上がれないでじたばたする彼女を見かねて、基本、犬同士にまかせてサボr……見守る方向だった昴も
    「あ~……大丈夫か?」
     とつい手を差し伸べてしまった。ぷきゅきゅ、とお礼を言うように昴を見上げて一声鳴いた後、優希那は子犬の方に目を移して、
    「きゅ~……」
     切なそうな鳴き声を上げた。気づいたら皆公園の端の方まで行ってしまっていた。皆速い。その中にはしゃぐように子犬と一緒に走りまわっている真っ白なボーダーコリーの姿を見つけて、昴は肩をすくめた。
    「元気だなぁ、ましろ……」
     それでもよちよちとまた走り出した優希那の元に、子犬と仲間達が駆けて戻ってくる。さすが3メートル、歩幅が大きい分駆けるのも速いらしい。
    「さすがだねー! あたいも、本気出しちゃおうかなっ!」
     少しだけ息を切らしつつ、ミカエラも赤茶の毛並みに赤灰の尾と耳を持つ狼に変身!
    「それじゃ、ボクも」
     狼に戻ったミカエラを見て、保も犬変身。真っ白い毛並みの、痩せがちの中型犬の姿へ。さっき割と早く公園の端まで着いちゃったことを鑑み、
    (「うーん、ここはちょっと窮屈なんかな……? ほな」)
     と、保はジグザグに走り出す。ミカエラも狼ながら、小型犬っぽいふざけ方で跳ね回った。
    「わふっ」
     子犬が楽しそうにその後を追う。他の仲間(昴除く)も一緒になって走り出す。追いかけたり、追いかけられたり。はしゃぎすぎて、ミカエラは自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回ったりもしていた。
    「わふぅーっ!」
     勇狗も犬のように(実際見た目犬だが)、全身で遊び回る。かけっこの勝敗などつけられない。あえて言えば、楽しんだ全員が勝者、だろうか。


     皆でいっぱい走り回って、気がついたら、子犬がハァハァと舌を出して喘いでいた。
    「ちょっと疲れちゃったかなー?」
     勇狗が子犬の顔を覗きこむ。
    「運動したら、喉渇きますもんなぁ……皆のぶんも、飲み物、ありますえ」
     犬変身を解除した保が、大きな水筒から水をお皿に注ぎながら言う。
    「ビスケットも一応あるしな……休憩にすっか」
     昴も木陰に腰を降ろし……
    「ビスケット!? くれるの!?」
     キラキラと金色の瞳を輝かせたミカエラに迫られていた。
    「あ゛ー……あくまで犬用だから」
     手を振りつつ、狼にはあげてもいいんだろうかとふと考える。ミカエラも正確に言えばニホンオオカミだが……。まぁ、いいか。考えるのめんどくさい。
    「あ、わんちゃん用のボーロちゃんもありますが、私達用にクッキーも焼いてきたのです~、よろしければどうぞ、ですよ~」
     人間の姿に戻った優希那が、紅茶と一緒にクッキーを差し出す。
    「クッキーあるの? やったー!!」
     ミカエラも喜んで人間の姿をとった。
    「ありがとうございます、優希那さん。双調さん、頂きましょうか。絆も!」
    「ええ。美味しいですね」
     空凛に促され、双調もクッキーを口に運ぶ。そうして、尻尾を振りながら水を飲んだり、犬用ビスケットや犬用ボーロを食べている子犬や霊犬達を目を細めて見守った。
    「あ、折角なのでもふもふしてもいいですかねぇ?」
     優希那がそっと子犬に手を伸ばす。子犬はいいよ、というように、ころんとお腹を見せて転がった。きゅんとしながら、そのお腹をもふもふと撫でたり、肉球をぷにぷにしたり。
    「ふかふかなのです♪」
     優希那が微笑む。ガルも、
    「あ、私もー!」
     とすかさずそのお腹に飛び込んでもふもふ。遊んでくれていると思ったのか、子犬もガルにじゃれついた。


    「そういえば、ぬいぐるみって好きですかねぇ?」
     休憩の最中、優希那がポメぐるみを渡そうとする。
    「わふっ!」
     子犬は喜んで飛びつき、ポメぐるみをガジガジしだした。好きらしい。玩具的な意味で。
    「……か、齧られちゃってます~……」
     ちょっと涙目になる優希那。
    「よしよし、大きなビーチボール持ってきたから、これで遊ぼう~。そぉれっ!」
     代わりに、とミカエラがビーチボールを投げる。すると子犬の関心はそっちに移った。わんっ、と一声吼えて、走って追いかけていく。休憩してすっかり元気を取り戻したらしい。
    「あたいも負けないぞーっ!」
     ミカエラも一緒にダッシュして、
    「キャッチ! あはははは!」
     一足先にキャッチして、屈託なく笑う。
    「わうー! 私もいくよー!」
     ガルも、持ってきた『火の玉ちゃん』印のバランスボールを、二本の尻尾を使って器用に投げる。元々、この子犬と同様、遊びたい思いで一杯だった都市伝説由来のボールだ。よく跳ねるそれを、ガルは子犬と一緒に追いかけた。
    「玩具はまだまだたくさんあるんですよ。そーれっ!」
     空凛はここぞとばかりに、持参した玩具をどんどん投げていく。絆は骨型のおもちゃを、小回りが効く分子犬より先にゲット。そして追いついてきた子犬の下敷きに。それでもぷるぷると頭を振りながら、平気な顔をして子犬の下から這い出してきた。
     風を切って飛ぶフリスビーは、子犬と一緒に追いかけつつもましろが高く飛び上がってハイパーキャッチ! すごいですね、と褒めてくれた空凛に、盛んに尻尾を振って応えた。なお、再び犬変身した優希那も共に玩具を追っていたのだが、早々にバテてリタイアしていたらしい。
     何にしても、子犬も霊犬達も楽しそうに遊んでいる。微笑んでその様子を眺めていた双調が、つと傍観に徹していた昴にボールを手渡した。
    「折角ですから、昴さんもどうですか? 遊んであげたら喜ぶと思いますよ」
    「……めんどくさ」
     ぼそりと言いつつ、つい受け取ってしまって思案する。相手が3mとなるとどれだけ飛ばせばいいんだか……。とりあえず『風のRESONANCE』で思いっきり蹴っ飛ばしてみた。エアシューズの機動力乗せる勢いで。ひゅーんとボールが勢いよく飛んでいく。子犬も暫し、目を丸くして飛んでいくボールを眺め、それからばーっと駆け出した。それから幾許か。得意げにそのボールを咥えて戻ってくる。ほめて! ほめて! というように尻尾を振りながら。
    「わーったわーった、すごいすごい」
     ぐいぐいと迫ってくる子犬に、昴は若干迷惑そうに顔をしかめながら答えた。
    「ほな、次はフリスビーで!」
     保は上空高くにフリスビーを投げる。今度は駆けるのではなく、ジャンプして取ってもらおうかと。
    「わっふー!」
     巨体で体が重い分、ジャンプはあまり得意ではない様子。それでも辛くもキャッチした子犬に、保は惜しみない賞賛の声を送った。
    「わぁ、すごいねぇ」
     褒められてすっかり嬉しくなったらしい。子犬は全力で飛びついてきた。ちょっと……いや、かなり重い。それでもなんだか、楽しくて。
    「ふふ……あはは!」
     保は珍しくも、声を上げて笑った。
    「えへへ、こんな日もええね」
     この幸せを噛み締めるように、微笑んで。
    「じゃあ、次は綱引きでもやってみようかなー??」
     勇狗が丈夫な紐を咥えて持ってくる。一方を自分が咥え、もう一方を子犬の前に置いて……ファイッ!
    「やはり、この大きさだと力強いねー!!」
     グイグイと力強く紐を咥えて引っ張る子犬を、勇狗は讃える。なかなかいい勝負だった。
    「それと、次はなにかしよーかなー?? わふー!!」
     考えつつ、勇狗はたまらず子犬に飛びついた。楽しそうに勇狗とじゃれついている子犬の姿が徐々に薄れていく。たくさん遊んで、満足したのだろう。その姿が完全に消えてしまう前に、保はそっと頭を撫でて、優しく抱きしめた。
    「……おやすみ」
     心地よい眠りにつけますようにと、祈りを込めて。
    「いっぱい遊べて楽しかったのです。ありがとう、また遊んで貰えると嬉しいな、なのですよぅ」
     優希那は泣きそうにぷるぷるしながら、その首に赤いリボンを巻いておしゃれにしてあげる。
    「ばいばい。遊んでくれて、ありがとねっ。あたいも、楽しかったよー!」
     ミカエラも子犬に大きく手を振って、
    「楽しかったよ! わんわんおー!!」
     ガルが大きく一声吼える。
    「もし生まれ変わりがあるのなら……次は本当の犬さんとして会えるといいですね」
    「ええ……」
     空凛と双調はそんなことを話しながら、手を繋いで消え行く子犬を見送った。
    「みんな、ありがとー!! きみと遊べてよかったよー!! 消えるのも、なんだかもったいない気がするんだよー!! また、会えればいいよねー! わふぅー!!」
     最後に勇狗がひときわ大きな声で吼える。子犬がそれに応えるように「わんっ!」と一声大きく鳴いて、消滅した。
     たまにはこんな風に、全力で遊ぶのもいい。心地よい疲労を感じながら、灼滅者達は帰路についたのだった。

    作者:ライ麦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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