ミスコンを制覇せよ

    作者:るう

    ●街角の一幕
     道端で喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)が見かけた女子高生二人。別々の真新しい制服に身を包んだ彼女らは、新高一らしかった。
    「あっ、ユキちゃん、お久しぶり~♪」
    「えーっ、もしかしてさっちゃん? イメチェンしたからわかんなかったー!」
     漏れ聞こえる二人の話によれば、中学生の頃のさっちゃんは、おさげ髪に黒縁眼鏡の、地味な少女であったらしい。けれども今はコンタクトに変え、髪もばっさりと切って僅かに明るく染めて、快活な魅力を備えている。
     年頃の少女は、少し見ぬだけで変わる。
     とはいえ彼女の場合には、波琉那には少しばかり変わりすぎていたようにも思えた。その証拠に、さっちゃんは……。
    「でもさっちゃん、まるで完全に別人だよねー?」
     友人のそんな何気ない一言を聞いて、口元に、闇を良く知る者にしか判らない薄ら笑いを浮かべて答えたのだ。
    「そう……別人。私ね、生まれ変わったの」

    ●武蔵坂学園、教室
    「私も生まれ変わったかな?」
     真新しい高校制服のスカートを広げてくるくると回っている姶良・幽花(高校生シャドウハンター・dn0128)は、その『さっちゃん』と比べるとまだまだお子様だ。
     それを天野川・カノン(高校生エクスブレイン・dn0180)に指摘されると、幽花はぷっくりと頬を膨らませた。それを見なかった事にしてやって、カノンは次のように未来予測を語る。
    「でも正直、これくらい子供っぽい方がまだいいかもしれないけどね。サチコさん――これがさっちゃんの本名ね――みたいに淫魔に闇堕ちして大人びるよりは」
     そう……波琉那が見かけた少女は、文字通り『生まれ変わり』つつあったのだ。
     人間から、ダークネスへと。

    「サチコさんの闇堕ちが完全に成るのは、どうやら高校の文化祭みたい」
     文化祭に定番のミスコンで優勝するのと同時、彼女は完全に淫魔となって、二度と人間には戻れなくなる。けれども彼女の優勝を阻めれば、彼女を闇から救い出せるかもしれない。
    「その優勝を阻む方法だけど……みんなが『飛び入り枠』で参加して優勝しちゃうのが一番確実かな」
     カノンによるとこの高校のミスコンは、出場者の年齢・性別は問わず。
     無論、校内の女子が最も有利というのはあるが、自己アピールにさえ成功すれば誰にでもチャンスがある。その証拠に、同じルールでミスコンの前に行なわれるミスターコンは、過去には飛び入り枠の小学生がお姉様方のハートを掴んで優勝したケースもあったそうだ。
    「さらにそのミスターコンの入賞者が『地味な子の方が好き』ってスピーチすれば、サチコさんは動揺して、アピールに失敗する可能性もあるよ」
     ミスコンやミスターコンで目立ちたくないという人は、生徒らに根回しする等の役に回ってもいいだろう。いずれにせよサチコの優勝を防げれば、後は逆恨みして優勝者を襲ってくる彼女を返り討ちにして、その間違いを解らせるだけだ。
    「じゃあ私も優勝を狙うから、もし優勝できたらみんな、護衛をよろしくね?」
     幽花も優勝する気満々のようだが……できるのかなぁ?


    参加者
    喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)
    天雲・戒(紅の守護者・d04253)
    鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・d13709)
    久瀬・雛菊(蒼穹のシーアクオン・d21285)
    荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)
    四方祇・暁(銀月吼ゆる熾天狼・d31739)
    相神・千都(白纏う黒の刃・d32628)
    赤松・美久(いまいち萌えない小悪魔・d34175)

    ■リプレイ

    ●嵐のミスターコン
    『それじゃあ行くぜ! ミスターコンテスト……スタートだ!』
     司会のシャウトと共に始まるBGM。観衆たちは黄色い声を上げ、時にはまだステージ上に出てきてもいない憧れの人の名を呼んで、あらん限りの声を絞り出す。
    (「同じ浴びせられるなら、こっちの声の方がよほど落ち着くな」)
     女として生まれはしたものの、相神・千都(白纏う黒の刃・d32628)にとっては余程、男扱いされる方が性に合っていた。ステージ上で次々と繰り出される、同年代の男子生徒らの軟弱なパフォーマンスにも満足せずに、司会に名前を呼ばれた途端、暴力的な『男子学生』の姿を魅せつける!
    「俺の名は相神・千都! 他校からの飛び入り参加だが……そう簡単に負けるわけにはいかねぇよな」
     舞台袖から連続宙返りで中央に出てきたと思うと、千都は司会からひったくったマイクにそう囁きかけた。
     愛想のよい笑顔なんてのは大の苦手だ。が、その冷酷な瞳で観客席を見回して、不意に口元を吊り上げればどんな顔になるかくらい、彼女はよく知っている。
    「派手に着飾ればいいなんて奴は、俺は好かん」
     さらに何度かのアクションの後、千都は観客席に呼びかけた。
    「俺が惹かれる奴がいるとしたら……たとえ大人しく、目立たなくても、自分という素材を大切にしてる奴だ」
     そして再び、側転とバク転を決めて袖へと去ってゆく。

     レベルの高い飛び入り参加者の登場に、観客席は大いに沸き立っていた。
    (「然様でござる……見た目をいかに着飾るかよりも、大切なのは佳き心根でござるよ」)
     目を閉じ、想いを馳せる四方祇・暁(銀月吼ゆる熾天狼・d31739)の耳を、尺八の音色がくすぐった。
    (「次は……拙者の出番でござるな」)
     一振りの刀を腰に提げ、中学生服を凛と着こなして、暁は真っ直ぐにステージの中央へと進む。長い結髪を揺らさぬほどの武芸の達者に気付いた者は、恐らくはほぼ居るまいが。
    「これより御覧に入れるのは、変幻自在の剣の舞。楽しんでいただければ幸いでござる!」
     優雅に深々と一礼すると鯉口を切り、尺八が甲音を奏で始めると同時、すらりと白刃を躍らせる!
     横薙ぎに。刃を返して今度は縦に。曲に合わせて繰り出される剣技の数々が、鮮やかな幻想を形作る。
     演舞の真価を解する者は、この平成の世にそうは居なかった。それでも技に秘められた美が、感銘を引き起こさずにはいられない。
     チン。
     鍔鳴りと共に刀を納めると、再び暁は深々と一礼した。
    「えと、お粗末様でした、でござる!」
     次第に湧き上がる拍手の響きは、ミスターコンには似つかわしからぬ。けれども観客らの確かな評価は、人間の価値が『人気』とは異なる概念である事を、この上なく体現しているようだった。

     そう……『人気』は、『人の価値』と必ずしも同義ではない。
    (「それでも人気者になりたい、みんなに愛されたいという欲望が、淫魔になると増幅されるんだろうか?」)
     天雲・戒(紅の守護者・d04253)は首を傾げた。昔から長身という『持つもの』のあった彼に、サチコに『彼女自身の魅力の価値』を説けるだろうか?
     それでも彼はサッカーボールを抱え、舞台に思い切り飛び出してみせる。どんなに素晴らしい想いがあったって、伝える機会がなければ意味ないのだから!
    「俺は天雲・戒。君たちに逢いに来たぜ!」
     お気に入りのプロサッカーチームのレプリカユニフォームを着て、踊るようにリフティングしながら観客席にウィンクを向ける。時には声援に応えるのに夢中なフリして、失敗……と思わせつつファインプレーで挽回し。
     長い手足を強調するアクションの数々に、観客席の女子たちの歓声も最高潮! 最後に戒はステージの右端で大きくボールを蹴り上げると……飛び込み前転の後に左端へと駆け抜けて、落ちてきたボールをしっかりと足で受け止めながら観客席を指差した。
    「みんな、応援サンキュー! ミスコンに出る予定の君も、出られないと思ってる君も、君たち全員……愛してるぜ!!」
     そして、一際大きな嬌声が上がった。

    ●少女の葛藤
     まるで、自分の努力が無駄だと言われているみたい。
     ミスターコンは戒の優勝で終わり、司会がミスコンの開催を告げている舞台袖。ミスターコン参加者たちのスピーチを聞き、物陰で苛立たしげにしているサチコの姿を、赤松・美久(いまいち萌えない小悪魔・d34175)は痛ましそうに見守っていた。
     だって彼女は、ちょうど去年の自分なのだから。
     小中学校、ずっと空気のようだった自分に嫌気が差して、理想の高校生活という仮面を手に入れた自分。
     ずっと欲しかったものを手に入れたはずが、本当はその仮面に苦しめられている事まで。
     全く、おんなじだ。
    「あら……私に何の用?」
     見つめる視線と目が合って、サチコは美久に問いかけた。満面の笑顔をサチコに向けて、ミスコン、がんばって下さいね、と声を掛けて誤魔化す美久。
     他の誰にでもなく彼女にだけ声をかけた事を、きっとサチコは怪しんだだろう。
     けれど……問題はない。
     彼女が美久に意識を向けてくれるのならば、その分、彼女のパフォーマンスには身が入らなくなるのだから。
     彼女が不安との間で葛藤を続けている限り、彼女が闇に堕ちる心配はないのだから。
    「それじゃあ私、先輩のメイクの手伝いに行ってきますね」
     それからもう一度微笑んで、美久は自身を闇から救ってくれた一人、喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)の元へと駆けてゆくのだった。

    ●怒涛のミスコン
     袖から見えるサチコの媚びるようなアピールは、波琉那には随分と痛々しく見えた。
     化粧と衣装で自分を偽って、それこそが本当の自分だと思い込み。あざとい笑顔を振り撒きながらも、そこには一抹の不安と隠しきれぬある種の復讐心を宿し。
     あの日の美久とおんなじだ。そう、波琉那は思い出した。あれではどんなに自分を飾ったところで、人の心は動かせるはずが……。
    「「サ・チ・コ! サ・チ・コ!」」
     怒涛のように鳴り響く歓声に、波琉那は思わず耳を疑った。彼女が様子を覗う限り、歓迎の声を上げるのは男子たちの半分ほどか。
     男とは哀れな生き物である。
     女から見れば見え見えなあざとさにも、真意など気にせず飛びつくのである。そこに――おっぱいがあるから!
    「ふーん……男子って、あんなのに簡単に騙されるんだ」
     くすり、と波琉那は笑みを浮かべた。ならば私のあざとさで、サチコちゃんに対抗してみようじゃないの。
    「はーいみんなー、お・ま・た・せー♪」
     煌めくステージに上がった途端、日米ハーフの恵まれた体型を生かし、波琉那は思いっきり媚び媚びに胸元を強調してみせる!
    「「うおおおーーー!!!!!」」
     サチコに負けない歓声が上がった。
     男子って、チョロい。

     ……などと波琉那が本気を出しちゃったせいで、今、姶良・幽花(高校生シャドウハンター・dn0128)は思いっきり凹んでるわけなのだが。
    「せ……折角お姉さんアピールしようと思ったのに、あれの後だと自分が滑稽なことしてるようにしか見えない……」
    「だから可愛さでアピールした方がいいって言ったのよ。可愛さだったら満点だったのよ」
     鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・d13709)に慰められつつも、いまだ不服げな幽花。自分では、もう可愛いと言われる年頃は過ぎ去ったつもりでいるらしい、そんな複雑な乙女心。
    「……っと、ごめんなさいなのよ。次は私の番だから、そろそろ行ってくるのよ」
     隅っこで体育座り中の幽花に手を振って、琥珀は『ラウンドフォース』のスロットルを開く。

     ステージ上に現れた琥珀の勝負服……それはスタイリッシュなエプロン姿! 一輪バイクの後ろに屋台を引いて、ジャガイモの空中カットで場を沸かせる。
    「肉じゃがだ……」
    「あれ、売ってくれねえかな……」
     そんな胃袋を掴まれた系男子たちの前で、琥珀は材料を炒める音を響かせながら、そのまま舞台の袖へと引っ込んでしまった。
    「残りのアピール時間は後で、完成させる時に使わせてもらうのよ」
     おあずけ……それが地味に強烈な訴求力を持っている事に、できる事をやっただけと思っている彼女は、まだ、全く気付いていない。

     男子生徒たちの名残惜しむような視線を切り裂くように、可愛らしくも凛々しい殺陣が舞う。
     シルエットはお姫様のドレス。けれども頭部から胸にかけては、紫色の装甲に包まれていた。腰の部分は装甲が途切れ、白地に青線のコスチュームに覆われた華奢な体の線を強調している。そこから下は……再び装甲――明石のタコを思わせる草摺。それと、肩に乗る鎧を纏った翼猫、『イカスミ』ちゃん。
     一体何が始まったのだろう、と首を傾げる観衆の耳に、渋いヒーローソングが届く。
     時には勇ましく、特撮ヒーローのように立ち回り。
     時には可憐に、アイドルのように振舞って。
     その正体を見極めようにも、顔は覆われ判らない。その表情を語るのは、悪を倒せと呼びかける、意志の篭もった歌声ひとつ。
     これは一体誰なのだろう?
     観衆がそんな疑問を思い始めた頃、歌は最高の盛り上がりに差し掛かった。天に掲げる腕を猫が駆け上る際……ヘルメットが不意に蹴られて外れ、中からは久瀬・雛菊(蒼穹のシーアクオン・d21285)の素顔が露になる!
     まるで大切な友達にするように、ぎゅっと翼猫を抱きしめる雛菊。それから最後のフレーズを歌い上げ……終幕。
     沸き上がる拍手。だが、残念ながら言わねばなるまい……一般的な男子高校生にとって、特撮ヒーロー系少女の需要は、そこまで高いものではないと……。

     そして、最後の出場者の出番がやって来た。
     荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)は普段の巫女姿ではなく、中学生服に身を包む。そして……元気いっぱいにステージ中央まで駆け込んできて、満面の笑顔を作り、はきはきとした声で挨拶をする。
    「こんにちはー、荒吹・千鳥、14歳やよー! 綺麗なお姉さん方がいっぱい居る中でちょい恐縮やけど、精一杯頑張らせて貰いますー!」
    「がんばれー!」
    「負けるなー!!」
     この時点での声援の数が、正統派妹キャラに飢えていた男子たちの期待を物語る。千鳥はぺこりとお辞儀をすると、不意に舞台袖へと手を振って、応えるように飛んできた大きなくまのぬいぐるみを受け止める!
     そのままくま太郎の手を取って、二人でくるくると舞い踊る。くま太郎がひとりでに動いているように見えるのも、影が千鳥と違う踊りを踊っているように見えるのも、彼女が照れたような笑顔を作る合間に、真剣に何かの仕掛けを操っているような顔をしてやるだけで、誰もがイリュージョンだと信じ込む。
     元気で、丁寧で、頑張り屋。そして、子供っぽさを残しながらもスタイルはいい。すなわち正義。
     投票前、美味しそうな匂いと共に戻ってきた琥珀の肉じゃがに買収された……もとい考えを改めた者も決して少なくはなかったものの、かくして千鳥は妹派男子の心と票を、がっちりと掴んでしまったのである。
    『優勝は……荒吹・千鳥!』
    「これもみんなのおかげです。みんな、ありがとなー!」

    ●崩れ去る自信
     負けるはずのない戦いだった。
     在校生たちに飽きてきた上級生たちの期待が新入生に向いている今、彼らの目が新入生に向くのは至って当然のこと。
     けれども当の新入生たちは、まだまだ中学生の延長で、上級生たちを満足に振り向かせられるようなライバルはいない。
     今日、初めて会ったばかりで、今後も学校で会うチャンスのない飛び入り参加者に至っては、同じ土俵に立てるはずもない。
     ……なのに。
     悔しい。許せない。
     念願の学校のアイドルの座を失って、かつてのいついなくなっても気にされない人間になるのが……怖い。
     だからサチコは立ち上がった。まだ凹んでいる幽花にぞっとするような哀れみの視線を向けて、闇に支配された凄惨な笑みを浮かべ。
     そして……。

     校舎の裏手に千鳥の姿を見つけ、淫魔は反射的に飛び出してゆく。
     千鳥に気付いた様子はない。今なら彼女を支配して、どちらが上かを解らせられる。
     けれど……ふと、千鳥は彼女へと振り向いた。
    「淫魔なんぞにならんでもなぁ。魅力っちゅうんは幾らでも磨けるもんなんよ!」
     まるで彼女を待っていたかのような強い灼滅の意志に、一瞬、注意を奪われた時。
    「そこまでなのよ」
     肉じゃが屋台を引いたままのラウンドフォースが、彼女の行く手に立ち塞がった。
     不意に飛び込んできた屋台に弾き飛ばされて、校舎の壁に全身をぶつけたサチコ。彼女が憎々しげに立ち上がろうとした瞬間……周囲を黒き霧が覆い尽くす!
    「そこ、動くんじゃねえよ。堕ちるのは勝手だが……逆恨みは看過できねぇぞ!」
     霧の一部が凝縮し、淫魔を恐怖で射竦める。けれども彼女の瞳に宿る、運命に抗う意志を見つけて、千都は勝利を確信した笑みを浮かべ、黒霧から引き出した剣を淫魔へと振り降ろす!
    「死にたくねぇなら……死ぬ気で戻ってきやがれ!」
     それでも完全には憎悪の消え失せぬ少女に対しても、戒の声は、優しかった。
    「まったく、とんだ高校デビューもあったものだな。すっかり見かけが変わっちまったみたいだが、それじゃ持ち前の魅力が台無しだな」
     そしてまるでサチコの化粧を拭うかのように、力強く炎の拳を突き出して。
    「そうだよサチコさん……そんな不自然な姿より、ありのままの自分を磨いた方が可愛いと思うよ」
     雛菊の言葉に合わせるように、イカスミちゃんがサチコをてしてし叩く。
     溢れ出る涙。
     徹底的に自分を偽り続けても、残るのはすり減らされた自分だけ。それでも自分の中の何かが、壊れるまでやれと囁いてくる。
     耳を閉ざしたサチコの前で、澄み渡った刃が光る。
    「さあ、お遊びは終わりでござる」
     暁の剣が真一文字に、飾らぬ美を以て彼女を薙いだ。そして、恐ろしい断末魔と共に……邪念は、すっかり消え去ったのだった。

    ●生まれる希望
    「……お帰り」
     戒に頭を撫でられて、子供のように泣きじゃくるサチコに、波琉那は愛おしそうに声を掛ける。
    「メイクや立ち振る舞いに囚われて、重たい鎧みたいになっちゃってたのよね」
     その言葉の中の単語に、美久は聞き覚えがあるように思えた。
     波琉那の言葉はさらに続く。
    「大丈夫……一人で抱え込まないで、一緒に悩みと向き合おうよ」
     今度のそれは、間違いなく聞いた事がある。波琉那が美久に願った言葉、それと全く同じものだったから。
     前に自分が助けて貰ったように、今度は自分が助けてあげないと。
     私も同じだったから、私でよければいつでも相談に乗るよ。
     勇気を振り絞った美久の言葉に、サチコは、強く頷いてみせる。
     きっと……もう大丈夫。互いに視線を交わし合い、それからサチコの手を引いて。

    「千鳥殿、優勝おめでとうでござる。拙者も投票したでござるが、千鳥殿なら当然……でござるかね?」
    「いややわ、恥ずかしわー」
     暁と千都がミスコンの話題を出しても、サチコはそれを気にしないばかりか、むしろ喜んで他の参加者たちを祝福できるようになっていた。
     その意気だ、と戒が背中を叩けば、ようやく自信を持てたじゃねえかと、千都も納得の表情になる。
     もちろん、そんなサチコが人気者になれるとは、誰にも保障はできないけれど。
    「たとえ理解はされなくたって、正しい自信は力になるんよ」
     そう、雛菊は信じている。
    「よければ、ウチの学校でその自信、伸ばしてみない?」
    「私も、きっとサチコさんの力になれますから」
     波琉那と美久がサチコを武蔵坂学園に勧誘する傍で……。
    「おーい、幽花さーん。この肉じゃがをお腹一杯食べて、いい加減機嫌を直すのよー?」
     小鉢をちらつかせる琥珀の傍で、ミスコンに優勝してお姉さんになる作戦に盛大に失敗した幽花だけが、がっくりと落胆したまましばらく現実に戻ってこなかった。

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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