夜の公園で、若者たちが遊具に腰掛け、話し込んでいる。
「バレンタインもホワイトデーも、なーんも無かった! 俺もう最低ー」
「オレもだよ! 家族ですらチョコくれなかったし!」
「え? 独り身アピールして、恋人作れる切っ掛けになってるブラックデー、おまえら知らねぇの?」
「なにそれ詳しく」
「詳細を求める!」
嘆いていた若者たちが、いっせいに、1人の若者へと視線を集中させる。
「独り身の男女が集まって、明るく楽しく過ごす日。それがブラックデー! バレンタインもホワイデーも負けた連中の、合コン的な?」
『……違う……黒い日は……もっと……』
ざっくりと説明する若者に反応し、いつの間にか現れた青年がぼそぼそと呟く。
その相手はうつむきながら、黒い物体を取り出す。
『ぼっちによる、ぼっちの為の、ぼっちの日……漆黒の闇よりも暗く……深く……黒い日だよ』
そう言い、若者たちに黒い物体を投げつけたのだった。
「ギルアートのお陰で予知が出来た。こいつは都市伝説だな。投げ付けて来る黒い物体は、チョコレートのようだが……ぼっちが投げる物なので、当たったり食べたりすると大変な目に遭う」
「皆よっしく! 頑張っちゃってー」
神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)の言葉に続き、ギルアート・アークス(極彩の毒猫・d12102)が灼滅者たちにエールを送る。
「場所はこの公園だ。夜、この公園内でバレンタインやホワイトデー、ブラックデーなどの単語を口にしていれば、こいつは現れるぜ。……噂元は、ネットの掲示板のようだ。ブラックデーをポジティブに受け入れてる連中を、否定する書き込みから始まり、尾ひれがついて噂となって広まったようだな。夜だが、人払いは念の為、有ったほうが良いぜ」
続いて戦闘の説明に入る、ヤマト。
「ぼっちに共感したり、自分もぼっちだとアピールしたり、チョコをあげたり、こいつが投げて来るチョコを食べたりすれば弱体化するぜ。弱体化させるか、時間を掛けて戦うかは、お前達で決めるといい。しかし、こいつが投げて来るチョコは漆黒の闇よりも深い暗黒そのもの……食べたり触れたりしようものなら、気持ちが暗くなったり、言動がひねくれたりする。元からそういうタイプの人間が食べれば、逆の効果になるな。ハイテンションになったり、デレデレになったり……といったところか。これは都市伝説の能力だ」
説明を聞いた灼滅者たちの顔色が、やや悪くなる。
「これはある意味、己との戦いだ。だがお前達なら乗り越えられると、俺は……信じてるぜ!」
参加者 | |
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花藤・焔(魔斬刃姫・d01510) |
ギルアート・アークス(極彩の毒猫・d12102) |
央・灰音(超弩級聖人・d14075) |
遠野森・信彦(蒼炎・d18583) |
セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000) |
輝間・流(三歩歩けば雨を呼ぶ・d25805) |
恋中・伸維(一花心・d31026) |
三鑑・冬士朗(宵の漆衣・d33320) |
●
「ダーリン、人払いをお願いね?」
「……いやいや、ダーリンって俺じゃねェよな……信彦さんのことだよな……」
恋中・伸維(一花心・d31026)の言葉に、やや焦る、三鑑・冬士朗(宵の漆衣・d33320)。
「バレンタインにホワイトにブラック……毎月、綺麗にイベントが並ぶもんだよなぁ」
遠野森・信彦(蒼炎・d18583)は豪快に笑う。
「ぼっちの為のブラックデーなんてあるんですね」
初耳とばかりに、花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)は、少し驚いている。
「そういや此処数ヶ月イベント続きだったよなぁ。バレンタインとホワイトデー? んなもん貰ったに決まってんだろー」
貰って当たり前、という態度で、けらけら笑うギルアート・アークス(極彩の毒猫・d12102)。
「ダーリンか、冬士朗、良かったな! これでもうぼっちじゃねぇな! ……チョコ? 貰ったに決まってんだろー! あーほんと可愛かった……彼女からの、あーん最高……」
輝間・流(三歩歩けば雨を呼ぶ・d25805)は冬士朗をからかってから、恋人の自慢話を始める。
「リア充末永く爆発しろください……」
殺界形成を展開する、冬士朗。
今宵の殺気は、ひと味もふた味も違う。
リア充に対する、妬みや恨みがたっぷりこもった殺気である。
「ホワイトデーブラックデー……ホワイトデーブラックデー……」
死んだ魚のような虚ろな目をしながら繰り返し呟くのは、央・灰音(超弩級聖人・d14075)だ。
(「ダークネスとの闘いの日々に、そのような甘い日々などいらぬ!」)
鳥人姿のセレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)は、ハシビロコウ並みに目つきを鋭くし、じろりとリア充の仲間たちを見ている。
「あれ、冬士朗と灰音にセレスまで、どうした? そんなこえー顔して」
ぼっちの気持ちを理解出来ない流は、心底不思議そうだ。
そして更に、デレデレな表情で、恋人との甘い話をガンガン繰り出す流。
新たな敵を作っているという事態に、まったく気づかない流。
ぼっち組のライフがどんどん削られてゆくのにも、気づかない。もうやめてあげて、ぼっち組のライフはゼロに近いぞ!
(「流さんの彼女自慢には、血涙流すレベルだよね……めっちゃ羨ましい」)
冬士朗は思わず、真顔になる。
「俺? 今は遠距離恋愛みたいなものだしさぁ」
独り身では無い筈の信彦までも、流の恋人自慢に、イラつき始めている。
『ぼっちの日なのに……自慢しているのは……誰……?』
突如現れた、都市伝説。
信彦がすかさずサウンドシャッターを展開してから、自慢を続けている友達へと身をひるがえす。
都市伝説の問いに答えるように、皆一斉に、流をビシイ! と、指差した。
「え、みんなどうした? なんで指差してんだ!?」
なぜそうされるのか、まるで分かっていない流の声が響いた。
●
「ノリは大事だぜぃ!」
ピースサインを両手で作り、笑顔で言うギルアート。
「じゃあ俺も、それ的な感じで。いぇーい」
「おい、じゃあってなんだ! じゃあって!?」
友達の言葉に乗る形の、信彦。
流のツッコミが入っても、2人は気にしない。
「んで、え? 今時ぼっち? なにそれウケるんですけど!!」
都市伝説に向けて大声で言い、ギルアートは腹を抱えて笑う。
「ウケる、超ウケる! ぼっちとか!!」
大笑いしながら、冬士朗の背をバンバン叩くギルアート。
「あの、ギルアートさん……ぼっちに追い討ちを掛けるのヤメテ、ツライ。別に泣いてない、泣いてないんだが……あの、ちょっとコッチ見ないで」
その言葉が心にグサリと刺さった冬士朗は、思わず顔を背ける。
『どうしてそんなに楽しそうなの? これみたいに……漆黒の闇よりも暗く……深く……黒い日なんだよ』
青年はぼそぼそと呟き、真っ黒な物体を投げまくる。
「何か得体の知れない黒いもんめっちゃ投げつけてくるから、とりあえず反射でキャッチして食っちゃう!」
ギルアートは猫のようにしなやかに飛び、両手でパシッと黒い物体を掴んでそのまま口の中へ。
「何だチョコかよ、ウマウマ……あっ……、ツライ……今猛烈に動きたくないでござる……」
ぱたりと倒れ込む、ギルアート。
「彼女のチョコ以外は、のーせんきゅー! チョコは全て、叩き落とす! うおおおっ!」
自分に向かって飛んで来る物体を、全力で叩き落とす流は、とにかく必死だ。
サイキックを駆使して徹底的にチョコを溶かし、叩き落とし、ぶった切る。
触れただけで、もうアウトなのだ。
恋人を溺愛している者が、もしこのチョコに触れれば……そこには悲劇しか無いだろう。
自分の恋人を傷つけない為にも、ここは全力を振り絞るしか無い。ある意味、男の見せどころである。
「チョコ? くれるんなら食うよ、食っちまうよ。効果なんて知るか! 来いや、おらぁ!!」
信彦は勇猛果敢に、チョコへ挑む。
「……中学時代の彼女にはフラれるしさ、やっぱ俺には向いてないんだよ、女々しいしさぁ……」
結果、信彦は超がつくほどのネガティブになってしまった。
「頑張って男らしく振舞ってもさ、中身は変わらねぇじゃん?」
ふてくされている信彦の、ウイングキャットの藤太郎もチョコに触れてしまった所為で、変化していた。
普段ならツンツンした性格の藤太郎が、今は喉をごろごろ鳴らして信彦にすり寄っている。
「藤太郎……こんなダメな俺でも、慰めてくれるのか?」
感動して半泣き状態になっている信彦は、もはや別人だ。
「チョコなんざ貰ってねェし! ホワイトデーは完全スルーだったし!!」
青年のチョコを避けながら、冬士朗はぼっちをアピールする。
「今更ブラックとか言われてもな、こちとら既に、心は真っ黒だよド畜生!」
自分で自分の言葉に心をえぐられるが、それでもアピールを続ける冬士朗。
「このまま三十歳まで独身で魔法使いになるのでしょうか……?」
灰音も、ぼっちをアピールし始めた。
灰音のほうは、もはや目が白目になっている。
「魔法使いになったら賢者にジョブチェンジでもしますかね、ははは……」
白目の状態で、乾いた笑い声を零す灰音。
そんな灰音に青年が歩み寄り、真っ黒なチョコを差し出す。
『漆黒の闇よりも暗く……深く……黒い物をキミにも……』
「チョコレートなら誰からもらっても、うれしいですよ。……ぼっちだぜ!」
受け取った時点で、普段はおっとりしている灰音が口調を変える。
「良く味わって食べるぜ! くっそリア充があー! てめえらがーっ!! リア充づらしてラヴや運を湯水のように使いやがるから!! 俺らに運が回ってこねーんだよっ!」
充血した目を据わらせ、灰音はチョコをガリガリと噛みしめて食べつつ、叫ぶ。
「てめえらが独り占めしてやがるから俺らはぼっちなんだよっ! くそが! リア充づらぁするんじゃねえっ!!」
灰音の、ぼっち代表、心の叫びが大きく響く。
「バレンタインなんてなかった!! リア充が憎い憎い憎い! イベント自体が憎い憎い憎い憎……」
以下、灰音による憎しみの言葉が延々と続くのであった。
●
「寂しかったんですよね? これどうぞ」
焔が青年に接近し、用意して来たチョコを渡す。
女の子からチョコを貰えるだなんて、そんな夢のような展開は妄想でしかしたことが無いといった様子で、ひどく戸惑う青年。
焔は可愛い女の子だ。そして女子の高校生だ。
可愛くて、しかも女子高生な焔からチョコを貰って、冷静でいられるぼっちなど居る筈が無い。
「アタシも真心込めて作ったチョコをプレゼントするわ」
義理であることは隠して、伸維もチョコを渡した。
これで弱体化、間違い無し! と自信満々な伸維だったが、青年はちょっと素っ気ない。
容姿はキレイでも、伸維の性別は男性だからだ。
「え、それで満足しないって? 失礼しちゃうわねっ!」
不機嫌になり、ぷんぷん怒る、伸維。
とはいえ、自分の作ったチョコが、そこいらの女子よりも女子力の高い出来だった為、伸維は色々と複雑な気持ちになっていた。
伸維はオネエな口調ではあるものの、女子が好きなのだ。
ちょっと女子力が高いだけで、それ以外はちゃんとした男の子なのだから、複雑な気持ちになるのも無理は無い。
「ブラックデーの黒は、カカオ100パーセントチョコの黒。己を苦味で染め上げるための日だ。故に、苦味をこの上ないほど理解している我々ぼっちこそがこの日を楽しむべきなのだ」
セレスは青年の肩を叩き、共感をする。
「ああ、チョコを食うか? 甘味は程よいぞ」
共感してくれた上に、チョコまでくれるセレスに、青年はときめいた。
動物型のチョコを受け取り、眺め、手作り感が溢れるチョコを食べて堪能する青年。
「甘みを知ってこそ苦味をより強く感じる」
そう語るセレスに、青年はなるほど、というように頷いた。
「チョコ美味い……このままここで寝たい! 寝ながらチョコ食べたい! もっと投げてー!」
地面に寝転がり、ジタバタと駄々をこねだすギルアート。かなりの怠けぶりだ。
「やだーやだー、チョコくれなきゃやだー! 冬士朗、チョコー!」
寝転がったまま両手足を動かし、ギルアートは催促する。
「結構煩わしい! ラビリンスアーマー持ってくれば良かったか? 煩いギルアートさんを巻き巻きして黙らせられたかも知れないのに……焔さん、ちょっとチョコ頂戴」
冬士朗は焔に頼んでチョコを貰い、それをギルアートに投げ、青年にも投げた。
「闇チョコフィーバーしてる人たちにも投げつけとくわ」
青年のチョコで性格が変わってしまっている仲間たちにも、投げる冬士朗。
投げてもらったチョコを、寝転がりながら食べ続ける、ギルアート。
そしてなにを思ったか、ギルアートは都市伝説のチョコを流に向けて投げた。
「味方に投げ返すなギルアートおおおお!!」
刀身が艶やかな愛刀でチョコを打ち返し、空中へ飛んでいった都市伝説のチョコは落下し、やがてセレスの頭にコツンと当たる。
「……なーにしみったれた顔してんだ! ほらチョコでも食って元気出せ!」
「いや俺、彼女のチョコ以外は……」
「ほら食えって! 疲れてるときは甘い物で思考を回復だ!」
人の話を全く聞かない、熱血系な性格になってしまったセレス。
都市伝説のチョコに触れないよう必死な流に、更に負荷が掛かる。危うし、流。
「って食ってんのか、お前ら!? 勇者かよ……!? その雄姿忘れない……って、信彦もいつの間に食っちゃってんの!? しっかりしろー!!」
チョコを避けるのに必死だった為、遅れて仲間の状態に気づいた流が、大声をあげる。
「弱体化したみたいですね」
焔が青年の様子に気づき、仲間たちに声を掛ける。
「まあ、ともかくこのはた迷惑な怨念めいた都市伝説には成仏……浄化? して貰わないとな」
セレスがいち早く動き、見出した急所目掛けて斬撃を繰り出す。
「命中が安定するようにしますね」
「見切り効果を考慮しましょう」
焔は射出した帯で敵を貫き、灰音が片腕を半獣化させて鋭い銀の爪でダメージを与える。
「とりあえず流は後で爆発な、マジで」
真っ赤な炎の蹴りを敵に叩き込む、信彦。藤太郎はリングを光らせた。
「ぼっちのチョコ怖いね? ブラックぼっちな都市伝説は、ふるぼっこだぜぃ!」
連携したギルアートが、creep catで影の獣を音もなく忍び寄らせ、敵を絡めとった。霊犬の戒は、斬魔刀で攻撃する。
「やっと解放されるぜ。己との闘いだったな」
続く冬士朗は、半獣化させた片腕を振り、敵を引き裂く。
(「恋が全てってわけでもないのに、チョコが貰えなかった位で情けない奴ね!」)
伸維は胸中で都市伝説や、都市伝説を生み出してしまった男たちの脆弱さを叱り、夜霧を展開する。
「チョコが余ったらダーリン達に、あーん付きで食べさせてあげる。絶対に逃がさないわよ?」
前衛メンバーを回復させた伸維が放つ言葉は、語尾にハートが付いていそうな雰囲気だ。
ウイングキャットのセイブルは、仲間を守れる位置につき、敵に攻撃を仕掛ける。
「独り身の冬士朗を弄るのも愛ゆえにってやつだ! そしてユキちゃんはなんかこえぇ、負けるな俺。その怖さに負けるな俺!!」
流は半ば、いっぱいいっぱいになりつつも、妃艶-hien-を構え、一直線に素早く重い斬撃を浴びせた。
『暗く……深い場所へ、ゆくんだ……』
都市伝説はそう言い残し、完全に消滅した。
●
「時季外れですけど、皆さんどうぞ」
戦闘を終え、焔がチョコを仲間たちに配る。
「贈る相手すらいないぼっちでも、義理チョコを作るくらいはしていいのだ……」
セレスも余ったチョコを仲間に配りながら、遠い目をする。
「イベントは、忙しい奴とかも関わり無かったりするもんだよ……逆に考えるんだ、全ての人間が平等に同じ日を迎える日は無い」
信彦は冷静にフォローを入れるが、あまりフォローになっていない。
「ありがとうございます。チョコレートは誰からもらってもうれしいです」
灰音は礼を言い、焔とセレス、2人の女子から貰ったチョコも、伸維からのチョコも大切そうに味わっている。
「すまねぇなユキちゃん、そのチョコは貰えねぇんだ……あっほら、冬士朗が食いたがってるぜ!」
流はそう言い残し、逃げた。
「あ、流さん逃げた!? ユキちゃん、ちょっと……あの、ま、待って……」
冬士朗は伸維の迫力に圧倒され、完全にひるんでいる。
「やーんっ! そんなにアタシのチョコが待ち遠しかったの!? もうっ早く言ってよ! はい! あ、げ、る」
伸維が冬士朗の口を無理矢理開けさせ、チョコを口の中へと放り込んだ。哀れ、冬士朗。
「これは夢オチ! とーしろー、気にすんなー」
何事も無かったかのような顔をし、ギルアートは冬士朗の背中をバシバシと叩いたのだった。
作者:芦原クロ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年4月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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