百匹夜行~灯引きの月宴~

    作者:志稲愛海

     八つの灯火を携えて、月見の宴を開いてごらんなさい。
     そしたら、ひとつ、またひとつ、その灯火が増えていくの。
     八の灯火に誘われた『百匹夜行』が灯篭ぶら下げて、月の宴に加わりにやって来るから。
     でも……気をつけて。
     行列の一番後ろ。百八つ目の灯火を持っているのは、『オサキ様』。
     そして『オサキ様』はね、皆を連れて行くんだって。
     二度と戻れない――死の世界へ。
     

    「皆さん、実体化した都市伝説の存在が確認できました」
     サイキックエナジーの力を得て実体化してしまった、都市伝説。
     これは、事件の噂が広まり、多くの人間がその存在を信じる事で起こる。
     そして人に害を及ぼすような実体化した都市伝説が大きな力を持つその前に、事件を解決して欲しいと。
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は集まった灼滅者の皆を見回した後、サイキックアブソーバーから得た解析の詳細を語り始める。
    「都市伝説が確認されたのは、山奥にあるとても広い草原です。見晴らしが良くてひらけているので、今の季節だったらお月見をするのに最適な場所ですね」
     姫子は地図で関東圏内にある山を指した後、机の上に手持ち灯篭を置きながら続ける。
    「まずはこの草原で、皆さんでお月見の宴会を開いてください。その際、八つの灯篭を灯しておくことが、都市伝説出現の条件です。私の方で手持ち灯篭を八つ用意しておきましたから、よかったらそれを使ってくださいね」
    「月見か。月見と言えば、やはり団子は必要不可欠だな」
     集まった灼滅者のひとり・綺月・紗矢(小学生シャドウハンター・dn0017)はそう力説しつつも。いや、団子だけでなく月見弁当や何ならプリンなどを持参するのも良いかもしれない、と真顔で呟く。
     そんな、クールな印象とは裏腹に、何気に月見の宴会と聞いてわくわくしている様子の紗矢に笑んだ後。姫子は説明を再開する。
    「皆さんが灯火の中、楽しく宴会をしていると、灯篭を持った兎さんや狐さんたちの行列『百匹夜行』が何処からともなくぴょこぴょことやってきます。兎さんや狐さんたちは自分が持っている灯篭を草原に置いた後、皆さんの宴会に加わってきますので、一緒に楽しく宴会してあげてください」
    「兎さんや狐さん……それらは、もしかして」
    「はい、ふわもこさんです」
    「!」
     何気に可愛いもの好きな紗矢の顔が、一瞬パッと輝くも。
     生真面目な彼女は、真剣な表情で姫子に確認する。
    「えっと……それらは、両腕で抱き締めてぎゅぎゅーっとしたり、もふもふやすりすりしたりしても構わないのだろうか」
    「ええ、構わないと思います」
    「!」
     頬をほんのり紅潮させ、きゅんっと感じた胸の高鳴りが思わず表情に出てしまう紗矢。
     姫子はそんな彼女を微笑ましく見ながらも、続ける。
    「ですが、この『百匹夜行』の行列の百匹目……最後尾にいる『オサキ様』が到着して宴会の灯火が百八つになると、死の世界に連れ込まれてしまうと。都市伝説ではそう言われています。ですので『オサキ様』が現われたら、都市伝説をすみやかに退治してください」
    「『オサキ様』?」
    「『オサキ様』は『尾裂狐』という尾が二股に裂けた狐の妖怪が元となっているのではないかと。この都市伝説の『オサキ様』は、体長が大人の背丈ほどもある大きな二股の尾を持つ狐です」
     今回退治すべきなのは、この『オサキ様』と、その周囲にいる他の普通サイズのものよりもふた回りほど大きな漆黒の狐3体。
     この計4体は行列の最後に現われる上、パッと見ただけですぐに他と判別がつくという。
     戦闘になっても、4体以外の兎や狐は襲ってこないので気にせず大丈夫だ。
     そしてこの4体さえ倒せば、行列を成している都市伝説全てが消滅するだろう。
    「まず『オサキ様』ですが、鋭利に尖らせた二つの尻尾で切り裂いてきたり、激しい炎を繰り出してきたりします。漆黒の狐たちは、毒を伴う尻尾で攻撃してきたり、炎を吐いてきたするようです。とはいえ4体ともそう強敵ではありませんので、油断せぬようさっくり退治していただければと」
     それから姫子は八つ目の灯篭を机に置いた後、皆に微笑む。
    「この『百匹夜行』が現われた後も、最後尾の『オサキ様』が来るまでは、暫く時間があるようですので。折角の機会、ちょっぴり風変わりなお月見を皆さんで存分に楽しんでいいかと思いますよ」
    「都市伝説退治が、勿論一番の目的だが。月見も皆と楽しめたら嬉しいな。その、団子とか弁当とかプリンとか食べながら話をしたり、もふもふしたりとか」
     都市伝説退治や月見の宴やふわもこに、ぐっと一層気合を入れる紗矢。
     そんな紗矢に姫子はにこにこ笑みながら、ペンギンさんファイルを閉じて頭を下げる。
    「油断しなければ大丈夫だと思いますが。都市伝説退治、よろしくおねがいしますね」


    参加者
    風雅・晶(陰陽交叉・d00066)
    久瀬・航(剣戟の行方・d00770)
    和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)
    芹澤・朱祢(白狐・d01004)
    神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)
    黒鐘・蓮司(兇冥・d02213)
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    波多野・師将(もふもふすきー・d04343)

    ■リプレイ

    ●八つの光
     妖しい月が照る草原に、灯す明かりの数は八。
     その灯火に誘われて、直に、やんやと奇天烈な百匹夜行がやって来る。
     摩訶不思議な物の怪等との月の宴の――はじまり、はじまり。

     仰ぎ見る今宵の月は、望を過ぎ朔へと向かって欠け始めてはいるものの。
    (「やっぱ、この時期の月はきれいだよなー」)
     広い広い草原に到着した久瀬・航(剣戟の行方・d00770)は、霊犬の心が咥えて渡す灯篭を地に置き、忘れずに火を灯してから。
     持参したピクニックシートを広げつつ、ぽかりと夜空に浮かぶ月を眺めながら思う。
    (「で、月と来れば妖怪か。まあ、妖怪だってこれだけ月きれいだったら月見したくなるだろうな」)
     宴に加わりにくるのは、百を数える物の怪。
     行列が到着する度に、八であった灯火がひとつずつ増えていって。
     愉快な兎や狐が、ぴょこりと宴に加わるのだという。
     ――でも。
    (「動物たちと宴会なんて、御伽噺のようで素敵ですが、最後が良くないですね」)
     風雅・晶(陰陽交叉・d00066)は八つ目の灯火を草原へと置いて。
     何処から現われるか分からぬ夜行の気配を探るように、仄かに照る灯火の向こうに広がる闇を見遣る。
     行列の最後――百八つ目の灯篭を持って現われるのは、『オサキ様』。
     そして『オサキ様』に連れていかれる先は、死の世界だという。
    (「犠牲者が出る前に、物騒な都市伝説には退場していただきましょう」)
     だがその前に。決して気は抜かず、晶は皆と共に宴の準備を進めて。
    「……まぁ、折角だし。『最後尾』のが出るまではパーッとやりましょ」 
     コンビ二で調達したお茶やジュースなどの飲み物を並べる、黒鐘・蓮司(兇冥・d02213)。
     百の物の怪で成す行列は、退治すべき都市伝説。
     しかし、それらを誘い出すにはまず。
    (「何よりも月見を楽しむことが先決じゃな」)
     広げたシートの上に飲み物を用意しながら、ぐっと宴へと気合を入れる和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)。
     お月見の宴会自体は特に珍しいものでも何もない。
     でも今回は、ちょっとだけ特殊。
    「狐や兎に囲まれて月見などそうできる経験ではないからの、目いっぱい楽しむのじゃ」
     灯火の数が百八になるまで。物の怪達と月見を楽しむのも、また一興だ。
     そしてシートの上に並べられるのは。
    (「気合い、入れすぎたか……?」)
     そう次々と持参した重箱を取り出していく芹澤・朱祢(白狐・d01004)や。
     四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)の作ってきた、美味しそうな月見弁当。
     そんな豊富なおかずのラインナップに、何気に瞳をキラキラと輝かせているのは、綺月・紗矢(小学生シャドウハンター・dn0017)。
     そんな紗矢の様子を見つつ、ま、中身は適当だけどな、とへらり笑みながら。
    (「普段の料理なんて、生きるために必要ってだけのモンで。誰かのため、ってのは久々な感覚か」)
     ふとそう思う、朱祢。
    「伊達巻や厚焼き玉子も、ちゃんと作ってきたよ」
     紗矢リクエストの玉子焼きを彼女に見せながら、いろはも沢山集まった仲間達の分まで作ってきた弁当を手際良く取り出していって。
    「出来合いの物で良ければ……ですが、皆さんの分のプリンアラモード、買っておきましたよ」 
     神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)は、飲み物や紙コップと共に買ってきたプリンアラモードを、デザートにと。
     そして、やはり。
    「お月見としては、月見団子を忘れてはならないでしょう」
     早起きしてせっせと作ってきたという晶の月見団子が並べられれば。
     月の宴の準備は完了!
     シートに座って月を愛でながら、いよいよ宴会を始める灼滅者達。

     そして――いつの間にか。
     闇の中に、ひとつ、またひとつと。
     ほのかに揺れる灯篭の光が、幾つも浮かび上がり始める。

    ●月下の晩宴
    「月も綺麗でご飯も美味しくてもふもふさん達もいて、素敵なお月見なのです」
     ナノナノと戯れる兎さんを微笑ましげに見つめお茶をすするのは、猪ぐるみを着た波多野・師将(もふもふすきー・d04343)。
     ひとつ、また灯火が増えれば、次に宴に加わるのは狐さん。
     師将は持参したみたらし団子で何気に狐さんを誘って。
    「兎さんはともかく、狐さんをもふもふできる機会は滅多にないので逃せないのです」
     ぎゅぎゅっと捕獲して、もふもふもふもふ。
     そして次々と草原へとやってくる、もふもふたちの中に。
    「一緒に遊べよー!」
     霊犬の心を放り込む航。
     そしてじゃれ合う心たちに笑みながら、まずは仲間の作ってきた弁当へと手を伸ばす。
    「もふもふに気をとられすぎて108匹目に気づかぬ等ということはないようにせんといかんがの」
     やってくる物の怪を抜かりなくふるもっふしながらも。
     ――……20……21……22……23……と。
     風香はその数を忘れず数えつつも。
     もふもふの礼にと、皿に盛ったおかずを兎さんや狐産に差し出してみる。
    「これだけ美味しそうな弁当が並ぶのを見ていると、幸せを感じるな」
     ありがとう、いただきます、と。礼を言い手を合わせた後。
     本当に幸せそうに皆が作ってきてくれた弁当をもくもくほくほく、口に運んだ紗矢は。
     おいしい……! とパアッと目を輝かせる。
     朱祢の弁当箱には、炊き込みご飯のおにぎりに、根菜の煮物、ポテトサラダ。牛蒡の牛肉巻きには甘辛のたれを絡めて。定番の唐揚げは食べ盛りの皆の分、大量に用意されていて。半分には、刻んだ紫蘇が和えてある。そして箱の隅には、タコとカニのウインナーさんの姿が。ベイクドチーズケーキのデザートまでついている。
     それから、はむはむタコウインナーを嬉し気に食べる紗矢や皆に朱祢が差し出したのは。
    「外れはほぼねーよ? ほぼ」
     ついでにと用意した爆弾にぎり、勿論中身はランダムです!
     紗矢は、ちょっと変わった具だなと言いつつも、ぺろりと爆弾チョコレートおにぎりを平らげて。
    「…………」
     フードで表情こそ見えないが、わさびたっぷりのおにぎりを手に一瞬固まる蓮司だったが。
     そんなわさびの辛さを振り払うかのように、戦闘が始まるまでの間、宴を楽しむ。
     もふもふしたり……もふもふしたり。
     大事な事なので二回言いました!
     紗矢は、いろはの甘めの玉子焼きを口に運び、その絶品な和食のおかずの数々に幸せそうに笑んだ後。すごく可愛いなと、兎リンゴやオサキ様を模したのだという双尾の練りきりを感心したように見つめて。
    「そなた妾と共に来んかの?」
     心行くまでひたすらもふもふしながらも、いろはの美味しそうな五目稲荷寿司を貰って狐さんに差し出しつつ、ついそんな無茶振りをする風香。
     そして、周りに怖がられない様にとある程度自制しながらそんな仲間達を見守っている三成の掌に、一緒に食べないか? と。
     紗矢は貰った兎さん団子をちょこんと置く。
     そんな兎さん型のお団子は、翼や采が持参したもの。
     やはり数多く並ぶのは、そんな月見の定番であるお団子類だ。
     動物向けが混じっていることを伝え忘れる彼方のものや、もふもふをぎゅっとする七織のもの。
     そして朱祢やいろはのものと一緒にジャックが準備しずらり並べたのは、やはりもふもふしながら宴を一緒に楽しむ文や燐の弁当。白焔もいろはを手伝い、お茶を皆に注いで。
     もらったからあげると焦が紗矢に渡したのは、狐の好物の油揚げ。志輝もデザートにと、プリンアラモードやシュークリームを。
     さらに沢山の人やもふもふを、舌だけでなく目でも楽しませるのは、魔砲少女こと璃理の宴会芸。
     そんな楽しく美味しい宴を堪能しながらも、忘れてはいけませんねと。
     晶は、お供え用に団子を三方に積み上げて。
    「俺寝転がって星見るの好きなんだよな」
     ススキでフクロウを作った航は団子を食べながら、星月夜の下で心と一緒にごろごろ。
     いろはも着物の上からくるりと。
    「キミの尻尾なら此からの季節、襟巻きに代わりにするのに丁度良い、かな?」
     秋風が頬を撫でる中、もふもふするのにちょうど良さそうなふわふわ毛並みの大人しい狐さんを、そっと首に巻いてみる。
     楽しく賑やかな、月の宴。
     そして――75……76……77……78、と。
     その間にもひとつずつ、ゆっくりと数を増やしていく灯火。
     仄かに照る沢山の灯りが混ざり合わさって、夜とは思えぬほど煌々と草原に明りが満ち溢れて。
     兎や狐の物の怪達に、霊犬やナノナノ達サーヴァントも一緒になって、ぴょこりぴょこりと周囲を跳ね回る。
     綺麗なお月さまに美味しい弁当、食後には沢山の甘いお菓子。
     でも――そんな楽しい月の宴の時間も、あっという間。
    「そろそろタイムリミットだぞ。悔いは残すなよ?」
     そっと寄ってきた兎をひと撫でした後。
     いつもの軽い感じながらも、そう皆に声を掛ける朱祢に。
    「……皆さん、現われましたよ」
     優しげな視線で皆を見守っていた三成も顔を上げ、仲間達に注意を促してから。
    「さて、イフリート以外のダークネス初殲滅任務、頑張りましょうか」
     そう言った彼の隣で、スッとパーカーのフードを目深に被る蓮司。
     ――……105……106……107。
     これらの明かりを持っているのは、これまでのふわもこ達とは違う黒き狐たち。
     そして、108――最後の灯火が、ゆらり現われる。
     
     ――百八つ目の灯火には、くれぐれも気をつけて。
     こわいこわい『オサキ様』に、死の世界に連れて行かれちゃうから。
     
    ●尾裂狐
     百八の光が満ちる宴の草原が、一瞬にして戦場と化す。
    「!」
     そして何もかも焼き払うかの様に、狐の物の怪達から放たれる業火。
    (「もふもふで可愛らしい普通のお狐様やうさぎさんなら良いけど。人に害を為す都市伝説ならば討たないといけない、よね?」)
     我関せずと言ったように相変わらず周囲を飛び交う兎や狐達をちらりと見た後、胸元に闇を纏う紋様を宿らせ、戦闘態勢を整えるいろはに。
     戦場に逆巻く炎を掻い潜るように一気に間合いを詰めた晶の両の手に宿る閃きは、鎬に走る黒と白の一筋の如き斬撃。
     真白と青を帯びた黒き二つの刃が、尾裂狐の鋭利な尻尾を尚も割かんと真っ直ぐに振り下ろされて。
    「……それじゃ、お覚悟を。性質のワリィ狐さん」 
     晶の二刀の小太刀がオサキ様を引き付けている隙に、黒き敵へと機動力を削ぐ死角からの一撃を蓮司が見舞えば。
    「尻尾の数、増やしてやろーか? そいつみたいに」
     やや大振りのナイフを逆手に構え地を蹴って突っ込む朱祢の放出した無尽蔵の殺気が敵の群れを覆い尽くし、月下に踊る風香の情熱宿すダンスが敵を撃つと同時に己の力を漲らせる。
     そしてリップルバスターで黒狐を薙ぎ払わんとバスターライフルを構える紗矢の加勢をと、敵の可愛さに騙されぬよう烏衣やラシェリールも攻撃を繰り出し、月に煌く糸で支援に回るミュー。
     そんな仲間達のサポートを受けながら。
    「心、行くぜ! 着いてこい」
     漆黒の殺意で敵を包む主・航の声に合わせ、六文銭を撃ち出す心。
    「援護は任せて下さいですー」
     師将とナノナノは、仲間全員を癒せる位置取りをし、戦線を確りと支えるべく戦場を見回し風の刃を生み出して。
    「イヤッハー!! 人に害なすダークネスは全員全部俺様の炎で丸ごと消毒だぁー」
     気分の高揚そのままに、嬉々としてふるわれる三成のチェーンソーが、オサキ様目掛けけたたましい轟音を鳴らした。
     そして素早く黒狐の死角に回り込み、鞘に納めた状態から抜刀し敵を斬り裂きにかかるいろはの華麗なる剣撃が冴えて。
     その邪魔はさせじと、晶の肉喰と魂結の切っ先がオサキ様へと容赦なく振り下ろされる。
     抑えといいつつ、やれるならやってしまう心積もりで。

     百八の火影揺れる戦場に燃ゆるは、死の世界へと誘わんと放たれる焔。
     それを取り巻く闇の如き狐が放つ衝撃は、受けた者の身を毒で蝕む。
     だが、誰も倒れることのないようにと。
    「しばらく回復に専念しますですー」
     師将の味方を守護する符が戦場を飛び交い、招かれし優しい風が皆に蓄積した状態異常を吹き飛ばし、ふわふわハートを飛ばすナノナノ。それでも尚癒しきれぬ傷を負った人には、航の集めた癒しの気や心の浄霊眼が抜かりなく施される。
     そして晶と三成が荒れ狂うオサキ様の前に立ちはだかっている隙に。
    「……させねぇっすよ」
     余所見してていいんスか、と防御ごと引き裂く斬撃で蓮司が黒狐を仕留めると。
     これまで垣間見せなかった冷たさを一瞬放つ瞳で捉えた、毒に侵されし別の配下狐の傷をチェーンソー剣で広げ、敵の上体を朱祢が大きく揺るがせれば。
    「スタイリッシュな一撃をくらうのじゃ!」
     傍からみると大きなバスターライフルに振り回されている様に見える風香の円盤状の光線が敵の群れに撃ち出され、1体の黒狐が消し飛ぶ。
     そして自分の前に立つ已鶴や純に紗矢はありがとうと礼を言いつつ、トラウナックルを残り1体の配下へと叩きつけ、灼滅者達の集中砲火がその漆黒の身に浴びせられて。
    「人に害為す獣は狩られる運命だよ?」
     いろはの流麗なる居合の一刀が、最後の黒狐を捉え切り捨てたのだった。
     これであとは、オサキ様だけ。
     だがそのオサキ様も、激しい炎を吐いて灼滅者達の体力を削ってくるも。
    「……死の世界とやら、行くんならアンタらだけでどーぞ」
    「此処から先は通行止めだ! 大人しく死んで待ってろ糞狐がぁ!!」
     与えたダメージも師将達にすぐに打ち消され、逆に猛攻を浴びて甲高い奇声を発しながら身を大きく捩って。
     体力も底をつき隙をみせた物の怪の首魁へとすかさず繰り出されたのは。
     晶の両の刀捌きから放たれた超高速の二連撃から連なる、敵を刺し貫く止めの斬撃。
     そして、灯る百八の光に導かれるように。
     オサキ様は誰一人黄泉へと連れ去ることすら叶わず、跡形なく消え失せたのだった。

    ●月の祝宴
    「お別れなのです」
     最後に、ゆらり薄れゆく狐さんをもふっとした師将がばいばいと手を振った刹那。
     百八あった灯火が、八つだけ残して一瞬にして消える。
     それから、月明かり降り注ぐ草原で。
    「もう少し、お月見していきますですか?」
     あと少しだけ、今度は灼滅者達だけのお月見を。
    「百匹夜行がすぐに消えずに今日一日くらい共に楽しめれば尚良かったのじゃが」
     あのふわもこ感覚を名残惜しく思い言った風香に、いろはは兎リンゴを差し出して。
    「まだ料理も残ってるし、折角だから残さずに食べてね」
     勿論だと、残っている弁当をもくもくと食べながら心強く頷く紗矢。
     そんな彼女に、買ってきたプリンアラモードを手渡しながらも。
    「……これで、一先ず安心ですね」
     三成はきちんとゴミを纏めながらも、あともう少し。
     摩訶不思議な月夜の宴の余韻を皆と共に楽しむのだった。

     こわいこわい奇妙な百八つの灯火の御伽噺は、此れにてお終い。
     ――めでたし、めでたし。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 1
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