魔人生徒会からお誘い ~新歓お花見編~

    ●とある教室
    「学園でも、とても綺麗な桜が満開になってます。……という訳で、新入生や転入生歓迎会と、進級記念のお祝いを兼ねたお花見をしたいと思っています」
     伊達メガネを掛けた女性が、生徒達を前にして、ゆっくりと口を開く。
     念のため、変装をしているせいか、彼女の正体は、謎。
     同じ魔人生徒会に所属しているメンバーにも正体を明かしていないため、彼女が誰なのか誰も知らない。
     どうして、そんな事をしなければいけないのか、魔人生徒会に所属しているメンバーにも分からない事だが、そう言うものだと理解しているためか、誰も気にしていなかった。
    「一応、生徒会で食べ物や飲み物は用意する事になっていますが、持ち込みもOK……と言うか、大歓迎です♪ また、お花見は学園内でしますので、サーヴァントを連れてきても構いません。みんなで楽しいお花見にしましょう♪」
     そう言って、女生徒がニコリと笑うのだった。

    ●廊下
    「……お花見か」
     佐藤・誠十郎(大学生ファイアブラッド・dn0182)は掲示板に貼られたチラシを眺めつつ、グウッと腹を鳴らした。
     ここ最近、誠十郎はツイていなかった。
     今年の初めに、願掛けで幸運のネックレスを買ったのだが、事故に遭って死の淵を彷徨い、インフルエンザに掛かって、死の淵を彷徨い、痴漢と間違われ、正義感溢れるサラリーマン達にボコられ、死の淵を彷徨い、バイトをクビになり、住んでいたアパートも家賃滞納を理由に追い出され、公園で寝泊まりしていたところを近所の悪ガキに襲撃されて、死の淵を彷徨い、走馬灯が過ぎる中、誕生日が過ぎている事に気付いたりと、散々だった。
     それでも、まだ希望はあると頑なに信じ、幸運のネックレスを握り締め、『レッツ、ハッピー!』と呪文を唱えているのだが、まったくと言って効果がなかった。
     だが、そんな誠十郎にも、希望の光が見えてきた。
     これでようやく飯が食える……!
     それは誠十郎が幸運のネックレスを手に入れ、初めて良かった、と思う瞬間であった。


    ■リプレイ

    ●花見会場
    「ひょっとして……あの置物のようになっているのが……誠十郎ですか。随分と痩せてしまったようですね……」
     皇・銀静(陰月・d03673)は仲間達を連れて、花見会場にやって来た。
     花見会場には佐藤・誠十郎(大学生ファイアブラッド・dn0182)が既に来ており、もふりーと形態で他の参加者達に餌付けをされていた。
     だが、誠十郎はしばらく飲み食いをしていなかったせいで、ほとんど骨と皮。
     見るからにやつれており、死神的なモノが誠十郎の頭上でクルクルと回っていた。
     それでも、誠十郎は幸運のネックレスを手放しておらず、首からぶら下げてハッピーになる日を夢見ていた。
    「佐藤さんは元気……という訳でもなさそうですね」
     九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)が、気まずい様子で汗を流す。
     誠十郎はゲッソリとしており、見るからに健康的とは言えなかった。
     一言で言えば、何かに取り憑かれている状態。
     即、除霊が必要な状態であった。
    「ま、まあ、色々とあったからな」
     誠十郎が人間形態になって、乾いた笑いを響かせる。
     自分でも、どうしてここまでツイていないのか疑問だったりするのだが、何が原因なのかまったく分からないようだ。
     それでも、何かに運を吸い取られているような感覚があるらしく、何か原因になるものがあると言う確信はあるらしい。
     それでも、幸せは必ずやってくると頑なに信じ、厄払いをしたり、常に幸運グッズを持ち歩いているのだが、幸せになるどころか、余計に不幸な事ばかり起こっているようである。
    「あのさ、誠十郎。……言いづらいんだけど、そのネックレス……、多分不幸を呼んでるよ。だってよく考えてみ? 『病院』の時と比べて、だいぶ人らしくない生活になってるよ?」
     井之原・雄一(怪物喰いの怪物・d23659)が、誠十郎に視線を送る。
    「い、いや、それは誤解だって! 勘違いしてもらっちゃ困るけど、これって幸運を呼ぶネックレスだから! これでハッピーになった人が沢山いるって、パンフレットにも書いてあったから! だって、あれだよ。これを手に入れてから、宝くじが当たった人や、アイドルデビューしちゃった人までいるんだから、トンデモたまげたな逸品だよっ! それなのに、不幸を呼ぶって……。あり得ない。絶対にあり得ないから!」
     それでも、誠十郎は納得がいかない様子で、幸運のネックレスがいかに素晴らしいアイテムなのかを熱弁した。
    「いや、よく考えてみてください。このネックレスを手に入れてから、不幸な事が起こっていませんか? そう言った意味でも、それって不幸を呼ぶ……極端な事を言えば、呪いのネックレスだと思うんですが……。だって、お話を聞いてますと、どう考えても、それが諸悪の根源にしか……」
     皆無が誠十郎を諭すようにして問いかけた。
    「い、いや、そんな事は……」
     そう言って誠十郎が、視線を落とす。
     言われてみれば、呪いのネックレスのようにも見える。
     しかし、これに継ぎ込んだ金額も、半端ない。
     その上、まだ支払いが残っている。
     そんな状況でネックレスを手放すのは……何だか勿体ない。
     もちろん、皆無の言う通り、幸運のネックレスが諸悪の根源であれば、迷わず捨てる事が出来ただろう。
     だが、万が一その原因が別にあったとしたら……、精神的なダメージは計り知れないモノである。
     それを覚悟した上で、幸運のネックレスを捨てられるほどの勇気が誠十郎にはなかった。
    「佐藤さん、そんなに体を張らなくても、大丈夫ですよ……」
     そんな中、紅羽・流希(挑戦者・d10975)がウクレレで優しいBGMを奏でつつ、誠十郎に語り掛けていく。
    「い、いや、別に体を張っているつもりはないんだが、だったら……捨てるか。うん、捨てよう。捨てるぞ、いいな? こんなものは、ポイだ!」
     そう言って誠十郎が自分の中に芽生えた迷いと一緒に、幸運のネックレスを捨てるのだった。

    ●花見
    「……とは言ってみたものの、支払いが……。果てしないほどの支払いが……」
     その途端、誠十郎が、ずーんと沈む。
     『分割だったら、月々数千円で済みますよ』と甘い言葉に乗せられ、分割払いをしたのが、そもそもの間違いだった。
     手数料が半端ない。シャレにならないほどの金額だった。
    「……ま、今はお花見を楽しもう。食べ物も、いっぱいあるし……。ほら、食べよ! 食べよ! 今日は腹一杯食べよう、な?」
     雄一が苦笑いを浮かべて、誠十郎を励ました。
    「よおおおおおおおおおし、今日は食って、食って、食いまくるぞおおおおおおおおおお!」
     誠十郎が半ばヤケになりながら、まわりにあるものを、次々と口に運んでいく。
     これもすべてを忘れるため。
     忌々しい記憶を消し去るためには、必要な行為であった。
    「とりあえず、消化が良くて飲みやすいスープを作ってきましたので、飲んでくださいねぇ……というか、ESPのドリンクバーが有れば一応、栄養失調にはならないでしょうに……」
     流希が苦笑いを浮かべて、誠十郎に飲みやすいスープを渡す。
    「そ、それは……気づかなかった。そういや、そうだな。いや、冷静になって考えれば、その手があったんだよなぁ……。どうして。その事に気付かなかったのか、自分でもよく分からないんだが……。そうしておけば、ここまで苦労する必要もなかったんだよなぁ」
     誠十郎が乾いた笑いを響かせた。
     その事を完全に忘れていたためか、言われて初めて、その事に気付いたようである。
    「とりあえず、『都会で食べられる野草の本』なるものをあげますので、参考にしてください……」
     流希が色々と察した様子で、誠十郎に『都会で食べられる野草の本』を渡す。
    「おっ! これはイイ! ……と言うか、草って全部、食べられるよな? あと虫も……?」
     誠十郎が真顔でトンでもない事を言った。
    「えっ? いや、草はまだしも……虫は……」
     流希が気まずい様子で汗を流す。
     それ以前に、誠十郎は一体、何を……。
     何を食べていたのだろうか?
     虫と言っても色々あるが、まさか……G!?
     そんな考えが脳裏を過ぎり、嫌な汗が止まらなくなった。
    「い、いや、食べるって言っても、イナゴとかだぞ? ほら、佃煮とかあるだろ? あれだよ、あれ!」
     誠十郎も違う意味で嫌な汗が止まらなくなり、心配した様子で仲間達に視線を送る。
    「ま、まあ、食べる地域もあるようですが、何というか……その……無理をしないでください……」
     皆無が困った様子で、言葉を選ぶ。
     誠十郎が言うように、イナゴを食べる地域もあるのだが、この時期にイナゴがあるか怪しいところ。
     それよりも気になったのが、『イナゴとか』と言う言葉であった。
     あまり想像したくないのだが、イナゴ以外にも……食べている可能性があった。
     もちろん、それを本人に聞けば済む事だが、予想を上回るような答えが返ってきても困るため、聞くに聞けない状況だった。
    「ま、まあ、今日は誠十郎が好きな食べ物を用意しておきましたから、これを食べて元気を出しましょう」
     銀静が誠十郎の好きな食べ物を徹底的に調べた上で、更に食べ物の好み、系統からより幸せになれる物を徹底的に調べ、作ってきた手料理を並べていく。
    「おっ! マジでいいのか? 悪いな、本当に……。くううううううううううううう、どれも俺の好物ばかりじゃねーか! やっぱり、持つべきものは、友達だよなぁ!」
     誠十郎が幸せそうに、銀静の手料理を口に運ぶ。
     寿司、寿司、エビチリ、ローストビーフ。
     炊き込み、おにぎり、唐揚げ、漬物等々……。
     誠十郎が感謝の言葉を口にしながら、次々と料理を口の中に運んでいった。
    「住む所も生活も困ってるんなら、阿佐ヶ谷にある俺の家に来ない? もともと家族で住んでた一軒家だし……。養うってカッコいい事は言えないけど、居候の1人くらい気にしないよ?」
     そう言って雄一が、誠十郎を誘う。
     おそらく、大丈夫。大丈夫……のはず。
    「おっ、マジか!? でも、悪いしなぁ。それじゃ、最初は犬小屋からで!」
     誠十郎が何となく気を使い、愛想笑いを浮かべる。
    「あ、いや、その気遣いって、違うから……。だから、そうやって雨の日に捨てられた子犬のような目で、俺を見ないでくれ。何だか悲しくなってくるから」
     そのため、雄一は涙が止まらなくなった。

    ●誠十郎
    「とりあえず、これで住む場所も確保できたし、スーパーの裏にあるゴミ箱で残飯を漁る必要もなくなりそうだな」
     誠十郎が晴れやかな表情を浮かべる。
     最初の頃は閉店間近の特売品を買ったり、賞味期限が過ぎた投げ売り商品などを買っていたようだが、財布が軽くなるにつれて、こういった事もするようになったらしい。
    「……って、そんな事までしていたの?」
     雄一が驚いた様子で声を上げた。
     ただでさえ、アレな方向まっしぐらに突き進んでいたため、かなり心配しているようだ。
    「あ、いや、もちろん、もふりーと形態で、だぞ? ほら、犬っぽいし」
     誠十郎が『それなら、大丈夫だろ?』と言わんばかりに胸を張る。
     この様子では、極貧生活が長かったせいで、何が常識なのか、まったくわからず、迷走していたようである。
    「いや、そう言う問題じゃないから」
     雄一が思わずツッコミを入れた。
     誠十郎がどういった意図で反論したのか分からないが、どちらにしても誇れる事はない。
    「結構、店長さんとも仲良くなって、残飯を避けて貰ったりしていたんだがなぁ……。あの異動さえなければ、今でも十分な食糧を確保する事が出来たのに……」
     そう言って誠十郎が何処か遠くを見つめる。
     青空に浮かぶのは、爽やかな笑みを浮かべ、親指を立てる店長らしき姿。
    「まずはバイト探しからですね。雄一さんのところか、ウチの寮か、とりあえず住んでみませんか? 現在、私のいる寮は見るに耐えない男の娘が徒党を組んでおりますが、問題なく馴染めるか、と……」
     流希が苦笑いを浮かべ、誠十郎を寮に誘う。
    「も、問題なく馴染めるって……。おいおい、まさか俺まで男の娘になれって訳じゃないだろうな?」
     誠十郎が気まずい様子で汗を流す。
     残念ながら、そっちの属性がないため、少し引いているようである。
    「それでも、構いませんが?」
     流希がさらりと答えを返す。
    「あ、いや、遠慮しておく。いや、マジで。それで目覚めたら、シャレにならないしな。マジで誰得だよって事になるだろ?」
     誠十郎が男の娘になった自分の姿を思い浮かべ、激しく首を横に振る。
     一瞬でもアリかも、と思ってしまった自分が怖い。
     おそらく、そう言った要素が、何処かに眠っているのだろう。
     そう言った意味でも、ここは遠慮をしておいた方が良さそうだ。
    「やっぱり、仲間がいるってのは良い物ですね」
     皆無がしみじみとした様子で、誠十郎達を眺めた。
     少し前まで闇落ちしていた事もあったが、元病院の仲間達とも再会する事が出来たため、学園との交渉を担当した誠十郎には、今更ながら感謝をしているようである。
    「確かに、そうだな。俺も、それに気づくべきだったのかも知れない」
     誠十郎が辛い日々を思い出し、薄っすらと涙を浮かべた。
     それに気づいた皆無が誠十郎のコップにウーロン茶を注ぐ。
    「……という訳で、貴方にはこの銀のネックレスを進呈します。銀は魔除けの力があります。これで不幸を振り払う事が出来るはずです」
     そう言って銀静が、誠十郎に銀のネックレスを渡す。
     そして、宴は夜まで続くのであった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月15日
    難度:簡単
    参加:4人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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