シャコたん春ツアー!

     岡山県笠岡市。
     とある広場に、ミニバンが乗り付けた。
     中から出てきたのは、赤の全身タイツ数人と、そしてシャコだった。
    「みんなーっ、岡山のアイドル・シャコたんだよ!」
     魚介類・シャコの被り物をした女の子が、『私カワイイでしょ』オーラをぶちまける。被り物からのぞいた顔は、実際、カワイイ。
    「岡山を、シャコをアピールするために、ゲリラライブにやってきたよ! でもでも、あたし1人じゃ大変だからー、そこのお兄さんっ!」
    「うえっ!?」
     シャコたんが、通りすがりの新入社員を指さす。すると、赤タイツに両脇を抱えられ、彼女の前に連れてられていく。
    「な、何する気だよ?」
    「ええとねー、シャコがどんなにすごいかー、見せてあげるの! えいっ☆」
     ばきっ。
     シャコたんの繰り出した超絶パンチが、新入社員をアスファルトに沈めた。
    「てへっ、ちょっと手加減しすぎちゃったかも☆」
     全然そんなことねえよ。

    「シャコのパンチは、恐るべき力を秘めているらしい。その速度は目にも止まらず、破壊力は甲殻類の甲羅すら打ち砕くと……」
     初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)がネットで拾ったらしき知識に身震いしていると、教室に灼滅者達が集まって来た。その中には、シャコ絡みのご当地怪人の出現を推理していた神泉・希紗(理想を胸に秘めし者・d02012)もいる。
    「シャコならパンチを生かしてくるんじゃないかなーとは思ってたけど、ストレートすぎだよ!」
     パンチだけに。
     『シャコたん』こと笠岡シャコ怪人は、地元のシャコをアピールするため、ゲリラライブと称し、あちこちに出没している。その方法は、シャコの身体能力を生かしたパンチ力の証明である。
    「もっと料理をアピールしようよ! 丼とかもあるし!」
    「まあ、それでは普通の方法すぎると思ったのかもしれないし、ただ単にパンチ力を持て余していたのかもしれない」
    「なんか後者っぽい!?」
     次にシャコたんが現れるのは、笠岡市内の駅前ロータリー。
     例によって、一般人をパンチ力の実験台にしようとするので、そこに介入、戦闘に持ち込んでほしい。
     車通りもあるため、どこか適当な場所に戦場を移した方がいいかもしれない。
    「パンチ力をアピールするのが目的なので、決して逃亡することなく、果敢にこちらと戦い続けるはずだ。戦うアイドル。それがシャコたん」
     得意技はもちろんシャコたんパンチ。主にストリートファイターのサイキックを好んで使うが、ご当地キックとご当地ダイナミックも忘れてはいない。一応。そのパンチ力を発揮すべく、ポジションはクラッシャーだ。
     そして、シャコ色の全身タイツを着た戦闘員を3人連れている。こちらも容赦なく撃破してしまって構わない。こちらはクラッシャーが2人、ディフェンダーが1人。技はシャコたんパンチのみ。ただし、シャコたん本人に比べて威力は大きく劣る。
    「可愛い顔してバイオレンス。物理的被害とシャコの風評被害を食い止めるためにも、シャコたんのゲリラライブを中止にしてくれ」


    参加者
    天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)
    神泉・希紗(理想を胸に秘めし者・d02012)
    黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)
    羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908)
    ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)
    船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)
    蒼井・苺(中学生デモノイドヒューマン・d25547)
    貴夏・葉月(地鉛紫縁は原初と終末のイヴ・d34472)

    ■リプレイ

    ●笠岡でシャコたんと握手!
     次のライブ会場へ向かおうとしていたシャコたん一行の前に、2人の少女が現れた。
    「あなたがシャコたんさんですねぇ? 是非、来てほしいイベントがあるんですぅ」
     そう言って船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)から手渡されたチラシに、目を通すシャコたん。
    「色んなものを砕いて力比べ……へえ、面白そう! でも、この後予定があるんだ。ゴメンネ☆」
    「なに? もしかして、希紗に負けるのが怖いのかな?」
     営業スマイルで断るシャコたんを、神泉・希紗(理想を胸に秘めし者・d02012)が煽った。
    「あなたもパンチ力に自信があるみたいだけど、希紗に比べたらまだまだかな!」
     ちなみに可愛さでは勝負するまでもないと思っている。
     だが本人以上に憤慨したのは、赤タイツ達だ。
    「何ィ!? シャコたんのパンチなめんな!」
    「そうだ! マジえげつねえんだぞ! ごふう!」
    「みんなはちょっと黙っててネ☆」
    「ありがとうございますご褒美です!」
     倒れる赤タイツ。
     これがシャコたんパンチか。リアルに、打撃の瞬間が見えなかった。
    「これでもまだまだかなあ? いいよ、予定変更! イベントにゲリラ参加しちゃう☆」
    「マジすかシャコたん!」
     騒ぐ赤タイツを、シャコたんが轟沈させている間に、亜綾は携帯を確認。別動班からの情報で会場を確認し、到着予定時間を返信。
    「それじゃあ、行きましょうかぁ」
     その頃、駅から少し離れた場所では、ちょっとしたイベント会場がセッティングされていた。
    「地元のシャコを宣伝するのは分かるけど、なぜそこでパンチで物を砕き、人を潰す方向性に……? むしろ、ボクシングや空手の宣伝に近いような気がするわ」
     『砕いてもらいたいものランキング』が書かれたボードを立てながら、羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908)の疑問は深まるばかり。ちなみにこのランキングは、ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)が(テキトーに)付けたものだったりする。
     着々と進む設営。シャコたんの絵が描かれた背景を眺め、黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)が、ふと呟く。
    「というかシャコって、岡山名物だったんだー。食べられるとしたら、回らないお寿司屋さん? 学生にはちょっと敷居が高いわね?」
    「お寿司以外にも、新鮮なうちに塩ゆでにして食べると美味しいんですよ」
     蒼井・苺(中学生デモノイドヒューマン・d25547)が、ジェスチャー付きで語る。
    「へえ、いいわね、それ」
    「後、アナジャコも丸々唐揚げにして食べても……あ、だんだんお腹が空いてきました」
    「ところで、ねえ、シャコの殻剥ける? こう、両側の足の部分を切って、剥くのよ」
     なおもシャコの話に興じる苺や、貴夏・葉月(地鉛紫縁は原初と終末のイヴ・d34472)。
    「意外とネタが豊富でゴザルな、シャコ。さあて、後はシャコたんの入り待ちデース」
     いそいそとご一行の到着を待つ天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)。
    (「肉弾系女子としては、負けるわけにはいかんでゴザ……いやいや、拙者そんな危険人物じゃないから。ごくごく普通の女子でゴザルから。ちょっと身体能力が高いだけの」)
     ……ちょっと?
     すると、ゆでシャコカラーのミニバンが停車した。中から出てきたのは、亜綾と希紗、そしてチームシャコたんであった。

    ●シャコライブ!(歌うとは言ってない)
     実物のシャコたんを目の当たりにして、ウルスラは、思った。
    「ほほう、これが噂のシャコたん……シャコっていうと何故か、ロボットが出てくるんでゴザルよなぁ……ミサイルとレーザー積んだ奴」
    「よく来てくれたわね、シャコたん。このイベントでは挑戦者に様々なものを砕いてもらい、それを競うの。ちゃんと全国放送されるから、いいアピール間違いなしよ」
     シャコたんにピンマイクを付けながら、説明するヴィントミューレ。
     少し……いや、かなり騒々しくなるだろうが、苺のサウンドシャッターがあれば大丈夫。
     結衣菜が既に殺界形成を使っているから周囲に人気はないし、何があっても問題あるまい。多分。
    「それじゃあ、そろそろショータイムよっ」
     そしてヴィントミューレの合図で、イベントの幕が上がる!
    「じゃあまずは、これからいってもらおうかしら。たくさんあるから、割り放題よ!」
     シャコたんの前に、摩那が用意したクルミが差し出される。
    「それじゃあ、いくよっ☆」
     言うが早いか、クルミが砕けていた。
    「おっとシャコたん、目にも止まらぬ神業! 間近で見てる私にもわからないわ!」
     ヴィントミューレが実況する間にも、まるで勝手に分解したようにクルミが破壊されていく。もはや普通にびっくり人間である。
    「次はこれですぅ」
     続いて、撮影係の亜綾が放り投げたのは、氷の塊。
     かよわい女の子に向けて投げるものではない。だが、相手はご当地怪人。容赦はない。
    「えいっ☆」
     即座に粉砕された氷を、すかさず器で受け止める亜綾。シロップをかけて美味しく食せば、立派なかき氷。
    「なかなかやるじゃない! それなら!」
     希紗がタイヤをポイッと放り上げると、パンチで粉砕してみせる。これぞ、秘技・タイヤ割り!
     ……あらかじめ割れやすく細工してあった事は内緒だよ。
    「さあ、あなたにこれが出来る?」
    「朝飯前だよっ☆ とぉーっ!」
     タイヤの粉砕に夢中になるシャコたん……今こそ急襲のチャンス。
     ヴィントミューレの合図を、目隠し越しに、葉月が受け止めた。
    「『希望の芽吹きを 咲き誇れ』」
     髪が金色に輝き、手には椿の装飾が施された紅大鎌と、花咲誇る日本刀、そして立ち上る影業。
     いざ。葉月達が一斉に斬りかかった。

    ●ペンライトの代わりは殲術道具
    「なっ、何!?」
    「四肢切り落として生皮剥いであげるわ。ぇ、食べるのかって? いや。私、肉食べられないからその辺は」
     慌てふためくシャコたんに、葉月が刀を振るった。光る花弁が花吹雪をなし、衝撃波を纏ってシャコたん達を襲う!
    「ぐわーっ! し、シャコたんのパンチを受けたいなら、まずは俺達を倒してからだ!」
    「面倒だけど、仕方ないわね。菫さん、攻撃してください」
     葉月にこくんと頷き、ビハインドが赤タイツに接敵した。それと狙いを合わせ、ウルスラがダイダロスベルトで赤タイツその1を突き刺す。
     動揺の走る敵陣に駆け込み、摩那が鞭剣を乱舞させる。
    「シャコのマイナーさに我慢ならないのはわかるけど、超絶シャコパンチを一般市民にまで浴びせるなんて許されることではないわ」
     続けて、預言者の瞳で精度を増したヴィントミューレの冷気攻撃、そして亜綾のビームが、シャコたん達を攻める。
     だが、突如シャコたんが消えた。パンチの凄まじい衝撃を生かし、高速で移動したのだ!
     代わりに、霊犬の烈光さんに追い立てられる赤タイツ。
    「ファンをいぢめる悪い人は、私がおしおきしちゃう! いっくよー!」
    「ヒッサツのパンチが来るデス……!」
     身構えるウルスラ。
    「シャコたーん……ダイナミーック☆」
     どごぉん。
     会場に爆発が起こった。ウルスラの体が上下逆さまになり、頭がステージにめりこんでいた。
    「ぷはっ!」
     結衣菜が引っこ抜いた。
    「大丈夫!?」
    「パンチと見せかけてパンチじゃないなんて、とんでもない詐欺行為デス! 訴えるでゴザルよ!」
    「てへっ、間違えちゃった☆」
     シャコたん、舌をペロリ。
    「……こいつ殺っちゃっていいでゴザルよね?」
    「元々その予定ですし、いいんじゃないでしょうか」
     ウルスラの怒りにやんわり便乗しつつ、苺が応急処置のダイダロスベルトを巻き付けた。
    「やってくれたね! 本当の勝負はこれから! 希紗のパンチ力を見せてあげる!」
     シャコたんに向け、希紗の拳が唸る。
    「百裂希紗パンチ!」
    「きゃーっ☆」
     ずどん。セットに叩きつけられるシャコたん。しかしすぐさま立ち上がり、
    「それで勝ったつもり? 私のパンチの方がずっと素敵だよ……えっ?」
     不意にイベント会場に響いた歌声が、シャコたんを振り返らせる。
     結衣菜の癒しの歌だ。
    「あなたもアイドルなら、もっと穏便な方法でアピールしないといけないと思うわ」
    「シャコたんは音痴なんだよぉー!」
     一斉に反撃する手下の皆さん。そのパンチより、さらっと明かされた事実の方が重い。
     だが。
     霊犬・胡蝶の夢が撃ち出す六文銭の雨、そして仲間達の攻撃。
    「あーもうダメだー」
     結衣菜の歌が終わる頃には、誰一人として立っている手下はいなかったのである。

    ●アンコール……は無しよ
     苺からの回復を受け、希紗がステージ上を駆ける。そして必殺の、
    「希紗パーンチ!」
     シャコたんのボディに炸裂した。……マテリアルロッドが。
    「今のパンチ? ねえパンチなの?」
    「これもパンチ! 広い意味で!」
    「開き直ったあー!」
     煩い静かに。菫さんの霊障波が、シャコたんの着ぐるみ甲殻に亀裂を走らせる。そこに、狼に変じた葉月の影が噛みつき、強引に引きちぎる。
    「もーっ、乙女のシャコ肌に傷をつけるなんて! 秘密のパンチ、見せちゃうゾ☆」
     シャコたんが、あざとくウインクしたかと思うと、ぐるぐると腕を回し始めた
     今度こそ、虎の子のシャコたんパンチが、来る。矢面に立つのは、守り手の摩那。
     どう受け流すか。既に摩那はシミュレーション済みだ。手には、厚手のお料理ミトン。
    (「パンチが来たら、勢いのまま、ぐるりと回転して……」)
     回転した。
     回転して、吹き飛ばされた。失敗である。
    「いいパンチ、持ってるわね……!」
     どさっ、と倒れる摩那の元に、結衣菜が駆け付けた。
    「安心して! 私が居る限り、誰も倒れさせたりは、しない! 後ろは任せて頂戴!」
    「後は拙者達に任せるデェース!」
     ウルスラが機敏な挙動でシャコたんを翻弄すると、解体ショーを披露する。再三に渡る攻撃で殻をはがれたシャコたんは、ほとんど丸裸だ!
    「そろそろお迎えの時間ね。戯れはこの位にして……受けなさい、これがあなたに対する洗礼の光よっ」
     狙いすましたヴィントミューレの光撃が、シャコたんを貫通した。だが、
    「まだまだ倒れないよ。このパンチにかけて☆」
    「なら、行きますよぉ、烈光さん」
     亜綾が、諦め顔の烈光さんを掴んで、シャコたんの顔面めがけてぶん投げた。
    「目が! 目が!」
     シャコたんがじたばたするごくわずかの隙に、跳び上がる亜綾。そのまま、重力加速度を味方につけると、突撃!
    「必殺ぅ、烈光さんミサイル、グラヴィティインパクトっ」
     突き刺さるバベルブレイカー。一呼吸おいて、トリガーを引けば、
    「ハートブレイク、エンド、ですぅ」
    「みんなーっ! シャコたんがいなくなってもシャコをよろしくねーっ☆」
     爆発!
     それは、アイドルらしく華やかで、怪人らしく派手な散りざまであった。
    「向こうで存分に砕くといいわ。そう、地獄とか……ね」
    「……やれやれ」
     ヴィントミューレの葬送の言葉の後、一礼して無言で踵を返す葉月。シャコたんがアイドルという光なら、葉月は闇に生きる灼滅者なのだ。
    「そうだ、今度、私達も合体技、試してみましょうか」
    「!?」
    「冗談ですよ」
     二度見してくる胡蝶の夢を、苺がなだめた。
    「さあ、後は片付けね。これも食べてしまいましょう」
     砕かれたクルミを、皆と美味しくいただく摩那。
     それから会場を撤去していく苺だが、頭をよぎるのはやっぱりシャコの事。
    「お土産のシャコ、忘れないようにしないとですね」
    「あ、そだ。ここでもシャコ料理、食べてかない? せっかく笠岡に来たんだから、ね?」
     結衣菜が、皆に誘いかける。
     シャコの知名度を上げるというシャコたんの野望は、叶ったのかも知れない。
     少しだけ。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ