暗黒通り大乱劇 ~チャイナタウンの夜~

    作者:空白革命

    ●暗黒通りの襲撃
     ネオン輝く中華街。
     男達が歩いていた。
     世間様に顔を出せぬ彼等であれど、生きていられる場所はある。
     しかしこの日ばかりは……。

     道の真ん中に、鉄の仮面で頭を覆った男達が立っていた。
     鉄仮面たちはふっくりと振り返り、男達も足を止める。
     男達とて素人ではない。自らに降りかかる殺意を敏感に感じ取り、素早く身構える……が、しかし!
     鉄仮面たちは凄まじい俊敏さで彼らの背後に回り込むと、首根っこを掴んで背負い投げ、アスファルトに頭から叩きつける。
     驚き振り返るの束の間、正面から別の鉄仮面が突撃。地を蹴って跳躍すると、切り裂かんばかりの強烈な回し蹴りを繰り出した。
     男達の意識が保てていたのは、そこまでである。
     

    「ノーライフキングの事件を察知できた。ただし眷属、アンデッドだけだが……」
     所変わって武蔵野学園。
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は灼滅者たちを集め、事件の説明を始めていた。
     曰く、アンデッドが一般人に夜襲をかけ、良質な素体を回収しているという事件である。
    「アンデッドは強力なものになれば他のダークネスとも渡り合うと言われる程ハイスペックな眷属だ。今回はノーライフキングの尻尾すらつかめない状況だが……いや、そちらを気にしている余裕はないと言うべきかもしれないな」
     
     今回敵となるアンデッドは10体。
     そのうち9体は鉄仮面にスーツ姿という奇妙ないでたちだが、戦闘能力は高く連携にも優れているという。
     だが特に注意すべきは残りの1体だ。
     彼は黒いスーツに鉄仮面と言うところまでは同じだが、複雑な紋様を仮面に刻んでいる。この一団を率いているのも彼らしく、戦闘力も他と一線を画しているのだ。
    「彼等の武器は主に格闘だが、場合によっては遠距離対応もしてくる。襲撃の場所とタイミングは分かっているから、こちらから乗り込んで逆に撃破してやろう。それだけ激しい戦闘が待っているが……」
     ヤマトは最後にぐっと拳を握り、目に闘志を燃やしてあなたを見た。
    「魂を燃やして戦えば、奴等にだって負けない筈だ。そうだよな!?」


    参加者
    艶川・寵子(曖慾・d00025)
    風嶺・龍夜(闇守の影・d00517)
    東雲・由宇(神の僕(自称)・d01218)
    柏木・蘭花(黒の豪火・d03232)
    芥川・真琴(Sleeping Cat・d03339)
    天倉・夏奏(棘のある花・d03476)
    氷上・蓮(白面・d03869)
    及川・翔子(剣客・d06467)

    ■リプレイ

    ●ネオン街の夜
     ぱちぱちと明滅する屋上大型ネオン。
     屋上の淵に、光を遮る人影があった。
     パープルの光を背に受けて、氷上・蓮(白面・d03869)は肉まんを齧ってる。
    「あ、いいなー。買って来たんだ?」
     横から覗き込むように腰を屈める東雲・由宇(神の僕(自称)・d01218)。
    「私もふかひれスープとか……後で行こうかしら」
    「……」
     蓮は沈黙のまま最後の一かけらを頬張ると、屋上の淵。つまり絶壁ですくっと立ち上がる。
    「そろそろ、行かなきゃ」
    「みたいね。変な恰好の連中、シバいてきますか」
     二人はビルの屋上から飛ぶと、隣接したビルへと飛び移る。
     夜空を照らすネオンの光を、二つの影が横切って行く。

     そんな二人を真上に見る形で、ビルの谷間に少女が三人。
    「スーツに鉄仮面ですって、ダサダサですよねー、ふふ」
     じゃっかんゆるめの袖で口を覆う天倉・夏奏(棘のある花・d03476)。
     傍にいた芥川・真琴(Sleeping Cat・d03339)横顔を、通り過ぎる車のヘッドライトが照らした。
    「つめたい人達が、熱を奪いにやってくる……それは、だめだよね。眠りは、温かい方がいいよね」
     ビルの谷間はあまり広くは無い。
     艶川・寵子(曖慾・d00025)は奥のフェンスに背を預け、紙を無造作にかきあげた。
    「確かに、そういうシュミは無いわねぇ。一方的な蹂躙もチョットときめかないわ」
     ちらりとビルとビルの間から覗く通りを見やった。
    「がんばりましょ?」

     ネオン瞬く中華街。
     人工の花園が如く乱れ咲く道のまんなかで、柏木・蘭花(黒の豪火・d03232)はじっと佇んでいた。
     背後より足音。
     複数だ。
     揃いの黒革靴に黒スーツ。
     中心の一人が何処からともなく青龍刀を下げると、歩調を早め、やがては駆け、そして蘭花へと飛び掛った。
     アップにした髪の、やや細い首へ正確に振り込まれる青龍刀。
     刃が肌を斬ろうかと言うその時、何処からともなく現れた鉄塊が遮った。
     ほんの僅かに振り向く蘭花。
    「なるほど、そうやって一般人を襲っていたわけですか」
    「――ッ!」
     殺気を感じて素早く飛び退く黒スーツ。
     彼の鉄仮面に斜め方向の深い刀傷が刻まれた。
     何故か?
     蘭花と彼の間を高速で横切った黒い影――否、風嶺・龍夜(闇守の影・d00517)のブレードが閃いたからである。
    「首を斬り損ねたか。だが次は無い」
     逆手に持っていた刀の柄を返し、影業を露出させる。
     その途端、黒スーツの男達は一斉に身構えた。
     蘭花と龍夜の二人にそこまで警戒した、というわけではない。
     ビルの上から、谷間から、彼らの仲間たちが続々と現れたからである。
    「というわけで、早速楽しむとしましょうか」
     日本刀を抜き、鞘を捨てる及川・翔子(剣客・d06467)。
     着物の裾を翻し、ビルの屋上から飛び降りた。

    ●月の光が消える町
     宙を舞う翔子。
     下方からの風をまるで感じさせずに腰を捻ると、大きなスイングと共に月光衝を発射した。前後上下バラバラに回避行動をとる黒スーツたち。
     翔子はそれも織り込み済みとばかりに黒スーツの一体目がけてフリーフォールアタックを仕掛けた。
     逆手に持った刀を垂直に突き立てる。
     大きく上方向にトンファーを払う黒スーツ。
     ギリギリのところで翔子の刺突が反れる……が、ビルの谷間から飛び出してきた夏奏の刀が彼の背中をバッサリと斬った。
     素早く振り向いて薙ぎ払いをかける黒スーツ。前屈みに避ける夏奏。トンファーは遅れて動くポニーテールだけを打ち、お返しとばかりに黒スーツの顎にぴたりとガンナイフの切っ先が当たった。片眉を上げる夏奏。
    「あっと、ごめんなさいね」
     トリガーを引く。頭部を貫通し、脳漿と共に飛んだ弾丸がネオンのひとつを破壊。飛び散った火花が倒れた黒スーツへと降り注いだ。

     その一方。
     寵子がやたら低姿勢になっていた。自動販売機の下に手を入れるが如く、とでも言おうか。
    「惜しいわね、あともう少しで絶妙なアングルからのチラリズムが……あ、それどころじゃなかったわ」
     思い出したように起き上がると胸の谷間から十字架を抜いた。
     一度くちづけをすると、鎖を引き千切って高々と放った。
    「いけないコにはお仕置きね。手伝ってくれる、由宇?」
    「はいはい、光あれってね!」
     ビルの屋上から飛び降りながら聖書を翳す由宇。二人の十字が合わさり、二重のセイクリッドクロスとなって輝いた。
     一瞬だけだがネオンの光を押しのけ、光条が広がる。思わず腕で目を覆う黒スーツたち。
     その隙を由宇は見逃さなかった。
    「じゃあね、今度こそ昇天しなよ!」
     着地と同時にバスターライフルの照準をセット。湧き上がった影業を直線状に発射すると黒スーツを飲込んだ。影が由宇へと戻った時には、黒スーツは物言わぬ屍と化していた。
     手刀を構えて反撃に出る二人の黒スーツ。
     周囲の壁や看板を蹴りながら立体ジグザグ移動で迫ってくる。
     蓮は手裏剣を扇状に開いて投擲。
     そのほとんどをギリギリのところで回避していく黒スーツ。
     だがそのうちの一つ。やや大き目な手裏剣には妙な導火線がついていた。
     カツン、と壁に突き刺さる。黒スーツの真後ろである。
     はっとして振り返るが既に遅い。蓮はやや顎を上げて目を細めた。
    「……どーん」
     壁ごと粉砕して爆破する手裏剣。黒スーツたちが地面を転がった。
     起き上がろうとした所へ、鉄仮面にぺたりと導眠符がはりつく。うつ伏せに倒れる黒スーツ。
     だがもう一人は違った。飛来する導眠符を転がって避け、更に突進。
     護符を投げた真琴目がけて大きく跳躍した。
     目を反らす真琴。
    「寒いのは、嫌いだな」
     袖から護符を引き抜き、薙ぎ払うように振る。
     炎を上げる護符。
     彼女の腕と、360度キックを繰り出した相手の脚が相殺した。
     炎を間に挟み、鉄仮面と真琴の視線が一瞬だけ交わる。
    「熱は命、ココロは焔。それは、取り戻せないものだよ……あなたにはもう、無いんだよね」
     それとも、と言って目を伏せる真琴。
    「取り戻せないから、欲しいのかな」
     彼女の目の前で、黒スーツが炎に包まれていく。

     黒スーツたちが次々と倒れていくのを、リーダーが黙って見ていたわけではない。
     紋様つきの仮面にネオンの光をぼんやりと映し、鋭いハイキックを繰り出した。
     それを鉄塊の如き剣で受け止める蘭花。しっかりとエッジ部分で受けている筈なのに、相手の脚は切れ目一つついていない。まるで鋼を打たれたかのようだった。
     蘭花の額にじっとりと汗が滲む。
     しかし。
    「貴方の相手は私です。気を反らす隙など与えません――参ります!」
     肩でタックルをかける。体勢を崩すかとおもいきや、模様付きは雑技団のようなバク転で後退した。
     それを素早く追いかける龍夜。胸の前で腕をクロスさせると、両手に刀状の影業を握った。
    「思い通りに戦わせはせん――参る!」
     高速で次々と繰り出される龍夜の斬撃。
     それを相手は上体の動きだけで連続でかわしていく。
    「この動きっ」
    「――!」
     アスファルト上で踵を捻る紋様付き。龍夜の連撃が途切れるコンマ一秒の隙を狙って右足での浴びせ蹴りを繰り出してきた。
     ギリギリで身体を反らす龍夜。鼻先を尖った革靴の爪先が通り過ぎる。
     が、その直後にもう一本の脚、つまり左足の踵が側頭部を狙って繰り出された。
     三半規管をシェイクされる龍夜。道端の置き看板を破壊しながら建物の壁に叩きつけられた。
    「流石に、やるな……!」
     額から血を流して起き上がる龍夜。蘭花が間に入って剣を構えた。
    「他の皆さんがカタをつけるまでの辛抱です」
    「分かっている。この程度、想定内の強さだ」
     蘭花と龍夜は紋様付きを相手に、明らかに苦戦を強いられていた。

    ●アンデッド
     黒服が空中で前転し、飛び蹴りを繰り出してくる。
    「無駄よ!」
     由宇は聖書を開くと数ページ破り取り、眼前へと投げた。
     輝きと共に防壁を展開。由宇の額から二十センチの位置で相手の靴底が停まった。
     その靴底めがけてバスターライフルの銃口を叩き付け、力の限りトリガーを引きまくる。
     クロスした腕で防御し、飛び退く黒スーツ。
     途中で射撃が鉄仮面に命中し、ビシリとヒビを入れた。
    「…………」
     護符を両手に持ち、炎翼を展開する真琴。
     由宇の頭上を軽々と飛び越えて行くと、黒スーツの横を豪速で突っ切って行った。
     きりもみ回転する黒スーツ。彼の頭部から鉄仮面が砕けて飛び、素体だけが地面を転がった。
     アスファルトに二つの焦げ跡を残しつつ着地する真琴。
    「……そっか」
     呟き、焼き焦げた護符を捨てた。
     由宇が思わず口元を覆う。
     彼女の後ろに倒れた死体は、頭部がまるごと火傷跡に覆われていた。
    「熱かったんだね」 
     振り返る真琴。
     恐らく『おなじような』顔をしているであろう、紋様付きの男が油断なく身構えている。
     あとは彼一人を倒すだけだ。
     だが、それが一番難しそうだ。

     蘭花の豪快な横一文字スイング。
     その下を足を大きく開いて通り抜ける紋様付き。長椅子の下をも潜れる程の低さでありながら体勢は安定している。
     アスファルトに円形の焦げ跡を残しながらターンすると、蘭花の背中に掌底を打ち込んだ。
     目を見開いて肩を痙攣させる蘭花。急激に力が抜け、うつ伏せに倒れそうになるのを寵子がギリギリの所で抱き留めた。
    「蘭花、大丈夫!?」
     うっすらとではあるが意識を取り留めた蘭花に回復をかける。
    「悔しいわね」
    「……すみません、でもそれだけの強さです。持たせるのもそろそろ限界に」
    「状況が状況ならこのまま揉みしだいているものを!」
    「さっきの『すみません』を返してください」
    「ごめんなさい、アンデッドがせめて巨乳秘書なら楽しめたものを」
    「聞いてますか?」
    「いやらしいは正義!」
    「聞いてないんですね、そうなんですね!」
     無駄に颯爽と紋様付へ飛び掛る寵子。腕を異形巨大化すると、力任せに殴りつけた。
     それを正面からパンチで相殺する紋様付き。
     ……いや、相殺ではない。寵子の巨腕からまるで破裂寸前の水道管が如く次々と血が噴き出した。
    「うそっ!?」
     ばちんという音と共に腕が爆ぜ、弾き飛ばされる寵子。
     素早く背後に回り込む夏奏。同時に翔子が側面から刀を叩き込んで行く。
     夏奏は下段で脛を斬りに行き、翔子は上段から首を裂きに行った。
     全く隙の無い同時攻撃だった。その筈である。
     しかし翔子の刀は人差指と親指でつまむように止められ、夏奏の刀は靴底と地面に挟んで止められた。
     力をそのまま流すように、翔子の身体を夏奏へと放る。咄嗟に彼女を受け止め、地面に倒れる夏奏。
    「すごい動き、仮面はダサダサなのに」
    「下がっていろ!」
     高速で接近し、首を狙った斬撃を叩き込む龍夜。
     同時にふらりと背後に現れた蓮が手裏剣をカッターのように構える。
     二人の斬撃が繰り出される直前、紋様付きは素早く屈み蓮へ足払い。お互いの首を斬りそうになって咄嗟に身体を捻る龍夜と蓮。
     紋様付きはその隙をついて二人に掌底を繰り出した。
     もつれあうようにして飛び、二人は路駐された自転車の列へと突っ込んだ。
    「ちょっと! てこずり過ぎじゃない?」
     追撃をかけようとする紋様付に牽制射撃をしながら割り込む由宇。
     遅れてきた真琴も少し警戒した目をしていた。
     自転車を薙ぎ払って立ち上がる龍夜。
    「いざとなったら闇堕ちしてでも倒すまでだ。だが、その必要はないだろうな」
     見ると、紋様付きは頭を押さえて低くめいていた。
    「死者にもトラウマがあったか、紋様付き」
     ニヤリと笑う龍夜。そう、彼は突き飛ばされる寸前にそっとトラウナックルを打ち込んでいたのだ。
    「チャンスです、畳み掛けましょう!」
    「オッケイ、回復はちゃんとするから、安心して思い切りヤっちゃって!」
     テヘペロ的な顔をして親指を立て(?)る寵子。
     彼女のシールドリングを受け、蘭花は紋様付へと突撃した。
     咄嗟に繰り出された蹴りがシールドに阻まれ、強烈な蘭花のスイングが腹部に炸裂。
     紋様付きの身体が高々と打ち上げられた。
    「大人しく死体に戻ればいいのよっ」
     打ちあがった所に由宇がジャッジメントレイを打ち込む。身体を貫く光。
    「騒がないで、ね」
    「……」
     跳躍した真琴と蓮が無表情のまま腕を振り上げる。
     手裏剣と護符をカッターのように握ると、二人同時に紋様付きを叩き落とす。
    「奥義ノ参、薙旋!」
     落ちて来た所に龍夜の斬撃が炸裂し、交差するように夏奏と翔子の斬撃が続けて撃ちこまれた。
     最後の一撃で鉄仮面がばっくりと二つに割れる。
     内側から覗いた顔は、真っ黒に焼け焦げていた。
     どさりと地面にころがる死体。
     そう、もう彼は、ただの死体へと代わっていたのだった。
     仮面の片割れを、蓮と龍夜が其々拾い上げる。
    「死を偽る者の仮面……か」
     蓮は表面を撫でて。
    「変な模様……だね」
     そして、道端へ捨てた。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 11/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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