暴虐のきょうい

    作者:小茄

    「えー……今日は、俺の引退式を開いてくれて本当に有難う。振り返って見れば、なんかあっという間だった気もするけど」
     この日、ヘルズエンジェルを名乗る小さな暴走集団のアジトで、数年に渡りヘッドを勤めてきた青年の引退式が執り行われていた。
    「俺は引退するけど、心は常にお前達と一緒だし。それに、新しいメンバーも入ってくれた訳だから、これからも――」「うぎゃっ!?」
    「な、なんだ!?」
     感動的(?)な挨拶の途中、響くマヌケな悲鳴。
     そちらを観れば、団員の一人が地面にキスしたままピクピクと痙攣している。
    「ようてめぇら、そんなにはしゃぎたいなら、アタイが相手になってやんよ」
    「な、何だお前。痛い目に遭いたぐほぁっ!?」
     そこに居たのは、マスクを被ったツーテールの女。プロレスラーの様に派手なコスチュームを纏っている。
     背格好や声から察するに十代にも思えるが、その胸は豊満であった。
     それはともかく、詰め寄った団員の頭を掴むと、その顔面を自らの胸に押し付け……もとい、叩きつける。
    「このアマぁ! 俺達のアジトで、しかも俺の引退式でふざけた真似は許さねぇ!」
     ヘッドは激怒し、彼女に掴みかかる。
     彼はかつて、柔道部に所属していた事もあり、腕には覚えがあった。
     ――ガシッ!
     力比べをする様に、組み合う二人。
    「ぐっ?! こ、コイツ……」
     体格的には圧倒的にヘッドが有利だが、見た目通りにはいかなかった。見る見るうちに、覆面少女が圧倒して行く。
    「だ……だが、動けなければ……お前ら、コイツを捕まえろ!」
     組み合ったまま、ほぼ密着状態の二人。
     倒れて居た団員が、少女の足をガシリと捕まえる。まさに絶体絶命。
    「手足を封じただけで、アタイを封じたつもりか?」
     しかし不敵に笑った少女は、全身に纏わせていた闘気を胸部に集中させ、相撲の「寄り」よろしく胸を相手に押しつける。
    「がはぁっ!!」
     見た目的にはとても攻撃とは思えない、その僅かな挙動により、数メートルは宙を舞って吹き飛ぶヘッド。
    「まだアタイと遊びたいか?」
    「……い、いえ。参りました!」
     マスクから覗く鋭い視線。
     それ以上に、威圧的に揺れる胸部に恐怖を覚えた団員達は、白旗を揚げたのだった。
     
    「一美が以前聞いたと言う爆乳アンブレイカブルの話、どうやら確かだった様ですわね」
     自分はこれからだし、と言う思考で特に感情を籠めず言う有朱・絵梨佳(中学生エクスブレイン・dn0043)。
    「パワーと乳ビンタで圧すると言う?」
    「そう、それそれ」
     小首を傾げて尋ねる佐藤・一美(凍姫・d32597)。彼女もまた、圧倒的胸囲の持ち主であった。
    「アンブレイカブルと言っても、彼女――三崎・真月(みさき・まつき)はまだ完全にダークネスになった訳ではありませんわ。しかし闇堕ちから救い出さなければ、いずれはそうなってしまうでしょう」
     ダークネスになりつつある彼女と戦い、可能ならば救い、不可能であれば灼滅するのが今回の任務だ。
     
    「真月は今、とにかく戦いに飢えてストリートファイトに興じていますわ。怪我人を出したり、倒した暴走集団を手下にしたり、このままだと被害も拡大してしまうでしょう」
     差し当り、現在は暴走族がたまり場にしていた廃ビルに居着き、次の標的を物色中だと言う。
     こちらから殴り込みを掛けるのが手っ取り早いだろう。
     廃ビル内は広さ、足場、視界共に良好だという。戦うには都合が良さそうだ。
    「先述の通り、彼女にはまだ人間としての心も残って居ますわ。説得が通じる可能性もありますので、言葉を掛けるなりなんなり、試してみる価値はあるかも知れませんわね」
     手下達は、強化一般人として真月の手下になっている。戦力としては低いが、戦闘になれば、群れを成して襲いかかって来るだろう。
     
    「貴方達なら心配は要りませんわね。吉報をお待ちしておりますわ」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)
    聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)
    海濱・明月(金髪爆乳明月ちゃん・d05545)
    ゲイル・ライトウィンド(ホロウカオシックコンダクター・d05576)
    イヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)
    佐藤・一美(凍姫・d32597)
    風上・鞠栗鼠(剣客小町・d34211)
    華上・玲子(高校生ご当地ヒーロー・d36497)

    ■リプレイ


    「なんだお前ら?」
     廃墟ビルの一角。
     ガラの悪い暴走集団のアジトに、好んで立ち入る人間がいるだろうか。居るとすればそれは――
    「私はプロレスラー稲垣晴香! この名前、覚えておくといいわ!」
     ピンクのスウェットを脱ぎ捨て、真紅のリングコスチューム姿を披露する稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)。
     鍛え上げられた精悍な肉体は紛う方なきアスリートのそれ。しかし圧倒的な胸部の膨らみが、同時に健康的な色気を醸し出す。
    「レスラーが何の用だ? 力比べでもしようって言うのかい?」
     上座からゆっくりと立ち上がる覆面少女。今やこの集団のヘッドとなった三崎・真月(みさき・まつき)である。
    「あたし海濱・明月。……同じ仲間として、救いに来たよ!」
     対峙する真月とは名字も名前も語感が近く、シンパシーを感じている様子の海濱・明月(金髪爆乳明月ちゃん・d05545)。
     ただしスタイルに関しては、真月を遥かに凌ぐワガママボディである。
    「助けられる筋合いなんざ無いよ……アタイを助ける前に、自分達の心配をした方が良いんじゃ無いのかねぇ?」
     威圧的な態度と口調で言う真月だったが……
    「おぉー」
    「……何観てんだ」
    「これが美乳ヒールレスラーか!」
     気圧される様子も無く、歓声を上げながら真月を見上げるイヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)。
     背丈は小柄だが、そのスタイルに関しては大人顔負けだ。
    「スタイルが良いのは羨ましいな。……私は闇堕ちして胸が大きくなりすぎたから」
     同じく、「凶悪な程」に育った胸を持つ華上・玲子(高校生ご当地ヒーロー・d36497)。
     均整の取れた真月のスタイルを観て、ため息交じりの感想を漏らす。
     ちなみに、闇堕ちしたからと言って皆が豊かな胸を手に入れられるワケではないので注意が必要だ。
    「中々よい胸をしてますね。けれど、その方達と徒党を組んで闘う貴方は、満足してないのではないですか?」
    「アタイだって、ケチなケンカに明け暮れようってんじゃないんだ。武名を轟かせる為の布石さ」
     今回の事件を察知した当人である、佐藤・一美(凍姫・d32597)の問い掛けに、腕組みをして胸を強調しつつ答える真月。
     自分より豊かな胸を持つ少女達を前に、やや対抗心を燃やしているのかも知れない。
     豊かな胸は豊かな胸同士引かれ合う……かどうかは解らないが、一美もまた、その豊かな胸で数多の乳の刺客を返り討ちにしてきた(?)過去を持つ。
    「謎の覆面レスラーもええけど、こない不良らぼこぼこにして……今の姿、可愛い妹はんや弟はんら見たら泣くで」
    「なんで妹達の事を!?」
     牛乳によりその見事な胸を育て上げたと言う、風上・鞠栗鼠(剣客小町・d34211)のはんなりとした訴え掛けに、真月は明らかに動揺した様子。
     覆面レスラーにとって正体バレは死活問題だ。
    「今のアタイは、昔のアタイとは違う! 力と胸で武を極める……炎乳天使、マッキ!」
     軽く痛々しいが、本人は大まじめだ。
    「語るのならあえて云いましょう! 野蛮に倒すのは武に非ずそれは乳も同様。美を持ってこそ真の乳技あり」
    「だったらどっちの武が、どっちの胸が上か、はっきりさせようじゃ無いか!」
     一美の言葉にプライドを刺激され、ファイティングポーズを取る真月。
     さて、圧倒的胸囲が支配するこの空間ではあるものの、灼滅者側にも男子は存在する。
    「まっ、楽しもうか。暴君の宴をな」
     乙女達の会話を邪魔する事なく、静かに殺界を形成していた聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)。
     彼も女の子は大好きと言うが、あからさまにおっぱいおっぱい連呼したりはしない、クールガイである。
    「まあお付き合いしましょう」
     こちらも、静かにスレイヤーカードを解放するゲイル・ライトウィンド(ホロウカオシックコンダクター・d05576)。
     飄々と微笑む彼も、きっとおっぱい好きではない筈だ。


    「ぐはっ!」
     きりもみ回転しながら吹き飛ぶゲイル。
     果敢にも真月に接近戦を仕掛けた彼は、反撃の体当たり……もとい、乳当たりを食らう。
    「男ってのは、人の胸ばっかジロジロ見やがる」
     良く、男子が胸をチラチラ見てるのバレてるからね? みたいな話があるけれど、ゲイルの場合その様なムッツリな真似はしない。ガン見であった。
    「……どうもね、面倒見いい人って溜め込む傾向あるんですよね。貴方もはしゃぎたかったんじゃないですか、たまには?」
     ゆらりと立ち上がった彼は、見透かしたように問う。
    「な、何勝手な推測を! お前ら、コイツらを黙らせな!」
    「「おぉっ!」」
     真月の号令一下、男達は武器を手に取り、一斉に襲いかかる。
    「私と、そして私達と戦って、世の中の広さを思い知るといいわ! さぁ、手下ともども、可愛がってあげる。かかってらっしゃい!」
    「ほざけっ!」
     挑発的に言う晴香に、男は鉄パイプを振り下ろす。
     ――ガキンッ!
     鈍い金属音が響く。仁王立ちの彼女の肩に、鉄パイプがクリーンヒットしたのだ。
    「な、に?!」
     だが、晴香はそのまま男の腕を掴むと、一本背負いの要領で床へとたたき付ける。
    「ぐはっ……馬鹿な!?」
     すぐさま立ち上がろうとする男の視界に広がるのは、宙を舞う晴香の肢体。
     トップロープからの様な高低差こそ無いものの、92のFを擁する彼女が飛びかかったのだから、迫力は十分。
     ――ズンッ。
    「がはっ!?」
     豊かな胸に潰されて死にたい。その夢を叶えられる人間が、果たしてどれ程いるだろうか?
     男の死に顔は、不思議と安らかであった。(生きてます)
    「畜生!」
     仲間の仇討ちとばかり、金属バットを振り上げて迫る男。
    「ほら見て、明月のこの胸囲!」
    「!?」
     が、その圧倒的な胸をこれ見よがしに揺らしながら情熱的に踊る明月。
     ――たゆん。
    「ぶはっ!!」
     遠心力で威力を増した胸ビンタが、男の顔面を打ち据えた。
     倒れ伏す彼もまた、その表情は穏やかであったと言う。
    「なんだこのパイオツカイデーのチャンネーどもは! 女だと思うな!」
     彼らも気合を入れ直し、連携を取りつつ襲い来る。
    「これが暴君の拳だ。その体に刻むが良い!!」
     けれど、その前に立ちふさがったのは凛凛虎。鍛え上げられたその拳を顔面へと叩き込む。
    「ぶげぁっ!! な、なんで俺だけ男に……」
     先頭の男が、血の涙を流しながら吹き飛ぶ。
    「おれ達は三崎姉ちゃんと話があるんだ、邪魔はさせないぜ!」
    「行きましょう、イヴちゃん」
     一美が除霊結界を展開するのに合わせ、イヴが放つ青白い炎。
    「ぎょわぁーっ!」
     男達を瞬時に呑み込み、断末魔の悲鳴が響く。
    「まだ終わらんよ!」
    「仕上げはうちらやね、華ちゃん」
    「オーケー、まりりん♪ ……何で恥ずかしそうにするん? まりりんはあかん……いつもお風呂に入ってる仲やん。あ、これ言ったら駄目だった」
    「この感じ、キマシ?!」
     鞠栗鼠と玲子のやり取りに、男達に電流走る。
     この二人が一緒にお風呂となると、大分お湯が溢れそうだとか、そんな妄想が脳裏をよぎる。
     ――どすっ。
    「ぐおっ!?」
     その間にも、玲子の拳が男の鳩尾を打ち抜き、霊力で編み込まれた網がその身体を縛める。
     しかし彼は元ヘッド、簡単には倒れない。
    「ちとトラウマになるけど……さて、ここでお立ち会い……さる高校で伝わるガングロギャルの哀しき御話」
     身動き出来なくなったヘッドに、鞠栗鼠が語り聞かせるのは怪談「笑う爆乳」。
     今や絶滅危惧種となったガン黒ギャルが、圧倒的乳量で圧倒すると言う恐ろしい話である。
    「お、おっぱいはもうこりごりだぁーっ!」
     断末魔の悲鳴を響かせる元ヘッド。
     胸部恐怖症にならないか少し心配だが、多分大丈夫だろう。


    「その程度のスタイルで天下を取ったつもり? まだまだ甘いわね!」
    「いつまでそんな口が聞けるか!」
     ガシリと組み合い、晴香に対し声を荒げる真月。
     ――バシュンッ!
    「くっ!?」
     組み合ったまま、闘気を纏わせた胸部を晴香に押しつける真月。二人の闘気(と胸)が激しくぶつかり合ってスパークする。
    「やるわね……でもっ!」
     ――ガッ!
    「ぐ、うっ!?」
     表情を歪めた晴香だが、手を解くと雷光の如き鋭さで繰り出すエルボースマッシュ。インパクトの瞬間、電撃が走る。
    「っ、そっちこそ……だけど、この程度!」
     相手の技を受け、そして上回る技を叩き返して魅せる。まさにプロレスのファイトスタイルである。
    「この技を受けて無事で居られた男はいない、食らいな!」
     ――どすっ!
     凛凛虎も今回は相手の土俵で迎え撃とうと言うのか、真月の頭突きならぬ乳突きを真っ向から受け止める。
    「……良い攻撃を持ってやがる。その方が俺も熱くなれるけどな」
    「何っ?!」
     これまでに彼女の乳技を受けた男達とは、明らかに異なる彼のリアクション。真月も驚きを隠せない。
    「だがな、【暴】を名乗るのであれば、拳を忘れるでない!」
    「ぐうぅっ!」
     邪気の籠もらぬ純粋な破壊の力を纏った凛凛虎の拳が、真月の腹部を打つ。
     身体を走る衝撃に、ダークネスの強靭さを持つ彼女も呻き声を漏らす。
    「どうだ。痛いか? 貴様が繰り出そうとした技を受ければ、一般人は痛いではすまなかったぞ?」
    「アタイの胸をジロジロ見てくる様な男は、痛い目に遭って当然だ!」
     彼の言葉に、ムキになって言い返す真月。
    「下の兄弟の面倒を見られる真月さんはとっても母性のある人だと思うんだ。だからその胸はその証で、見てくる人を気にすることはないよ」
     と、そんな彼女を宥めるように言う明月。
     明月自身は、胸に注目される事をそこまで嫌がらない……と言うか、むしろ好む性格ではあるけれど、説得は至極正論である。
    「だからそんな風に、大きな胸を傷つけるための戦いに使うのはいけないよ」
    「黙れっ! アタイはもう、面倒見が良い、皆のお母さんキャラじゃないんだよ!」
     自らの母性を拒絶するかの様に、その胸を武器へと変貌させた真月。明月の言葉を遮るべく、突進する。
     ――たふんっ。
    「?!」
     真月と明月の胸が、正面から衝突する……かと思われたが、そうはならなかった。
     明月はむしろ、真月の胸を包み込むかの様に優しく受け止めたのである。
    「うんっ……いい胸だね! あたしの胸だって負けないけどね!」
    「ぐあぁっ!?」
     溢れんばかりの母性を有したまま、カウンターのバトルオーラを纏う明月。
    「周囲に期待されるキャラから離れて、違う自分に憧れる事もあるでしょう……でも日常から離れすぎてはいけない、呑まれてしまっている」
    「黙れ黙れっ!」
     激昂した真月は、ゲイルの顔をホールドするや、自らの胸の谷間に抑え付ける。決してお色気攻撃ではなく、変則ベアハッグだ。
    「これでもうふざけた事は言えねぇなぁ!? どうせ胸に顔を埋められてラッキーとか思ってんだろうが!」
    「……ふっ」
    「なにっ!?」
     しかし、真月の予想に反してゲイルの瞳は一点の濁りも無く澄んでいた。
     そう、男子は常に女子の胸にどきどきする訳では無いのだ。
     いや、厳密に言うとどきどきはする。するが、それを表に出さない術を習得しているのである。
    「三崎姉ちゃんの気持ちやこだわりは解った。でも、優しい姉ちゃんに戻ってきて貰いたいと思うぞ! 戻って、そしておれを弟子にしてくれ!」
    「わ、わた……アタイは……もう、三崎真月ではないって何度言ったら」
     バベルブレイカーを振るいつつ言うイヴに、或いは彼女に妹や弟達の面影を見たのだろうか、その闘気を翳らせる真月。
    「貴女は強さを追い求めた。けれど、誰が強いではなく受けて凄みを魅せるがレスラーでありエンターティナー。今の貴女に欠けているのは其所です」
    「な、なにを……だったら、これを受けてみろっ!! 今度はカウンターなんてさせない!」
     一美の指摘に、最後の闘気を燃えあがらせながら突進する真月。一際強大なオーラを胸に集中させる。
     ――ぽよんっ。
    「馬鹿なっ!?」
     確実に胸同士がぶつかり合ったかと思われた刹那、一美のそれは柔らかく形を変えながら、真月の攻撃を受け流す。
     時に流れ、時に強く打ち付ける水の如く。千変万化、変幻自在の胸捌きである。
    「三崎はんの為にも、妹はん達の為にも、そしてうちらの為にも……目醒まして貰いましょか」
    「そろそろ終わりにしないとね」
     鞠栗鼠の目配せに頷く玲子。
     ――バッ!
     風が刃となって襲い懸かるのに合せ、玲子の剣が真月の闘気を砕き霧散させる。
    「ぎゃうっ!」
     宙を舞った真月の身体が、バイクの列に突っ込みそれらを大破させる。
    「強いだけのでは、変われないって言うの……でも、っ」
     が、彼女も最後の気力を振り絞る様にして立ち上がる。
    「さぁ皆、決めましょう」
     ――タッ!
     地面を蹴り、無数の乳ビンタを繰り出す一美。閃光の如く真月を打ち据える。
    「ぐ、ぁっ」
    「未来の世界チャンピオンに叩きのめしてもらえるのよ、光栄に思うといいわ!」
    「知るが良い。己の力は世界を変えるものだと!!」
     よろめく真月の背後に回り込み、バックドロップを狙うのは晴香。凛凛虎もこれに呼応しての地獄投げ。ツープラトンバックドロップを見舞う。
     ――ドンッ!
     大の字に倒れる真月。灼滅者達に敗北する事を受け入れた彼女が、フォールを返す事は無かった。


    「うぅ」
    「気がついたみたいやね、これからは刺激求めるのも程々にな」
    「……私、どうかしてたみたい」
     鞠栗鼠から手渡された服を受け取りながら、憑物が落ちたように答える真月。
    「って、これちょっと胸がキツいかも」
    「大きゅうなったんちゃう?」
    「きっと闇堕ちのせいね。それくらいなら大丈夫」
     真月の着替えを手伝ってやりつつ、玲子。
     サイズに纏わる真偽の程は不明だ。
    「貴方達には、迷惑掛けちゃったね……」
    「困っている女性は助けませんとね」
     涼やかに微笑みつつ答えるゲイル。
    「まぁそう言う事だ。あんたに暴力は似あわねぇよ」
     凛凛虎もまた、素っ気ない口調で呟く様に告げる。
    「それじゃあ、行きましょうか」
    「もう行っちゃうの?」
    「貴女も一緒に学園へ。貴女の望む世界はここに有ります」
     手をさしのべ、真月を立ち上がらせる一美。
    「……良いの、かな?」
    「一緒に行こう! あたしたちは仲間だよ!」
    「えぇ、私たちと一緒に来れば、もっと強く、魅力的になれるわよ?」
     逡巡する彼女の背を押す様に言う、明月と晴香。
    「姉ちゃんが学園に来てくれたらおれはうれしいぞ。乳ファイトも出来るし、バトルオーラの扱い方や是非乳ビンタ技の師匠になってほしいぞ」
    「わ、私より上手い人が居る気はするけどね」
     手を引くイヴに、苦笑いしつつ言う真月だけれど、どうやら心は決まったようだ。

     かくして、闇の闇に堕ち掛けた少女を、正しい胸の道(?)へと救い出す事に成功した灼滅者達。
     胸元がキツそうな彼女を伴い、武蔵坂への帰途に就いたのであった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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