突如として武蔵野に姿を現したのは、吸血鬼や魔獣の軍勢。不気味な文様を浮かべた蝙蝠に、翼持つ魔女、異形の馬に跨った騎兵と様々な混在している。
しかも集まったのは吸血鬼ばかりではない。赤い竜、悪魔の眷属、白焔の狼までもが戦列に加わり行軍しようとしていた。
その中心、手足を自ら切り落とした黒翼卿メイヨールが車椅子に乗り、そのハンドルを朱雀門・瑠架が押している。
「灼滅者の戦力は出払ってるし、今回の作戦には、黒の王の完全バックアップが付いているんだ。だから勝利は確実だよ、瑠架ちゃん」
「えぇ、そうですね、メイヨール子爵」
揚々とするメイヨールと対照的に瑠架の表情は優れない。
(「武蔵坂学園を滅ぼすわけにはいかない。どこか良いタイミングでこの軍を撤退させるしかない……。でも、どうすれば」)
思惑と反する展開を打破すべく思案する瑠架。しかしその時、緊急の報が本陣にもたらされる。
「武蔵坂学園の灼滅者が、こちらに向かっています」
将や兵がその言葉の意味を理解した瞬間、軍の中に一気にざわめきが起こった。
「まずは名古屋での戦い、お疲れ様でした。しかし武蔵坂は今危機的な状況に陥っています」
名古屋から戻ってきた灼滅者を少し緊迫した様子で出迎える冬間・蕗子(大学生エクスブレイン・dn0104)。実は黒翼卿メイヨール率いる軍勢がすぐそこまで迫っているという。
「皆さんが帰還したおかげで学園が制圧されることはありませんでしたが、メイヨールは依然として攻撃を諦めておらず、戦いは避けられません」
だが軍勢の中心となっているメイヨールを何とかすれば、敵は軍勢を退くことだろう。急ぎメイヨールの軍勢を迎撃し、メイヨールを灼滅ないし撤退させてほしい。
「ただ、おそらく皆さんが間に合うとは考えていなかったのでしょう。敵軍には混乱が広がっているようです」
この隙を突けば、メイヨールだけでなく他の有力なダークネスを討ち取ることもできるかもしれない。
「前線中央に黒翼卿メイヨール、その後ろに朱雀門・瑠架、前線左翼に竜種ファフニール、右翼に義の犬士・ラゴウが布陣しています。さらに後方にスサノオの姫・ナミダがおり、ソロモンの大悪魔・ヴァレフォールは前線と後方の間で態度を決めかねているようです」
名古屋からの連戦になるが、ここでメイヨールを退ければ武蔵坂の勝利だ。学園を守るために、負けられない戦いとなるだろう。
一方その頃、各軍の指揮官はそれぞれの動きを見せていた。
「僕と瑠架ちゃんの共同作業を邪魔するなんて、許せないね。灼滅者なんて、踏み潰してグチャグチャにしてしまえっ! 突撃ー!」
灼滅者の帰還を知りながらもメイヨールの戦意は全く衰えておらず、意気高く号令を放つ。
(「灼滅者の大返し……。会長が失敗したのか、それとも、これも彼の予定通りなのか。とにかく、最大の懸案は消えたわ。あとは、メイヨール子爵を無事に撤退させれば。メイヨール子爵は、ボスコウなどとは違う、本物の爵位級ヴァンパイア。彼が灼滅されれば、爵位級ヴァンパイアと武蔵坂学園の敵対を止める事はできない」)
しかし瑠架はメイヨールを守ろうと動く。ラゴウも瑠架の意に従うようだが、ファフニールは灼滅者に討たれた同胞の恨みを晴らそうと積極的に灼滅者と戦うつもりのようだ。
「爵位級ヴァンパイアに協力して、楽して力を取り戻す予定だったのに、どうも話が違うねぇ。これは、適当に戦って、折を見て撤退するしかないね」
他方、ヴァレフォールは予期せぬ灼滅者の出現に戦う気を削がれ、軍を退く機を窺っていた。
「黒の王には義理があった。故に軍団の隠蔽は引き受けたが、さしたる意味は無かったようじゃのう。さて、儂らは退く者どもを助けるとしよう。黒翼卿は戦う気のようじゃが……まぁ、死なぬことはともかく、勝つことはあたわぬじゃろうて」
そしてナミダは最後方から軍勢を見渡し、すでに戦局を諦めている様子。
それぞれ思惑が異なる敵の動きをどう読むか、それが勝利のカギになるかもしれない。
参加者 | |
---|---|
久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621) |
識守・理央(オズ・d04029) |
保戸島・まぐろ(無敵艦隊・d06091) |
廿楽・燈(花謡の旋律・d08173) |
杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015) |
十文字・瑞樹(ブローディアの花言葉のように・d25221) |
天宮・楓(紅蓮の姫巫女・d25482) |
貴夏・葉月(地鉛紫縁は原初と終末のイヴ・d34472) |
●カウンターアタック
「もー! 皆が出払っているときに襲おうとするなんて……さっさとやっつけちゃうんだから!」
ハンドレッド・コルドロンで勝利を収め名古屋から帰還した灼滅者達だが、突如襲来した吸血鬼の軍勢は休息する時間を与えてはくれない。廿楽・燈(花謡の旋律・d08173)は頬を膨らませながら敵陣へと走る。
「陰極まれば陽となり、陽極まれば陰となる。反転滅絶、断ち切る!」
杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015)は金平糖を噛み砕いて素早くエネルギーを補給すると右手で梵字を描き、左手を突き出すと同時にスレイヤーカードの封印を解いた。ヘッドホンを装着し、意識を戦いへと切り替える。
(「他の班の動きはどうだ……?」)
「私が立っている限り、この学園を潰させたりしません」
久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621)が他の班の動向を確認しようとした時、銀の髪の少女・紫姫の声が届いた。前線左翼、ファフニール率いる竜種イフリートの群れと紫姫達がとうとう激突したのだ。最前にいるこの群れを押さえなければ、おそらくファフニールのところまで辿り着くことも難しいだろう。
「このままだと集中しそうだな。あっちに加勢するぞ! ……後悔しやがれ吸血鬼連中。お前らは俺達の逆鱗に触れてんだよクソが……!」
イフリートが紫姫達に殺到すると予想し、翔は仲間を先導して敵軍の側面へと回る。眼鏡を外すと途端に荒々しい口調になり、野獣のような凶悪な眼光で敵を睨む。
「生きて帰れると思うなよクソッタレどもが!」
怒りを吐き捨てるとともに長刃のナイフで虚空を切る。ナイフに染み付いた怨嗟が毒の風となり、竜巻が炎竜を呑み込んだ。
「はぁーい、こんにちわ。アナタの相手は燈たちだよー……」
「ギャオオオオオンッ!」
「っと、戦う気満々って感じ。それなら……負けるわけにはいかないね」
燈はできるだけそっと話しかけるが、イフリートは怒りに満ちた咆哮を轟かせる。しかし燈にも守りたいもののがある。星を刻んだ槍を突き出し、イフリートを貫いた。
(「ここは空気が違う。熱くて、ひりつく感じだ」)
熱いと感じるのはイフリートが纏う炎のせいだけではないだろう。命に代えても灼滅者を滅ぼさんとする迫力を感じて識守・理央(オズ・d04029)が一筋の汗を流す。決死の相手に油断などもってのほか、詠唱とともに十字架の砲門を開き、無数の光条を竜の群れに放った。
(「手薄になっているときを狙うなんて……」)
武力に自信があるなら正面から向かって来ればいいのにと天宮・楓(紅蓮の姫巫女・d25482)は思うが、卑怯と糾弾したところで意味はないだろう。エアシューズで疾走して敵陣に突入し、烈風を起こしながら強烈な回し蹴りを繰り出した。
「学園生活を大いに楽しむ、これ光画部のモットー! それを守るために全力を尽くすわ!」
保戸島・まぐろ(無敵艦隊・d06091)のクロマグロ、いやクロマグロ型の斬艦刀が炎に包まれ烈火の刃となる。そのまま大きくジャンプして飛び込むと、叩き潰すように焼きマグロを振り下ろした。
「癒しの導き手降臨」
殲術道具を解放し、椿の装飾が施された大鎌と紫の錫杖を携える貴夏・葉月(地鉛紫縁は原初と終末のイヴ・d34472)。イフリート達が猛攻を仕掛けてくるが、ダイダロスベルトで仲間を包み込んでフォローした。
怒りに燃える竜種イフリートの群れを迎撃する灼滅者達。だが葉月と紫姫の班だけではファフニールまでの道を作れそうになかった。
「待たせたね、うまく回り込めたよ。……それじゃあ精一杯暴れるとしようか」
しかしその時、イフリートの群れの後方から落ち着いた声が聞こえてきた。利恵の班も加わり、灼滅者は3チームで竜種を押さえ込む。
●憤怒の炎
3つのチームが竜種イフリートを引き付けている間に、他のチームがファフニールへと接近していく。
「退きなさい!! この学園には一歩たりとも近づけさせないわ!!」
「ヨクモ……ナカマヲ……!」
主力が不在の間に武蔵坂を攻め落とす目論見はすでに失敗したが、イフリートは同朋の仇討ちに燃えており、戦意は衰えるどころか灼滅者を前にしてさらに高まる。撤退を求めるまぐろの声も届かなかった。
「ギャオオオッ!」
「なら、倒すしかないじゃいない……!」
玉砕せんとする相手を止める術はない。まぐろはイフリートの突進で吹き飛ばされながらも炎の奔流を放ち、炎と炎がぶつかった。
(「吸血鬼は学園に来る使命でもあるのか……いや、今は余計なことは考えなくていい。連戦続きになるがここで負けるわけにはいかない」)
十文字・瑞樹(ブローディアの花言葉のように・d25221)は過去に武蔵坂が吸血鬼達に襲撃されたことを知っているが、しかし何度攻撃されようと守り抜くのみ。紫電を帯びた拳が炎を貫いて竜の顎を打つ。
「コロス、コロス……!」
「そう簡単には殺されないよ、俺達は」
イフリートの顎が宥氣の腕に噛みつくが、宥氣は表情を変えずに眼球を蹴って怯んだ隙に脱出。すかさず気を自身に集めて傷を癒した。
「そんなに死にてぇか? なら殺してやるよ」
翔が前傾姿勢で両手をだらりと垂らし、全身からどす黒く濁った殺気を立ち昇らせる。無尽蔵に湧く殺意が周囲を埋め尽くし、炎の赤を黒が覆った。
「学園はやらせませんよ! 守ってみせる!」
自身に降ろしたカミの力を借りて風を生み出す楓。激しく渦巻く風が敵を呑み込み、刃となって切り刻む。
「オオォォオオンッ!」
「させん!」
竜が大きな顎を砲門に変えて炎の弾丸を撃ち出すが、瑞樹が飛び出して自らの体を盾にして仲間を守った。
(「ヒイロカミやチャシマは……いないか」)
オーラで自身を癒しながら敵群に視線を巡らせ、以前武蔵坂と交流のあったイフリートがいないか探す瑞樹。彼らが今この場にいないことを確認して少し安堵しつつ、すぐに気を引き締め愛刀を強く握った。葉月も回復に回り、浄化の風を吹かせて仲間の火傷を癒す。
「燈。この戦いが終わったら、どこか遊びに行こうよ。スイーツ食べ放題とか!」
「うん行くー……ってなんかフラグっぽい!?」
ダイダロスベルトを翼のように広げて竜の群れを拘束する理央。理央に呼びかけられ、燈が一瞬頷きかけて目を丸くした。
「でもフラグなんかぽっきり折っちゃうもんね!」
「そう、死亡フラグなんかぶっとばしてやるのさ!」
「スイーツ食べ放題なら行きたいお店あるんだ。だから一緒に帰って行こうね、約束なの」
「うん、約束だよ。必ず勝って、一緒に行こう」
しかし燈は不穏な気配も闘志に変え、オーラを拳に宿して連撃を打ち込む。そして甘い約束が交わされ、負けられない理由がまた1つ増えた。
●揺らぐ炎
「椿・序の型……葉桜絶衝!!」
宥氣は敵の死角から飛び出すと、自身から噴き出した影を足に宿して空中から後ろ回し蹴りを見舞う。蹴りが竜の後頭部に命中し、影が乗り移ってトラウマを刻み込んだ。
「トカゲはくたばってろ」
「オォ……オオン……」
続けて翔が接近、至近距離に迫るや否や炎を帯びたナイフを一閃する。鋭い刃に切り裂かれた竜は自身のものとは違う炎に包まれて崩れ落ち、悲痛な呻きを残して動かなくなった。
(「人の話をきちんと聞かず、部分的に拾いあげて勝手に解釈して勝手に切れて。そして猛進して部下をむざむざと無駄死に追い込むわけね……何と最早素敵な将。……ま、この際どうでも良いけど」)
こと切れたイフリートを見やり、心の中で皮肉を言う葉月。ビハインドの菫さんは攻撃の手を緩めず、まだ健在なイフリートに標的を変えて杖を打ち付けた。
「ヨクモ、ヨクモ……!」
「ギャオオオオンッ!」
同朋を倒されたイフリート達はより一層怒りの炎を燃え上がらせ、灼滅者に激しく襲い掛かる。全身を赤い炎に包んで突進し、はたまた別の個体は口から炎を解き放って烈火の波を生み出した。しかし灼滅者達は互いにダメージを回復し合い、連携で猛攻を耐え忍ぶ。
(「昔、ゲームでやったな、こういうの……」)
炎を突き破りながらイフリートへと近づいていく理央。そのゲームでは竜は強大で、人間は矮小な存在に過ぎなかった。
「ヒーローは負けない……!」
けれどヒーローを名乗る者が力に敗れるわけにはいかない。敵が強大であればあるほどヒーローは膝を屈してはならないのだ。ましてや好きな女の子の目の前、情けないところは見せられない。傷ついた体を引き摺り、ダイダロスベルトを刃に変えて畏れを纏って斬撃を見舞った。
「理央くん、かっこいいよ!」
さらに燈が鬼の拳を振りかぶながら大きく踏み込む。岩塊のごとき腕をハンマーのように振るい竜の顔面を力任せに殴り付けた。
「グガアアアアッ!」
「おおおおおおおっ!!」
イフリートが正面から突撃してくるが、まぐろは光の盾を展開して迎え撃つ。イフリートに負けない大声で叫びながら踏ん張り、気合で体当たりを跳ね返した。続けてまぐろの背後から楓が飛び出し、長大な刃の重量を利用して斬艦刀を豪快に斬り下ろす。
「無念だろうが、こちらも負けるわけにはいかないからな」
「オオオオオーーーーーッ!」
そして瑞樹が瞬時に接近し、白光を帯びた剣を振り抜いた。閃光とともに放たれた斬撃がその命を絶ち、竜が断末魔を上げて力尽きた。
●炎は潰えて
「ワレラノ、イカリヲ……! ガアアアアアッ!」
「黒瑩さん!?」
竜の咆哮とともに炎が迸り、黒瑩が楓を庇って消滅した。遠くにそびえていた巨体は倒れ、ファフニールはすでに灼滅者によって討ち取られた。しかし勝敗が決してもイフリートは戦いを止めず、死なば諸共と灼滅者に襲い掛かる。
「黒瑩さんの分も……!」
「ギャオオンッ」
楓は腕を鬼に変じさせ、大きく踏み込んで迫る。異形化した巨拳が竜の胴を打ち、衝撃で吹き飛ばす。
「まだ抵抗するのですね」
呆れたような口調で呟き、地面に転がるイフリートに追撃する葉月。ビハインドが周囲の瓦礫を浮遊させてぶつけると、錫杖を天にかざして竜巻を起こした。
「オオ、ォオ……」
「……もう立たなくていいよ」
満身創痍になりながらも立ち上がろうとするイフリート。それは鉄槌か慈悲か、理央は微睡みへ誘う符を投げ放ち、竜は目を閉じて眠りに落ちるように息絶えた。
「ギャオオオオンッ!」
「させんと言ったはずだ……!」
イフリートも灼滅者もことごとく傷つき、無事な者はこの戦場に誰一人として存在しない。全身の傷から炎を噴き上げて突撃するイフリートを、同様に体中に傷を負った瑞樹が受け止めた。とうとう力尽き、刀で体を支えることも叶わず意識を失ってその場に倒れ伏す。
「おおおおおっ!!」
灼滅者にも限界が近づいているが攻撃の手を緩めることはない。宥氣は刃のこぼれた刀に炎を纏わせ、燃え盛る剣で竜の巨体を下から斬り上げた。
「負け犬……いや負けトカゲだよな、てめぇらは」
続けて翔が肉薄し、炎を纏ったナイフを至近距離から突き立てた。炎が傷から侵入して炎竜の体内を焼き焦がす。
「ガアアアアッ、ウォオオオオオンッ! オオオオーーーーーッ!!」
「ぐうっ……! 後は、よろしく……」
まるで消えかけの蝋燭のように、死に瀕しながらも猛威を振るうイフリート。強靭な尾の一撃を受け、仲間を守り続けていたまぐろもついに膝を付いた。
「たぁーーーっ!」
燈が桜をあしらったロッドを構えて飛び込み、イフリートへ真っ直ぐ打ち付ける。瞬間、ロッドの先端から薄いピンク色の光が迸り、光が竜の体に吸い込まれた。
「グ……アァ……」
体内を駆け巡る魔力に全身を焼かれて崩れ落ちるイフリート。竜の体が地面に落下し、ズシンと衝撃が走った
「もう……いない、かな」
周りを見回すと、いつの間にか動く敵はいなくなっていた。竜の遺骸は炎に包まれて燃え、燈は傷だらけの体で消えゆく様を見届けた。
作者:邦見健吾 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年4月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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