黒翼卿迎撃戦～それぞれの思惑

■リプレイ

●武蔵坂攻防戦
「よりによってこのタイミングで襲撃してくるか！　……絶対許しておけん！！」
　名古屋で行われていたハンドレッド・コルドロンの戦い。多くの灼滅者がこの戦いに参戦していたが、その隙を突いての黒翼卿メイヨールと朱雀門・瑠架率いるヴァンパイアの軍勢による武蔵坂学園への襲撃。
　有城・雄哉（高校生ストリートファイター・d31751）は、その他の個人的な心情も重なり、わき起こる怒りを抑えきれない。
　エクスブレインから話を聞き、急ぎ戦場へと向かう天城・翡桜（碧色奇術・d15645）も、こんな感想をもらす。
「以前の学園襲撃を思い出しますね……吸血鬼は不意打ちにもならない不意打ちがお好みなんでしょうか」
「学園に奇襲攻撃？　甘い甘い～甘すぎるよ～！」
「うん、絶対に勝つよ。だってここで負けるわけにはいかないからね！」
　蒼井・夏奈（中学生ファイアブラッド・d06596）が不敵にそう言い放つと、幼馴染みで大親友の武野・織姫（桃色織女星・d02912）も夏奈の言葉に頷き、力強く同意する。
　急ぎ向かった先には、多数の敵が入り乱れ、自分たちの学舎が占拠される危機に瀕していることがわかる。
　ただ、話に聞いていた通り、灼滅者の到着が予想より早かったのだろう。あちこちで混乱している様も見受けられる。
「本隊が戻っただけで戦意喪失、か……実に気の弱い事だ」
　セリル・メルトース（ブリザードアクトレス・d00671）が状況を見て冷静に呟く。だが、相手がどうあれやることは同じ。
「――さあ、行こうか」
　悪夢への道筋は、悉く断ち切るまでのこと。そうセリルは思う。たとえそれが、どんな結末であろうとも。
　八人の目的は、前線中央に陣を構えるメイヨール子爵。彼さえ撤退させれば武蔵坂の勝利となる。撤退させるにしろ、そうやすやすとはいかないだろう。八人は灼滅する気で事に当たるつもりだ。
「ふははは！　中国大返しならぬ、尾張大返しを敢行した俺達に抜かりなし！　尻尾巻いて逃げるならよし！　あえて戦おうというなら、撃滅されるのはテメエらの方だぜ！」
　メイヨールの軍勢には、タトゥーバットの大軍と、鶏の足の小屋、奴隷級ヴァンパイアが多数待ち構えていた。
　狩家・利戈（無領無民の王・d15666）が灼滅者たちの勢いそのままに、鼓舞するように力強い言葉を放つ。
「よくも邪魔してくださいましたわね」
　ハンドレッド・コルドロンの戦いを邪魔され、有力ダークネスの実質的な復活を阻止出来なかったことに激しい怒りを覚えているエリス・アルテリア（食せぬ不和の黄金林檎・d21838）もやる気充分。多数の軍勢を見ても怯むどころか闘志を燃やしていた。
「同じことをしたボスコウのように、無様にこの世から消え失せなさい」
　前線中央に向かったのは１３チーム。充分な戦力で、次々とメイヨールの取り巻きを迎え撃つ。
　まず初めにタトゥーバットの大軍が押し寄せてきたが、他のチームが主体となって応戦する。こちらにもやって来たがその数は多くない。ふりかかる火の粉を払うように、全員の攻撃でタトゥーバットの数を減らしていく。各チーム、それらの攻撃を凌ぎきると、次には奴隷級ヴァンパイアの軍勢やバーバ・ヤーガ配下の眷属である鶏の足の小屋の群れが襲いかかってきた。
　また、朱雀門・瑠架の勢力から鉄竜騎兵団が増援として送り込まれてくる。すぐさま近くにいたチームが応戦に向かう。
「他の仲間が取り巻きたちの攻勢を防いでいる隙に、メイヨールに近づくでありますよ」
　スレイヤーカードを解放し、自身の持つ七不思議のひとつ『鏡の魔物』の姿になったヘイズ・レイヴァース（緋緋色金の小さき竜・d33384）は、戦況を見てそう呟く。
　目的はひとつ。黒翼卿メイヨールを撤退させること。
　仲間達はお互いに頷きあうと、熾烈な戦闘を繰り広げている合間を縫い、子爵の懐へと入り込むことに成功した。

●黒き翼の貴族
　戦況は武蔵坂学園が有利。敵の数は多いが、こちらも負けていない。メイヨールの軍勢を相手取る仲間達は、じわじわと順番に各軍勢のボス級を倒し、配下達が戦意を失いつつあった。
「いましたね」
　本陣中央に車椅子に乗ったメイヨールの姿を見つけ、翡桜が呟く。
　戦況は押されているにも関わらず、子爵に焦りの色はまだないようだった。
「他のチームと一緒に囲んでしまおう」
「この機会に包囲するでありますね」
　雄哉の言葉にヘイズも同意する。他班と連携し、四方向からメイヨールを囲い込む。
「む、灼滅者だな」
　それに気付いたメイヨールが、配下のヴァンパイアを迎撃に向かわせる。それはメイヨールの特にお気に入りの女性ヴァンパイアなのだが、その全員が体中包帯だらけだった。お気に入りすぎて、身体をあちこち壊してしまっているのだ。
　3体の包帯ヴァンパイアが八人の元へとやって来た。
「俺達にケンカ売ると痛い目に合うっつうことを、叩き込んでやるぜ！」
　雷を宿した拳を叩き込みながら利戈。
「遠征時に本拠を叩く。吸血鬼陣営、少しは戦の機微が分かるようですわね。上等ですわ」
　笑みを崩さないまま、静謐さを称えたエリスが相手を評する。頭脳戦ができるとあって、今まで軍師や司令官を経験してきたエリスにとって相手に不足なしと闘志を燃やす。
「瑠架ちゃんにいいところ見せるぞ」
　中央にいたメイヨールは、車椅子から飛び降り、ぽーんぽーんと全身を弾ませながら迎撃に打って出る。四方で囲んでいるが、まずは他班の元へと弾んでいったのが見える。
「メイヨールも気になるけど、まずは目の前の敵をやっつけよう！」
「うん、そうだね！」
　織姫の言葉に、夏奈をはじめ、皆が頷く。包帯ヴァンパイアは鮮血のごとき赤きオーラをまとった攻撃を執拗に灼滅者達に放つ。
「弱ったものから確実に落としていこう」
　セリルは片腕を巨大化させ、手近な包帯ヴァンパイアを殴りつけながら仲間に声をかける。
　ぽーんぽーんと、メイヨール卿が弾みながら次の班へと移動し、攻撃をしかけていく。まだこちらには来ないが、その隙に包帯ヴァンパイアの数を減らし、メイヨールを撤退させるために本気の攻撃をしかける準備をしておきたいところだ。
　夏奈が七不思議の言霊「猫の恩返し」で味方を回復、浄化してダメージを蓄積させない。その他の仲間達も包帯ヴァンパイアと戦いながらも、子爵に対抗する準備を進める。
　そうして。しばらくするとメイヨール子爵がぽーんぽーんと弾みながら、八人の目の前に現れたのだった。

●戦場を駆ける肉塊
　メイヨールは余裕の表情で戦場に現れた。身構える灼滅者達に向け、すぐさま攻撃を仕掛けてくる。
「くっ、さすがに子爵ともなれば、その攻撃力は侮れませんね……」
　赤きオーラの逆十字が切り裂くように迫ってくる。翡桜はなんとかそれを耐え凌ぎながら、言葉をもらす。
「集中攻撃を受けて、いつまでその余裕を続けられるかな？」
　織姫が名牝の名を受けた鮮やかな紅の手綱型ベルトをメイヨールに向け、射出する。それはリボンのように軽やかに舞いながら襲いかかっていく。
　あくまで目的は撃退であり、灼滅するつもりはない。だが、灼滅する気持ちで行かなければ、相手も怯まないだろう。
　ヘイズがヒヒイロカネバスターを構え、魔法光線を発射し、雄哉は鍛え抜かれた拳に思いを込め、メイヨールの身体に強烈なパンチをお見舞いする。
　それぞれの攻撃を受けても、全く気にしていない様子のメイヨールは、ぽよんぽよんと弾みながら、次の戦場へと飛び跳ねていった。
　そう簡単には撤退してくれないようだが、四方を囲んで集中砲火しているのだ。メイヨール軍の大半は他のチームが交戦し、崩れかかっている。他の有力敵の状況はここからではわからないが、とにかく今は目の前の戦いに集中することが大切だろう。
　包帯ヴァンパイアに向け、エリスが死の魔法を解き放つ。急激に体温を奪われ、動きが鈍る取り巻き達。そこへ翡桜の炎を纏った蹴りが炸裂。
「おデブちゃんの軍隊なんざひとひねりだぜ！　ひゃっはー！」
　利戈の鍛えぬかれた超硬度の拳が、集中攻撃で弱っている包帯ヴァンパイアを撃ち抜く。止めの一撃になったのか、包帯ヴァンパイアの一体がくずおれていく。
　包帯ヴァンパイアに攻撃を加えている内に、他のチームに順番に攻撃をしかけていたメイヨールがぽよよんと跳びながら、また八人の前に現れた。
　誰かからの攻撃を受けたのだろう。左脇腹が切り裂かれていたが、メイヨールにそれほど気にする様子はない。ただ、先ほどより戦意が高まっているのか、倒れたお気に入りのヴァンパイアを見ては、灼滅者達を睨みつけながら攻撃を繰り出す。
「瑠架ちゃんに、いいところを見せるんだ！」
「メイヨール……お前を許さない……！」
　攻撃を耐え凌ぎながら、メイヨールに思うところのある雄哉は負けまいと歯を食いしばる。
　夏奈がすぐさま回復を行い、ダメージを取り除き体勢を立て直す。
「ストーカー気味とは言え、メイヨールの瑠架さんへの愛を見るとボクの育ての両親を思い出すでありますね」
　揺らめく炎をともした九条葱宗から、葱坊主の炎を飛ばし攻撃するヘイズ。懐かしく思い出しながらも、最もあんな風な一方通行ではないと思い直すのだった。
　戦意高めのメイヨールは、まだまだ体力に余裕はあるようだったが、4チームの集中攻撃に少しずつでもダメージが蓄積されているようだ。
　セリルのウロボロスブレイドがしなり、高速回転した刃が威力を増しメイヨールを襲う。貴族らしい彼の高貴な衣服がボロボロに切り刻まれる。
　それでもメイヨールは、相変わらずぽよよんと弾みながら次の戦場へと飛び跳ねていった。

●思惑の行方
　メイヨールへの攻撃が三巡目に入り、他班からの攻撃も含めると、メイヨールが疲弊するのも時間の問題のように思われた。
　今はメイヨールの攻撃に備え、傷を癒しながら誰も倒れることがないように気を配りながら、目の前の包帯ヴァンパイアを相手にして時を待つ。
　包帯ヴァンパイアが魔力を宿した霧を展開し、体力を回復するも、灼滅者達も攻撃の手を緩めない。
「確実に各個撃破していこう！」
　織姫が仲間に声を掛け合いながら、標的を定める。蹄鉄型のリングスラッシャーが超高速で敵に向かい、包帯ごと身体を切り裂いていく。
　翡桜もそれに応え、同じ敵を黒とオレンジ色を基調とした縛霊手で殴りつけ、霊力を放射し、動きを封じる。ビハインドの唯織も翡桜のあとに霊撃で続く。
　確実に包帯ヴァンパイアの体力を削りつつ、3度目となるメイヨールとの戦いに臨む。
　服は先ほどより切り裂かれ、メイヨールからは、少しばかり焦りの表情も見て取れる。
　夏奈に対して、禍々しくも赤いオーラの逆十字が襲いかかってくる。
「夏奈ちゃん！」
　織姫が心配そうに駆け寄るも、なんとか堪えた夏奈は気丈に微笑んで見せた。
　すぐさま織姫が、分裂させた小光輪を盾として、夏奈の傷を癒していく。
「潰し、穿ち、ぶち壊す！　我が拳に砕けぬものなど何もない！」
「僕たちの学園は僕たちで守る……！」
　利戈は鍛え上げた信じるに値する自分自身の拳で。雄哉は自らの弱さに対する憎悪を怒りに変えて。対照的な二人だが、同じタイミングで雷を宿した拳を振り上げる。二人とも、この戦いにおいては闇堕ちをも辞さない覚悟で臨んでいた。
　見事に決まった二人のアッパーカットでメイヨールはよろよろとふらつく。そしてそのまま、次の戦場へと飛び跳ねていった。
　メイヨールが他班と戦闘中に、残る包帯ヴァンパイアを灼滅にかかる。見事な連係攻撃で一体を沈めることは出来たが、残る一体に止めを刺す前に、息を切らせたメイヨールが八人の前に現れた。
　自分の力を過信していたのか、灼滅者を侮っていたのか。
　どちらにせよ、メイヨールの顔に焦りが見え始めていた。
　撤退に追い込むまで、あと少し。
　セリルが聖槍Eirvito Gainstoulを振りかざし、叩きつけると同時に魔力を流し込み、体内から爆破する。大きな衝撃にのたうつメイヨール。その後も仲間の連続攻撃で、ボロボロになっていく。
　残った包帯ヴァンパイアが回復を図るも、深手は簡単には癒えるはずもない。メイヨール渾身の攻撃はもちろん強力だが、誰かの膝を折るほどではなかった。
「尻尾巻いて逃げるなら今だぜ？」
　利戈が不敵に笑いながら殺人注射器を構える。その針は切り落とした左腕の下に刺さると、容赦なくメイヨールの生命力を奪っていく。
「頭脳戦ができる相手だと思っていましたのに……これで、おしまいですか？」
　エリスが七つに分裂させたサイキックエナジーの光輪を子爵めがけて解き放つ。
　メイヨールは、脂汗を流しながら、またもやぽよよんと弾みながら移動をすると、今後は次の戦場ではなく、四班の中心に移動した。
「運動して、息が切れてしまったよ。少し休憩するから、お前達僕を守れ」
　お気に入りヴァンパイアを戦場から呼び寄せ、自らを守らせる。その様子と表情からは、初めにあった余裕は消え去っていた。
　時が来たのだと、皆が思った。
「これ以上の戦いは無意味やで。まだやるなら……俺はお前らと刺し違ってでも戦いを止める！」
　迦具土・炎次郎の言葉に続き、それぞれの班からメイヨールに対し、撤退を促す言葉が上がる。
「こちとら名古屋帰りで疲れてんだ！　いいからその肉ダルマ連れてとっとと帰りやがれ！」
「聞き分けのない男は嫌われても知らないわよ」
「撤退するというのなら、ボクたちは追いません。命が惜しければ、愛する瑠架さんの元へ帰るでありますよ！」
　ヘイズもそう進言する。いろいろな思惑が絡み合い、今ここでメイヨールを灼滅するのは適切でないと判断したからだ。
「覚えているよ。この恨み、僕は、絶対忘れないから」
　メイヨールは、ぐぬぬと悔しさを滲ませながらも、ここはいったん退くべきと理解したのだろう。捨て台詞を吐いては、配下を連れて逃走するのだった。
　もちろん、この場に居合わせた者たちは、誰もそれを止めはしなかった。
「これで僕たちの仕事は済んだね」
　メイヨールの撤退に合わせ、潮が引くように他の敵兵も敗走していくのを見送り、セリルが呟く。
「学園防衛成功！　だねっ！」
「みんなの勝利だねっ」
　織姫と夏奈が手を繋ぎ、お互いの無事と勝利を称え合う。
「他の班も無事でしょうか……」
　ナミダ姫の元に向かった恋人を心配して翡桜が呟く。
　さまざまな思惑が絡み合った戦場の真ん中で、八人はようやくひとつ、安堵の息を吐くのだった。

作者：湊ゆうき	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年4月29日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 2
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