黒翼卿迎撃戦～それぞれの戦い

■リプレイ

●
　戦意旺盛な黒翼卿の軍勢と。
　灼滅者達が、今ぶつかり合う。
　タトゥーバットが飛び交い、鶏の足の小屋の群れがなだれ込み、奴隷級ヴァンパイア勢が各チームへと牙を剥く。更に、瑠架側から援軍と戦局は混迷を極めた。
「ここは、俺達が食い止める！」
「先へ！　メイヨールの元へ行け！」
　大勢の灼滅者達が、黒翼卿の軍勢の足止めを行い。
　味方が作った道を数チームが、駆け抜ける。栗原・嘉哉（陽炎に幻獣は還る・d08263）も、その中の一人だった。
（「このタイミングでオレ達がいないって誰が教えたんだ？　最近朱雀門に行ったやつはいないはずだし。……いや、今は考えることじゃないな」）
　せっかくの活路。
　躊躇や感傷は、また後の話にする。
「瑠架ちゃんにいいところ見せるぞ」
　黒翼卿メイヨールは、体中が包帯だらけの女性ヴァンパイア達を周囲に控えさせていた。辿り着いた四チームで、その一団を包囲する。
「殺す……メイヨール様の……敵は全て」
　メイヨールお気に入りのヴァンパイア達。それぞれ三体ほどが各チームへと向かってくる
「私たちも戦争では奇襲を仕掛けるけど、自分たちがやられると、頭にきますね。でもホント、間に合ってよかったです。さて、やりましょうか」
　四刻・悠花（高校生ダンピール・d24781）がサウンドシャッターを発動と同時。
「ＶＩＴＡＬＩＺＥ！」
　スレイヤーカードを開放。
　手にした棒を操り、魔力を込めた突きで敵を迎撃する。
「……儚き光と願いを胸に……闇に……裁きの鉄槌を……」
　アリス・ドール（断罪の人形姫・d32721）も解除キーを唱える。猫のようにしなやかに動き、狼のように鋭く幻狼銀爪撃を繰り出す。
「……引き裂く……」
「引き裂かれる……のは……そちらの方……」
　女性ヴァンパイアも負けてはいない。
　赤きオーラの逆十字を出現させて、こちらを引き裂きにかかる。
「悪いね、アポイントメントの無いお客様はお帰り願おうか」
　蒼上・空（空の上は蒼き夢・d34925）は、初撃にレイザースラスト。黒翼卿周辺の戦力を、各個撃破で確実に減らすつもりだ。
「灼滅者が……ダンピールごときが……」
「ヴァンパイアを狩り殺す。ダンピールはそういうもんだ！」
　咬山・千尋（高校生ダンピール・d07814）の螺穿槍と、ヴァンパイアの刃が激突した。強い敵意と戦意が、交錯して衝撃が走り合う。
「阿剛先輩、頑張りましょう。この前のように作戦をミスったりはしません」
「前の依頼での雪辱を果たす時がきましたわね、安藤さん！　メイヨールさんの心が折れるぐらい徹底的に追い返してあげましょう！」
　安藤・ジェフ（夜なべ発明家・d30263）が除霊結界を展開すると、阿剛・桜花（年中無休でブッ飛ばす系お嬢様・d07132）も息巻きつつ、戦闘を開始する。まずは、味方の前衛から後衛へとイエローサインだ。
（「つまらないな……」）
　ライドキャリバーに騎乗した袈裟丸・創太（のんびり・d35365）は、鏖殺領域を撒き散らしながら戦場を駆ける。戦争で死体の山を見たため、彼は自覚はないままイラついていた。
「……殺……殺し……殺すすすす……」
「朱雀門も一枚岩じゃないのは知ってたが、こんな強行をとるとはな。そんなにオレらが憎いか。いや、当たり前か」
　嘉哉が抗雷撃の雷を拳に宿し。
　飛びあがりながらアッパーカットを繰り出した。
「ふふーん」
　メイヨールは、ぽよんと太った身体をはずませて。
　他のチームに意気揚々と襲いかかっていた。
「遠距離サイキックの一つでも、撃ってやりたいところですが」
「……メイヨール……様の……」
「……邪魔は……させない……」
　ちらりと悠花は、敵大将の様子に目をやるが。すぐにヴァンパイアへの対処に追われる。ディフェンダーとして仲間を守り、炎を纏わせた打撃を突き出す。
「そこを……どけ……灼滅者……」
「……ここから先は……通さない……この学園を……なめるなよ……なの……」
　アリスが変幻自在に飛び回って敵を撹乱。
　ヒットアンドアウェイを主体として、飛び込む。
「……まとめて……斬り裂く……」
　鋭い一閃から、冴え冴えとした月の如き衝撃を放つ。月光衝の閃光が駆け抜けて、その隙にまたヴァンパイア達と距離をとる。
（「誰が来ようとも、黒翼卿の軍勢を優先しないとだな」）
　空が鎌に宿りし力を、黒き波動に変え。
　ブラックウェイブにより、敵の群れを薙ぎ払う。大鎌の力を存分に振るう。
「メイヨール軍の戦力を削らないと」
　そこに仲間と連携を組んで、千尋はDMWセイバーで追撃する。的確に的を絞った一体へと。右腕と剣を融合させ、蝙蝠の翼に変形させながら斬りつける。
「っ……」
「学園を甘く見てもらっては困ります」
　ジェフはグラインドファイアを見舞う。
　摩擦によって生じた炎を纏い。激しい蹴りが、敵へと炸裂する。その火の勢いに、ダークネスも呻きの声をあげた。
「……灼滅者……死死死……」
「させませんわ」
　灼滅者達の消耗も急速に広がる。
　桜花は仲間のヒールに強化にキュアにと、戦線を支えた。
「……斬るるるるる……るる斬るる……」
（「こいつら馬鹿じゃないの死ぬの……？」）
　サーヴァントが突撃するのに合わせて。
　創太はチェーンソー斬りで斬り込む。敵を斬り裂き、味方がつけた傷口をさらに甚大に広げる。
　――そして。
「眷属や配下を叩くことができれば――」
　嘉哉がレーヴァテインを打ち込み。
　そう、呟いた瞬間。
「灼滅者なんて、踏み潰してグチャグチャにしちゃえばいいのさ！」
　肥満しきった肉塊が。
　こちらへと弾んで、戦場を揺るがす。灼滅者達は、そのあまりの衝撃に押し潰されそうになった。
　黒翼卿。
　メイヨール子爵が、高く高くそびえ立つ。

●
「メイヨール……自ら来ましたか」
　敵大将の突然の乱入。
　地に伏し、相当な傷を負った灼滅者達は立ち上がり。悠花のオーラキャノンが、口火を切る。
「予定と違ったけど、灼滅者はここで終わってもらおうか」
「……手薄をつこうなんて……発想は悪くないけど……タイミング……早すぎだし……アリスたちを……見下しすぎ……誰であろうと……みんなの学園を……踏み荒らす子は……斬り裂く……」
　傲然と笑うメイヨールに、アリスは絶刀を向け。
　渾身のサイキック斬りを発動。想いを込めた一閃が、真っ直ぐに轟き狂う。
「おうおう黒翼卿さんよ？　テメェんとこのクソ蝙蝠にゃウチの部員が世話になったなぁ？」
　以前タトゥーバットに友人が怪我を負わされているため、空は敵意満々だ。勢いよくフォースブレイクを放つ、が。
「うん？　知らないなあ。いちいち灼滅者一人一人のことなんて」
　メイヨールの、暑苦しい顔面は涼しい顔をしたまま。
　手応えというもの自体が希薄だ。
「わざわざ出向いてきたのか。探す手間が省けてよかったよ」
　閃光百裂拳のラッシュ。
　千尋はメイヨールへ積極的に攻撃を仕掛ける。
「そうそう、わざわざ出向いてあげたんだから、ありがく思ってよね。ふんふんー」
「あなたは裸の王様だと気づきませんか？」
　ジェフはそう言ってメイヨールを相手にはしなかった。
　レイザースラストで、女性ヴァンパイアを攻撃。ウイングキャットのタンゴも、猫魔法と肉球パンチで主人に続いた。
「裸の王様？　失礼だな。服はちゃんと着ているよ、薄汚い民衆諸君」
「言ってくれますわね」
　桜花は急襲されて受けた怪我を癒すため、シールドリングでの回復を急いだ。
「まずは回復だよ」
　創太もシャウトを優先。
　サーヴァントが、フルスロットルする。
「ふん。灼滅者が急に出てきたから、色々台無しだよ」
「そっちは驚くよな。まぁこっちも突然の襲撃でおあいこなんだけどな！」
　嘉哉が黙示録砲を使う。
　十字架先端の銃口が開き、敵を凍結する光の砲弾が放たれた。が、それもメイヨールは平然と受け切る。
「ふふん、この程度か。次会うときが楽しみだねー」
　肥満したダークネスの身体が、また大きく弾み。
　また、高く飛び跳ねる。その様は、歪な風船のようだった。
「待ちなさい、メイヨール」
「いいいいい……行かせない……」
　悠花が追いすがろうとするが、そこに女性ヴァンパイアが立ち塞がる。轟雷による雷を邪魔な相手へと撃つ。その間に、メイヨールはまたどこかで大暴れを開始する。
「……全力で……斬り裂く……」
「きききき……斬り裂か……せない……」
　アリスの雲耀剣。
　上段からまっすぐに早く重い斬撃を振り下ろし、武器ごと敵を断ち切る。ヴァンパイアは、紅い光を煌めかせて魔力を吸い取ろうとした。
「……滅……殺……」
「忙しいな、今回の戦いは」
　空がレガリアスサイクロンで、敵を二体同時狙う。暴風を伴う強烈な回し蹴り。一進一退の攻防が続く。他の戦場を、ゆっくり確認する暇もない。
　そんな、ところへ。
「ふふん、また会ったねー」
　再びメイヨールが空高く弾んで現れる。
　初回と同じく、壮絶な地鳴りを響かせて。灼滅者達は、また身体中に大小無数の傷を負う。
「その余裕の顔を、続かせはしないよ」
　千尋はサーベルで逆十字のサインを描き、遠間からメイヨールを攻撃。良く見れば他班がつけた傷なのか、敵は左脇腹を斬り裂かれており。そこに目掛けてギルティクロスをぶつける。
「メ、メイヨール……様に……手出し……させない……」
「僕もシュギョーを積んだので、あの時とは違いますよ」
　ジェフは群がってくる敵を牽制。
　味方へとイエローサインをかけて、傷を癒して戦列を整えた。
「随分苦しそうだねえ。やっぱり、ここで灼滅者は――」
「ちぇすとぉぉっ！」
　メイヨールが何か言いかけたところで、それ以上は言わせんと。
　メディック用コスチュームのレースクイーン姿で、桜花は交通標識を振り回してレッドストライクを繰り出す。
「む」
　見事に顔面にそれを受けたメイヨールは、言葉を続けることができず。その隙に、灼滅者達は敵大将を迎撃する。
「ヒールが追い付いていないか」
　嘉哉がフェニックスドライブを使い。
　皆の傷を癒し。
「これで――」
　創太が騒音刃を叩き付け。
　エンチャントをブレイクしたところで、メイヨールはまた身体を震わせた。ぼよよんと、宙へと浮かぶ。
「そろそろ、次に行かなくちゃねえ」
　ここのチームだけではない。
　他班からも相当な攻撃を受けているだろうに、黒翼卿は未だに戦意が衰えずに戦場を渡る。
「やはり、生半可な相手ではないですね」
　悠花は嵐が去った気分で、集気法を使って傷を治癒。
　残った女性ヴァンパイア達へと、再び対する。こちらだけでも、決して油断ができない相手だ。
「……でも……また、現れたときは……」
　アリスは決意を固めて、絶刀を振るう。
　皆が来るべき時に向けて、力を溜めるように。まずは、目前の敵へと集中する。
　そして、それは他の班の灼滅者達も同じだ。
「うわわわ！」
　メイヨールが弾んで……いや、飛ばされてくる。
　他のチームの灼滅者の攻撃によって、吹き飛ばされてきたようだった。
「……ちょっと本気出さないとマズイかな」
「ここが踏ん張り所ですわよ！　ガンバですわ！」
　頭を振って、襲いかかってくるメイヨール。
　桜花は仲間を激励して、清めの風を使ってヒールを行う。
「灼滅する気は別にネェが、落とし前だけはキッチリ付けてもらうぜ？」
「な、なにをう」
　空はダイダロスベルトを展開。
　レイザースラストを射出して、メイヨールを的確に狙う。敵大将にも、少しずつ焦りの色が見え始めていた。
「消耗したところに的を絞る」
　千尋はここぞとばかりに、クラッシャーとしての火力を発揮。槍の妖気を蝙蝠の形にして発射して、敵を凍結させる。敵本陣を目指し、ここまで道を開いてきたのだ。
　全員が、気力を漲らせる。
「痛いな、まったく」
　手傷を被ったメイヨールは、嫌がるように。
　肉団子の身体を、次のチームの元へと飛ばしていった。
「少しずつですが、確実に効いてます」
「だねぇ」
　ジェフは飛んで行った敵大将を観察してから、ヴァンパイア達の相手を続行する。創太もチェーンソー剣を振り回して、サーヴァントの機銃掃射に合わせた。
（「何とか撤退させられれば良いが……」）
　嘉哉が集気法で、回復を施して。
　そう考えていたところ――四度目の来襲が訪れる。
「ぬぬぬ……少し油断した」
　メイヨールは二つの穴を作り、血を流していた。
　明らかに、苦しそうな様子ながらもこちらの方へと突撃を行ってきた。
「今度こそ」
　悠花は仲間をガード。棒を勢いよくしならせて、ありったけの魔力をこめてフルスイングする。内部へ力を流しこまれた敵は、大爆発を引き起こした。
「むぬ」
「……吹き飛ばす……」
　アリスが乱戦の中、障害物を足場に飛翔。
　全神経を研ぎ澄ませて、レガリアスサイクロン。強力な回し蹴りで、女性ヴァンパイアごとメイヨールを砕く。
「ここで負けるわけにはいかないからな」
　空はフォースブレイクで、思い切り敵を叩く。
　ありったけの魔力を込めた一撃に、確かな手応えを感じながら爆音を響かせた。
「……死……死……」
「黒翼卿の配下は――」
「僕達が相手をします」
　嘉哉とジェフは、グラインドファイアとレーヴァテインで近寄ってくる女性ヴァンパイア達を追い払う。炎が爛々と戦場に目を焼くような、明かりをともした。
「安藤さんの頑張りは、無駄にしませんわ」
「やろうか」
　ここは桜花も回復より攻撃を優先する。創太がチェーンソー斬りで、突入。そこから抗雷撃を、まっすぐに振り抜き。相手の顎を捕えて、千尋の方へと丸々とした相手の身体を飛ばす。
「うわ、ととと！」
「最後まで攻撃の手は緩めない」
　ひたすら敵を斬り倒す。
　その意志を持って、千尋は剣を融合させた右腕を振り上げる。蝙蝠の翼に変形したDMWセイバーが、飛んできたメイヨールに炸裂する。
「ふうふう。息が苦しくなったきた」
　半ばは自分で逃げるように。

　半ばは飛ばされたように。
　メイヨールは、慌てて視界から消え去った。それから、すぐ――
「運動して、息が切れてしまったよ。少し休憩するから、お前達僕を守れ」
　メイヨールはヴァンパイア達を、自分の元に戻す。
　はぁはぁと息をして、全身から脂汗を流していた。
「こちとら名古屋帰りで疲れてんだ！　いいからその肉ダルマ連れてとっとと帰りやがれ！」
　空の叫び。
　他の班からも声があがっていた。
「覚えているよ。この恨み、僕は、絶対忘れないから」
　忌々しげに、黒翼卿は配下を連れて逃げ出し始めた。敵大将の遁走だ。他の敵も次々と敗走していく。
「……周りや学園に……異常がないか……心配……」
「とにかく怪我人の手当が先決ですわね」
　アリスが周囲を見回すが、激しい戦闘で粉塵が舞い。まだ、何が起こっているか把握ができない。桜花はヒールや、心霊手術の準備を始める。
　どこからか。
　また、悲鳴と雄叫びがあがっていた。

作者：彩乃鳩	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年4月29日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。