黒翼卿迎撃戦~黒き翼を折れ!

    作者:相原あきと

     ハンドレッド・コルドロンの戦いが佳境に入った時だった。
     武蔵坂学園に駐在するエクスブレインの目に驚きの光景が映し出される。
     白い炎の柱から、突如吸血鬼の軍勢が武蔵野の地へ出現したのだ。
     つまり吸血鬼軍は、エクスブレインの予知をかい潜るためスサノオの姫・ナミダの協力を得て現れたという事だった。
     黒翼卿の眷属たるタトゥーバット、絞首卿の配下たる奴隷級ヴァンパイア団、バーバ・ヤーガの眷属たる鶏の足の小屋とヴァンパイア魔女団、殺竜卿の配下たる鉄竜騎兵団。
     それだけではない。竜種イフリート、ソロモンの大悪魔・ヴァレフォールの眷属、スサノオ、動物型の眷属……それらの混成部隊が突如現れ武蔵坂学園へと進軍を開始したのだ。
     指揮官は6名。
     黒翼卿メイヨール。
     朱雀門・瑠架。
     義の犬士・ラゴウ。
     竜種ファフニール。
     ソロモンの大悪魔・ヴァレフォール。
     スサノオの姫ナミダ。
     灼滅者の主力が出払っている武蔵坂学園を落とすには充分過ぎる兵力である。

    「灼滅者の戦力は出払ってるし、今回の作戦には、黒の王の完全バックアップが付いているんだ。だから勝利は確実だよ、瑠架ちゃん」
     軍の本陣で言うは、手足を切り落とし車椅子に乗るメイヨール。だが、車椅子を押す朱雀門・瑠架は……。
    「えぇ、そうですね、メイヨール子爵……(「だけど、武蔵坂学園を滅ぼすわけにはいかない。どこか良いタイミングでこの軍を撤退させるしかない……。でも、どうすれば」)」
     メイヨールに応えつつも思案する瑠架。
     と、そこに緊急の連絡が飛んでくる。
    「武蔵坂学園の灼滅者が、こちらに向かっています」
     すぐに確認すれば確かにハンドレッド・コルドロンの戦いへと向かった灼滅者達がすぐそこまで戻ってきている。
     それはメイヨール達の予測を遥かに上回る神速の大返しであった。

    「みんな! 良く戻って来てくれたわ!」
     そう言ってハンドレッド・コルドロンの戦いを急ぎ終わらせ戻って来た灼滅者達に、エクスブレインの鈴懸・珠希(高校生エクスブレイン・dn0064)が労いの言葉をかける。
     まさか敵がエクスブレインの予知を掻い潜って急襲を仕掛けてくるとは思わなかった、と珠希は言うが。
    「でも、実は事前に深海・水花(鮮血の使徒・d20595)さんから『戦争で弱った所を狙いメイヨール子爵達が灼滅者を襲撃してくるのでは』と注意を促されてて、おかげで敵の出現と同時に発見する事ができたわ」
     もちろん、それでも灼滅者の皆が名古屋の戦争から戻ってくるのが遅くなっていたら、今頃は学園が占領されていたかもしれない。
    「とはいえ、強大な吸血鬼軍がすぐそこまで迫っている事実は変わらないわ。神速の大返しのおかげで、敵軍の一部は戦意を失っているようだけど、主将の黒翼卿メイヨールは学園への攻撃を諦めていない。激突必死の状況は変わらない」
     吸血鬼軍との戦いは避けられない。だが、どちらか最後の1人になるまで戦わずとも、主将の黒翼卿メイヨールさえ灼滅或いは撤退させれば敵軍は撤退していくだろうと珠希は言う。
    「そうそう、さっきも言ったけど黒翼軍は灼滅者の大返しにかなり混乱しているの。だから、この混乱の隙をつけば、黒翼卿メイヨールを撃退するだけでなく、他の有力なダークネスを討ち取ることも出来るかもしれない……もちろん、それを狙うかの判断は皆にお任せするけど」
     と、珠希は一応敵の布陣を説明する。
     前線中央に黒翼卿メイヨール、その後ろに朱雀門・瑠架、前線左翼に竜種ファフニール、前線右翼に義の犬士・ラゴウ、そして後方に、スサノオの姫・ナミダ。
     ちなみにソロモンの大悪魔・ヴァレフォールは、前線と後方の間で去就に迷っている状況だと言う。
    「実は先ほど、私達の校長先生が学園に戻って来たみたいなの。何か重大な話があるって言ってたけど……兎に角、今は吸血鬼軍の撃退に専念して! ピンチをチャンスに! まさに今がその時よ!」

     ――いっぽうその頃……黒翼軍。
     各指揮官は灼滅者の大返しに各々が好き勝手に想像を働かせる。
     それは決して統一された思惑とは言い難く……。

    「僕と瑠架ちゃんの共同作業を邪魔するなんて、許せないね。灼滅者なんて、踏み潰してグチャグチャにしてしまえっ! 突撃ー!」
     黒翼卿メイヨール子爵が一斉に指示を出す。
     だがその傍ら、朱雀門・瑠架は静かに思う。
    (「灼滅者の大返し……会長が失敗したのか、それとも、これも彼の予定通りなのか。とにかく、最大の懸案は消えたわ。あとはメイヨール子爵を無事に撤退させれば)」
     ふと横で気炎を吐くメイヨールを見上げ。
    (「メイヨール子爵は、ボスコウなどとは違う本物の爵位級ヴァンパイア。彼が灼滅されれば爵位級ヴァンパイアと武蔵坂学園の敵対を止める事はできない」)

    「爵位級ヴァンパイアに協力して、楽して力を取り戻す予定だったのに……どうも話が違うねぇ。これは適当に戦って折を見て撤退するしかないね」
     ソロモンの大悪魔ヴァレフォールは遠目に守りに付く灼滅者達を見据えつつ言葉をこぼす。
     楽に旨い汁を吸うつもりが、灼滅者達が予想外の早さで戻って来たことでその旨みはほぼ無くなった。正直、戦う気が削がれたと言ってもおかしくなかった。

    「卑劣な罠を破って現れる正義の味方。それでこそ灼滅者だ。だが、これは瑠架の望み。簡単に黒翼卿を討たせるわけにはいかないな」
     朱雀門・瑠架と共に行動してきた義の犬士・ラゴウは、そう言うとジッと灼滅者達を見据える。
     今自らが為すべき事は、瑠架の望みに従ってメイヨールを撤退させることだ。
     それは義を重んじるラゴウらしい指針ともいえる。

    「殺された多くの我が同胞の恨み、今こそ晴らそう。ゆくぞ、竜種の誇りにかけて!」
     そう叫びをあげるは竜種ファフニール。
     その瞳には瑠架の思惑やメイヨールの目的は映らず、今や倒すべき灼滅者達だけを映してた。

    「黒の王には義理があった。故に軍団の隠蔽は引き受けたがさしたる意味は無かったようじゃのう。さて、儂らは退く者どもを助けるとしよう。黒翼卿は戦う気のようじゃが……まぁ、死なぬことはともかく、勝つことはあたわぬじゃろうて」
     冷静に呟いたスサノオの姫ナミダは、最後方から軍勢を見渡したあと、歩を進める。
     そう、撤退の支援を行なうために……。


    参加者
    旅行鳩・砂蔵(桜・d01166)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)
    月雲・悠一(紅焔・d02499)
    月雲・螢(線香花火の女王・d06312)
    柿崎・法子(それはよくあること・d17465)
    ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)
    深海・水花(鮮血の使徒・d20595)

    ■リプレイ


     武蔵坂学園の眼前、まさに戦争の様相と化して来た戦場のド真ん中を、とある灼滅者達の一団が駆け抜ける。
    「これ以上学園の仲間には手は出させないんだから!」
     神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)の言葉に一団として走り続ける皆が頷く。
    「だいたい、拙者達が出払っている間に学園を狙うとはなんとも卑劣な奴らでござる」
    「まったくだわ! そんなセコイ真似をしてくれた上に迂闊に灼滅できないとか……本っ当、面倒な相手!」
     ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)の言葉に同意しつつ、さらにイライラを募らせる明日等。
    「しかし、灼滅は出来ずとも痛い目を見させる事はできる。ここは拙者達の学園に手を出した事を存分に後悔して貰うでござるよ!」
    「ハリー、他班の状況は」
     向かって来たタトゥーバットをクロスグレイブで威嚇射撃しながら旅行鳩・砂蔵(桜・d01166)が聞く。
    「今の所は順調、大きな状況の変化も無いようでござるな。ただ――」
     周りで戦いを始める班の救援にも向かわず、ハリー達はただ一直線に目的へ向かってひた走る。
    「ただ、何班か拙者らと同じ考えで動いているようでござる」
    「皆考える事は同じ……よくある事、だね」
     柿崎・法子(それはよくあること・d17465)が走りながらジェスチャーでやれやれ、と。
     そんな中、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)は他班の好戦派の人達にメイヨールを灼滅しないよう注意喚起する予定だった……しかし戦いが始まった今、それを言ってどれだけの人が聞いてくれるか……戦闘開始前に事前に他班に根回しできれば別だっただろうが……。
    「(灼滅を目指す位の勢いが必要なのは分かりますが、後先考えずの灼滅は……)」
     紗里亜は八卦妖槍を握る手に力が入る。その手にそっと手が触れ、見ればシスター服の深海・水花(鮮血の使徒・d20595)だった。
    「できるだけ撤退させる方向で、大丈夫、私達が付いてます」
     水花の言葉にコクリと頷く紗里亜。
    「とは言え、戦闘中は全力で灼滅を狙いに行くぜ? それくらいの気概が無けりゃ、敵を怯ませる事なんて出来やしないしな」
    「ふっ、ずいぶんな物言いね」
     月雲・悠一(紅焔・d02499)の台詞にフッと笑って釘を刺すは姉弟の関係にある月雲・螢(線香花火の女王・d06312)。
    「螢、お前こそ久々の戦場で大丈夫なのか?」
    「問題無いわ、久々に感じるこの緊張感は中々に良いものだし」
     そして話しながらも敵の目を掻い潜り、彼らはそこへと到着する。
    「(瑠架から『キモチ悪い』の言葉一発で傷心撤退してくれないかしら?……この、肉人形は)」
     さすがに口に出さず、目の前の丸々と巨大な黒翼卿を睨むだけにする螢。
     その場に到着したのは彼らだけではなかった。自分たち以外に他3班が到着、メイヨールを中心に4方を囲む形で陣を取る。
    「忌まわしき血よ、枯れ果てなさい……ッ」
     螢が叫び、そして灼滅者4班対メイヨール本隊の戦いが始まる。


     4つの班で取り囲むと、メイヨールはお気に入りのヴァンパイア達を灼滅者の迎撃に出して来た。
     元は見目麗しい可憐な少女たちであったろう彼女たちは、しかしメイヨールがお気に入り過ぎて壊してしまったせいで今や身体中包帯だらけだった。それらが3人程度ずつ各班と戦闘を開始、メイヨールは中央から四肢の無い身体でぽよよんと飛び跳ねると、そのまま別の班へと攻撃。ややあって――。
    「さぁ、今度はこっちを遊んであげるよ」
     跳んでくると同時、赤い十字架を放つメイヨール。目標にされたのは明日等。
     咄嗟にウィングキャットのリンフォースに突き飛ばされ。
    「リンフォース!」
     明日等の声と共に、その一撃でウィングキャットは消滅。
     すでに交戦状態だった包帯のヴァンパイア達の攻撃を受けていたとはいえ……。
    「さすがは子爵級……しかし、それもここまででござる!――って!?」
     ハリーが攻撃しようとするも、メイヨールは跳ねまわった後すぐに別の班の方へ。
     追撃しようにも「させません」とばかりに包帯ヴァンパイア達が立ち塞がる。
    「これは……思った以上に厄介でござるな」

     メイヨールは包帯ヴァンパイア達を足止めにしつつ、1人で4班全員と戦うつもりなのだろう。
     遠目に見て、3班目との交戦が終わり、メイヨールは4班目と戦い始めている。
    「皆さん、此処が正念場です。今を生きる人々を守る為、サイキックアブソーバーがある学園を守らなければなりません。……でなければ、名古屋の人々を始めとして、今まで守れず犠牲となった人々に顔向けが出来ません」
    「大返しでクタクタですけど、集中ですね!」
     水花の言葉に紗里亜がすぐに同意し、他の皆もその通りだと声を返す。
    「まずは1体ずつ、確実に撃破して数を減らしましょう」
     水花が包帯ヴァンパイアに裁きの光条を放ちながら言った。
     ここの足止めは3人、メイヨールが身辺警護に置いているだけあり相当強いダークネスでもあるが、それでもメイヨールの破格の強さに比べればまだ何とかできそうだった。
     3体のうち裁きの光条を受け動きの鈍った1体に狙いを定め紗里亜と明日等が同時に帯を放つ。
     二つの帯が左右の太腿を貫き完全に足を止めるヴァンパイア。
     チャンス!
     そう思った瞬間、何かが弾むような音と共に跳んでくる。
    「メイヨールが来るよ!」
     法子が知らせると同時、黒翼卿がぽよよんと着地。
    「今度は誰にしようかなぁ~?」
     誰もが警戒する中、迷いなく動くは悠一。
    「(螢の前で無様な真似をしたら後が怖いしな……やれる範囲でっ)」
     メイヨールを無視して動きの止まったヴァンパイアへ。
    「じゃあ、今無視したキミに決めた!」
     しかし運悪く黒翼卿のターゲットは悠一へ。その瞬間、子爵の姿が消えた。
    「なっ!?」
     瞬間移動でもしたように悠一の真横に現れるメイヨール。弧を描くように戦槌をヴァンパイアに向け振りかぶっていた悠一は回避ができない。
     カッ!
     赤い光が瞬き、十字架が……。
    「ニンポー忍法身代わりの術!」
     声と共に十字架が悠一でなくハリーを切り裂く。
     子爵の性格から無視した悠一が狙われると先読みし、寸前に間に割って入ったのだ。
     そして、悠一の戦槌【軻遇突智】は動きの止まっていた包帯ヴァンパイアへクリティカルヒットし、予定通りトドメを刺す。
    「悠一、不甲斐ないのではない? 庇われる前に回避しなさい」
     螢が容赦無い言葉を悠一にかけつつ大ダメージを食らったハリーにシールドリングを飛ばし、螢に合わせるよう法子もハリーにラビリンスアーマーをかけダブルで盾の効果を与える。
    「かたじけない!」
    「君を狙ったわけじゃないんだけどなぁ」
     不満そうに言うメイヨールだが、その背後にまわった砂蔵が言う。
    「1つ聞きたい。貴様は朱雀門瑠架を愛していると言うが、ダークネスに愛はあるのか? お前が戦う理由は彼女を愛しているからなのか。それとも、彼女が望んだからか」
    「る……瑠架ちゃん! そうさ、僕は僕の瑠架ちゃんの為、その為に武蔵坂の人間を全滅させるんだ、そしたら……」
     何か気持ち悪い事を言い続けるメイヨールだったが、ふと砂蔵の目に入るは包帯だらけのヴァンパイア達。彼女たちはメイヨールのお気に入りとなった吸血鬼どもだろう。だが、その結果はどうだ。メイヨールに愛でられた結果が……。
    「ねぇ、聞いてるぅ?」
     メイヨールが四肢の無い身体をゆっくり回して振り返ってくる。
    「長々とご高説痛み入る……だが――」
     デモノイド寄生体の力で巨大な刀に変化させた砂蔵の腕が、会話を(一方的に)していたと思っていたメイヨールの脇腹を切り裂く。
    「理由になっていない」
    「少しはやるみたいだねぇ~、じゃあまた来ようかなぁ」
     そう言うとメイヨールは再びバインバインと跳ねて次の班へと向かって行った。


     メイヨールがいない間に敵を1体でも減らそうと包帯ヴァンパイアの1人に攻撃を集中させる灼滅者達。
     こちらの足止めに来ていたうち1体はすでに倒し、残りは2体。
    「はっ!」
     包帯ヴァンパイアの攻撃を回避し紗里亜が低い姿勢から蹴りを放つ。
     紗里亜の使う八卦掌には蹴り技は無いようにも思えるが、そんな事は無い。まして灼滅者として殲術道具を使った紗里亜の蹴りは炎を纏い、鋭く相手の足を払って包帯ヴァンパイアを大地へ転がす。すぐに起き上がろうとする包帯だが、砂蔵が縛霊手の祭壇を起動、除霊結界でその動きを封じ、そして完全に身動き取れなくなったヴァンパイアにスッと影が落ち――。
     ドッ!
     ゼロ距離での水花の拳が包帯ヴァンパイアを穿ち2体目はその活動を停止する。
     残り……1体。
     そう思った時だ、螢から喚起の声が上がる。
    「メイヨールが来るわよ!」
     仲間達に声をかけつつ、メイヨールの攻撃に備え急ぎ天魔降臨陣で前衛を回復させる螢。
     そして、ぽよよんと着地しメイヨールがぐるりと周囲を見回す。
    「そろそろ誰か死んで欲しいかなぁ」
     値踏みするように見るメイヨールだが、その服装は先ほどよりずっとボロボロになっている。他の班も着実にメイヨールへのダメージを蓄積させているという事だ。
    「彼女を愛するその気持ちは尊いものですが……今あなたがしている事は、本当に彼女が望んでいる事だと思いますか?」
     順繰りに見ていたメイヨールと目が合った水花が聞く。しかし、メイヨールは。
    「僕が瑠架ちゃんを悲しませるような事をするはずないじゃないか! 君、失礼だね」
     瞬後、即座に動いたのはハリーだ。
     メイヨールの死角から斬りつけつつ水花が狙われると察して間に割って入ろうと――。
    「邪魔」
     赤い十字架が輝きハリーが吹き飛ぶ。
     さらに赤い光は輝きを失わず、連続で十字架を形作った。
    「ゆい!」
     螢の叫びと同時、ハリーより数瞬遅れて動いていたビハインドが水花の代わりに十字に割かれ消滅する。
     一方、吹き飛ばされたハリーの元へは法子が駆け寄り。
    「クリントンさん! 祝福の言葉を、風に!」
     セイクリッドウィンドウでなんとか回復しようとするも……。
    「い、いや、無事でござる……もっとも、今立ってるのは魂の力による所が大きいでござるが……」
    「なんか……むかつくなぁ」
     思い通りにならず少しイラつくメイヨール。
    「なら帰ったら? 私達と敵対するとロクな結果にはならないわよ」
     撤退を促すように明日等が言い、解き放った氷でメイヨールを大地に繋ぐ。
    「ここで帰ったら灼滅者達をぐちゃぐちゃにできないじゃないか?」
     パキパキと強引に氷を引きはがして動き出そうとするメイヨール。
     だが、声は黒翼卿の背後から――。
    「爵位級が聞いて呆れるぜ。空き巣狙いみたいな作戦を、自称ダークネスの貴族が人間相手にやるってのはどうなんだ?」
    「なにぃ」
    「……ま、今は目の前の障害をぶっ飛ばすだけだけど、なっ!!!」
     全力で溜めていた悠一が、大きく弧を描くように戦槌を振りかぶり、走り込みからの慣性をも加えてメイヨールをカチ上げるようにフルスイング。
     そのどてっ腹にめり込んだ戦槌を、悠一は「おおおおおおっ!」と気合いを入れて振り抜く!
     ゴルフや野球のように力技でメイヨールが吹っ飛び、そのまま別の戦場へと落ちていくのが見えた。
    「悠一」
     ガシッと背中を螢に蹴られる悠一。
    「はは、ちょっとやり過ぎたな」


     メイヨールが別の戦場に行っている間、灼滅者達は体勢を立て直そうと回復をメインに行っていた。
     黒翼卿が再びここにやってくるその時までに――。
    「って、お前さんは呼んでないぜ!」
     横槍を入れてくる包帯ヴァンパイアの相手をしつつ、オーラを拳に集めて連打しつつ悠一が言う。
     包帯ヴァンパイアを吹き飛ばし……そして、今度は良いタイミングでヤツが来る。
    「ギルティクロス」
     砂蔵が跳んでくるメイヨールを撃墜、灼滅者達の前に落下する肉の塊は、今まで以上に傷が増えていた。
     その表情に余裕はなく、その顔には脂汗が。
    「……良くも、良くもこの、僕を……!」
     荒い息と共に吐き捨てるメイヨール。
     その姿を見た時、皆の思考が言葉にせず一致する。
     ――撤退させるなら。
    「皆! このまま畳み掛けるよ!」
     士気を高めて法子も攻撃へと参加、無骨な手袋に炎を纏わせメイヨールへ突撃。
     法子の拳を回避しようとするメイヨールだが、水花の放った帯がその身体を打ち付け、結果、炎の拳も顔面にめり込む。水花はそのまま帯でメイヨールを抑えこみつつ。
    「人々を守る為……神の名の下に、断罪します!」
    「黙れ黙れ黙れー!!!」
     怒りを露わにする黒翼卿だが、ここが分水嶺だと灼滅者も理解している。
    「ここで撤退されたら次は勝てないかもしれない。絶対に、ここで灼滅を!」
     紗里亜の言葉に螢がハリーに言う。
    「私も攻撃に回ろうと思うけど、ハリーくんは大丈夫? 無茶してイガヘッドになんてならないで頂戴ね」
    「HAHA、もちろん、そのつもりは毛頭無いでござる」
     螢はその返事を聞くとリングスラッシャーに炎を纏わせメイヨールに投げ放つ。
     同時、ハリーが「ニンポー・ご当地ビームッ!」と合わせる。
     直撃を受けヨロリと転がりそうになるメイヨール。
     そこに飛び込む影2人。
     明日等が螺旋の力を加えた槍と、同じく八卦妖槍を構えた紗里亜がメイヨールの懐まで接敵。
    「「はあっ!!」」
     気合い一閃、メイヨールの肉の胴体に2つの風穴があく。
    「い、痛い痛い痛いっ!」
     メイヨールが再び跳躍し別の戦場へと跳んでいく。
    「まだ撤退しないのか」
     悠一が言うも、メイヨールを取り囲んだ4班の作戦はある意味で一致していた。
     さらに傷を増したメイヨールは戦場ではなく中央へと移動。
     生き残っていたお気に入りのヴァンパイア達を自らの元に呼び戻すと。
    「運動して、息が切れてしまったよ。少し休憩するから、お前達僕を守れ」
     はぁはぁ息荒く脂汗を流しながら指示を出す。
     そんなメイヨールに他班のメンバーが声をかける。
    「これ以上の戦いは無意味やで。まだやるなら……俺はお前らと刺し違ってでも戦いを止める!」
     その言葉に繋げるよう、明日等が瑠架の事を引き合いに出しつつ。
    「聞き分けのない男は嫌われても知らないわよ」
     と言えば、残り2班からも「とっとと帰りやがれ」「帰るでありますよ!」と一様に撤退を促す言葉が続く。
     そして――。
    「覚えていろよ。この恨み、僕は、絶対忘れないから」
     黒翼卿メイヨールはそう言うと配下と共に逃げ出していく。
     もちろん、撤退させる為にこれだけ面倒な戦いを続けたのだ、わざわざ追撃する班はいない。
     その後のメイヨールだが――。
    「まぁ…。『よくあること』だよ。……きっと、ね」
     法子がなんとなく口癖を呟く。
     だが、灼滅者達は誇って良いだろう。
     誰の犠牲も出さず、あの子爵を撤退させたのだ。
     それはつまり、目的を完璧に達成したと言えるのだから……。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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