黒翼卿迎撃戦~揺れる学園

    作者:立川司郎

     灼滅者とハンドレッド・コルドロンとの決戦との戦いが佳境に入った頃、武蔵野もまた危機に見舞われていた。
     突如として、吸血鬼の軍勢が迫ったのである。
     エクスブレインには、それが突如現れた白い炎の柱から出現したように見えたという。
     ゆっくりと武蔵野の地に降り立つ、吸血鬼の軍勢。
     黒翼卿の眷属タトゥーバット、絞首卿の配下である奴隷級ヴァンパイア団、バーバ・ヤーガの眷属鶏の足の小屋と、ヴァンパイア魔女団、殺竜卿の配下鉄竜騎兵団。
     そしてさらには、竜種イフリート、ソロモンの大悪魔・ヴァレフォールの眷属、スサノオ、その他の眷属を含めて一斉に武蔵坂学園に進軍してきた。
     車椅子を朱雀門・瑠架に押してもらいながら、メイヨールが軍勢とともに進む。
    「灼滅者の戦力は出払ってるし、今回の作戦には、黒の王の完全バックアップが付いているんだ。だから勝利は確実だよ、瑠架ちゃん」
    「えぇ、そうですね、メイヨール子爵」
     瑠架は静かに答える。
     しかしそこで、吸血鬼達の軍勢に思わぬ報告が入る。
     ハンドレッド・コルドロンとの戦いを短期決戦で終わらせた灼滅者達が、この報告を聞いて引き返してきたのである。
     それは彼らが予想していたよりも数時間早い、まさに神速の大返しであったという。
     
     学園に引き返してきた灼滅者達を見て、相良・隼人(大学生エクスブレイン・dn0022)も少しほっとしているようだった。
    「戻ってきてくれて助かった。……ありがとう」
     帰ってきた時武蔵坂学園がなかった、なんてことになったら、誰がおまえ達を出迎えてやれるんだ。
     隼人はそう少し笑って言った。
    「だが、吸血鬼の軍勢は去っちゃいない。おまえ達が戻ってきてくれたおかげで、一部の勢力は戦意を失っているよだが。だが、メイヨールを倒さないかぎり決戦は避けては通れねェ」
     将たるメイヨールさえ倒せば、彼らは撤退するだろうと隼人は話す。
     灼滅者が引き返してくることは予想外だったため、吸血鬼の軍勢にも混乱が見えるという。
     この隙を突けば、ほかの有力ダークネス達も倒すことが可能だろう。
    「敵の布陣は、前線中央にメイヨール。その後ろに朱雀門・瑠架、前線左翼に竜種ファフニール、同じく右翼に義の犬士ラゴウ。後方はスサノオの姫ナミダとなっている。ソロモンの大悪魔・ヴァレフォールは前線と後方の間で、身の処遇に迷っているようだな」
     メイヨールを撃退して終わらせるか、それともほかの有力敵も灼滅させる方向で作戦を立てるか。
     それは、灼滅者達の動きにかかっている。
    「戦闘前に校長が戻ってきたんだが、迎撃戦が終わったら大事な話があるそうだ。……なんだろうな」
     少し首をかしげて考えたが、今考えても仕方ないと隼人はぽんと灼滅者達の肩をたたいて送り出した。
     
     その頃の吸血鬼達は、それぞれ違う思惑によって揺れていた。
    「僕と瑠架ちゃんの共同作業を邪魔するなんて、許せないね。灼滅者なんて、踏み潰してグチャグチャにしてしまえっ! 突撃ー!」
     メイヨールが相変わらずそう瑠架の名を出している一方、当人の瑠架はというと、今回の灼滅者の転戦について考えていた。
    (「灼滅者の大返し……。会長が失敗したのか、それとも、これも彼の予定通りなのか。とにかく、最大の懸案は消えたわ。あとは、メイヨール子爵を無事に撤退させれば。メイヨール子爵は、ボスコウなどとは違う、本物の爵位級ヴァンパイア。彼が灼滅されれば、爵位級ヴァンパイアと武蔵坂学園の敵対を止める事はできない」)
     なんとしても、メイヨールを無事に連れ戻さなければと考える瑠架。
     そしてソロモンの大悪魔ヴァレフォールも、灼滅者の動きについて戦意をそがれているようだった。
    「爵位級ヴァンパイアに協力して、楽して力を取り戻す予定だったのに、どうも話が違うねぇ。これは、適当に戦って、折を見て撤退するしかないね」
     つまらなそうに、ヴァレフォールは言う。
     朱雀門・瑠架と共に行動してきた義の犬士・ラゴウは、
    「卑劣な罠を破って現れる正義の味方。それでこそ、灼滅者だ。だが、これは瑠架の望み。簡単に黒翼卿を討たせるわけにはいかないな」
     瑠架の頼みであるなら、とラゴウはメイヨールの撤退を支援するつもりでいたし、竜種ファフニールは、殺された多くの我が同胞の恨み、今こそ晴らそう、と灼滅者達に戦意をみなぎらせている。
     そして、スサノオの姫ナミダは。
    「黒の王には義理があった。故に軍団の隠蔽は引き受けたが、さしたる意味は無かったようじゃのう。さて、儂らは退く者どもを助けるとしよう。黒翼卿は戦う気のようじゃが……まぁ、死なぬことはともかく、勝つことはあたわぬじゃろうて」
     と呟いて、最後尾から撤退の支援についた。

     様々な思惑を秘めて、戦いが開始する。


    参加者
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)
    戒道・蔵乃祐(プラクシス・d06549)
    不動峰・明(大一大万大吉・d11607)
    九十九坂・枢(飴色逆光ノスタルジィ・d12597)
    清浄・利恵(華開くブローディア・d23692)
    カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)

    ■リプレイ

     いずれの灼滅者達も、名古屋での戦いによる熱が、まだ体の中に残っているようだった。最後にやってきた戒道・蔵乃祐(プラクシス・d06549)が仲間に視線をやると、それぞれ武器を確認して見渡す。
     攻め入る軍勢は様々であったが、まずはメイヨールの灼滅。
     そして、撤退の意思が低いと見られる竜種ファフニール達との戦いが重要であろう。明が指した方向、ファフニールと向き合う正面から仲間が突っ込むのが見える。
    「私が立っている限り、この学園を潰させたりしません」
     高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)が高らかに宣言し、仲間とともに竜種イフリートとの戦いに立ち向かっていく。
     真正面から組み合った彼らは、仲間がファフニールの所へと向かうための足がかりとなろう。
    「急ぐぞ。回り込むには時間がかかる」
     不動峰・明(大一大万大吉・d11607)が駆け出すと、仲間も後に続く。
     正面から攻撃を仕掛けた紫姫達へ向かってイフリート達が咆哮をあげると、続いてもう一班が紫姫達とともにイフリートに切り込んでいった。
    「生きて帰れると思うなよクソッタレ共が!」
     久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621)の声が戦場に響く。
     早く後ろに回り込み、仲間の攻撃を支援しなければならない。イフリート達に見つからないようにしながら、明達は戦場を迂回して進む。
     既に日は傾きかけている時刻である。
     ひんやりと冷たい風が、体の熱を冷ます。
    「味方の大部分がファフニールの所に向かったようだね」
     清浄・利恵(華開くブローディア・d23692)が電話を手にして、戦場を見つめる。
     ここからは、よく見えていた。
     できるならファフニールに一矢報いたい。そう思うのは堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)も同じであったが、イフリート達を抑える役割が必要なのは理解している。
    「少しでもファフニールに向けて進む仲間を支えよう」
     朱那が言うと、利恵も頷いた。
     先に突っ込んだ仲間へと連絡を伝える、利恵。
    「待たせたね、うまく回り込めたよ。……それじゃあ精一杯暴れるとしようか」
     イフリート達が久遠・高峰班と衝突したその時、利恵や明はそのイフリートの背を見ていたのであった。
     エアシューズで、滑るように利恵がイフリートへと向かっていく。
     軍勢を目にしても、ひるむことも憤ることもなく、落ち着いた様子で利恵はダイダロスベルトを手にした。
    「必ず守り抜いて見せる。その為にも、君達竜種を抑えきる!」
     声を上げて、利恵がベルトを放った。
     背後からの攻撃に、イフリート達が驚いたように振り返る。正面に向かおうとしていたイフリートは、背後からの挟撃により戦力を分散させられることとなった。
     体ごと突っ込みながら、強烈なアッパーを伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)が浴びせる。
    「ここまで攻めてきた以上、ただで帰す訳にはいかんな」
     蓮太郎はイフリートにそう言うと、さらに拳を浴びせた。イフリート達が体制を立て直す隙を与えず、連打で押していく蓮太郎。
     ここからは、思う存分に戦って……ファフニールの元に向かう仲間を支える。
     だから、おまえ達にはここで相手をしてもらう、と。
     戦場にゆるりと、霧が流れていく。じわりと灼滅者達を包み込む霧を流し、紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)は後方からイフリートを見据えた。
    「……言葉すら伝わって来ない」
     ただ戦う者。
     ただ狩る者、駆られるモノ。
     謡はそう心に留め、戦いへと心を傾けていく。

     後方から襲いかかってきた灼滅者達に、されるがままのイフリートではない。
     尾を振り払いながら、ゆっくりと二体が振り返った。
     大きな体のイフリートの動きを読みながら、蓮太郎が拳を叩き込む。イフリートの周囲に明、利恵、蔵乃祐が展開したのがわかり、蓮太郎は攻撃に専念する事にした。
    「……さすがにこう堅いんじゃ、正面切っては無策か」
     力強く堅いイフリートをたたいた拳は、じぃんと痺れる。
     蓮太郎は拳を見下ろし、それから再び踏み込んだ。
     今度は真正面から叩かず、横合いからイフリートの脇を狙ってたたき込む。スピードを乗せて威力を増し、イフリートを圧倒する狙いである。
     咆哮を上げて威圧したイフリートが尾を振るが、その尾を明が刀の峰で受け止める。
    「……」
     無言で明は、長ドスを振り抜いた。
     切り払った一撃が尾を鮮やかに斬り裂き、ずるりと地面に落とす。けたたましい声を上げてイフリートは、明へと食らいついた。
     明と視線を合わせ、さっと後方に回みながら蔵乃祐がクルセイドソードで横薙ぎに切りつける。
     -全部で2体……だが奥のイフリートが動きそうだ-
     蔵乃祐が周囲の戦況を見ながら、2体のイフリートを牽制する。1体は明、もう1体は利恵が相手をしている。
    「戒道君、こちらが集中攻撃を受けるのは避けたい」
    「分かっています」
     相手の攻撃の威力は高く、うまく3人が立ち回らなければこちらが追い詰められる。蔵乃祐は、利恵に声を送りながらカーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)が支えているのを見て、明の支援に回った。
     巨体から繰り出される尾の攻撃と火炎とが、周囲をなぎ払い焼き尽くす。
     ギターの音色に乗せて歌を奏で、力を使い分けてカーリーは傷を癒やしていく。明るく澄んだカーリーの声が、咆哮と声が轟く戦場を流れる。
     ゆっくりと、柔らかく。
    「大丈夫、ボクがいるよ」
     はね飛ばされた明の傷は深いが、カーリーの明るい声は皆を勇気づける。立ち上がり、明が後方を振り返った。
     先に、集中攻撃で片方潰す方がいい。
     そう言う明に従い、謡は頷いた。
    「イフリートの意識が前方の二班に向いている今のうちに、こちらを片付けよう。……行けるかいエルミールさん」
    「大丈夫、霧が力を貸してくれるよ」
     謡はそう言うと、霧を明や蓮太郎達の周囲に展開した。
     同時にカーリーが、ヴァンパイアミストを発動させる。
     流れゆく霧がイフリート達から、彼らを守り力を貸してくれる事だろう。もっと濃く、もっと深くと謡は霧の中に身を沈めていく。
    「ファフニールはどうなった?」
     謡が問うと、九十九坂・枢(飴色逆光ノスタルジィ・d12597)が目を細めた。
     先ほど突破していく仲間の班があったが、ファフニールの周囲の壁は厚い。
    「孤立してへんとええけど……」
    「だがここからでは霧も届かないな。ほかの班が突破できるように、イフリートの気を逸らすんだ」
     手の内に紫鬼布を握り、謡は後方をちらりと振り返った。
    「いつでもいいよ」
    「せやったら、仕上げは紫乃崎くんに任せよか」
     すう、と枢が前に身を傾けて、槍を前へと差し出す。鋭い槍の切っ先がひらりと光を反射させると、冷気が飛び出した。
     弾丸のように打ち出された氷塊がイフリートの体を突き刺し、抉る。
     霧の中に身を隠し、狙い澄ました枢の冷弾がイフリートを貫いていく。
     咆哮を上げて前に踏み出したイフリートが炎を吐くが、その炎は蔵乃祐の体が阻止。身を焼かれながら、蔵乃祐は鋏をイフリートの体へとぶすりと突き刺した。
    「勘弁してください、火傷はもう結構なんですから」
    「君たちじゃない、ファフニールに用があるんだよ」
     朱那が風のように飛び込み、足下から影を放つ。刃となった影は、イフリートの足下を斬り裂きながら絡め付いた。
     体中を斬り裂いていく影の傷を、ナイフが抉る。
     影からゆるりと姿を現した謡が、傷口さらに深くナイフを突き立てる。振り回した尾で蔵乃祐が吹き飛ぶが、さらに攻撃に向かったイフリートに攻撃を畳みかける枢と朱那。
    「戦うって言うなら、あたしが相手になる! ここを壊すって言うなら、大事な場所をあたしは守る!」
     朱那は叫び、飛び込みながら槍でイフリートごと地面に突き刺した。
     深々と突き刺さった槍の下で、イフリートが叫ぶ。そしてもうひとつ、枢の槍がイフリートを横からまっすぐ貫く。
     二つの槍に貫かれたイフリートは、あえぐようにうめき声を漏らし、そしてゆっくりと力尽きていった。
     次は2体目。
     視線を上げた朱那に、利恵の背が映る。
     イフリートの攻撃で態勢を崩した利恵を、朱那が支えた。ふと薄く笑いながら利恵は振り返り、縛霊手を構える。
    「すまない、情けない所を見せたね」
     そう言いながら、再びイフリートに対峙する利恵。明が挟み込むように位置取ると、蔵乃祐はゆっくり呼吸を整えた。
     先ほどの傷の痛みが、まだ残っているらしい。
     だが、戦えないほどではない。
    「ボクが支えきれなくなったら、後ろに下がってね」
     限界まで歌い続けるけど……。
     カーリーの声は、少し心配そうだった。
     だが、蔵乃祐とて自分の傷の具合くらいは分かっている。蔵乃祐だけではなく、明も利恵も傷は深いがまだ仲間を守っているのだ。

     謡の夜霧とカーリーのミストの効果もあって、残るイフリートとの戦いは一気に灼滅者側優勢に傾いた。
     前衛に立った仲間の傷を確認しながら、明が適度に指示を出す。
     お互いかばい合いながら、うまくイフリートの攻撃を分散させた。
    「よし、一気に……」
     と言いかけた明の視線の先に、さらに1体が接近するのが見えた。ちらりと後ろを振り返り、利恵が縛霊手を構える。
     即座に結界を展開し、イフリートの足止めを計る。
     しかし、イフリートの勢いは衰えなかった。
     突進するイフリートに、再び利恵が縛霊手を構えると、謡がバベルブレイカーを身構える。
     イフリートの足下に展開される結界に合わせ、謡がバベルブレイカーを打ち込んだ。結界に気づきながら踏み込もうとしたイフリートに、バベルブレイカーが風穴を開ける。
    「今のうちだ」
     謡の声が、蓮太郎にかけられる。
     ふ、と視線を上げると蓮太郎は傷ついたイフリートに影を放った。
     牙を覗かせる顎のように、影がイフリートに食らいつく。漆黒の影が食らいついたイフリートの目には、何が映っていただろうか。
     身をよじって炎を吐き出そうとするイフリートに、明が刃を構えた。
     抜きはなった一閃は、イフリートの体を確かにとらえる。しかし刃が傷を生む事はなく、イフリートはぐらりと体勢を崩す。
     その体は影に食らい付かれたまま、地面へと崩れ落ちた。
     つかんだ刀の柄に、汗が伝う。明は深呼吸を一つすると、残る1体へと向き直った。
    「……ようもこない大軍で乗り込んで来たもんや」
     家主達が留守をしてる間に、押し込み追い込み強盗とはねぇ。そう言った枢はほうと息をついて、薄く笑った。
     どうやら仲間は、イフリートの軍勢の奥深くまで到達したようだ。ここからも、各地で仲間が戦っているのが分かる。
    「名古屋心配やのに、味噌カツも巨大パフェも食べてへんのに」
    「それが本音ですか、もしかして」
     蔵乃祐がぽつりと言うと、枢はにっこりと笑った。
     そないな事ないで、と言いつつ手には槍を構える。そして大きく構えた槍から、ありったけの氷弾を放った。
     体を貫く氷が、イフリートから体力を奪っていく。
     炎を吐いて怒声を上げるが、その体を蔵乃祐が鋏でざくりと斬り裂く。どこか遠くで、ファフニールの声が聞こえた気がした。
     聞こえるはずもないが。
     蔵乃祐は、炎を吐き続けるイフリートに言う。
    「堂々巡りですよ」
     同胞の報復が、灼滅者組織の壊滅という総力戦の結果でようやく釣り合うように。
     ここでファフニールが消えた所で、別のダークネスの被害者が減る訳ではない。イフリートは灼滅者を目の敵にして、灼滅者は戦う。
     それが続く。
    「あたしが仲間を守ったら、イフリート達も報復するって事?」
     朱那が問う。
     だがそれがそうだとしても、朱那は今迷わず戦うだろう。
     ここは朱那が人として生きる事ができた、大切な場所なのだから。迷わず朱那は飛び込み、イフリートを槍で貫く。
     穂先を掲げ、イフリートに立ち向かっていく朱那。
    「守る理由なんて、それだけだ。……絶対この先には通さへん!」
    「……せやな、理由なんてそれだけで十分や」
     枢は頷いた。
     ゆるやかに流れるカーリーの歌声が、耳に優しく届く。
     閃光が走り枢から裁きの光が放たれた。幾筋もの光がイフリートを撃ち貫いた。よろりと歩き出したイフリートに向けて、利恵が跳躍する。
     空からたたき込まれた蹴りが、イフリートの体勢を崩す。
     最後に無言で放った明の刃の一閃が、イフリートから最後の力を奪った。刃を鞘に納め、明が周囲を見回す。
    「……あらかた片付いたな」
     明の言葉で、カーリーは声を止めて見回した。
     まだ戦っている仲間も居るようだ。
    「ボクはまだ歌っていていいかな」
     カーリーはそう聞くと、声を上げた。
     歌声が、まだ戦っている仲間に届くように。
     すると、その口に枢がひょいと飴を放り込んだ。甘い飴の味が口の中に広がり、きょとんとカーリーが枢を見返す。
    「少し休憩や。……そんで仲間が怪我しとったら、助けに行けばええ」
     枢の言葉を聞きながら、蔵乃祐は息をついた。
     戦いの結果を考えているのかもしれない。蓮太郎は戦場をじっと見つめていたが、まだ戦えそうな様子であった。
    「学園は無事かな」
     ふと、朱那が振り返る。
     学園に残った仲間達を、朱那は気にかけてつぶやく。
     全軍撤退するまで、ここを動く訳にはいかないと利恵は言う。
    「何事もなく終わりそうだ」
    「……無事だったね」
     ここで誰も堕ちず、犠牲にならずにすんだのだ。
     仲間も、自分も。
     

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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