黒翼卿迎撃戦~襲来せし闇の使徒

    作者:飛翔優

    ●戦の時に奴らは来た
     名古屋で繰り広げられしハンドレッド・コルドロンとの戦いが架橋に移りし頃……武蔵坂の地に、白き炎の柱が立ち上った。
     灼滅者たちの帰還を待ち望んでいた倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)は、炎の内から吸血鬼の軍勢が飛び出してきたことを確認する。
     次々と現れる軍勢は、黒翼卿の眷属であるタトゥーバット、絞首卿の配下であった奴隷級ヴァンパイア団、バーバ・ヤーガの眷属である鶏の足の小屋と、ヴァンパイア魔女団、殺竜卿の配下である鉄竜騎兵団の混成軍であり、更に竜種イフリート、ソロモンの大悪魔・ヴァレフォールの眷属、スサノオ、動物型の眷属なども加え、武蔵坂学園へと進路を取ってきた。
     指揮官として名を連ねるダークネスも、黒翼卿メイヨール、朱雀門・瑠架、義の犬士・ラゴウ、竜種ファフニール、ソロモンの大悪魔ヴァレファール、スサノオの姫ナミダと揃っており、灼滅者の主力が出払っている武蔵坂を落とすには十分すぎるほど。
     もしも、このまま何もすることができなかったなら……。

     本陣では、手足を切り落とし車椅子に腰掛けているメイヨールが、押して移動を補助してくれている瑠架に話しかけていた。
    「灼滅者の戦力は出払ってるし、今回の作戦には、黒の王の完全バックアップが付いているんだ。だから勝利は確実だよ、瑠架ちゃん」
    「えぇ、そうですね、メイヨール子爵」
     瑠架はメイヨールにさとられぬよう、瞳を軽く伏せていく。
     武蔵坂学園を滅ぼすわけにはいかないと。どこか良いタイミングでこの軍を撤退させるしかない。しかし、その方法が思い浮かばない……と。
    「……?」
     思考が纏まらぬ中、瑠架たちに一報が届けられた。
    「武蔵坂学園の灼滅者が、こちらに向かっています」

     ハンドレッド・コルドロンの戦いを最速で勝利に導いた灼滅者たちが、急報を聞いて武蔵坂学園へと戻ってきた。
     それは、吸血鬼の軍勢が予測していたよりも数時間早い、まさに神速の大返しであっただろう。
     さあ、新たな決戦時。
     数多の思いを胸に抱き、吸血鬼の軍勢を迎え撃て!

    ●灼滅者たちが集まる場所で
     葉月は安堵の息を紡いだ後、いつもと変わらない穏やかな笑顔を浮かべていく。
    「皆さん、本当によく戻ってきてくれました。皆さんが戻ってきてくれたおかげで、武蔵坂学園が占領されるという最悪の事態を逃れる事ができました」
     しかし、まだ危機は去っていない。
    「吸血鬼の軍勢は、武蔵坂学園のすぐそこまで迫ってきています。皆さんが戻ってきてくれたことで吸血鬼軍の一部は戦意を失っているようですが、主将である黒翼卿メイヨールは武蔵坂学園への攻撃を諦めておらず、決戦は避けて通れません」
     一方、黒翼卿メイヨールさえ灼滅或いは撤退させれば、吸血鬼軍は撤退していく。
    「ですのでどうか……疲れているところを申し訳ありませんが、全力での戦いを以って迎撃し、吸血鬼軍を撃退して下さい」
     続いて、吸血鬼軍の現状が語られた。
    「皆さんの参戦は予想外だったのでしょう、黒翼軍はかなり混乱しているようです。この混乱の隙をつけば、黒翼卿メイヨールを撃退するだけでなく、他の有力なダークネスを討ち取ることもできるかもしれません」
     敵の布陣は、前線中央に黒翼卿メイヨール、その後ろに朱雀門・瑠架。前線左翼に竜種ファフニール。前線右翼に義の犬士・ラゴウ。そして後方にスサノオの姫・ナミダ。一方、ソロモンの大悪魔・ヴァレファールは、前線と後方の間で去就に迷っている状況の様子。
    「今回は黒翼卿たちを撃退さえすれば私たちの勝利。学園を守るため、どうかよろしくお願いします」
     それから……と、校長室の方角へ視線を向けていく。
    「この戦いの直前、校長先生が学園に戻ってきました。迎撃戦終了後に重大な話があると言っていましたが……今は、それを知らせるだけにしておきます。兎にも角にも、迎撃に成功しなければ始まりませんから」
     ですので……と、締めくくりヘと移行した。
    「どうか、全力での戦いを。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」

    ●戦いを前に、奴らは……
     灼滅者たちの帰還を知ったメイヨールは、表情を険しい物へと歪めて行く。
    「僕と瑠架ちゃんの共同作業を邪魔するなんて、許せないね。灼滅者なんて、踏み潰してグチャグチャにしてしまえっ! 突撃ー!」
     怒りの号令に従い動き出して行く軍勢の中、瑠架は一人思考を続けていた。
     灼滅者たちの大返し。会長が失敗したのか、それともこれも彼の予定通りなのか。
     ともかく、最大の懸案は消えた。後はメイヨール子爵を無事に撤退させれば……。
    「……」
     否。メイヨール子爵はボスコウなどとは違う、本物の爵位級ヴァンパイア。彼が灼滅されれば、爵位級ヴァンパイアと武蔵坂学園の敵対を止めることはできない。
     ならば……取る道は一つ。子爵を灼滅させないよう立ち回り……。

     義の犬士・ラゴウは呟いた。
    「卑劣な罠を破って現れる正義の味方。それでこそ、灼滅者だ。だが、これは瑠架の望み。簡単に黒翼卿を討たせるわけにはいかないな」
     故に、メイヨールを撤退させる。全ては瑠架の望みに従うため。

     一方、ソロモンの大悪魔ヴァルファーレは小さなため息を吐いていた。
    「爵位級ヴァンパイアに協力して、楽して力を取り戻す予定だったのに、どうも話しが違うねぇ。これは、適当に戦って、折を見て撤退するしかないね」

     対照的に、竜種ファフニールは沸いていた。
    「殺された多くの我が同胞の恨み、今こそ晴らそう。ゆくぞ、竜種の誇りにかけて!」

     最後方に位置するスサノオの姫・ナミダは、様々な色を見せていく軍勢を見渡し呟いていく。
    「黒の王には義理があった。故に軍団の隠蔽は引き受けたが、さしたる意味は無かったようじゃのう。さて、儂らは退く者どもを助けるとしよう。黒翼卿は戦う気のようじゃが……まぁ、死なぬことはともかく、勝つことはあたわぬじゃろうて」

     ……灼滅者帰還の報を聞き、それぞれ動き出して行く軍勢。決戦の時は、刻一刻と迫っていた……。


    参加者
    七里・奈々(隠居灼滅者・d00267)
    霧島・絶奈(胞霧城塞のアヴァロン・d03009)
    黒乃・璃羽(キングダム系怪人ハンター・d03447)
    小田切・真(ブラックナイツリーダー・d11348)
    羅睺・なゆた(闇を引き裂く禍つ星・d18283)
    刃渡・刀(伽藍洞の刀・d25866)
    月森・ゆず(キメラティックガール・d31645)
    ローゼ・クエーレ(常闇ノ桃鴉・d33895)

    ■リプレイ

    ●竜種ファフニール
     空が燃えている。
     街を埋め尽くす闇に負ける事なく赤く、鮮やかに。
     あと少しの時間が過ぎたなら空は陰り、炎は消える。その時に訪れるのは夜の静寂か、はたまた闇の絶望か。
     戦場と化した街中で、遠くに聞こえ始めた戦いの音、近くに響く剣戟。必要なものだけを拾い、探りながら、霧島・絶奈(胞霧城塞のアヴァロン・d03009)は他班の陽動が効いているうちに、仲間たちとともに進軍する。
     目指すは軍勢の頭目たる、竜種ファフニールがいる場所だ。
    「……陽動が上手く行っているみたいですね」
    「この隙に進んでいきましょう。私たちを含め、三班計二十四人の灼滅者が居れば……ファフニールといえど、倒せるはずです」
     絶奈の言葉に頷き返した小田切・真(ブラックナイツリーダー・d11348)は、自分たちと同様にファフニールへと向かっている別の班がいる方角へと視線を向けた。
     ファフニールへと向かう別働隊も、無事進むことができている様子。
     だから遅れを取らぬよう、時に物陰に隠れ、時に一気に距離を詰め……竜種イフリートたちの合間を縫うように進軍し……
    「……?」
     体のラインを見せるタイプの武者鎧に身を包んでいる七里・奈々(隠居灼滅者・d00267)が首を傾げた。
     何かが聞こえた気がしたから。
    「どうした?」
    「ううん、なんでもないよ」
     奈々は首を横に振り、歩みを止めず進んでいく。
     探る時間はない、立ち止まればそれだけ囲まれてしまう危険が増える……余計なダメージを負ってしまう可能性が増えるから。
     しばしの後、少しだけ視界の開けた場所に出た。
     視線の先、中心に座するは竜種ファフニール。
     奈々が身構える中、ファフニールは瞳をきつく細めていく。
    「待ちわびたぞ灼滅者ども。まずは貴様ら八人を喰らい、弔いの先駆けとしよう」
    「っ!」
     奈々は口を固く結び、周囲の様子を伺っていく。
     今、近くにいるのは……ファフニールへと肉薄しているのは、自分達だけ。他に、仲間の気配はない。
     順調に進軍しすぎて、孤立する形となっていたのだ。
    「……」
     奈々はファフニールへと視線を戻し、深い深い息を吐く。
    「一旦下がれ……そうにないよね」
    「逃すと思うてか?」
     ゆっくりと立ち上がっていくファフニール。
     気づけば、硬き甲羅を持つ三体の竜種イフリートが奈々たちを取り囲んでいた。
     奈々は瞳を閉ざした後、頬を緩め指輪に力を込めていく。
    「しっかし、ファフニールちゃんはやる気まんまんだねぇ~。なーんだかメイヨールに上手く使われているような? そうでないような?」
    「知らん。奴にどのような目的が在ろうと、我が目的は貴様ら灼滅者」
     鋭き眼光が、灼滅者たちを射抜く。
     臆する様子なく、ローゼ・クエーレ(常闇ノ桃鴉・d33895)は一礼した。
    「ごきげんよう、ファフニール……此処から先には進ませませんわ!」
    「戦いの隙を突いて攻めこむ。常套手段ですね。その事に文句はありませんが、その策が破られた時に被る被害も当然承知の上ですよね」
     黒乃・璃羽(キングダム系怪人ハンター・d03447)が指輪を突きつける中、ファフニールは鼻を鳴らす。
    「ふんっ、ならば貴様らを滅ぼせば良いだけのこと。我が同胞の恨み、晴らすため」
    「お前が同族の恨みを晴らすためここにいるというのなら、僕がお前達を許さないのも昔の仲間の恨みを晴らすためだ」
     羅睺・なゆた(闇を引き裂く禍つ星・d18283)は斧を握りしめ、オーラを纏い始めていく。
     月森・ゆず(キメラティックガール・d31645)もまた立ち入りを禁じる看板を握りしめながら、ファフニールを睨みつけていく。
    「学園はうちらのホームなんや、これ以上踏み荒らせて、たまるかッ……!」
    「別段、貴方自身や目的に然したる興味はないのですが………私の剣を計るために。斬られてください」
     刃渡・刀(伽藍洞の刀・d25866)はビハインドの千鳥と背を合わせ、共に刀を抜いていく。
    「合わせ二刀、重ね三刀。五刀流…………かごめかごめ」
     刀は一、千鳥は二。影刃をも浮かばせて、合図を送り合うことなく駆け出した。
     開かれた戦端へと、向かっていく前衛陣。
     奈々は璃羽と呼吸を重ね、共に魔力の弾丸を撃ち出した!
    「……」
     二つの魔力の弾丸は、ファフニールの硬き鱗に阻まれ霧散する。
     さなかには、刀が甲羅に阻まれる甲高い音色が響き始め……。

    ●たとえ灼熱の炎に抱かれても
     炎が上がる、爪に裂かれて大気がうねる。尾に叩かれた地面は砕け、轟く咆哮は建物すらも震わせる。
     届けようとした弾丸も斬撃はも硬い鱗に弾かれて、竜種イフリートたちに阻まれファフニールへは届かない。
     攻めるに攻められない状況の中、黄金の爪に貫かれた千鳥が一時的な消滅を迎えていた。
     全身が悲鳴を上げていくのを感じながら、刀は風に言葉を乗せていく。とてもではないが足りていないと考えながらも……少しでも長く戦線を維持することができるように。
    「……」
     あるいは……と、璃羽に視線を送っていく。
     頷き、璃羽はファフニールを意識に入れたまま竜種イフリートたちへと向き直った。
    「同胞を傷つけられたのはこちらも同じ。ですが……」
     最低限、取り巻きの竜種イフリートたちを倒さなければファフニールへは届かない。
    「まずはあなたたちを片付けましょう」
     手元に引き寄せた幾つもの光輪を、竜種イフリートたちに向かって解き放つ。
     隙間を埋めるかのように、真が腕装甲に取り付けられているガトリングガンを連射した。
    「っ!」
     半ばにて、熱が増す。
     素早く連射を止めて左側へと転がるも、逃げ遅れた右足に熱い痛みを感じた。
    「……」
     痛みを押して立ち上がり、今まで自分がいた場所を確認する。
     溶けていた。ファフニールの放つ炎によって。
     ゆえにゆずは掲げていく。
     進入禁止を警告へと変えた看板を!
     自分の目が開いているうちは、これ以上のKOはさせないと。
     誰ひとりとして倒れる事なく、他の班との合流を果たすのだと。
     想いは強く、願いは果てなく……されどファフニールの力は強大だ。
     爪に脇腹を切り裂かれてしまった真は、意識を向けてきたゆずを手で制していく。
    「……」
     言葉はなく、合図もない。
     ただゆっくりと歩き出し、剥がれた装甲の下血に濡れた右腕で、光の刃を振り上げる。
    「……」
     突き立てた甲羅に僅かなひびが生じた時、腹に突撃を受けて後方へとふっ飛ばされた。
    「まずは一人目。次は……先程からちょこまかとうるさい、貴様を片付けるとしよう」
    「……」
     視線に射抜かれるも、奈々は速度を落とす事なく駆けまわる。
     右へ、左へと飛び回りながら、間を縫いファフニールへと肉薄した。
    「このくらい近づけば……!」
     懐へ転がり込み、鋼糸を振るっていく。
     物ともせず、ファフニールは奈々を追いかけ始めた。
     物陰を利用し逃げまわる奈々をサポートするため、ローゼは縄状に分裂させた影を解き放つ。
    「少しでも止まってくだされば……」
    「はっ!」
     影は半ばにて霧散した。
     同時に、竜種イフリートたちが灼滅者たちを強引に振り払い……。
    「あ……」
     竜種イフリートたちに進路を塞がれた奈々がブレーキをかけた時、ファフニールの尾によって薙ぎ払われた。
     昏倒していくさまを一瞥したファフニールは、竜種イフリートたちに視線を向け若干眉を落としていく。
    「少々無理をさせてしまったか。だが、これで二人目だ。次は……前線にて治療を行う貴様だ」
     標的と示され、刀は得物を構え直す。
     全身に響いている痛み。今だ弱いと感じるのは、咆哮や尾撃の余波を受けるのみに留まっていたからだろう。
     考えながらも竜種イフリートが甲羅の隙間から吹き上がらせていく噴煙を切り払い、一歩、また一歩と後ずさる。
     今、自分がいた場所を、別の竜種イフリートが斬り裂いた。
     殺気を感じて身をひねれば、右肩に強い熱と痛みを感じた。
     即座に治療を受け取りながら刃を振るい、向かい来る竜種イフリートを抑えこみ……。
    「っ……」
     横合いから差し込まれた噴煙が口元を覆った時、歩調を乱した末に膝をついた。
     すかさず絶奈は走りだす。
     今、倒れんとしている刀を……。
    「遅い」
     ファフニールの爪が、刀を高く、高く打ち上げる。
    「……せめて……」
     薄れゆく意識の中、刀は解き放った。
     影刃は甲羅がひび割れていた竜種イフリートの隙間へと入り込み、内部から大きな穴を穿ち霧散する。
     瞬く間に三人の仲間を失い、絶奈は眉根を寄せた。
     刀を庇おうとした絶奈もまた、傷を負っていない場所などない。ファフニールに狙われたらすぐにでも倒れてしまう状態だ。
    「……」
     竜種イフリートたちを見回していく。
     甲羅が砕け始めている個体の動きが明らかに鈍いと、痛みを押して一歩、二歩と踏み込んだ。
     横を、なゆたのオーラが駆け抜ける。
     額を打ち据えられた竜種イフリートが二歩、三歩と後ずさる中、ファフニールは熱きため息を吐き出した。
    「さて……」
     鋭き眼光に、射抜かれたのは璃羽。
     殺気を感じながらも、璃羽は全身から聞こえてくる悲鳴に重ねて無視しつつ、幾つもの光輪を解き放った。
     一枚の光輪が、一体の竜種イフリートの甲羅を半壊させていく。
     残る光輪もまた、別の竜種イフリートを傷つけて……。
    「っ!」
     光輪を貫く形で突き出されたファフニールの爪が、璃羽の体をふっ飛ばした。
     光輪を貫く形で、ファフニールが黄金の爪を突き出してきた。
    「っ……」
     璃羽が意識を失った時、絶奈もまた竜種イフリートの突撃を受けて膝をつく。
     明滅し始めた意識の中、絶奈はバベルブレイカーを支えに立ち上がり……。
    「我が前に爆炎を!」
     ――気高き声音が聞こえた時、暖かな力を感じた。
    「こんなになるまでよく堪えてくれたね。大丈夫、後はボク達に任せて」
     続いて届いた声の方角へと振り向けば、比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)の姿が見える。
     ファフニールへと視線を戻せば、戦っていた。
     柩と行動を共にしていた月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)たちが、ファフニールを含めた竜種イフリートたちと。
     しかし……。
    「……」
     繋ぎ止められた意識の中、絶奈は左端に位置していた……甲羅が半ば砕けている竜種イフリートへと肉薄。
     バベルブレイカーを押し付けながら、前へ、前へと進み始めた。
    「むっ」
     抵抗するイフリートの攻撃を、一身に受けていく絶奈。
     長くは持たないと、ローゼはなゆたに視線を送った。
     なゆたはファフニールを睨みつけた後……意を汲み、絶奈の後を追いかけ始めた。
     一体を押し出しての、戦線離脱。
     仲間たちが楽に戦えるように。
     最後に後を追いかけ始めたゆずは、去り際に振り向く激励する。
    「後は任せたで! ファフニールをいてこましてくれや!」

    ●戦いの行方
     ――殺されたくないのは私達も一緒よ。怒るのもね。そんな泥沼のぶつけ合いはもう沢山! せめて戦士同士でもう少しましに戦いましょうよ、ファフニール!
     ――……同じだと? お前達は仲間の何割をダークネスに殺されたのだ? 名古屋の戦いで死んだ人間は、人間の何割なのだ? お前達の、たったその程度の犠牲が、我ら竜種イフリートの半数を灼滅する理由になるというのならば、我が怒りもまた、人間の半数を殺すに値する怒りであろう!
     時を待たず、激しくなっていく戦闘音。
     耳にしながら、絶奈は地面に膝をつく。
    「後を、頼みます……」
    「ああ、任せとき。うちが、うちらが……こいつをぶっ倒したるからな!」
     ゆずは竜種イフリートへと向き直った。
     竜種イフリートは怒りの炎を宿した瞳で、絶奈を睨みつけていく。
     すかさずなゆたが距離を詰め、意識を自分へと向けさせた。
     反撃の角は、ゆずの投げ渡した光の輪が受け止めてく。
    「小癪な……そのようなことをしても、ファフニール様には届かんぞ」
    「知らない、そんなこと」
     なゆたは斧で虚空を切り裂いた。
     生じた風刃がひび割れた甲羅の隙間へと入り込んでいく中、ローゼの放つ影が四肢を拘束し始めた。
    「あなたも随分と傷ついているご様子。あまり余裕はないのではなくて?」
    「はっ! 貴様らほどではない」
     竜種イフリートは影を振り払い、なゆたに向かって走りだす。
     最前線で殴り合いを始めていくなゆたを、ローゼは光と影を操ることでサポートした。
     ゆずは間断のない治療で支えていた。
     積み重ねられてきた傷、癒やしきれないダメージは多い。
     されど、竜種イフリートの力量はファフニールほどではない。
     なゆたが傷ついているのと同様、竜種イフリートもまた甲羅が砕け、足は千切れ……動いているのが不思議なほどの状態へと変わっていた。
    「まだまだぁ!」
     なおも気を吐き放たれた噴煙を、なゆたは斧で切り払う。
    「っ!」
     すぐに、噴煙に力が宿っていない事に気がついた。
     竜種イフリートが飛び込んできたことも察知し――。
    「させませんわ!」
     ――噴煙をも貫く光条が、竜種イフリートを押し返す。
     担い手たるローゼが真剣な眼差しを向ける中、なゆたは着地に失敗し転がっていく竜種イフリートに狙いを定めた。
    「これで……」
     手元より放つは、滾る力。
     怒りと恨み、憎しみ……言葉では言い尽くせない感情が込められた。
     竜種イフリートは高く、高く打ち上げられて空を舞う。
     夕焼け色に照らされながら、大きな音を立てて地面に激突し……。
    「ぐ……ファフニール様……」
     空を仰ぎながら、炭のように黒く染まり崩れ去り、消滅した。
     ゆずは安堵の息を吐き出した後、はっとした様子でファフニールの方角を向いていく。
    「せや、ファフニールは……」
     ゆずが視線を向けた時、月雲・彩歌(d02980)の放つ槍が其の巨体を深々と貫いた。
     ファフニールは地響きを土煙を上げながら倒れ伏し、戦場には静寂が訪れて……。
     ――……人間を殺したダークネスを、お前達灼滅者が狩る。それが灼滅者というのならば、それも良かろう。だが、ダークネスを灼滅した灼滅者、お前達は誰に狩られるのだ?

     ファフニール討伐を見届けたゆずたちは、絶奈を抱き起こしなが仲間たちの元へと向かった。
     戦いの終わりを察知したかのように……倒れていた仲間たちが目覚めていく。
     刀は周囲を見回し、ゆずたちへと視線を向けた。
    「戦況は……」
    「終ったで。うちらの勝利や!」
     元気な笑顔を前に、真は安堵の息を吐きだしていく。
    「万全……とは行きませんが、勝利できたのならばよかったです」
    「勝てたんだね……」
     披露した様子を見せながらも、奈々は笑顔を浮かべていく。
     璃羽も安堵の息を吐き出し、ローゼに支えられながら立ち上がった。
     唇からこぼれたのは、安堵の息。
     きっと共通しているだろう、想いの欠片。
    「よかった……本当に……私達の勝利、ですね」

    作者:飛翔優 重傷:小田切・真(ブラックナイツリーダー・d11348) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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