黒翼卿迎撃戦~苦境の中の好機

    作者:天木一

     灼滅者達とハンドレッド・コルドロンの戦いが佳境に入った時、戦地から遠く離れた武蔵野に異変が起きる。
     白い炎の柱が立ち上り、そこからタトゥーの施された巨大な蝙蝠の群れが羽ばたく。
     それに続くように無数の足音と共に現われたのは肌の白い犬歯を持つ人の兵、鶏の足の小屋、その他にも炎を纏った獣の群れや、ライオンや熊といった肉食獣の集まりに白い炎の狼と、多種多様なダークネス種族の軍勢が突如として現われた。
     その軍勢の中心に居るのは手足の無い車椅子に乗ったメイヨールと、それを押す朱雀門・瑠架の姿があった。
    「灼滅者の戦力は出払ってるし、今回の作戦には、黒の王の完全バックアップが付いているんだ。だから勝利は確実だよ、瑠架ちゃん」
    「えぇ、そうですね、メイヨール子爵」
    (「武蔵坂学園を滅ぼすわけにはいかない。どこか良いタイミングでこの軍を撤退させるしかない……。でも、どうすれば」)
     楽しげなメイヨールにこの事態をどうするか思案する瑠架。そこへ配下からの報告が入る。
    「武蔵坂学園の灼滅者が、こちらに向かっています」
     それは驚くべき報せだった。予定ではハンドレッド・コルドロンの戦いが終着するには数時間は猶予があると考えていたからだ。
     慌しく軍勢は動き出す。武蔵野を地にした吸血鬼軍との戦いが今、始まる。
     
    「やあやあ、みんなよく戻ってきてくれたね」
     汗を流し急ぎ戻った灼滅者達を、安堵した笑みを浮かべた能登・誠一郎(大学生エクスブレイン・dn0103)が出迎える。
    「みんなが急いで戻ってくれたお陰で、まだ学園は占領されてないよ。でも、敵軍はすぐそこまで迫っているんだ。これを迎え撃たないと学園に乗り込まれてしまう危機なんだ」
     黒翼卿メイヨール率いる吸血鬼軍がすぐそばまで近づいている。
    「敵の布陣は、前線中央に黒翼卿メイヨール。その後ろに、朱雀門・瑠架、前線左翼に竜種ファフニール。前線右翼に義の犬士・ラゴウ。後方に布陣するのは、スサノオの姫・ナミダだよ。ソロモンの大悪魔・ヴァレフォールは、前線と後方の間で去就に迷っているみたいだね」
     強力な布陣だが、一枚岩ではなく纏まりがない、付け入る隙はあるだろう。
    「ただここにみんなが居る事が敵には予想外だったみたいでね、一部では戦意を失っている者も居るみたいなんだ。だから学園への攻撃を諦めていない主将の黒翼卿メイヨールを倒すか追い返せば戦いは終わるはずだよ」
     その言葉に深く灼滅者達は頷き、疲れ傷ついた体を奮い起こして敵がやってくる学園の外に視線を向けた。
    「想定外の事態に敵は混乱してるよ、その隙に黒翼卿メイヨールや他の有力なダークネスに攻撃を仕掛けて撤退させるか、灼滅することも可能かもしれない。ピンチをチャンスにって言うしね。みんなならこの事態をチャンスに変えられるはずだ。学園を守るためにも、頑張って!」
     自分は応援する事しかできないけどと誠一郎が目を伏せる。灼滅者達はその肩を叩き、自身に溢れる顔で任せておけと教室を飛び出した。
     
     灼滅者達が説明を受けている同時刻、黒翼軍もまた動き出そうとしていた。
    「僕と瑠架ちゃんの共同作業を邪魔するなんて、許せないね。灼滅者なんて、踏み潰してグチャグチャにしてしまえっ! 突撃ー!」
     メイヨール子爵が気炎を吐く傍ら、朱雀門・瑠架は深く思考を巡らせている。
    (「灼滅者の大返し……。会長が失敗したのか、それとも、これも彼の予定通りなのか。とにかく、最大の懸案は消えたわ。あとは、メイヨール子爵を無事に撤退させれば。メイヨール子爵は、ボスコウなどとは違う、本物の爵位級ヴァンパイア。彼が灼滅されれば、爵位級ヴァンパイアと武蔵坂学園の敵対を止める事はできない」)
     瑠架はメイヨール子爵を見てなんとか生き残らせようと指示を出す。
    「卑劣な罠を破って現れる正義の味方。それでこそ、灼滅者だ。だが、これは瑠架の望み。簡単に黒翼卿を討たせるわけにはいかないな」
     朱雀門・瑠架と共に行動してきた義の犬士・ラゴウは、メイヨールを撤退させる為に灼滅者の動きに目を光らせる。
    「殺された多くの我が同胞の恨み、今こそ晴らそう。ゆくぞ、竜種の誇りにかけて!」
     同じく朱雀門高校勢力にいる竜種ファフニールは灼滅者に対する激情に身を任せて進軍を開始する。
     その軍を背後から見やるのはソロモンの大悪魔ヴァレフォール。
    「爵位級ヴァンパイアに協力して、楽して力を取り戻す予定だったのに、どうも話が違うねぇ。これは、適当に戦って、折を見て撤退するしかないね」
     やる気が削がれたとばかりに首を掻いた。
    「黒の王には義理があった。故に軍団の隠蔽は引き受けたが、さしたる意味は無かったようじゃのう。さて、儂らは退く者どもを助けるとしよう。黒翼卿は戦う気のようじゃが……まぁ、死なぬことはともかく、勝つことはあたわぬじゃろうて」
     最後方のスサノオの姫ナミダは軍勢を見渡し、撤退の支援に動き出した。


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    巽・空(白き龍・d00219)
    東当・悟(の身長はプラス七センチ・d00662)
    若宮・想希(希望を想う・d01722)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    綾峰・セイナ(銀閃・d04572)
    嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)
    井瀬・奈那(微睡に溺れる・d21889)

    ■リプレイ

    ●迎撃
     戦場を駆ける灼滅者達の前に現われたのは刺青の入った蝙蝠の群れだった。
    「このタイミングで学園を強襲されるとはな。だが、相手の裏をかく事が出来た今がチャンスだ」
     巨大十字架を構えた加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)は、蝙蝠の群れに無数の光線を撃ち込む。
    「学園は絶対に滅ぼさせない……今度こそ、大切な人達を守ってみせる!!」
     淡い青色のオーラを纏った巽・空(白き龍・d00219)は跳ね踊るように跳躍して拳で蝙蝠を殴りつける。
    「手薄な時に学園を襲撃するなんて、上等決めてくれるじゃない。メイヨールにはきっつい一撃を入れてやりたいところね」
     殴られ落下してくる蝙蝠に、綾峰・セイナ(銀閃・d04572)が槍を突き刺す。
     蝙蝠が頭上から超音波を飛ばしてくる。
    「あの場所を守るため。力を振るうことは否めませんね」
     井瀬・奈那(微睡に溺れる・d21889)は黄色い標識を掲げ、仲間達の耐性を高めた。
    「……まさか、こんな、形で、介入、してくるとは、思いません、でした、ね」
     帯を飛ばし、神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)は蝙蝠を貫く。
    「どうあがいても私は人殺し。誰かを守れて死ねるならまだ恵まれてるもんさ。とりま防衛しましょっか!」
     嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)は鋸のような刃の巨大な鋏で蝙蝠の羽を引き千切る。
    「守りたい。悟と出会ったこの学園を。悟を……皆を」
     祈るように想いを胸に宿し、眼鏡を外した若宮・想希(希望を想う・d01722)は黒のカシミアショールを矢のように射出する。飛翔し空飛ぶ蝙蝠の羽を貫いた。
    「想希との思い出が詰まったこの学園、絶対に護りぬくで」
     ちらりと東当・悟(の身長はプラス七センチ・d00662)は想希を見やり、もう一つの絶対に守りたいものの為にも負けられないと、影を伸ばして刃と化し蝙蝠を斬り裂いた。
    「流石に数が多い。だが、学園は私達のテリトリーだ。数だって、こちらも負けてはいない!」
     蝶胡蘭は左腕に装着した巨大な杭を地面に撃ち込む。衝撃波が蝙蝠達を吹き飛ばした。
    「ここは通さない!」
    「ここはあなたたちが好きにして良い場所じゃないのよ」
     空は蝙蝠を蹴り飛ばし、怯んだとろこをセイナが大きな鋏で両断した。
    「あっちの敵が動き出してるみたいっすね」
     蝙蝠の攻撃を捌きながら、絹代が視界の端に離れた場所で動き出す軍勢を捉えた。
    「あれは……朱雀門・瑠架の軍勢、ですか?」
     蒼も敵を確認する。それは既に灼滅者達との戦いが始まっているメイヨール子爵の本陣へ向かうようだった。
    「合流されると厄介かもしれません。迎撃に向かいましょうか」
     奈那が仲間を見渡すと、皆頷き蝙蝠を蹴散らしながら動き出す。
    「どけどけ! 灼滅者様のお通りや!」
    「通してもらいます」
     悟と想希が連携し蝙蝠の群れに飛び込む。悟が蝙蝠の攻撃を受け止めながら前進し、群れが乱れたところへ想希が槍を手に突っ込んで風穴を空ける。
     他の2つの班が同じように動き、瑠架の軍勢へと近づいていく。

    ●混戦
     邪魔な蝙蝠を蹴散らしながら進んでいると、もう少しで辿り着くというところで敵の援軍に他の灼滅者達が割り込んだのが見えた。
    「どうやら他にも動いていた部隊があったようだな」
    「考える事は同じね、こっちはどうしよう?」
     蝶胡蘭が足を止め、セイナは状況を見渡すようにぐるりと戦場を眺める。
    「もちろんっ目指すは……!」
     元気一杯に空が指差す。振り返ったそこには黒翼卿・メイヨールの居る本陣。援軍が断たれ孤立した敵軍に灼滅者達が攻勢を掛けている。
    「ええな、狙うは大将首や」
    「黒翼卿本人を狙えば、他の敵軍を動揺させることも可能かもしれません」
     悟と想希は視線を合わせて頷き、武器を強く握る。他の仲間たちも同じように強い視線を向け、もう一度邪魔な蝙蝠の群れを突破して本陣へと進撃を始める。
     行く手を阻む蝙蝠たちを貫き、斬り裂き、殴りつける。逸る気持ちを抑え、全力をぶつける敵と会う為に黙々と蝙蝠を処理していく。
    「……どうも、メイヨールと、朱雀門には、意見の、相違が、あるよう、ですね。……片方は、気が付いて、ない、ようですが……」
     蒼が戦意の高いメイヨールと、フォローに動こうとする瑠架の軍勢に目を向ける。
    「……それにしても、何故、メイヨールは、朱雀門・瑠架に執着、する、のでしょうね……。何か、恩でも、ある、のでしょうか……」
     疑問に思いながらも今はそんな事を考えている時間はないと蒼は首を振って蝙蝠に蝋燭の炎を浴びせた。
    「理由なんかなんでもいいっす! どっちにしろぶっ殺すだけっすよ!」
     口元に笑みを浮かべ絹代は真っ赤なスカーフで飛んでくる蝙蝠を叩き落した。
    「そうですね、敵が攻めて来る以上、今は戦うしかありません」
     奈那は縛霊手や言霊を使って仲間の傷を癒し、いつでも全力で戦える状況を維持していく。
     もう少しで本陣に到着できる。そんな時だった。本陣の敵が急にばらけ、統率を失ったように撤退を始めたのだ。
    「なんや? 何が起きたんや?」
     突然の事態に、先頭を突っ切っていた悟が足を止める。
    「分かりません。ですが戦況が動いたのは確かですね」
     状況を見定めようと想希は敵軍を観察する。見れば敵兵は戦意を失い、ばらばらに逃げている。それは明らかに敗残の兵だった。
    「敵が逃げてるよ!」
     目を凝らしていた空もその状況を確認する。
    「こっちの勝ちってことか?」
     疑問系で蝶胡蘭が目を細める。このまま終わったのでは不完全燃焼もいいところだと左拳を強く握った。
    「とうことは、これから残党狩りになるの?」
     セイナもまた状況の変化を前に、次の行動をどうするか思考を巡らせる。
    「この混乱は有力な敵を倒す好機と見るべきでしょう」
     冷静に奈那が戦況を確認し、今ならば邪魔されずに名のある敵と戦う事も可能だと判断した。
    「……そうです、ね。今なら、メイヨールも狙えるかも、しれません……」
     蒼も賛同してどの敵を攻めようかと敵を様子を窺う。同じように行動していた他の班の灼滅者達も同様にメイヨールを目標に動き出すようだった。
    「ま、なんでもいいんじゃないっすかね。とりあえず近くの奴をぶん殴っていけば」
     絹代が気軽に言ってこちらに向かってくる敵を指差す。ぽーんぽーんとまるでトランポリンでもしてるように丸い物体が跳ねながら近づいてきていた。

    ●遭遇
     それは丸々と太った体に脂汗を流し、疲れ果てたメイヨールが撤退している姿だった。左脇腹には大きな傷跡があり、車椅子を失ったのかぽーんぽーんと弾みながら戦場を移動している。
     近づく大勢の灼滅者達を見ても気にもせずに声をかけてきた。
    「わかってるよ。ちゃんと撤退するよ。まずは、瑠架ちゃんと合流して一緒に逃避行するんだ」
     そんな訳の分からない事を言ってそのまま通り過ぎようとする。
    「何通り過ぎようとしとるねん! 自分からのこのことやってく来るとわな!」
     悟が道を立ち塞がり行く手を遮る。
    「メイヨール卿お相手願えますか」
     想希もその隣でショールを構えた。メイヨールを庇うように3体の包帯を巻いた女性型ヴァンパイアが前に出る。それを囲むように24名の3つの班の灼滅者が展開した。
     意気揚々と距離の近かった他の班の灼滅者達が先手を取る。メイヨールに向かい、死角に回り込んでは斬り裂き、巨大な黒い都市伝説が噛み付き、左脇腹の傷を負っていた場所を噛み千切った。
     驚いたメイヨールは騙したんだなと叫びながら反撃を始める。赤く重い一撃が放たれるが、それを凌いでいる間に他の班も攻撃を開始する。
     鞭剣で絡め取られ、影が襲い掛かる。連続攻撃にメイヨールが転倒した。
    「こんな事をして! 絶対に許さないよ!」
    「追い詰めたぞ、メイヨール! これが……私達の怒りの一撃だ!」
     起き上がろうとするメイヨールに、蝶胡蘭は十字架から光線を乱射し僅かなま動きを止める。
    「これこそ絶好の好機だね! ここでやっつけちゃうよ!」
    「この時を待ってたわ、きっつい一撃を入れてあげる!」
     踊るようにステップを踏み、空が雷を纏った拳を叩き込む。続けてセイナが脇の傷口に槍を突き刺した。
     包帯のヴァンパイアが影を刃に変えてセイナを襲う。
    「邪魔っすね。ちょっと退いてもらうっすよ」
     割り込んだ絹代がその刃を鋏で受け止め、押し返す。
    「黒翼卿メイヨール。ここで貴方を倒します」
     奈那が黄色い標識を掲げ、仲間達を守る力を与えた。
    「あなたの瑠架さんへの思い。少しだけですが分かるような気がします。悟はいつも俺の事を考えてくれて、でも俺はいつもうまくいかなくて、今も……」
     その間にゴロリと起き上がったメイヨールに想希がショールを放って貫く。
    「想希がうまくいかへん事はあらへん。俺が何でもあんじょうまわる、今回も成功さしたる」
     悟は想希に軽く笑みを向け、死角から影で斬り裂く。
    「……許されない、のは、あなたの方、です」
     腕を振るうと蒼の帯が腹に突き刺さる。体に幾つも穴を空け血を流すメイヨール。更に仕掛けようとしたところへ包帯ヴァンパイア達が邪魔に入る。
    「ほんとに邪魔っすね。先にぶっ殺されたいっすか」
     絹代が鋏でヴァンパイアの腹を千切るように裂く。仲間達も邪魔なヴァンパイアに攻撃を当てていく。
     その間に入れ替わった他班の灼滅者がメイヨールに仕掛けた。蝋燭の炎が吹き上がり、炎を纏った蹴りを浴びてメイヨールの体が燃える。悶えるところにもう一班が一斉に仕掛けてボコボコに打ちのめす。
     するとぽこーんとメイヨールがこちらに吹っ飛んできた。

    ●決戦
    「私達のテリトリーに攻め込んだ事を後悔しな!」
     蝶胡蘭が飛び蹴りでメイヨールを打ち落とす。その体が地面にぶつかってバウンドした。
    「学園も仲間も、全部守ってみせる!」
     跳躍した空がオーバーヘッドキックでもう一度叩き下ろす。
    「ひぃぃぃぃっ」
    「灼滅者を侮ったのが敗因よ」
     悲鳴と共に落下してくるメイヨールに、セイナは鋏を広げて待ち構える。ざっくりと刃が体に食い込んだ。
    「こんなところで死ねないんだな、瑠架ちゃんが待ってるんだから!」
     刃を抜いて逃れようとするメイヨールに、想希が槍を突き入れる。
    「瑠架さんの望み、ちゃんと聞きましたか?」
    「メイヨール、お前ちゃんと瑠架の話を聞いたんか、瑠架は俺らと敵対しとうないっぽいんとちゃうか?」
     続けて悟が炎を纏った拳で殴りつけた。
    「うるさいうるさい! 瑠架ちゃんは僕の言う事をなんだって聞いてくれるんだ! もうお前達に騙されたりしないぞ!」
    「うるさいのはそっちっす。ちょっと黙って死んでくれないっすかね」
     怒鳴り散らすメイヨールに、高速で突っ込んだ絹代が首に鋏を突き刺す。だが分厚い肉に阻まれて骨に届かない。そこで一気に引っ張って肉をこそぎ取った。
    「痛ああいいいぃ!」
    「ここは貴方たちが踏み荒らして良い場所ではないんです」
     背後から奈那は影の刃を叩き込み、背中を逆袈裟に切り裂いた。そこで傷ついたヴァンパイアが身を挺して主を守ろうと割り込む。
    「……その通り、です。学園は、ボクたちの、大切な場所。帰る、場所、です……!」
     蒼が手にした蝋燭から炎を放射してヴァンパイアを焼く。続いて悟が影の刃で顔を斬りつけ、怯んだところへ想希が真紅のオーラを纏った槍を胸の中央に刺して地面に縫い付けた。そのままヴァンパイアは灰となって消え去る。
     ヴァンパイアの相手をしている間に、他の班の灼滅者がメイヨールの体を抉り、叩きのめして満身創痍となっていた。
    「もうその油気肉饅頭は見飽きたっすよ」
     絹代が黒い瘴気のような影でメイヨールを包み込む。
    「大切なものを守るため、この力を振るいます」
     奈那が赤い標識を頭に振り下ろす。
    「僕がこんな奴等にやられる訳がないんだな……瑠架ちゃんが待ってるんだから」
     よろよろと逃れようとする前に悟が立ち塞がる。
    「俺にも守りたいものがあるんや、だから勘弁してや」
     悟が炎の拳で顔面を殴りつける。
    「お互い譲れませんね。でも俺は悟ともっと先へ行く……黒翼卿メイヨール!」
     光の剣を想希が振り抜く。鋭い一撃に深く胸の肉が抉れ血が流れる。
    「ここが決め時のようね!」
    「一気にいく! 私達の怒りをたっぷりと味わえ!」
     ふらつくところへセイナが影を広げてで呑み込み、蝶胡蘭が十字架から光線を放って凍りつかせる。
    「これでどうだぁ!」
     そこへリズムに乗った空が跳躍から蹴りを浴びせる。踵が左目を抉り眼球を潰した。
    「目、目がぁ……僕の目がぁ!?」
     メイヨールが片目を押さえてよろめく。それでも諦めずにまだ逃れようと体を動かす。そこへ他班の牧瀬・麻耶と三和・悠仁が行く手を阻む。
    「前回は失敗した。けれど今回は間違いなく灼滅してやるぞ、メイヨール」
     麻耶の手にした獲物の刀身が魔弾と化してメイヨールの体を刻む。
    「わざわざ格下を不意を突こうとしてまで殺そうっていうんだ……窮鼠に喰い破られて殺されても、文句はねぇだろ」
     醜く悲鳴を上げるてこを冷徹な目で見つめ、三和・悠仁は墓標の如き獲物で一撃を加える。
    「……これで、最後、です」
     傷つきボロボロになったメイヨールは力なく地面を転がり隙だらけとなった。そこへ正面から蒼が異形化した腕を振り抜く。貫手がメイヨールの胸を抉り、蒼は体を蹴るようにして腕を引き抜く。その手には心臓が握られていた。
    「ぎゃああああああ!! 僕の心臓が!?」
     ぽっかり空いた胸を見下ろしたメイヨールは、慌てて心臓を奪い返そうと手を伸ばす。
    「……奈落へ、堕ちろ……」
     蒼が力を籠める。すると心臓はぐちゃりと握り潰され、肉片が地面に飛び散った。
    「あああああああ!? こんな……嘘なんだな! 僕はこれから瑠架ちゃんと……!!」
     メイヨールの体が膨らむ。蒼は手の血糊を振り払いながら慌てて距離を取った。風船のように膨らんだメイヨールの体が限界に達し、バンッと破裂した。肉片は塵となり何一つ残さずに消え去っていく。

    「終わったな」
    「ええ、成功したわね!」
    「大成功だよ!」
     ハイタッチして蝶胡蘭、セイナ、空が喜び合う。
    「腹割って話す機会は永遠に失われてもうたな」
     残念そうに悟は消えたメイヨールと瑠架が居るだろう方向を見やる。
    「そうですね。分かり合えぬまま別れるというのは悲しいものです」
     想希はそっと悟の肩に手を置く。
    「武蔵坂とヴァンパイアの対立ってのも一度やってみたら面白いんじゃないっすかね?」
     これからどうなるのかと絹代は軽い気持ちで呟き。気楽そうに頬を掻いた。
    「……はぁ、疲れ、ました」
    「お疲れさま」
     ぺたんと蒼が座り込んだ。微笑んだ奈那が体力を回復するように癒しをかける。
     敵将を倒したことで勝負は決した。だが周囲には剣戟の音が響いている。戦いを終わらせる為、メイヨール灼滅の報を届けようと大きく息を吸った。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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