黒翼卿迎撃戦~裏表の境に

    作者:幾夜緋琉

    ●黒翼卿迎撃戦~裏表の境に
     武蔵坂学園のある、武蔵野の地。
     灼滅者達とハンドレッド・コルドロンとの戦いは佳境へとさしかかった頃合い。
     武蔵野の地に、突如として姿を現すのは……吸血鬼の軍勢。
     その軍勢……迷宵の目に映る光景には、突如現れた白い炎の柱。
     その炎の柱から次々と現れる軍勢は……多数、有力なダークネス達と、強力な配下達。
     タトゥーパットや、奴隷級ヴァンパイア団、ヴァンパイア魔女団やら、竜種イフリート、スサノオ、動物型眷属等々……。
     更に、指揮官として名を連ねるのは、黒翼卿メイヨールや朱雀門・瑠架、スサノオの姫『ナミダ』など。
     灼滅者の主力が出払っていた武蔵坂を落とすには充分過ぎる軍勢。
     ……そして、その本陣には、手足を切り落としたメイヨール。
     車椅子に乗ったメイヨールは、朱雀門・瑠架に押して貰っている。そして。
    「灼滅者の戦力は出払っているし、今回の作戦には黒の王の完全バックアップが付いているんだ。だから勝利は確実だよ、瑠架ちゃん」
     とメイヨールが言うと、それに瑠架は。
    「えぇ、そうですね、メイヨール子爵」
     と軽く頷く……が、その裏で。
    (「武蔵坂学園を滅ぼす訳にはいかない。どこか良いタイミングで、この軍を徹底させるしかない……でも、どうすれば……」)
     と、思慮を巡らす。
     ……と、そう考えて居た所に、突如の緊急報告が。
    「武蔵坂学園の灼滅者が、こちらへと向かっています!!」
     灼滅者達は、ハンドレッド・コルドロンとの戦いを最速で勝利に導き、そして急報を聞いて、武蔵坂学園へと戻ってきたのである。
     そう、それは……彼らが予測していたのよりも数時間速く、神速の大返しなのであった。
     
    「皆さん、良く戻ってきていただけました。皆さんが戻ってきたお陰で、武蔵坂学園が占領されるという最悪の事態は逃れる事が出来ました」
     と、五十嵐・姫子は、急ぎ戻ってきた灼滅者達へと一礼。しかしすぐに。
    「しかし……まだ、危機は去っていません。強大な吸血鬼軍が、武蔵坂学園のすぐそこまで迫ってきているのです」
    「皆さんが戻ってきてくれた事で、吸血鬼軍の一部は戦意を失っている様ですが、主将である黒翼卿メイヨールは、武蔵坂学園への攻撃を諦めておらず、決戦は避けては通れないでしょう」
    「黒翼卿メイヨールさえ灼滅、或いは撤退させれば、吸血鬼軍は撤退していきます。なんとか迎撃に成功し、吸血鬼軍を撃退する様、お願いします」
     そして、姫子は。
    「皆さんの急速離脱と、この参戦は彼らにとっては予想外で、黒翼軍はかなり混乱しています。この混乱の隙をつけば、黒翼卿メイヨールを撃退するだけでなく、他の有力なダークネスを討ち取ることも出来るかも知れません」
    「敵の布陣は、前線中央に黒翼卿メイヨール。その後ろに朱雀門・瑠架。前線左翼に竜種ファフニール、前線右翼に義の犬士・ラゴウ。そして後方にはスサノオの姫・ナミダが居ます」
    「ソロモンの大悪魔、ヴァレフォールは、前線と後方の間で去就に迷っているという状況の様ですね」
    「とはいえ、今回は黒翼卿たちを撃退さえすれば、私達の勝利になります。学園を守る為、宜しくお願い致します」
     と、深く一礼……そして顔を上げた後。
    「あと……この戦いの直前ですが、校長先生が学園へと戻って来ました。迎撃戦終了後、皆さんに重大な話があると仰っていましたのですが……どういう話でしょうか、心配です」
     と。複雑な表情を浮かべるのであった。
     
     と……灼滅者達がエクスブレインから状況を説明されている頃。
     黒翼軍の側では、それぞれの指揮官も、各自動き始めていた。
     しかし……その動きは、全く統一されたものではない。
     メイヨール子爵は、気炎を吐きながら。
    「僕と瑠架ちゃんの共同作業を邪魔するなんて、許せないね。灼滅者なんて、踏み潰してグチャグチャにしてしまえっ! 突撃ー!」
     と息巻く一方、朱雀門・瑠架は、
    (「灼滅者の大返し……。会長が失敗したのか、それとも、これも彼の予定通りなのか。とにかく、最大の懸案は消えたわ。あとは、メイヨール子爵を無事に撤退させれば。メイヨール子爵は、ボスコウなどとは違う、本物の爵位級ヴァンパイア。彼が灼滅されれば、爵位級ヴァンパイアと武蔵坂学園の敵対を止める事はできない」)
     と、子爵を灼滅させまいと、思慮を巡らす。
     そして、ソロモンの大悪魔ヴァレフォール。
     彼女はヴァンパイアの軍勢に合流していたが、灼滅者達が予想外の早さで戻って来たことで。
    「爵位級ヴァンパイアに協力して、楽して力を取り戻す予定だったのに、どうも話が違うねぇ。これは、適当に戦って、折を見て撤退するしかないね」
     と、戦う気を削がれていた。
     更に、朱雀門・瑠架と共に行動してきた義の犬士・ラゴウは、
    「卑劣な罠を破って現れる正義の味方。それでこそ、灼滅者だ。だが、これは瑠架の望み。簡単に黒翼卿を討たせるわけにはいかないな」
     と、瑠架の望みに従いメイヨールを撤退させることに注力を決意。
     一方、同じく朱雀門高校勢力にいる竜種ファフニールは。
    「殺された多くの我が同胞の恨み、今こそ晴らそう。ゆくぞ、竜種の誇りにかけて!」
     と、灼滅者たちと戦う気満々で意気込む。
     そして、スサノオの姫ナミダは、最後方から軍勢を見渡して。
    「黒の王には義理があった。故に軍団の隠蔽は引き受けたが、さしたる意味は無かったようじゃのう。さて、儂らは退く者どもを助けるとしよう。黒翼卿は戦う気のようじゃが……まぁ、死なぬことはともかく、勝つことはあたわぬじゃろうて」
     と呟いて、撤退支援へと向かうのであった。


    参加者
    大神・月吼(禍憑に吼える者・d01320)
    西場・無常(特級殲術実験音楽再生資格者・d05602)
    皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)
    高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)
    秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)
    牧野・春(万里を震わす者・d22965)

    ■リプレイ

    ●戦端
     ハンドレッド・コルドロンとの戦いにより、多くの灼滅者が名古屋へと向かい、静かなはずの武蔵坂学園。
     その隙を突いて、武蔵坂学園への奇襲作戦を企てたヴァンパイアの軍勢。
     上手い事行った……かと思えた作戦。しかし今、ここには火急戻りし灼滅者達の姿。
    「ふぅ……どうにか、戻って来れましたか」
    「ああ……いるなあそこに、うじゃうじゃと……」
     紅羽・流希(挑戦者・d10975)に頷きながら、大神・月吼(禍憑に吼える者・d01320)が視線を配る。
     彼らの視線の先には、竜種ファフニールと、彼に連れられた竜種イフリートの大軍勢。
     戻ってきた灼滅者達に驚きはするものの、勝って勢いを付けようと戦意は高く、怯む影は無い。
     そんな竜種イフリート達の気勢に軽く威圧されそうになる秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)。
    「しかし……学園を直接狙うとは……」
     と唇を噛みしめると、それに西場・無常(特級殲術実験音楽再生資格者・d05602)と高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)、流希が。
    「ああ……敵も、バカではないという事か……しかし、ならば、最適の行動で……迎え撃つのみ!」
    「ええ。真っ正面からの戦いになりますが……迎え撃つしかないでしょう」
    「そうですね……厳しい戦いになるのは間違い無いでしょう。だから、覚悟を決めなければならないかも知れませんねぇ……皆さんで、帰る場所を、護りますよ」
     そして、皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)と十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)が。
    「竜種の……親玉と……戦うのは……楽しみかな……」
    「そう、ね。竜種と、戦うのは、初めて、かな?」
    「ん……イフリートが……相手だし……遠慮はいらないかな……盛大に……潰させて……貰おう……」
    「そう、だね、零桜奈も、いるし、頑張らないと、ね。ここで、たたける分は、しっかりと、叩いておかないと、ね」
     と、二人の言葉に、牧野・春(万里を震わす者・d22965)と清美が。
    「ええ。竜種ファフニール……私達がその道を、抉じ開けなければいけません。皆さんもいます……私達が、その道を、こじ開けるのです」
    「ええ。私達の大切な場所は壊させません……行きましょう」
     と、頷き、そして紫姫は、周りの仲間達に向けて。
    「私が立っている限り、この学園を潰させたりしません!」
     と気合いと共に、その戦端を駆け抜けていった。

    ●炎を斬り裂く
     竜種ファフニールを護る為に、立ち塞がる多数の竜種イフリート。
     先陣を切り、突撃する紫姫に、月吼、零桜奈、深月紅らも続く。
    「ったく、個人的には俺の楽しみを邪魔しやがったメタボ野郎をぶん殴ってやりてえが、アイツを殴るより、お前らと殺り合った方がまだ楽しめそうだからな。ほら、遊んでやんよ!」
     と月吼は、ヴォルテックスで服破り効果を嗾けると、続いて。
    「ソノ死ノ為ニ……対象ノ破壊ヲ是トスル」
    「四肢を、掲げて、息、絶え、眠れ、無望の仔」
     とスレイヤーカードを掲げ、目の前に立ち塞がる竜種イフリートに、レイザ-スラストと、制約の弾丸を、連携を取って撃ち抜く。
     更にスナイパーの春はティアーズリッパーで斬りかかり、クラッシャーの流希は。
    「各個撃破なんてやられたら目も当てられないしよ。みんな、離れすぎるなよ」
     と仲間に声を掛けつつ、月光衝でブレイク。を叩き込んで行く。
     そして、無常は。
    「ムードを……作る!」
     と、パッショネイトダンスで術アップを付与。
     そして、ディフェンダーの紫姫、清美と、彼女のナノナノのサムは、ディフェンダーについて敵の攻撃を代わる代わる受け止めていく。
     そして、その攻撃を受けつつも。
    「友人がたくさん出来て、私自身も変ることが出来たこの学び舎は灼滅者の組織である前に、私にとっては大切な絆を育んでくれた場所なんです。そこを破壊されるなんて……絶対に許しません!」
    「ええ……貴方達は復讐を望んでいるのかも知れません。ですが……こちらも譲れない事があります」
    『ナノ!』
     と、縛霊撃、レイザースラスト、たつまきを立て続けに仕掛けていく。
     ……そんな戦端を切った紫姫達。
     あえて声を上げ、気合いと共に攻撃を嗾けた結果……完全に注意を自分達の方へと引き寄せる。
     その注意を引き受けている最中、両サイドから接近していく二班。
     そして、久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621)が。
    「生きて帰れると思うなよクソッタレが!!」
     と、不意打ちの一撃。
     流石にその不意打ちを躱す事は出来ず、直撃を喰らい大ダメージ。
     苦悶の表情、そして次には睨み付ける竜種イフリート。
     だが……その睨みに決して怯む事は無い。
     そして次のターン。
     灼滅者達が前方左右に展開し、包囲陣に竜種イフリートは暴れて、包囲陣からの脱出を狙う。
     しかし、それに慌てることもなく、冷静に対処する灼滅者達。
     クラッシャーの零桜奈、流希は確実に当てる事を目的に、螺旋槍と影縛りを同じターゲットに打ち込み体力を削り取る。
     そして更に深月紅、月吼のジャマーはヴェノムゲイルや尖烈のドグマスパイクでバッドステータスの多量付与。そして春も、妖冷弾で氷を。
     また、体力の状況を踏まえた上で、無常は。
    「俺の殲術実験音楽で、場を支える……学園を襲うものを、討ち倒せ!」 
     と、サイキックを使い、DJの如く奏で続ける。
     そして、ディフェンダーの紫姫、清美、サムは、逆側に立つ仲間達とタイミングを合わせながら、竜種イフリートの攻撃を引き付けながら、その隙を突いて妖冷弾やグラインドファイア、たつまきで攻撃継続。
     そして……そのターン終わりには。
    「待たせたね。うまく回り込めたよ……それじゃあ精一杯暴れるとしようか」
     と、清浄・利恵(華開くブローディア・d23692)が竜種イフリートの後方に姿を現わし、そして攻撃。
     先ほどの側面からの奇襲より、更に避けづらい一撃を叩き込まれ……かなり瀕死の重傷を負う竜種イフリート。
     そして3班が、竜種イフリートを完全に包囲する形となり……そして仲間達が、竜種ファフニールの所へと駆け抜けていく。
    「……頼むぜ!」
     と月吼は、その後ろ姿に声を掛けつつ、再度竜種イフリートを睨み付ける。
     竜種イフリートは、ファフニールを救う為にも、一層の気合いと共に、灼滅者達に猛攻。
     その勢いに呑まれぬ様、竜種イフリートに対峙する三班は、声を掛け合いながら、竜種イフリートを一匹ずつ、確実に仕留めるよう動き回る。
    「有利だと思ってても油断は出来ないな……不穏な動きには常に気に掛けるぞ」
    「……了解……」
     流希の言葉にこくりと頷く零桜奈。そして零桜奈と呼吸を合わせた深月紅が身を翻し、接近してのヴェノムゲイルの列毒を付与し、零桜奈がフォースブレイクの追撃を叩きつけていく。
     ……そして、三班包囲して数分。
    「どうした、この程度かよ!!」
     と言い放ちながら、月吼が叩きつけた尖烈のドグマスパイク。
     仲間の攻撃と共に、やっと竜種イフリートを一匹始末する。
    「やっと一匹……やはり、中々の強敵ですね」
    『ナノ』
     と清美の言葉にこくりと頷くサム。
     でも、全体敵にバッドステータスを付与する攻撃をしていたお陰か、残る竜種イフリートは総じて動きが鈍く、苦しそうである。
    「……その耳に残していけ……俺の音楽を!」
     そんな竜種イフリートへ、無常がレイザースラストを叩き込み、そして流希も渾身のデスサイズの一刀。
     更に数分の後、二匹目の竜種イフリートを倒し……そして、春が。
    「竜種イフリート……君達を、ここより先に行かせる事は出来ません。ここで……必ず、倒します!」
     と強い気合いと共に放った妖冷弾が、竜種イフリートの足を氷り漬けにし、そして……零桜奈がその頭に対し放った螺旋槍。
     三匹目の竜種イフリートを、確実に灼滅した……その時。
     遠くからの、断末魔の叫び。
     ……僅かに視線を向けると、竜種ファフニールが、仲間の手により討ち取られていた。
     主の死に、僅かな竜種イフリートの戸惑い。
     しかし……すぐに竜種イフリートは気を取り戻し、灼滅者達への猛攻を止める事は無い。
    「攻撃を、やめない、か……」
     と、深月紅が呟きつつ……再度気を引き締め直し。
    「何にせよ、とにかく今はこの戦いを耐え凌ぎ、次へ繋げなければ……」
    「そう、だね」
     と紫姫、深月紅が頷き合う。
     無論、こちらの方の疲弊もかなり酷い状況ではあるものの……竜種イフリートにスクラムを組んで対抗し続け、竜種イフリートの数を一匹、また一匹と始末する様に、動き続ける。
     そして……3班でひたすら竜種イフリートに対峙し……残敵を、一通り掃討するのであった。

    ●炎は消えず
     そして……竜種イフリートにも、一通り片を付けた灼滅者達。
     竜種ファフニールも灼滅され、自分達の選択した作戦は、成功した……と言えるだろう。
    「ふぅ……皆さん、お疲れ様でしたねぇ……無事、ですか?」
     と声を掛けつつ、労を労う流希に、春も。
    「ええ、大丈夫です……しかし、他の有力な敵はどうなったのでしょうか……」
     と言いながら、耳を澄ます春。
     ……周りからは、まだまだ戦の音が聞こえている……まだ、戦いは続いているのだろう。
     しかし、自分達の疲弊もかなり酷い状況である。このまま加勢に行ったとしても……下手に重傷者を増やすだけになりかねないだろう。
    「後は、仲間達の無事と……成功を祈りましょう……」
     と清美の言葉に頷きながら、無常が。
    「そうだな……」
     と言いながら、そっとヘッドフォンを耳に戻し、雑音除去。
     そして。
    「さて……んじゃ、俺達は戻るとしようか。校長先生が重大な話がある、と言ってたしな」
     と月吼が言う通り、そして……武蔵坂学園へと戻っていくのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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