黒翼卿迎撃戦~白い炎の柱から出でし軍勢

    作者:陵かなめ

     ハンドレッド・コルドロンの戦いが佳境に入った、まさにその時である。
     この武蔵野の地に、突如吸血鬼の軍勢が出現したのだ。千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)の目には、その軍勢は『突如現れた白い炎の柱』から出現したように感じられた。

     軍勢は次々と現れる。
     黒翼卿の眷属であるタトゥーバット、絞首卿の配下であった奴隷級ヴァンパイア団、バーバ・ヤーガの眷属である鶏の足の小屋と、ヴァンパイア魔女団、殺竜卿の配下である鉄竜騎兵団の混成軍であり、更に、竜種イフリート、ソロモンの大悪魔・ヴァレフォールの眷属、スサノオ、動物型の眷属なども加え、軍勢は武蔵坂学園に向けて堂々と進軍を開始してきた。
     指揮官として名を連ねるダークネスも、黒翼卿メイヨール、朱雀門・瑠架、義の犬士・ラゴウ、竜種ファフニール、ソロモンの大悪魔・ヴァレフォール、スサノオの姫『ナミダ』と揃っており、灼滅者の主力が出払っている武蔵坂を落とすには充分すぎる軍勢だろう。

     さて、この軍勢の本陣には、メイヨールと朱雀門・瑠架の姿がある。メイヨールは手足を切り落とし車椅子に乗っており、瑠架がそれを押していた。
    「灼滅者の戦力は出払ってるし、今回の作戦には、黒の王の完全バックアップが付いているんだ。だから勝利は確実だよ、瑠架ちゃん」
    「えぇ、そうですね、メイヨール子爵」
     頷きながら、瑠架は思う。
    (「武蔵坂学園を滅ぼすわけにはいかない。どこか良いタイミングでこの軍を撤退させるしかない……。でも、どうすれば」)
     その時、緊急の連絡が飛んできた。
    「武蔵坂学園の灼滅者が、こちらに向かっています」
     ハンドレッド・コルドロンの戦いを最速で勝利に導いた灼滅者達が、急報を聞いて武蔵坂学園へと戻ってきたのだ。
     それは、彼らが予測していたよりも数時間早い、まさに神速の大返しであった。
     
    ●緊急依頼
    「みんな! よく戻ってきてくれたね!!」
     太郎が武蔵坂学園に戻ってきた灼滅者を迎えた。
    「みんなが戻ってきてくれたおかげで、学園が占領されるって言う最悪の事態は逃れることができたんだよ」
     けれど、と。太郎は緊張した面持ちで皆の顔を見る。
    「強大な吸血鬼の軍勢が、武蔵坂学園のすぐそこまで迫ってきているんだ」
     皆が戻って来た事で、吸血鬼軍の一部は戦意を失っている様だ。だが、主将である黒翼卿メイヨールは、武蔵坂学園への攻撃を諦めておらず、決戦は避けて通れない。これは、セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)も危惧していた事だ。
    「黒翼卿メイヨールさえ灼滅或いは撤退させれば、吸血鬼軍は撤退していくから、何とか迎撃を成功させて、吸血鬼軍を撃退して欲しいんだ」
     灼滅者たちはざわめく。
    「みんなの参戦は予想外だったと思うよ。黒翼軍はかなり混乱しているみたい。この混乱の隙を突けば、黒翼卿メイヨールを追い払うだけでなく、他の有力なダークネスを討ち取ることも出来るかもしれないよ」
     敵の布陣は、前線中央に黒翼卿メイヨール。その後ろに、朱雀門・瑠架、前線左翼に竜種ファフニール。前線右翼に義の犬士・ラゴウ。そして後方に、スサノオの姫・ナミダがいるようだ。ソロモンの大悪魔・ヴァレフォールは、前線と後方の間で、去就に迷っている状況の様子。
    「今回は黒翼卿たちを撃退さえすれば、こちらの勝利だよ。学園を守るため、よろしくお願いするね」
     それから、と。太郎は少し考えるような仕草を見せた。
    「この戦いの直前、校長先生が学園に戻ってきたんだよ。迎撃戦終了後に、重大な話があると言っていたんだけど、一体何だろう」
     
    ●吸血鬼軍の動き
    「僕と瑠架ちゃんの共同作業を邪魔するなんて、許せないね。灼滅者なんて、踏み潰してグチャグチャにしてしまえっ! 突撃ー!」
     と、メイヨール子爵が気炎を吐く。
     その傍らで朱雀門・瑠架は思う。
    (「灼滅者の大返し……。会長が失敗したのか、それとも、これも彼の予定通りなのか。とにかく、最大の懸案は消えたわ。あとは、メイヨール子爵を無事に撤退させれば。メイヨール子爵は、ボスコウなどとは違う、本物の爵位級ヴァンパイア。彼が灼滅されれば、爵位級ヴァンパイアと武蔵坂学園の敵対を止める事はできない」)
     子爵を灼滅させまいと考えているようだ。

     また、ヴァンパイアの軍勢に合流していたソロモンの大悪魔ヴァレフォールは。
    「爵位級ヴァンパイアに協力して、楽して力を取り戻す予定だったのに、どうも話が違うねぇ。これは、適当に戦って、折を見て撤退するしかないね」
     灼滅者達が予想外の早さで戻って来たことで、戦う気を削がれている。

    「卑劣な罠を破って現れる正義の味方。それでこそ、灼滅者だ。だが、これは瑠架の望み。簡単に黒翼卿を討たせるわけにはいかないな」
     朱雀門・瑠架と共に行動している義の犬士・ラゴウは、瑠架の望みに従ってメイヨールを撤退させることに注力するつもりだ。
     一方、同じく朱雀門高校勢力にいる竜種ファフニールは、灼滅者達と戦う気満々だ。
    「殺された多くの我が同胞の恨み、今こそ晴らそう。ゆくぞ、竜種の誇りにかけて!」

     そして、スサノオの姫ナミダは、最後方から軍勢を見渡して、呟いた。
    「黒の王には義理があった。故に軍団の隠蔽は引き受けたが、さしたる意味は無かったようじゃのう。さて、儂らは退く者どもを助けるとしよう。黒翼卿は戦う気のようじゃが……まぁ、死なぬことはともかく、勝つことはあたわぬじゃろうて」
     そして、撤退の支援に向かう。


    参加者
    姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)
    椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)
    吉沢・昴(覚悟の剣客・d09361)
    天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)
    コロナ・トライバル(トイリズム・d15128)
    夜川・宗悟(彼岸花・d21535)
    セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)
    アルルーナ・テンタクル(小学生七不思議使い・d33299)

    ■リプレイ


     迫り来るタトゥーバットの群れを見上げ、姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)はひそかに口元を引き締めた。名古屋での惨劇を思うだけで憤りを感じる。多数出た市民の犠牲、倒すべき敵もそのままに大返しせざるを得なかった状況。その元凶たるメイヨールに、何より市民を守れなかった自分への、憤りを抱えているのだ。
     セカイは天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)を見た。
    「左側から回り込む」
     黒斗は仲間にそう言い、バベルブレイカーを振り上げる。学園の仲間達も、次々と敵に遭遇し、戦闘が始まっていた。
     狙うはメイヨール。その為にも、まずは襲い来る敵の群れを蹴散らす。
     蝙蝠達の甲高い鳴き声が聞こえてきた。どうやら、あちらもこちらを敵と認識しているようだ。
    「名古屋の街ごと囮として使ったツケ、払って貰うぞ」
     武器を振り下ろし、黒斗は衝撃のグランドシェイカーを繰り出した。巻き起こった振動波がタトゥーバットの群れにぶち当たり、勢いを殺す。黒斗自身は杭を打ち込んだ反動を利用して跳び、敵の真っ只中に切り込んでいった。
    「これはただのわたくしの……八つ当たりです……」
     セカイも続き、パッショネイトダンスを敵の群れに放つ。敵の数は多い。ならば、まとめて体力を削るのだ。
     仲間達もそれに倣い攻撃態勢に入る。
    「ほっっんまめんどくさいタイミングに……! いくで! 私の七不思議其の四! 願いを叶える桜の妖精!」
     姿を変えたアルルーナ・テンタクル(小学生七不思議使い・d33299)がブレイドサイクロンを繰り出した。高速の斬撃が弱った敵を斬り刻み、確実に仕留める。
    「まったくだ。しかし奇襲は気づかれないからこそ……邪魔をしてくれた報いはたっぷりくれてやろう」
     奇襲を行うということは、正面から勝てないと考えているからだと思う。セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)は敵郡を凍りつかせる。その攻撃は蝙蝠の体温を瞬時に奪い、肉体を破壊した。
    「敵の援軍に気をつけろ。どこから横槍が入るか分からないぞ」
     吉沢・昴(覚悟の剣客・d09361)は縛霊手の祭壇を展開し、除霊結界を放った。この乱戦だ。どこから何が来てもおかしくない。仲間に注意喚起しつつ、チラリと黒斗を見やった。名古屋の戦争で心を痛めた直後に宿敵との大規模な戦闘だ。彼女の様子も気になる。
     昴と黒斗は短く会話を交わした。
    「無事に済ませて、温泉でも行こうぜ」
    「心配するな、昴。大丈夫だ。息抜きは無事に終わったら、な」
     二人は背中を合わせて立ち、蝙蝠の攻撃に備える。
     タトゥーバット達がキィキィと不快な音を出し急降下してきた。
     その群れを裂くように椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)がジャンプしてくる。
    「俺達の居場所に手を出そうとして、ただで帰れると思うなよ!」
     剣の光を爆発させ、周囲の敵にまとめてダメージを与えた。
     自分は灼滅者である以前に高校生だ。その居場所である武蔵坂学園を襲おうとした事に、武流は怒りを感じている。光が蝙蝠達の身体を貫き、敵は隊列を崩して離散した。
    「あの元凶はまだ奥か。なら」
     夜川・宗悟(彼岸花・d21535)は配下に守られまだ遠いメイヨールを確認し、小さく舌打ちをする。そして、怪談蝋燭の青い炎で作った小妖怪の幻影をけしかけ、隊列を崩した蝙蝠達を襲わせた。
     それでも、数匹の蝙蝠が攻撃を逃れ、逆にギィギィと音波を飛ばしてくる。
     不快な音で切り裂かれ、宗悟は血の滲んだ箇所を雑に拭った。自然と、口の端が持ち上がる。戦いが始まったと、深く実感した。
    「何にせよ、お楽しみを奪った罪は重いぞ黒翼卿!!」
     黄色標識に変えた交通標識を振り回し、コロナ・トライバル(トイリズム・d15128)が唇を尖らせる。
     戦争後のお楽しみが消えた!! あんな事やこんな事などなど。その罪は重いぞ。あ、でもでも、学級閉鎖で勉強はしなくても良いかもしれない!! たぶんだけど……。とか何とかコロナは言う。……ともあれ、ギィギィ煩い蝙蝠達の催眠から仲間を守るため、コロナは仲間に向けてイエローサインを振るった。
     蝙蝠なんかにやられるわけにはいかないのだから。
     戦場では、どこもかしこも戦いが繰り広げられている。
     目指すメイヨールに踏み込むまで、皆武器を振るい続けた。


    「最初の一陣は片付いたな」
     最後の一匹を槍で穿ち、セレスが周囲を見回した。
     とは言え、戦いはまだまだ序盤戦。次の敵陣に向かい足を進めようとしたその時、コロナがはっと顔を上げた。
    「あ!」
    「やはり来たか」
     昴もその群れに気付いた。常に周囲からの増援を警戒していた灼滅者達は、すぐに理解する。
     頑丈そうな竜と、それに騎乗した軍団。鉄竜騎兵の部隊だった。
    「瑠架側の増援か」
     まさにその可能性を考えていた。セレスが皆の顔を見回す。あの増援を許せば、メイヨールの灼滅は難しくなるだろう。このまま放置することはできない。
     即断し、仲間達は騎兵部隊へ意識を集中させた。部隊を先導する者が二人。その後ろに、騎兵が続いている。
    「気をつけて、援軍が来るよ! 竜騎兵だね!!」
     コロナが近くにいる学園の仲間に声をかけた。
    「確認しました。……迎撃します」
     同じくメイヨールへ向かっていた興守・理利(竟の暁薙・d23317)から返事があった。向かってくる二部隊をこちらも二つの班で迎撃するのだと、言葉少なく確認しあう。
    「あいつら、向かってくるならきっちり叩き潰してやるぜ」
     武流が己の拳を叩き熱い声を上げた。
     エアシューズに力を込め、地面を勢いよく蹴って飛ぶ。
    「ええ加減にしぃや! こっちは名古屋帰りで疲れとんねん!」
     アルルーナもイライラとした気持ちを抑えきれずに言葉を吐き出し、ダイダロスベルトの帯を伸ばした。この絶妙にいやらしいタイミングで攻めて来たメイヨール達に、イライラしていたのだ。
    「お気持ちは分かりますが、どうか冷静に」
     セカイが二人の後ろから声をかける。
    「っと、そうだったぜ。って、姫条は大丈夫だよな?」
     振り返った武流は、少しだけクールダウンして見えた。
    「はい、わたくしは大丈夫ですよ」
     どこかぎこちなく、セカイが微笑み返す。それぞれが、この戦いに持ってきた気持ちがあるのだ。
    「私達の相手は、あいつだな」
     黒斗の視線の先には、殊更大きな躯体の竜に乗る大男の姿があった。
    「我が行く手を阻もうというのか、灼滅者」
     大男は、竜の上から悠然と灼滅者を見下ろす。
     大男の背後には、騎兵がずらりと並んでいた。
    「そんな大口を、いつまで叩いていられるんだろうな」
     けれど宗悟は臆することなく、正面から鉄竜騎兵に向かっていく。
    「瑠架殿の願いだ。ここは無理にでも通るとしよう」
     鉄竜騎兵の部隊長は一つ小さく笑いを漏らし、その部下と共にこちらへ向かってきた。


    「ここを通すわけには行きません」
     セカイはずらりと並んだ鉄竜騎兵と部隊長である大男に言葉を投げかけた。鉄竜騎兵の数は20を超える。これは、先ほどのタトゥーバットの数と同程度だが、それぞれの固体の強さが、蝙蝠の比ではない。
     だが、やるしかないのだ。
    「このヴァラルガルドを止めるとでも言うのか? ほう」
     ヴァラルガルドと名乗った部隊長が面白そうに目を細めた。
    「隊長、我らの使命は、逸早くメイヨール子爵の救援へ駆けつけること」
    「努々お忘れなきよう」
    「分かっておるヴェルデにジャッロ。逸早く、駆け抜ければよいのだろう?」
     鉄竜騎兵のやり取りを聞き、黒斗は昴に視線を送った。
     確かに、鉄竜騎兵は蝙蝠よりもはるかに強い難敵だ。だが、彼らはこちらと全力で戦う事よりも、メイヨールの支援へ急ぐ事を優先するようだ。
    「なら、いくらでもやりようはあるぞ」
    「だな」
     二人は顔を見合わせ、同時に地面を蹴った。
     周りの騎兵を無視し、ヴァラルガルドの懐へ一気に飛び込む。昴が鋭い斬撃で身体を押し、黒斗は位置をずらして竜を斬りつけた。
    「やらせるか!」
     二撃目には、騎兵がその間に割り込んでくる。
    「ローゼオ!」
    「隊長、貴方あっての鉄竜騎兵。お気をつけください」
     ヴァラルガルドを庇ったローゼオが頭を下げた。
    「そこ! 余所見する暇なんかあるん?!」
     それを見て、アルルーナもレイザースラストを放つ。帯はしなやかに伸び、敵の身体を貫いた。
     だがそれは、またしてもヴァラルガルドを庇った騎兵に命中する。
    「っと。ブルもすまない。……そうか、灼滅者。あくまで我らの邪魔をするのだな」
     部下の傷を確認したヴァラルガルドは、真正面から灼滅者を見据えた。
    「邪魔? その生ぬるい考えが、死を招く」
     宗悟はクロスグレイブの全砲門を開放し、ヴァラルガルドを庇う騎兵達に向けて構えた。
     そこまで必死に庇う隊長なら、彼を灼滅できれば隊は瓦解するのでは?
     ならば自分は徹底的に騎兵達の邪魔をすると。狙いを定め光線を乱射し、宗悟は勢いをつけて騎兵達を薙ぎ払った。
    「っしゃ、俺も行くぜ!」
     敵の隊列が大きく乱れるのを感じ、武流も敵の中へ突っ込んでいく。エアシューズで飛び回り、敵隊列の間を右へ左へとすり抜けた。
    「こいつ!」
     騎兵の一人が武器を振り上げる。
     それを見て、武流は急激に方向転換をした。
    「疾・走・光・条」
     空中でもう一度向きを整えエアシューズを煌かせると、ヴァラルガルド向けて飛び蹴りを放つ。
    「ダッシングビーム!」
     この攻撃がヴァラルガルドの腹に命中した。
    「続けるぞ」
     セレスが続けてスターゲイザーを放つ。それは騎兵の守りに阻まれた。しかし、徹底してヴァラルガルドを守ると言う事は見て取れる。ならば付け入る隙はあるはずだ。
    「ふん。あくまで我を狙うと?」
    「言ったはずです。ここを通すわけには行きません」
     言って、セカイは刀を振り下ろす。
     重い一撃を、再び騎兵が庇って受けた。
    「なるほど。おい、しっかりしろお前達」
     ヴァラルガルドは魔力を宿した霧を展開する。騎兵達も互いに回復し合ったようだ。
     その中で武器を構えた者も居る。
    「一点突破で道を開きましょう!」
     ローゼオと呼ばれた騎兵が突撃をかけてきた。ヴェルデにジャッロもその後ろに続く。三騎は一斉にセカイへ向けて槍を突き出してきた。
     一撃は武流が庇ったが、他の二撃がセカイの身体を貫く。
    「おっと、やらせはしないよ!」
     すぐにコロナがラビリンスアーマーで傷を回復させた。
     蝙蝠とは違う強い攻撃だ。だからこそ、メディックであるコロナの回復は重要だ。
     この強力な援軍を通せば、メイヨール灼滅が遠のいてしまう。
     灼滅者達は自分達の役割を理解し戦い続けた。


     とにかく一点突破を狙う鉄竜騎兵は、執拗にセカイとアルルーナを狙ってきた。
     何度かは庇うことができたが、やはり二人の体力が目立って削られていく。
    「まだ、大丈夫だよね。はい、回復だよ」
     コロナは必死に前衛の仲間を回復して回った。ついでに盾アップも加え、仲間の被害を最小限に食い止めている。
    「ええい、邪魔やねん! 雑魚はさっさと退場せえや!」
     回復を受け、アルルーナはヴァラルガルドに踏み込んでいった。一点を狙うという点では、こちらも同じことだ。思い切り振り上げた武器を以って、フォースブレイクを放つ。
    「くっ、隊長!!」
     騎兵の一人が庇いに走るが、足がもつれて上手く歩けないようだった。
    「自由には動けないだろうな」
     宗悟が再びクロスグレイブの銃口を騎兵に向けている。光線を乱射して敵郡を薙ぎ払い、騎兵達の自由を奪った。
     じわりじわりと宗悟の攻撃が効いてきているのだ。
     邪魔が入らないと知り、アルルーナは魔力を流し込んで敵の体内を爆破する。
    「ふっ飛べや!」
     さんざん壊アップを加えたアルルーナの攻撃は、ついにヴァラルガルドの竜を撃ち抜いた。
    「隊長!」
    「ああ、大丈夫だ、しかし」
     ヴァラルガルドの表情に苛立ちが見えた。
    「お前達など、全力攻勢に出ることができれば」
     だが、それをしてしまうとメイヨールの援軍とはなりえない。ヴァラルガルド達は、せいぜい被害を最小限に食い止め、一点突破でメイヨールの援軍に向かわなければ意味がないのだ。
    「今出来ないのなら、お前達にはその力がないのだろう?」
     セレスは槍から冷気のつららを撃ち出した。
     敵の攻撃は苛烈だが、どこか踏み込みが甘いと感じている。回復の手が多く、今一歩のところを攻め切れないのだろうとも。
     氷はヴァラルガルドの身体にまとわりつき、傷を与えていく。
    「時間をかければかけるだけ、こちらが有利だな」
     昴は状況を確認するように呟きヴァラルガルドに斬りかかって行った。いくら手厚く回復を繰り返しても、癒せない傷は積み重なっていく。
    「しかも、我らは積極的に攻撃せず、そちらの消耗は少ない、か」
     その言葉と共に、ヴァラルガルドが抉るような槍の一撃で昴の斬撃を跳ね返した。昴はすぐにステップし、相手と距離を取る。
    「隊長!!」
    「もう良い。お前達は下がれ。考えが足りなかったのだ。全力で当たらねばならなかった。それを怠った」
     騎兵達を下がらせ、ヴァラルガルドが一人、前に出てきた。
    「最初から全力でぶつかっておれば。いや。言うまい。騎兵達よ、もし我が倒れたなら潔く退くのだ。そして、我が勝ったなら、共に子爵の元へ参ろう」
     その姿はいくつもの戒めと傷で万全とはいえない。
     だが、初めて全力で攻撃を仕掛けてくるのだと、灼滅者達は肌で感じた。
    「我の撃を受けてみるがいい!」
     ヴァラルガルドの竜が勢い良く地面を蹴る。疾走。疾風のごとく走り、一息もつかぬ間にアルルーナの懐へ飛び込んできた。
    「なん――」
    「沈め!!」
     どこから槍が突き出たのかさえ定かではない。恐ろしく速い一撃だ。アルルーナの身体が吹き飛び、地面に転がる。
     しかし灼滅者達は助けに走れない。ヴァラルガルドが次の動作で槍をセカイに向けたのだ。
    「こ、のぉ!」
     逸早く武流が気付き、踏み込んでいく。しっかりと狙う暇さえなかったが、とにかく敵の身体を蹴り上げた。
    「なんのぉ!!」
     態勢を崩しかけたヴァラルガルドは、槍を地面に突き刺し無理矢理その場にとどまる。だがその一瞬に黒斗が光の刃を撃ち出した。
    「行け、今だ」
    「はいっ」
     出来たほんの数秒で、セカイがヴァラルガルドの側面に回りこむ。
     一瞬の抜刀術で、敵の身体を斬り捨てた。
    「みなさん!」
     セカイの掛け声に、皆が一斉に攻撃を叩き込む。
    「……見事だ、灼滅者……!」
     ヴァラルガルドは最後にそう言い、竜ごと消え去った。

     部隊長の敗北を見極め、騎兵達が後退していく。だが彼らを追う体力は残されていない。
     メイヨールの灼滅は、いや他の戦場はどうなったのか。連絡の手段もなく分からない。
    「だが、私達の役目は果たせたはずだ」
     セレスの言葉に、仲間が頷きあった。後は学園の仲間を信じよう。
     その思いと共に、彼らは戦いを終えた。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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