黒翼卿迎撃戦~白き炎の柱より

    作者:カンナミユ

    ●現れし白き炎の柱
     名古屋にて行われているハンドレッド・コルドロンの戦いが佳境に入った頃、結城・相馬(超真面目なエクスブレイン・dn0179)は廊下から外を――戦いが行われている名古屋の方へと瞳を向けていた。
     戦う力を持たぬエクスブレインはここで灼滅者達の勝利を祈る事しかできない。
     少しでも犠牲が出ぬよう祈る相馬だが、ふとある光景が目に入る。
     武蔵野の地に白い炎の柱が出現し、その柱から現れるのは――。
    「……まさか、そんな……!」
     突如出現した白炎の柱。そして現れるダークネスの軍勢。
     それは黒翼卿の眷属であるタトゥーバットに絞首卿の配下であった奴隷級ヴァンパイア団、バーバ・ヤーガの眷属である鶏の足の小屋と、ヴァンパイア魔女団、殺竜卿の配下である鉄竜騎兵団の混成軍であり、更に、竜種イフリート、ソロモンの大悪魔・ヴァレフォールの眷属、スサノオ、動物型の眷属など。
     それらは武蔵坂学園に向けて堂々と進軍を開始しているのだ。
     指揮官として名を連ねるダークネスも黒翼卿メイヨール、朱雀門・瑠架、義の犬士・ラゴウ、竜種ファフニール、ソロモンの大悪魔・ヴァレフォール、スサノオの姫『ナミダ』と揃っており、灼滅者の主力が出払っている武蔵坂を落とすには充分すぎる軍勢。
    「灼滅者の戦力は出払ってるし、今回の作戦には、黒の王の完全バックアップが付いているんだ。だから勝利は確実だよ、瑠架ちゃん」
    「えぇ、そうですね、メイヨール子爵」
     手足を切り落としたメイヨールが乗る車椅子を押す朱雀門・瑠架は会話しつつ思案する。
    (「武蔵坂学園を滅ぼすわけにはいかない。どこか良いタイミングでこの軍を撤退させるしかない……。でも、どうすれば」)
     この大軍をどうやって退かせるかという難題に頭を悩ませるが、緊急連絡に一筋の希望がもたらされた。
    「武蔵坂学園の灼滅者が、こちらに向かっています」
     
     ハンドレッド・コルドロンの戦いを最速で勝利に導いた灼滅者達が、急報を聞いて武蔵坂学園へと戻ってきたのだ。
     それは、彼ら――黒翼軍が予測していたよりも数時間早い、まさに神速の大返しであった。
      
    ●迫り来る黒翼
    「あの戦いからよく戻ってきてくれた、ありがとう」
     戦いから戻ってきた灼滅者達に礼を言う相馬は、緊張した表情のまま話しを続ける。
    「お前達が戻ってきてくれたおかげで、武蔵坂学園が占領されるという最悪の事態を逃れる事が出来た。だが、まだ危機は去っていない」
     ノートを手に相馬が言うには、強大な吸血鬼軍が、武蔵坂学園のすぐそこまで迫ってきているというのだ。
    「お前達が戻ってきてくれた事で吸血鬼軍の一部は戦意を失っているようだが、主将である黒翼卿メイヨールは武蔵坂学園への攻撃を諦めておらず、決戦は避けて通れないだろう。黒翼卿メイヨールさえ灼滅或いは撤退させれば吸血鬼軍は撤退していくので、なんとかこの迎撃に成功し、吸血鬼軍を撃退して欲しい」
     いつもなら資料をまとめた上で説明をするエクスブレインだが、その時間さえもなかったようだ。情報を書き留めたノートを開き、相馬は説明をはじめる。
    「どうやらお前達の参戦は予想外だったらしい。黒翼軍はかなり混乱しているようだ」
     ノートへと視線を落とす相馬の説明によれば、この混乱の隙をつけば、黒翼卿メイヨールを撃退するだけでなく、他の有力なダークネスを討ち取ることも出来るかもしれないという。
    「敵の布陣は、前線中央に黒翼卿メイヨール。その後ろに朱雀門・瑠架、前線左翼に竜種ファフニール。前線右翼に義の犬士・ラゴウ。そして後方に、スサノオの姫・ナミダがいる。ソロモンの大悪魔・ヴァレフォールは前線と後方のにいて、去就に迷っている状況のようだ」
     黒翼軍の布陣を黒板に書きながら相馬は話す。
    「今回は黒翼卿たちを撃退さえすれば、武蔵坂の勝利だ。学園を守る為にも頑張ってくれ」
     緊張感が張り詰める中、灼滅者達への説明を終えた相馬だが、それには続きがあった。
    「実はこの戦いの直前、校長先生が学園に戻っている。この迎撃戦終了後に重大な話があると言っていたが……」
     どうやらその重大な話の内容は相馬も知らないらしい。そこで言葉はふつりと途切れ、窓の外へと瞳を向けた。
     恐らくはその先には、黒翼卿メイヨール率いる黒翼軍がいるのだろう。
      
    ●黒翼軍は進軍す
    「僕と瑠架ちゃんの共同作業を邪魔するなんて、許せないね。灼滅者なんて、踏み潰してグチャグチャにしてしまえっ! 突撃ー!」
     メイヨール子爵が気炎を吐く傍ら。朱雀門・瑠架の心境は、灼滅者達を倒そうとする子爵とは大きく異なった。
    (「灼滅者の大返し……。会長が失敗したのか、それとも、これも彼の予定通りなのか。とにかく、最大の懸案は消えたわ。あとは、メイヨール子爵を無事に撤退させれば。メイヨール子爵は、ボスコウなどとは違う、本物の爵位級ヴァンパイア。彼が灼滅されれば、爵位級ヴァンパイアと武蔵坂学園の敵対を止める事はできない」)
     武蔵坂を滅ぼす訳にはいかない。
     メイヨール子爵も灼滅させない。
     風に揺れる髪を押さえ、瑠架が思案する中、ソロモンの大悪魔・ヴァレフォールは面倒くさそうに周囲を見渡した。
    「爵位級ヴァンパイアに協力して、楽して力を取り戻す予定だったのに、どうも話が違うねぇ。これは、適当に戦って、折を見て撤退するしかないね」
     ヴァンパイアの軍勢に合流したヴァレフォールだが、予定通りに事は進まなかった。灼滅者達が予想外の早さで戻ってきた事で、戦う気は削がれてしまっている。
     そして、瑠架と共に行動してきた義の犬士・ラゴウ。
    「卑劣な罠を破って現れる正義の味方。それでこそ、灼滅者だ。だが、これは瑠架の望み。簡単に黒翼卿を討たせるわけにはいかないな」
     言いながら向ける先には瑠架がいる。
     彼女の望みに従い、ラゴウはメイヨールを撤退させることに注力するつもりだが……。
    「殺された多くの我が同胞の恨み、今こそ晴らそう。ゆくぞ、竜種の誇りにかけて!」
     ラゴウと同じく朱雀門高校勢力にいる竜種ファフニールは、子爵と同じように灼滅者達と戦う気満々である。
     ――そして。
    「黒の王には義理があった。故に軍団の隠蔽は引き受けたが、さしたる意味は無かったようじゃのう。さて、儂らは退く者どもを助けるとしよう。黒翼卿は戦う気のようじゃが……まぁ、死なぬことはともかく、勝つことはあたわぬじゃろうて」
     スサノオの姫・ナミダは誰に言うでもなく口にすると、最後方から軍勢を見渡しながら撤退の支援に向かうのだった。


    参加者
    叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)
    シルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461)
    三上・チモシー(津軽錦・d03809)
    熊谷・翔也(星に寄り添う炎片翼・d16435)
    ロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・d24010)
    迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)
    琶咲・輝乃(紡ぎし絆を宝と想いし者・d24803)
    癒月・空煌(医者を志す幼き子供・d33265)

    ■リプレイ


     灼滅者達はその時を待っていた。
    「我々の居ない間に攻め込むとは、爵位級にしては姑息な手を使ってくるものですね」
    「……漁夫の利を狙うのは悪くない戦法だが、引き際をわきまえないのは愚策だな」
     熊谷・翔也(星に寄り添う炎片翼・d16435)とロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・d24010)は言葉を交わし、夕暮れに染まる空を見上げた。
     それは血――名古屋でのそれを思い出させる色。
     ここにいる灼滅者達はつい数時間前まで名古屋で戦っていた。
     ハンドレッド・コルドロンの戦いも佳境に入ったという時に黒翼卿メイヨールが軍を率いて現れたのだ。
     選択を迫られた灼滅者達は武蔵坂を守る為、名古屋から急きょ戻ってきたのである。
    「火事場泥棒のような真似とは、やってくれるな。いいさ、その返礼はさせて貰おう」
    「我々の為にもあちらの為にも、お帰りいただきましょう」
     叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)にロジオンは頷き、
    「ここで倒してしまいたいのはやまやまじゃが、生徒会長とやらの思惑どうりにすすませりゅわけにもいかにゅの」
     シルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461)は言いながらエクスブレインからの説明を思い出す。
     この戦いで相手にするのはかなりの大軍だが、灼滅者達が戻ってきた事により混乱しているらしい。そしてメイヨールを撃破せずとも撤退させる事が出来れば、他の軍勢も撤退するという。
    「忙しないね。一刻も早くお帰り願いたいよ」
     緊張感が感じられない声で三上・チモシー(津軽錦・d03809)は言うが、それは表に出さないだけだ。
     黒翼卿メイヨール、朱雀門・瑠架、義の犬士・ラゴウ、竜種ファフニール、ソロモンの大悪魔・ヴァレフォール、スサノオの姫『ナミダ』が指揮官として集まった相手を前に緊張しない者などいない。
    「そろそろやな」
     真剣な感情を内に外へと瞳を向けるチモシーを目に、迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)は言い、仲間達は正面――メイヨール率いる黒翼軍の進軍を目の当たりする。
    「………ナミダ姫、この勢力のところにいたんだね」
     琶咲・輝乃(紡ぎし絆を宝と想いし者・d24803)が見据える先はスサノオの姫・ナミダがいる筈だ。
     黒翼軍をここまで運んできたのが、探していた存在という事に輝乃は苦笑い。
     そして。
    「さあ、いこう!」
     癒月・空煌(医者を志す幼き子供・d33265)と共に灼滅者達は動き出す。
     

    「Almaz rezhet almaz」
    「力を貸して!」
     ロジオンと空煌が解除コードを口にし、灼滅者達の前に迫るのはタトゥーバットの大軍。
    「さすが黒翼軍だね。あんなに沢山いるなんて」
     ぽつりとチモシーは言いながら飛び出してきたタトゥーバットの攻撃に身構えるが、タトゥーバットは横からの攻撃に吹っ飛ばされた。
     見れば、共にこの作戦に挑む他の仲間達が大軍へ攻撃しているではないか。
    「行きましょう、この先にいる筈です」
     そう、この先にいる筈だ。黒翼軍を指揮する黒翼卿メイヨールが。
     沢山の仲間達が戦う中で目標へと駆ける灼滅者達だが、空煌は敵軍の中に体中が包帯だらけの女性ヴァンパイアの一団がいる事に気が付いた。よく見れば、その一団の中心にいるのは特徴的な姿のダークネス。
    「ねえ、あそこにいるのって……」
    「メイヨールじゃ!」
     手足を切り落とした異様な姿を目にシルフィーゼは指差し、仲間達へと告げるとその存在も灼滅者達に気付いたようだ。
    「よくここまでたどり着いたね」
    「見つけたぞ、火事場泥棒」
     手足を切り落としたダークネス――黒翼卿メイヨールへと宗嗣は言い、
    「メイヨールは瑠架が好きなのは痛い程わかったからさっさと引っ込んでくれる?」
     言いながら輝乃がちらりと周囲へ目を向ければ、自分達以外に駆けつけたのは3チーム。
     どうやらこのメンバーでメイヨールと戦う事になるようだ。
    「お前らの計画は目の前に俺達がおる時点で御破算や。今なら退いてもええで。だが、これ以上進むなら容赦せんぞ!」
    「退きたければ退けばいいさ。でも、僕と瑠架ちゃんの共同作業を邪魔する灼滅者は踏み潰してグチャグチャにしちゃうけどね」
     炎次郎は言い放つが、戦意の高いメイヨールは気にもしない。威嚇し吼えるミナカタさえも気にしなかった。
    「灼滅は二の次。撤退狙いで行こう」
     すと噺喰武装を構え言う翔也の言葉を聞いたメイヨールはふふん、とふんぞり返り言い放つ。
    「撤退? この僕が撤退なんてありえないね。やれるものなら、やってみなよ!」
     

    「お前達、瑠架ちゃんにいいところ見せるぞ」
     その声にヴァンパイア達は4チームの前へと躍り出る。
    「さあ行くぞ!」
     ぽよんと跳ねたメイヨールはチモシーへ!
    「くっ……!」
    「さあ、まだまだいくぞ!」
     避け切れなかったチモシーは眉をひそめ、メイヨールは意気揚々と再び攻撃しようと動き――、
    「させるか!」
     がつん!
     炎次郎がそれを防ぐ。
    「助かったよ」
     チモシーの礼に頷き応える炎次郎は前を見れば、メイヨールの命令に3体のヴァンパイア達も攻撃に動き出す。
     ディフェンダー勢が防ぐのを目に真っ先に動いたのはシルフィーゼだ。
    「ここで倒してしまいたいのはやまやまじゃがのぅ」
     メイヨールを倒す訳にはいかないとヴァンパイアミストを展開させると、宗嗣が続く。
    「一凶、披露仕る」
     ずぶん!
     振るう真白の刃は空を切り、見ればメイヨールはぽよんと飛び跳ねているではないか。
    「よく跳ねるね」
     呟き白炎蜃気楼を展開させる輝乃を横に、炎次郎は構え詠唱を口にする。
    「火を生み給ひて 御保止を所焼坐しき、如是時に吾が名の命の吾を見給ふなと申す」
     すると結界が張られ、ミナカタも仲間の回復に動くと翔也は得物を振り上げた。
    「そんな炎なんて効かないよ」
    「じゃあこれはどう?」
     巻き上がる炎をまたもや余裕で飛び跳ね、眉をひそめる翔也へとメイヨールは言い、空煌のレイザースラストさえも余裕で避けてしまった。
    「さすが黒翼卿メイヨール、一筋縄ではいかないみたいだね」
    「一筋縄ではいかない相手でも、私達で撤退させましょう」
     具現化する赤紫色のダイヤを目にブラックフォームを展開させるチモシーへロジオンは頷き、手にする魔導書をぱらりと開く。
    「黒き影が成すは波、喰らえや喰らえ!」
    「おおっと」
     呪文と共に迫る影をくらいかけるも、メイヨールはそれもぽよんと跳ね、
    「お前達の攻撃なんて痛くも痒くもないよ」
    「待て、メイヨール!」
     翔也は声を上げるが、メイヨールはぽよよーんと跳ねると隣のチームへと着地し攻撃に。その姿を追おうとするが、
    「お前達、僕が帰ってくるまで相手をしているんだぞ」
     その声にヴァンパイア達が立ち塞がると灼滅者達へと襲い掛かる!
    「させるか!」
     炎次郎は立ち塞がり防ぐが、全てを防げる訳ではない。
     攻撃をかろうじて避けたシルフィーゼのロリータドレスの裾が裂け、真正面から受けた輝乃の体はずず、と下がった。
    「大丈夫か、輝乃」
     翔也の声に膝をつきそうになる輝乃はこらえ、立ち上がる。
    「大丈夫、ありがとう」
     礼を言い着流しについた汚れを払いながら見据えれば、仲間達が戦いを続けている。
     クルセイドソードを閃かせるシルフィーゼは配下へと攻撃を続け、黒い炎を纏った宗嗣が銀爪撃で切り裂けば、仲間達が続いた。
     こうしてメイヨールを撤退させるべく戦闘を続ける灼滅者達だが、子爵は戦う4チームの間を巡るように戦っている。
    「上からじゃ!」
     シルフィーゼの声に見上げれば、メイヨールがぽよよーんと跳んできた。
     宗嗣は仲間達はと共に身構えヴァンパイアの、そしてメイヨールの攻撃を受けるが――。
    「さすがの黒翼卿もダメージを受けているようですね」
    「そうだね」
     仲間達が攻撃する中でロジオンとチモシーは言葉を交わす。
     4チームと戦うメイヨールだが、他のチームで受けた攻撃によって左脇腹は切り裂かれ、衣服もまた切り裂かれている。
    「まだ余裕みたいだけど……」
    「余裕なのも今のうちや」
     宗嗣の攻撃を受け流すその表情を目にライフブリンガーを放つ輝乃は炎次郎と言葉を交わせば、避けたメイヨールはやはり余裕の顔。
    「だがな、余裕なのは今のうちだけや!」
    「そうだな、今のうちだけだ」
     炎次郎に翔也は言いエアシューズを駆るとメイヨールではなく取り巻きへとグラインドファイアを放つ。ヴァンパイアは避けようとするがまともに食らい、大きくよろめいた。
    「皆さん、大丈夫ですか?」
     蝋燭を持つ空煌は戦う仲間達の傷を癒し、
    「これでもくらえ!」
    「うぐっ?!」
     ぶんと振るうチモシーの龍砕斧は意外と堪えたのだろう。服をざくりと裂かれたメイヨールは呻きながらよろめき、
    「穿つは魔の風、叩けや叩け!」
     ロジオンの放つ攻撃もまともにくらってしまった。
    「これくらい……これくらい、なんともないぞ」
     そう余裕そうに言い、ぽよよーんとメイヨールは跳ねていく。
     どんなに余裕であったとしても、4チームの間を巡り戦い続けていればダメージは蓄積していった。
    「ふう、ふう、お前達、僕を回復しろ」
     ついにダメージは無視できないものとなったのだろう。今まで攻撃を指示し続けていたメイヨールはヴァンパイア達に回復を指示した。
     だが、その回復では受けたダメージを癒しきる事はできず、ふらつきかけるメイヨールは攻撃をしかけてくる。
    「これでもくらえ!」
     迫る攻撃を宗嗣はひらりと避け、
    「あと一息じゃ!」
     配下へと神霊剣を叩きつけるシルフィーゼの声。
     死角を突くべく動き続ける宗嗣の攻撃に白き獣と化した右腕を振るう輝乃が続き、
    「お前は誰かを守ろうとしたことはあるか? ダークネスにまともな仲間意識があるなんて思えへんけど、戦いでものを言うのは仲間との結束力や! 全員が明後日の方向向いとる軍勢に武蔵坂を、仲間達を守ろうと1つになった俺達が負けるはずはない!」
     炎次郎の白刃が閃いた。
    「ダークネスに仲間意識がないって? お前、僕達を見くびってないか?」
    「見くびってなどいない。だが、仲間意識は武蔵坂の方が、強い」
     真正面からのそれをかろうじて逸らしたメイヨールへと翔也は言いながら制約の弾丸を放ち、天使の少女の力と共に空煌は死神の奇譚を語る。
    「こ、これくらい、なんともないぞ」
     攻撃をまともに受けたメイヨールは言うが、そうではないと空煌は気付き、そして、その動きに生じた隙にも気付いた。
    「チモシーさん、ロジオンさん!」
    「いくよ、地吹雪ビーム!」
    「黒き影が成すは波、喰らえや喰らえ!」
     チモシーが放つ真っ白な青森のご当地ビームとロジオンの影が襲い掛かる。だが、ふらつくメイヨールはそれをまともにくらってしまい、
    「お、お前達の攻撃なんて、痛くも痒くもないぞ……」
     そう言い残し脂汗を流すメイヨールはぽよよーんと跳ねていったが、その勢いが失われているのは誰の目にも明らかで。
     そして、他の3チームの間を巡ったメイヨールはぽよよーんと戻ってくるが――。
     

    「はあ、はあ、はあ……」
     飛び跳ね襲い掛かってるかと思いきや、戦う4チームの中心にぽよんと着地した。
     脂汗を流し、血を流すメイヨールはかなり荒い息を吐く。どうやらかなりのダメージを受けたのだろう。
    「運動して、息が切れてしまったよ。少し休憩するから、お前達僕を守れ」
     そう言い灼滅者達と戦っていたヴァンパイア達はメイヨールの前に立つ。
     得物を手に構え対峙する灼滅者達だが、この状況はチャンスだろう。
    「これ以上の戦いは無意味やで。まだやるなら……俺はお前らと刺し違ってでも戦いを止める!」
     呻るミナカタを傍らに刀を構え、炎次郎が威嚇するように言い放てば、
    「聞き分けのない男は嫌われても知らないわよ」
    「こちとら名古屋帰りで疲れてんだ! いいからその肉ダルマ連れてとっとと帰りやがれ!」
    「撤退するというのなら、ボクたちは追いません。命が惜しければ、愛する瑠架さんの元へ帰るでありますよ!」
     共に戦った他のチームからも声が上がる。
     ここで戦った多くの者達が目指していたのはメイヨールの灼滅ではない。撤退なのだ。
    「そちらの勝ちは最早無いでしょう。我々の気が変わらぬうちに、お帰りください!」
     荒い息をつくメイヨールはじろりロジオンを睨み、しばし。
    「覚えているよ。この恨み、僕は、絶対忘れないから」
     そして、そう言い残し守らせていたお気に入りヴァンパイアと共に去っていく。
     他のチーム達が相手にしていた敵もその後に続いていくが、灼滅者達は背後を突くこともなく、追いもしない。
     そして去っていく黒翼卿メイヨールの姿は小さくなり、そして見えなくなった。
    「なんとか目標達成できたね」
    「そうだな」
     汗ではりつく前髪を払い、そっと髪飾りに触れる輝乃と翔也が言葉を交わす中、宗嗣は一人、メイヨールが去っていった方へと瞳を向けたまま。
     できる事なら灼滅したかった。だが、撤退させる目的の作戦である以上は仕方ない。
     戦いはようやく終わり、息をつくチモシーにふわりと癒しが舞う。
    「お疲れ様」
    「ありがとう、空煌くん」
     空煌の癒しに出血は止まり、痛みも消える。
    「無事に撤退していりぇばよいのじゃが」
     ぽつりと呟き、シルフィーゼは傷が癒えるのを感じながら去っていった子爵の姿を思い浮かべ――、
     
     去っていった子爵がどうなったのか。
     それは後の連絡で8人は知る事になる。

    作者:カンナミユ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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