●都内某所
どんな女性でも美しく見える鏡があった。
実際には、メイクや衣装、照明効果などによって美しく見えていただけなのだが、その噂だけが独り歩きして都市伝説が生まれてしまったようである。
「鏡に映った自分の方が綺麗って、逆に落ち込むと思うんだが……」
そんな事を考えながら、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明した。
今回、倒すべき相手は、鏡の姿をした都市伝説。
こいつは廃墟と化したスタジオの中におり、その周りには、お世辞でも綺麗とは言えない女性達がいる。
彼女達にとって、鏡の都市伝説は神にも等しい存在。
自分の醜い体型が、老いた姿が、美しく見えてしまうのだから。
もちろん、それは鏡の中だけ。
しかし、彼女達はその事実を受け入れず、命がけで都市伝説を守ろうとするだろう。
また、都市伝説は相手の姿を美しくして映し出すだけでなく、鏡の破片を飛ばして攻撃を仕掛けてくるから、くれぐれも気を付けてくれ。
参加者 | |
---|---|
竹宮・友梨(鳴歌巫医・d00883) |
影道・惡人(シャドウアクト・d00898) |
オニキス・ブラックロウ(1/1024の里帰り・d01025) |
羽柴・陽桜(ひだまりのうた・d01490) |
鷹合・湯里(鷹甘の青龍・d03864) |
十・夜兎(食いしん坊・d06429) |
個人的・検閲(黙して語らず・d08160) |
シリアス・カインズベル(不死身のシリアス・d09251) |
●鏡よ、鏡
「……いつの世も美への執念は怖いね」
しみじみとした表情を浮かべながら、竹宮・友梨(鳴歌巫医・d00883)が都市伝説の確認された場所に向かう。
都市伝説が確認されたのは、閑静な住宅街の一角にある屋敷。
この屋敷には以前、芸能人が住んでいたようだが、老いる事に恐怖を感じて自ら命を絶ってしまったようである。
だが、その芸能人の写真を見る限り、年相応に美しく自ら命を絶つほど思い悩む理由が見当たらないように思えてならない。
「ひょっとして、綺麗なものだけ映るのかにゃ? 嫌なものが映ると嫌だにゃあ~……」
色々と怖い事を想像してしまい、十・夜兎(食いしん坊・d06429)がぶるりと体を震わせた。
どうやら、都市伝説は各種補正機能がついた鏡のようなもので、しわからシミまで違和感がないように消し去り、鏡の映った本人の個性を活かすような形で映し出していたようである。
そのため、一度鏡に映った自分を見た女性達は、『この鏡に映っているのが、本当のワタシ。他の鏡はわざと醜く映していたのね。きっと化粧品メーカーの陰謀だわ』という考えに至ったようだ。
「自分を美しく見せる鏡……、いつまでも美しくありたいというのはほぼ全ての女性の望みでもありましょう。でも、美しく『なる』と言うのならわかりますが、『見える』だけでは、ただの自己満足、現実逃避です。だからこそ、速やかに都市伝説を祓い去り、彼女達を現実に呼び覚ましましょう」
仲間達に声を掛けながら、鷹合・湯里(鷹甘の青龍・d03864)が屋敷に視線を送る。
彼女達が来るまで、無人であった屋敷。
一体、彼女達がどのような経緯で、この屋敷に入ったのか分からないが、まるで街灯に群がる蛾のように思えてならなかった。
「なるべく戦わずに済ませたいが……」
険しい表情を浮かべながら、個人的・検閲(黙して語らず・d08160)が屋敷に入っていく。
屋敷の中には数人の女性がおり、明らかに年不相応な服装を着て鏡の前に立っている。
傍から見ていると、残念な感じで胸がいっぱいになるのだが、鏡に映った彼女達は年相応に見えて、不覚にも可愛いと思ってしまうほどであった。
おそらく、これほどのギャップを目の前にして、元の生活に戻る事などほぼ不可能であろう。
「んっと、綺麗になれる鏡があるって聞いたの。あたし、ちびっこで、ちんちくりんで、かわいくないーっていつも言われるから、キレイになりたいの! ちょっとだけ、鏡、のぞいてもいいかな?」
プラチナチケットを使って女性達に話しかけ、羽柴・陽桜(ひだまりのうた・d01490)がニコリと笑う。
それを聞いた女性が『もちろん、いいわよ』と言って、陽桜を鏡の前まで連れて行く。
その途端、陽桜は言葉を失った。
鏡に映っていたのは、絶世の美少女、天使そのもの。
綺麗や可愛いを、超越した何か。
頭で理解できなくとも、心に訴える何かがある。
仲間達もそれを見て、唖然とした。
こんなものを見せられれば、都市伝説の虜になるのも当然だ。
何となく鏡に映っていた仲間達も、揃って美男美女。
ある意味、神の領域にまで達した美しさ。
「確かに、鏡の凄さは認めますが、自分を磨かずして、与えられた偽りの姿に執着するなど論外ですよ~。現実に帰りましょう?」
女性達に語りかけながら、オニキス・ブラックロウ(1/1024の里帰り・d01025)が鏡に……、都市伝説に迫っていく。
その途端、女性達が立ち塞がる。
鬼のような形相を浮かべ……。
刃物のように鋭い殺気を放ちつつ……。
「顔の醜さが、鏡のせいで心にまで伝染しちまってるようだな。顔が醜いのは許せるが、心が醜いのは、女性としていただけねぇな。……と言う訳だから、サッサと鏡を叩き割っちまうか。いい音で砕けてくれそうだぜ」
含みのある笑みを浮かべながら、シリアス・カインズベル(不死身のシリアス・d09251)が指の関節を鳴らす。
女性達は鏡の前から退こうとしない。
それどころか、殺る気満々。
自分達が負ける事など、欠片すら考える事なく……。
「どうやら、覚悟は出来ているようだな。じゃ、やっちまうか」
女性達と対峙しながら、影道・惡人(シャドウアクト・d00898)がぷんぷんと殺気を漂わせる。
普通ならこれで逃げるはずだが……、全く怯んでいない。
彼女達にとって、鏡は命と同じ……いや、それ以上。
故に、決して退かない、退く訳にはいかない。
皆、鈍器のようなものを握りしめ、ケモノのような唸り声を上げて襲いかかってきた。
●女性達
「鏡を見る分は良いけれど、鏡に魅せられたらダメにゃなぁ」
都市伝説に近づく隙を窺いつつ、夜兎が素早い身のこなしで、女性達の攻撃を避けていく。
女性達は身を挺して夜兎達に立ち塞がり、命がけで都市伝説を守っている。
「……仕方ない。やるか」
伊達眼鏡を外しながら声に出さず、友梨が心の中で『星歌燎原』と呟き、スレイヤーカードを解除した。
それでも、女性達は鈍器的な何かを握りしめたまま、友梨達を睨んでいる。
「――黒法、起動です~」
すぐさまブラックフォームを発動させ、オニキスが自らを強化した。
次の瞬間、女性が雄叫びをあげて、再び攻撃を仕掛けていく。
今度は全力で、オニキス達を殺す勢いで……!
「……たくっ! 面倒臭ぇな」
ブツブツと愚痴をこぼしながら、惡人もブラックフォームを使う。
ライドキャリバーのザウエルも、女性達の攻撃に備えて間合いを取っている。
いっそ、このまま女性達もあの世に葬ってしまった方が楽なのでは、と思ったが、それではここに来た意味がない。
あれは、ただの物。壊したところで、別に心は痛まない。心の中でそう思っていても、自分の行動が原因で依頼を失敗させるような事は望んでいないのだから……。
(「……やっぱ、面倒臭ぇ」)
心の中でボヤきつつ、女性達達に当て身を食らわせた。
多少は手加減したつもりだが、万が一ポックリ逝くような事があれば、その時はその時である。
「……いまだっ!」
女性達が近づくまで闇纏いで気配を消し、シリアスが彼女達の背後に回り込んで大声をあげた。
それに気づいた女性達が『しまった!』と叫んだが、既に手遅れ、後の祭り。
「……これで眠ってもらいます!」
女性達を射程範囲内に捉え、湯里が魂鎮めの風を発動させる。
その途端、女性達が深い眠りにつき、その場に重なり合うようにして倒れこむ。
「ようやく落ち着いたか」
ホッとした様子で、検閲が預言者の瞳を使う。
残るは、都市伝説のみ。
都市伝説もそれに気付いたのか、次第に鏡の表面にヒビが入っていく。
「鏡よ、鏡よ、鏡の都市伝説さん! ひお達と勝負! いっくよー!」
一気に間合いを詰めながら、陽桜が閃光百裂拳を叩き込む。
次の瞬間、都市伝説の鏡部分が木っ端微塵に砕け散り、大量の破片が陽桜の体を切り裂いた。
●都市伝説
「はなうたさん、いっくよー!」
縛霊手に声を掛けつつ、陽桜が鏡の破片をガードしつつ、都市伝説に突っ込んでいく。
そのうち、いくつかの破片が体に突き刺さったが、グッと我慢。
ここで避ければ、背後で倒れている女性達に当たってしまう。
「一気にカタをつけるにゃ」
素早い身のこなしで距離を縮め、夜兎が都市伝説に神薙刃を叩き込む。
その間に都市伝説の鏡部分が再生し、再び破片となって飛んできた。
「……えっ? 再生するの!?」
驚いた様子で後ろに飛び退き、友梨がダラリと汗を流す。
幸いかすり傷で済んだものの、あと少しでも遅れていたら、シャレにならない事になっていた。
「だったら、何度でも粉々にしてやるぜ!」
先程、溜まった鬱憤を晴らすようにして、惡人がガトリング連射する。
それでも、都市伝説が鏡の破片を飛ばしてきたが、その大半が惡人達には命中する事無く、次々と床に落ちていく。
「絃操組極(げんそうくみきょく)。捉えましたよ~」
ニコニコと笑顔を浮かべ、オニキスが封縛糸で都市伝説の動きを封じ込める。
そのため、都市伝説は動けないが、元から動かないので……、特に問題はない。
「お還りなさい……在るべき場所へ!」
鏡が再生していない敏感な部分を狙い、湯里が近距離から神薙刃を炸裂させる。
次の瞬間、都市伝説が断末魔を響かせ、バラバラに砕け散って跡形もなく消え去った。
「……完全に消滅してしまったようですね」
都市伝説が消滅した事を確認し、検閲が残念そうに溜息をもらす。
出来る事なら、魔術研究のために、鏡の破片をこっそり回収しようと思っていたが、これでは不可能なようである。
「女の人達が起きる前に、早くここから出よう。万が一、起きたら大変な事になると思うから」
先程ほどの事を思い出し、陽桜が青ざめた表情を浮かべた。
それに、都市伝説が消滅した事で、辺りに破片も落ちていない。
逃げるのなら、今……。
彼女達が目を覚ませば……、間違いなく大惨事。
責任をとれ、殺してやる、一生恨む、などの声が聞こえてきそうである。
「顔が醜いのが嫌なら努力すればいい。心が綺麗なら必ず振り向いてくれる人がいる。それに気づけば……。いや、無理か」
狂気に歪んだ彼女達の顔を思い出し、シリアスが困った様子で頭を抱えた。
既に他人の話を聞くような状況出来ない。
自分の中にある価値観がすべて。
そんな状況で何を言っても無駄だろう。
とにかく、彼女達が無事でいた事。
それを何よりも喜ぶべき事かも知れない。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2012年10月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|