黒翼卿迎撃戦~百鬼夜行の去就

    作者:九連夜

     かつては馬の放牧地としても知られた武蔵野の大地。今やそこには異形のモノたちが蠢いていた。
     巨大なコウモリ、牙を持つ人々、鶏の足の生えた奇妙な動く小屋。さらに白い大きな狼や緋色の獣、悪魔としか呼びようがない人ならざるものまで、それらが渾然となって進む様はまさに百鬼夜行。
     その異形の群れの中心に在るのは車椅子に乗った一人の男。肥満というもおぞましいその巨体には手足がなく、それでいて圧倒的な存在感を放っている。
     周囲をぐるりと見回した「それ」は、太い首を無理に後方にねじ曲げると車椅子を押す少女に上機嫌で語りかけた。
    「灼滅者の戦力は出払ってるし、今回の作戦には、黒の王の完全バックアップが付いているんだ。だから勝利は確実だよ、瑠架ちゃん」
    「えぇ、そうですね、メイヨール子爵」
     少女はどこか上の空で回答する。
     ――――と。
     百鬼夜行の群れが微かに揺れた。最初はさざ波のように、しかし次第に繰り返し強風に煽られる木の枝のようにその揺れは激しくなっていく。
     その揺れをもたらしたのはたった一つの知らせだった。
     ――灼滅者たちがほどなく戻る、と。
     
    「皆さん、良く戻ってきてくれました」
     灼滅者たちに向かって五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)の声が響く。
    「皆さんが戻ってきてくれたおかげで、武蔵坂学園が占領されるという最悪の事態を逃れる事が出来ました。しかし、まだ、危機は去っていません。強大な吸血鬼軍が、武蔵坂学園のすぐそこまで迫ってきているのです。皆さんが戻ってきてくれた事で、吸血鬼軍の一部は戦意を失っているようですが、主将である、黒翼卿メイヨールは、武蔵坂学園への攻撃を諦めておらず、決戦は避けて通れません。黒翼卿メイヨールさえ灼滅或いは撤退させれば、吸血鬼軍は撤退していくので、なんとか迎撃に成功し、吸血鬼軍を撃退するようにお願いします」
     五十嵐・姫子の言葉が続く。
    「皆さんのこの早さでの帰還は彼らにとっても予想外だったのでしょう。うまく戦えば、指揮官である黒翼卿メイヨールの撃退だけではなく、他の名のあるダークネスを討ち取ることも出来るかもしれませんす」
     そう告げると、姫子は敵についての説明を始める。
    「敵の布陣は、前線中央に黒翼卿メイヨール。その後ろに、朱雀門・瑠架、前線左翼に竜種ファフニール。前線右翼に義の犬士・ラゴウ。ソロモンの大悪魔・ヴァレフォールは、前線と後方の間で去就について逡巡中、そしてもう一人、最後方に……」
     
     血気にはやるモノ。迎え撃たんとするモノ。去就に迷うモノ。早々と逃げ支度を始めるモノ。
     揺れ動く百鬼の群れたちをその最後方からどこか皮肉めいたまなざしで見つめる、一人の娘の姿があった。
    「黒の王には義理があった。故に軍団の隠蔽は引き受けたが、さしたる意味は無かったようじゃのう」
     軽くため息をつく。
    「さて、儂らは退く者どもを助けるとしよう。黒翼卿は戦う気のようじゃが……まぁ、死なぬことはともかく、勝つことはあたわぬじゃろうて」
     そう呟くと、スサノオの姫・ナミダは己の眷属たちに続くように軽く身振りをすると、きびすを返して歩き出した。


    参加者
    獅子堂・永遠(だーくうさぎ員・d01595)
    ジュラル・ニート(風か光か・d02576)
    鴻上・巧(氷焔相剋のフェネクス・d02823)
    ワルゼー・マシュヴァンテ(松芝悪子は夢を見ている・d11167)
    雪乃城・菖蒲(虚無放浪・d11444)
    ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)
    鴻上・朱香(宝石少女ジュエリア・d16560)
    シエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)

    ■リプレイ

    「ヴァンパイア魔女団の一陣と二陣、鉄竜騎兵団の三陣と四陣を本隊の救援に」
    「しかし、それでは手薄になり過ぎます。前線を突破された場合、ここを維持出来なくなります」
     最前線では熾烈な戦いが展開されていたが、その後方においても、刻々と変化する戦況に合わせて朱雀門・瑠架が厳しい判断を迫られていた。
     救援の到着までは、いかに武蔵坂を生かすかを思案していた彼女だが、今は一転してメイヨールを生かす為に手を尽くさねばならない状況なのだ。
    「それよりもむしろ、速やかな撤退を上申します。今ならまだ安全です」
    「黒翼卿が討たれれば、これまでの全ては水泡に帰します。それに、自ら降りるなど、私には許されません。……急ぎ黒翼卿を撤退させなさい。我々の撤退はその後です」
     単独での撤退を進言する部下に、瑠架は重ねて命じる。
    「ですが……」
     奇襲失敗で吸血鬼軍の足並みが大きく乱れた中、突出しているメイヨールを撤退させる事は容易ではないだろう。部下は尚も食い下がる。
    「黒翼卿に合流したならば、瑠架が心細く思っており、子爵に傍にいて欲しいと言っていたと伝えなさい。……このハンカチを渡せば、私の言葉だと信じてくれるでしょう」
    「……承知致しました」
     揺るがぬ決意を示す瑠架に、魔女団の部隊長もついに頷き、差し出された白いハンカチを受け取る。
    「続け!」
    「我等も急ぐぞ!」
     手勢を率いた隊長達は、今なお最前線で戦いに身を投じているであろうメイヨールの元へ急ぐのだった。

    ●敵は魔獣
    「メイヨールめ、我々の留守を狙うとは随分せこい真似をやってくれる……が、準備万端で迎え撃たれては世話が無いな」
     エクスブレインからの緊急連絡を受けて急遽武蔵坂学園に戻ってきたワルゼー・マシュヴァンテ(松芝悪子は夢を見ている・d11167)は、視界の先で蠢く異形の群れを見ながら言い放った。
    「フゥム、不意打ちはコチラの専売特許では無いということデショウネ」
     脇から答えたローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)がわずかに目を細めて、敵の新たな動きを注視する。ひとかたまりになっていた敵の集団――朱雀門・瑠架の率いる部隊と推測される――から少なからぬ影が分かれていく。
    「しかし相手方も一枚岩では無いご様子デスガ?」
    「あの方角はメイヨールさんの方でしょうか? ……ああ!」
     シエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)はポンと一つ手をたたくと、怪物たちの行き先の方にちょっと呆れたような、可哀想なものを見るような視線を送った。
    「大好きな人に良い所を見せようとして逆に増援を出してもらうなんて、つくづく空回りしちゃってますの」
    「増援阻止は他の班に任せるとして、こちらはこちらの仕事をしましょう。とはいえ」
     鴻上・巧(氷焔相剋のフェネクス・d02823)は夕闇の中に浮かぶ敵の数を数えあげる。
    「それでもかなり残っていますね。仮に正面からぶつかったとして」
     仲間たちを見回し、頭のなかでざっと戦闘力を計算する。
    「……短時間で打ち破るのは難しい、いやむしろ不利かもしれません」
    「問題ありませんわ。今回のわたくしたちの役目は、あくまでも露払いと囮ですもの」
     鴻上・朱香(宝石少女ジュエリア・d16560)は弟に微笑を向け、次いで真剣な顔で肩越しに後方を見やる。少し離れてそこに佇む仲間たちを、敵の首魁である瑠架との交渉に導くのが自分たちの役目だ。
    「了解。しかしまあ、烏合の衆とはいえよくあれだけの数集めたもんよね。毎度のこととはいえ」
     ジュラル・ニート(風か光か・d02576)が背負ったガトリングガンを大儀そうに担ぎ直した。
    「ええ、最近は少数で大群を相手取るのが多い気がしますね……まぁ、乗り越えてきてますし、今回も蹴散らしますか」
     雪乃城・菖蒲(虚無放浪・d11444)はあくまでのんびりした調子で応じると、己の得物の槍を構える。
    「始めるですの」
     敵陣を見据えたまま獅子堂・永遠(だーくうさぎ員・d01595)が小さく呟き、胸のあたりに手を当てた。全身の装甲が黄金に輝いたと見るや、その身が小柄な少女から年頃の娘の姿へと一瞬で変化する。
    「久遠、参る」
     不敵な笑みを浮かべた永遠は名乗りさえ一変させると、青みがかった髪をなびかせて疾風のように走り出す。ほぼ同時に仲間たちも駆けだした。
     声さえ立てずに迫る8人の影に、やがて敵の一群も気がついて向きを変えた。蒼く不気味に光る頭部に、骨格標本と筋肉を無理矢理組み合わせたごとき異形の姿の馬の群れ――ヴァンパイアの実働部隊である『鉄竜騎兵団』。リーダーらしき存在が見当たらないにも関わらず、見事に統制のとれた動きで向かってくる。
     灼滅者たちが掲げる武器の光と、魔獣の群れの咆哮と。
     二つがない交ぜになって弾け、生まれたばかりの修羅場を彩った。

    ●衝突
    「ヘイ、このラインから先は行かせマセンヨ!」
     灼滅者たちを蹂躙せんと襲い来る妖馬の群れの、その前に躍り出たのはローゼマリーだ。
    「ハッ」
     地面を浅くえぐる足からグラインドファイアの炎が燃え上がり、その勢いにわずかに速度を緩めた馬の横腹に両足を揃えた低高度のミサイルキック……スターゲイザーが突き刺さる。
    「もう奇襲は失敗したんだしさ。ほら、最初は強く当たって後は流れでって感じに」
     己に向かってきた魔獣の突進を仲間を楯にするようなトリッキーな動きで軽くよけると、ジュラルはガトリングガンを腰だめに構えた。無造作にトリガーを引く。
    「空気読んで」
     回転する銃口から飛び出した弾丸の群れが、通り過ぎたばかりの馬の背に次々とめり込む。
    「さっさと撤収してくれたら」
     横に流れた弾丸の列が入れ違いに向かってきた馬の首筋を薙ぐ。
    「助かるんだけどねー」
     のんびりと口にしながら最後に一瞬、銃口を振る。不意打ちのつもりか、脇から突撃をかけようとしていた馬の顔面に一連射の最後の数弾が弾けて甲高い悲鳴を上げさせた。
    「では、私も」
     荒れ狂う敵のただ中でふと足を止め、菖蒲はゆっくりと周囲を囲む獣たちを見回し、手にした槍の穂先を掲げるように天に向けた。そこからの踏み込みとそれに続いた妖の槍の斬撃は、そこだけ早回しのフィルムを見るように速かった。
    「ヴァグノ、警戒お願いしますの!」
     ライドキャリバーの突撃と合わせて響き渡ったのはシエナのソニックビート。音の衝撃と赤紫の装甲の衝突、両者が合わさり妖馬の腹をえぐり……。
    「まだ倒れませんの?」
    「狙い撃ちますわ!」
     凜とした声と共に朱香の左手が指揮棒を振るように翻り、漆黒の弾丸を放つ。巨体の真ん中を貫かれた妖馬はたまらず消滅した。シエナが声を張り上げた。
    「けっこう体力があります! 攻撃するなら誰かと一緒に……」
    「わかっている! 合わせろ、教祖うさぎ!」
     同じクラブの仲間にぞんざいに言葉をかけ、久遠が黄金色の巨剣を振りかぶる。
    「言われずとも!」
     叫び返した声よりも早くワルゼーの槍が伸び、久遠の顔面を狙った馬の首を真横から串刺しにする。動きが止まったそこへ久遠の強烈無比な斬撃がたたき込まれ、妖馬は悲鳴を上げることすらできずに消滅した。ふっと息を吐き出したワルゼーは、己の身の回りに見えない力が張り巡らされるのを感じた。
    「体力があって数の多い敵が相手なら、防御が大事ですよね」
     左手のシールドの力を広げ、前線の味方にワイドガードを展開した巧が小さく笑う。
    「ないよりまし程度ですがね」
    「イヤ、助かル!」
     ローゼマリーが叫び返し、突撃を再開した。

    ●数と質と
     そのまま激戦は続き、しばしの時が経過する。
     やがて。
    「ふっ!」
     目前に迫った敵の蹄を久遠は紙一重の間合いでかわし、お返しの一撃を叩き込んだ。消滅する敵の姿を横目で見やりつつ、新たな敵の攻撃に備える。すでにそれなりの数の敵を倒したはずなのに、まだ圧力が弱まった感じはしなかった。
    「大丈夫ですの?」
    「回復、要りますか?」
     先ほどからすでに続けざまに治癒の力を使っているシエナと巧が同時に声をかけてくる。
    「問題ない! 治療は他を先に頼む」
    「承知ですわ」
    「了解です。まだ、倒れるわけにはいきませんね。互いに」
     軽くうなずき他の仲間に向かって力を送り始めた二人の姿を一瞥すると、彼女は額に薄く浮いた汗をぬぐった。
    (「戦いは数……」)
     もちろん、蹴散らされないだけの質が伴っていての話だが、その言葉が真実であること自体は数々のダークネスを倒してきた灼滅者自身が証明している。実際に自分も含めた仲間たちも、圧倒的な数の差の前にそれぞれ何撃かを受けている。回復役の活躍のおかげで戦闘続行に支障は無いが、それでも蓄積されていくダメージはある。
    「デモ、これはこれデ勉強になル」
     ローゼマリーはどこか喜々とした感じで戦い続けていた。入れ替わり襲い来る敵にタイミングを合わせて炎をまとう前蹴りを放ち、敵の攻撃が肩口をかすめても意に介さず、すかさずカウンターで縛霊手の裏拳を叩き込む。
     これは通常の任務の、少数対少数あるいは単独の敵相手の戦いとは違う。多数同士の大乱戦である戦争ともやや違う。強いて言うなら、普段自分たちがダークネスに対してしていることを、逆にやられている形に近い。つまり相当に不利な状況だ。
    (「ダガ、ワタシたちには仲間がいる!」)
     殺到する敵の前にビハインドのベルトーシカが舞い降りる。二撃を受け止め、三撃をくらう前にその頭上にさらに高く、ローゼマリーが跳んだ。回し蹴り、というより延髄斬りに近い形の強烈な蹴りを側頭部に受け、幽鬼はくぐもった悲鳴と共にその巨体を揺らがせ、消滅した。着地し、振り返ると、ちょうどそこに走り込んできたワルターとすれ違う形になった。
     いい感じだ、という風に軽くローゼマリーの肩を叩くと、ワルターは疾走を止めぬままに叫んだ。
    「一つずつ潰していくぞ! とどめは任せた!」
    「はいな、教祖様」
     飄々とした感じの言葉で応えたジュラルの前で、ワルゼーの全身を取り巻いていたオーラが流れだし渦巻きその拳に集中する。一瞬の跳躍と共にただ一閃、超高速のアッパーカットにあごを打ち抜かれた妖馬は悲鳴も発さず消滅する。
    「とどめもなにも……」
     苦笑したジュラルは目標を切り替え、さきほど手負いにした一群のいる場所をめがけて弾丸の嵐を解放する。2体がまとめて消し飛んだところほ豊かな髪をなびかせ菖蒲が突入した。頭上で風車のように回される槍の穂先が次々に魔獣を捉え、屠っていく。1つ、2つ、3つ……。
    「4つ!」
     一群の最後の一体を仕留めようとしたところで、槍の刃が食い止められた。文字通りに。
    「っつ!」
     妖馬たちの中でひときわ大きなその個体は、噛みつくようにして菖蒲の強烈な一撃を止め、さらに反転すると後ろ足の蹴りで菖蒲の顔面を狙う。ギリギリの間合いを見切る余裕はなく、大きく飛び下がった彼女の目の前をすさまじい蹴りが通過した。一連の攻防を見た朱香が即座に対応する。
    (「相手が多ければ、なかにと特に強いものもいる。当然といえば当然ですわね」)
     一瞬目を閉じ、集中すると宣言した。
    「飲みこんで、封じます」
     己の影を伸ばし、同時に離れて戦う弟に視線を送る。巧もまたすぐに反応した。
    「道を切り開く剣にして、災禍を防ぐ盾とならん……」
     祈るような言葉と共に一瞬でターン、難敵の背後から追いすがるように腕を伸ばす。朱香の影に飲み込まれ、現れた直後の巨体の横腹に白い輝きを放つクラウ・ソラスが突き刺さり、えぐる。だがまだ倒れない。逆に妖馬の振り返りざまの強烈な蹴りが伸びる。
    「ヴァグノ、お願い!」
     シエナの叫びよりも先に急加速したライドキャリバー「ヴァグノジャルム」が割って入る。鋼と幽鬼の二体の魔獣が激突する。周囲に響く轟音のあとに残っていたのは、すさまじい蹴りに装甲を歪められつつもなお戦闘力を残したシエナの愛機だった。
    「これで全体の四分の一……いやそれ以下か? まだまだだな」
     未だ幽鬼の青白い輝きで満ちたままの戦場全体を見渡して久遠は呟き、再び長大な剣を振り上げると、敵に向かって叩き付けた。

    ●完全なる勝利
     さらにしばしの時が過ぎ。
     長い戦いの終局は、唐突に訪れた。
     少なからぬ仲間を失っても戦意を失うことなく8人の間を駆け回り、その蹄にかけて蹂躙しようとしていた魔獣の群れが、一斉に動きを止めたのだ。
    「ム? 様子が変わっタ?」
     ローゼマリーは目の前の敵に縛霊手で強烈な掌底の一撃を加えると、そのまま大きく飛び下がって唐突な状況の変化に備えた。周囲を素早く見回すと、すべての魔獣が同じように立ち止まって何かに耳を澄ますような姿勢をとっていることに気がついた。
     と。
    「撤退、ですか?」
     シールドを構えたままの巧の言葉は、確認に過ぎなかった。幽鬼のごとき馬の首が一斉に巡らされ、そして脇目も振らずに同じ方向に一斉に走り出す。未だ戦力を保ったまま戦場から離脱していくモノどもの後ろ姿を見つめ、菖蒲は呟いた。
    「確か、メイヨールが灼滅されれば配下の軍団は戦意を失うのでしたわね。ということは……」
     しばしの沈黙。やがて、戦場の音が消えた静かな空間に、遙か彼方から歓声のような響きが伝わってくる。
    「指揮官の首を取ったか」
     ワルゼーは満足そうに言うと、万が一の奇襲や策に備えてなおも油断無く構えていた槍を下ろした。
    「そうだ、瑠架さんは? できれば聞きたいことが……」
     シエナが周囲を見回す。先ほど、仲間たちが去った方角に目をむける。闇の中、遙か遠くにかろうじて見えた。戦闘に入る前に見た生徒の一人が、特徴のある髪の少女を背負っている。すでに意識がないのか身動きはしていない。
     朱雀門・瑠架。
    「お、灼滅は無しか。敵のあたまは灼滅で、話が通じる相手は確保。理想的な勝利といっていいん……ん? お前、どしたん?」
     同じ方向を見て朗らかな声を上げたジュラルは、なぜか周囲を見回して何かを探している風の永遠に向かって声をかけた。
    「何でも無い」
     表情を変えずに答えると、「久遠」は心の中で小さくため息をついた。
    (「待ち人来たらず、か。戦場にのこのこ出てくるほどの馬鹿でもないということだろう。まあ、表舞台に出てくるのならいずれ機会はあるか」)
     考え込む彼女のその背中を朱香が軽く叩いた。
    「何を気にしているのかわかりませんが、今は勝利を喜ぶべきですわ。これはわたくしたち皆でつかんだ……」
     そう、皆でつかんだ勝利。数百名の灼滅者たちが己の為すべきことを理解し、その役割をこなしたが故の完全な勝利。
     その事実とともに沸き上がってきた充実感をしっかり胸にしまい込むと、朱香は武装を解いて歩み寄ってきた弟とともに、学園に向かって歩き始めた。

    作者:九連夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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