我らが主を信じよ

■リプレイ

●調査
　灼滅者たちは手分けしてダークネスによる宗教団体を探していた。
「人を集めては『救い』について説いている人を見かけませんでしたか」
　道行く人に秦・明彦（白き雷・d33618）が尋ねるが、
「うーん、この辺では知らないわね」
「そうですか」

「新興宗教ですか。わかりませんけど……あの、なにかあるんでしょうか」
　楯無・聖羅（鮮血の銃刀・d33961）の聞き込みを受けていた女性が不安げに尋ねる。
「楽園と偽って人々から金を巻き上げることが目的の詐欺集団が出没しているんだ。入れば人生を棒に振りかねない、そういった集会にも行かないように」
「は、はい」
　自分たちが今探しているダークネスを灼滅するのは無論の事だが、一般人が別のソロモンの悪魔による宗教団体に加入するのも防がなければならない。そんな聖羅の力のこもった言葉に相手も思わず頷いた。
　惨事の後、すでに立ち直り、復興のための活動を始めるものも多い。が、なかなかその一歩が踏み出せずに、何かに頼れるものを求めてしまう者も少なからずいる。街並みを眺めながら聖羅は呟いた。
「最初の敵は人間の弱み……か」

　庭月野・綾音（辺獄の徒・d22982）と七篠・零（旅人・d23315）は地元の人たちの片付けを手伝いながら聞き込みを行っていた。二人で廃材を運ぶと、そばにいた男の人に零が尋ねる。
「この辺に置いておけばいいですか？」
「ああ、そこで。いやぁ助かるよ」
　綾音が首を横に振って、言う。
「いいえ、何でもありませんよ、ところで先程の話ですけど」
「そうだな、岩倉マートさんの所でそんな張り紙を見たような気がする。広い駐車場もあるし、君たちが探してる人たちかはわからないけれど」
「ありがとうございます。一寸話を聞いてきますね」
「時間があったら、また手伝いに来ますから」
　二人は得た情報を他の灼滅者たちに連絡すると、自分たちも男が話していた場所まで向かう。

●論戦
「我が主の下にある信徒は選ばれた存在と言えましょう」
　灼滅者たちが駐車場に着くと、まさに男が聴衆の前で説法、勧誘を行っていた。
「それは死者に対する侮辱じゃないかな？」
　零が純粋な疑問のように問いかけた。花咲・マヤ（癒し系少年・d02530）も続け、
「生き残った者が、『楽園に選ばれた』と仰るのでしたら死んでしまった方々は、相応しくないという事でしょうか？　それなら、亡くなった方々に対する冒涜だと思いますよ」
　正面切っての非難に教祖の男は大きく頷いた。
「選ばれず死んだ者だけではなく生き延びた者ですら何かしら罪はあるでしょう、人は完全な存在ではありません、悲しい事に。ですが、その罪を背負った者は更に強くなれましょう」
　はぐらかされている。そう感じながら古海・真琴（占術魔少女・d00740）が声を上げる。
「少なくとも自分が生き残ったからと言って、幸せになる権利を否定する理由はありません！」
　生き残ってしまったことに罪悪感を感じてしまう、自分を責めてしまっているであろう、信徒に向かっての言葉、だが教祖はその言葉尻を捕え、真琴に笑顔を返す。
「そうですとも、共に手を取り幸せになりましょう」
「そうではなくて……」　　
　もどかしい。彼女の中でまだ、男の言葉に耳を傾ける人々の気持ちを把握しきれていないせいでもある。
「あなた方も話を聞きにいらっしゃったのですか、どうぞもう少しお近くへ」
　男は気味の悪い程、優しい口調で手招きする。
「主の力を信じてください、この世界は新しいステージを迎えます。ここにいる皆さんと共に」
　彼の言葉に従わず距離を置いて聞いていた三和・透歌（自己世界・d30585）が、
「ふさわしい者を選別するために、あえて助けられる人を見殺しにしたのでしょうかなるほど、実に合理的で素晴らしい。笑えてきそうです」
　自身の言葉の通り、皮肉気に口の端を片側だけ上げて笑う。
　明彦も彼女の言葉に付け加えて、
「あんたらの助けなしで自分の力と運で生き抜いた人に向かって、今更選んだと言っても後出しジャンケンみたいで根拠無いぞ」
　白峰・歌音（嶺鳳のカノン・d34072）も我慢できないように声を上げた。
「死んだ人達が望んでいるのは今を生きて……前を向いて生きて幸せになってくれる事じゃないのか！」
　彼女の脳裏に浮かぶのはソロモンの悪魔に従う者の末路、いずれソロモンの悪魔の望むがままに犯罪だろうが殺人だろうが厭わなくなっていくだろう、自分が追い求めている仇のように。
「亡くなった人達の事なんて知らない人の言葉に惑わされちゃいけないよ」
　零が人々に語り掛ける。皆が生き延びた事を良かったと思えるから、彼らは死者の代わりなんかじゃないと確信できるから。自信を持った言葉は力強い。
　少し焦りを含んだ声で教祖は返す。
「失敬な、主はちゃんと見守っておられますよ」
　灼滅者たちが次々に疑問を投げかける。
「見ているだけ？　たいそうな力があるなら何故防げなかったのでしょう」
「まるで逆に自分たちが災害を引き起こしたように言いぐさじゃないか」
　明彦が周囲の人々を見回しながら駄目押しのように問いかける。
「災害が起きてからノコノコ現れた……皆さんもこの人、災害前に見た事ないですよね？　怪しくないですか？」
　まだ、彼に取り込まれていない人々がざわめき始め、彼の傍にいた者達も何人か距離を置き始める。
　透歌がそんな人々を見回しながら、言う。
「少し話し合いたい事がありますので、いったん解散していただけませんか？」
　ラブフェロモンを振りまきながら笑顔で頼む。魅了された者たちが彼女の言うとおりに帰っていく。
　更に加えて歌音がこの場にサウンドシャッターを掛ける。
「どうもおかしいと思えば……あなたたちは普通の人ではなさそうですね」
　勿論、隠す気などない。聖羅が堂々と言い放つ。
「そうさ、貴様を殲滅しに来た」
　教祖が獣のように歯をむき出して、にいっと邪悪な笑みを見せた。先程までのとは違う。こちらの方が本性なのだろう。
「いいでしょう、敵だというなら殺すまでです」

●戦闘
「と、追わせないよ」
　零が現場を立ち去る一般人の背を守る位置に立つ。
　駐車場には教祖とそれとは別に３人の男がまだ信徒、一般強化人として残っていた。まずは信徒を排除する。
「さぁ、皆まとめて、氷漬けにしてあげますよー」
　マヤのフリージングデス 、死の魔法が教祖を庇うように前に立つ男たちを凍てつかせていく。
　背後の教祖が自分の書物に手を置き、呟く。
「魔法か……私も力を見せてやろう」　低い爆発音が響き、前衛の灼滅者たちが爆撃を受けたようなダメージを受ける。
「大丈夫ですか」
　凛平が後衛から清めの風を送る。
「ペンタクルス！」
「ウェッジ！」
　真琴と透歌がそれぞれのサーヴァントに声を掛ける。
　ウイングキャットのペンタクルスがリングを光らせ、自身と共にダメージを受けた皆の身体を癒す。
　ライドキャリバーがスロットルを全開し、回復させながらパワーアップも図る。
　これぐらいでやられるものかとばかり聖羅はにやりと笑いながら言う。
「いくら吠えようが、人々の不信を買ったら、お前たちは終わりだ……わかっているだろ？」
　教祖が不快気に顔を歪めた。
　歌音が男の一人に目を止め、目を瞠る。
「お前なのか？」
　彼女の前に立つ男は彼女が追い続けていた仇かと思われた、だが。
　目の焦点が定まっていない。肉が落ち、目がぎらつき、知性の光もなく……付き従っている内に色々な物を失っていったのだろうか、それとも……自分が知っている男なのか確証が持てない。
　男は感情のこもらない声で、
「主よ、刃向うとのならこの者共は……偉大なる主よ、生贄を捧げます」
　歌音に向かってナイフを振りかざす。
「くっ！　……オレが黙ってやられると思うな！」
　彼女はジグザグの傷を身に負いながらも構わずにリングスラッシュを放つ。男が唸り声を上げた。互いが傷を負う。
　零の愛用の縛霊手からスムーズに内蔵した祭壇が展開されていき、続き結界が生成される。滞りなく手慣れた動作。
　信徒たちが呻き声をあげ、身体が痺れたように動きをぎこちなくさせる。
「グググ……グッ！」
　信徒の一人がダメージを受けながらも忌々しげに彼を睨みながら手持ちのナイフを投げつけた。
「つっ！」
　ナイフが真琴の身体に刺さる。それを抜きながら彼女は思う。
（「それでもこの教義に付いて行こうというのかこの人たちは……それだけ辛かったのか、私にはそんな経験なんて」）
　自分の左膝を見る。自分が不幸と思ったのは……試合中この足を大怪我した、その時、確かに神様を恨んだ覚えはある。けれど神様に全てを委ねてしまおうとは思えなかった。　　
　と、綾音が前に出、己が腕を刀に変え、ナイフを投げつけてきた信徒を斬る。そして斬った相手ではなく、前方の教祖、いや、ソロモンの悪魔をキッと見、言ってのける。
「私、人が弱ってる所につけ込むようなヤツ、嫌いなんだ」
　真琴のもやもやとした思いに整理をつけてくれるように。
「貴方が言うような主は、勿論居ないだろうけど。もし神が居たとしても、私はそれを許さないよ」
　今、ここにいるのは神どころかダークネスだ。急に視界が開けたように感じる。真琴が構え魔法の矢を放った。今の自分の気持ちと同じく真っ直ぐに。それは信徒を貫いた。ドスッ。重い音を立て男は倒れる。
「強化一般人、残りも蹴散らさせてもらう」
　聖羅の身からはどす黒い殺気が滲みだし、信徒に覆い生命力を奪っていく。
「ガァッ！」
　信徒の怒りは目の前にいる明彦に向かう。ナイフを構えると彼へ飛びかかってくる。
「なんの」
　クルセイドソードで攻撃を受け、刃先を横に流す。男が大勢を大きく崩す。
　明彦は改めて構え直す。
「少し休んでいてもらう！」
　己が髪と同じ色を持つ白銀の剣、そこから繰り出される破邪の白光を放つ斬撃、また一人信徒が倒れた。
「追いつめられてるなソロモンの悪魔よ」
「そんなに真っ先に死にたいか」
　聖羅の言葉に教祖は怒りを隠さず、魔力を込めた光線を放つ。
「つぅっ！　……流石に効く……」
「闇の力よ、ひと時だけ僕達に力を貸して下さい！」
　うずくまりかける聖羅に、すかさずマヤが契約の指輪を通じダークネスの力を生命力に変え送り込む。
「助かった」
「どういたしまして」
「くっまだか」　
　教祖は悔しげにつぶやくと最後の信徒に命ずる
「誰でもいい倒しなさい、お前が命に代えてでも殉教者となりなさい」
　彼はうなずき、ナイフを両手で包むように持つと特攻していく。
　ブォン！　ライドキャリバーがスロットル音を響かせるとまともに信徒にぶつかり合う。信徒が当たり負けよろめく。
　ダダダッ。透歌が駆け寄りポンとライドキャリバーを優しく叩く。
「ウェッジ、ありがとう」
　そしてそのまま一息に信徒に向かって飛び蹴りを食らわせた。信徒は吹き飛び、そのまま倒れる。
「さぁ後はお前だけだ」
　明彦が雷の力を持つ闘気を拳に宿らせる。
「惨劇を生き延びた人々の心を弄ぶ所業は許せない、ここで必ず灼滅する！」
　全力の抗雷撃。
「くそ俺を灼滅だと生意気な」
　ソロモンの悪魔は言いながらちらりと周囲を見遣る。その隙をつくように零が天星弓より矢を放ち、ダークネスの胸に突き刺さる。 　
「貴様……！」
「逃がさないよ」　
「誰が逃げるものか」　
　ダークネスが魔導の書を掲げた所を日本刀を構えた聖羅が対峙し、叫ぶ。
「人間の知性を甘くみないことだな。地獄の底で頭を冷やせ！」
　迷いない上段からの斬撃がダークネスを斬り魔導書を両断する。
「ちっ、だがまだだ、俺自身の持つ力でお前らを……」
「使わせない」
「グァッ！」
　真琴が即座にマジックミサイルでダークネスに更なるダメージを与える。
「くそっこの俺がお前らごとき……」
「いや、お前はここで灼滅される、俺たちの手で……！」
　マヤが懐に入り、スナイピング・ローズをダークネスの腹に押し当てる。
（「灼滅されろ、宿敵ソロモンの悪魔よ！」）
　ザシュッ。ナイフの刃が横一文字に切り裂いた。
「馬鹿な……この、お……」
　ダークネスは腹を押え、そのまま倒れ込み、最後まで言わぬうちに動きを止め、消滅していった。

●戦いは終わり
　歌音は倒れたままの男の前に立ち言う。
「見たか、お前の心酔したソロモンの悪魔が灼滅される所を。本当にお前がオレが知っている奴なら、今、ここでクラスメイトの皆に謝れ」
　だが男はうつ伏せたまま、ただ、うわ言のように繰り返す。
「死んだ、主は死んだ、主はいない、主は……もう……」
　歌音はグッと自分の拳を握りしめると吐き捨てるように、
「これが、お前のやった事の末路か……もう二度とオレの前に姿を見せるな！」
　そして背を向け、この場を去ろうとする。
「顔、確認しないんですか」
　凛平の言葉に彼女は首を振り、
「いいさ……今はこれで一区切りだ」
　マヤは皆に向かって言う。　
「僕はもう少し、この辺で聞き込みをしてみます。まだ他にも、似たような宗教に関する情報があるかもしれないですからね、それじゃ」
　手をあげ、再び町へと向かう。
　その様子を見て、そうだと綾音は呟き、
「まだ時間があるし、私も街の様子を見回ってみようかな、復興って言わないまでも何か出来ることがないかなって」
　零は彼女に笑みを向ける。
「それなら俺も一緒に行くよ、人手が欲しそうなところあったし」
「うん、行こう」
　二人はまた町の探索を始める。今度は灼滅者ではない自分で。

作者：八雲秋	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年5月14日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 0
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