「……随分と早い撤退だな」
名古屋地下街の一つ、ユニモールで、トリプルクエスチョンの敗北を知ったロード・クロムは、配下のデモノイド達に撤退の指示を出すと考え込む。
(「灼滅者達が、我々をそのまま逃がしてくれるとも限らない。用心は必要だろう」)
ロード・クロムはそう考え、精鋭のクロムナイト達を呼び寄せて、一つの命令を下した。
「お前達は、帰還する必要はない。退路に伏せ、武蔵坂の追撃部隊が来たら、後方から襲い掛かり、足止めしろ」
配下を足止めの為の捨て駒にする非情な命令。
しかし、クロムナイト達は、そのロード・クロムの命令に反抗するそぶりさえ見せなかった。
名古屋周辺を探索する武蔵坂灼滅者たちが、中継地点で合流を果たしていた。
交わされているのは『名古屋京都間の沿線でクロムナイトを発見したらしい』『潜んでいた場所から飛び出して戦闘を始めたそうだ』『ロード・クロムが足止めのために配置したトラップのようなものでしょう』といった会話だ。
そんな中、灼滅者の一人が言った。
「クロムナイトの命令が待機と接近者への攻撃だとしたら……いつか命令期間が切れて暴れ出すことになるよね」
それはまさに、戦場に残された地雷原である。
灼滅者たちは地雷処理のごとく、クロムナイトの撃破に向かうのだった。
参加者 | |
---|---|
ポンパドール・ガレット(火翼の王・d00268) |
九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065) |
穂都伽・菫(煌蒼の灰被り・d12259) |
流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203) |
久条・統弥(影狐抜刀斎・d20758) |
井之原・雄一(怪物喰いの怪物・d23659) |
天枷・雪(あの懐かしき日々は・d28053) |
カルム・オリオル(グランシャリオ・d32368) |
●クロムナイト・ガード
戦いの後に残った名古屋市内を探索する灼滅者たち。
地下迷宮のアンデッドや走馬燈使いの悪意や夢に操られる人々。
同時多発する問題を早急に解決するには、やはり人力探索は優れていた。
そんな中で、ポンパドール・ガレット(火翼の王・d00268)はしんと静まりかえった町を歩いている。
「RPGのマップ歩いてるみたい。ウロウロしてればエンカウントするんだよネ?」
「栄誉のしんがりがゲームの雑魚モンスター扱いとはな……」
九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065)はため息交じりに周囲を見回した。
「命令を守るだけの人形だと、怒りもしないのかね」
「そう考えると可哀想だな」
久条・統弥(影狐抜刀斎・d20758)は遠い空を振り返った。
「とはいえ、放っておくこともできないしね」
「新型、出ますかね。それとも従来型でしょうか……」
言いつつ、天枷・雪(あの懐かしき日々は・d28053)は頭の中で従来型の出現を想定していた。撤退のための時間稼ぎに新兵器を投入するのは不安定すぎるからだ。
まあ、これが本当に撤退のためなのか、時間稼ぎなのか。それすらハッキリとはしていないのだが。
ふと。
みしりという音がした。
すぐそばのベニヤ板からだ。バリケードのように家の玄関口を塞いだ板が内側から膨らみ、デモノイド寄生体の剣が飛び出してきた。その剣が青白く発光し――。
一方その頃、カルム・オリオル(グランシャリオ・d32368)たちは別のエリアを探索していた。
「置き土産があちこちで燻っとるんな。残敵掃討やね」
「戦後処理も重要な仕事です。私たちも自分でできることをしないと」
カルムと並ぶように先頭をゆく穂都伽・菫(煌蒼の灰被り・d12259)。
アーケード型の商店街だが、元々シャッター街化したせいか屋内灯もなく薄暗い。
「さながらクロムナイトが地雷。僕らが探知機兼処理装置ってわけだね」
最後尾をゆくのは流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203)である。
クロムナイトはその性質上、通常のデモノイドより柔軟かつシステマチックな運用が可能だが、やはりデモノイドというべきか高度な奇襲攻撃は難しいようだった。仮に先手を取られたところで、戦況を左右するほどの要素にはならない。
地雷一つでチームごと行動不能になるような戦闘ではないのだ。
「うーん、近いっぽいな。そろそろ……」
井之原・雄一(怪物喰いの怪物・d23659)がDSKノーズをきかせながらゆっくりと歩いて行く。
するとアーケード街の反対側ゲートを塞ぐように、クロムナイトがゆっくりと姿を現わした。
「って、おいおい」
腕を砲化してこちらへ向けるクロムナイト。その腕が青白く発光し――。
●クロムナイト・タクティカル
ベニヤ板からデモノイドの剣が突き出た瞬間、雪たちは素早くその場を飛び退いた。
「チャル!」
逆にポンパドールはウイングキャット・チャルダッシュを召喚。チャルは出現するや彼の背中に張り付いて、頭上のリングを発光させた。
「来い、れじゅれくしおん!」
自らの身体をぶつける……かに見せて、ポンパドールは幅広の西洋剣の腹を翳して叩き付ける。
ベニヤを破壊して飛び出してきたクロムナイト。その剣をポンパドールが受け止めた形だ。
アーク溶接機のように激しい火花が散る中、雪は既に装備していたロッドの安全装置を解除。
「魔術詠唱(オーダー)」
しつつ、クロムナイトの横っ腹に叩き付けた。
撃鉄のレバーが握り込まれ、爆発が巻き起こる。衝撃によって吹き飛ばされたクロムナイトが地面を転がり、排出した空薬莢が地面を跳ねる。
ロッドを垂直上方向に構え、腰ホルスターから弾を抜き取り装填。今度は衝撃に備えた構えでレバーを握り込む。
「追加詠唱(サブオーダー)」
前方から魔術を発射。後方から衝撃拡散用のウッドチップを発射。
螺旋状の雷エネルギーが起き上がりざまのクロムナイトに直撃した。
「ったく、悠長に喋る暇もないのかよ!」
そこへ突撃していく龍也。
直刀を抜くと、雷を纏わせてクロムナイトへ突き込む。
腹部を貫通する刀身。まからぬとばかりに硬化した腕で刀身を握るクロムナイト。
「お前ごときに足踏みしてる暇はねぇんだ。ちゃっちゃと終わらせて貰うぜ!」
深追いはしない。龍也は刀を掴むクロムナイトの手首に靴底を押しつけると、無理矢理に引っこ抜いた。
離脱したのはクロムナイトの追撃を恐れてのこと、ではない。彼を挟んだ射線上にて、統弥が抜刀の構えをとっていたからだ。
「『優秀な先兵』か。悲しいね、悲しいけど……」
統弥抜刀。三日月状に繰り出された月光衝がクロムナイトへ迫る。
咄嗟に手のひらでガードするクロムナイトだが、龍也のつけた刀傷が開いて手のひらの上半分が千切れて飛んでいってしまった。
よろめくクロムナイト。
が、そこはダークネス。ただでさえ命がけの彼らから自我すら奪ったクロムナイトは、飛んでいった手のひらを無視して腕を砲化。
統弥めがけて光弾を乱射してくる。
即座に射線上に割り込むチャル。衝撃に吹き飛ばされるが、致命傷一発分を避けただけで充分だ。
ポンパドールはチャル……ではなく今から集中攻撃を受けるであろう統弥めがけて腕を翳した。
「ひかれ、ぐらっせ!」
巨大なガントレットが出現し、装甲表面の円環パズルが回転。霊的エネルギーを放射すると統弥へ浴びせかける。
が、統弥とて銃撃されているのに棒立ちするようなタチではない。ポンパドールからの回復支援をそこそこに、クロムナイトを引きつけるように走り始める。
走りながら自らの腕を砲化して乱射。
互いの間を無数の光弾が交差した。
しかしやみくもな回避行動ではない。
クロムナイトの進行方向上に回り込んだ雪がロッドを構えて身を屈め、クロムナイトの腹部めがけて先端を叩き付けた。
「詠唱(オーダー)」
接触。爆発。一瞬だけのけぞるクロムナイト。
ブレーキをかけて集中砲火を始める統弥。
咄嗟にガードしようとするクロムナイトだが、その背後に統弥が迫っていた。
「とどめだ――牙壊、瞬即斬断!」
刀を豪快に叩き付け、切り払う。
クロムナイトの強靱なボディはしかし、蓄積した雪や統弥のエネルギーの破裂と彼の斬撃によって上下真っ二つに分かれた。
上半身だけがくるくると回転し、地面に転げ落ちる。
龍也は刀を振り払うと、小さく息をついた。
「……」
自分が強くなりすぎてしまったのか。それともクロムナイトが弱かったのか。
不思議なものだ。この世界はダークネスに支配され、灼滅者はその支配にせめてもの抵抗をしていただけだったというのに……。
「このくらいじゃ、満足できない自分がいるなんてな」
ポンパドールたちが決着をつける時間からやや遡って数分前。
クロムナイトと遭遇した菫たち。
ビハインド・リーアをコールする菫よりも、デモノイドフォームにチェンジしてアサルトスパイクとキャノンアームを形成させた雄一よりも、ゆるやかにベルトのロックを外したカルムよりも……。
最後尾にいた知信が真っ先に動いていた。
全員を追い抜いてシールド展開。
チャージされたであろうDCPキャノンをシールドで受けると、吹き飛びそうになる衝撃を気合いでこらえた。
「地雷のおでましだ、爆破処理!」
光の爆発を抜け、知信は拳を叩き込んだ。
直前で飛び退く形で回避するクロムナイト。
ゲートの柱を蹴った三角飛びで更に頭上から光弾を撃ち込んでくる。知信は展開させたシールドを更に拡大。頭上に翳して耐えしのいだ。
一方のクロムナイトは安全に着地――できるわけはない。飛びかかってきた雄一のスパイクがめり込み、足の肉をそぎ取るかのように切り裂いていった。
余った衝撃で上下反転するクロムナイト。
バランスをとる暇は与えない。
雄一は眼下に回ってきたクロムナイトの顎めがけてキャノンアームを押しつけ、地面とサンド。直後にDCPキャノンを乱射した。
元々もろかったアスファルト地面が粉々にはじけて飛んでいく。
完全に決まった。雑魚ならこれでトドメだろう。
しかし。
「腐ってもダークネスや」
菫からアーマーコーティングされていたカルムが呟いた。
硬化した寄生体で肉体を無理矢理維持したクロムナイトが膝立ち姿勢からソードアームを繰り出してくる。
飛び退く雄一。
追撃にと踏み込もうとしたクロムナイトに、両腕を広げたリーアが割り込んだ。
霊力の壁が展開。しかしその壁ごと破壊して、クロムナイトの剣がリーアにめり込んでいく。
途端、剣に巻き付くダイダロスベルト。斬撃の勢いを直接殺したそれを、菫は力強く引っ張った。
途中で千切れるベルト。
「今です!」
「はい、おやすみさん」
地面を滑るように高速で接近したカルムが、クロムナイトの首筋を指でなぞった。
それだけで首側面がばっくりと切り開かれる。
吹き出た血をかわすように反対側へ回り込むカルム。よろめくクロムナイト。
倒れないように手で支えるかと思いきや、腕から放たれた闇が杭のように放たれ、クロムナイトを貫いていく。
それでもまだ倒れないクロムナイトに、カルムは僅かに片眉を上げた。
「しぶといなあ」
震える手を砲化し、カルムへ向けるクロムナイト。
光弾乱射。ガード姿勢で高速バックスウェーをかけるカルムと入れ違うように、知信が巨大化したシールドで光弾を弾きにかかる。
無論ノーダメージで済むような攻撃ではない。展開するそばから破壊されていく……が、シールドと重ねるように布壁が展開された。
和織物でできた巨大な壁は菫が放ったものである。
シールドを破壊した弾を布壁が吸収していく。運動エネルギーだけになった弾が知信の肩や腹を叩くのみだ。
この四人プラスアルファは防衛力(防御と回復の総合値)にウェイトを置いたチームだ。
クロムナイトの攻撃をノーカウントにすることも、工夫次第では難しくない。
あとはそぎ落とすようにクロムナイトを倒すのみ。
「――!」
突撃した雄一が、チェーンソー化した腕をクロムナイトの胸に押しつける。
と同時にカルムが二本指を背中に押しつけた。
同時に切り裂く。
交差したエネルギーがクロムナイトを上下に分割し、解き放たれた上半身がくるくると回って地面に転げ落ちた。
まさに同時刻。まったく同じ形で、クロムナイトは灼滅されたのである。
「身体が覚えてるもんだな」
手を握ったり開いたりする知信。その様子を横目に、菫は安堵の息をついた。
「同じ戦後処理でも、セイメイの時に比べればずっと気分が楽ですね。人々を犠牲にすることもないですから」
「犠牲になってないんは、こうして先に潰してるからや」
なあ、と話題を振るカルム。ヒューマンフォームに戻った雄一がため息と共に言った。
「確かにな。他では一般市民が日常を侵食されている事件も起きているらしい。まだ休むわけにはいかないな」
「……そう、ですね」
菫は遠い空を眺めた。
人々が理不尽な闇の力に脅かされることのない世界。
もしかしたら、そんな世界が来るのかもしれない。
自分たち、次第では。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年5月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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